そこは、暗黒の世界だった。自分が立っているのか、寝ているのか、それとも落ちているのか。それすらわからない。
(ここは…)
 身じろぎした時、すぐ横に何かの気配が出現した。そちらに目をやる。そこには、一人の青年が立っている。どこかで見覚えのあるような…
(…誰?)
 心の中でそう問いを発すると、それに応えるように、心の中で声が響いた。
(私は…愚かな罪人だ)
 その声に呼ばれたように、今度は別の人物が出現する。小柄な女性だ。無邪気な笑顔の似合いそうな童顔に、深い悲しみと後悔の色が浮かんでいる。
(そして、私もまた)
 二人は寄り添うようにして言葉を続ける。
(私たちの過ちのために、多くの人が苦しんだ)
(鳳仙様、あさひ、姉上…)
(生まれてくる事のできなかった、私たちの子)
(そして、私たちの魂を受け継いだ、多くの悲しい恋人たち)
 その言葉の半分も理解する事はできなかったが、そこに秘められた思いの深さは伝わってきた。
(あなたたちは…いったい…なぜそんな話を)
 そう問うと、二人は伏せていた目を上げて応えた。
(あなたは、この宿命から抜け出せるかもしれないただ一つの可能性)
(私たちの愚かさを見届けた上で)
(救って欲しい…孤独に震える小さな魂を)
(どうか…お願いです)
 その瞬間、闇は弾けて散った。


SNOW Outside Story

雪のかなたの物語

第21回 見知らぬ夏


 最初に感じたのは、身体を震わせるほどのセミの大合唱。
 そして、身体にまとわりつくような、濃密な熱い空気。
「…あれ?」
 かなは目を開けた。すると、そこには見知らぬ男性がいた。まだ、20になるかならないか…と言った年齢の青年だろう。
 問題は、彼がかなの肩に手をかけ、まるでキスでも迫ってくるかのような姿勢だったことだ。
「い、いやああぁぁぁぁっっ!?」
 かなは思い切り男性を突き飛ばした。
「う、うわあああぁぁぁっっ!?」
 不意を付かれた青年が、後ろによろけてそこにあった石に躓き、尻餅をつく。しかし、やったかなのほうも、反動でよろけて同じ姿勢になっていた。
「な、何をするんだ!?」
 青年が激しい抗議の声を発する。
「そ、そっちこそ!」
 かなは言い返し、青年を睨んだ。村では見かけない顔だ。いや、どこかで見覚えがあるような気もする。なかなか整った、美形に分類されうる顔立ちだが、線は細い。
 妙なのは、まるで時代劇にでも出てくるような、古風な着物を身に着けていて、腰には刀を差している事だった。
 …刀?
 それに気付いた瞬間、かなの背筋に冷たいものが走る。
「い、い、いやあああぁぁぁっっ!? こ、殺されるうううぅぅぅぅっっ!?」
「な!? ま、待て! 何を錯乱しているんだ、鳳仙!!」
 混乱していたかなだったが、青年の発した聞き覚えのある名前には気が付いた
「ほ、鳳仙…?」
 叫ぶのをやめたかなの前で、青年が立ち上がった。服についた土埃を払い、手を差し伸べてくる。その表情には害意は窺えない。どうやら大丈夫な人らしい、と判断したかなは、その手を取った。
「まったく、いきなり呆けたかと思ったら、兄を人殺し呼ばわりとは…お前らしくないな、鳳仙。旅の疲れが出たか?」
 かなを引き起こした青年はそう言って笑った。しかし、かなはまだ混乱中だ。
(えっと…鳳仙って言うと、しぐれが私と間違えた人だっけ…すると、この人はその鳳仙って言う人のお兄さん?)
 かなは考え込んだ。しかし、それよりも先に、気になる事があった。
(ここはどこで、今はいつ?)
 かなの感覚を混乱させているもの…それは、暑さだった。沖天には太陽が輝き、どう考えても夏としか思えない強烈な日差しを投げかけている。それは、龍神村にはありえないものだった。
「鳳仙、大丈夫か? 水でも飲むか?」
 考え込んでいるかなの様子を心配してか、青年が懐から竹でできた水筒を取り出した。
「あ、その…大丈夫です」
 かなが答えると、青年は驚いたような目で彼女を見た。
「ど、どうした? 妙にしおらしいじゃないか…やはり疲れているんじゃないのか? 鳳仙」
 そこで、かなは言った。
「私は鳳仙じゃありません。出雲かなといいます。他人の空似でしょう」
 すると、一瞬青年は黙った後、急に腹を抱えて爆笑し始めた。
「はは、わははははははっ! 鳳仙、それは何の冗談だ? お前は間違いなく私の妹の若生鳳仙だぞ。それとも、隣で歩いていた私の目を盗んで、他人とすりかわったとでも? わはははははっ!」
 青年はかなの言う事をまるで信じていない様子だった。どうしたら納得させられるのか、と腕組みして考えようとして、かなは自分の持ち物に気がついた。
 手に、何時の間にか神主や巫女が御祓いのときに使うような御幣を持っていたのだ。慌てて全身を見てみると、白い上衣と緋袴を着て、足袋と草鞋を履いている。
 姿見が無いのではっきりとは言えないが、どう見ても巫女さんの格好だ。
「な、何これ!?」
 自分の姿を見て驚愕するかなに、笑っていた青年が、再び心配そうな表情になる。
「鳳仙…やはり、疲れているんだろう。少し木陰で休もう」
「は、はい…」
 かなは頷いた。状況は良くわからないが、これ以上青年に不信感をもたれるのもなんだかまずそうだ。それよりも、上手く状況を聞き出したほうが賢明だろう。
 道の横に広がる山林の中に踏み込み、具合の良さそうな石に腰掛けたところで、かなは青年に尋ねた。
「それで、お兄さん、ここはどこでしたっけ?」
「お、お兄さん…? 普段は兄上と言うのに…妙な感じだな」
 青年は戸惑ったが、まぁ、妹の様子がおかしい事に慣れてきたのだろう。動揺を収めて説明した。
「ここは若生の里に向かう峠道だ。そろそろたどり着いてもおかしくは無いな」
 若生の里と言う言葉には聞き覚えがあった。龍神伝説によれば、それは龍神村の古い呼び名である。
(すると、ここは龍神村の近く?)
 かなは辺りを見回した。遠くの山の稜線を見ると、確かに見覚えのある山のような気がする。しかし、明らかに彼女が知る山とは違和感があった。
(電線が無い)
 そう、その山には、村に電気を送る高圧線の鉄塔が立っているはずだった。しかし、そんなものは跡形も無い。と言うより、最初から存在していないようだ。
(うーん…村の昔の呼び名、このお兄さんと私の格好、それに電線の無い山…もしかしてこれは…)
 かなは今の状況を説明できる一番の事象を思い出した。
(これは夢だね)
 夢であれば、何が起きても不思議は無い。かなはそう納得した。
「それで、何しに行くんでしたっけ?」
 かなが聞くと、青年は後ろへひっくり返りそうになった。
「ほ、鳳仙…本当に大丈夫か? あれほどここへ来る事を熱心に望んでいたと言うのに」
 そうは言われても、かなはその事を知らない。妹の表情が本気だと悟った青年は、良く言い聞かせるようにして話しはじめた。
「良いか、鳳仙よ。我々が若生の里へ向かうのは、夜盗によって焼かれた社を再建し、龍神信仰を復活させるためだ。そのために、二人で厳しい修行に耐えて来たのではないか…」
 青年の話は長く続いたが、要約するとこうなる。
 青年と鳳仙(かな)の両親は、龍神の社の宮司と巫女だった。二人は天から龍神を招き、人々の願いをかなえて貰うための儀式を先祖代々受け継いできた。そのお陰で、若生の里は龍神の恵みを受け、小さいながらも豊かな村となっていた。
 その龍神の力を狙い、夜盗が襲来した。父母は龍神を守るために必死に戦ったが、力及ばず敗れ、幼かった兄妹は龍神の手で、父母の知り合いの神社に逃がされた。二人はいつか社へ戻り、父母の仇を討ち、龍神信仰を復活させるべく、神職としても剣士としても修行を重ねてきた。そして、ついにその時が来たのだと言う。
(自分の夢ながら凄い設定だなぁ)
 かなは感心した。自分の中に、そんなファンタジックなものを求める気持ちがあったとは知らなかった。龍神伝説などと言うものを散々聞かされた後だからかもしれない。
「…と言うわけだ。わかったか?」
 喋り終えた青年に、かなは自分の水筒を差し出して頷いた。
「はい、良くわかりました。ところで…」
「ん?」
 水を飲みながらかなに向き直った青年に、彼女は尋ねた。
「お兄さんのお名前は?」
 青年は今度こそ後ろにひっくり返った。

 一時間後(と言っても時計が無いので、かなの主観で)、かなと青年―白桜と言う名前だった―は、龍神の社の境内に立っていた。
(これが龍神の社?)
 かなは驚いた。彼女の知る社は、古いながらも良く手入れされた綺麗な建物だった。しかし、今彼女の前にある社は、どう贔屓目に見てもただの廃屋だった。
 壁は無残に崩れ、ひびが入っている。萱葺きの屋根はあちこち腐り、あるいは焼けて穴が開いていた。
 境内も酷い。玉砂利は野放図に伸びた雑草に覆われ、地面が見えないほどだ。手水鉢の水も枯れ果てている。
「これは酷いな…しかし、何か使えるものがあるやもしれん。手分けして探してみよう」
 白桜の提案に頷き、かなは本殿の戸を開けた。彼女の知る社では、ここに桜花が住んでいた。しかし、ここでは…
「うっぷ…けほ、けほっ!」
 舞い上がった埃と焦げ臭い匂いに、かなは思わずむせた。光の中に乱舞する埃が収まってくると、中の惨状が見て取れた。
(これは掃除のしがいがありそうだなぁ)
 かなは思った。ここしばらくの間、ずっと宿の掃除をさせられていたせいで、掃除をする事自体には抵抗感がなくなっている。埃を舞い上げないように慎重に中に入った彼女は、小さな手桶と雑巾に使えそうなボロ布を発見した。
「お兄さん、掃除道具があったよ。水は出ないかな」
 外に出てかなが言うと、手水鉢を点検していた白桜が振り向いた。
「あぁ、置石をよけたら水が出るようになったぞ。溜まるまで少し待っててくれ」
「はぁい」
 かなは頷いて、さらに家捜しを続けた。最初の部屋の棚を探っていると、指先に紙の感触が触れるのがわかった。かなはそれを引っ張り出して覗き込んだ。
「…これは…」
 かなは呟いた。それは、二人の女性を描いたもののようだった。服装などから見て、かなり高貴な身分の女性らしい。
(うーん…誰かに似ているような)
 そのうち一人の容姿に既視感を感じ、かなが首をひねったとき、白桜が入ってきた。
「鳳仙、水が溜まったぞ…おや、それは?」
 かなの横から紙を覗き込んだ白桜は、はっとした表情になると、目を閉じて拍手を打った。
「お兄さん、これは?」
 かなが聞くと、白桜は感に堪えない、と言った表情で答えた。
「それは、龍神さまのお姿を描いたものだ」
 かなは絵を見返した。意外な感がある。龍神と言うからには、いかにも恐ろしい、巨大な蛇のような龍。あれを想像していたのだが。
「なんと言うありがたいことだろう…建物は焼けてもこの紙は無事だったとは。龍神さまのご加護の力はまだ薄れてはいないようだぞ」
 白桜は紙を棚に戻し、もう一度拍手を打った。どうやらそこは祭壇だったようだ。かなも一歩下がり、白桜に合わせて拍手を打った。
 その後は、ボロ布を水に浸し、床の拭き掃除をした。分厚い埃で覆われた床がなんとか綺麗になる頃には、日もすっかり山の稜線に沈もうとしていた。
「疲れたぁ…」
 床に座り込み、首をくるくる回して凝りを取るかなに、白桜が言う。
「そうだな、今日はこの辺にして、明日また掃除をしよう」
 そして、二人は夕食を取った。と言っても、乾飯と干魚と言う旅用の保存食を使った質素なものだ。
「明日は、竈を直して、鍋釜の錆落しをして、煮炊きができるようにせねばな」
 白桜が提案すると、かなはそれに異議を唱えた。
「うーん…私はお風呂が良いな。埃だらけだし、汗まみれだし、身体を洗ってすっきりしたい」
 ふと、かなは龍神天守閣の事を思い出した。ここが龍神の社なら、少し歩けばあの宿もあるのだろうか。
「ふむ…まぁ、余裕があったらそっちも手をつけよう」
 白桜は頷いた。

 次の日…二人はまた朝から社殿の修理や掃除を続けていた。かなの担当は食器類の整備で、錆や埃をボロ布で丁寧にこすり落とす仕事だった。土を集めて練って、竈や壁のひびを直している白桜よりは楽な仕事だが、やはり汗がにじみ、指先が真っ黒になってくる。
「うぅ…やっぱり風呂に入りたいよ…温泉がある環境って、やっぱり贅沢なんだなぁ…」
 ぼやきつつも、かなは食器を磨き終え、普通に煮炊きをしても大丈夫なようにした。結局、この日も風呂が使える様にはならなかった。
 三日目に入り、かなは社殿の中で見つけた古い布団を綺麗に洗濯し、床で寝なくても良いようにした。そうやっていると、白桜が感心したように声をかけてきた。
「驚いたな…お前はいつも剣術の修行にばかり打ち込んで、女らしい事はあまりしていなかったようだが…」
「むっ、お兄さんまでそういう事を言いますか」
 かなはちょっと膨れて見せた。自分の事ではなく、自分が扮している「鳳仙」の事を言われているのだとしても、あまりいい気はしない。
「はは、悪かった。お前は立派な女子だ。そう膨れていると、せっかくの美しさが台無しだぞ?」
 その言葉にかなは唖然とし、それから何故か、頬に血が上るのを感じた。
「う、美しいって…お兄さん、妹にそういう事を言いますか?」
「私は本当の事を言ってるのだがな…」
 白桜が真面目な顔で言う。どうやら、この青年はかなりの朴念仁のようだとかなは思った。
 その夜、かなにとっては嬉しい事に、風呂が復旧した。はしゃぐ彼女に、白桜は快く一番湯を譲ってくれた。と言う事で、彼女は今お湯に浸かっている。
(…しかし、確かにこの身体は私のとは違うみたい)
 かなは思った。水に映してみると、「鳳仙」は確かにかなに良く似ていたが、それよりもむしろ、芽依子の方にこそ似ているようだった。身体の方も、かなに比べるとちょっと幼い感じだ。背も低いかもしれない。夢とは言え、奇妙な事だった。
(…と言うか、本当に夢なのかな? 妙にリアルな感じだし…)
 指先にさらさらと絡みつくお湯の温もりを感じながら、かなは思った。良く、夢かそうでないかを確かめるのに自分の頬をつねって、痛いかどうかを確かめる、と言う話があるが、それなら痛覚以外の五感でも確かめられるはずである。
 その五感が正常に働いている以上、これは夢ではなく、現実であると言う可能性も…
「まさかね」
 考えが変な方向に行きかけたのを、かなは軌道修正した。こんな、電気もなく、水道もない、どう見ても江戸時代かそれ以前の昔のような世界に放り込まれるなんて、現実であるはずがない。
 それに、あの白桜だ。自分に兄がいるなんて、そんな話はない。まぁ、なんとなく他人に感じられない気がするのは確かだが、それも夢だからだろう。
 そんな事を考えていたかなは、もう少しで湯当たりしそうになり、その日はフラフラになって床に就いた。

 夢の中での4日目の朝が来た。かなは境内の草刈りに従事し、白桜は屋根の修理に当たっていた。こうして見ていると、なかなか器用に屋根を修理している。神主より大工の方が適正があるんじゃないかとかなは思った。
 そんな事を考えていた彼女が気付いたときには、彼らはもう石段のすぐ下まで来ていた。話し声が聞こえたと同時に、白桜が屋根から降りて、妹の方へ駆け寄ってくる。
「鳳仙…」
 警戒の色を見せる白桜に、かなはのんびりした声で言った。
「村の人…みたいだけど?」
 石段の真ん中辺りを進んでくる男たちは、一様に質素な服を着ていて、武器の類は持っていなかった。二人の存在に気付いた彼らが、手を組んで挨拶する。
「ご機嫌様です」
「ご機嫌様です」
 白桜が挨拶を返し、かなも慌ててそれに倣った。
「あんたら、旅の人だか?」
 村人の問いに、白桜ははっきりとした意思を込めて答えた。
「いいえ。私は、この社の新しい宮司です」
 村人たちのざわめきが大きくなった。

 本殿の広間に、白桜と村人たちが向かい合って座り、かながお茶…はないので、白湯を出すと、前置きも何もなく、村人が頭を下げてきた。
「おねげぇです。社を直すのはあきらめて、どこか遠くへ立ち去ってくだせぇ」
 驚く白桜に、村人たちは口々に訴えた。
「夜盗は龍神様を狙って来ただ。また龍神様を呼んだら、夜盗も襲ってくるだ」
「そうなったら、ワシらは今度こそ皆殺しじゃ…前に襲われてから、やっと村を建て直したのに、また元の木阿弥になるのは嫌じゃ」
「後生ですから、龍神様を呼ぶのはやめてくだせぇ」
 村人が口々に訴えるのを聞いて、白桜は困惑したような表情になっていたが、そのままではいけないと思ったらしく、口を開いた。
「確かに夜盗は恐ろしい。しかし、彼らを恐れて村に閉じこもっていては、そのうち龍神様の加護が薄れて、村は滅びてしまいます。龍神様をお招きし、夜盗に負けない力を願う…そうすれば、道は開けます。だから…私は何としても龍神様をお招きします」
 静かだが、信念のこもった声に、村人たちは顔を見合わせた。かなはこの白皙の青年を少し見直した気分になった。これは少し援護してやらねば、と言う気持ちになる。
「お兄さんの言う通りだと思うな。その、夜盗とやらが襲ってくる事が分かっていれば、事前に対策は取れるんだし…そこでみんなが力を合わせれば、きっと何とかなるよ」
 力を合わせれば何とかなる。それは、急に女将を押し付けられたかなにとって、澄乃や旭、芽依子に小夜里にも手伝ってもらって頑張ってきた、その経験から来る信念だった。
 再び顔を見合わせ、囁き合う村人たち。納得させられたかどうかは分からないが、恐れに閉じこもった彼らに、考えさせるきっかけくらいは作ったようだった。やがて、村人たちはいったん帰っていき、社にはかなと白桜の二人が残った。
「鳳仙、出過ぎた真似だったぞ」
 白桜が叱責するような声で言った。話し合いの席での、かなの発言に対する事だろう。ちょっとむっとしたかなだったが、次の白桜の言葉で毒気を抜かれた。
「だが、良く言った」
 微笑んで、白桜はかなの頭を撫でた。子ども扱いだが、不思議と嫌な気はしなかった。
(桜花や旭の気持ちが、ちょっとだけわかった気がするな)
 そう思いながら、かなは社殿に戻る白桜の後を追った。
 夢は…まだ覚める気配を見せなかった。

(つづく)


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