※このお話は人外の者たちが引き起こす各種災害の最中でけなげに生きる少女のお話…と書くと微妙に嘘。


To Heart Outside Story

12人目の彼女

第二十九話 「さようなら、長瀬ひろの」


 東鳩高校武道館。かつては剣道部、柔道部、空手部の城だったこの建物も、今は躍進著しい総合格闘技エクストリーム部の本拠として名高い。
 この日、武道館の周囲は黒山の人だかりになっていた。お目当ては、ある女子生徒の練習風景である。
「やぁっ!」
 掛け声とともにきれいな足が跳ね上がり、ミットに鋭い音を立てて打ち込まれる。
「その調子です。あと10本!」
 部長の松原葵が自らミットを取って打ち込みの練習に付き合っているのは、マネージャーのはずのひろのだった。道着の数が足りないため、体操服姿で練習をしている。普段ロングスカート&タイツの完全武装を身につけている彼女が生足をさらしていると聞き、どこからともなく男子生徒たちが集まってきたのだ。
「おぉ…この1時間でこれまでの半年分の長瀬さんのブルマ姿の写真が…売れる。こいつは売れるぞぉっ!!」
 そう言って、持ち込んだ小型デジカメで撮影しているのは写真部の面々である。この画像データは爆発的な人気を呼び、写真部に莫大な臨時収入をもたらしたのだが、後に写真部が何者かに襲撃され壊滅した際に失われる。
 それはさておき、打ち込みを終えたひろのは、息をつきながら壁にもたれかかった。そこへ、こちらは息一つ切らしていない葵がタオルとスポーツドリンクを持って近づいてきた。
「お疲れ様でした、先輩」
「あ、ありがとう、葵ちゃん」
 ひろのは礼を言ってそれらを受け取り、汗を拭き、水分を補給した。横に葵が座り、打ち込みの講評をはじめる。
「やっぱり、思ったとおり才能あると思いますよ、先輩。始めたばかりなのに、キックが重いです」
「そう?」
 感心している葵にひろのは首を傾げた。本人は一生懸命蹴っているだけなので、良くわからない。
「えぇ。体重の乗せ方がうまいんでしょうね」
 葵はうなずいた。ひろのはもともと女の子としては筋力が強いし、運動神経も良い方だから素質はあると思っていた。実際のところ、筋力など綾香より上なのだ。綾香が素手でコンクリートなどを粉砕できるのは、「気」を込めているからである。
「ところで、どうして急にエクストリームを習いたい、なんて思ったんですか?」
 葵は尋ねた。そう、この日の稽古はひろの自身が申し出て実現したものなのだ。これまで何度か葵が誘っても、やんわりと断られてきただけに意外の感が強い。
「うん…ちょっと、強くなれたらいいな…って思うことがあって」
 ひろのは答えた。先日のデートも含め、人外の戦いというあまりにも苛烈な状況下とはいえ、自分の無力さを思い知らされる事が多かった彼女にとっては一大決心だった。
「そうですか…何があったかはわかりませんけど、私、精一杯先輩が強くなるお手伝いをしますね」
「うん、ありがとう、葵ちゃん」
 葵の言葉に、ひろのはにっこりと笑ってうなずく。直接笑顔を向けられた葵よりも、端で見ていた男子の部員や見物人(一部女子も含む)がクリティカルヒットを食らい、次々に撃沈された。
(…つ、強くならなくたって良いよ、長瀬さん。その笑顔のほうが最強だよ…)
 そう思いながら萌え尽きていく人々。そうした惨状にも気づかず、ひろのは練習を再開しようとしていた。
 しかし、彼女が別の意味で練習などしなくても最強者足りうる素質を持っていることが、まもなく証明されようとしていた。

「…」
 その頃のオカルト同好会部室。会長たる来栖川芹香嬢は、小さな木の箱を前に悩んでいた。
 ちょうど手のひらに乗るくらいのその箱には、そこら辺にいくらでも生えていそうな何の変哲もないキノコが収められていた。芹香がこうしたキノコを所持していること自体は不自然ではない。魔術において、キノコは薬草の原料、魔法の触媒等さまざまに応用が利く非常に便利なアイテムとして扱われる。
 しかし、食用キノコに酷似した毒キノコが存在するように、魔術に使うキノコにも、似ているが使えない偽物が存在する。芹香が悩んでいたのもまさにそこだった。ある薬を作る必要があって取り寄せてもらったキノコだが、どうも資料に載っているそれとは違うような気がするのだ。
 かと言って、試しに使うこともできない。貴重なキノコのため、薬の作成一回分の量しか無いからだ。
 散々悩んだ末、芹香は思い切って薬を作り始めた。この薬を作ることは、芹香にとっては大事な「誓い」であった。
もっとも…「ようやく約束を果たせる」という思いが、彼女の目を曇らせた、という事は否めない事実かもしれない。

 そして、数日後の日曜日。
 休日の朝というのはひろのが一番好きな時間帯だ。低血圧の彼女にとって、現実と夢の狭間にまどろむ状態はまさに至福の時。この日も、ベッドの上で毛布を抱きしめ、「ふにゅう〜…」と言う気の抜けまくった声をあげていた。
 と、その時。ドアをノックする音が響き、「失礼します」という声とともに真帆が部屋に入ってきた。
「ひろのちゃん、ひろのちゃん、起きて」
 そう言って、ゆさゆさとひろのの身体を揺さぶる真帆。
「うぅ〜…なんですか、真帆さん…今日はお休みじゃないですか…」
 不機嫌そうな声で言うひろの。まぁ無理も無い話ではある。つまらない用事だったらそのまま寝つづけてやる、と思った彼女だったが、真帆に伝言を託した相手はさすがに無視できる人物ではなかった。
「ごめんね。でも、芹香お嬢様の用事だから」
「え?芹香先輩の…?」
 ひろのは上体を起こした。何の用事かはわからないが、これはさすがに起きるしかないだろう。真帆に礼を言うと、手早く着替えを済ませ、本宅にある芹香の部屋へ向かうことにした。
 部屋数が100に達するという言う来栖川邸本宅(ちなみに離れ=長瀬邸は7DK)。その三階の見晴らしのいい場所に、芹香の部屋はある。学校の部室こそ、趣味を優先してオカルチックなインテリアに凝っているが、さすがに自宅の自室はごく普通の部屋。せいぜい蔵書が魔術関係のものだ、という程度である。
「芹香先輩、入りますよ?」
 ノックをして、ひろのは芹香の部屋の扉を開けた。部屋の中では、芹香がソファに座って待っていた。ひろのは怪訝な顔になる。彼女を含め、身近な人間しかわからない芹香の表情の変化。それを、この時ひろのは見て取った。
 緊張しているのだ。芹香が。
「どうしたの?芹香先輩。こんな朝っぱらから」
 ひろのが聞くと、芹香はふるふると首を振り、まずはひろのに座るよう促した。頷いて芹香の向かいに座ると、彼女が自ら淹れてくれたハーブティーをすすった。
「それで…」
 一息つき、改めて芹香の用件を聞きただそうとすると、芹香は一本の小ビンを取り出した。普通の色なしガラスでできているが、だいたい、栄養ドリンク剤のものくらいのビンである。
「?これは…」
 戸惑うひろのに、芹香はおもむろにその正体を告げた。
「…え?男に戻れる薬!?」
 ひろのは驚愕してその小ビンを見つめた。ビンの中を4分の3ほど満たしている薬は、無色透明で一見何の変哲も無い水のように見える。その薬について芹香は説明を始めた。
「…」
「…はぁ、セイベツハンテンダケ…ですか。なんだかストレートな名前ですね。そのキノコからこの薬を作った、と…」
 こくこくと芹香はうなずいた。ひろのは小ビンを手に取り、じっとそれを見つめた。
(…これを飲めば、男に戻ることができる…)
 そう思うと、なんだか感慨深いものがある。しかし、不思議と興奮は無かった。それどころか…
(おかしいな。ずっと…男に戻ることを願っていたはずなのに。どうして嬉しくないんだろう)
 ひろのは首をひねった。頭の中が混乱し、いろいろな考えがとりとめも無く沸いてくる。その中で浮かんできたのは、葵や琴音、マルチ、真帆にセバスチャン、綾香やセリオ…「長瀬ひろの」として築いてきた関係を結んだ人々の顔だった。
(別れたくない…いや、ちょっと待って。私は本来「藤田浩之」なんだから、関係が元に戻るだけ。なんだけど…)
 頭が混乱する。考え込むことしばし、ひろのは決めた。
(元に戻ろう)
 確かに、ひろのとして得た人間関係を失うのはつらい。でも、自分という人間がいなくなるわけじゃない。また改めて関係を築きなおすだけだ。
 今の姿になった時のように。
「先輩…今までありがとう。喜んでこの薬、使わせてもらうね」
 決断したとはいえ、やはり辛いものがある。涙が出そうになるのをこらえて芹香に言うと、彼女もうなずいてくれた。
「じゃあ…」
 ひろのはビンの蓋を開け、中身を一気のどに流し込んだ。全部を飲み干してしまうと、突然、激しい動悸が彼女を襲った。
(こ、これは…くぅっ!?)
 自分の中から違う何かが這い出してくる。そんな感覚とともに、ひろのの意識は闇に落ちた。

「…」
 薬の作用か、いきなり気絶してしまったひろのに、芹香は近寄った。そろそろ効果が出てもおかしくない頃ですが…と思いながら、ひろのの顔を覗き込む。と、その時。
「…!」
 突然、眠っていたはずのひろのが突然起き上がった。その顔は芹香が今まで見たことの無い表情をしている。
「あははははははは!!」
 高笑いをあげるひろの。芹香は自分が何か大失敗を犯した事に気が付いた。その豹変したひろのが、芹香の方を見つめる。まるで、獲物を見る肉食獣の目で。
「…!!」
 芹香の声にならない叫びが部屋中に響き渡った。

 それから数分後、来栖川家の廊下を歩く人影があった。ようやく起きて来た綾香である。
「ふわぁ・・・あ〜あ、日曜の朝ってのは退屈ね。何をしようかしら」
 トレーニングをするのも気が乗らないし…姉さんのところにでも行ってみようか、と綾香は芹香の部屋の前に立った。
「姉さん、入るわよ」
 ノックをしてドアを開けると、そこには意外な人物が立っていた。
「あれ?…おはよう、ひろの。こんなところで会うなんて運命かしらね〜…きゃっ!?」
 いきなり綾香はひろのに抱き寄せられた。
「な、何!?そんな大胆な…って、やぁっ!?ひ、ひろのっ!?どうしちゃったのっ!?」
 ひろのの手が綾香の身体を這い回る。全身をまさぐられ、その奇襲攻撃に綾香は激しく狼狽した。助けを求めようと芹香の姿を探すと、ソファのところで眠っている。…いや、気絶していた。
(姉さんも!?い、いつものひろのと違う…!何があったの!?)
 何とか冷静な思考を保とうとする綾香。しかし、その心の防壁をやすやすと溶かすように、ひろのが綾香の首筋に熱い吐息を吹きかけつつ囁く。
「ふふ…可愛いわよ、綾香」
「え…そ、そんな!あああああぁぁぁぁぁぁっっ!?」
 その瞬間、綾香の意識はどこかへと飛ばされた。

「…(綾香ちゃん、起きて)」
「…はっ!?」
 綾香は目を覚ました。非常に衝撃的な事件があって、意識を失わされたのだが…そう思った途端に意識と記憶がはっきりした。
「そ、そうだ!姉さん、ひろのが!!」
 綾香が言うと、芹香が沈痛な面持ちでうなずき、何かを言った。
「…え?私のせいです…?どういうこと?」
 綾香の質問に、芹香は「ひろのを元に戻そうとした」と言う部分を省いて事情を説明し始めた。
「…で、薬の材料を間違えたと」
 芹香はこくこくと頷いた。ひろのに性別反転薬のつもりで飲ませたあの薬…しかし、芹香が「セイベツハンテンダケ」と思って使ったあのキノコは、よく似た亜種の「セイカクハンテンダケ」と言う毒キノコだった。文字通り、それを摂取した人間の性格を反転させると言う恐るべきキノコである。
「それでひろののほうから襲ってきたのね…」
 奥手なひろのが反転すれば、それは自分から攻めてくる方になるだろう。綾香は納得した。 
「だとしても、経験無いはずなのになんであんなに上手なのよ…この私が気絶させられるなんて屈辱だわ…」
 いきなり反転ひろのに攻撃され、そのあまりの上手さにKOされた綾香。今まで「女の子を手篭めにする」技にかけては並ぶ者なしと自負していた綾香にとって、これは信じられない出来事だった。幸い、ひろのは相手を気絶するまで攻撃しても、それ以上何かをする気は無いらしく、芹香も綾香も気を失ったあとは、さっさとどこかへ行ってしまったようだ。
「って、ちょっと待ってよ。ひろのの性格が反転しているって事は…」
 綾香は危険な事に気がついた。ひろのの性格と言えば、奥手のほかには「善良、内気」と言ったところが列挙される。こんな良い娘が反転したとすると…
「き、危険よ。危険すぎるわ。姉さん、元に戻す方法は無いの?」
 綾香の質問に、芹香はふるふると首を振った。知らない、と言うことだろう。
「…」
「でも、元に戻す方法が無いか調べてみます?…うん、わかった。お願いね、姉さん」
 綾香は頷くと芹香の部屋を飛び出した。

 3階には既にひろのの姿は無かった。2階に降りた綾香は、そこで恐るべきものを目にする。
「こ、これは…!」
 綾香は絶句した。廊下に、何人ものメイドさんが至福の表情を浮かべて倒れている。たぶん、反転ひろの攻撃で倒されたのだろう。試しに部屋の中を改めてみると、そこでも全滅していた。恐るべき威力である。
「信じられないわね…私でもこれは無理だわ」
 綾香がうなっていると、階下から絹を引き裂くような悲鳴が聞こえた。
「あの声は…ロッテンマイヤー!?」
 まさか、あの最強を誇るメイド長まで毒牙にかかったのか。綾香が息せき切って一階へ駆けつけると、玄関ホールに3人の人影が見えた。一人は気絶して倒れているロッテンマイヤー。そしてひろの。もう一人は…
(セバスチャン!)
 綾香は安心した。いかにひろのと言えど…いや、彼女だからこそセバスチャンには敵うまい。何とか取り押さえられそうだ。
(それにしても…)
 あれが、本当に「あの」ひろのなのだろうか。普段はタレ気味の目は吊り上り、口には不敵な笑みを浮かべている。堂々と胸を張り、セバスチャンをにらみつけるひろのは、世の中に怖いものなし、と言わんばかりに強烈な精気を放っている。まさに、別人のようだ。
「ひろの…何故じゃ。何故、お前がこんなことをする」
 信じられない、と言う目で見るセバスチャンに、ひろのはこれまた信じられないくらい見下した態度で言い放った。
「おじいちゃんなんかに用は無いわ。どいて」
 一瞬セバスチャンの顔が真っ赤に染まる。が、自制心を取り戻したのだろう。何とか平静を保つ。
「セバスチャン!ひろのを取り押さえて!姉さんの魔法が失敗しちゃったの!!」
 綾香が階段の上から叫ぶと、セバスチャンは得心が行ったとばかりに頷いてひろのを見た。
「そう言う事か…今元に戻してやるから、おとなしく捕まるのじゃ、ひろの」
 その言葉を、ひろのは鼻で笑い飛ばして一歩進み出た。
「ぬぅ!」
 セバスチャンが一歩踏み出し、ひろのを捕まえようと腕を振り上げる。ところが、その瞬間ひろのは突然泣き出しそうな顔になって叫んだ。
「やめてぇっ!おじいちゃんっ!」
「!?」
 セバスチャンが一瞬硬直する。それが彼の命取りになった。
「…なんてねっ!」
「しまっ…!」
 固まったセバスチャンに、ひろのが踏み込みざまにアッパーカットを叩き込んだ。
「うごはぁっ!?」

 ばごぉっ!…どがしゃあっ!!

「そんなっ!?」
 綾香は呆然となった。今のひろのの一撃は彼女にはまったく見切れなかったのだ。しかも、その威力たるや凄まじいものであった。「あの」セバスチャンが垂直に10メートル以上も打ち上げられ、天井に突き刺さっている。上半身は完全に天井に埋まり、だらんと垂れ下がった足はぴくりとも動かない。
「ふん…男なんてチョロイもんだわ」
 言い捨てて玄関ホールを出て行くひろの。綾香は一歩も動けなかった。
「…か、勝てる気がしないわ」
 全身が熱病にかかったように震え、冷たい汗が滲み出る。今のひろのはまさに地上に降臨した魔神。モラルや良心と言う箍をはずされた人間がいかに恐ろしい存在であるか…それは綾香自身が一番良く知っている。
「こうなったら姉さんだけが頼りね」
 綾香は気を取り直し、どこかへ行ってしまったひろのを探しに行く事にした。既にこの屋敷は全滅状態なので、ひろのが向かうとすれば街の方だろう。

 1時間後、東鳩市の中心街。
「…おおおっ!?」
 人ごみがざわめく。その視線が向く先には、ひろのが歩いていた。
 いつの間に着替えたのか、その格好は普段の露出度を極限まで抑えたものではない。下着が見えないのが嘘としか思えない超々々ミニのキャミソールワンピ。胸は大胆に切れ込んでいて、豊かな胸の谷間を否応なしに強調しまくっている。普段のひろのなら恥ずかしくて一歩も動けないようなそれを、今の女王然とした彼女は大胆に着こなしていた。
「そこの彼女、俺たちと遊ばないか?」
 そこへ、命知らずにも、ひろのをナンパする3人組の男たちが出現した。いつもなら逃げるところだが、ひろのは妖艶に微笑んで見せた。
「良いわよ、ただし、あたしのやり方でね」

「どこへ行ったのかしら…」
 商店街を探し回る綾香。道行く人々にひろのの写真を見せて「この娘を知りませんか?」と聞いていく。すると、中年女性のグループから有力な情報を得ることができた。
「あら…この娘、さっき洋品店の前にいた娘じゃない?」
「そうね。ずいぶん写真とは感じが違うけど」
「まったく、最近の若い女の子はあんなふしだらな格好をして…」
「男を誘ってるようなものよねぇ」
 愚痴になり始めた後半を聞き流し、礼もそこそこに綾香は走り出した。洋品店の近くまで来ると、綾香の耳に悲鳴が飛び込んできた。
「!まさか…」
 綾香がその声の聞こえてきた路地裏に入ると、そこには危惧したとおり、ズタボロにされた男たちの遺骸が転がっていた。二人は折り重なるようにして倒れ、もう一人は頭からゴミバケツに突っ込んでいる。彼らのそばには中身の抜かれた財布が転がっていた。
「…これは惨いわね…とにかく、話を聞きましょうか」
 綾香が「活」を入れると、男たちは息を吹き返した。
「ねぇ…」
 綾香が声をかけようとすると、その途端に男たちは「ひぃっ!?」と言う声をあげて逃げ出そうとした。しかし、この路地は行き止まりだった。そこへ突き当たった男たちはいきなり土下座して必死に哀願を始める。
「お、お願いです!何でも差し上げますから命だけはっ!」
「俺には帰りを待つ16人の子供たちが…!」
「心を入れ替えて真人間になりますから見逃してください!!」
 その有様に、さすがの綾香も哀れみを誘われた。
(ひろの…いったい何をしたの?)
 と思いつつ、男たちにできるだけ優しい声をかける。
「落ち着いて。私はあの娘じゃないわ。いったい何があったのか聞かせてくれないかしら」
 なんとか男たちを落ち着かせ、話を聞いたところによれば、事情はこうだった。
 まず、彼らはひろのをナンパし、これに成功した…かに見えた。ひろのが「良い所を知ってるから」と言われ、のこのこ付いていったのが運の尽き。路地裏に入った瞬間に惨殺され、身包みはがれたのである。
「き、きっと今までナンパしてはポイしてきた女の子たちの祟りだ。これはまじめに生きろと言う天のお告げなんだぁ…!」
 涙を流し、過去の所業を悔いるナンパ男たち。
(ある意味一つの悪を更正させたとは言えるけど…「巨悪」が残ってるわね。急いで見つけなきゃ)
 残念ながら、彼らはひろのの行方については知らなかった。綾香は男たちに迷惑料を払い、再び走り出した。表通りに出たとき、彼女はそこに見知った顔を見つけた。

(久しぶりの街…何もかも懐かしいわ)
 坂下好恵はそう思いながら駅からの道をあるいていた。夏休みを山ごもりの修行にすべて費やし、夢中になるあまり月日のたつのを忘れ、気づいたら始業式から1ヶ月以上も遅れての帰還だった。
(さて、まずは綾香に突きつける果たし状の文面を考えて…って、綾香!?」
 好恵は驚いた。今まさに決闘を挑もうと考えていた相手が現れたからである。
「久しぶりね、好恵」
 親しげに声をかけてくる綾香に対し、好恵は少し身構えながら答えた。
「確かに久しぶりね。ちょうど良かったわ。あんたに決闘を申し込もうと思っていたところよ」
「決闘?受けてあげるわよ。でも、その前にちょっと手伝ってほしいことがあるの」
 綾香の素直な反応と意外な言葉に好恵は驚いた。今まで何度となく綾香へ決闘を申し込んでいたが、その度にはぐらかされ、ひろのがらみの事でしか戦っていなかったからである。それに、あの強気の綾香が自分に頼み事がしたいと言うのも驚きだった。
「どういう事?」
 好恵の質問返しに、身内の恥をさらすことだが仕方なく綾香は事情を説明し始めた。
「長瀬さんが暴走?でも、彼女は…」
 まだまだ一般人レベル、と思っていた好恵だったが、綾香が、セバスチャンをひろのが一撃で倒したことに触れると驚愕の表情を浮かべた。
「セバスチャンって…あの執事の人でしょう?そんな、まさか…」
 彼女もセバスチャンには数回会ったことがある。その時は、「人間、ここまで『強さ』というものを極められるのか」と思ったものだ。そのセバスチャンが、いかに油断があったとはいえ、ひろのに倒された、となると…
「…確かに、厄介なことになっているようね。わかったわ。手伝ってあげる」
 好恵は綾香の頼みを承諾した。好恵だって、良い子のひろのと悪の反転ひろのでは前者のほうが好ましいに決まっている。
「感謝するわ」
 綾香は礼を言うと、ひろのの後を追い始めた。好恵も続く。すると、綾香の携帯電話にメールが届いた。
「あら、姉さんからだわ。なになに…」
 綾香は文面を読み、その内容に愕然となった。
『綾香ちゃんへ あの薬の効果は、飲んだ人に強いショックを与えると消えるそうです。大変だとは思いますが、がんばってください。 姉』
「か、簡単に言ってくれるわね…今のひろの相手に」
 渋い顔になった綾香だったが、次の追伸を見て少し明るい顔になった。
『P.S. お手伝いに神岸さん、マルチを行かせました』
 これはかなり心強い面子だ。しかし、完璧には完璧を期しておく方が良いだろう。綾香はさっそく電話をかけ、さらに3人を戦線に呼び寄せた。

 1時間後、待ち合わせ場所の駅前ロータリーにひろの捕獲&正気化作戦参加兵力の全員が集結した。綾香に好恵、あかり、マルチ、セリオ、葵、計6名。他に、圭子が綾香様親衛隊の強行偵察班を率いて街に散り、情報収集をしている。その気になれば小国の軍隊ぐらい彼女たちだけでも互角以上に渡り合えるだろう。特攻野郎な某チームも真っ青の戦力である。
 しかし、彼女たちの一番好きな人と戦う、と言う過酷な運命に、全員の顔が強張っている。そうした中、自室を本部としてひろのを探している芹香に代わって「ひろのにショックを与える」と言う目的について説明した綾香が全員の顔を見回した。
「…と言う訳で、今のひろのはセバスチャンをも倒したほどの相手よ。ひろのに対しては本気で攻撃できない…と言う人も多いと思うけど」
 ここで綾香は言葉を一度切り、再度みんなの顔を見回す。特にあかり、葵は見ていて気の毒なくらい青ざめていた。綾香はため息が出そうになるのを我慢して続けた。
「本気で戦うのよ。さもないと、ひろのを元に戻すどころか、自分たちが危ないわ」
 綾香は断言した。セバスチャン以上の強敵である反転ひろのを倒すには、この6人で波状攻撃を浴びせるしかない。完全KOする必要は無く、一発ダメージを入れれば良いというのだけが救いだ。
「うん…わかった。これ以上ひろのちゃんに悪いことはさせられないもんね」
 まずあかりが頷いた。さっきから強行偵察班はひっきりなしに反転ひろのによる被害報告を伝えてくる。綾香が出会った3人組同様、ナンパもしくは逆ナンパ後に身包みはがれた男たちや、襲われて悶死した女の子の数は既に3桁に達している。
「がんばってみます」
 葵もなんとか納得した。
「OK。さて、捜索班のほうだけど…姫川さん、聞こえる?」
 頷いた綾香は誰もいない方向に向かって呼びかけた。すると、頭の中に琴音の声が響く。テレパシーだ。
(はい、聞こえます。今、来栖川先輩が探しています)
 
 来栖川邸で、芹香と琴音の二人はひろのを特殊能力で捜索する班を構成していた。芹香が東鳩市中心部の地図の上に水晶で出来た小さな振り子を吊るし、精神を集中させている。ダウジングと呼ばれる捜索系魔法の基本だ。
 これで反応が出たら、琴音のテレパシーを通じて市内各所の綾香様親衛隊員たちに連絡。範囲を絞り込み、発見次第綾香たち戦闘班が急行してひろのを捕獲する。
綾香が考案して編成した、対ひろの用シフトであった。人格はいろいろ問題大有りな綾香であったが、決して愚かではない。とっさにこの位の判断が出来なければ寺女を事実上率いていくことは出来ないのだ。
 やがて、真剣な目で見守る二人の前で、振り子がゆれ始め、次第に円を描き出した。芹香と琴音の目に喜びの色が浮かぶ。ようやくひろののいる範囲を突き止めたのだ。
(聞こえますか?ひろの先輩は北東鳩3丁目付近です!ただちに急行してください!)
 琴音のテレパシーが飛び、一気に事態が動き始める。綾香様親衛隊員たちが全力で北へ向かい、綾香たちもこれに続いた。

「圭子、聞こえる?貴女もだけど、絶対に他の娘たちをひろのに近づけちゃだめよ。絶対に勝ち目は無いわ」
 走りながら圭子と連絡をとる綾香。彼女も貴重な戦力だ。できれば対ひろの戦には参加して欲しい。
『了解しています。見つけても迂闊に近づかないようみんなには徹底して…えっ!?』
「どうしたの?見つけたの!?」
 圭子の様子が変わったことに気が付き、呼びかける綾香。電話の向こうで圭子の喜びに弾んだ声が聞こえた。
『はい、3班が長瀬さんを見つけたそうです!今尾行中と報告がありました』
「でかしたわ!見失わないようにと伝えて!」
『はいっ!』
 その後、詳しい場所の連絡とともに通話が切れる。喜び勇んでひろの捕獲に向かった綾香たちだったが、それから5分も経たないうちに今度は悲報が相次いで入り始めた。
『こちら田沢です。3班が全滅しました…長瀬さんに気づかれたようです。…え?2班と4班も全滅!?』
 圭子自身が率いる1班を除く他の強行偵察班は立て続けに全滅してしまったらしい。彼女たち強行偵察班は寺女の武道部系の生徒を集めた精鋭ではあるが、反転ひろの相手では荷が重すぎたようだ。しかし、彼女たちの犠牲は無駄ではなかった。
『でも、位置は完全に特定できたと思います。3丁目の河川敷のあたりだと思います』
 圭子が推論を述べる。綾香も頷いた。
「あの辺なら見つけやすいわね…わかったわ。圭子はこっちに合流してちょうだい。いっしょにいる娘たちは全滅した班の回収にまわして」
 圭子が了解すると同時に通話を切り、今度は芹香と琴音を呼ぶ。位置が特定されつつある以上、もう捜索・連絡に専念してもらう必要はない。
 綾香たちが河川敷に到着すると同時に3人も合流し、いよいよ決戦の時が迫ろうとしていた。

 河川敷の多目的グラウンド(ただの空き地とも言う)に、彼女はいた。沈み行く夕日を背負い、不敵な笑みを浮かべたひろのは、集まった9人を前に恐れる様子も無く口を開いた。
「遅かったわね」
 露出度の高い彼女の格好に萌え&ショックを受けつつも、9人を代表して綾香が口を開く。
「待ち受けていた…って言うの?」
 ひろのは頷いた。
「そうよ。どうにも世間の人たちは手ごたえが無くてね〜綾香たちなら少しは遊べるでしょ」
 今日一日だけで膨大な犠牲者を出している反転ひろのは、悪びれた様子も無く言い放つ。その様子に、あかりたちはショックを受けると同時に、何としてもひろのを元に戻さねば、と決意した。
「悪いけど、遊びにはしないわ…」
 綾香が戦闘体制に入り、好恵、葵、あかり、圭子、セリオの接近戦担当もそれぞれに構えを取る。ひろのは腕組みをし、見下したような態度で彼女たちを見ているだけだが…
(…隙が無い)
 6人の額を汗が伝う。もともとひろのに素質があることは綾香や好恵、葵などの武道家たちは知っている。しかし、これほどとは思わなかった。自分の能力に懐疑的であることが、ひろのの秘めた素質を強固に封印していたらしい。
「…来ないの?ならこっちから行くわよ」
 ひろのが焦れたのか、そう言うや地を蹴った。一瞬で間合いを詰め、まずはあかりに襲い掛かる。
「…えっ!?…はぁうんっ!?」
 一撃であかりが崩れ落ちた。どうやら、的確に「急所」を攻められたようだ。頬をピンク色に上気させ、ぴくぴくと震えるあかり。
「神岸さん!?くっ!!」
 均衡が破れ、残り5人は一気にひろのに攻めかかった。綾香の拳、好恵の蹴り、葵の掌底、セリオの手刀、圭子のトンファーが凄まじい速度で振るわれる。しかし、そのことごとくが空を切る。
「!!」
 ひろのは宙に飛んでその包囲網をかわしていた。着地と同時に芹香、琴音に向けてダッシュ。この2人を先に倒そうと言う気らしい。
「はわわ、させませぇん!!」
 2人を守る位置に立ったマルチがゴムスタン弾を装填したバルカン砲の弾幕を張った。ひろのはそれをあっさりかわすが、琴音と芹香が空中へ逃げる時間稼ぎにはなった。空中浮揚する琴音に掴まりながら、芹香が電撃魔法を唱える。威力はスタンガン程度だが、かわりに連発が効く。これもひろのは回避した。そこへ、好恵と圭子が追いすがる。
「もらった!」
 二人の攻撃がひろのの後頭部へ殺到する。しかし。
「甘いっ!!」
 ひろのの身体が竜巻のように旋回し、超高速の回し蹴りが好恵を吹き飛ばした。圭子がそれに巻き込まれ、地面に叩き付けられる。
「な、何てこと…」
 綾香は唸った。9対1なのに、明らかにひろののほうが優勢だ。一発攻撃を与えれば良いだけなのに、それすら許そうとしない。
「それでも…やるしかないのよね」
 葵とセリオを引き連れ、再びひろのとの接近戦に持ち込む。大技は狙わず、手数で押し切る作戦を取り、3人がかりで猛ラッシュを浴びせ掛ける。さすがにさっきのようにすべてをかわすことは無理だが、それでもひろのは上手くガードしてダメージを防いでいた。それでも時間がかかればひろのにダメージを与えることは無理ではなかったかもしれないが…
「…いけません、電圧が…」
 激しい機動を続けてきたセリオが電圧低下を起こし、セーフモードに移行。戦線を離脱してしまった。これで戦力は2対1。芹香、琴音、マルチは誤射を恐れて攻撃ができない。そして、戦力が減ったことは防戦に徹していたひろのにも攻撃のチャンスを与えた。
「…はっ!」
「きゃうっ!?」
 ひろのの通背拳が葵を捉え、彼女をKOした。これでとうとう1対1である。しかも、今度は逆にひろのが全面攻勢に討って出てきた。綾香のブロックの上からでもダメージを与える重い一撃が続けざまに飛んでくる。
(ま、まずい…このままじゃ押し切られる!!)
 綾香が敗北を覚悟したとき、突然ひろのの動きが緩慢になった。
「…!」
 芹香が何かを叫んだ。綾香は一瞬そっちを見て、何が起きたのかを理解する。芹香が呪いの人形を握り締め、ひろのの動きを止めていたのだ。
「今のうち、って事ね!」
 綾香はひろのに向き直り、首筋を狙ってチョップを放とうとした。しかし。
「まだまだっ!」
 ひろのが叫ぶや否や、芹香の人形が弾け飛んだ。同時に芹香の動きが完全に止まる。呪いを返されたのだ。
「そんな!?」
 自分の格闘はともかく、芹香の魔術は右に出るものが無い実力だったはず。それが力ずくで打ち破られるとは。信じられない光景に、綾香までが呪われた様に動きを止める。
「惜しかったわね!」
 逆にひろののパンチが一直線に綾香に飛んだ。慌てて意識を覚醒させるが、もう遅い。避けられるタイミングではない。
(終わった…?)
 綾香の直前までパンチが迫った瞬間、突然それが遠ざかった。目標を見失ったパンチが空振りし、ひろのが体制を崩す。
「今です、綾香さん!」
 琴音の声。しかし、次の瞬間「邪魔しないで!」と叫んだひろのが放った気弾の一撃が琴音を昏倒させていた。
 どうやら、今のは琴音がテレポートで綾香を少し後ろに転移させてくれたらしい。事情を悟った綾香は、体制を元に戻そうとしているひろのめがけてダッシュした。
「ありがと、姫川さん!!」
 倒れた琴音に礼を言いつつ、綾香はチョップを振り下ろした。崩れた体制のままながら、それをクロスさせた腕でひろのが受け止める。まだまだ、と言う感じで綾香を見上げるひろの。しかし、次の瞬間。
「えいっ!」

ぱこんっ!!

「はうっ…」
 軽い音とともに、ひろのが意識を失って倒れた。背後に、モップを構えたマルチが立っている。火力支援組とはいえマルチは接近戦もこなす。芹香の指示で上手くひろのに近づき、背後を取ったのだ。隙さえ掴めば、ひろのを気絶させるくらいマルチにとっては朝飯前だった。
「ふぅ…よくやったわ、マルチ」
「…」
 辛うじて生き残った来栖川姉妹に頭をなでられ、「はぅ〜」と気持ちよさそうな声をあげるマルチ。
「それにしても…恐ろしい強敵だったわ。まったく驚きね…」
 綾香は完全に気を失っているひろのに活を入れた。しばらくして、「うぅ〜ん」と言う声をあげ、ひろのは目を覚ました。
「こ、ここは…」
 状況が理解できず、しきりに頭を振っているひろのに、綾香が声をかける。
「河川敷よ。大丈夫?ひろの」
 ひろのは綾香に顔を向けた。その顔は普段の彼女だ。あの反転ひろのの邪悪さは微塵も感じられない。
「河川敷?何でそんなところに…確か先輩の作った薬を飲んで…うぅ、思い出せない」
 どうやら、反転時の記憶は残っていないらしい。綾香たちはほっとした。もし覚えていたら、ひろのの性格からして自分がやった悪事に耐えられるはずがないと思えたからだ。
「あとで話すわ。それより、みんなを起こすのを手伝って」
「起こすって…ええっ!?」
 そこで、初めてひろのは周囲の惨状に気づいたらしい。あかり、葵、好恵、圭子、セリオが意識を失って倒れ、綾香も手酷くダメージを負っている。
「な、何があったの?」
「それもあとで話すわ」
 綾香はごまかしながら好恵を起こす。ひろのも訳がわからないながら、あかりたちを起こした。
「あかり、しっかりして」
 ひろのにぺちぺちと数回頬をたたかれると、あかりは目を覚ました。そして、ひろのが元に戻っているのを確認して抱きつく。
「きゃっ!?」
「ひろのちゃん、良かった…!元に戻ったんだね!!」
 そこへ、やはり復活した葵や琴音も飛びつく。
「良かった!元の先輩です!」
「心配しましたよ、ひろの先輩!!」
 肝心のひろのは訳がわからず混乱する一方だ。
「え?え?ええっ?ちょ、ちょっと誰か!事情を説明してよぉ〜!!」
 その大騒ぎを眺めつつ、綾香は芹香の横に腰を下ろした。
「さて…姉さん、何のつもりでひろのに薬を飲ませたのかじっくりと伺いましょうか」
 いつものポーカーフェイスに、かすかに汗を浮かべる芹香。まさか、性別反転薬の失敗だとは口が裂けてもいえない。どうやってごまかそうかと必死に考える芹香だった。

(つづく)

次回予告

 秋の大きなイベントの一つ、学校の文化祭。我等が東鳩高校も来るべき文化祭に向けて準備を開始した…が、ひろのたち2−Aではクラスの出し物を何にするかで早速紛糾する。  文化祭はまだ始まってもいないのに、ちゃんとクラスはまとまることができるのだろうか?
 次回、第三十話 シリーズ熱闘文化祭@「出し物論争」。
お楽しみに

あとがき代わりの座談会 その29

作者(以下作)「今回は激戦だったな…しかし、今日はひろのの奴、来るのが遅いな」

どげしっ!(椅子を蹴る音)

作「ぐはっ!?な、何するんだ、ひろの!って、お前は!!」
反転ひろの(以下反)「ムカつくから蹴っただけよ。何か文句ある?」
作「ムカつくってお前…」
反「うっさいわね!今回だけであたしの出番は終わりよ!あの橋本のバカより扱いが悪いのよ!?この不満をぶつけられるのはアンタしかいないでしょうがっ!!」

げしげしげしげし…(蹴りを乱打)

反「作者が動かなくなったわね…まぁ良いわ。今回はこのコーナーはあたしが仕切るわよ。
 多分信じてなかったと思うけど、今回は最終回じゃなくてちゃんと続きがあるわ。ま、あたしにとっちゃどうでも良いけど。
 今日出てきたセイカクハンテンダケってのは、あたしの故郷って事になってる隆山のとある金持ちの庭にしか生えてないと言われる逸品よ。悪用するのは危険だから素人さんにはお勧めしないわ。
 個人的には綾香か坂下さんみたいのに食べさせるべきだと思うのよね。少しは普通になると思うわ。あたしが言えた義理じゃないけど。
 この間から表のあたしも含めて、「ひろのが人外化してる」って言う感想を抱く人がいるかもしれないけど、島の風呂場でセバスチャンをぶっ飛ばした実績は伊達じゃないわ。表のあたしもその気になればこのくらいの芸当は朝飯前よ。ま、あたしと同一人物とは思えないくらい大人しくなっちゃったから無理だと思うけどね。
 そろそろ言うこともなくなったわね…あ、そうそう。できれば感想には「反転ひろの」…つまりあたしの再登場を希望してくれると嬉しいわ。っていうか希望しろ。さもないと死ぬことになるわよ。
 それじゃあね」

 反転ひろの、立ち去る。あとには虫の息の作者だけが…

収録場所:三丁目の河川敷


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