このお話は、すっかりかわいらしくなった一人の女の子と、すっかり骨抜きにされてしまった彼女の友人知人たちの織り成す物語です。

To Heart Outside Story

12人目の彼女

第四十三話「危険な初詣」



 大晦日の夜、東鳩市某所にある藤田邸は久々に揃った家族の団欒で温もっていた。もっとも、家族の一人はかつてとは全く違った存在になっていたのだが……
 それでも、彼らは間違いなく愛情と血で繋がった家族であり、年末年始を水入らずで過ごそうとしていた。今も母親の千尋が年越しそばを準備している横で、父親の浩明と娘のひろのは熱心にテレビに見入っていた。
『おーっとぉ、ここで女王の強烈なローリング・ソバットぉ!! メガール選手の顎にまともに決まりましたぁ!! メガールの200キロの巨体が、朽ちた大木のように崩れ落ちる!! 今レフェリーがカウントを……いや、手を振っています!! KO!! KO!! 女王来栖川綾香強し!! 大晦日の最終戦も一撃必殺だぁ!!』
 日本人らしく紅白歌合戦と思いきや、「エクストリーム・マキシマム200Xファイナルバウト」の実況中継だった。まあ、友人が出場しているので、注目するのは当然である。
「ほぉ、あの娘たいしたもんだな……あの大人しそうな来栖川のお嬢さんの妹とは思えん」
 浩明が感心する。セバスチャンと互角の強さを持つ人外の野獣が、強さと言う点で人を誉めるのは珍しい。
「世界チャンピオンだからね、綾香は」
 ひろのが答えた。やはり、仲のいい友人の功績は誇らしいものだ。リングではKOされた対戦相手の巨体が運び出され、綾香へのインタビューが始まっている。彼女はここ数日、この大会に掛かりっきりになっていて、屋敷にも帰っていなかったが、正月には戻ってくるだろう。
 父娘がそんな会話をしていると、年越しそばを茹で上げた千尋がダイニングに入ってきた。
「はい、おそばができましたよ」
「おう、いただこうか」
「いただきます」
 チャンネルが切り替えられ、「行く年来る年」がしんみりと年末年始の情景を伝える中、三人は年越しそばをすすった。食べながら、千尋はひろのにたずねた。
「ひろの、明日の待ち合わせは何時なの?」
「10時だよ。場所は東鳩神社」
 ひろのは答えた。元旦の、友人たちとの初詣の話である。一緒に来るのは来栖川姉妹、あかり、志保などおなじみのメンバーだ。
「ん? 俺たちとは行かないのか?」
 娘が付き合ってくれない事に、浩明は拗ねた。
「う、うん……本当は父さんと一緒に行きたいけど……先にみんなと約束しちゃったから。その代わり、二日は一緒に行こうね」
 ひろのは父親を宥めるようににっこりと笑った。
「お、おう……そうだな」
 浩明が巌のような顔をほころばせる。女の子になった頃は、計算ずくで女の武器を使っていたひろのだが、今や自然に使いこなせるようになっている所が恐ろしい。
「うーん……そうすると、9時ごろ家を出る感じかしら。じゃあ、明日は7時には起きなさいね」
 千尋が言った。浩明が不思議そうな顔をする。
「9時に出るのに7時起き? ちょっと早過ぎんか、それ」
 浩明の疑問に、千尋とひろのは顔を見合わせると、にっこり笑って声を揃えて言った。
「何でそうかは、明日のお楽しみ♪」

 元旦の朝は、抜けるような日本晴れだった。東鳩市からも雪を被った富士山や丹沢の山々がはっきりと見え、日本アルプスの辺りにいるような良い光景だった。
 そんな東鳩市の中心部に程近い場所にあるのが、街で一番大きな宗教施設、東鳩神社である。街の名前をそのまま持つこの神社は、普段は市民の憩いの場、そして正月には初詣のメッカだ。そこにひろのと待ち合わせる来栖川姉妹の姿があった。
「いやぁ、いい初詣日和になったものねぇ」
 綾香がそんな風にのんびりと発した言葉に、芹香がこくこくと頷く。
「もっとも、ひろのが正月家にいない、って言うのは予想外だったわね」
 芹香がまたしてもこくこくと頷く。ちなみに、ひろのが家にいない理由については、両親が訪ねてきたので、そっちと合流したと説明してある。
 そんな来栖川姉妹がいる場所は、神社の石段を上がって少し行った鳥居の横だ。今もぞろぞろと初詣客が二人の前を通過していく。
「……」
 そろそろでしょうか、と芹香が言うと、ひろのの声が聞こえてきた。
「せんぱ〜い、綾香〜! 待ったぁ〜!?」
「あ、ひろのー! こっちよー!!」
 綾香は叫んだ。人ごみの中に、ひろのの頭が見え隠れしている。流れをなかなか掻き分けられずに苦労しているようだ。苦笑した綾香と芹香だったが、ようやく目の前にやってきたひろのを見て仰天した。
「ひ、ひろの……それ……」
「あけましておめでとう、先輩、綾香。どう、似合うかな?」
 少し照れているのか、頬を赤く染めて言うひろのが着ているのは、色鮮やかな晴れ着だった。淡い赤紫から紺色にグラデーションする地に、冬の花々が散らされている。
「……」
「え? すごく可愛いです? ありがとう、先輩。これ、母さんのお古なんですけどね」
 芹香の誉め言葉に、嬉しそうに微笑みながら、ひろのは言った。年が変わる直前に千尋が言っていたのは、この晴れ着を出してひろのに着付けをする事だった。千尋は祖母に、ひろのもロッテンマイヤーに厳しく着付けを教えられただけの事はあって、そう戸惑う事も無く着付けは完了した。
 なお、ひろのが晴れ着を着て出てくると、浩明は軽く五分ほど硬直した後、おもむろに千尋にカメラを取ってこさせ、娘と記念写真を撮ったものである。
「あーあ、みんなひろのに注目しちゃって。まぁ、さすがに無理も無いか」
「そうだね。仕方ないよ」
 そう言いながら、ひろのと一緒にやってきていた志保とあかりが出てくる。二人は普段着のままだ。
「あたしも晴れ着着て来れば良かったかな」
 その志保の言葉に、ひろのとあかりが驚く。
「「え、志保、晴れ着持ってたの?」」
 異口同音に尋ねてくる親友二人に、志保はにやっと笑って見せた。
「いや、無いんだけどね」
 がく、とずっこけるひろのとあかり。
「でも、そうやってひろのを見てると、そういうのに憧れは持つわね」
 普段はミニスカートなど動きやすい服装を好み、今時の女子高生の一典型と言って良い志保も、やはり女の子。晴れ着には憧れがあるようだ。
「うん、でも、晴れ着って高いしね」
 あかりが言う。確かに、彼女たちは成人式までは、なかなか晴れ着を着る機会など無いに違いない。
「そう言えば、レミィは持ってるらしいよ」
 志保が思い出したように言うと、綾香が驚いた。
「レミィって、あのハーフの娘でしょ? ちょっと意外ねぇ…」
「そうでもないよ。レミィのお母さんは有名な着付けの先生らしいし」
 ひろのはレミィの情報をフォローした。残念ながら、彼女の一家はアメリカの父親の実家に里帰りしていて、この正月は日本にいない。他にも帰省している友人たちは多く、東鳩市に残っている者の方が少数派だった。
「ちょっとレミィの着物姿は見てみたいわね。でも、ちゃんとあの身体が着物に納まるかしら?」
 志保はそう言ってから、すぐ側に良い実例がいる事を思い出して笑った。
「大丈夫か。ひろのがちゃんと着られるんだもんね」
 そう言うと、志保はひろのの胸をぽふぽふと叩いた。
「や、やめてよ志保」
 ひろのが赤くなって胸を抑える。とは言え、さすがにひろのの巨乳も、着物の上からではあまり目立たず、おとなしいものだ。
「まぁ、これで全員揃ったわね。じゃあ、早速お参りしましょうか」
 綾香が言うと。ひろのが首を横に振った。
「ううん、後一人いるよ」
「え?」
 誰それ、と綾香が言うより早く、正月の爽やかな空気にふさわしい、爽やかな声が聞こえてきた。
「あけましておめでとう、長瀬さん」
 その声に、ひろのはさっき志保に胸を触られたのとはまた違った意味で顔を赤らめ、声の主の方に振り返った。
「あけましておめでとう……雅史君」
 相手は雅史だった。雅史はひろのの装いを見ると、感に堪えない、と言った感じで頷いた。
「その……すごく綺麗だよ、長瀬さん」
「うん、ありがとう」
 来栖川姉妹に誉められた時よりも何時よりも、嬉しそうな表情を見せるひろの。彼女は笑いながらも、手を袖から出して、雅史に見せる。クリスマスの夜に彼から贈られた手袋をしているのを見て、雅史も嬉しそうに頷いた。綾香はその反応に愕然とするものを覚えた。
(こ、この二人の反応は……まさかっ!?)
 そう、まるで恋人同士……と言うかそのものだ。
(ちっ、抜かったわ……この奥手同士の二人なら、そう簡単にくっつかないと予測していたのに!)
 綾香は悔しさに歯噛みした。が、いやしかし、とすぐに気持ちを切り替える。
(でも、まださん付け、君付けなのよね…付け入る隙は残っていると見たわ)
 決してあきらめないしぶとさこそ、彼女の身上である。綾香は本心をにこやかな笑みで隠すと、雅史に年賀の挨拶をした。

 一方、そこから少し離れた神社の森の中では、こっそり後を付いてきた浩明が、怒りに地団太を踏みそうになっていた。
「おおお〜〜〜、ひろのぉ〜〜〜、いかんぞ、それはいかんぞ! 例え雅史君でもお前はやらんぞぉ〜〜〜!!」
 この数日間、美少女と化した息子と暮らしただけで、すっかりドーターコンプレックスのダメ父親になってしまった浩明は唸るように言った。今地団太を踏んだら衝撃で周囲の木を薙ぎ倒してしまいそうなので、それは必死に我慢している浩明だったが、独り言が漏れるのは我慢できなかった。
「おおお〜〜〜、ひろのぉ〜〜〜、いかんぞ、それはいかんぞ! あんな小僧にはお前はやらんぞぉ〜〜〜!!」
 すると、横で似たような唸り声が聞こえて来た。浩明がそっちを見ると、そこには全く同じようなポーズで何かを我慢しているセバスチャンの姿があった。
「爺さん、あんた何やってんだ」
「無論、愛しい孫娘が餓えた狼にさらわれぬよう、見張っておるのじゃ」
 浩明の問いにセバスチャンは胸を張った。
「だから、誰があんたの孫娘だ。ひろのは俺の娘だ!!」
 浩明は叫び、二人は睨みあった。まさに一触即発、数日前に来栖川先進メディカルセンターを壊滅寸前に追い込んだ死闘の再現かと思われた。しかし、二人はどちらからとも無く戦気を緩め、ふうとため息をついた。
「よそう…俺たちが争っても何の益にもならん」
「うむ…お主の申す通りじゃな」
 二人はそう言ってひろのたちの様子を見た。6人は参拝客たちの列に戻り、順番が回ってくるのを待っていた。その中でひろのと雅史はしっかり隣同士をキープして、照れくさそうに頬を赤らめつつも、楽しそうに談笑している。ひろのの笑顔は、まさに恋する乙女オーラによって輝くばかりで、(過)保護者たちとしては、真に面白くない光景だ。
「おのれ小僧、調子に乗りおって…今に見ておれよ」
「くっ、父親の俺でさえあんな笑顔は向けられた事が無いのに…」
 セバスチャンの唸り声に浩明が答える。向けられた事が無いも何も、それは恋人向けの笑顔なのだから、浩明に向けられるはずが無い。
 しかし、これによって二人の怒れる男たちは、お互いの共通の利益を見出した。
「爺さん、どうやら俺たちは同じ目的に向かって動けると思うんだが」
「奇遇じゃの。ワシも今同じ事を考えておったわ」
 浩明とセバスチャンは顔を見合わせて頷いた。しかし、握手などで具体的に協力を約そうという仕草は見せなかった。
 そこまで馴れ合うつもりは無い、と言う事らしい。しかし、二人は息の合った動きで、林の中を音も無く移動して行った。

 一方、綾香もまた、ひろののハートを取り戻す…と言っても、ひろのの心が彼女の物になった事は一度も無いのだが…ために、雅史を打倒せねばならない、と心に誓っていた。
 何しろ、合流してからと言うものの、ひろのはずっと雅史と話しているのである。二人の仲を容認するらしいあかりと芹香もまた、何か話しており、綾香の話し相手は志保になっていた。
「まったくもう、見てるこっちが恥ずかしくなっちゃうわよねー」
 志保が言う。もちろん、ひろのと雅史の事だ。彼女はクラスメイトとして二人がお互いに好意を持っている事は察していたが、さすがにここまで仲が急接近する事は、予測の範囲外だったらしい。
 そして、彼女も一人身ということもあって、二人の事をやっかみ半分、祝福半分と言った感じで話していたのだった。
「まぁ、いずれはああなるだろうって予測はしてたけどさぁ、さすがに目の前で見せつけられると、羨ましいと言うか、空気読めと言うか…」
「そうね…」
 綾香は志保の言葉に生返事をしながら、頭の中でどうやって二人の仲を引き裂くかを考えていた。とは言え、その達成は以前よりも遥かに困難である。前にひろのと雅史がデートをした時、綾香にはその邪魔をするための部下として、セリオと圭子の二人がいた。しかし、圭子は現在里帰り中…丹沢の山奥にある忍者の隠れ里らしい…だし、セリオはニューイヤーパーティーの準備を手伝うため、来栖川邸に残っていて、ここにはいない。
 部下がいない上に、ひろのと雅史の仲も当時とは比べ物にならないほど強固なものになっているとあっては、苦戦は必至だった。しかも、ちょっかいかけようにも、あかりと芹香は間違いなくひろのの味方をするだろうし、志保もどう動くかわからない。
(参ったわねぇ……今ここで動くには、障害が大きすぎ…ん?)
 悩みが頂点に達しかけたその時、綾香は微かな気配を感じた。森の中を移動して行く、小動物ほどの存在感……いや、一見そう感じられるが、実体は赤色巨星のように強大なものを秘めた気配だ。
(これは…一人はセバスチャンね。でも、セバスチャンに匹敵する、この存在感は…ひょっとして、これが噂のひろののお父さん?)
 気配の正体に綾香が思い当たった時、志保が不満そうな口調で聞いてきた。
「綾香さん、話聞いてる?」
「え? あ、も、もちろんよ!」
 実はさっぱり聞いていなかった綾香であるが、そうやって勢いよく誤魔化した。そして、それに対するツッコミが入る前に、列を離脱する。
「あれ、綾香さん、どこへ行くの?」
 志保の問いに、綾香は「察して」と言わんばかりに頭を下げた。それで、志保もあぁ、それは大声では言えないわよね、と納得する。だから、彼女は綾香がトイレではない方向へ向かっている事には気付かなかった。

 その頃、セバスチャンと浩明は、本殿に近い林の中で待機していた。
「して、どのように攻めるのだ?」
 問うセバスチャンに対し、浩明は地面に落ちていた小石を一つ拾い上げた。
「こいつをぶつける。この際、物理的に抹殺も止むをえん」
 浩明のあまりにストレートな手法に、セバスチャンは止めるどころか、煽るような事を言い出した。
「いや、それはちと大きすぎるじゃろう。衝撃波でひろのまで吹き飛ばしてしまうぞ」
 自分にもできる事だが、浩明がその気で小石を投げれば、それは十分戦車くらいは破壊できるエネルギー兵器になり得る。セバスチャンも、若い頃は自分を機銃掃射しようとした米軍の艦載機を、石を投げて返り討ちにしたものだ。
「じゃあ、この辺か……」
「妥当じゃの」
 指先でつまめるほどの大きさの石を拾った浩明に、セバスチャンは頷いて見せた。
「よし…人が手塩にかけて育てた大事な娘を掻っ攫おうとする男なぞ逝ってよーし!!」
「その通り! って、お前は育ててないじゃろうが!?」
 投球フォームをとった浩明に、セバスチャンがすかさずツッコミを入れつつも、今まさに惨劇が展開されようとしたその時、涼しげな声が聞こえてきた。
「ちょっと、そんなやり方はやめてよ」
 驚いた浩明の手から、石がすっぽ抜ける。数秒後、上空に浮かぶ雲の一角に、丸い穴が開いた。
「だ、誰だ!?」
 浩明が言うと、木陰から姿を現したのは、綾香だった。セバスチャンは慌てて平伏し、彼女を直接は知らない浩明も、すぐにその正体を思い出して呟くように言った。
「来栖川のお嬢さんか……いや、昨日テレビで見た妹さんの方だな」
「あら、ご視聴ありがとうございます」
 綾香は優雅に一礼し、浩明を見た。
(……あまりセバスチャンに似てないわね。性格は確かに血縁関係を感じさせるけど)
 綾香は思った。確かに、浩明は全員クローンかと思わせる長瀬一族に連なる人間には見えない。実際連なっていないのだから当然だ。だが、言動はまさに長瀬一族(と言うかセバスチャン)そっくりだった。
(まぁ、それこそ長瀬一族には有り得ないひろのの父親なんだから、当然かしら?)
 そう考えつつも、綾香は厄介な事になった、と感じていた。この二人は、手駒として使えれば非常に心強い。自分よりも強いのは間違いないからだ。しかし、正面突破ならともかく、寝技勝負になると、破壊力が強すぎて使いこなす事すら難しい。まさに諸刃の剣であった。
「ともかく……佐藤君はあれでなかなか手ごわいわよ。私でも、場合によっては苦戦する相手なんだから」
「なんと……」
 雅史の実力についてよく知らなかった浩明は目をむいた。浩之の幼馴染と言う事で昔から雅史の事は知っているだけに、そこまでの実力とは考えても見なかった。しかし、ひろのを巡って何度も彼と渡り合った事のある綾香は、その実力を正当に評価していた。
 何しろ、かつて東鳩ファンタジアパークでは隙を突いたとはいえ、一撃で倒せた相手が、先日のスキー場では綾香をたじろがせるほどの攻撃をかけてきたのだ。その戦闘力の向上振りには目を見張るものがある。
「では、いかがいたしますか、お嬢様」
 セバスチャンが尋ねた。
「そうね…ひろのが佐藤君のことを好きな以上は、無理矢理引き裂くのはかわいそうだと思うのよね」
 無理矢理でなくてもかわいそうだと思うが、綾香はその辺の事をさらりと無視した。
「だから、ひろのに自主的に佐藤君のことが嫌いになってもらうように工作するのよ。わかる?」
 綾香の言葉にセバスチャンと浩明はふむふむと頷いた。
「と言う事は、女の子がされて嫌がるような事を、雅史君がひろのにやれば良いと…そういうわけか」
 浩明の答えに、綾香は満点をつけた。
「ではお嬢様、お嬢様としては、男にされて嫌な事とは何ですかな」
 セバスチャンが聞いてきた。確かに、男の身ではそれはわからない事だろう。そこで綾香は自分なりの答えを返した。
「そうねぇ……やっぱり、えっちな事とか?」
 次の瞬間、浩明とセバスチャンの声が見事に重なった。
「「そんな、とんでもない!!」」
 思わずたじろいだ綾香に、まず浩明が口火を切る。
「そんな事は絶対にゆるさーん! ひろのをキズモノにしたら、あの小僧は粉微塵にしてやるー!!」
「嫁入り前のひろのにそんな破廉恥な真似をさせるなど、天が許してもこのワシが許しませんぞ!!」
 セバスチャンも吼え、その発言に浩明が噛み付く。
「待てィ! 嫁入り前だと!? 断じて認めん!! ひろのは誰にもやらんぞ!!」
「いちいち言葉のあやに突っかかってくるな! 貴様、やるかッ!?」
 一時的に組んでいたとは言え、元々反りの会わない浩明とセバスチャンである。たちまち、二人は臨戦体制に突入した。そのまま二大怪獣大決戦か、と思われたその時、綾香が叫んだ。
「いいかげんにしなさいっ!!」
 二人には及ばないとは言え、超人的格闘家たる綾香が至近距離から気合の篭った一喝を放ったのだ。浩明とセバスチャンの動きは一瞬静止した。
「この調子じゃ、ひろのに何をしても貴方たち止める気でしょ。言っておくけど、今回の目的は、ひろのに佐藤君を嫌わせる事よ。そのためには少しくらい耐えてちょうだい」
 綾香は諭すように言った。第一、彼女だって雅史がひろのにセクハラする事は耐えがたい。できればさせたくはない。もっとも、セクハラされて恥らうひろのは見てみたいと痛切に思っていたので、何とか我慢できた。
「それに……さすがに最後までさせようって訳じゃないわ。ひろのに、『佐藤君はすぐに調子に乗る嫌なやつ』と思わせれば十分よ」
 良く雑誌の読者投稿コーナーに載っている「告白した(された)途端に、いきなり肉体関係を求めてきた男に幻滅した」などの体験談を元に、綾香はその作戦を練っていた。ちなみに、彼女がそんな雑誌を読んでいることは、もちろんトップシークレットである。
「むぐぐ……ぐ、具体的には?」
 いろいろ葛藤があるらしく、口篭もりながらも浩明が聞いてきた。
「そうね……軽く触るとか……」
「どこを!?」
 今度はセバスチャンが身を乗り出してくる。さすがの綾香も呆れ顔になった。やっぱりこの二人に声をかけたのは失敗だったか、と思うが、まぁ、勝手な真似をされるよりはマシだと思い直す。
「もう、そこまで私に言わせる気? そのくらい想像しなさい、セバスチャン」
 そう言って、綾香は説明を打ち切った。いちいち説明していたら、日が暮れてしまう。綾香は最後の確認をした。
「ともかく、二人の仲を裂く工作は、私に任せてくれないかしら? 直接的に佐藤君を抹殺しても、ひろのが悲しむだけよ」
 その言葉に、セバスチャンと浩明は不満そうに頷いた。大事な娘を危険に(例え極小レベルでも)さらすのは嫌なのだろう。
 しかし、「漢」たる事を追求し、息子にもそれを求めていた浩明の、たった数日でのこの堕落振り。ひろのはまさに魔性の娘であった。

 綾香が戻ってきた時、かなり時間が経っているにも関わらず、ひろのたちはまだ本殿に到着していなかった。
「あら、結構混んでるのね」
 綾香はそう言いながら、列に復帰した。
「まぁ、地元の人は大体ここへ来るもんね」
 志保が言った。綾香は頷きつつ、ポケットに手を入れた。そこから掴み出したのは、一巻きの釣り糸と釣り針である。
(これも冬でないと使えないアイテムよねー)
 綾香はそう思いつつ、釣り針を指で弾いた。空気を切って飛んだそれは、狙いを過たずに雅史のコートの袖に命中し、引っかかった。
(よし…えいっ!)
 綾香はタイミングを見計らって糸を引っ張った。すると、雅史の腕がぐっと持ち上げられ、手がひろののお尻を撫でるようにして密着した。
「え?」
「あ……っ」
 お尻を触っている雅史も、触られているひろのも硬直する。唯一、顔だけが真っ赤になっていく。その隙に、綾香は指先に力を入れ、引っかかっていた針を外して回収する事に成功していた。
(さて、ひろのはどう反応するかしら?)
 綾香がニヤリと笑ったその時、列の後方で異常が起きた。バスが数台まとめて到着し、初詣客がどっと境内に押し寄せてきた。その勢いで列が詰まり、混雑率が一気に跳ね上がる。
「きゃっ……!」
 ひろのも後ろから押し寄せてきた人に押され、前につんのめって転びそうになった。が、そこで一瞬お尻に添えられていた雅史の手が伸び、腰を抱きかかえるようにして、ひろのの身体を支えた。
「長瀬さん、大丈夫?」
「う、うん……」
 ひろのは頷いてから、自分が雅史に抱き寄せられているような体勢になっていることに気付き、ますます顔を赤くした。そして、小さな声で礼を言った。
「ありがとう、雅史君」
「いや……その……」
 雅史は困った顔で空を見上げた。それを見ながら、綾香は唖然とした表情になっていた。
「な、何でああなるわけ……?」
 偶然にも、雅史が咄嗟にひろのを助ける手伝いをしてしまった。明らかにひろのの雅史への好感度は、1ポイントアップしている事だろう。
「ひゅーひゅー、やるじゃん雅史。ところで、いつまでひろのの事抱きしめてんの?」
 志保がお気楽な表情でからかうと、雅史は慌ててひろのの身体を離した。
「あ、あの……ごめん、長瀬さん」
「ううん、雅史君だったら良いよ」
 ひろのは抱きしめられた事には怒りもせず、にこりと笑った。それを見てあかりと志保がわざとらしく溜息をつき、芹香はくすっと笑った。一人憮然としているのは綾香だ。
(け、計算が違いすぎたわ……まさかバスが来るなんて)
 あれさえ無ければ、もうちょっと違う結果だっただろう。あるいは、もう少し早いタイミングだったら、ひろのが怒り出していたかも知れない。とにかく、最初の作戦は失敗だった。すると、綾香の携帯電話が鳴った。発信者を見ると、セバスチャンだ。
「ごめん、ちょっと待ってて」
 綾香は一行に断って列を外れると、通話ボタンを押した。
「もしもし」
『お嬢様、一部始終は見ておりましたぞ。やはりあの小僧を直接倒すべきなのでは…』
『おのれ、ひろののお尻を……ぶつぶつ……』
 横で浩明が何か言っているのも聞こえた。かなり危ない感じだ。
「落ち着いてよ。一回の失敗でいきなり方針転換しなくても良いでしょう?」
 綾香は言った。
「今のはたまたま偶然が起きただけよ。うまくいくまで何度でもトライあるのみだわ。見てなさい」
 綾香はそう言って電話を切ると、列に戻ってひろのたちと合流した。
「誰からだったの?」
「ん? 学校の友達よ。ニューイヤーパーティーへのお誘いだったけど、断ったわ」
 ひろのの質問に、綾香はもっともらしい答えを返してごまかした。もちろん、ひろのは特に不信感を抱くこともない。ただ、芹香だけは、なんとなく怪しげな視線を綾香に向けていた。
(さすがは姉さん、何かを感じ取っているようね…)
 綾香は姉のプレッシャーを感じつつも、平静を装って、再び志保と会話を始めた。
「それでね、その時の委員長ったら、微塵切りのはずなのにどうみてもぶつ切りで……」
「あはは、意外ね」
 志保に調子を合わせつつ、綾香は雅史の隙を狙った。やがて、雅史が手を頭にやろうとあげた瞬間を狙って、綾香の釣り針が飛んだ。袖に引っかかった針を引っ張り、雅史の手をひろのの胸へ――
 その時、またしても綾香の予想外の出来事が起こった。ひろのが突然体制を崩したのだ。
「えっ…きゃっ!?」
 前のめりになるひろのを、たまたま引っ張られていた雅史の腕がしっかり受け止める形になった。
「大丈夫!? 長瀬さん」
「う、うん……なんだか、足が急に滑って…」
 ひろのが答えながら足を見ると、草履の鼻緒が切れていた。千尋が使っていた年代物だけあって、ちょっと強度が低下していたようだ。
「なるほど……ちょっと待ってね」
 雅史は状況を確認し、ポケットからハンカチを取り出すと、ひろの、あかり、志保が止める間もなく、口にくわえて細く引き裂いた。それをねじり、即席の鼻緒を作ると、草履を修理した。
「これで大丈夫だと思う。履いてみて」
 雅史の手際の良い修理振りをじっと見ていたひろのは、頷くと草履を受け取り、足を通した。試しに地面を蹴ってみるが、草履はびくともしなかった。
「うん、大丈夫みたい。ありがとう、雅史君」
 ひろのはそう言ってにっこり笑い、雅史は「いや……どういたしまして……」ともごもご言いながら顔を赤くした。しかし、すぐにひろのは暗い顔つきになった。
「でも、ハンカチが……」
 手に握られたままのぼろぼろのハンカチを見ながら言うひろのに、雅史はぶんぶんと首を横に振った。
「構わないよ。どうせ一枚200円とかの安物だからね。大した事ないさ」
 そう言って、ポケットにハンカチをねじ込む。しかし、ひろのは知っていた。
「でも、それって…」
 まだ、彼女が浩之だったころ、雅史に見せてもらった事がある物で、彼の姉が誕生日にプレゼントしたものだったはずだ。当然、それなりに値は張るはず……たぶん3000円はするだろう。
 そんな大事なものを、雅史は躊躇いなく自分のために使ってくれたのだ。ひろのは嬉しさと同時に申し訳なさで胸がいっぱいになり、うまく言葉が出なくなった。
「その……ありがとう。必ずお返しはするね」
「だから、大したことな……」
 言いかけた雅史だったが、その肩をあかりと志保がポンと叩いた。二人の視線に、これ以上の固辞は無粋と悟った雅史は、笑顔で頷いた。
「うん、わかった。楽しみにしてるよ、長瀬さん」
「うんっ!」
 ひろのは輝く笑顔で頷いた。

 その間、成り行きをぽかーんとした表情で見つめていた綾香は、懐の携帯電話が鳴ったことで、ようやく我に返った。発信者を見るとセバスチャンだ。
「ごめん、ちょっと待ってて」
 綾香は一行に断って列を外れると、通話ボタンを押した。
「もしもし」
『お嬢様、一部始終は見ておりましたぞ。やはりあの小僧を直接倒すべきなのでは…』
『おのれ、ひろのの胸を……ぶつぶつ……』
 横で浩明が何か言っているのも聞こえた。非常に危ない感じだ。
「あー……その、何と言って良いか」
 さすがの綾香も、二回続けて有り得ない偶然が起こり、ひろのと雅史の仲に亀裂を入れるどころか、ますますラブラブ度を深めてしまったとしか思えない事態に動揺していた。神域で悪事を為そうとした自分に対し、神様が何らかの思し召しをしたのではないか、と言う、彼女らしくないオカルトチックな考えまで浮かぶ始末である。
『ともかく、いかにお嬢様のご指示とは言え、これ以上座視はできませぬ。これより私は独自に行動を起こします』
 そう言うと、セバスチャンは一方的に電話を切った。
「え? ちょっと、待ちなさい!! だめよ! 許さないわよ!!」
 綾香は電話の向こうに向けて怒鳴ったが、もはやその声は野獣二人には届かない。綾香は携帯電話を袖にしまいこんで考え込んだ。
(拙いわね。セバスチャン一人でも厄介極まりないのに、ひろののお父さんも実力伯仲らしいじゃない。もし襲ってきたら、私だけじゃ勝てないわね)
 本来なら、世界最強を争うであろう二人が、綾香の手を汚さずに雅史を始末してくれるのはありがたい。今までの綾香なら、間違いなく黙認していただろう。
 それなのに、今は雅史を守らねばならない、と考えている。そのおかしさに綾香は気付いた。
(皮肉なものね。佐藤君がどうなろうと、私の知った事じゃないはずなのに……)
 綾香は苦笑した。雅史がやられても、彼女の心は痛まないだろう。だが、ひろのは悲しむだろうし、そんな彼女の姿を綾香は見たくなかった。
 今も時々見せている、恋する相手に向けられる輝くような笑顔……それを堂々と奪取するために。
 ちょっと前の綾香なら、堂々と戦うなどとは考えず、手段を選ばず雅史さえ討ち取れればそれで良しとしただろうが、そうしないのは、ある意味、綾香自身が雅史を「対等の敵」と認めた証でもあった。
 しかし、そのためには何とかしてセバスチャンと浩明の二大怪獣を退けなければならない。どう考えても、綾香一人で出来ることではない。彼女は携帯電話を取り出すと、メールモードにして素早く文章を打ち込み、送信した。
「あれ?」
「……」
 あかりと芹香が同時にメールを受信して、怪訝な顔をした。綾香がメールを送ったのは彼女たちだったのだ。すぐそばにいる綾香がメールを送ってきた事に不自然さを感じた二人も、文面を見た後ではそんなことは言っていられなかった。
『セバスチャンとひろののお父さんが佐藤君を倒すと言ってるわ』
 間近であの二人の真っ向対決を見て、その脅威を知っている二人は、顔色を変えて綾香のほうへ寄って来た。
「これってどういう事、綾香さん」
「……」
 口々に問う二人に、綾香は手早く事情を説明した。ただし、自分が雅史を陥れる陰謀を企んだことは伏せてある。
「う〜ん……しょうがないなぁ、浩明おじさんも……」
 あかりが困りきった顔になる。そんな事をしてもひろののためになるはずは無いのだが、本人はそれが娘への愛だと信じているだけに始末が悪い。
「……」
 芹香もセバスチャンの暴走に頭を抱えたい思いを抱いていた。
「それで……どうやって止めるの? たぶんわたし達3人だけじゃ、浩明おじさんとセバスチャンさんには勝てないよ」
 あかりが言う。綾香もそれは思っていた。どっちか1人だけなら、3人の集中攻撃で一時的に戦闘力を奪えるかもしれないが、2対3では台風に巻き込まれる木っ端のように一撃で粉砕されることは請け合いである。
(せめて、後1人、計算できる戦力が欲しい)
 綾香がそう思ったとき、僅かに漂ってきた「闘気」を彼女は感じ取っていた。
(これは……間違いない!)
 その闘気の主なら、戦力として申し分ない。綾香は闘気が漂ってきた方向めがけて歩き始めた。

 その闘気の主は、男と見紛う長身で人ごみの中でも異彩を放ちつつ、参拝客の列に並んでいた。場所はひろのたちがいる所から少し先、列の一番前である。彼女は小銭入れから十円玉、五円玉、一円玉を一枚ずつ取り出し、賽銭箱に放り込んだ。ちなみに、十五円は「十分ご縁がありますように」と言う意味で、一円は消費税分だ。三枚の硬貨が箱に吸い込まれたところで、拍手を打ち、祈りを捧げる。
(今年こそ、綾香に勝てますように)
 好恵だった。夏休みは延々とどこかで山篭りをしていた彼女だが、所詮実戦相手のいない修行では綾香には勝てないと思い直し、冬は地元での修行に切り替えたのである。
 街じゅうの格闘道場を次から次へと打ち破り、ある程度自信を深めた好恵は、こうして祈願にやってきたのである。いつか綾香と戦うことを考えると、明鏡止水の境地を目指していても、心が滾り、抑えきれない闘気が僅かに漏れ出す。
(いけない、心を落ち着かせないと……でも、待ち遠しい。早く綾香と手合わせがしたい)
 新年の初めに打倒綾香への誓いを新たにし、清々しい気持ちで列を離れたその瞬間、好恵は神が自分の願いを聞き届けたであろう事を確信した。向こうから綾香が歩いて来るのが見えたのだ。
(まさに天佑我に有り!)
そう思った好恵は綾香に近づいて行った。しかし、声をかける直前、綾香の方が先に声をかけてきた。
「良い所で会ったわ、好恵」
「な、何よ」
 好恵は警戒した。普段は言を左右にし、のらりくらりと自分との対戦を避ける綾香が、先に声をかけてきたのだ。こういうときは大体ろくな目に会ったことが無い。
「実は、頼みがあるのよ。あなたの力を貸して欲しいの」
 一瞬だが、断る、と言う言葉が喉まで出かかった。しかし、話を聞く前から断ると言うのは、臆していると見られるかもしれない。それは好恵の武人としての矜持にもとることだ。
「聞くだけは聞くわ」
 好恵が言うと、綾香はホッとしたような表情になり、事情を話し始めた。
「……ものすごい強敵と戦う? この前みたいな話ね」
 好恵は言った。この前というのは、ひろのが芹香が間違って作った性格反転薬を飲み、邪悪で狡猾で凄まじい強さを誇る魔王へと転身した時の事である。この時、好恵は後で綾香と尋常の勝負をする、と言う約束でひろのと対決する戦列に参加したが、ひろのに文字通りの瞬殺を食らうという屈辱を舐めた。
「そうね。私からの条件も一緒。あの時の分とあわせて二本、好恵との勝負を受けるわ」
 好恵は考えた。確かに悪い条件ではないが……問題は相手だ。
「それを言うのを忘れてたわね。相手は、セバスチャンと……ひろののお父さんよ」
 二人目の相手を聞いて、好恵は目を瞠った。セバスチャンだけでも一対一では絶対に勝ち目の無い相手だが、それに加えて「あの」ひろのの父親……しかも、綾香をして助っ人が必要と思わせるほどの相手となれば……
「強敵なのね」
「強敵なのよ。セバスチャンに勝ったこともあるし」
 好恵は驚愕した。それは強敵どころの騒ぎではない。しかし……
「面白いわね」
 好恵は頷いていた。武人として血が騒ぐ相手なのは間違いない。それに、ひろのに一発KOされて以来、おのれの未熟を悟った彼女は、徹底的な修行を数ヶ月重ねてきた。今ならどんな相手だろうと恥ずかしくない戦いをするだけの力量は持っている、と自分を信じている。
「じゃあ」
 明るい顔になった綾香に、好恵は微笑んで見せた。
「相手にとって不足は無いわ」
 好恵の差し出した手を綾香がしっかり握る。こうして、女子高生最強タッグが誕生した。
 綾香が好恵を連れて戻ると、全員が驚いた目で彼女を見た。好恵と綾香の因縁は良く知られているし、好恵がひろのを狙っていることも有名な話だからだ。
「あけましておめでとう、長瀬さん」
「お、おめでとう……坂下さん」
 ひろのがぎこちない口調で挨拶する。ちょっと怯えているようで、その表情もそそると綾香と好恵は思った。しかし、ひろのを庇うように、すっとさりげない足取りで雅史が出てきた。
「おめでとう、坂下さん」
 決して敵意は無いが、ひろのにはこれ以上近づけさせないぞ、と言う気迫の篭った雰囲気に、好恵は目を瞠る。雅史は決して彼女や綾香に並ぶような実力は無かったはずだが、いつのまにかその存在感は強大なものになっていた。好恵は綾香の方を見ると、小声で言った。
「……敢えて、守ることも無いんじゃない? 今なら相当強いわよ、彼」
「そう思いたいけど、さすがに人外二人相手じゃね」
 自分の事を棚に上げて言う綾香。
「そうね……ともかく、今日は防戦に徹するわ」
 好恵は頷くと、綾香とは反対の位置を取って、その方向からの攻撃に備えた。と、その時だった。
「!」
 好恵の手刀が一閃し、飛来した小石を弾き飛ばした。気を込める事で厚さ10センチの鉄板も貫通するほどの破壊力を持つ彼女の手刀だが、それがびりびりと痺れ、衝撃の強さを物語っていた。そして、綾香も短く気合を発し、反対方向から飛んできた小石を叩き落とした。綾香はうまく足元に小石を落としたが、咄嗟だった好恵の弾いた方は、明後日の方向へ飛んで行き、そこで騒ぎが起こった。
「うわっ、矢島、どうしたっ!?」
「げっ、血まみれだ!!」
「救急車を呼べ、救急車!!」
 それを聞いて、ひろのが前の方を見た。列の横で、誰かがうつぶせに倒れている。その周りには赤いものが飛び散っていて、かなり凄惨な状態だ。
「うわぁ……事故かな?」
「ひどいね」
 痛そうに見つめるひろのと雅史の前で、駆けつけてきた救急隊がその気の毒な人物を収容して去っていった。気が付かない二人に代わり、あかりが好恵を気遣うように聞いた。
「坂下さん、大丈夫?」
 しびれた手を揉み解しながら、好恵は頷いた。
「今のところは。でも、続けられたら他にも犠牲者が出かねないわね」
 言うまでもなく、さっき好恵が跳ね返した小石の直撃を受けたのは、最近影の薄い矢島だった。従って、好恵もあかりも何の問題も感じていなかったのだが、さすがにそれ以外の無関係な人間を巻き添えにするのはためらわれる。二人とも、浩明やセバスチャンの投じてくる石を弾き返す事は出来るが、その方向をコントロールする余裕はなかった。
 しかし、結局石による攻撃はその二回に留まった。
「諦めた……訳ではないわよね?」
 一応警戒を怠らずに、辺りの気配を探りつつ言う好恵。今のところ、浩明もセバスチャンも気配は消している。さすがに、この状態では今の綾香たちの防御網を突破するような攻撃はできないだろう。
「当然。そんな殊勝な人達じゃないわよ」
 綾香は答えた。浩明の事はさっき会ったばかりで良く知らないが、セバスチャンは中途半端を嫌う男だ。雅史を仕留めると宣言した以上は、けっして食いついて離れないはずで、今はきっと次なる方策を練っているに違いない。
(神社を離れる時が危ないわね)
 綾香はそう予測した。まず、人気のないところを避けて行けば問題は無いと思うが、用心するに越した事はない。
 
 一方、狙われている事も知らず、雅史とひろのは談笑を続けていた。本来なら雅史も自分に向けられている殺気に気付くぐらいの事は出来るはずだが、ひろのに夢中になっているためか、危険予知能力が一切機能していない。密かに二人を守ろうとしている四人に微かな苛立ちを感じさせたまま、ようやく列は社殿の前に辿り付いた。賽銭箱に10円を投げ入れ、作法通りに二拝、二拍手、一拝する。
「長瀬さんは何をお祈りしたの?」
「え? うーん……ないしょ」
 お祈りが終わったところで、雅史に聞かれたひろのは、ごまかすように微笑んで答えた。実際のところ彼女が何を祈ったかというと……
(雅史にちゃんと告白できますように)
 という、一見他愛のないものだった。告白も何も、既にキスまでしているのだから意思表示は十分だろうと言いたいところだが、もちろんこの場合の「告白」とは「貴方が好き」と言う意味ではない。
 自分の正体……本当は藤田浩之という、雅史の親友にして幼馴染みである事を明かすと言う意味である。去年のクリスマスパーティーの後、公園でキスをして、いざ告白と言うところで、両親が帰ってくると言う非常事態発生のために、それは中断されていたが、何時までも先延ばしにしておく訳には行かない。
(あの時はお酒の勢いを借りたけど……今はそういうわけにはね)
 周りに保護者がいない状況ならともかく、両親やセバスチャンの監視下で酒を調達するのは流石に難しい。こればかりは、自分でどうにかしなければならないのだ。
 その決意を秘めて、参拝を終えたひろのは、参拝客の帰り口に指定されている裏の山門のところまで来ると、みんなの方を振り返った。
「えっと……ごめんね。ちょっと、雅史君と話があるから、先に行ってて欲しいんだけど……」
 裏の山門の近くには、あまり人のこない社がある。そこなら二人きりで話すにはぴったりだとひろのは考えたのだが、そんな事をしたら即座に襲撃が来ると知っている綾香以下四人にとっては、絶対に容認できない提案である。
「いや……あのね、ひろの。それはちょっと……」
 綾香がどう翻意させたものか、と思いながら口を開くと、あかりが先んじて言った。
「ひろのちゃん、二人で話すんだったら、どこか喫茶店とか、ゆっくりできるところの方が良いと思うよ」
 真っ当な意見であり、ひろのの焦る気持ちを宥めようとするものだったが、それを聞いて、ひろのはとんでもない事を言い出した。
「えっと……じゃあ、私の部屋か、雅史君の部屋かな?」
 お互いを想う若い男女が、一つ屋根の下で二人っきり。何が起きてもおかしくないシチュエーションだが、この二人の奥手振りを知っている四人はまぁそれなら、と納得しようとした。
 しかし、その時であった。
「そんな事は許さん!」
「断じて認めんぞぉ!」
 頭上から降ってきた声に、一行は上を見上げ……絶句した。
 鳥居の上に、屋台で買ってきたと思しきお面を被った屈強な男が二人、腕を組んで立っていたのである。
「な、何奴!?」
 誰何の声を上げる好恵に、金髪の女の子のお面を被って、黒いタキシードを着た男が答えた。
「公序良俗の使者、ピュアブラック!」
「同じく、ピュアホワイト!」
 黒髪の女の子のお面を被って、白いコートを着た男が唱和する。
「二人揃って……って、チーム名などどうでも良いわい! そこな男!」
 ピュアブラック(仮名)が雅史をビシッと指差した。指摘された雅史が戸惑いの表情を見せるより早く、ピュアホワイト(仮名)が宣言する。
「純真な娘を惑わす獣めが! とっとと家に帰れ!」
 あまりにも酷い言い様だが、酷すぎて、言われた方の雅史も何がなんだかわからず、ただ呆然としているだけだった。一方、綾香とあかりは呆れかえっていた。
(セバスチャン……それで正体を隠しているつもりなの?)
(浩明おじさん……それじゃバレバレだよぅ)
 芹香も、一見無表情ながら、確かに呆れたような顔をしていた。
「芸風……変わったんじゃないの?」
 浩明はともかく、セバスチャンは知っている好恵も困惑気味だ。ところが、四人とは全く違う反応をした人物がいた。
「貴方達、だれっ!?」
 ひろのだった。思わず絶句する綾香たち。
(ま、まぁ……身内過ぎて、逆にわからないのかもね)
 父親と祖父があんな変なお面を被って暴れるところは、誰も想像したくないだろう……と五人はひろのに同情した。しかし。
「誰だかわからないけど、そんな言いがかりをつけられる覚えはない!」
 雅史もだった。
(それはギャグで言っているの!?)
 天を仰ぐような姿勢で、綾香たちは雅史に心の中で突っ込みを入れた。
「ほう、言いがかりだと? お主がどう思っているかなどワシの知った事ではないわ。ともかく!」
「ひろのに近づくのをやめない以上は、小僧、貴様を討つ!」
 ピュアブラックとピュアホワイトが戦闘体勢をとる。雅史もひろのを守るようにして構えを取ろうとしたその時、その前にすっと綾香とあかり、芹香、坂下が立ちはだかった。
「あかりちゃん?」
「綾香! 何をするの!?」
 口々に疑問の声を挙げるひろのと雅史に、綾香が言った。
「ここは任せて。連中は私たちが食い止めるわ」
「え?」
 戸惑いの表情を見せる雅史に、あかりが言う。
「ひろのちゃんと雅史ちゃんの仲を引き裂くなんて、そんな酷い事はさせられないよ。志保、二人をお願い」
 言葉の後半は志保に向けられていた。志保は頷くと、ひろのと雅史の手を取った。
「わかったわ、あかり。行くわよ」
 そのまま、強引に走り出す。
「ちょ、ちょっと、志保!」
「志保ちゃん、僕が逃げるわけには……!」
 抗議する二人に、志保が叫んだ。
「ばか! あんたたちは足手まといなだけよ!」
 志保も雅史の強さは知っているが、残る四人には及ばない事もまた知っている。だから、ここはひろのと雅史は逃がすのが正解だと悟っていた。
「むぅ、逃がさぬぞ!」
 ピュアブラックが叫び、鳥居から飛び立とうとする。そこへ、綾香が踊りかかった。
「貴方の相手は私よっ!」
 逆向きの流星のような強烈なキックがピュアブラックを捉える。咄嗟に腕をクロスさせてガードするも、ひろのたちとは反対方向に飛ばされるピュアブラック。
「何故邪魔をなさる!?」
 抗議するピュアブラックに、地面に降り立った綾香が構えを取りながら答えた。
「ひろのを悲しませるわけには……ね」
 その様子を見ていたピュアホワイトが苛立たしげに言った。
「てぬるいぞ、爺さん! ならば俺に任せてもらおうか!!」
 ポケットから幾つかの小石を取り出し、逃げていく雅史の背中に狙いをつける。そして投げようとした瞬間、足元から無数の何かが飛んでくる気配に気付き、ピュアホワイトは慌ててその場を退いた。今まで彼が立っていた鳥居の横木を、あかりの投げたフォークやテーブルナイフ、スプーンが抉り取り、粉砕し、削り取っていく。
「む……!」
 侮れない攻撃力にピュアホワイトが一瞬動きを止めたところへ、好恵が襲い掛かった。
「はああああぁぁぁぁぁっ!!」
 好恵が無数の拳を放つ。秒間千発に迫る超高速の連打だ。
「むぉ、やるな……!」
 ピュアホワイトは感嘆の声を上げつつも、その攻撃を凌ぐ。一見好恵が押しているように見えるが、そうでもない。攻められつつもピュアホワイトはそれを受けきり、あまつさえ反撃の拳を繰り出す。その一撃は、それだけで好恵を沈め得る剛撃。流石の好恵をもそれを受けるリスクを考えると攻撃に全神経を注げない。
「神岸さん、援護お願い!」
 たまらず、格闘家のプライドを一時抑えて叫ぶ好恵。頷いたあかりはすかさず横に回りこむと、ピュアホワイトめがけて銀色の豪雨を叩きつける。流石のピュアホワイトも、その攻撃を防御する分好恵への対処が疎かにならざるを得なかった。
 一方、ピュアブラックには来栖川姉妹が挑んでいた。芹香が指先から電撃や火炎を放ってピュアブラックを牽制し、綾香が攻撃を加える。あかり+好恵の急造コンビとは異なり、こちらは姉妹だけあって息が合っており、かつ戦闘力でも勝っているだけに、既に数発の有効打を与えることに成功していた。
(これなら……勝てるかも?)
 一瞬、綾香の脳裏をそんな想念が過ぎる。しかし、それは余りにも甘い考えでしかなかった事を、すぐに彼女は思い知らされることになる。
「やむを得ぬ。ホワイトよ、あれをやるぞ!」
「ちっ、仕方ないか!」
 四人の猛攻に苛ついたのか叫ぶブラックにホワイトが呼応し、二人は後方に飛び退ると、背中を合わせるようにして構えを取った。追撃をかけようとした綾香たちだったが、次の瞬間、白黒二人の放つ巨大な気合が、津波のように押し寄せてきて、その動きを封じ込めた。
「!?」
 思わず立ちつくす四人。その隙に、ブラックとホワイトは放った「気」を螺旋状に練り上げた。さながら竜巻のような光の渦がブラックを包み込み、天高くジャンプする。ホワイトはそれよりも高く舞い上がると、ブラックめがけて急降下した。
「いくぞ、爺さんっ!」
「おう!」
 空中でホワイトが繰り出したキックが、ブラックの足を捉え、凄まじい加速を与える。輝くドリルのようになって急降下してくるブラック。
「必殺、超級覇王電影弾っ!」
「気」の渦から顔だけ出したブラックが咆哮した。その叫びが、硬直していた四人を我に返らせる。
(避けなきゃ……いや、間に合わない!)
 もはや回避が間に合わないと判断した綾香は、目前に迫るブラックめがけて突撃した。
「なんじゃと!?」
 まさか真っ向から突入してくるとは思わなかったのか、ブラックは驚きの声を上げた。しかし、綾香には一応の成算があった。
(渦の中心……そこが一番動きが激しくない。なら、私の全力を叩き込めば!)
 その判断の元、綾香は拳をブラックのお面に叩き込んだ。脆いプラスチックのお面は一瞬で砕け散った。
「やった!?」
 好恵たちが一瞬歓声を上げたが、砕けたのはお面だけであり、その下の本体にはほとんどダメージが入っていなかった。それを一番知っていたのは綾香だった。
(やられる……ここまでパワーアップしてるなんて!?)
 確かに綾香の拳が届くほどには、渦の中心は動きがない。だが、ブラックとホワイトの二人の力が合成されたものが、いくら綾香でも防げるはずがなかった。
「甘いですぞ、お嬢様ぁ!」
 それを裏付けるように、ブラックが吼える。次の瞬間、綾香は天高く吹き飛ばされていた。
「綾香……きゃあっ!?」
「……!!」
「ひゃうっ……!」
 つづいて、光の渦は地上の三人にも襲い掛かり、次々にはね飛ばしていった。
「……おっと」
 その時、あかりが落とした食器がホワイトの額を掠め、お面のゴムひもを切り飛ばしていった。お面が地面に落ちると同時に、吹き飛ばされた四人も地面に落ちる。完全に戦闘不能状態だ。
「なかなか苦戦したな……」
「うむ。それより、ひろのと小僧を追わねば」
 そう言って、二人が走り出そうとした時だった。
「おじいちゃん、お父さん……!?」
『な、ひ、ひろの……!?』
 硬直するピュアブラックことセバスチャンと、ピュアホワイトこと浩明。そこには怒りに燃えるひろのが立っていた。
「やっぱりあかりたちが心配で戻ってきてみれば……どういう事なの、おじいちゃん、お父さん。説明して」
 ゴゴゴゴゴゴ、と言う地鳴りのような響きさえ伴っているかのような怒りに満ちたひろのの声に、流石のセバスチャンと浩明も慌てふためいた。
「こ、これは……その……なんと言うか」
「ひ、ひろの。落ち着け。父さんはだな……」
 この期に及んで誤魔化しなど聞くはずもないのだが、それでもなんとか誤魔化そうとする二人に、ひろのは決定的な言葉を投げつけた。
「おじいちゃん……お父さん……大っ嫌い!!」

 大っ嫌い大っ嫌い大っ嫌い……

 大声でもないのに、言葉がこだましたような気がした。次の瞬間、セバスチャンと浩明は石化し、そのまま砕け散った。
 乙女の数ある技の中でも、最強無比・一撃必殺の超破壊力を誇る「○○○大嫌い」。その威力の前には、さしもの最強タッグも波にさらわれる砂の城よりも脆い存在でしかなかった。
「まったくもう……」
 父親と祖父の残骸を見下ろしてひろのは溜息をつくと、倒れているあかりたちの横にしゃがみこんだ。
「あかり、綾香、先輩、坂下さん。大丈夫?」
 最初に比較的ダメージの少なかったあかりが立ち上がった。
「うん、なんとか……あっ」
 あかりがひろのの背後を見て、驚いたような声を上げる。ひろのが釣られて後ろを見ると、そこには彼女の後を追って戻ってきた雅史と志保が立っていた。二人とも、信じられない、と言った表情をしている。
「雅史……志保?」
 その様子を不審に思ったひろのが声を掛けると、雅史が全壊して倒れている浩明と、ひろのを交互に見て言った。
「この人……浩之のお父さんだよね……その人を、どうして長瀬さんが『お父さん』って呼ぶの?」
「どういう事? この人は、あたしたちの幼馴染みの男の子のお父さんよ。説明して、ひろの」
 志保も疑問を口にする。ひろのは思わず俯いた。
「聞いて……たんだ」
 その事を……真実をいつかは告白しようと、ひろのは考えていた。浩明とセバスチャンの妨害がなければ、もう雅史には言っていたかもしれない。それでも、できればこんな風に疑惑を抱かれる形にはなりたくなかった。
 だが、こうなってしまった以上、もう覚悟は決まった。決めざるを得なかった。例え今の関係の全てが壊れる事になってしまっても、ひろのには逃げる事は許されない。
「私は……私は、……なんだよ」
「え?」
 ひろのの声は小さくて、雅史と志保は最初は聞き取れなかった。しかし、次には、はっきりとひろのが発した言葉を聞き取っていた。信じられないその言葉を。

「私は……浩之なんだよ」

(つづく)


次回予告

 ついに自分の正体を告白するひろの。予期せぬ真実を前に、志保の、そして雅史の反応は。ひろのは受け入れられるのか。
 次回、12人目の彼女第四十四話
「告白、そして〜」
 お楽しみに〜
 
 
あとがき代わりの座談会 その43

あかり(以下あ)「とうとう言っちゃったね、ひろのちゃん……」
芹香(以下芹)「……(こくこく)」
あ「最近、告白の連続で、しかも今度は一番ある意味言いたくなかった事だろうし……大丈夫かなぁ」
芹「(ぼそぼそ)」
あ「え? どんな結果になっても、私は責任持ってひろのさんを守ります?」
芹「……(こくこく)」
あ「そうだね。ひろのちゃんが正体を秘密にしていたのは、わたしも関わってる事だし」
芹「(ぼそぼそ)」
あ「え、綾香ちゃんが知ってしまったのも気がかり?」
芹「……(こくこく)」
あ「うーん……綾香さんの反応は読みにくいなぁ。坂下さんもだけど」
芹「(ぼそぼそ)」
あ「うん、そうだね……何があっても、わたしたちがひろのちゃんを守らなくちゃね」

収録:東鳩神社裏手門前


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