悩みを深めつつ、また夜が明けた。かなは今日こそ妖兎を捕まえようと、朝から網や縄の準備をして出かけることにした。すると、出かけ際に菊花に捕まった。
「あの〜〜、鳳仙様〜〜」
「…なに?」
おずおずと声をかけてきた菊花に、かなは立ち止まって答えた。
「兎さんを退治してはだめですよぅ〜。きっと悪い子ではないのです」
「…うん、私もそんな気はしてた」
かなの脳裏には、旭の影が浮かんでは消えていた。少し暴走気味ではあるが、まっすぐで純粋な少女。あの妖兎が旭であるかどうかは分からないが、そっくりな人化した姿を見た後では、退治する気にはなれなかった。それに、本職の巫女ではないかなには、妖怪を払う力や知識は無い。
「まぁ、何か人に迷惑をかけない方法は考えるよ」
かなの言葉に、菊花は安心したように微笑んだ。そういう表情をしていれば、ちゃんと慈愛のある神様に見えてくるから、不思議なものである。かなは手を振って村に向かった。
SNOW Outside Story
雪のかなたの物語
第24回 終わりの前の日
村に着いたかなは、早速目撃情報を求めて村人に聞き込みをしようと思ったが、その前に騒ぎが巻き起こった。
「あたしの赤ちゃんがああぁぁぁぁぁっ!」
女性の叫び声が聞こえ、かなを含め手近な村人たちはその方向へ走った。そこは、村はずれの小川で、村の女たちが洗濯をする場所だった。その洗い場の上で、一人の若い母親が泣き叫んでいる。
「あ、こ、子供が!」
駆けつけてきた村人の一人が指さす方向を見て、かなは息を呑んだ。籐の背負い籠に入れられた赤ん坊が流されている。
「急いで追いかけ…」
誰かが言おうとしたその時、対岸の茂みから、何か緑色の塊が飛び出してきて、川に飛び込んだ。それはあの妖兎だった。溺れそうになりながらも籠に向かっていく。
「よ、妖怪だ!」
「子供を掻っ攫う気だな。ちくしょう、目に物見せてやる」
血気盛んそうな若者が石を拾い上げる。かなは慌てて止めに入った。
「待って! 赤ちゃんに当たったらどうするのっ!?」
それを聞いて、今にも石を投げようとしていた若者は、慌てて止めたが、表情には焦りの色が浮かんでいる。
「けどよぅ、鳳仙様、あのままじゃぁ!」
「とにかく、ここは私を信じて任せて」
かなはそう言うと、兎と赤ちゃんの流れていく方に向かって走った。そして、さらにその下流に陣取ると、兎を捕らえるために持ってきた縄を用意し、その先端に木の枝を結びつけた。その間に、兎は赤ちゃんの入った籠の背負い紐を口にくわえ、必死に泳ごうとしていた。
人々のいる岸に向かって。
それを確認して、自分の考えが正しかった事を確信したかなは、用意のできた縄を投げた。ふわりと飛んだ縄が、籠に引っかかる。軽く引いて手応えを確認し、かなはそっと籠を岸のほうに向かって引っ張った。流れに逆らって、籠が少しずつ岸に寄って来る。
「鳳仙様、手伝います!」
先日の醜態を少しでも帳消しにしたいのか、平太が駆けつけてきた。かなは頷いて、縄の端を平太に渡した。ところが、平太が勢い良く引っ張りすぎたせいか、籠にしがみついていた兎が籠から離れてしまい、下流に流されていく。
「すぴいいぃぃぃぃぃ…」
悲痛な鳴き声が川面に響き渡った。その瞬間、かなは走り出していた。
「鳳仙様!?」
「平太さんは赤ちゃんを拾ってあげて!!」
驚く平太にそう指示して、かなは川の中に走りこんだ。夏とは言え、山の湧き水を集めた川の水は冷たい。おまけに、巫女の装束は水中を走るには不向きだ。足に濡れた緋袴が絡みつき、かなは水中に転んだ。
「…うくっ!」
びしょ濡れになったかなだが、思い切ってそのまま泳ぎ始めた。すぐ先を、緑色の塊が浮きつ沈みつ流れていく。必死に手を伸ばし、彼女は兎の身体を掴んだ。ぐったりしている兎を脇に抱え、かなは這い上がるようにして岸に戻った。
「はぁ…はぁ…あ、旭?」
荒い息をつきながら、かなは兎の様子を見た。すると、自分が水中にいないことに気付いたか、彼女はぷるぷると身体を震わせて水を払い飛ばした。
「よ、良かったぁ…」
かなは安堵の笑みを浮かべてその場に座り込んだ。そこへ、平太と村人たちが駆け寄ってきた。
「鳳仙様! 大丈夫ですか!?」
そう言って近づいてきた平太が、なぜか顔を真っ赤にして立ち止まる。その他の男たちも、一様に頬を染めて立ち尽くした。
「あ、あ〜…えっと、鳳仙様、その化け物兎をこっちによこしてくだされ」
さっき石を投げようとした若者が、何故かかなから視線を逸らして…しかし、時々彼女をちらりと見ながら言う。
「わ、渡してどうする気?」
かなが上体を起こして聞くと、何故か男たちは数歩後ろに下がった。
「そ、そりゃ退治するんでさ。皮を剥いで煮えたぎった湯にでも放り込んで…」
その瞬間、兎はすぴいい、と悲鳴をあげて、かなの後ろに隠れた。
「だ、だめ…この子は、本当は悪い子じゃない…」
かなが通せんぼするように両手を広げると、男たちはさらに数歩下がった。
「平太さんも見てたよね? この子が籠をくわえて、私たちの方に泳ごうとしてたの…この子は、赤ちゃんを助けようとしたんだよ」
平太は真っ赤な顔で頷いた。
「そ、そうだな…俺は鳳仙様の言う通りだと思う」
平太が味方してくれたのに勇気付けられて、かなは勢いよく言った。
「お願い…信じられないかもしれないけど、この子は私に預からせてください」
村人たちは顔を見合わせていたが、やがて意見がまとまったらしく、一人の年配の男が代表して言った。
「わ、わかりましただ。鳳仙様がそこまでおっしゃるなら、もう何も言わねぇ」
「だ、だから…服を着替えてくださらんか? そのままでは風邪を引くし、目に毒だ」
別の男性が言う。目に毒? とかなは自分の姿を見て、初めて男たちの様子がおかしかった理由に気がついた。
濡れた巫女装束が、ぴったりと彼女の肌に張り付いている。しかも、上衣は白だから、濡れると完全に透けていて、桜色の…
「き、きゃあああぁぁぁぁっっ!?」
河原にかなの悲痛な叫びがこだました。
村の女に服を借り、濡れた装束を乾かして、ようやくかなが社に戻ってきたのは、お昼過ぎの事だった。もちろん、兎は一緒だ。最初は猜疑的だった村人も、兎がかなの言う事は素直に聞くのを見て、やはり鳳仙様は凄い、妖兎を従わせるとはさすがは龍神の巫女様じゃと誉めそやした。男たちは何か違う意味で彼女を称えていたが。
と言う事で、妖兎を囲んで、若生兄妹と龍神姉妹が協議を続けている。
「わーい、兎さんです〜〜。かわいいですよぉ〜〜」
訂正。協議しているのは若生兄妹としぐれである。
「むぅ…確かに悪いものには見えないが、物の怪の類を神域に置くというのも…」
唸る白桜。かなは頭を下げて頼んだ。
「お願いです、お兄さん。この子をここに置いてやってください。私が責任を持ちますから」
かなの頼みにも難色を示していた白桜だが、そこへ菊花が手を合わせてお願いをした。
「私からもお願いしますぅ、白桜様。この子は決して悪さはしませんよぉ。ほら、こんなに可愛いじゃないですか〜〜」
白桜は微かに顔を赤くして、頷いた。
「ま、まぁ…菊花様がそこまで言われるなら」
(ちょっと待って。私が頭を下げて頼んでも渋ってたのに、菊花なら一発OKとはどう言う事?)
かなの内心に何故かどす黒いものが湧いてきた。しかし、それが吹き出る前にしぐれが言った。
「見たところ、邪心のあるものではなさそうです。鳳仙様が面倒を見ると言う事であれば、問題はないでしょう」
かなは驚いた。龍神のしぐれはちょっと近寄り難い、対話を拒否するようなところがあったので、なかなか話しづらく、かなをそこまで信用してくれているとは思わなかったからである。
しかし、彼女の一言で完全に妖兎が社の住人に加わるのは確定した。かなは微笑んで、妖兎の頭を撫でた。
「良かったね、あさひ」
『あさひ?』
他の3人が異口同音にそれはなんぞや、と言う表情をする。
「この子の名前。いつまでも兎さんじゃ変だから」
かなが言うと、白桜が頷いた。
「なるほど、絵師の名をもらったのか。まぁ、いい名ではないか?」
「えぅ〜…私が名付け親になりたかったのにぃ」
菊花が悔しがる。しかし、かなはその役目を譲る気はなかった。あさひを抱き上げてかなが微笑むと、あさひは満足そうにすぴぃ、と鳴いた。
「掛け軸はあさひちゃんの家ですから、大事にしましょうね〜」
名付け親を取られた菊花が、大事な事だけでもちゃんと伝えておこうと口を開く。そこで、かなは自分の部屋に掛け軸を吊るして置く事にした。
妖兎の問題が片付き、村は再び祭りに向けて動き出した。姉妹を乗せて村の中を巡るための輿も作られ、鍛冶屋が一世一代の気合を込めてその飾りを作った。蔵から太鼓など祭囃子の楽器が引き出され、埃が払われ、練習が始まる。
村人たちの武器の教練も続いていた。柵や見張り台も完成し、いつでも戦う準備はできていた。
祭りまであと五日と迫った夜の事だった。かなは自室で舞の練習をしていた。降臨の儀式で舞ったのとはまた別に、祭りの日に龍神に奉納するための舞である。
「ふぅ…暑い…今日はこのくらいにして、お風呂入って寝ようかな…」
本番まで龍神姉妹に見られてはいけないため、締め切った室内での練習だったが、さすがに暑い。衣裳を脱ぎ、たたんで部屋の隅に置くと、あさひがその番をするようにそばに座り込んだ。
「行って来るね、あさひ」
すぴ、と返事をするあさひを一瞥し、かなは部屋の外に出た。夜気はさすがにひんやりしていて、汗が引いていくのが気持ちいい。
「…あ、今しぐれが入ってたんだった」
しばらく歩いたところで、かなは風呂場に先客がいる事を思い出した。出直そうと回れ右をしたその時、今行こうと思っていた風呂場のほうから、何かが倒れるような大きな音が聞こえてきた。
「…しぐれ!?」
かなは急いで走り出した。それなりに長い社殿の回廊を駆け抜けると、突き当たりの風呂場のところで、白桜の背中が見えた。
「姉君様…!」
思い詰めたような白桜の声。そこで、かなは白桜が全裸で気を失っているしぐれを抱いている事に気が付いた。物音を聞いて助けに入ったのは良いものの、どうして良いかわからないようだ。
「お兄さん、しぐ…姉君様の様子は?」
しぐれを抱いている白桜に一瞬どす黒い感情を抱きかけたかなだったが、その衝動を振り払い、様子を尋ねる。
「わからぬ。湯当たりだと思うのだが…ともかく、姉君様に何か着るものを」
「うん、わかった」
かなは頷いて脱衣所をさぐろうとした。すると、菊花の大声が響き渡った。
「え、え、えう〜〜〜〜っ!? ひ、ひどいです、白桜様〜〜〜〜っっ!!」
「は?」
白桜の目が点になった。しかし、すぐに自分が全裸のしぐれを抱いている事を思い出し、ひどく慌てた声を出した。
「ち、違います、菊花様! 私はそのような…!!」
「えう〜〜〜〜っ!!」
白桜の言い分も聞かず、駆け出していく菊花。白桜はその後姿としぐれを交互に見た後、かなに言った。
「ほ、鳳仙、姉君様を頼む!」
そして、しぐれを丁寧に床に寝かせると、返事も聞かず、菊花の後を追っていく。
「お兄さん…」
かなは不安になった。白桜の態度は、まるで恋人に浮気の現場を見られた男のようだった。しかし、今はそれよりも心配な事がある。かなはしぐれを介抱しようとして、彼女の姿を見た。
「…あ」
かなは絶句した。そのしぐれの姿には見覚えがあった。彼女を龍神天守閣に招いた日、しぐれは温泉で湯当たりをして倒れた。だが、その光景ではない。それによって呼び起こされた、もう一つの光景…髪の長いしぐれが倒れている姿。それが、今かなが見ている光景だった。
(私は、この光景を知っている。 いや、覚えてる)
かなの身体が震えた。その時、しぐれの口から切なげな声が漏れた。
「お慕い…はくお…う…さま…」
かなは我に返った。自分の記憶の事はとりあえず良い。しぐれの介抱をしなくてはならない。ともかく、夜着をしぐれの裸身にかけ、彼女はその身体を背負って寝室に向かった。布団を用意して寝かせたところで、かなはさっきのしぐれのうわごとが気にかかった。
(ところで、しぐれさっきなんて言った? お兄さんの名前?)
夜が明けてから、ようやくしぐれは意識を取り戻した。
「…私は…?」
まだはっきり目が覚めていないらしいしぐれに、かなは声をかけた。
「目が覚めました?」
しぐれがうなずくのを見て、かなは汲んできた冷たい井戸水をしぐれに渡した。彼女がそれを一息にのみ干し、一息ついたところで問い掛ける。
「お風呂場でのぼせて倒れたのですが、覚えてます?」
しぐれは頷いた。そして、聞こえてくる声に気が付く。
「いや、ですから…私は…」
「…ぅ〜…白桜…不潔…」
それは、少し離れた部屋から聞こえてくる、白桜と菊花の言い争い…ではなく、白桜による大弁明大会だった。夕べのうちには許してもらえず、朝からまたやっているのである。
「もうずっとあんな調子です」
かなが言うと、しぐれは肩を落とした。
「まったく、仕方のない子…やはり、地上に連れて来るのではありませんでした」
その言葉を聞いて、かなは声をかけた。
「でも、羨ましいのではないですか?」
しぐれは電撃に撃たれたように身体を震わせた。
「な、何を言うのですか…」
この世界のしぐれらしくない弱々しい声。かなはさらに切り込んだ。
「その、お風呂場で、呟くのを聞いてしまいました。お兄さんの名前を呼ぶのを。ひょっとして、姉君様は」
「その先は言わないでください」
しぐれはぴしゃりと撥ね付けた。
「私は龍神、白桜様は人です。住む世界が違うのです。どんなに想いを抱いていたとしても、越えてはならぬ一線があります」
かなはため息をついた。これでは、しぐれも白桜が好きだといっているのと同じだ。
(菊花としぐれ…龍神伝説の悲劇の姫はどっちなんだろう)
かなは、もうここが夢ではないと確信しはじめていた。何故だか知らないが、彼女は龍神伝説が今まさに生まれようとしている場に立ち会っているのだ。伝説では、死んだ姫には姉がいた事になっている。その線から言えば、悲劇の主役は白桜と菊花だろう。
しかし、ここに異分子が二つ…そう、男の妹である自分と、あさひの存在がある。伝説に語られていない彼女たちなら、あるいは悲劇の運命を避けるための働きができるかもしれない。たった半月ほどの間の付き合いではあるが、かなは白桜も菊花も、そしてしぐれのことも好きになっていた。彼らを失いたくない。
(悲劇を避けるために、私はできる限りの事をしよう)
かなはそう決意した。そして、扉を開けると、白桜と菊花のいる部屋に踏み込んだ。
「ああもう、二人ともいい加減にしてよっ! 姉君様が起きちゃったじゃない!!」
かなの怒鳴りつける声に、二人はあっけに取られた。
「お兄さん、そろそろ村に行かないと」
「え? あ、あぁ…菊花様、また後で」
疲れていたのか、白桜は案外素直にかなの言葉に従った。続いて、菊花に声をかける。
「菊花様、姉君様の看病を代わっていただけますか? 私は洗濯をしなくてはなりませんので…」
「え、えぅ…」
菊花も頷く。かなは二人の様子を満足そうに見た。
あと三日、二人がくっつくのを徹底的に邪魔してやる。
かなの決意とはそういうことだった。
一度そう決めると、かなの行動は徹底していた。白桜が社にいる間は、ずっと彼にくっついて回ったのである。舞の練習を見て欲しいといっては彼を自室に連れ込み、白桜が食事の用意をしていれば手伝いに回り、菊花が白桜に話し掛けようとすれば、先回りして話し掛け、夜は同じ部屋で眠り…と万事この調子である。
「で、お兄さん、村の様子はどう?」
「そうだな、守りも堅くなったし、夜盗が攻めてきても安心だと思う」
「あの、白桜様…」
「あ、お祭りの準備は?」
「まぁ、問題ないと思う。私が何もしなくても、おばば様や平太が仕切ってくれているし」
「はく…」
「あ、この餅美味しい? タレは私が作ってみたんだけど…」
「そうだな、少し塩がきついかもしれん」
「は…」
「そう、じゃあ今度いい味付けを教えてね、お兄さん」
「あ、ああ…」
「えぅ〜〜〜…」
こんな調子である。見る間に菊花の機嫌が悪くなっていくのを見て、かなは流石に悪いな、とは思ったが、悲劇の結末を迎えるよりはずっとマシと言うものだった。
そして、とうとう祭りの前夜がやってきた。かなは風呂場にこもり、冷たい水を頭から浴びた。水垢離と言う穢れを払う儀式である。翌日、宮司と巫女として祭りを司る身である彼女と白桜は、こうして穢れを落とし、本番に備える。
(…ここまで来ればもう大丈夫だよね)
かなは思った。彼女には二つの懸念があった。一つは、未だに襲ってこない夜盗の事だ。ひょっとしたら、もう連中はあきらめてどこかに行ってしまったのかも知れない。何しろ年単位で昔の話だ。
それでも、もし襲ってくれば、戦うしかないだろう。白桜が指導した村人の力を信じるしかない。
もう一つは、今夜の事だった。一晩穢れを近づけないようにしなくてはならない宮司と巫女は、部屋を別にせねばならない。たとえ兄妹であったとしてもである。白桜から目を離すのは不安だったが、祭りを成功させるためにもしきたりは曲げられない。
(…まぁ、お兄さんは宮司なんだし、バカな真似はしないか)
かなはそう信じた。だが、彼女にもし普通の恋愛経験があったら…あるいは昔の、「彼方」だった頃の記憶が残っていれば、この後の悲劇は避けられたかもしれなかった。彼女は知らなかったのだ。恋に焦がれた者たちが、どんなに愚かで救い難い行動を取るか、と言う事を。
深夜、ここ数日の疲れが出てぐっすりと寝ているかなの部屋の横を、足音を忍ばせた人影が横切っていった。それは白桜の部屋の中に消えていき…
そして、賑やかな祭囃子と太鼓の音、人々の笑いさざめきの中に、伝説となった悲劇の最後の幕が上がろうとしていた。
(つづく)
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