あゆちゃんの冒険

第12話
帝国華撃団見学ツアー

作:モーグリさん


 翌日、香里はなぜか心配そうな顔つきで学校にやって来た。香里の顔には外から見ても分かるほどはっきりと不安の表情が色濃く表れていた。
「おはよう、北川君」
 香里が北川の席にやってきてあいさつをした。
「やあ、おはよう、美坂」
「北川君、今日学校に来るまでのあいだに相沢君や名雪を見なかった?」
 香里は心配そうな顔つきで北川にたずねた。
「いや、そういえば今日は相沢や名雪がいなかったな」
「そう、やっぱり」
 香里は何かを感じたような感じで返答した。
「やっぱりって、一体どうしたんだよ、美坂」
 北川が心配になって質問した。北川も今日の香里がいつになく不安そうな顔つきになっていることに気が付いたのだ。
「実はね、昨日あたしの妹の栞が水瀬家の人たちとドライブに出かけたんだけど、それ以来帰ってきてないの。行方不明なのよ」
 香里はそうつぶやくと心配そうな表情を浮かべた。
「行方不明って、本当か?」
 北川が驚いた。あの名雪たちがドライブに出たっきり行方不明だとはとても信じられなかったのだ。
「そうなのよ、昨晩栞が帰ってこないので不安になって名雪の家に電話をかけたんだけど、誰も出なかったわ。それどころか名雪の携帯にかけても通話不能だったのよ」
「そ、そんな・・・」
 北川が驚きの声を上げた。
「どうもみんなでドライブに出たっきりそのまま行方不明になっちゃったらしいのよ」
 香里がこれまで自分が分かっていることについて北川に説明した。香里にとっても、自分の妹が親友の名雪たちともども失踪してしまったことがいまだに信じられなかったのだ。
「そんな、一家そろって行方不明って、神隠しにでもあったのか?」
 北川はただただビックリして香里にたずねた。北川にとっても祐一たちが失踪したことは寝耳に水の事態だったのだ。
「あたしだって、昨日から栞が帰ってこないからずっと心配してるのよ」
 香里も不安そうにそうつぶやいた。
「美坂も色々大変だな」
「北川君、気づかってくれて、ありがとう」
 香里はそう言うと北川の席を離れて自分の席に戻っていった。

 一方、こちらは太正時代―
 秋子さんたちがこの世界にタイムスリップしてきてから一晩が過ぎた。
 朝になると日光が照り始め、朝露を浴びた帝劇の窓ガラスにキラキラ反射していた。そして秋子さんたちが雑魚寝をしていた部屋にも日の光が差し込んできた。そのせいで祐一は目を覚ました。
「ああ、朝か・・・」
 祐一は目を覚ますと、大あくびをしながらゆっくりと体を伸ばした。そしてあたりをぐるっと見回した。すると横で秋子さんがすでに起きていたのを確認した。
「あ、秋子さん、おはようございます。もう起きてたんですか」
「あら、祐一さん、おはようございます。わたしもちょうど今起きたばかりなんですよ」
 秋子さんが笑いながら答えた。
 祐一があたりを見渡すとみんなはまだ寝ていた。どうやら今起きているのは自分と秋子さんだけのようだ。
(さて、と)
 祐一は外の景色を眺めようと窓に近づいた。朝露が窓のサッシに反射してまばゆく光っている。窓に来て外を眺めると、この建物―昨日出会った和服姿の少女によると「帝劇」と言うらしい―はまるで大正時代の西洋建築を思わせる巨大で重厚な建物だった。
(すごいや。まるで、以前、両親に連れられていったもらった「明治村」みたいだな)
 祐一はそんなことを考えながら外の景色に見とれていた。
「俺たち、本当にタイムスリップしたんだな」
 窓の景色に見とれていた祐一がつぶやいた。
「ええ、祐一さん。そうですね」
「秋子さん、そろそろみんなを起こしていいですか?」
「了承」

「ほら、名雪、起きろよ。もう朝だぞ」
 さっそく祐一は横で寝ていた名雪を起こしにかかった。
「うにゅ、まだ夜だよー・・・」
 名雪が眠そうな声で毛布を握り締めながら言った。
「ほらっ、そんな事言ってないで、起きるぞ!」
 祐一はそう言うと勢いよく毛布を脱がした。
「うーん、おはよう、祐一」
 毛布を脱がされたのでさしもの名雪もこれで目を覚ました。
「あはは、名雪はタイムスリップしても朝寝坊だな」
「うにゅ、そんな言い方はひどいんだよ」
 祐一の笑い声を聞いた名雪がすねた。

「さあさあ、みなさんも起きて下さいね」
 秋子さんがやさしい口調でまだ眠っているみんなを起こし始めた。そのおかげでみんなも次々に目を覚ました。
「あ、祐一君、名雪さん、おはようございます」
 あゆが祐一と名雪の顔を見てそう言った。
「あうー、おはよう」
「みなさん、おはようございます」
「・・・おはよう」
「はえ〜っ、おはようございます」
 他のみんなもそれぞれ目を覚ましたようだった。みんなはそれぞれ秋子さんを見ると、口々に朝のあいさつを述べた。
「あらあら、こちらこそおはようございます」
 秋子さんも朝のあいさつをした。

「ところで、昨日のタイムスリップはどうなったの?」
 真琴が祐一に質問した。
「うん、真琴。俺たちまだ太正時代にいるんだ」
「そうなの。眠れば元の時代に戻れると思ったのに」
「残念だけど、これは夢じゃないんだ。だから戻れないぞ」
 祐一が残念そうな顔でそう言った。そんなことを言っている祐一自身、昨日から心の片隅で「これは夢なんだ」と思っていたのである。タイムスリップなんて異常事態を経験したのだから誰でもそう思うのも当然かもしれない。
「そうなんだよな」
 祐一はそう自分言い聞かせるように言った。

 しばらくして、さくらが部屋のドアを開けた。
「みなさん、おはようございます」
「おはようございます」
 みんなも挨拶をした。
「みなさん、朝食の用意が出来ました。大広間へどうぞ」
「わーい!」
 それを聞いた真琴がはしゃぎだした。
「あらあら、真琴ったら、大はしゃぎしちゃって。それじゃあさくらさん、これから行きますね」
 真琴の様子を見た秋子さんはそう言うと真琴の頭をなでなでしてあげた。
 そして少したってから秋子さんは立ち上がった。みんなも秋子さんにつられる形で立ち上がった。
「みなさん、大広間はこちらですよ。私が案内しますのでついて来て下さいね」
 さくらはみんなを連れて大広間へと向かった。帝劇の廊下を太正時代の着物姿のさくらの後ろから、現代(平成時代)の服装をした祐一たちがぞろぞろついていった。その姿は外から見ると何とも奇妙なものだった。

「さあ、ここが大広間です。皆さんどうぞ」
 さくらが手招きをした。祐一たちが大広間に入ると、そこには大きなテーブルがあって、その上に祐一たちの朝食が準備されていた。今日の朝食はご飯と味噌汁に焼き魚と純和風だった。
「わあ、おいしそうですね」
 それを見た栞が顔をほころばせた。
「さあ、皆さん、ここはさくらさんのご好意に甘えて朝食をいただきましょうね」
 秋子さんがそう言ってテーブルの前に座った。祐一たちも秋子さんにつられる形で次々にテーブルの前に座った。
「いただきまーす」
 祐一はそう言うと朝食を食べ始めた。みんなも一斉に朝食を食べ始めた。昨日疲れただけあって、今日の朝食は祐一たちの空きっ腹に染み込むように入っていった。
「さくらさん、今日の朝食はとってもおいしいですよ」
「あら、うれしいです」
 横で祐一たちを見ていたさくらが喜んだ。
「今日の朝食は和食でとってもおいしいですね。そうですよね、舞」
 佐祐理がハシを手にしながら舞にたずねた。
「この食事、結構おいしい、嫌いじゃない」
「あら、舞ったらこの食事を気に入ったみたいですね」
「はちみつくまさん」
 舞はそう言うと無言のまま朝食を再び食べ始めた。

 20分ほどして、みんなは朝食をすっかり食べ終わった。中には舞や真琴のようにご飯のおかわりをする人までいた。
「いや、ごちそうさまでした」
 祐一がおなかを押さえながら言った。
「さくらさん、今日はどうもありがとうございました。みなさんに代わって何かお礼しなくちゃいけませんね」
 秋子さんがハシをテーブルにおいてさくらにお礼を言った。
「いえいえ、お礼なんてそんなことしなくて結構ですよ」
 さくらが照れ笑いを浮かべながら返答した。

「ねえさくらさん、デザートでイチゴサンデーはないの?」
 横から朝食を食べ終わった名雪がさくらにたずねた。
「イチゴサンデー?何ですか、それ?」
「イチゴサンデーだよ。パフェの一種で、大きいイチゴが入ってるの、だよ」
 名雪はイチゴサンデーを食べたくてそう説明した。
「名雪、この時代にイチゴサンデーがあるわけないだろ」
 祐一が突っ込んだ。
「うにゅ、そうだったね」
 名雪が照れ笑いを浮かべた。
「名雪はイチゴサンデーの代わりにこれでガマンしてくれ。甘いぞ」
 祐一はそう言うとかりんとうを名雪に差し出した。先ほどさくらが食後のお菓子にと持ってきてくれたものだ。そのかりんとうは太正時代に作られたとあって合成甘味料が全然なく、天然の砂糖の甘味がじんわりと効いていた。そのせいか平成時代から来た祐一たちには物珍しい味に感じたのだった。
「うにゅ、かりんとう?仕方ないね」
 名雪はそう言うとかりんとうをボリボリ食べ始めた。
「うん、これおいしいね」
 しばらくして名雪がそうつぶやいた。

「みなさん、おはようございます」
 大広間にアイリスが入ってきた。アイリスも祐一たちのことが気になって見に来たのだ。
「あら、確かアイリスちゃんですよね。おはようございます」
 アイリスを見た栞があいさつをした。
「えへへ、ちょっと気になったから来てみたの」
 アイリスはそう言うとさくらの元に駆け寄った。そして祐一たちの方をじっと見ていた。
「ところで質問なんですが、皆さんは何をやっているんですか?昨日から帝国歌劇団とかいろいろ言っているみたいですが、佐祐理たちにはよく分かりません。よろしかったら教えてくれませんか」
 佐祐理が質問した。佐祐理たちは昨日月組の加山によってこの帝劇に連れて来られてからここが何をする所なのか全然説明されていなかったからだ。
「そうですね、みなさんにも私たち帝国華撃団について説明しようと思います」
「ええっ?さくら、この人たちにアイリスたちの秘密をばらしちゃっていいの?」
「いいのよ、アイリス。米田支配人には先ほど了解を取りました。この人たちは今からおよそ80年も未来から来た人たちなんで、下手に秘密を隠すより全部見せちゃったほうがいいと思ったんです」
 さくらがアイリスに説明した。しかも祐一たちがやって来たのはこの太正時代の未来ではなくパラレルワールドの未来である。もしさくらたちが未来人に秘密を教えて歴史を変えても、それで変わるのはこの世界の未来だけで、祐一たちの元いた世界には影響はないのだ。
「そうだよね、未来から来た人に隠し事をしてもあまり意味がないわよね」
 それを聞いたアイリスが納得した。
「それじゃあ説明しますね」
 さっそくさくらは祐一たちに帝国華撃団について説明を始めた。

 さくらによると帝国華撃団は帝都を昨日祐一たちを襲った降魔のような悪の霊力から守るために、秘密組織「賢人機関」によって設立された特殊部隊である。降魔などと戦うために、隊員は全員霊力を持った人間で構成されている。霊力を持った人間は圧倒的に女性が多いので、帝国華撃団は隊長の大神一郎を除いて全員女性で編成されているのだ。
 彼女たちは普段は舞台で演劇などを行う「帝国歌劇団」として帝劇で演劇を公演して人々を楽しませている。そして、一たび事件がおきれば霊子甲冑(全長2メートル位の一人乗り小型ロボット)<光武>に搭乗して帝都の平和を守るために戦うのだ。帝国華撃団は今までにも悪の組織、黒之巣会や黒鬼会を倒し、帝都の平和を守ってきたという。
 さらにヨーロッパでも都市を守るためにフランスのパリに「巴里華撃団」が設立されたという。そして、数ヶ月前まで帝国華撃団の隊長を務めていた海軍士官の大神一郎中尉がフランスに派遣されて巴里華撃団の指揮をとっているということだった。
 帝国華撃団は大神隊長がいなくなったので、現在はメンバーの中で最年長のマリアが指揮をとっている。もっとも、最近ではほとんど事件が発生していないので、帝国華撃団のみんなはもっぱら舞台の稽古に追われる日々だという。

「うわー、それ本当ですか」
 さくらの話を聞いていた祐一が驚いた。祐一のいた世界では過去にそんな秘密部隊がいたなんて話は一度も聞いたことがなかったからだ。やはりこの世界は祐一たちのいた世界とは違うパラレルワールドになっているらしい。
「ええ、本当です。信じてください」
「本当なのか・・・」
(普段は演劇団のメンバーで非常時には帝都を守る特殊部隊って、一体どういう組織なんだよ?)
 祐一は心の中で突っ込んだ。それは、ここにいるみんなが異口同音に思ったことでもあったが。
「あうー、すごい秘密部隊、おもしろーい!」
 一方、真琴はさくらの言葉を聞いて大喜びではしゃぎだした。真琴は秘密部隊と聞いて何だか楽しそうに思ったのだ。それだけではしゃぎだすのが真琴らしい。
「それにしてもすごいんだよ。普段はみんなで人々を楽しませる劇をやっているなんてすごいよ」
 名雪もただただ驚いた口調で感心した。
「それにひとたび帝都が危機になればみんなで出撃するんですね。まるでドラマみたいですね。あこがれてしまいます」
 栞はうっとりとした目つきでさくらとアイリスの方を見つめた。

「それじゃ、今度は私たちの地下基地を案内しようと思います。皆さんは私のあとからついて来て下さいね」
「はーい」
 さくらとアイリスはみんなを連れて地下基地へと案内し始めた。さくらが廊下を通って壁にある秘密の隠し扉を開けると、その中から地下へと続く階段が見えてきた。さくらとアイリスは隠し扉をくぐると、そのまま地下への階段を下りていった。祐一たちはぞろぞろとついていった。
「うわ、秘密基地だって、楽しみだよ」
 階段を下りながら名雪が楽しそうな顔であたりを見回していた。
「佐祐理も気になります」
「佐祐理らしい」
「舞ったら。そんな、佐祐理は普通の人より少し頭の悪いただの女の子ですよ」
 舞の一言に佐祐理は照れ笑いを浮かべた。
「みなさんも気を付けて降りてきてくださいね」
 さくらはそう言いながら地下へ地下と下りていった。

 さくらたちがしばらく階段を下りていくと、やがて目の前に扉が見えてきた。さくらが扉を開けると、そこには広い地下室が見えてきた。地下室は白熱電球(まだ蛍光灯はない)で照らされ、いろいろな設備が置いてあるのが見えた。祐一たちはさっそくその地下室に入り、あたりの風景をしげしげと眺めていた。
「ここが地下基地になります」
「ところで、この横で蒸気を噴出していろいろなメーターが動いている巨大な機械は何なの?見たことないよ」
 名雪が不思議そうに地下室の真ん中に置かれている機械を見つめた。それは、あちこちにモニターやメーターがある大型の機械で、外といくつものパイプや電線でつながれていた。しかもその機械にはシリンダーがついており、時折そこから漏れる蒸気の音がした。蒸気で動く機械なんて何となくレトロだ。
「これは蒸気演算機です。この基地全体を制御している帝国華撃団の中枢ともいえる重要な機械ですね」
 さくらが蒸気演算機について説明した。
「うわーっ、蒸気を吹き出しててなんだかレトロな感じだよ」
「本当ですね、蒸気で動いてるんですね、この機械」
 栞が感心したように蒸気演算機のメーターやモニターをしげしげと眺めていた。
「それよりなんでこんな太正時代に演算機ってコンピューターがあるんだ?いくら蒸気式だからってなんか登場が早すぎはしないか?」
 祐一が不思議がった。祐一は今まで戦前に蒸気式のコンピューターがあったなんて話は聞いたことがなかったからだ。
「はえ〜、そういえば、佐祐理も早すぎるように感じます。世界初のコンピューターっていつでしたっけ、舞?」
「ENIAC、1947年」
 舞がいつもの口調でボソッと答えた。
「はえ〜っ、佐祐理たちのいた世界より20年以上も文明が進んでいますね。びっくりしました」
「そりゃ、まあ、パラレルワールドだから文明が加速することもあるんだろうな」
 祐一はそう言うとじっと蒸気演算機を見つめていた。
「それにしても本当に驚きですね。あの劇場の地下にこんな秘密基地があるなんて。佐祐理にも想像つきませんでした」
 佐祐理はただただ驚いた表情を浮かべていた。

 続いてさくらは祐一たちを格納庫に案内した。そこには帝国華撃団の誇る霊子甲冑<光武>が格納されていた。要するに人間が乗って操縦する巨大ロボである。赤・青・黄・緑とどの機体も派手で目立つ原色のカラフルな塗装がされていた。
「はい、この奥が格納庫です。ここに収納されているのが、私たち帝国華撃団の誇る霊子甲冑(りょうしかっちゅう)<光武>です」
 さくらが解説した。
「霊子甲冑?」
「はい、私たちがこの機械に乗って帝都を守るために戦うんですよ」
「わあ、人型ロボだよ」
 それを見ていた名雪が楽しそうに大声をあげた。
「あうー、これも蒸気で動いてるんだ、すごいや!」
 真琴はそう言うとうれしそうに自分のそばにあった光武にさわり出した。そして楽しそうに蒸気が出るパイプなどをいじくり始めた。
「あらあら真琴ったら、むやみにさわっちゃいけませんよ」
 それを見ていた秋子さんが注意した。
「そうです、霊子甲冑は蒸気を主動力にしているんですよ」
 さくらはそう言うと光武をさわっていた真琴の手をそっとどけた。
「でも、カラーリングが原色ですごく派手ですね。迷彩とかはしないんでしょうか?」
 栞が不思議そうに質問した。確かにこんなに原色でカラフルな機体を見ていたら当然かもしれない疑問だった。
「<光武>は戦争に使うんじゃなくて帝都を守るために開発されたものです。だから派手な色で戦闘中に誰がどこにいるかすぐに分かるように塗装されているんです」
 さくらがそう説明した。確かに戦争用でないのなら派手なカラーリングについても納得がいく。
「それにしても巨大ロボとは驚いたよ。俺たちのいた時代よりも技術が進んでいるのか?」
(俺のいた世界では「人が操縦する巨大ロボ」なんか21世紀になっても存在しなかった。それがここにあるということは、この太正時代はすごいオーバーテクノロジーの世界なのかもしれない)
 そんな考えが祐一の頭の中をよぎった。
「そうですよね、祐一さん。人間の操縦する巨大ロボなんてすごい技術力ですね。佐祐理たちのいた世界でもまだこんな巨大ロボはありませんでした。本当に驚きです」
「・・・本当にすごい」
 それを見ていた佐祐理や舞も感心して光武を見つめていた。
「わたしたちの世界よりも技術力が進んでいる部分があるんですね」
 秋子さんがそうつぶやいた。
「はい。私たちより未来人の技術力がすべて上回っているとしたら、私たち太正時代の人間が自慢できるところが全然なくなってしまいますものね。私たちにも自慢できる部分がないといけませんからね」

「これって、誰でも操縦できるんですか?」
 栞が質問した。
「いえ、私たち花組のメンバーのように霊力を持った人間でないと操縦できません。だから、私たち花組は世界中から霊力の強い人たちを集めて作られた精鋭部隊なんです」
「でも、意外に小さいですね。2メートルちょっとくらいかしら。私は、人間の乗る巨大ロボと聞いたから、ガンダムやマクロスに登場した巨大ロボみたいに10メートル以上ある巨大なロボットを想像してしまいました」
 栞がそうつぶやいた。
「うん、そう言われると確かに小さいな」
 祐一もうなずいた。確かに、全長2メートルくらいだとさほど大きいとは思えなかったからだ。
「それはね、きっと、そんなに大きいロボットを作る技術力がないんだよ。だからこれくらいのサイズなんだよ」
 名雪がつぶやいた。
「名雪の言う通り、この世界がパラレルワールドだからって、巨大ロボをそうそう簡単に作れる技術力なんてないみたいだ。だいたい、ガンダムやマクロスは宇宙で戦争をしてる世界だけど、この世界はまだ宇宙に行くだけの技術力はないようだしね」
 祐一は名雪の言葉に納得した。
「そうですね、名雪さんや祐一さんの言う通りですね」
 栞も納得した。

 一通り地下の秘密基地を案内するとさくらは祐一たちを連れてその場を後にした。みんなは格納庫を後にして出口に向かった。
「ところで、さっきおっしゃったガンダムやマクロスって何なんですか?気になります」
 出口に向かう途中でさくらが栞にたずねた。
「それって未来で有名なアニメです」
「アニメ?」
(そうか、この時代だとまだアニメがないんですね)
「いえ、さくらさん、気にしなくていいです」
 栞はそう言うとみんなと一緒にその場を離れたのだった。

「みなさんどうでしたか?」
 みんなは出口から階段を上って帝劇に戻った。祐一たちはすごい秘密基地を見せられてただただ圧倒されていた。その様子を見ていたさくらとアイリスは笑みを浮かべた。
「すごかったんだよ」
「わーい、面白かった」
「すごかったですよね、舞」
「すごかった」
 祐一たちは口々に感想を述べ合った。みんなは口々に「すごかった」と言った。確かに、あれだけの設備を見せられたのだから当然かもしれない。それを見ていたさくらは、今度は花組の仲間を紹介するために祐一たちを花組のみんなの待つ楽屋裏へ連れて行こうと考えたのだった。


 つづく


あとがき

 この話は本来一話で終わらせる予定だったんですが、書いていたら予想以上にストーリーが膨らんでしまったので、第13話と二つに分けました。
 祐一たちも過去に飛ばされて二日目になったので色々と余裕が出てきました。名雪や真琴たちもいつものペースを取り戻しています。
 今回は帝国華撃団が祐一たちに正体を明かす話です。過去とは言ってもサクラ大戦の世界は祐一たちのいた世界とはパラレルワールドなので、色々と祐一たちの知らないことがあるわけです。帝国華撃団の秘密基地を目の当たりにした祐一たちの驚きを楽しんで下さい。


管理人のコメント


 太正時代での二日目。帝撃に保護されたあゆたちですが、果たして彼らが見るものは…?


>「ねえさくらさん、デザートでイチゴサンデーはないの?」

いつの時代でも名雪は欲望一直線のようです(爆)。


>「そうですね、みなさんにも私たち帝国華撃団について説明しようと思います」
>「ええっ?さくら、この人たちにアイリスたちの秘密をばらしちゃっていいの?」
>「いいのよ、アイリス。米田支配人には先ほど了解を取りました。この人たちは今からおよそ80年も未来から来た人たちなんで、下手に秘密を隠すより全部見せちゃったほうがいいと思ったんです」

太っ腹な特殊部隊です。


>祐一のいた世界では過去にそんな秘密部隊がいたなんて話は一度も聞いたことがなかったからだ。

まぁ、秘密部隊ですしね(笑)。


>(普段は演劇団のメンバーで非常時には帝都を守る特殊部隊って、一体どういう組織なんだよ?)

それを言ったらおしまいです。


>「これは蒸気演算機です。この基地全体を制御している帝国華撃団の中枢ともいえる重要な機械ですね」

こうしたスチームパンク的世界背景の世界観では、機械は何でも蒸気を噴いています。そこが「らしさ」といえばそうなんですが、でも精密機械に蒸気を当てるのは本当は良くないですね(笑)。


>「はえ〜、そういえば、佐祐理も早すぎるように感じます。世界初のコンピューターっていつでしたっけ、舞?」
>「ENIAC、1947年」


い、意外な知識が舞の口から…


 しかしまぁ、この後の霊子甲冑の解説といい、蒸気というのは便利な力ですね(笑)。未来人もびっくりです。


戻る