※主人公の長瀬ひろの嬢は魔法で女の子にされてしまった浩之ちゃんです。


前回までのあらすじ

 学校裏山の神社で行われた葵と好恵の、葵の夢とひろのの身柄を賭けた勝負は、葵の勝利に終わった。とりあえず葵の夢は守られたわけである。しかし、葵の特訓のお礼に綾香とデートする事になっていたひろのの危機はまだまだ続く。果たしてデートは無事に済むのだろうか。

To Heart Outside Story

12人目の彼女

第十一話

「地獄のカオスでーと(前編)〜凶星、集う〜」


「なんだか楽しそうですね、長瀬先輩」
 部活を終えたひろのが、後輩のエクストリーム部員からそう言われたのは、水曜日の事だった。
「え?そうかな?」
 ひろのは答えた。後輩はうんうんと頷く。
「えぇ、さっきから鼻歌なんか歌っちゃって。何か良い事でもあるんですか?」
 ひろのは頷いた。
「うん。今度の日曜日に東鳩ファンタジアパークに遊びに行くんだ」
 すると、後輩は驚きに目を見張った。
「TFPにっ!?まさか、デートですかっ!?」
 その大声に周囲から視線が集まる。
「あはは。違うよぉ〜。相手も女の子だからね」
 ひろのが手を振って否定する。しかし、この話はひろのの一挙手一投足に注目している連中には光の速さを超える勢いで伝わったのだった。

 長瀬ひろのの身柄と貞操を守る事を目的とした東鳩高校内部の秘密結社「長瀬ひろの保安協会(略称:NHK)」の本部。この日、校内某所にあるこの部屋に、議長である<ウィッチ>の非常召集によってメンバー全員が集結していた。
「何が起きたんですか?<ウィッチ>先輩」
 手を挙げたのはアッシュ・ブロンドの髪を持つ会計の<ドルフィン>。書記の<リボン>も何時に無く緊張した<ウィッチ>の雰囲気に、自らの緊張を隠せない。
 やがて、<ウィッチ>が口を開いた。
「…」
 その余りにショッキングな内容に、<リボン><ドルフィン>とも身体が震えるほどの衝撃を受けた。
「ひ、ひろのちゃんが…」
「長瀬先輩が…デート!?」
 既にデータが歪んでいた。まぁ、綾香の視点では間違っていないのだが…2人ともそれだけを絞り出すように言うと、沈黙する。重苦しい空気が部屋を覆った。たっぷり五分ほどそれが続いた後、おもむろに<リボン>が口を開いた。
「誰なんです…?相手は…場合によってはその男の滅殺も考慮しなくてはいけないと思うんですけど」
「そうです!滅殺すべきです!!」
 普段の<リボン>、もしくは彼女の素顔を知るものであれば、信じられないほど冷徹で非情な発言が為される。<ドルフィン>も同調した。
 しかし、<ウィッチ>はふるふると首を横に振ると、傍に控えていた秘書の<ドール>に何事かを命じた。
「はわわ…では、相手の方について報告させていただきますですぅ」
 そう言うと、<ドール>は一組の書類を<リボン>と<ドルフィン>に配った。その資料をめくって、NHKメンバーの象徴たるとんがり頭巾の下で2人は顔色を変えた。
「これは…!この人は!!」
「まさか!?」
 一斉に<リボン>と<ドルフィン>の視線を向けられた<ウィッチ>は、こくこくと首を振って2人の考えを肯定する。
「…しかし、相手が女性ならそれほど心配ないのでは…?」
<ドルフィン>が言った。しかし、資料の続きを見ていた<リボン>が即座にそれを否定する。
「ううん。これは…却って男の人よりたちが悪いよ」
 そう言って、<ドルフィン>に先を読むよう促す。応じて読み始めた<ドルフィン>はそこに記された情報に愕然となった。

来栖川 綾香 年齢17歳
格闘技大会エクストリーム女子無差別級女王。戦闘力評価…SSS
西園寺女学院所属 属性百合。同校においてほとんどの美少女を自分の支配下に置き、<ハーレム>を形成。
好きなもの…アイスクリームと、何よりも可愛い女の子
特徴…非情にして狡猾、かつ偽善者。狙った獲物の前では決して本性を見せない。
危険度評価…SSS+

 ちなみに、NHK独自の評価法では最低がEランクで、以後D、C、B、A、S、SS、SSSと上がり、それぞれにプラスマイナスと符号無しの3段階があるので、24段階評価と言う事になる。つまり、綾香の戦闘力判定は上から二番目、危険度は最高と言う事だ。
 なお、NHKメンバーには危険度評価はないが、戦闘力は<ウィッチ>がSSS、<リボン>がS−、<ドルフィン>がS+、<ドール>がSSである。
「こ、これは…」
<ドルフィン>は顔を上げた。<ウィッチ>も<リボン>も頷く。
「…」
「はわわ、綾香さんがひろのさんを狙っているのは確実で、その場合デートと言いながら最終的には【検閲により削除】な展開に持ち込もうとする事は確実だという事ですぅ」
<ドール>が<ウィッチ>の言葉を翻訳する。ひろの自体の戦闘力評価はEマイナスで最低なので、もし力技に持ち込まれたら勝ち目は皆無。しかも、綾香を友人として信頼しているようなので、自分に迫る危険には気が付いていないだろう。
「…」
「はわわ、問題は、ひろのさんが綾香さんとのデートを嫌がってなくて、むしろ楽しみにしている事です、だそうですぅ」
 これにはさすがの<リボン>と<ドルフィン>も「どうしよう」と言う気持ちになった。彼女たちNHKはひろのを守る事が目的だが、同時に彼女の意志をできるだけかなえてあげる事も大きな目的だからだ。
 再び、重苦しい空気が部屋を覆った。たっぷり五分ほどそれが続いた後、おもむろに<リボン>が口を開いた。
「仕方が無いね…ひろのちゃんの望んでいる事なら、デートを認めるしかないよ。でも…あくまでも健全な範囲に留めるように監視しなくちゃいけないと思う」
<ドルフィン>もうなずいた。
「長瀬先輩を守り、平和裏に事態を終わらせる…それを最大の目的にしましょう。確かに綾香さんは強敵のようですが…いざとなったらみんなでかかれば何とかなるでしょうし」
<ウィッチ>が頷いた。どうやら、彼女の考えにも一致する意見だったらしい。
「…」
「では、その<リボン>さんの意見を採択して、本日は閉会します、だそうですぅ。くわしい作戦の詰めは明日から、だそうですぅ。お疲れ様でした」
「「お疲れ様でした」」
 こうして、まず一組目の阻止者が立ち上がった。

 夜、来栖川邸離れ(長瀬家)。
「おじいちゃん」
 セバスチャンは突然呼び止められた。
「おお、ひろのか…って、どうしたんだ、その格好は…」
 振り向いたセバスチャンは、ひろのの服装を見て驚いた。
 頭には黄色いリボンをアクセントにした草色のベレー帽。明るい空色のワンピースに、純白のベストを合わせた可愛らしい服装だ。
「今度、綾香さんと東鳩ファンタジアパークに遊びに行くから、その時のために買ってきたんだ。似合うかなぁ?」
 そう言ってにっこりと微笑む。必殺の「1000万ドルの笑顔」だ。ちなみに、この上位技として「無自覚の誘惑」と言う技があるらしい。命名はNHKである。
「…」
「おじいちゃん?」
 固まったセバスチャンにひろのが声を掛ける。
「…はっ!?あ、あぁ…良く似合っているぞ、ひろの。思わず見とれてしもうたわ」
 セバスチャン再起動。
「そう?良かった。じゃあ、おやすみなさい」
 再び1000万ドルの笑顔を炸裂させ、ひろのは部屋に戻っていった。セバスチャンは溜息を付く。
「困ったのう…あんなに楽しみにしておっては止める事もできんし、ひろのはどうやら綾香様の事を信頼しているようじゃし…」
 しかし、綾香の性癖と所業の数々を知っているセバスチャンとしては、安心などできるはずも無い。
「こうなったらワシも付いていって…そうすれば綾香様とて無体な事は…いや、それではひろのが嫌がるかも知れん…むぅぅ…」
 廊下の真ん中で考え込むセバスチャン。そこへ、仕事を負えた真帆が通りがかった。
「…セバスさん、何をされてるんですか?」
「…お?安藤君か。いや、ちょっと考え事をな…」
 真帆なら信頼できるだろうと考えたセバスチャンは、ひろのと綾香のデートに付いて話した。すると、真帆はこともなげに答えた。
「やはり、尾行でしょう」
「なに?尾行じゃと?」
 セバスチャンが鸚鵡返しに返す。
「ばれないようにこっそりと後を追っかけていって、間違いが起きそうになったら防げば良いんですよ」
 真帆は自信たっぷりに答えた。しばらく考えて、セバスチャンは頷く。
「そうか…それしかないな。わかった。ありがとう、安藤君」
 すると、真帆は思いがけない事を言い出した。
「いやぁ、お礼は良いですよ。その代わり、私も連れていって下さい」
「な、なんじゃと!?」
 真帆の提案に仰天するセバスチャン。しかし、真帆は理由を説明する。
「だって、場所が東鳩ファンタジアパークですよね。セバスさんくらいの年代の男性が1人で行くなんて不自然極まりないですよ。その点、女の子の私がいれば少しはカバーになります」
 セバスチャンはパーク内に一人たたずむ自分を想像した。家族連れやカップルの笑いさざめきの中に、ただ一人、タキシードを着込んで立っている自分…
…少し、寒かった。
「…た、確かに。では、頼まれてくれるかね、安藤君」
「はいっ!喜んでっ!!」
 元気良く答える真帆。これで、日曜日は仕事を休んで遊びに行けると心の中でガッツポーズを取っていた。
 こうして、二組目の阻止者も立ちあがった。

「なんだって!?長瀬さんがデートっ!?」
 昼食の途中で悪友・矢島の持ってきた情報に雅史は叫んだ。
「どこでそんな話を?」
 雅史の問いに矢島は答えた。
「あぁ、ダチが一人エクストリーム部にいてな。長瀬さんが日曜日はTFPでデートだよって話していたのを聞いたらしいんだ」
 TFP…東鳩ファンタジアパークの略である。矢島の答えに雅史は腕を組んだ。
「そうなんだ…とすると信憑性は高いね。で、相手は分かるの?」
「それが、あの来栖川先輩の妹さんらしい」
 雅史は拳を握り締めた。
「何てことだ。最近出番が無い間にそんな事になっていたなんて…ん?」
 雅史は矢島情報の一部に引っかかるものを感じて訊ねた。
「ねぇ、矢島。今、『来栖川先輩の妹』って言わなかった?」
「…言った」
 矢島は沈痛な表情で答える。
「…矢島…まさかとは思うんだけど、長瀬さんってもしかして…百合…」
「…かもしれん」
 矢島はやはり沈痛な表情で答える。瞬間、雅史の周囲にだけ極寒の吹雪が荒れ狂った。
「さ、佐藤っ!?眠るな!眠ったら死ぬぞ!!」
 矢島は凍り付きかけた雅史に平手打ちを食らわして辛うじて蘇生させた。
「…はっ!?あ、ありがとう…矢島…」
「いや、良いんだが…佐藤、落ち込んでいる間はないぞ。もし長瀬さんがそうなら、俺達の手で正道に戻してやる…それが愛じゃないか」
 その矢島の一言に、雅史は思わず拍手したいほどの感銘を受けた。
「おぉ…今のはかっこよかったよ、矢島」
「ふっ…よせよ。照れるじゃないか」
 矢島はそう言ってカッコ付けた笑いを漏らす。
「そうだね、よし!日曜日はその現場に行って、何とかして長瀬さんを正道に戻すんだ!」
「その意気だぜ!佐藤!」
 盛り上がるバカ2人。だが、次の瞬間雅史はある事に気が付いた。
「でもさ…現場って遊園地だっけ?男2人で行くのってかなり寒いよね」
 瞬間、矢島の周囲にだけ極寒の吹雪が荒れ狂った。
「わっ!?矢島ぁ!寝ちゃ駄目だ!寝たら死ぬよっ!!」
 雅史は凍り付きかけた矢島に平手打ちを食らわして辛うじて蘇生させた。
「…はっ!?す、済まねぇ…佐藤…」
「いや、良いんだけど…」
 すんでのところで凍死を免れた矢島は思った。この学校には漫画部の岡田美奈子をはじめとして、同人大好きな重度のカップリング症候群患者がいる。もしそう言う連中に「男2人で遊園地へ行った」などという話がばれれば、この夏本にされて売られるのは目に見えている。
(それだけは避けなくては…そうだっ!!)
 矢島は指を鳴らした。
「良い考えがある。とりあえずそれは後で話すが…とにかく、デート阻止だけはやるぞ」
「了解」
 こうして、三組目の阻止者も動き出す。

 東鳩高校、屋上にて。
「どう言う風の吹き回しだ?君が俺を屋上に呼び出すなんて。お互い趣味ではないと思っていたが?」
 問いかけたのは橋本だった。そして、彼を呼んだのは好恵である。
「頼みがあるのよ」
 好恵は言った。橋本の目が細くなる。
「頼み…どう言う事だ?」
 その問いに、好恵はひろのと綾香のデートの事を話した。そして、それを阻止する事も。
「で、遊園地に行くのに一人じゃちょっと寒いからね。アンタに協力して欲しいのよ」
「…ちょっと待ってくれ」
 橋本の顔は恐怖に歪んでいた。
「あの娘にはとんでもないバックがついている…俺は嫌だぜ。いくらあの娘が魅力的でも命あっての物種って奴だ」
 すると、好恵は橋本にとって思いがけない事を言った。
「その、NHKって連中は私が始末しても良いわ。とにかく、私一人じゃ何も出来ないからアンタに頼んでいるのよ。場合によってはアンタがひろのさんを連れていっても良いわ」
 どうせ、あんたならすぐに始末してひろのをとり返せるし、とこれは口に出さずに心の中にとどめておく。
「それなら…悪くはない話だが」
 橋本は考えた。確かに好恵の強さは卓越している。が、あの4人には勝てないだろう。しかし、何人かを道連れにするくらいはやるはずだ。その間に遠くへ逃げれば良いのだ。
「よし、良いだろう。手伝ってやるよ」
 二人は握手した。こうして、打算一本槍の4組目の阻止者も結成された。
 かくして、全ての矢はTFPへ向けて放たれる。

 瞬く間に一週間が過ぎ、遂にデートの当日である。
「それじゃ、行ってきま〜す」
「うむ、楽しんでこい」
 例の服に着替えたひろのが手を振って玄関を出ていく。それを見送り、セバスチャンは引き返すと真帆の部屋をノックした。
「安藤君、ひろのが出かけたぞ。ワシらも用意した方が良いかね?」
 セバスチャンが真帆を呼ぶ。すると、私服に着替えた真帆が出て来た。萌黄色のトレーナーにオレンジ色のジャンパーを羽織り、下はジーンズ、という目立たないけど行動的な格好である。
「こっちは良いですけど…長瀬さん、まさかその格好で行く気ですか?」
 真帆はセバスチャンの全身を見た。何時ものタキシードのままである。
「…いかんかの?」
「当たり前です」
 真帆は即答した。服と言うとほとんどこれしか着ていないセバスチャンには分からない話だった。
「まぁ…そうじゃないかと思って、あらかじめ服を用意しておいてありますから、着替えて下さい」
 真帆は服の入った紙袋を差し出す。
「うむ?あ、あぁ…済まんのう」
 セバスチャンは受け取った服を眺めてみる。濃緑色のカットソーに白のズボン。紺のベースボールキャップにサングラス。
「…これ、ワシに似合うのかのう」
 首を傾げるセバスチャン。
「まぁ、良いじゃないですか。それより急がないと追いつけなくなりますよ!」
「う、うむ」
 こうして、セバスチャン+真帆組は出発した。

 一方、TFPでは…
「うわ、しまった…もうかなり並んでるな」
 TFPの正門が見える角で矢島が言う。時間は開門直後、入場が始まっているにもかかわらず500メートル近い大行列ができていた。
「だからもっと早く来ようって行ったじゃない」
 髪をツインテールに分けた、ちょっと気の強そうな少女が文句を言った。矢島の女友達にして悪友の岡田美奈子。漫画研究部所属。今日は少し上気した顔を隣の少年―雅史に向けていた。
 以前、東鳩高校の人気男子上位陣の話に少し触れたが、雅史も上位五人の中に入る人物である。特に年下・弟属性の女の子にとっては理想の男性に近い。岡田もそうした雅史ファンの一人だった。というか、彼を題材にしてやおい本を書いている最右翼のファンである(爆)。
「まぁ、良いじゃない。私は気にしないよ〜」
 気の抜けたような喋り方をするのは、岡田の友達の松本ちとせ。見るからにぽや〜んとした少女である。が、今日は矢島の事をもじもじと見ていた。
 実はこの2人、家が近くて幼馴染みで、松本が一方的に矢島の事を想っていると言う、どこかで聞いたような関係なのだった。
 矢島の「良い考え」…それは、この二人を連れてくる事で「野郎二人で遊園地」という事実の寒さを少しでも和らげようというものだった。
「…矢島」
 雅史が小声で友人を呼ぶ。
「なんだ?」
 振り向いた矢島に雅史は言った。
「ちょっと…あの二人には悪い気がするよ。そりゃ僕だって男二人だけは嫌だけど」
「何を言っているんだ、佐藤」
 矢島が額に青筋を立てて言った。
「目的のためには手段を選んではいられないんだ。長瀬さんのためなら、岡田や松本さんでも利用できるものは使い尽くす!」
 雅史は友人の意外な一面を見る思いだった。
「矢島…結構鬼だね」
「ふ…まぁな」
 誉めたわけではないのだが、矢島はニヤリと笑った。
「2人ともぉ、何コソコソ話してるの?」
 松本が言う。口調では分からないがちょっと膨れていた。せっかく矢島が誘ってくれたのに、肝心の彼が自分をあんまり構ってくれないのでは面白いはずがない。
「ん?いや、なんでもないよ」
 誤魔化して、バカ二人は列に復帰した。女の子二人に合わせつつも、目ではひろのを探している。
「あ、あそこだ!」
 やがて、十分ほどして雅史がひろのを発見した。
 ひろのは入場ゲートのそばにある並木の幹に背を預け、腕時計をしきりに見ていた。すると、小走りに彼女に近寄る影があった。長い黒髪をなびかせ、風のような速度で走る少女。もちろん、綾香だった。
「…あれが待ち合わせの相手か。なかなか可愛い娘だな。さすが来栖川先輩の妹、という所か…」
 矢島が綾香を値踏みする。ひろのの所まで走ってきた綾香は、ひろのに何かを話し掛け、ひろのはそれに微笑んで答えると歩き始めた。列に並ぶのかと思いきや、そのまま入場ゲートに向かっていく。
「あれ…?何っ!?」
 雅史と矢島は驚愕した。綾香が何かを見せると、二人はあっさりと開場前のゲートを潜って中へ入っていったのだった。
「どう言う事だ?」
 雅史と矢島は顔を見合わせて首をひねった。その様子を、松本がつまらなそうに、岡田は主に雅史を題材にするところはないかと熱心に見ている。そして、そのためにさらに4人ほどが同じようにして園内に入っていった事には彼らが気がつくことはなかった。
 所変わって、こちらはTFP園内。園内の真ん中にあり、全部のコーナーに通じているセンターモール部分である。
「ねぇ、綾香、さっき何を見せたの?」
 ひろのは、さっき入園時に綾香が見せたカードの事を聞いた。そのカードを見るや否や、ゲートの係員がやたらと丁重な態度で二人を優先入園させてくれたからである。
「ん?あぁ、あれ?実はこの遊園地ウチの出資でね。私もその縁で年間無制限の入場パスもらってるのよ」
 綾香は種明かしをした。
「ふぅん。さすが天下の来栖川グループ」
 ひろのは感心した。
「と言うわけで、買い物だけじゃなくて遊ぶ事もできるから、適当に買ったら遊ぶわよ」
「おーっ!」
 2人はまずショッピングスクエアに向かって歩いていった。

 その背後にある街路樹の後ろから、ぴょこんと顔が飛び出した。次いで、3人が顔を出す。芹香、あかり、琴音、マルチの4人だった。なぜか、4人とも似合わない事はなはだしいサングラスを装備しており、その怪しげな行動と雰囲気に、思わず周囲の人々が避けて通る。
「今のところ、何も怪しげな行動はしてないね」
 あかりが言った。後の3人もこくこくとうなずく。ちなみに園内で一番怪しいのは彼女たちであるが、その事に対する自覚は全く無いらしい。
「…」
「え?でも、いつ直接行動に出るか分からない?了解です。見失わないようにしましょう」
 琴音が芹香の言葉を確認する。4人は街路樹の影から瞬間移動するように建物や植え込みの影へ移動しながらひろのと綾香を追っていった。
 ひろの・綾香組と芹香チームが通過してから10分後…
  「ひろのたちはどこに行ったのかのう」
 やってきたのはセバスチャンと真帆のコンビだった。カジュアルな格好のセバスチャン、意外と様になっている。真帆との組み合わせはやはり「おじいちゃんと孫娘」と言う風情だ。
「そうですねぇ。一番人気のアトラクションは<グレート・ライトニング・キャニオン>って言うジェットコースターらしいですけど。そこにいけば見つかるかもしれませんよ」
 名前だけでは見当も付かないアトラクションに、セバスチャンが首を傾げる。
「良く分からんが、そこに行けば良いのか?」
「はい。方向は…あっちですね。では行きましょう」
 セバスチャン・真帆組は<グレート・ライトニング・キャニオン>に向けて進んで行く。ちなみに、方角はひろのたちの現在地、ショッピングスクエアとは正反対だった。

 そして更に40分後。
「やっと入れたか…」
 大行列に並び、ようやく入場できた雅史・矢島・岡田・松本の4人組がセンターモールへやってきた。
「さて、女の子が喜びそうな場所はどこかな?」
 雅史が言った。すると、岡田がすかさず地元情報誌「東鳩ウォーカー」の最新号を出した。TFP特集が載っているのである。
「う〜ん、やっぱり<グエンディーナの魔女のお城>かしらね?」
<グエンディーナの魔女のお城>はTFPのシンボル的な建物で、中はポプリやアロマテラピーなどのお店になっていると言うアトラクションである。
「よし、じゃあまずはそこに行ってみよう」
 矢島も賛同し、4人は城へ向かって行った。<グレート・ライトニング・キャニオン>よりはマシだが、これもショッピングスクエアとはだいぶ方向が違う。
 10:10現在、まだ被害は出ていない。

 その頃、ひろのと綾香はショッピングスクエアで服を見ていた。
「ん〜、この服なんかひろのに似合うんじゃないかなぁ」
 綾香はそう言いながら服をとっかえひっかえひろのに合わせてみている。
「あのさぁ、綾香…自分の服見に来たんじゃないの?」
 これにはひろのも押し付けられた服を抱えて困惑顔をしている。
「まぁ、いいじゃない。ひろのの服ってほとんど姉さんコーディネイトでしょ?私にも選ばせてよ」
「む〜、そう言えば」
 ひろのが普段着ている服は、ほとんどが芹香の選んだもので、いわゆるお嬢様仕様のシックで大人しいデザインのものがほとんどだ。その点、今綾香が選んでいる服はカットソーやブルゾン、ミニスカートにパンツなど、動きやすい実用的な服が多く、これは今のひろのが持っていない種類の服であった。
「じゃあ、お願いしようかな」
「オッケー。じゃあ、この辺から試着してみようか」
 適当な服を見繕い、綾香はひろのを試着室に押し込んだ。そして…
「そろそろ良い?」
 1分ほどして、綾香は返事も聞かずに試着室のカーテンの中へ首を突っ込んだ。
「あ、綾香っ!?まだ着替え中だよっ!?」
 ひろのの狼狽した声が響き渡る。そして、綾香は至福の境地に達していた。
(す、素晴らしいわよ…ひろの…)
 そう、ひろのの今日の服はワンピース。従って、着替えるには一度全部脱がねばならなかった。たった1分で着替えが終わるわけが無く、今のひろのは下着姿だった。練り絹のような真っ白な肌に、ピンクの下着が眩しい。それは綾香の自制心を繋ぐ糸を、はさみどころかチェーンソーでぶった切るくらいの威力があったが、綾香は辛うじて耐えた。さすがにここで手を出すのはヤバ過ぎる。
「あはは…ごめん…」
 乾いた笑い声を上げて綾香は試着室の外へ出た。
「もう…今度は覗いたらだめだよ?」
 ひろのの声が背後から追いかけてくる。綾香はもう一度ごめんね、と答えておいたが、この行動がこの日最初の大騒動に火を付ける結果となった。

 点火したのは、少し離れたところから見ていた芹香チームだった。
「…」
 芹香は、ワラ人形を握り締めて、今晩本気で綾香の部屋に侵入し、髪の毛を取ってくる事を考えていた。
「…良いなぁ」
 あかりは本気でひろののあられもない姿を覗けた綾香を羨んでいた。
「…はわ?」
 マルチは覗きの意味を理解していなかった。
 そして、自分の感情に没頭していたために、その3人は残り1人が臨界点(クリティカル・ポイント)に達した事を知らなかった。
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
 怒りの波動が音を伴い始め、そこでようやく3人が気づいた時は全てが手遅れだった。
「…こ、琴音ちゃん!?だめよ!こんな所で暴発しちゃっ!!」
 最後の1人…琴音の身体から漏れ出す不可視の力が彼女の髪をゆらゆらとなびかせ、床の埃が天井へ向けて舞い上がっていく。琴音の超必殺技「殺意の波動」発動の前兆だ。
「…許せません」
 琴音が呟くように言う。このままでは、「殺意の波動」が綾香だけでなくひろのをも巻き込む。そう判断した芹香は咄嗟にあかりに目配せした。あかりは頷き、ハンドバッグから得物の料理用おたまを取り出す。
「ごめん、琴音ちゃん!!」
 くわんっ!
「きゃうっ!?」
 殺意の波動よりも速く、間一髪であかりのおたまが琴音の後頭部に炸裂する。くたりと力を失って床に倒れる琴音。しかし、一度漏れ出した力は元へは還らなかった。琴音を中心に波動が広がり、空間が歪む。
 ガシャーン!!
 力に耐えかねた窓ガラスの一枚が弾け、それは立て続けに他のガラスへと波及した。続けざまに割れ砕けるガラスに一般客がパニックを起こして逃げ惑う。
「…あちゃ〜…」
 その惨状にあかりは思わず間抜けな声を上げてしまった。ショッピングスクエアの一角のガラスは全滅し、遠くから火災警報や防犯ベルの鳴り響く音がする。
「…」
「え?逃げましょう、ですか?そ、そうですね。そうしましょう」
 芹香の判断に従い、気絶した琴音をマルチが背負って、芹香チームはその場を逃げ出した。

 10:33 琴音暴発。
 ガラス87枚と商品数百点損傷。
 被害額…1271万2034円。
 現在の被害総額…1271万2034円。
 姫川琴音、リタイア。


「はあ…堪能しましたね。って、長瀬さん?セバスチャンさん?どうしました?」
 人気No1アトラクション<グレート・ライトニング・キャニオン>から降りてきた真帆は、セバスチャンがうずくまっているのに気がついて声を掛けた。
「う、うむ…何でもない。平気じゃ」
 どう見てもかなり弱っていた。<グレート・ライトニング・キャニオン>は、峡谷を走る列車をモチーフにしたジェットコースター。がけ(に観たてた壁)や水面すれすれを突っ走るスリルが大人気。
 しかし、いくら鍛えているとは言え、老人のセバスチャンには刺激が強かっただろうか?と真帆が心配していると、セバスチャンがゆっくり振り向いた。
「いや、済まん。車は平気なのだが列車はどうしても酔ってしまってな…」
 ジェットコースターと列車は微妙に大きく違うと思ったのだが、真帆は敢えてツッコまなかった。
 その時、けたたましいサイレンの音をセバスチャン&真帆は聞いた。遠くからパトカーやら消防車やら救急車やらの緊急車両群が続々と駆けつけて来る。
「あれ?なんでしょうねぇ」
 真帆が言うと、セバスチャンが血相変えて立ち上がった。乗り物酔いの事はすっかり忘れているらしい。
「わからんが、大きな事件のようじゃ!ひろのたちが巻き込まれておらんとも限らん。様子を見に行くぞ!」
 叫ぶなり、セバスチャン爆走。とても老人の走りとは思えない。土煙を巻き上げて進撃していく。
「なんで舗装された場所で土煙が上がるのかしら?」
 真帆は首を捻ったが、セバスチャンの走った後のコンクリートタイルが踏み込みで粉砕されているのを見て、後頭部に大粒の汗を浮かべる。
「…って、こんな事してる場合じゃなかった。わたしも行かなきゃ」
 真帆も後を追って走り出す。目指すはショッピングスクエア。しかし、この時ひろの・綾香コンビは既に他の場所へ移動していた。

 10:37分 セバスチャン爆走。
 コンクリートタイル多数損傷。
 被害額…207万5573円
 現在の被害総額…1478万7607円。


「はぁ…びっくりした。なんだったんだろうね、さっきのは」
「私にも分からないわ」
 ひろのと綾香はそんなことを言いながら園内を歩いていた。買い物どころではなかったため、結局何もゲットせずにいる。ショッピングスクエアは閉鎖され、警察・消防による現場検証が始まっていた。
「まぁ、しょうがないわね。他の施設は営業するみたいだし、めいっぱい遊んで帰る事にしましょ」
「そうだね」
 賛成するひろの。この時、綾香の目がきゅぴーんと光っていた事には誰も気づかなかった。
(…では、まずは…)
 綾香が脳内にインプットしたTFPの地図を検索し、自分の目的に適当な場所を選び出した。幸い現在地からも近い。
  「じゃあ、ここに行ってみようか」
 綾香が指さした場所…それはお化け屋敷の<ラルヴァの魔城>だった。リアルに作られたいかにも凶悪な悪魔や、謎めいた異界の怪物が襲ってくる迫力満点のアトラクション…と言う噂である。
「ふぅん…面白そうだね」
 ひろのは微笑んだ。どうやら行く気十分らしい。獲物が針にかかった事を確信し、綾香もにんまりと笑う。
「じゃあ、行くわよ!」
「おーっ!」
 かくして、2人は<ラルヴァの魔城>に入っていった。

 その頃、気絶したままの琴音を医務室に送り届けた芹香チームは、ひろのと綾香の写真を持って聞き込みをしていた。
「すいません、この娘たちを見ませんでしたか?」
 とはいえ、超小声の芹香と人見知りの激しいマルチはまともな聞き込みができず、主にその役目はあかりに回っていた。
「…うん、そう言えば見たなぁ。<ラルヴァの魔城>の方に向かっていたような」
 情報が得られたのは意外に早かった。さすがにひろの・綾香クラスの美少女ともなれば人目にも止まりやすくインパクトも十分である。しかし、<ラルヴァの魔城>の名を聞いた芹香はいきなり不安そうな表情になった。
「…」
「…え?お化け屋敷?」
<ラルヴァの魔城>の正体を聞かされたあかりも不安そうな表情になる。2人の脳裏にはほぼ同じヴィジョンが映し出されていた。

(あかり・芹香妄想)
「きゃああぁぁぁぁっっ!!」
 迫り来る怪物に脅え叫ぶひろの。思わず横の綾香に抱き着く。
「あはは…大丈夫よ、ひろの。みんな造り物だってば」
 綾香は真っ青な顔で脅えるひろのの頭や背中を優しく撫でて落ち着かせようとする。
「分かってるけど…分かってるけど怖いの…」
 綾香が笑顔を浮かべる。
「まかせなさい!この綾香さんが付いている限り絶対に安心よ!!」
「…でも…」
 震えるひろのに、綾香の胸は高鳴った。ひろのを抱きしめ、優しくキスをする。
「…!?」
 硬直するひろの。やがて唇を離した綾香が耳元で囁く。
「どう…?少しは落ち着いた?」
 「…うん」
 潤んだ目で綾香を見るひろの。その顔はピンク色に上気し、自分を守ってくれる人を熱っぽく見つめていた…
(妄想終了)

「そんな事させるもんですかぁぁぁ!!」
 妄想世界から復帰したあかり、いきなりダッシュ。芹香もそれに続いた。
「はわぁっ!?ま、待って下さいよぉ〜!!」
 情けない声を上げながらマルチが2人を追っていく。しかし、あかりと芹香にはマルチの声は届かない。彼女たちの想いはただ一つ。綾香の阻止であった。
 何と言うか…既に彼女たちの中では、ひろのが元浩之だと言う事実は完全にレテの川の向こうの出来事のようであった…

 さて、その頃ひろの・綾香コンビはというと…
「きゃああぁぁぁぁっっ!!」
 思わず悲鳴を挙げ、隣の人に抱き着いたのはひろの…ではなく、綾香の方だった。
「あはは…大丈夫よ、綾香。みんな造り物だってば」
 今にも襲いかかってきそうな、リアルな悪夢の中の怪物の頭をひろのがペシペシと叩く。
「わ、分かってても…怖いものは怖いわよ」
 綾香は言った。<ラルヴァの魔城>がここまでリアルで恐ろしいものだとは彼女も考えていなかったのだ。来るまではあかりや芹香の妄想と同等の展開が起きる事を期待してさえいたのである。
「そうかな?それにしても…ちょっと意外だな。綾香も意外と可愛いところがあるね。お化け屋敷が怖いなんて」
 にっこり笑いながら言うひろのに、ここは特別よっ!!と言い返しそうになって、綾香は口を閉じた。心臓の鼓動が速くなるのが、恐怖以外にも理由が有ると分かったからだった。
(…わたし…ひろのに本気でときめいてる?)
 綾香は戸惑った。最初は、可愛い娘だから自分のコレクションにしたい…程度の気持ちだったのに。
 イヤな程度だが。
 確かに物理的な力では無力でも、精神力は強くて、そばにいて安心できて、心強い気持ちになる人…葵があそこまで好恵と戦えた理由が分かったような気がした。葵は、ひろののことも守りたかったのだ。
 しかし、ひろのの方では綾香がそんな風に自分にときめいている事など、知るはずも無かった。彼女にしてみれば、どんなに外見が恐ろしくとも造り物風情を恐れる理由はない。可愛らしい、あるいは奇麗な見た目に寄らず、超人的な力を振るう連中を数多く見てきたひろのには、現実の存在と人間の欲望の方が遥かに恐ろしい。ただそれだけの事である。

 と言うわけで、意外にもひろのが綾香を支える形で<ラルヴァの魔城>はクリアされた。ちょうど時間もお昼頃となり、2人はとりあえず昼食のためにレストランやカフェの点在するグルメマーケット地区へ移動する。ハンバーグなどを注文し、席についた瞬間、それは起きた。
 ちゅどーん!!
 いきなり爆発が起こり、<ラルヴァの魔城>が爆煙に包まれた。
「な…?」
 唖然としてそれを見つめるひろの・綾香とその他の客。城の外壁を貫通して無数の光線が空へ延び、続いて、一番高い中央の尖塔の最上階付近から地上付近まで無数の爆発が発生した。
 それがトドメになったのか、<ラルヴァの魔城>は紅蓮の炎に包まれ、ゆっくりと傾くと轟音と共に倒壊した。まだショッピング・スクエア付近にいた消防車やパトカーが狂ったように殺到してくる。
「…派手なアトラクションだね。綾香…」
「…それは違うと思うわよ」
 目の前の凄惨な現実から逃避を図るひろのに、綾香が力無くツッコミを入れた。

 その頃、崩壊した<ラルヴァの魔城>の傍では、あかりと芹香が荒い息をついていた。
「…あ、危ないところでしたね…先輩」
 あかりの言葉に、こくこくと頷く芹香。その視線の先では城崩壊の原因が眠っていた。
 マルチである。
 ひろの・綾香コンビを探して<ラルヴァの魔城>に入ったあかりと芹香。この2人はまだ魔物が出ても平気であった。しかし、マルチはそうはいかない。
「はわわ〜っっ!!??」
 出現した最初の悪魔人形にパニックに陥ったマルチは「目からビーム」を発射。これを吹き飛ばしてしまった。
 これだけでも大問題だが、ビームで狂った悪魔人形制御システムが暴走して、一斉に悪魔人形を出現させたのである。切れたマルチは全兵装を乱射。これでエネルギー切れを起こしたマルチを抱え、あかりと芹香は必死で逃げたが、城を一個壊滅させるには十分であった。
「…マルチちゃんはどこかで充電させておきましょう。どのみち今日はもう駄目ですね…」
 あかりの提案に、芹香はこくこくと頷く。かくして、被害をエスカレートさせつつ本日2人目のリタイアが出た。

 12:08分 マルチ絢爛舞踏。
 アトラクション<ラルヴァの魔城>壊滅。
 被害額…7億5229万5103円
 現在の被害総額…7億6708万2710円。
 HMX-12マルチ、リタイア。


 さてその頃、女の子の好きそうなかわいい系のアトラクション巡りをしていた雅史以下4名は、<ミス・エディフェルの前世占い>を出てきたところで、黒煙を上げて炎上する<ラルヴァの魔城>を目撃した。
「うわぁ…さっきのショッピングスクエアといい、何があったんだろう」
 雅史がびっくりしたように呟いた。最初<グエンディーナの魔女のお城>にいた彼らも、園内アナウンスなどでショッピングスクエアが閉鎖されたことは聞いていた。
 さらに、<ラルヴァの魔城>壊滅で、ホラー系アトラクションの多い「ナイトメア・セクション」が閉鎖されたことがアナウンスされている。これで、営業しているのは絶叫マシン主体の「ラピード・ランド」、今まで雅史たちがいたメルヘン主体の「ファンシー・ワールド」、ゲームセンターなどがある「アミューズメント・シティ」の3地区となった。
「…ともかく、ファンシー・ワールドにはいないみたいだから…次はアミューズメント・シティにでも行ってみっか」
 矢島が提案し、ほかの3人も賛同して、4人はアミューズメント・シティへ続く道に入った。
 しかし、この時、ひろの・綾香コンビと2人に減った芹香チームはラピード・ランドへ移動していたのである。
 次はラピード・ランドで嵐が巻き起こるのは確実な情勢だった。

(つづく)

次回予告

 ガラスの粉と業火の中に二つの地区が壊滅した東鳩ファンタジアパーク。しかし、ひろのがデートを続ける限り、彼女を追う連中がいる限り、パークを覆う危機は去ることはない。哀れTFPは最期の日を迎えるのであろうか…
 次回、第十二話「地獄のカオスでーと(後編)〜凶星、激突〜」。
 お楽しみに。
 うわ、どうしよう。ここまで予告と本編がずれるとしゃれになってないよ(汗)。

後書き代わりの座談会・その11

作者(以下作)「ぐはっ。前後編に分かれてしまった。こんなはずでは…」
ひろの(以下ひ)「ちゃんとペース配分を考えないから…」
作「それを言わないでくれ」
ひ「しかも、この伝奇物みたいなサブタイトルは何なの?」
作「いや、話が大げさになって良いかな、と思って」
ひ「中身が伴わないと空しいと思うけど」
作「…今日はお前意地が悪いぞ」
ひ「いや、いつものアンタにゃ負ける」
作「…このアマ」
ひ「で、大丈夫なんだろうね。前後編に分けるとか言っておきながら3部作に分かれたりとかしない?」
作「あぁ、それなら絶対に大丈夫だ」
ひ「…その妙な自信は何?」
作「実はこの座談会は先に後編書いてから行っているから」
ひ「…なんでそんな事してんの?」
作「保険」
ひ「…せこい奴」

収録場所:TFPセンターモールにて


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