※主人公の「長瀬ひろの」は魔法で女の子にされてしまった浩之ちゃんです。
前回までのあらすじ
葵をひろのに取られたと思い込み、2回に渡る襲撃をかけてきた葵の空手の先輩、坂下好恵。しかし、彼女は実は同性が好きな人であり、ターゲットのはずのひろのに心を奪われてしまう。かくして、エクストリームと空手の戦いは新たな局面―ひろのの身柄を賭けた葵VS好恵の勝負へと移行した。はたして、人外・好恵に対抗しなければならないひろのたちの運命は…
To Heart Outside Story
12人目の彼女
第九話
「女王の帰還」
エクストリーム部の本拠である東鳩高校の武道館。ひろのの身柄を賭けた好恵との試合に備え、葵は凄まじい特訓を続けていた。
「はああああああ!!」
葵の猛烈なラッシュがサンドバッグに叩き込まれる。その様子をひろのはビデオカメラで撮影しながらじっと見つめていた。やがて、ストップウォッチを手にした部員が「そこまで!」と号令を掛け、葵のラッシュは終わった。
「はあ、はあ…」
荒い息を付く葵にひろのは「ご苦労様」と言いながらタオルを掛けてやり、続いて撮影したばかりのビデオを回し始めた。スロー再生で葵のパンチの数を数えていく。
「一分間で188発。これなら好恵さんでもかわせないかもしれない」
ひろのが感心したように言った。葵は「自分は力を隠したりしていません」と言っていたが、さすがに綾香・好恵の妹弟子。その気になれば十分人外の領域に達する実力の持ち主だった。
「いえ、このままでは駄目です」
しかし、葵は決して満足してはいなかった。
「スピードと手数があっても、威力が無ければ好恵さんには通用しません」
「う〜ん…」
ひろのは考え込んだ。マルチの「爆熱ロケットぱんち」を受けとめた好恵の驚異的な防御力を考えれば、確かに葵の攻撃力不足は否めない。
それよりもひろのにとっての懸念は、葵に練習相手がいないと言う事だった。部員たちとではレベルが違い過ぎてまるで相手にならないのである。いろいろと練習メニューを工夫してできるだけ葵の力を引き出せる方法を考えては見るものの、実践的練習無しでは勝負勘はつかない。
「こうなったら道場破りでもするしか」
「それはやめましょう、ひろの先輩」
思わず邪悪なことを考えるひろのを葵がなだめる。
「綾香さんが帰ってくれば…練習相手にもなってくれるでしょうし、良い技も知っているかもしれないんですが」
葵が言った。綾香は彼女の目標でもある武道の先輩。今はアメリカ遠征中でありここにはいない。
しかし、運命の時は今まさに迫ろうとしていた。
その日、東鳩市郊外にある豪壮な来栖川邸は朝から天気が悪く、雷鳴が轟き渡っていた。上空の暗雲の中に時々稲妻が走りぬけている。
稲光に半身を照らされながら、同家の執事、セバスチャンこと長瀬源四郎はぶるぶると震えていた。雷が怖いと言う事ではない。彼に恐怖をもたらしているのは、その手に握られた手紙だった。
「か、帰ってこられる…あの方が…」
セバスチャンは絞り出すようにして言葉を発した。
「まずい…まずいぞ。このままでは…」
またしても雷光が閃き、決意に満ちた表情をしたセバスチャンの半身を照らし出す。
「ひろのが…危ない!」
所変わって、来栖川邸とは対照的な晴れ間の下にあるここは、隣町との境に近い場所に建つとある女子校。その名を西園寺女学院。通称を「寺女」と呼ぶ。
将来の良妻賢母を育成する、超名門お嬢様学校として知られるこの学校だが、今日はとある重要人物を迎える為、殆どの生徒が校門前に集結していた。なお、授業中のはずなのだが咎めるべき教師は存在しない。というより、いても何の力も持ってはいなかった。
「まだおいでにならないのかしら…」
「待ち遠しいわ…」
生徒たちがひそひそと話し合う。制服はYシャツとグリーンのプリーツスカートにレモンイエローのセーター。ネクタイの代わりの赤いリボンがアクセント。制服の可愛さでは東鳩高校と争うが、お嬢様学校にしてはスカートが短いのは、今からこの学校へやってくる人物の趣味であった。
やがて、前方にどよめきが発生した。一台の黒いリムジンが現れたのだ。リムジンはゆっくりと校門前に停車し、運転席から一人の人物が現れる。しかし、その人物は生徒たちさして変わらないような年頃の少女で、同じ制服を身にまとっていた。とてもリムジンを運転する人物のようには見えない。しかし、良く見ると耳のところから翼のようなアンテナカバーが生えており、彼女がマルチと同じメイドロボである事がわかる。メイドロボであるからには、運転技術を覚えるくらいはお手の物であった。
彼女はゆっくりと後部席に回ると、ドアを開けた。そこから一人の人物が現れた途端、黄色い歓声が辺りをどよもした。
「綾香様!綾香サマーっ!!」
「きゃーっ!!綾香様ーっ!!」
生徒たちが叫ぶ。その、「綾香様」と呼ばれる人物はゆっくりと立ちあがった。流れるような黒髪を持つ、しなやかな猫科の猛獣を連想させる美少女。雰囲気こそ異なるものの、東鳩高校の生徒で、その容姿を見る者がいれば、容易に芹香との血縁関係を読み取る事ができただろう。
来栖川綾香――この学校で教師より、理事長よりも人気と、何より実力、実権を持つ、まさに「女王」たる存在。そして、エクストリーム女子無差別級チャンピオンという、二つ目の女王としての王冠を持つ史上最強の少女でもある。彼女はエクストリーム北米大会の為に2ヶ月に及ぶ遠征を終え、今日学校に復帰したのであった。ちなみに試合の成績は21試合で21勝21KO。試合時間の合計は合わせて3分16秒。一試合平均10秒弱で対戦相手をマットに撃沈した事になる。
その対戦相手のほとんどが、彼女を身長でも体重でも1.5倍、最大で2.2倍は上回る怪物揃いであった事を見れば、綾香の人外ぶりもわかろうと言うものだ。
その綾香が出迎えた生徒たちにさっと右手を上げて挨拶すると、歓呼の声がどっと湧き起こり、それは一つの言葉に収束していった。
「ジーク、綾香様っ!ジーク、綾香様っ!!」
…って、何だかどこかの危ない国のようだ。こんな事で将来の良妻賢母は育つのだろうか。いや育つまい(反語形)。
沸き上がる「ジーク、綾香様」の声の中、最初に降りたメイドロボはどこからか取り出した赤絨毯を校庭から教室まで敷き詰めていた。
「どうぞ、綾香様」
「ご苦労様、セリオ」
どうやらセリオと言う名前らしいメイドロボを引き連れ、綾香は赤絨毯の上を威風堂々と進んだ。
「綾香様、家には戻られなかったのですか?」
取り巻き――綾香様親衛隊と名乗っているので、今後は親衛隊員の名を使用する――の一人が訊ねた。
「うん?飛行機の都合でね。もっと早ければ一旦家に帰っておじい様に挨拶したんだけど」
綾香は答えた。一日前はアメリカシリーズ最後の試合で、向こうのチャンピオンをかかと落し一発でリングに撃沈し、その足で飛行機に乗り込んだのである。普通なら一日休養を取るところだが、一応は学生である以上、あまり学校は休めない。それに、楽勝続きで休みを取ろうと考えるほどの疲れは感じていなかった。
「そうですか…では、私たちが手に入れた新しい情報はまだ価値がありますね」
親衛隊員Aはそう言うと、一枚の写真を綾香に差し出した。
「こ、これはっ!?」
綾香はその写真をひったくるようにして手に取り、じっと見つめた。そこには長い栗色の髪を大きなリボンで括った少女が写っていた。
言うまでもなく、ひろののブロマイドである。
「綾香様、よだれよだれ」
「はっ…!?」
親衛隊員Bの差し出したティッシュで無意識のうちに垂れていたよだれを拭い、綾香はあらためてひろのの写真を見る。
(…すっごく好み…可愛がりたい…)
好恵のライバルだけあって、綾香もかなりヤバイくらいに同性の好きな人間であった。何しろ、わざわざ寺女に入ったのも可愛い娘が多いと評判だからである。
「…でも、この制服姉さんの学校ね。そうなると無理矢理拉致って来る訳にも行かないけど」
さらりと恐ろしいセリフを口にした綾香に、親衛隊員Cがニヤリと笑いながら言った。
「それがですね…」
「…セバスチャンの遠縁の娘っ!?しかも同居してるですって!!??」
驚愕した綾香だが、次の瞬間邪悪な笑みを浮かべた。
「…そう。今晩が非常に楽しみね」
綾香は笑み崩れた顔のまま教室に入っていった。頭の中では既にピンク色の妄想が展開しているらしい。
葵が頼りにしていた綾香はひろのにとっても頼れる人物だと思っていたが、実はもっと危険な敵がもう一人現れただけのようであった…しかもごく身近に。
さて、その日の7時まで葵と特訓を続けたひろのは、校門の前でセバスチャンのリムジンを待っていた。本当は葵と夕食を取るつもりで、そのためにセバスチャンに電話して了解を取ろうと思ったのだが、電話に出たセバスチャンは「もう遅いから迎えに行く。夕食はとるな」と言って電話を切ったのである。仕方なく葵と別れ、待つ事15分。リムジンがやってきた。
「ひろの、乗りなさい」
運転席からセバスチャンに言われ、ひろのは助手席に乗り込んだ。シートベルトを付けるのを待ってセバスチャンは車を発進させた。
「どうしたの?おじいちゃん。もう夕食はじまってるでしょ」
ひろのはどこか厳しい顔付きのセバスチャンに訊ねた。来栖川家の夕食は7時からで、原則として遅刻は不許可である。
「今日はな…特別なのだ。芹香様の妹にあらせられる綾香様が、アメリカから帰って来られたのでな」
「…綾香様?」
どこかで聞いた名前だと思い、数秒後にそれを思い出してええっ!?と声を上げる。
「綾香さんって…その…エクストリームとかやってない?格闘技の」
セバスチャンはひろのの質問に頷いた。ひろのはあまりの展開に世の中って狭いなぁ、と思ってしまう。
「と言う訳で、今日は全員で綾香様のお帰りを迎えるから、普段より夕食を遅らせておる。服を早く着替えて食堂へ来るようにな」
「うん、わかった」
ひろのは頷いた。綾香が来栖川家の人間だと言うのには驚いたが、却って好都合だ。上手く頼めば、葵の特訓に付き合ってくれるかもしれない。しかしその時、セバスチャンが気になる一言を言った。
「ひろの…綾香様には気を付けるようにな」
「…え?おじいちゃん、それは…」
どういう事か、と聞こうとしたひろのの言葉を遮ってセバスチャンは言った。
「これ以上は…綾香様の名誉の為にも言えぬが…ともかく気を付けろ」
「…訳わかんないよ」
セバスチャンの謎めいた言葉に首を傾げつつ、ひろのを乗せたリムジンは来栖川邸に帰り着いた。
さて、制服から比較的大人しめの青いロングスカートに白のブラウスと言う服装に着替えたひろのは食堂に急いでやってきた。時間は7時53分。5分前までに席に付いていないと猛烈にお説教するロッテンマイヤーさんの脅威を辛うじて逃れうる時間だった。
やがて、すぐに芹香や厳彦氏も現れ、全員が起立して当主一家の登場を出迎えた。
「いや、みんな、待たせて悪かったな。今日は綾香がアメリカで見事な成績を収めて帰ってきためでたい日だ。皆で祝ってやってくれ」
出席者が拍手する。その拍手の中、厳彦の手招きに応じて綾香が入って来た。
(わ、芹香先輩そっくりだな。雰囲気はだいぶ違うけど)
ひろのは初めて見る綾香の姿を観察した。芹香の一歳年下と言う事だが、瞳にいたずらっ子を思わせる光がたたえられているところを除けば、双子と言っても通りそうなくらいに2人は良く似ていた。月並みな表現をすれば、綾香が太陽、芹香が月と言うところか。
「みんな、今日はありがとう。そして、ただいま。明日からまたよろしくね」
綾香が挨拶する。思っていたより軽いノリだ。
「それでは、綾香のアメリカシリーズ制覇を祝して…乾杯!」
厳彦の音頭で乾杯が行われ、和やかな雰囲気の中食事会が始まった。すると、さっそく綾香がひろのの所に近づいてきた。
「あなたがセバスチャンのところのひろのさん?」
「あ、はい。長瀬ひろのです。よろしく」
ひろのはぺこりと挨拶した。自分の方が背が高くて、どうしても見下ろすような感じになるのでちょっとやりにくい。
「さっき、おじい様が紹介してたけど…来栖川綾香よ。綾香様とか、綾香さんとか言う堅苦しい言い方は好きじゃないから、綾香って呼び捨てにしてくれて良いわよ」
(本当は「綾香お姉さま」って呼んで欲しいけど、それはいずれおいおい、ね…)
と言う本心は隠し、まずはフレンドリーな態度で迫る綾香。
「じゃあ、私の事もひろので良いよ」
ひろのは答えた。芹香に対しては「先輩」を付けるとは言えタメ口に近い言葉づかいで話すので、綾香もそれで言いのなら随分楽だからだ。
「んっ。じゃ、ひろの。よろしくね」
綾香は手を差し出した。握手を求めているのだと気が付き、ひろのもその手を握る。
「こちらこそよろしくね、綾香」
2人は握手を交わした。綾香はひろのの手を握ってその予想以上の手応えに驚いた。
(くぅ〜っ!すべすべなお肌!手でこれなら身体はもっと凄いわね。それに、顔は可愛い系なのに身体の方はしっかり成熟してるし、これは十年に一度の逸材だわっ!!せひともこの娘を我が物に…)
その瞬間、ひろのが見えないように綾香がニヤリと邪悪な笑みを浮かべた事には誰も気が付かなかった。
そこへ芹香も加わり、3人はしばらく談笑していた。美少女が3人集まると、それは華やかな雰囲気で、そこだけ別に光が当たったかのようである。ただ、魔術と格闘技が話題と言うところがちょっとノーマルではなかったが…
そして、ひろのは話していて、綾香が付き合いの良さそうな人柄である事に安心していた。
(良かった。これなら葵ちゃんの特訓相手を快く引き受けてくれそうだよ)
そう思い、綾香に話を持ち掛けようと口を開いたその瞬間、異変は起きた。
どくんっ!
突然、ひろのの身体の奥底に何かの衝撃が走った。
(な、なんだろう…今の)
そう思った瞬間、続けて二度、三度とその衝撃が身体を走り抜ける。身体が火照り、顔面が紅潮し、汗がじわっと滲み出る。
(あ…あぁ…な、何…この感覚…)
小刻みに震え始めた肩を自分で抱いた瞬間、全身に電気が走るような感覚がして、ひろのは膝を突いた。
「…(ひろのさん、どうしました?)」
芹香が驚いて訊ねてくるが、ひろのには答える余裕すらない。周囲の人々も異変を悟ってざわつき始める。
(あ…だめ…立ってられない。どうしちゃったんだ…?)
「ひろの…わ…」
綾香が何かを言いかけたその時、セバスチャンが現れた。
「ひろの!大丈夫か!?」
叫びながら、ひろのをお姫さま抱っこにして抱き上げる。
「ひうっ!?」
「げ…」
ひろのがセバスチャンに抱き上げられた瞬間、甲高い悲鳴をあげ、綾香は愕然としたような表情になった。
「ワシはひろのを休ませてきます。ではこれにて失礼!!」
足早に立ち去るセバスチャンと、彼に抱かれたひろの。綾香は呆然とそれを見送っていたが、やがて笑みを浮かべた。
「ま…いいか。効果さえ出ればこっちのものだし」
体調を崩したひろのを部屋に連れ帰ってきたセバスチャンは、ひろのをベッドに横たえた。全身から汗が噴き出し、顔も紅潮していかにも熱っぽい。とりあえずセバスチャンは水を洗面器に汲みに行くと、タオルをそれに浸した。そのままひろのの部屋に戻る。
「大丈夫か、ひろの…おわっ!?」
戻って来たセバスチャンは危うく洗面器を取り落としそうになった。
「暑い…」
そう言いながら、ひろのは上着を脱ぎ捨てていた。汗で濡れた素肌に髪が一筋張り付いてちょっとセクシーな雰囲気を漂わせている。
「な…なにしとるんじゃ、ひろの!服を着ないと風邪を引くぞ!!」
おろおろとセバスチャンがひろのの行動を制止するが、ひろのは意識が朦朧としているのか全然言う事を聞かない。スカートまで脱ぎ捨てて下着姿になる。慌てて目を背けたセバスチャンにもひろのの白い下着が目に焼き付いた。
「うう…暑い…暑いよ…助けて…おじいちゃん…」
「む…仕方が無い…」
とりあえず、セバスチャンはシーツを取ってひろのに被せた。そのままでは目に毒過ぎる。が、シーツがふわっとひろのの身体に触れた瞬間、彼女は身を捩った。
「ふあああぁぁぁっ!!」
悲鳴を上げてそのまま気を失ったように倒れ込む。セバスチャンは慌ててひろのに駆け寄ろうとして…ある事を思い出した。ひろのが綾香と握手していたのを。
「敏感になっている。ひょっとして…これは…」
セバスチャンはまだうわ言を言っているひろのにできるだけ刺激を与えないように、そっと手のひらを開かせた。そこに綾香の「気」が残留している事を読み取って、己の想像が正しかった事を知る。
「綾香お嬢様…いかに綾香お嬢様とは言えど、これは許しませぬぞ…」
低い声で唸ると、ひろのの身体に自分の「気」を送り込む。しばらくして、それまで苦しそうに「暑い…」を繰り返していたひろのの呼吸がだんだん安らかになり、やがて身体の熱も引いて行った。
「さて…」
セバスチャンはシーツにくるんだひろのを抱き上げ、自分の部屋に運ぶと、布団に寝かせた。そして、自分はひろのの部屋へ取って返す。
「ふむ…これで良い。我に迎撃の用意ありじゃ」
そう言うと、セバスチャンは部屋の真ん中の椅子にそっと腰を降ろした。
それから1時間後。
何故かほっかむりをした綾香が離れの廊下を歩いていた。完全に足音を消し、気配もできるだけ小さくしている。
「んふふ…そろそろ我慢できなくなっているはず…」
綾香が握手の時に送り込んだ「気」の効果で、ひろのは身体が火照ってどうしようもないはず。そこで綾香が黄金のテクニックを駆使してやれば、あっさりとひろのは綾香の元に陥落するはずだ。寺女で幾人もの女の子を手篭め(爆)にしてきた必殺技である。
「…っと、ここね」
扉に「Hirono's Room」と書かれたプレートの下がったドアを見つけ、そっと押し開ける。
しかし、そこにいたのは目を怒らせたセバスチャンだった。
「せ、セバスチャン!?何故ここにっ!?」
驚く綾香に、セバスチャンが地鳴りのような声で言った。
「お嬢様…気功の力を悪用されましたな…ワシに見抜けないと思われたのなら甘く見過ぎですぞ」
「むぅぅ…さすがね、セバスチャン」
綾香も唸った。一見風邪っぽい症状を起こさせるさっきの技は、看病の為に被害者を連れ出した後でおもむろに陥しにかかる技なので、セバスチャンに先にひろのを持って行かれた時点で失敗とは言えよう。しかし、あの技は解除不能なのだからセバスチャンさえ倒せばまだ機会はある。
「ひろのにかかった技は解いておきました。ワシの目の黒いうちはひろのには触れさせませぬぞ、綾香様。主に手を上げるは不本意です故、お退きくだされ」
「…え?」
綾香の目が丸くなった。
「ちょっと待って、セバスチャン。解除したって、どうやって?」
「わしの気を送り込んで綾香様の気と相殺しました。今はぐっすりと眠っております」
「おかしいわね」
綾香は言った。
「あの技は、気だけ消しても効果は残るのよ。それなのに、何故…」
綾香には知るよしも無い事だが、ひろのが元男と言うのが幸いした。生まれつき女だったら、多分抵抗不能だっただろう。男の因子が残っている為に、綾香の技の掛かり具合が不完全だったのだ。
「まぁ良いわ。こうなったらセバスチャン、貴方を倒してもう一度やるだけよ」
「む…ひろののためなら、綾香様と言えど容赦はしませぬぞ」
2人の格闘家は構えを取って相手を牽制しはじめた。
「一度…セバスチャンとは本気で戦ってみたかったのよ」
「綾香様の成長…ワシがこの拳で見極めて進ぜよう」
格闘家の性と言うか宿命と言うか…向き合ったその瞬間から、2人ともひろのの事はすっぱり忘れ、相手を倒す事に専念しようとしていた。
やがて、夜の離れに拳の激突する音が響き渡った。
射し込む朝日とスズメの鳴き声で、ひろのは目を覚ました。
「う…う〜ん…あれ?ここは…」
目を開けた瞬間、部屋の雰囲気がいつもと違っている事にひろのは気が付いた。和風の部屋の中には、鎧や刀などの武具に混じって、水墨画の掛け軸や「風林火山」」などと書かれた額などが飾られている。
「…おじいちゃんの部屋?なんで俺こんな所で寝ているんだろう」
ひろのは記憶をたどったが、途中から記憶がすっぽりと抜け落ちている事に気が付いて首を傾げる。
「…ともかくおじいちゃんに話を聞く…え?」
上半身を起こしてみて、初めてひろのは自分が下着だけの姿である事に気が付いた。
「え?ええぇ!?わっ、わわっ!?な、なんでこんな格好で…お、おじいちゃん!おじいちゃんっ!?いるんだったら返事してよ!!」
すると、隣の部屋からセバスチャンが顔を出した。
「おお、起きたか、ひろの」
「起きたかじゃないよ!なんで、私下着姿なのっ!?」
すると、セバスチャンは肩を竦めて言った。
「お前…夕べの食事会で酒を飲んだじゃろう。酔っ払って気分の悪くなったお前を連れて帰ったんじゃよ。それで、お前があんまり『暑い』とうわ言を言うんで仕方なく…な」
まさか「綾香に手篭めにされかけた」などとは言えないセバスチャンは適当な言い訳をでっち上げた。それを聞いたひろのは真っ赤になって身を縮こまらせながらぼそりと言った。
「おじいちゃんの…えっち」
「す、すまん」
セバスチャンは慌てて謝ったが、心の中では理不尽な気持ちでいっぱいだった。
(くっ…これもみんな綾香様のわがままのせいではないか。恨みますぞ、綾香様。しかし…)
セバスチャンはまだ赤面しているひろのにそっと目をやって考え込んだ。
(今日のひろの…いつもより女っぽくないか?)
やがて、朝食に出たひろのが綾香と再開した時、セバスチャンは自分の感じた事が正しかった事を知った。
「お、おはよう…ひろの」
おずおずと挨拶する綾香。昨夜、セバスチャンと戦った彼女だが、ひろのを守る為に獅子と化したセバスチャンを倒す事はかなわず、それどころか慌てて逃げざるを得なかった。ひょっとしてひろのがセバスチャンから何か聞いていないかと思っての、その慎重な態度だった。
「あ、おはよう、綾香」
ひろのはにっこりと無意識の必殺技「1000万ドルの笑顔」を発動させた。その威力に綾香はのけぞる。
(き、効いたわ。今のは…でも、この分だと何も聞いていないようね。それどころか、技の効果がまだ残っているわ)
そう、ひろのが何時もより女の子らしいのは、昨日綾香に受けた手篭め技の効果がまだ残っているからだった。そう悟った綾香は、素早く態度を通常モードに切り替え、にこやかにひろのに話しかけた。
「いつもこの時間?早いのね。何か部活でもしてるの?」
その言葉にひろのはこくりと頷いた。
「うん。実はエクストリーム部なの。今日は朝練なんだけど…」
今度は綾香が驚く番だった。
「え?ひろのってエクストリーマーだったの?そうは見えないけど…」
「あ、違うよ。私はただのマネージャー。それでね、綾香にお願いがあるんだけど…」
ひろのは話がエクストリームに及んだ事を幸いに、葵と好恵の勝負の事を話した。そして、葵の練習相手になって欲しいと言う事も。
(好恵の奴めぇ…葵だけじゃなくてひろのにも目を付けていたなんて…いざとなったら私自ら出て滅殺する事も思案のうちね)
物騒な事を考える綾香。そんな彼女の内心に気づくはずも無く、ひろのはお願いをした。
「その…チャンピオンともなれば自分の事で忙しいだろうな、って言う事は分かるんだけど、お願い」
ひろのに頭を下げられ、綾香は慌ててひろのの頭を上げさせた。そして、どんっと胸を叩いてみせる。
「なーに、だいじょうぶよっ!忙しくなんてぜんぜんないんだから。いつまでだって練習に付き合ってあげるわよ」
大嘘である。本当は自分の練習や、格闘雑誌の取材などもあったのだが、この瞬間に全部すっぽかす事を綾香は1ミリ秒で決断した。
「ほんとうっ!?ありがとう、綾香!!」
喜ぶひろのに、綾香が一瞬邪悪な微笑みを浮かべて話を切り出した。
「ただし!一応お礼は欲しいな」
その言葉に、ひろのは首を傾げた。
「…お礼?」
「うん。なになに、簡単な事よ。私と一日付き合ってくれればオッケーよん」
その瞬間セバスチャンが豪快にコーヒーを吹き出し、その茶褐色の香ばしい霧は向かいに座っていたロッテンマイヤーさんを直撃した。
「きゃああぁぁぁぁ!!何するざますかぁぁぁぁっっ!!」
「おわぁあ、す、済まんっ!!」
これにより、セバスチャンはひろのを止める機会を失った。
「なんだ、そんな事か。もちろん良いよ」
「おっけ。それじゃあ、今日の放課後から練習に行くわね」
綾香はビシッと親指を立てて成功を祝った。技の効果はまだしばらくは続くだろう。
(んふふ…その間にデートに持ち込みさえすれば…ひろのちゃんを手篭めにするチャンスはいくらでも存在するってものよん)
綾香は上機嫌で朝食を食べている。一方のひろのには、それがデートである意識はもちろん、貞操の危機であると言う意識すらない。さすがのひろのにも、好恵に続いて綾香までアレな趣味である事は想像の範囲外であった。
一方、深刻な危機感を抱いているのはセバスチャンであった。
(ま、まずい…まずいぞ。ひろのを綾香様と2人きりにするなど…魚と猫を一つの箱に入れるようなものだ)
もちろん、この場合の魚はひろののことで、綾香が猫だ。
(何とかしてひろのを守らねば…)
セバスチャンが当日になって何をするかはまた別のお話である。綾香との約束を取り付けたひろのはにこにこしながら学校に向かい、綾香もまたセリオに運転させて寺女へ向かった。
さて、時間は進んで放課後。場所はエクストリーム部の活動している武道館である。
「今日は、葵ちゃんのために助っ人を呼んできたよ」
事前ミーティングでひろのは言った。助っ人?と言うみんなの視線を受け、そっと入り口に手を伸ばす。
「待ってたよ、綾香」
ひろのが手を上げて挨拶し、その視線の先にいる人間を見て、部員一同が息を呑んだ。
「約束通り来たわよ」
そう言ってウィンクする綾香に、武道館は騒然となった。
「く、来栖川綾香っ!?常勝不敗のエクストリームのヒロイン!!マジですか!?」
「おおうっ…生で本物を見られるとは…生きてて良かった…!」
「さ、サイン下さい!!」
部員たちが口々に綾香を歓迎する中、久々に出会う敬愛する先輩を、葵は口をあんぐり開けて見ていた。そこへ、綾香がゆっくりと進み出る。
「あ、綾香さん…」
「お久しぶり、葵」
会話が続かず、し〜ん…と言う沈黙が流れる。それを破ったのは、綾香の弾けるような笑い声だった。
「な〜にぼっとしてるのよ、葵!好恵と戦う為に特訓するんでしょ?早く始めるわよ!」
「は…はいっ!!」
ひろのと葵と綾香。この3人の関係が良く分からない部員たちは、一体どうなっているのかと首を捻る。そこで、ひろのは綾香と葵が姉妹弟子である事を話して、その縁で特訓の臨時コーチを引き受けてもらった事を話した。
「なるほど…そう言う事っすか。しかし…」
部員がひろのの背後をちらちらと見ている。
「どうしたの?」
ひろのがそのさまよう視線を追っていくと、背後では凄まじい光景が展開されていた。
綾香と葵の腕が消えている…と言うより、一般人には見えないような、そんなものすごい速度で動いていた。
「踏み込みが甘い!もう少し腰を入れて!」
「は、はいっ!!」
秒間数発と言う速度で打ち合わされる技の数々が、マシンガンの一斉射撃のような轟音を立てて繰り出されていた。
「すごいね…」
「…ええ」
何時もの事だが、何かが間違っていると思わずにはいられないひろのと部員一同だった。
やがて日が暮れ、部員たちはそれぞれのノルマをこなして帰宅し、武道館にはひろの、葵、綾香だけが残っていた。
「はあ、はあ…あ、ありがとうございました…」
完全に息が上がっている葵に対して、綾香は涼しい顔をしている。
「ま、一日目はこんなものかしら。明日、明後日で一気に仕上げるわよ」
「は、はいっ!!」
何とか元気を振り絞って返事をする葵に、ひろのはタオルと良く冷やしたスポーツドリンクを手渡してやる。へたり込んでスポーツドリンクを飲む葵の姿に微笑しながら、ひろのは綾香に礼を言った。
「ありがとう、綾香」
「ううん。全然問題なしよ。それにしても、さすがは私の妹弟子。私の30%に付いてくるとはね」
「…30%?」
「全力の」
30%しか力を出していなくて、あの人外な動き。100%ならどうなるのか。ひろのには怖くて想像も付かなければ聞く事もできなかった。
「参考までに、好恵さんは何%?」
「…70〜80くらいかな。だいぶ頑張っているみたいだから、90%行ってるかも」
「…だめじゃない」
ひろのは溜息を付いた。仮に葵が30%だとしても、半分にもならない。
「後二日で10%ずつ力を引き出しても…ようやく50%。確かにちょっと辛いわね」
綾香も今のままでは勝ち目が薄い事を認めた。
「となると…技でカバーするしかないわね。葵!」
綾香はタオルで汗を拭っている葵を呼んだ。
「な、なんでしょうか?」
急いで傍にやってきた葵に、綾香は微笑むと立ちあがる。
「良い技を見せてあげるわ。ひろの、ちょっと手伝って」
「…わたしが?」
訳が分からないながらもひろのが立ち上がると、綾香は葵をぴったりとひろのの背中にくっつけさせた。
「そのままじっとしててね…はっ!!」
綾香がひろののお腹に手を当てて気合いを込めると、ひろのは何も感じなかったのに背後の葵が吹っ飛ばされた。
「え?ええっ!?」
戸惑うひろの。そして、吹っ飛ばされた葵は技の正体を知って立ち上がった。
「今のはまさか…通背拳!?」
葵の叫んだ技の名前に綾香は頷いた。
「そうよ。この技なら、好恵がガードしてもそのガードの上からダメージを与えられるわ。打撃の威力に劣る葵には役立つはずよ」
通背拳。背中に通る拳と書かれている通り、目標と打撃点の間の物体に「気」を貫通させて目標にだけダメージを与える技である。
「覚えてみる?」
その言葉に葵は頷いた。
「もちろんです!是非教えて下さい!!」
「では…」
と、綾香はひろのをサンドバッグの前に立たせ、背中をくっつけた。
「今から手本を見せるから、見て覚えなさい。『気』の練り方は前に教えたからできるわね?」
「はい、大丈夫です」
葵が頷くと、綾香はおもむろにひろのの胸に手を当てて気合いを込めた。
「やっ!」
「ひゃうっ!?」
最初の声は綾香の発気の声で、次はひろのが胸を押されて…と言うより、揉まれてあげた悲鳴である。だが、技はちゃんと発動してサンドバッグが「どん」と音を立てて揺れた。間を置かず、綾香は二発目を撃つ。
「はっ!」
「はうんっ!!」
どんっ!!サンドバッグが揺れる。続けて三発。
「たっ!」
「や…っ!?あ、綾香…もう、やめ…」
だんっ!!
3回目の通背拳の後、ダメージを受けていないはずのひろのの体が脱力して崩れ落ちた。
「あ、綾香…胸は勘弁して、胸は…」
「そう?高さがちょうど良かったから…ごめんね」
切れ切れに言うひろのに綾香は一応謝ったが、顔に微笑を浮かべたまま指をわきわきさせてひろのの胸の感触を回想していた。
(うむむ…Eカップは有りそうね。形も弾力も感度も申し分なし。やっぱり好恵には渡せないわね)
危険極まりない事を考えて自分に気合いを入れた綾香は、今度は自分がサンドバッグを背にした。
「じゃあ、次は葵の番よ。失敗すると事だから、間には私が入るわ。思い切って突いてらっしゃい」
その言葉に、自信が無い葵は思わず泣きそうな顔になる。
「え?で、でも…失敗したら綾香さんにダメージが…」
「大丈夫よ。私はエクストリームで打たれ慣れているからね。失敗してもダメージを最小限に抑える訓練はしているわ」
そう言って、葵を手招きする。葵はやや逡巡したが、やがて覚悟を決めて綾香の前に立った。
「…行きます」
「おっけ、来なさい」
「はぁっ!!」
どんっ!!と言う音が武道館にこだました。
二十分後、ひろのと綾香は来栖川邸へ向かうリムジンに乗っていた。綾香はごろんと寝転がって、ひろのに膝枕してもらっていた。
「綾香…大丈夫?」
気遣うひろのに綾香はパタパタと手を振って心配ない事を告げた。
「いやぁ…まさか、本気で来るとは思わなかったわ」
そう言う綾香の額は赤くなり、濡らしたひろののハンカチで冷やされていた。
結果から言うと、葵の通背拳は成功した。
「やったじゃない、葵!!」
自分には衝撃がほとんど伝わらなかったのに、サンドバッグが揺れた事を感じて、綾香は葵の手を取って喜んだ。
「は、はい!綾香さんのおかげです!!」
葵も喜ぶ。だが、この時何事も全力の葵らしく、サンドバッグは天井にまで届くほど大きく揺れていた事を綾香は忘れていた。振り子の原理で戻って来たサンドバッグが、油断していた綾香の後頭部に炸裂する。
どごむっ!
「!?」
べちっ!!
そして、綾香は額から床に倒された。お茶目ではあったが、なかなかにみっともない綾香の失敗であった。額の赤みはその時のダメージである。
「まぁ…これで好恵とのハンデはだいぶ縮まるはずよ。9対1で不利だったのが、明日、明後日の頑張り次第では7対3くらいまでは縮まるかもね」
そう言って綾香はクスリと笑う。
「う〜ん…でも心配だな」
ひろのはそう楽観的にはなれなかった。何と言っても懸かっているのは自分の身柄である。
「大丈夫。葵はきっとひろのを守る為に頑張るから、気合次第ではもっと差は無くなるかもしれないわよ。それに…」
「それに?」
「ううん、なんでもない」
綾香は口をつぐんだ。さすがに、「それに、いざとなったら私がその場で好恵を仕留めてすべてを無かった事にするから」とは公言できなかった。
「あとは、ひろのがどこまで葵を信じてあげられるか、よ。お姫さまが心配顔じゃ戦う騎士様だって安心して戦えないわよ」
この場合、お姫さまも騎士も女の子という点がちょっと引っかかるが、ひろのは素直に頷いた。
「そうだね…」
「そうそう。大丈夫。葵は心の強い子だからきっと勝つ。そう信じてやらないと」
綾香は笑った。一見、最も我欲に忠実に行動する彼女が一番真っ当な事を言っているが、まぁ得てして世の中とはそう言うものである。
決戦まで、後3日。
勝利の女神の微笑む先はまだ見えていない。
(つづく)
次回予告
遂に決戦当日。一週間で格段のレベルアップを遂げた葵。しかし、その努力をもってしても、好恵は越えられない壁なのか。倒れ伏す葵。ひろのの絶叫。神社の境内は今、熱狂の戦場と化す。果たして勝負の行方は…
次回、第十話
「決戦!裏の神社」
お楽しみに。
予告と本編の差を云々する、そんな人嫌いです。
後書き代わりの座談会・その9
作者(以下作)「またアブない奴を出してしまった…」
ひろの(以下ひ)「そんなの毎度の事でしょ」
作「否定はできんな」
ひ「それにしても…綾香は凄いね。私から見ると葵ちゃんや好恵さんだけでも十分に凄いんだけど」
作「まぁ…私の中のエクストリームのイメージって天下一武道会(byドラゴ○ボール)に近いし」
ひ「それはまた古いネタね」
作「…?」
ひ「どうしたの?」
作「なんか、お前今日ちょっと可愛らしくないか?一人称とか<私>だし」
ひ「(赤面)…な、何言ってんのよ…」
作(あ…そうか。ここでも綾香の手篭め技の効果がまだ続いているのか)
ひ「何よ、黙っちゃって」
作「…いや、たまには良いがこのままだとあんまり面白くないな」
ひ「…何が?」
作「何でもない。独り言だ。しかし、心まで操る気功とはまたデタラメなものを出してしまった。まぁ、この話自体がデタラメだから問題あるまい」
ひ「…大丈夫?なんだか、今日独り言が多いんじゃない?(上目使いで覗き込む)」
作「…大丈夫だ。それより、今日はおごるからゆっくりしていくと良い。じゃあな…」
ひ「…良いの?って、もう出ていっちゃったか。変なの」
作(…落ち着け俺。あれは男だ。今は女だけど男なんだ。そう設定した自分があれを可愛いと思ってどうする…)
収録場所:某アイス店にて
前の話へ 戻る 次の話へ