SPACE BATTLESHIP "YAMATO"
EPISODE:1 Hope for tomorrow Part1,Section10


宇宙戦艦ヤマト

第一部 遥かなる星イスカンダル

第十話 「旅立ちへの号砲」


2199年 9月12日 新横須賀軍港大型艦専用バース BB-EX01<ヤマト>

 4日前から始まった乗組員の集結が終わった<ヤマト>艦内では、人事の正式発表が行われていた。艦内の数箇所にある多目的ホールに設置された電光掲示板に各部署への配属と、役職が掲示されている。それを見ながら、同じ部署同士になった者の間で握手をしたり、肩を叩き合ったりして互いを激励する光景が見られた。
 そうした中で、艦の中枢であるCDC(中央戦闘指揮所)勤務になる者たちには、艦長への就任が正式に決定した沖田から直々に辞令が手渡されていた。
 古代進…主席戦術情報士  島大介…主席航海士  森雪…主席電測情報士   
 相原義一…主席通信士  真田志郎…応急対策情報士/技師長  徳川彦左衛門…機関長
 太田健一郎…次席航海士/主席航法士  南部康雄…次席戦術情報士/砲術情報士
 この人事には当の本人たちだけでなく、周囲の人間も驚いていた。いずれも、もう少し実戦経験を積んだベテランの座るべき席である。キャリアで問題ないのは真田と徳川の二人くらいだ。
 しかし、沖田は反対を押し切ってこの人事を決定した。
「若い、若いと言うが、彼らはいずれも数度の実戦をくぐり、ベテランの域に達した者たちばかりだ。新技術を大量に取り入れた本艦では、彼らの若さが絶対に必要になる」
 沖田のこの主張に、誰も文句を言えなかった。かくして、「艦橋」とも呼ばれるCDC要員の平均年齢は通常の30歳半ばから一気に20代になり、若々しさの溢れたものとなった。
 そして、この日、ついに地球防衛軍司令部からの極秘命令書が届けられた。そこには、簡潔な命令文が記されているだけだったが、その重みは何物にも代え難いものだった。

『発 地球防衛軍司令部  
宛地球防衛軍第01独立戦隊所属 戦艦BB-EX01<ヤマト>
 貴艦は9月15日黎明を期して出撃、規定の目標を完遂せよ。
 追伸 勇敢なれ
署名、地球防衛軍司令長官 元帥藤堂平九郎』


全ては動き出した。


冥王星 ガミラス帝国太陽系侵攻軍総司令部

 シュルツの機嫌は最悪だった。
(何者だ…何者が<ファルゲン>を沈めたのだ…)
 撃沈された空母<ファルゲン>艦長のダリウス大佐は、いささか思慮の足りない所ははあったが、水準以上に有能な男だった。地球側の迎撃能力を十分に測って行動していたはずであり、そう簡単にやられるような間抜けではない。
「つまり、嫌な予感が当たった…と言う事だろうな」
 声に出して言うと、側に控えていたガンツが「は…」と相槌を打った。
「は、では済まされんぞ。地球側がクロイツァー級空母を探知・補足して撃沈する能力を持ったのなら、今後の作戦にも影響を及ぼす事になる」
 シュルツはますます苛立ったように言った。第一、今回<ファルゲン>を失う結果に陥ったのは、ガンツの情報分析ミスが原因ではないか!
 さすがのシュルツもそれを声に出して言うほど無神経な人間ではなかったが、ガンツも言外の意を悟るには十分な知性の持ち主だった。
「責任は痛感しております」
「ならばどうする?」
 ガンツの言葉にシュルツが追求の矛先を向けると、ガンツは既に答えを用意していたらしく、淀みない口調で答えた。
「超大型ミサイルの使用許可を頂けますか?」
「…何、あれをか?」
 シュルツの言葉にガンツは頷く。
「あれならば、今回の事件が発生した日本地区周辺の全域を一挙に破壊する事が出来ます。敵が新兵器を隠していたとしても、問題とはなりますまい」
「うむぅ…」
 シュルツは唸った。超大型ミサイル…この基地に配備されている最大の戦略兵器だ。全長約500メートル。その大半はロケット・モーターとその燃料だが、弾頭には10ギガトンに相当する熱核反応弾が仕込まれている。爆発すれば、一挙に2000キロ四方を跡形もなく吹き飛ばす威力を秘めたミサイルだ。
 地球環境の極度の破壊を避け、短期間の環境再構築で居住可能な程度にとどめよ…と言う本国訓令を遵守する限り、出来れば使いたくない兵器だが、謎の新兵器が隠れており、かつ最も激しい抵抗を続ける日本地区を一挙に葬っておくのも悪くない選択肢かもしれないな、とシュルツは考えた。
「良かろう。やってみたまえ」
 シュルツの許可に、ガンツは敬礼で答え、司令室を出て行った。
「まぁ、失敗しても奴の責任を問えば済む事だ…」
 そう一人ごち、シュルツは従卒の淹れたバーフ茶を啜った。
 数時間後、基地の一角にある巨大なハッチが開き、そこから目も眩むような閃光を発して巨大なミサイルが天に昇った。冥王星とその衛星カロンの重力圏を易々と振り切ったミサイルは与えられた軌道に乗り、一路地球を目指した。その着弾点は、全ての計算が正しければ日本列島の中心部…富士山東麓付近になるはずだった。
 その着弾予定時刻は、地球時間で3日後の15日0800時だった。


9月15日 新横須賀軍港
 
 広大な埠頭の一角に、1200名に及ぶ<ヤマト>の乗員が整列していた。その前には、赤いじゅうたんの敷かれた壇が置かれ、藤堂司令長官、クレイボーン参謀長、そして、地球連邦大統領代行であるマティヴ氏までもが椅子に座っていた。
 やがて、マティヴ大統領代行が立ち上がり、登壇した。全体号令を任された古代が大声を張り上げる。
「総員、地球連邦大統領代行に対し、最敬礼!頭ー、前ッ!!」
 その号令を受け、全員が腕を水平に前方に伸ばして拳を握り、そこで90度肘を曲げて親指を胸に当てる。連邦軍における最大の敬意を表す礼だ。マティヴがこれに答礼し、マイクに向かって話し始める。
「戦艦<ヤマト>乗組員の諸君…諸君らの双肩には、地球人類のみならず、地球に生きるすべての生命の運命がかかっています。前例のない過酷な航海になるとは思いますが、地球連邦軍軍人として、それ以前に人間として、常に最善を尽くし、希望を持ち帰ってください。これは大統領としての命令ではない。人類すべての願いです」
 短い激励の言葉だったが、全員が威儀をただし、靴の踵を打ち合わせて二回目の敬礼を行う。続いて、藤堂司令長官が登壇する。
「この期に及んで、長々と言葉を連ねる事は、私の得意とするところではない。君たちも聞きたくはなかろう」
 ここで、乗組員だけでなく、列席した来賓の間にも失笑が巻き起こった。
「故に、私は一つの言葉のみを君たちに送る。『諸君らの武運を祈る』…以上だ」
 再び、一糸の乱れもない真剣そのものの敬礼が交わされた。
 最後に、沖田が壇上に上る。咳払いをした沖田は、ゆっくりと乗組員全員の顔を見渡し、力強い口調で語り始める。
「いよいよ、我々の出撃の日が来た。これは未知なる旅の始まりであり、行く手にどのような試練が待ち構えているか、誰も知らない。正直言って、私は君たちの誰一人欠ける事無く任務を果たせるかどうか保証できない」
 沖田は一度言葉を切った。場がしんと静まり返る。それを確認し、沖田は言葉を続けた。
「しかし、これは人類の未来を切り開き、希望を持ち帰るための旅である。そのために、私はたとえ泥水をすすり、草をかじってでも生き延び、最後の一人になってもこの任務を完遂する覚悟である。そのために、あえて諸君らに死ねと命じるかもしれない。兵器本来の使い道からしてどうかと思われる事も、やらせるかもしれない。それでも諸君は、私に命を預けてくれるだろうか?」
 一瞬沈黙があり、一人の男が進み出た。機関長の徳川だった。
「ワシは、あの悲惨な冥王星海戦の時から、既にアンタに命を預けている。ワシとアンタの仲じゃないか。アンタは一言命じてくれればいい。あれをせよ、とね」
 徳川は上官と部下とではなく、敢えて旧友としての言葉遣いをした。それに釣られるように、古代が進み出て敬礼する。
「提督…いえ、艦長。私の命、艦長にお預けします。如何様にもお使いください」
 それをきっかけに、乗組員たちが声を張り上げた。俺も、私も、僕も、自分も…声が決して狭くはない地下大ドック全体を揺るがすように響き渡る。沖田は頷いた。
「諸君らの気持ち、ありがたく受け取る。むろん、預かったからには無駄な使い方などしない。利子は返すがな」
 沖田の言葉にわあっと歓声が上がる。悲壮なるものに美を見出す日本人の感性ならではの沖田の演説だった。
「これにて出陣式を終える!総員、大統領代行閣下並びに司令長官に敬礼っ!」
 古代の最後の号令が掛かり、全員が敬礼する。そして、沖田は命じた。
「総員、乗艦!出航配置に就け!!」
「総員乗艦!!」
「機関科、続け!!」
 部科単位で次々に命令が伝達され、1200名の乗員が一斉に持ち場へ向けて駆け出す。艦の数箇所から伸びるラッタルを駆け上がる足音が響き渡った。
 古代たち、艦橋要員もエレベーターに乗り込み、艦橋構造物上部の航海艦橋に入る。席について持ち場の機器を点検していると、沖田が艦長席に現れた。
「ご苦労。準備は整っているか?」
 沖田が呼びかけると、島が振り返って報告した。
「問題ありません。既に出航前チェックの9割は完了させておきましたので…よし、全システム異常なし!航海・航法システム準備完了!」
「全レーダーシステム異常無しです」
 雪が報告する。
「火器管制システム、オールグリーン」
 南部が声を張り上げる。次々に報告が飛び込み、やがて、艦のシステム全てにグリーンのランプが点灯した。
「よろしい。古代、出航の指揮を取れ」
「了解。出航の指揮をとります」
 古代が復唱し、目の前のディスプレイに出航シークエンス手順書を呼び出した。
「こちら戦艦BB-EX01<ヤマト>。新横須賀港湾管制、出航許可を求む」
『こちら新横須賀管制。貴信了解。出航を許可する。パイロット、並びにタグボートの必要はあるか?』
「必要なし。出航許可に感謝する」
『了解。航海の安全を心より祈る。頼む、がんばってくれ』
「こちら<ヤマト>。任されたし。誓ってここへ帰る」
 古代は交信を終えた。最後の短いやり取りは厳密には航路法違反だが、別に沖田も誰も咎め立てはしなかった。
「航海、微速前進で出航水路へ進入」
「ようそろ。微速前進。両舷バラストタンク注水。潜航用意」
<ヤマト>が動き出すと、来賓として来ていたマティヴ大統領代行、藤堂長官らが一斉に敬礼し、港湾作業員たちも帽子や手を振って見送った。<ヤマト>艦上でも手空きの者が甲板に出て敬礼や帽振れで応え、これは昔から変わらないクラシカルな汽笛が別れと旅立ちのときを告げる。
 そして、通信アンテナをかねる艦橋直後のマストに、レーザーホログラフを用いた信号旗が掲げられた。国際信号旗の「P」を表す青い旗。日本では「出帆旗」、西洋ではその色から「ブルーピーター」と呼ばれる。この宇宙時代においても、旅立つ船は常にこれを掲げるのが不変の伝統だった。
 やがて、潜航警報が鳴り響くと、甲板上に出ていた乗員たちも艦内へ戻り、同時に艦が潜航をはじめる。放射能の進入を警戒して幾重にも設けられた隔壁を通過し、<ヤマト>は港外へ出た。
「浮上する。メインタンク、ブロー」
 島の操艦によって、<ヤマト>の巨体が海面を割った。この日は珍しく晴れ間が覗いており、穏やかな海面に浮かぶ、相模湾に流入する河川からの流氷と思しき白い浮氷が光を反射して輝いていた。
「浮上完了。現在速度…40ノット」
 島が報告した。電磁推進装置により、<ヤマト>は最大120ノットの水上速力を発揮できる。
「よろしい。これより、水上最大戦速より離水、大気圏内飛行フェイズより大気圏外離脱、地球重力圏を突破し、地球と月の中間点に向かうものとする」
 沖田が命じた。その直後、相原から報告が入る。
「艦長、各務原基地より入電です。第442艦載戦闘飛行団(VFS)、当基地を離れ貴艦へ向かいつつあり。受け入れをよろしく、との事です」
「了解と伝えろ。古代、先発隊のメンバーに命じ、飛行隊の受け入れ準備にかかってくれ」
「了解!」
 古代は立ち上がり、後部艦橋の飛行指揮所へ向かった。途中で、山本らの442VFS先発隊と合流する。
「大気圏内だから、普通の垂直着艦だ。皆腕利きなので心配ないとは思うが、万が一に備えて救難飛行の準備をしてくれ」
「了解!」
 艦内の動く歩道上で指示を出すと、山本たちは敬礼し、途中で格納庫へ通じるシューターに滑り込んでいった。古代もすぐに後部艦橋に通じるリフトに足をかける。このリフトは、垂直に立てたベルト・コンベアにはしごを取り付けたような装置で、普段は自動で乗ったものを上下の階層に運んでくれるが、動力が切れたときでも非常用はしごとして使える。便利な装置だ。
 飛行指揮所に入ると、既に3人のオペレーターは誘導の準備を整えて待っていた。
「古代大尉、こちらは誘導準備完了です」
 先任オペレーターの奥山弥生少尉の報告を受け、古代は命令を下した。
「よし、まずは救難機を発進させる。左舷カタパルトへ誘導せよ」
 その命令を受け、第二層格納庫に収納されていたベルVP-11<コンウェイ>救命艇がエレベーターに載せられて飛行甲板へ上がってきた。主翼の上に担ぐようにしてエンジンポッドを搭載した中型のVSTOL機で、大気圏内外両用飛行能力を持つ。
『こちらレスキューバード1。発進許可願います』
 操縦しているらしい山本の声が聞こえてきた。
「ロイヤルボックスよりレスキューバード1。発進許可します。カタパルト作動までカウントダウンマイナス15。対衝撃姿勢をとってください。カウントダウン、10、9…」
 奥山が秒読みを行い、ゼロカウントと同時に電磁カタパルト特有の滑らかな加速を得て救命艇は海上へ飛び出していった。高度を取り、<ヤマト>の斜め後方で周回飛行に入る。
 救命艇の発進に遅れる事数分、各務原を出た艦載飛行隊からの通信が飛び込んできた。
『こちらVF442。タイガー・リーダーよりロイヤルボックス。着艦許可を願います』
 加藤の声だった。これには古代が出て応答した。
「こちらロイヤルボックス。歓迎する。見ての通り海水浴向きの陽気じゃないから、海に飛び込まないように気をつけろよ」
『了解。そんなヘマをする奴はいませんよ』
 加藤の返事と同時に、水平線の向こうから雁行隊形を取ったVF442が姿を現した。それはたちまち接近してくるといったん<ヤマト>の上をフライパスし、バンクをうつと二手に分かれてUターンし、海面を舐めるような低空で次々と<ヤマト>の横をすり抜けた。規定に違反して甲板よりも低い高度を飛ぶ<ブラックタイガー>の機影に、沖田が笑いながら呟く。
「なかなか活きの良さそうな連中だな…あとで格納庫の床磨きでも命じておけ」
 その声には、規定違反への怒りよりも、VF442の高い技量に対する満足感が滲み出ていた。床磨きをさせられる運命とも知らず、<ヤマト>の艦尾へ飛び去った彼らは、再合流すると着艦体制に入った。
「ロイヤルボックスよりVF442、良いデモンステレーションだった。着艦準備良ければ、順番に着艦せよ」
『了解』
 古代の命令と共に、順番に各機が艦尾の一段低い着艦用スペースに降りて来る。甲板に降りた機体はそのままガイドレールに沿って前方の格納用エレベータに進み、艦内へと引き込まれていった。
 そうやってほとんどの機体を収納し終え、残るは加藤機とレスキューバードの2機のみになった時、突然古代の座る管制席の前の艦内電話が鳴った。
「こちら管制、古代」
 古代が受話器を取ると、緊張した声の相原が話し掛けてきた。
『古代大尉、緊急事態です。すぐに艦橋へお戻りください』
「…! わかった、今すぐ行く」
 古代は受話器を置くと、奥山少尉に後を任せて管制室を飛び出した。艦橋へたどり着いた古代は沖田の席の前で立ち止まって言った。
「戻りました。艦長、一体何が?」
 沖田は頷くと、雪に命じて艦橋の天井近くに張られた大型ビデオパネルを作動させた。
「…これは!」
 古代は唸った。宇宙空間をバックに、一発のミサイルが飛行しているのが映し出された。一見、ごく普通のガミラス側のミサイルと大差はない。しかし、スケールを現すためにパネルの下部に同時に表示された目盛りを見れば、そのミサイルが<ヤマト>よりも遥かに巨大なものである事が良くわかる。
「地球と火星の間に展開した無人偵察機の一つが捉えた映像だ。まっすぐに地球に向かっている。着弾地点は…」
「ここ、ですね?」
 沖田の言葉に、古代が先回りして言うと、沖田はその通りだとばかりに頷いた。
「あれは、アステロイド・ベルトの攻防で要塞破壊に多用された巨大ミサイルだ。直撃すれば、この艦はもちろん日本も助からない」
 沖田がそう言うと、レーダーを睨んでいた雪が最新の情報を述べた。
「観測によれば…ミサイルの着弾まで、あと35分!」
「35分? それでは発進が間に合わない!」
 古代が悲鳴のように言うと、島が極力冷静な声で言った。
「普通ならな」
 古代がその声に、自席に戻ると隣の島の顔を見た。
「緊急発進だ。水上滑走から離水、大気圏内飛行なんかの手順をすっ飛ばして最短距離で大気圏外へ出る」
 島がディスプレイに模式図を表示させる。そこには、<ヤマト>がほとんど垂直に上昇して宇宙へ向かう様子が描かれていた。
「計算によれば、緊急発進を行えば大気圏離脱まで15分…そこから迎撃に向かえば、地球に影響のない距離で敵ミサイルを攻撃可能です」
 真田が沖田の方を向いて報告した。沖田はそれに頷くと、島と徳川の二人を交互に見て言った。
「航海士、機関長、やれるな?」
「やれます」
 島が頷く。
「とんだ一発勝負になってしまいましたな」
 徳川が苦笑した。何しろ、この<ヤマト>はこれが初めての宇宙だ。試験では何の問題もなかったが、実戦では何が起こるかわからない。できれば、このような急激な機動を伴う方法では宇宙には行きたくない所だ。
「相手のある事だ、仕方あるまい」
 沖田も長年の戦友に苦笑を返して見せ、それからおもむろに艦内放送のマイクを取り上げた。
「こちらは艦長だ。現在、こちらに敵の超大型ミサイルが迫りつつある。緊急事態に鑑み、緊急発進を行う。総員、対衝撃・対慣性姿勢を取れ」
 その放送と同時に、艦内が一気に慌しくなった。徳川は機関室に電話を繋ぎ、主動力炉である核融合炉二基の全開運転を命じる。エンジンの…と言うより、付属する冷却機構などの唸りが一気に高まった時、艦橋に加藤がアナライザーに連れられて飛び込んできた。
「艦長、<ヤマト>配備艦載飛行隊、VF442<宙虎>隊長、加藤三郎。着任を申告いたします」
 沖田は頷いて予備席を指した。
「御苦労。放送の通り、間もなく本艦は緊急発進を行う。席に着いて待て」
「はっ!」
 加藤は敬礼すると、予備席に着いてベルトを締めた。古代が振り返り、加藤に親指を立てた拳を突き出してみせる。加藤がそれに応える横で、徳川の奮闘は続いていた。
「出力全開30秒前…山崎、用意は良いか?」
『こちらは何時でもOKです! カウントダウン開始します』
 機関副長に就任した山崎中佐が機関室から言葉を返してきた。カウントダウンが開始され、艦の速度が増す。
『出力…臨界! 全力運転にはいりました!!』
 山崎の報告と同時に、徳川は矢継ぎ早に命じた。
「推進機関への回路接続! 水上航行用機関への回路カット用意!」
『了解!!』
<ヤマト>後方には推進剤を動力炉からのエネルギーで爆発的に膨張させて推力に代える推進機関が装備されている。動力炉からの回路が開かれると同時に、反応室内の温度が急激に増大していく。
「推進機関、定格出力に到達!」
 徳川の報告を受け、沖田が高らかに命じた。
「戦艦<ヤマト>、発進!」
「戦艦<ヤマト>、発進!」
 島が復唱と同時に、操縦桿を握る手に力を込め、一気に引いた。その瞬間、反応室内に推進剤が投入され、莫大なエネルギーを受けてプラズマ化。後部のメインノズルから噴出した。海面が数百メートル四方に渡って沸騰し、周囲をミルクのような濃い霧が覆い隠す。
 その霧を突っ切り、<ヤマト>はほぼ垂直の上昇角を取って蒼天めがけて駆け上がった。空の蒼が見る見る濃くなり、やがて星々がその姿を現した。
「た、大気圏緊急離脱シークエンス、完了。現在位置…ミッドウェイ島南方沖、高度200キロ」
 島が戸惑ったような声で報告した。同時に操縦桿を定位置に戻す。
「は、速い…!」
 真田が呟いた。<ヤマト>は従来の宇宙艦艇とは比較にならない速さで宇宙へと駆け上がってきたのだ。時計を見ると、出力全開からまだ5分しか経っていない。計算の半分以下の時間だ。さすがの真田も、従来の艦とは次元の違う<ヤマト>の能力を測り損ねたようだ。
「こいつは…すごい艦だな」
 古代は隣の島を見て言った。島が頷いた時、レーダースクリーンを睨んでいた雪の報告が入った。
「敵超巨大ミサイル、間もなく月軌道に到達します! 地球落着まで、あと20分…阻止限界点までは10分です!」
 阻止限界点、つまり、迎撃しても地球に被害の出ない限界と言う事だ。それ以降では、迎撃しても10ギガトンの爆発により被害が出る。
「よし…古代、迎撃用意だ。全砲門使用自由」
 沖田が命じた。
「了解! 全砲門を用いて、敵超大型ミサイルを迎撃します」
 古代は島に艦の向きを修正させ、全主砲をミサイルに指向できる位置につけた。続いて南部の方を見る。さすがに砲術専門だけあって、南部の動きは鮮やかだった。レーダーをはじめとする各種センサーから送られる射撃管制用のデータを、複雑な軌道計算式に放り込み、一つのデータを導き出していく。それにつれ、巨大な主砲が鎌首をもたげて獲物を狙う蛇のように動き、やがて一点を指して静止した。
その間に、古代は対艦ミサイルのデータをセットしていた。誘導データを火器管制システムに入力し、南部の方を振り向く。
「南部、砲雷同時攻撃をかけるぞ。ミサイルで奴の装甲を砕いて、砲撃で止めを刺す」
 南部が頷いたのを確認し、古代はミサイルの発射キーに手をかけた。
「発射!」
 キーを押し込むと、艦体側面に埋め込まれたランチャーから九七式対艦ミサイルが4発飛び出した。リニアモーターで宇宙空間に放り出されたミサイルが、ロケットモーターに点火し、<ヤマト>のレーダーの誘導を受けて目標めがけて飛んで行く。
「ミサイル着弾15秒前…主砲斉発までのカウントダウン、10よりスタート。10、9、8…」
 続いて、南部がカウントダウンを読み上げ始めた。全員が見守る中、南部はコンソールの引き金を引いた。
「主砲、全門斉発!」
 その瞬間、<ヤマト>はその生涯において、初めて9門の主砲全てを撃ち放った。その直前、古代の放ったミサイルがガミラスの大型ミサイルに着弾し、続けざまの爆発で分厚い装甲にひびを入れる。そこへ、0コンマ8秒遅れて9条のフェーザーが直撃。ミサイルを中世の悪名高い拷問道具「鉄の処女」の針のように万遍なく貫いた。
 次の瞬間、宇宙が白一色に輝いた。


地球 東京地下街区 地球防衛軍司令部

 ミサイルの大爆発は、その軌道を見守っていた防衛軍司令部でも観測されていた。異常を感知して自動的に光量を落としたスクリーンに目をやり、藤堂司令官は叫んだ。
「<ヤマト>は…<ヤマト>は無事なのか!?」
「わかりません! ミサイルの爆発により、光学系を除く全センサーがダウン。現在復旧を急いでいます」
 情報士官が報告する。ミサイルの巨大な爆発は安全圏内のはずの地球上の観測センサーにもダメージを与え、軌道上の偵察衛星などもシャットダウンに陥れていた。唯一無事な光学観測系も、今の所真っ白な映像以外送ってこない。
 もしや、今の爆発で<ヤマト>は沈んでしまったのではないか。あの大爆発からは何者も逃れられなかったのではないか。幕僚たちが思わず不吉な想像をしたその時、士官の一人がそれを見つけた。
「<ヤマト>…<ヤマト>です! 健在です!!」
 全員がスクリーンを注視した。爆発のピークが過ぎ、急激に輝きを失っていく白を背景に、その影がくっきりと映し出されていた。
「希望の艦が征く…」
 藤堂は呟いた。虹の環のようになった爆発の余波、その中心を貫いて、戦艦<ヤマト>が星の海を行く。盛大な号砲を打ち鳴らし、<ヤマト>とその戦士たちの長い戦いの旅が、今まさに始まろうとしていた。

(つづく)


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