SPACE BATTLESHIP "YAMATO"
EPISODE:1 Hope for tomorrow Part1,Section9
宇宙戦艦ヤマト
第一部 遥かなる星イスカンダル
第九話 「邂逅」
2199年 9月6日 新横須賀軍港大型艦専用バース BB-EX01<ヤマト>
「すべての訓練を打ち切る」
沖田がそう宣言したのは、<ヤマト>が沖縄沖で衛星軌道上のガミラス軍空母を撃沈した3日後の事だった。
「打ち切り…ですか?すると以降の予定はどうなります」
幹部乗員を代表して島が尋ねると、沖田は会議卓の中央に予定表を立体投影した。どの方向から見ても同じように見える特殊ホログラフィーである。
「当初、ワシは訓練期間を3ヶ月、出撃準備期間を1ヶ月と設定していた。しかし、この艦が発見された可能性がある以上、このような悠長なスケジュールでは遅れを取るばかりだ。そこで…」
沖田がパネルを操作すると、カレンダー上の訓練期間をあらわす緑色のバーがすべて消失し、準備期間をあらわすオレンジ色のバーが繰り上がった。しかも、その長さが半分になっている。
「訓練は以後航海中に実地で行うものとし、準備期間を半月に短縮する」
乗員たちの間からどよめきが上がった。言うまでもなく、これは大変な変更だ。予想される作業量の増大は想像を絶したものになるだろう。
「艦長、この変更について、司令部との折衝は?」
真田が質問した。沖田は頷いてそれに答えた。
「うむ、既に藤堂長官の了解は得ている。あとは、政府を通じて軍需管理局やエネルギー省と折衝するだけだが、おそらく通るだろう…」
既にこの大航海計画…「明日への希望」作戦は地球人類の命運を賭けた最優先プロジェクトとなっている。よほどの無茶な要求をしない限り、まず通るはずだ。
「それと、まだ足りない乗組員を至急補充する必要があるな。そっちは人事局にも打診しているが、他に心当たりのある人材を何人か引っ張ろうと思っている」
沖田の言葉は、これまで極秘計画のために密かに行っていた人材募集を、堂々と大胆に始めようと言うものだった。現在、<ヤマト>の乗員…まだ身分的には艤装委員…は100名足らず。これは、各部門の長になる予定の者と、そのすぐ下で補佐を務める者だけで構成されているためで、他に技術者が200人ほど乗り込んでいるが、正規の乗員が補充され次第退艦する予定だ。
これに対し、必要な乗員は1000名を超える。機械化・自動化が進んだこの時代でも、最後にものを言うのは人間の柔軟な判断力と対処能力である、と言う幾多の教訓から、最低限艦を動かすのに必要な人間の3倍以上の人間を乗せる事が、この時代の宇宙艦艇では常識となっていた。
「そこでだ…古代、島」
「は、はいっ!」
突然名を呼ばれ、古代と島は直立不動の体勢になって沖田の指示を待った。
「連邦国防大学付属病院はわかるな?そこに、ワシの旧友で佐渡と言う医者が勤めている。変人だが優秀な医者だ。彼にこの手紙を渡してきてくれ」
そう言うと、沖田は懐から一通の手紙を取り出した。電子メールなどのもっと効率の良い連絡手段がある中で、沖田はこうした儀礼を踏む事が大事だと考える、古風な面を多分に残した男だった。
「了解!古代と島の両名、連邦国防大付属病院に行って参ります」
古代と島は復唱して沖田から手紙を預かった。
同日 東京地下街区 連邦国防大付属病院
連邦国防大付属病院。国防大の中でも、軍医科、衛生科に進む候補生を育成し、また傷痍軍人や戦争被災者の治療を行うための病院である。現在は東京地下街区の第120層に移転して業務を続けていた。現在の地球で、もっとも医療技術の充実した場所なのは疑いない。
新横須賀から乗ってきた<ヤマト>の艦載陸上車を降りた古代と島がロビーに入ると、そこには数名の傷痍軍人と思しき患者が治療順を待っていた。彼らは片腕を無くしている者、ひどい宇宙放射線症で皮膚がケロイド状になっている者など、戦いが長く不利なものになっていることを物語る証人だった。古代と島は敬礼した。連邦宇宙軍では、階級にかかわりなく、地球のために傷ついた者に対して敬意を表する事を義務付けている。
答礼を受け、二人は病院のロビーに進んだ。そこで受付の男性(これは民間人)に話し掛ける。
「すいません、こちらに勤務されている佐渡軍医少佐に面会したいのですが」
島が言うと、受付の男性は不思議そうな表情になった。
「佐渡先生に…ですか?いや、わかりました。しばしお待ちを」
彼のリアクションに奇妙なものを感じつつ、古代と島は顔を見合わせた。良くはわからないが、佐渡がここではあまり尊敬の対象にはなっていないのではないか、という印象である。軍医は確かに先生とも呼ばれるが、やはり公的には軍医(階級)で呼ばれるのが普通だ。それをただ「先生」と呼ばれている佐渡とは、どんな人物なのだろう。
(大丈夫なのか?)
口には出さないものの、二人がそう思った時、綺麗なソプラノが二人の耳を打った。
「佐渡先生への面会の方ですね?こちらへどうぞ」
振り返った瞬間、古代と島は絶句した。
そこには、美しい容姿を持ったひとりの女性が立っていた。しかし、その美しさだけが二人を驚かせたわけではない。彼女は彼らが知るある人物にそっくりだったのだ。
「さ、サーシャ…さん?」
古代が呆然と呟く。そう、目の前の女性は、彼らが火星で出会ったあのイスカンダルからの使者、サーシャと瓜二つだったのだ。
「あの、何か?」
その声に、古代は我に返った。よく見れば、女性はサーシャにそっくりではあったが、やはり別人だった。髪は金髪ではなく濃い栗色だったし、長さも違う。それに、サーシャの透けるような白い肌と異なり、目の前の女性は古代たちと同じ、黄色人種の特徴を備えていた。
「いや、失礼。私は古代進大尉であります。佐渡軍医少佐への面会に参りました」
「同じく、島大介大尉であります」
古代と島がそれぞれ、サーシャの幻影を振り払うように挨拶をすると、女性も威儀を正して礼を取った。
「これは申し遅れました。森雪主計中尉です」
なぜ主計科が病院に?と思った古代だったが、女性…雪の着ている軍服に、主計を表す筆をデザインしたマークのほかに、ハートと注射器をデザインした衛生、金網のようなアンテナをデザインした電測の3つの識別表が描かれているのを見て納得した。
この時代、バーチャル・リアリティ技術を中心とした教育カリキュラムの効率化に伴い、複数の軍務科を取得する者は珍しくない。古代自身、砲術、水雷、航空の3つのスキルを取得している。ちなみに、島は操艦と航法の2つだ。
「わかりました。案内をお願いします」
島の言葉に頷き、雪は二人を連れて病院内を歩き始めた。しばらく進み、敷地のはずれの方にある研究室の方へやってくると、ドアの看板に「佐渡酒造研究所」と大書された場所があった。
「こちらですわ」
雪が言うと、古代は首を捻った。
「さどしゅぞう…酒作りをしているところに用があるわけでは」
すると、それを聞いた雪が笑い出した。
「違いますよ。さどさけぞう、です。先生のフルネームですわ」
それを聞いて赤面した古代にくすくす笑いながら、雪はドアのインターホンを押した。
『…誰だ』
ドアの向こうで、妙に電子的な声が響く。
「アナライザー?私よ。先生にお客様。ドアを開けて」
雪が答えると、ドアがスライドし、そこから奇妙な物体が出現した。卵形の胴体に、無数のアンテナがつき、短い手と、キャタピラのついた足が生えている。準人型のロボットのようだった。
「これは…うおっ!?」
ロボットの正体を考えた島が、部屋の内部から流れてきた熟柿のような匂いに顔をしかめる。古代もうなった。それは、酒の匂いだった。それも、戦争がはじまってから嗅いだ事もないほどの濃密な。
『やあ、雪さん。今日もお美しい』
その間に、ロボットは例の電子的な、それでいて妙に人間くさい口調で雪にお世辞を言っていた。
「あら、ありがとう、アナライザー。先生は?」
『奥で実験中です』
部屋の奥を指差すロボットの頭(?)に手をやり、雪はそれを紹介した。
「これは、先生のところで助手をしている統合探査ロボットのアナライザー。アナライザー、こちらは先生のお客様で、古代大尉と島大尉よ」
『よろしく、古代さん、島さん』
アナライザーが、これは人とあまり変わらない構造の手を伸ばして握手を求めてきた。握手をしながら、島はアナライザーを眺めた。
「そうか、30年程前に外惑星探査に使われていたJSA-R2172型だ。凄いな、こんなに綺麗に残っているやつは珍しいぞ」
「旧式だけど、センサー類は今のロボットと比べても遜色ない傑作機らしいな」
古代は頷いた。30年前、外惑星の探査が盛んだった時代は、厳しい環境の現地へいきなり人間を送らず、こうしたロボットからなる先遣隊を送るのが主流だった。厳しい任務だけに消耗も激しく、生産されたJSA-R2172型の中で、今も稼動しているのは1割に満たないと言われている。
その貴重な1台であるアナライザーは、古代と島が自分に感心している事に気を良くしたのか、手招きをした。
『先生のところに連れて行きます。来て下さい』
そう言うと、キャタピラをうならせて中へ入っていく。室内は、より濃厚なアルコール臭に満ちていた。なにやら複雑なプラント類が暗い室内に並んでいる。
「こりゃたまらんな…本当に酒造会社じゃないだろうな…」
古代が鼻を抑えながら言うのに、島が頷く。雪の方もハンカチで鼻を抑えていた。
『先生、お客様ですよ』
アナライザーが言うと、部屋の奥の引き戸が開き、そこから腕が突き出して手招きをした。
「おゥ、聞こえとるよ。こっちに上がってもらってくれぃ」
アナライザーが引き戸を開けると、そこにあった光景に古代と島は驚いた。部屋が、純和風作りになっていたのだ。畳の敷かれた床にはちゃぶ台が置かれ、その上に酒の一升瓶が置かれている。その口の部分にプラントから伸びるパイプが接続され、透明な液体が一滴ずつ垂れていた。
「な、なんだこりゃ?」
島が唖然として言うと、さっきの声がそれに答えた。
「ここはわしの研究室じゃよ」
そう言って出てきたのは、綺麗に禿げ上がった頭と、突き出した腹を持つ60前後の男性だった。フレームの丸い、古風な眼鏡をかけていて、風采は上がらないが温厚そうな人物だった。
「よく来たの。わしが佐渡酒造じゃ。軍医少佐、何ぞと言う堅苦しい呼び方はせんでいいぞ」
佐渡はちゃぶ台の回りに座布団を並べ、古代と島、それに雪を座らせた。湯飲みに茶ではなく、一升瓶の中の液体を注ぐ。途端に酒の芳醇な香りが溢れた。
「まぁ呑め。わしがここで作った酒じゃ。合成じゃが味はなかなかのもんじゃぞ」
「いえ…そういうわけには」
佐渡のすすめを古代は固辞した。第一、これはどう見ても密造酒ではないのか?
「なんじゃ、若いのに硬いヤツじゃのう…言っておくが、わしは酒造免許はもっとるぞ」
そう言って、佐渡は湯飲みをぐっと空けた。酒くさい息をはいて、実に満足そうに笑う。
「で、用件はなんじゃい」
「そうでした。沖田中将から手紙を預かっております。こちらです」
佐渡のペースに圧倒されていた古代が、ようやく本題を切り出す。佐渡は渡された封書を破り、中の便箋を引き出して読み始めた。
「ふむ…むむむっ!」
読み進むにつれ、酒で緩んだ表情が次第に引き締まっていく。やがて、読み終える頃には、完全に真剣な表情になっていた。
「沖田提督も人を驚かせるわい。このわしに29万6千光年を共にしてくれ、じゃと?おかげで、数年ぶりに酔いが醒めてしまいおったわ」
そう言って佐渡はからからと笑った。その言葉から、古代と島は手紙の中身を容易に想像できた。この先生に艦医として乗艦してくれ、と依頼したに違いない。
(おいおい、大丈夫かよ)
本人の前でそんな事は言えず、口篭もった古代と島だったが、佐渡はそれにかまわず、手紙を丁寧に元に戻して部屋の隅に会った薬棚に仕舞いこんだ。そして、ペンと紙を出してきて、一気に文章を書き上げる。
「これで良し…詳しい事はここに書いてあるが、沖田提督には委細承知、と伝えてくれ」
佐渡は手紙を封筒に仕舞い、古代に手渡した。
「は、はい。了解しました」
古代が手紙をブリーフケースに入れると、佐渡は思い出したように、部屋の隅に積んであるケースから、一升瓶を一本抜いて、これは島に手渡した。
「これは、沖田提督への土産じゃ。2〜3日中に伺うから、そのときは飲み明かしましょうと伝えてくれんかの」
「わかりました」
島が一升瓶を持って頷く。話はそこで終わりだった。再び実験と称して酒の抽出にかかった佐渡に礼を言い、古代たちは実験室を辞去した。
「いやぁ…すげえ先生だったなぁ。まだ酒くさいような気がするぜ」
古代が笑うと、島が相槌を打つ。
「航海が始まったら、あの先生に診てもらうのか…こりゃ迂闊に負傷できんぞ」
すると、雪がなんて事を、と声をあげた。
「ああ見えても、先生は名医なんですよ。この病院の人間はみんな知っています」
そう言って、雪は佐渡の業績を話し始めた。佐渡は本来は外科の医師だが、内科や神経、麻酔、鍼灸など東洋医学まであらゆる医術に通じたエキスパートだと言う。
「どうしても他の先生には治せないような症例の治療は、みんな佐渡先生に任せるんです。先生はどれも見事に治してしまうんですよ」
「へえ…あの先生がねぇ…」
古代は唸った。人は見かけによらないとはこの事だろう。
「ところで…」
古代たちが納得したところで雪が声をあげた。
「先生が仰っていた29万6000光年、って、どう言う事ですか?」
古代たちはうっと言葉に詰まった。「明日への希望」作戦の事は最高機密だ。迂闊に話す事は出来ない。
「悪いが…それは軍機でね。出来れば忘れてくれ」
島が言った。
「わかりました。聞かなかった事にしますわ」
雪は素直に頷く。彼女も軍人だ。軍機と言う言葉の意味するところは理解している。
そんな会話をしているうちに、古代たちはロビーまで戻って来ていた。
「あぁ、案内ご苦労でした、森中尉。我々はこれで失礼します」
古代がそう言うと、雪は敬礼して応じた。
「どういたしまして。また御用がありましたら…って、病院に用があって来る時は負傷時でしたわね。そんな事が無いように祈っています」
その雪の言葉に島は吹き出しそうになっていた。
駐車場に置いていた陸上車に乗り込んだ二人は、新横須賀方面への地下チューブウェイに乗り入れ、オートクルーズをセットした。交通管制システムのコントロールを受け、車は自動的に道を進んでいく。
「いや、たいした美人だったな、あの森って娘は。なぁ古代」
「あぁ、そうだな…」
島の言葉に古代は頷いた。確かに美人だった。火星で救出に行ったサーシャも美人だったが、雪の印象はそれを上回っているような気がした。それは、サーシャが出会ったときには既に死人で、雪は生きている、という単純な差でもないような気がする。
「気のない返事だな…お前に女の子の話題を振った俺が馬鹿だったか」
島が言う。訓練生時代から、古代が朴念仁と言われる堅物だったのに対し、島は良く門限破りをごまかす組織を結成して、夜の街に遊びに行ったりしていた。
「あぁ、そうだな…」
古代は頷いた。と言っても、島の言葉の内容を吟味しているわけではない。頭の中では雪のことを考えていた。もし吟味していたら、お前と一緒にするな、と怒鳴りだして喧嘩になっていただろう。
「また会えたら、アタックしてみようかな…ああ、そう言えばアドレスや電話番号聞くの忘れてたな…迂闊だった」
「あぁ、そうだな…」
二人の会話は既に会話になっていなかった。古代はひたすら雪の面影を心に浮かべていた。
(なんだろうな…どうも忘れられない。こんな気持ちは初めてだ…)
俗に言う「一目惚れ」というものであったが、朴念仁の古代にはそんな事はわからなかった。ひたすら雪をデートに誘う計画をまくし立てる島と、それを全部「あぁ、そうだな…」で受け流す古代。車はそんな二人を乗せて一路新横須賀へひた走っていた。
9月8日 新横須賀軍港大型艦専用バース BB-EX01<ヤマト>
それから2日後、<ヤマト>にヘッドハントした者、人事局の紹介を問わず、新乗員となった者たちが集結し始めた。古代は衛兵を連れ、万一の破壊活動に備えて新乗員のチェックに当たっていた。
「幕の内勉少佐、主計科。戦艦<ヤマト>主計長を命ぜられました。乗艦許可を願います」
幕の内が差し出したIDカードをチェックし、さらに指紋、網膜パターン、DNAなど数項目のチェックを行う。
「幕の内少佐、本人と認識されました。<ヤマト>へようこそ。乗艦を許可し、歓迎します」
古代が握手を求めると、幕の内はにこやかに笑って握手に応じた。
「俺は飯炊きしか能がないからな。こちらこそ頼むよ」
そう言うと、幕の内は艦内に消えていく。そして、次の人間がやってくる。
「相原義一中尉。通信科。戦艦<ヤマト>乗り組みを命じられました。乗艦許可を願います」
古代はチェックを監督し、それが確認されると相原の肩を叩いた。
「乗艦を許可する…久しぶりだなぁ、相原」
「ええ、お久しぶりです、古代さん」
相原は破顔した。冥王星海戦時、沖田の旗艦<八洲>に乗り込んでいた彼は、古代や島の一期下の後輩だ。人当たりの良い性格で、特に古代とはウマが合った。
「お前が来てくれれば百人力だ。しっかり頼むよ」
そう言って相原を迎え入れると、次は航空科のマークを付けた精悍そうな青年だった。
「山本明少尉、航空科。戦艦<ヤマト>乗り組みを命じられました。乗艦許可を願います」
ほぉ、と古代は値踏みするような目になった。山本は古代の4期下で、直接同じ時期に学んだ経験はない…が、噂によれば加藤に匹敵する腕利きらしい。
「認証確認。乗艦を許可する。その腕を見せてくれるのを楽しみにしているぞ」
古代の言葉に、山本は白い歯を見せて笑うと、艦内へ消えていった。
「これで今日は120人か…明日はもっと来るだろうな」
リストの乗艦済みになった人間をペンで消し、古代は呟いた。ベテランと優秀な若手が混在した、かなりバランスの良い人事だ。それだけこの艦にかかっている期待が大きいと言う事が、このリスト一つとっても理解できる。
その時、調子はずれな声がタラップの下から聞こえてきた。
「おうおう、こりゃあでっかいフネじゃのう」
その声は古代にも既に馴染み深いものとなっていた。佐渡の声だ。やがて、なだらかなスロープ状のタラップを登り、佐渡ともう二つの人影が姿を現した。いや、正確には人影は一つだ。なぜなら…
『この艦にはボクと同じような機能美を感じます』
アナライザーだった。ロボットのクセに、妙に感性的な台詞をはく奴だと古代は感心した。しかし、問題はもう一人の人物だった。
「やぁやぁ、古代。来てやったぞ」
『お久しぶりです、古代さん』
佐渡とアナライザーが口々に挨拶をするが、古代はその言葉を聞いておらず、じっと最後の一人を見ていた。
「森雪中尉、主計ならびに衛生、電測科。戦艦<ヤマト>乗り組みを命じられました。乗艦許可を願います」
「あ、あぁ…歓迎する、森中尉」
古代はあっけに取られたように言った。まさか、また彼女と再会するとは。しかも、同じ艦への乗り込みで。
「あら、チェックはしなくて良いんですの?」
「あ?あ、あぁ…済まない。すぐにチェックする」
雪に指摘され、慌てて古代はチェックを始めた。それが終了し、改めて挨拶する。
「認証完了。よろしく頼む、森中尉」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
雪は微笑んで古代と握手を交わした。その間に、佐渡とアナライザーはチェックもせずに勝手に艦内へ入り込んで行ってしまっていた。
数分後、艦内侵入者警報が鳴り響き、警務科の乗組員が殺到、佐渡とアナライザーを拘束した。そのお陰で古代は沖田からたっぷりと油を絞られる羽目になるのだが、それは後日談である。
この日…多くの乗組員が、巨艦<ヤマト>と運命的な出会いを果たす。そして、古代進と森雪。この後、共に無数の死線を潜り抜け、戦場のみならず私生活においても生涯無二のパートナーとして過ごすことになる二人の、運命の出会いもまた果たされたのである。
(つづく)
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