SPACE BATTLESHIP "YAMATO" Private Edition
Prologue Rise of Fedaration Earth

宇宙戦艦ヤマト

第零部 地球連邦の勃興

序章「AD.2098〜2198の概観」

 西暦2276年現在、地球・東京メガロポリスを首都とし、太陽系、アルファ・ケンタウリ、バーナードなどを領有する地球連邦は、その原形を西暦2102年に成立した共和連盟に持ち、更にその原形は2098年に結成された反国連主義諸国の同盟に求める事が出来る。その成立の影には、常に深刻な外敵の脅威が存在した。
 21世紀半ばには地球上の政治的ブロックは国際連合(国連)を中心に緩やかに統合されていた。だが、その内実は一部の大国が国連を牛耳り、国連の名の元に世界を支配していると言っても過言ではなかった。具体的に言うならば、P5と呼ばれる安全保障理事会常任理事国…アメリカ、ロシア、中国、フランス、イギリスの五ヶ国である。
 歴史上に類似の例を求めるとすれば、神の名の元に全ての王権を圧倒した中世のヴァチカン、あるいは天皇の名を借りて自らの命令に権威を持たせた日本の平家政権などが挙げられよう。P5の中でも特に大きな国力を持つ米・露・中は国連の決定と称し、公然と他国に干渉していた。
 当然の事ながら、そうした一極支配に対しては反発者が現れる。その急先鋒となったのが、日本とドイツであった。彼らもかつてはP5体制への参加を求めていたが、それが認められないとわかるや、急速に反P5色を強めていた。
 日・独はかつてP5に敵対して敗れた歴史を持つが、その国力はP5諸国に匹敵していた。P5による支配を是としないが、自らはP5に抗し得ない諸国は日・独に接近し、P5支配体制からの脱却を図った。逆に、積極的にP5に荷担する事で利益を得ようとする諸国もあった。
 こうした状況下、21世紀末――2098年には反国連諸国による同盟が秘密裏に成立する。当時人類の最大事業は火星開拓であり、その主導権をP5に独占される事を阻止するのが目的であった。
 火星開拓――火星テラフォーミングはその基幹事業である運河建設が中立機関の火星運河公社の手で行われ、その西岸に国連諸国、東岸に反国連諸国が多く入植地を建設していた。北極にある極冠より5000キロ以上も伸びるこの運河は文字通り火星開拓の生命線であり、開拓者や大気改造・緑化プラント等に水を供給していた。
 この水利権を巡って紛争が勃発したのが2101年。当初、紛争は国連系ポンプ場の管理者殺害と言う些細な刑事事件から始まった。このポンプ場は協定に反して大出力のものが使われている可能性があり、査察団がポンプ場を訪れたのだが、口論の末ポンプ場側からの発砲をきっかけに銃撃戦となり、ポンプ場管理人が射殺された他、双方に十数名の負傷者を出した。
 これに対して国連派は犯人の引き渡しを要求。これが拒否されると、運河を越えて東岸地区へ侵入した国連系自警団が査察団員の自宅を襲撃し5名を射殺。これを機に対立は急激にエスカレートし、火星各地でテロの応酬が開始された。
 火星に対する緊急事態を宣言した国連のもと、アメリカを中心とするP5は独自に多国籍軍を編成し、火星に重武装の兵士を投入。これが反国連派の抗議行動を呼び、多国籍軍の発砲事件をきっかけに反国連派も軍事力を投入。事件は完全な紛争へ発展した。世に言う運河動乱である。
 紛争勃発から2ヶ月後、安保理で国連派に有利な裁定で講和が策定された事により、反国連派の態度は完全に硬化。2102年、反国連派は一斉に国連を脱退。97ヶ国がシンガポールに事務局を置く新組織共和連盟を成立させた。参加国は日独の他、中国を除くアジアの大半、アフリカの大半、南米の一部などで、ここに国連対連盟の冷戦構造が出現する事になる。
 その対立は、わずか10年で火を噴く。2112年、小惑星帯における鉱産資源利権を巡っての対立は国連軍艦艇による連盟軍艦艇の撃沈を皮切りに一挙に拡大。遂に全面戦争が始まったのだ。
 協定により火星表面での戦闘は起きなかったが、地球上と宇宙空間での戦闘は激化し、特に小惑星圏から地球に至る資源輸送ルートは両軍の活発な通商破壊活動によりほとんど封鎖状態となった。
 この間、火星では深刻な物資不足が発生し、地球との連絡ルートも切断され食料の不足は深刻だった。停戦監視委員会は地球の本国を無視して協定を結び、食料をはじめとする物資の共同生産や相互の融通を行う事と、厳しい配給制で辛うじて危機を乗り切るが、この結果火星市民としての一体感が次第に醸成される事になった。運河公社、停戦監視委員会などの火星の公的機関は2114年に火星臨時司政局を設立、火星船籍の艦船への攻撃を禁止する協定を交戦勢力に調印させる事に成功した。
 これにより火星の物資不足は解消し、さらに火星船舶による物資の輸送が開始され地球圏の戦闘は火星と言う補給基地を得て激化の一途を辿った。
 戦争は当初国連軍が押していたものの、P5の中で覇権主義的な他の4国と距離を置いていた英国と、英連邦諸国が連盟の外交工作により国連を離反した事で戦局は逆転。英連邦宇宙軍を加えた連盟軍は国連艦隊を撃滅し、制宙圏を奪取。軌道上からの攻撃で国連軍主要国の中枢部を破壊し、継戦能力を奪った。
 2118年、後に統合戦争と呼ばれたこの大戦の終結と共に、米・露・中三国は敗戦の衝撃による国内分裂により事実上崩壊。国連は歴史的役割を終えたとして解散し、生き残った国の大半が共和連盟へ合流した。
 この時、火星は戦時景気により自力でテラフォーミングを進行させており、戦争難民の流入により人口も十億に迫る発展を示していた。また、宇宙艦隊も整備を進めていた。この時点で火星は半独立国として歩み始めていたのである。
 しかし、地球側の意識は相変わらず火星を植民地としてみなしていた。共和連盟は戦災復興策を打ち出したが、それは資金面などを中心に火星に対して多大な負担を掛けるものであった。
 この地球の態度に対し、火星では反地球感情が一挙に燃え上がり、大規模なデモが続発。これに対し、連盟の派遣した治安維持部隊も容赦ない弾圧で臨んだため、地球・火星関係は極度に悪化した。
 2120年、共和連盟通商委員会が地球企業の保護を理由に火星産工業製品に100%の関税を掛ける事を一方的に宣言する挙に出た事で、遂に火星は独立、対地球開戦を決意する。
 2120年12月8日、火星臨時司政局は火星合衆国の独立と地球への宣戦布告を発表。その直後、月上空に待機中の共和連盟艦隊に隠密出撃していた火星艦隊が奇襲を加えた。
 この攻撃で地球軍は戦艦6隻を含む多数の艦を喪失。制宙圏は火星軍の手に握られた。火星艦隊は直ちに大規模な通商破壊戦を開始し、地球軌道上の食料生産衛星群を接収。地球への外惑星圏からの資源供給ルートを切断した。
 衛星軌道上、月の建艦ドックを失い、資源を断たれた地球は深刻な危機に陥った。それでも、地球の国力は火星の10倍以上あり、特に予備兵力と言う面では100倍に近い動員能力を有していた。厳しい配給政策で食糧危機を乗り切った共和連盟は開戦1年後、地上で再建した艦隊を衛星軌道上に打ち上げ、本格的な反撃を開始。2ヶ月で地球圏から火星艦隊を撤退させる事に成功した。
 しかし、外洋では依然として火星艦隊が優勢を保っており、地球側の反撃は困難だった。半年に及ぶ小競り合いの末、2212年、共和連盟は火星合衆国の独立を承認した。以後4分の3世紀、火星は地球最大のライバルとして存在する。
 一方、事実上の敗北を余儀なくされた地球=共和連盟は各国の寄り合い所帯で政策の統一性を欠いた事が敗因と分析し、新たに地球圏全体を統治する組織としての共和連盟の発展を求める声が挙がっていた。これを受け、市民投票の結果連邦制への移行を求める声が最大であったことから、共和連盟は連邦移行準備会を設置。連邦憲章の制定、連邦下における諸国の扱いなどを協議し、7年の準備期間を経て2230年、地球連邦を成立させた。火星合衆国と言う「外敵」の存在が、本来ならまとまりづらかったであろう地球諸国の統一意識の醸成を促したと言って良い。
 地球連邦は地球上の地域を7つに分けて自治州とし、その下の旧国家を自治区とした。7つの自治州は
「オシアナ(東南アジア・太平洋諸国)」
「大陸アジア(旧中国から中央アジア)」
「北米(カナダ・旧アメリカ・メキシコ)」
「南米(南米大陸+メキシコを除く中米・カリブ海地域)」
「アフリカ(アフリカ大陸及びその周辺諸島)」
「ユーロシア(欧州+ヨーロッパロシア)」
「インディアラブ(インドから中東地域)」
 であり、首都は共和連盟本部のあったシンガポールがどの州にも属さない特別市として設置された。
 さらに、連邦に直属し、内乱鎮圧、外敵撃破に当たる超国家軍事力として地球連邦軍(F.E.F)が建軍された。これとは別に各自治州は州兵軍を持つ事ができるが、連邦憲章第九条の規定により、有事の際には連邦軍の指揮下に置かれる。この総動員状態を「地球防衛軍(E.D.F)」とする事も定められた。
 こうして誕生した地球連邦は、ライバル火星合衆国と時には争い、時には合同しながら太陽系の開発に邁進していった。競争効果により促進された開発速度は、22世紀初頭には開発開始まで100年はかかると言われた冥王星までわずか40年で到達し、途中の惑星及びその衛星群には無数の開発基地が建設されていた。その間にはガリレオ衛星紛争、天王星紛争、第二アステロイドベルト紛争など、数次に渡る地域紛争も起きている。
 そして、2198年。第二小惑星帯開発の最前線として期待されていた冥王星基地が突然通信を断った。
 これこそが、人類がまさに存亡の危機に立たされた最大の戦争、ガミラス戦役の開幕を告げる静かなる号砲だったのである。 

第一部へ続く

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