あゆちゃんの冒険

第13話
さくらと愉快な仲間たち

作:モーグリさん


 地下基地に続いて、さくらとアイリスの案内で祐一たちは帝劇の楽屋裏のある部屋へとやってきた。そこは、まさに「劇場の楽屋裏」のような部屋だった。これだけ見ていると帝国華撃団が特殊部隊だとはとても信じられない光景だった。
「それじゃあみなさんに私たちのお友達を紹介しますね」
「さあ、アイリスといっしょにこっちに来てね」
 さくらとアイリスが合図をした。
「はーい」
「それじゃ開けますね」
 さくらはそう言うと部屋のドアをノックしてから開けた。

 部屋のドアを開けるとそこはまさに楽屋裏と言うべき部屋だった。あたりに舞台で使う衣装や小道具が無造作に置かれていた。そして何人もの少女がイスに座っていた。部屋にいた少女たちは祐一たちを見ると頭を下げてあいさつをした。
「これから私たちの仲間を紹介します」
 さくらはそう言うと、順番に彼女の仲間たちを紹介し始めた。

 マリア・タチバナさん。
 ロシア出身でロシア革命で戦ったこともある女性。冷静沈着で花組の最年長者としてみんなをまとめている。戦争に加わったこともあってピストルの射撃の腕は一流。

 神崎すみれさん。
 日本有数の大企業「神崎重工」の一人娘。小さい頃から蝶よ花よと育てられたこともあってそのプライドの高さと自信家ぶりは花組一番。しゃべり方も大金持ちの令嬢といった感じである。そのせいか周りの人からはとっつきにくい人に見られている。長刀の名手でもある。

 李紅蘭さん。
 中国出身。日本に来た時に関西にいたせいで、関西弁をしゃべっている。機械をいじるのが好きで、帝国華撃団の兵器の開発から<光武>の整備まで1人でこなしてしまうほど。よく発明品を作るがたいてい失敗してしまう。

 桐島カンナさん。
 沖縄出身。空手の名手で体力は花組一番。帝国華撃団のパワーファイターである。性格は裏表がなく豪快で明るい。その性格のためかすみれとは宿命のライバルでお互い仲が悪い。

 ソレッタ・織姫さん。
 イタリア出身でイタリア人と日本人のハーフでイタリアの名門貴族の生まれ。貴族出身といっても明るく積極的な性格。外国人のせいか変になまった日本語を話す。イタリア出身だけあって音楽が得意である。レニと一緒に途中から帝国華撃団に加わった。

 レニ・ミルヒシュトラーセさん。
 ドイツ出身。ボーイッシュないでたちで一見すると少年に見えるが実は女性である。アイリスと仲がいい。普段は無口でほとんど感情を表に出すことがない。どことなく舞に似ている。

 桜の照会で花組のメンバーは祐一たちに自己紹介をした。みんなは一通り自己紹介が終わると机の上にある飲み物を飲んだり雑談などを始めた。

「じゃあ今度は俺たちが自己紹介する番だね」
 それを見ていた祐一はそう言うとさっそく自己紹介を始めた。
「俺の名前は相沢祐一です」
「わたしの名前は水瀬名雪、だよ」
「わたしは水瀬秋子、名雪のお母さんです」
「ボクは月宮あゆだよっ」
「あたしの名前は沢渡真琴よ」
「私は美坂栞といいます」
「倉田佐祐理です」
「川澄舞」
 祐一たちはそれぞれに自己紹介をした。

「そういえば、あゆさんはどうしてそんなに小さいんですか?」
 さくらはあゆの方を向いて不思議そうな顔つきをした。あゆが十数センチと小さいのに昨日から不思議に思っていたのだ。
「うぐぅ、それはね・・・」
 あゆはこれまでの経緯をさくらたちに詳しく述べた。あゆがいつもたい焼きの食い逃げばかりやっていたことと、秋子さんがお仕置きとして謎ジャムを食べさせてあゆを小さくしてしまったことについて触れた。
「そうですか、未来ではずいぶんすごいお仕置きをするんですね」
「うわっ、ひでえ話だな、こりゃ」
 それを聞いたさくらとカンナがビックリしてあゆを見つめた。さくらは、あゆたちが来た未来世界でそんなにすごい技術力を使っているということに驚いていた。さらに、秋子さんがそんなお仕置きをしたということに驚いたのだった。
「いえ、決してそんなつもりじゃなかったんですが・・・あゆちゃんごめんなさいね」
 秋子さんはそう言うとあゆの頭をやさしくなでなでしてあげた。秋子さんも自分の作った謎ジャムを使ってあゆを小さくしたことはやりすぎだったと反省しているようだった。

「ねえ、未来人は何か未来の道具を見せて欲しいです」
 織姫が興味深そうに身を乗り出してたずねてきた。どうやら未来の道具に興味を持ったようだ。
「未来の道具?」
「はい、未来人なら私たちが持ってない色々な道具を持っているはずです」
「うん、携帯なら持ってるよ」
 名雪がポケットから携帯を取り出した。
「携帯?」
「携帯電話の略だよ。手の平サイズの電話なの。こうやってダイヤルを押すと相手と通話できるんだよ」
 名雪は携帯を開くとダイヤルを押して電話をかけ始めた。

パパパパパンパパ〜ン(着メロ:「風の辿り着く場所」)

 すると栞のポケットから着信音が聞こえてきた。栞はポケットから携帯を取り出すとさっそく携帯を開いた。
「もしもし、栞ちゃん」
 名雪が携帯の受話器にしゃべり始めた。
「はい、聞こえてます」
 栞が応答した。
「うわっ!すごいです!」
 それを見ていた織姫が歓声を上げた。未来人が持って来た手の平サイズの電話機で相手と通話していることに驚いたのだ。
「今はアンテナがないから身近の携帯にしかかけられないけど、未来では町にある電波受信アンテナを使って日本中どこでもかけられるんだよ」
「日本中どこでも?すごいです。さすが未来の技術です」
 それを聞いた織姫が感心した。そんなことはこの太正時代では夢のような話だったからだ。
「さらにEメール送信も可能なんだよ」
「Eメール?」
 それを聞いていた紅蘭が横から口をはさんだ。今までの携帯の通話は太正時代の技術レベルでも理解できたが、Eメールなんてものは初耳だったからだ。
「あのね、Eメールは『電子メール』のことだよ。ほら、ここにこうやって文章を書いて、それから『送信』ってボタンを押せば、その文章を他の人に送ることが出来るんだよ」
 名雪はさっそく携帯のボタンを操作した。そして、画面に「こんにちは、水瀬名雪です」という文章を書いた。そしてメール送信のボタンを押した。

 パパパパパンパパ〜ン

 栞の携帯がメールを着信した。
「はい、メールが送られてきました」
 栞はさっそく携帯に送られてきたメールをみんなに見せた。そこには「こんにちは、水瀬名雪です」という文字が映し出されていた。
「まあ、文章を一瞬で送られなんてすごいでなくて」
「文章を送れる、ってこれって手紙の一種か?」
 それを見てすみれとカンナが驚きの言葉をもらした。彼女たちは一瞬でメールを送れる未来の技術力を目の当たりにして衝撃を受けたのだ。
「あははーっ、確かに未来ではEメールは手紙代わりに使われていますねーっ。でも従来の手紙も依然として使われていますよ」
 佐祐理が2人に説明してあげた。

「しかもこれ『カメラ付き携帯』なんだよ」
 名雪が携帯のレンズをみんなに見せながら言った。
「カメラ付き携帯?カメラって、あの写真を撮るカメラの事かいな?」
 紅蘭がそれを見て不思議そうな顔つきになった。メカが得意な紅蘭でもカメラ付き携帯が何なのかさっぱり分からなかったからだ。
「そう、手元にあるレンズで相手の顔や風景を写せるんだよ。撮影した写真はここの液晶画面に表示されるんだよ」
 名雪がカメラ付き携帯の機能について説明した。
「じゃあ、うちを撮ってみてくれる?」
 紅蘭はそう言うと名雪の前でポーズを取った。
「いいよ」
 名雪はカメラのシャッターを切った。そしてボタンを操作して液晶画面に今撮った映像が出るようにした。
「ほら、写った」
 名雪が楽しそうな顔つきで携帯を紅蘭に見せた。そこにはさっき撮った紅蘭の姿が映っていた。
「うわっ、ほんまにうちの顔が写っとるわ」
 紅蘭は驚いて液晶画面をのぞき込んだ。
「で、未来ではこれをどうするのかいな」
「この映像はそのまま保存しておいたり、さっきのEメールと一緒に相手に送ったり出来るんだよ。さらには写真みたいにプリンターで印刷できるし」
「プリンター?」
「家で手軽に印刷出来る小さい印刷機のことだよ。これを使うと先ほどカメラで撮った映像を写真みたいに印刷することが出来るんだよ。もちろん未来なのでカラー印刷だよ。この時代のカメラはまだ白黒だよね?」
「未来では写真がカラーなの?アイリスも見てみたいな」
「へえ、うちの作ったキネマトロンよりすごいわな」
「キネマトロン?何ですかそれ?」
 栞がたずねた。
「うちが作った通信機の一種なんや。今持って来るで」
 紅蘭は楽屋の奥へと走っていった。そして、部屋の隅から大きな木製のケースを持ってきた。紅蘭がそれを開けると、中からモニターやマイクやダイヤルの付いた機械が出てきた。
「へえ、結構大きいですね」
 それを見た栞が感心した。
「これを使うと、遠くの相手とも声で通話できるんや。画像もモニターに出るし、うちの自信作なんや」
「すごいじゃないですか、紅蘭さん」
「でもさっき名雪はんの持ってきた携帯に比べればサイズ・機能ともに下や。やっぱり80年近くある技術力の差は恐ろしくあるんやな」
 紅蘭が残念そうな顔つきでそう言った。メカに詳しい紅蘭にとって、こうも未来人との技術格差を見せ付けられたことでショックが大きかったようだ。

「そうだ真琴、みなさんにデジカメを見せてあげたらどうかしら?あれを見ればもっと未来の技術が分かると思うし」
 秋子さんが提案した。
「うん秋子さん、さっそくデジカメを見せるわね」
 真琴はそう言うとごそごそと自分のカバンに手を入れた。そしてデジカメを取り出した。
「これがデジカメよ」
 真琴がデジカメをさくらたちの前に見せた。
「へえ。でもこれってカメラですよね。今のカメラよりずっと小さいですね。それにカメラの後ろ側に画面のようなものが付いてます何でしょうか?」
「これは、未来で開発された『フィルムのいらないカメラ』なの。もちろんカラーよ」
「フィルムがいらないんですか?驚きです」
「でも、従来通りのフィルムを使うカメラも未来では健在なんですよ。念のため」
 秋子さんがフォローした。
「で、どうやって撮るのかな?」
 アイリスがデジカメをのぞき込んだ。
「まず、こうやってカメラを相手に向けて後ろの画面に写したい相手を出すの。この画面はこのカメラのレンズで写しているものがそのまま映像で出てくる仕掛けになっているの」
 真琴はデジカメのレンズをさくらとアイリスの方に向けた。
「そして、自分の撮りたい画面が写ったらそこでシャッターを押すの」
 真琴はそう言いながらシャッターを切った。
「へえ、しぼりを絞ったりカメラをのぞき込むことはしなくていいんですね」
 さくらが感心した。
「それでこれはどうなっちゃうの?」
 アイリスが質問した。
「撮った画像はメモリーに記録されています。好きな時にいつでも後ろの画面で見られるんですよ」
 秋子さんがそう言いながら真琴が撮ったデジカメのボタンを操作した。すると、後ろの画面にさくらとアイリスが写っている映像が現れた。
「あ、本当だ」
「わあ、アイリスとさくらが写ってる」
 さくらとアイリスがうれしそうに画面を覗き込んだ。
「あとは先ほど佐祐理ちゃんが言っていたプリンターでこの画像を印刷すれば、カラー写真が出てくるんです」
「すごいね」
「でも、どうしてフィルムがいらなくなったのかしら?」
 さくらが質問した。さくらの時代ではまだ写真は白黒でフィルムが必要なものと相場が決まっていたからだ。
「このデジカメで撮った画像のメモリーは時間がたっても劣化しないの。しかもプリンターで何枚も好きなだけ印刷できるし、色々な面でフィルム式のカメラよりずっと優れてるんですよ。だから未来ではデジカメが普及してるんです」
 秋子さんがデジカメの利点について説明した。

「みんな、すごいだろ。これGショックだぜ、Gショック」
 今度は祐一が左手を上げた。その手首にはカシオのGショックが燦然と輝いていた。それは祐一が自分のお小遣いで買ったお気に入りの腕時計だった。
「うわっ、祐一君Gショックを持ってるんだねっ」
 あゆがGショックと聞いて大喜びではしゃぎだした。
「Gショック?」
 織姫が不思議そうな顔をした。なぜなら、この未来人が持っている腕時計は自分達の知っている腕時計とはずいぶんデザインが違うからだ。第一文字盤や秒針がない。
「この時計、文字盤が針でなく数字になってるんですね。さっき見た携帯の画面みたいです」
 さくらがGショックの画面を見てそう言った。
「ああ、これは液晶画面です」
 祐一が説明した。
「それで『Gショック』って一体何なんです?」
「Gショックは未来の世界で販売されているどんな衝撃にも耐えられるすごい時計です。ビルの上から落としても平気ですよ」
「おーほほほほ、それは本当ですこと?この神崎重工でもそんな時計は作ってませんでしたわよ」
 すみれがそう言った。どうやらすみれは未来でもそんな時計が作れるのかと半信半疑のようだった。
「衝撃に耐えられるなんてすごい時計です」
 織姫が感心してGショックをしげしげと眺めていた。
「よーし、あたいが一丁試して見るか。祐一、そのGショックを机に置いてくれないか?」
 カンナはそう言うとさっそく腕まくりを始めた。どうやら本気でGショックと勝負するつもりらしい。
「よしっ」
 祐一は手首からGショックを手首からはずすとそれを机の上に載せた。
「よっしゃあ、それっ!」
 カンナは立ち上がると思いっきり右こぶしをためた。そして勢いよくこぶしをGショックめがけて突き立てた。

 バシッ!!

 豪快な音がしてカンナのこぶしがGショックに命中した。花組でも腕力ナンバーワンのカンナの鉄拳の威力は絶大だ。しかし、カンナの鉄拳を食らってもGショックはそのまま動いていた。
「うわっ、あたいの一撃を受けても平気で動いてるなんて」
 カンナはさっきの一撃のせいでひりひりする右手を押さえながらビックリした。まさかGショックがここまですごいとは全然想像していなかったからだ。
「ま、Gショックだからな。これくらい平気だぞ」
 祐一はGショックを再び左手首にはめるとそれを得意げにちらつかせた。

「ところで紅蘭さん、メカに詳しいようだから質問なんだけど、俺たちが未来に戻れる機械って作れないかな?」
 祐一が質問した。祐一は、紅蘭ならタイムマシンを造れるのではないかと思ったのだ。
「さすがにそれは、うちでも無理や」
「無理?」
「いくらうちでもタイムマシンなんて作ったことあらへん。それどころかこの世界ではまだどういうメカニズムでタイムトラベル出来るかの理論すらないんや」
 紅蘭が残念そうな顔つきになった。
「そうね、タイムマシンなんて聞いたことないわ」
 マリアもうなずいた。
「そうですか・・・俺たちのいた未来でもまだタイムマシンはなかったし、やっぱり無理ですか。これからどうやって元に時代に戻ったらいいんだろう?」
 祐一はそう言うと一人で考え込んでしまった。

 みんなが楽しそうに会話をしている中で舞とレニだけは無口に黙っていた。2人とも無言で机の上に置いてあったアイスセーキ(アイスシェイク)をストローで黙々と飲みつづけていた。
「これ、おいしい」
 舞がつぶやいた。
「本当だね」
 レニもつぶやいた。
「ぼくたち、気が合うね」
「はちみつくまさん」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 2人とも無表情のまま相手を見ながらアイスセーキを飲み続けていた。

「それじゃ、ちょっと外に出てますね」
 みんなが話をしている途中でさくらはそう言うと立ち上がって部屋を出た。そして廊下に出て深呼吸をした。さくらは今までみんなと話し続けていたのでちょっと気分転換をしようと思ったのだ。
「おお、さくらじゃねえか、昨日やって来た未来人たちはどうしたんだ?」
「あら、さくらさんね」
 さくらはちょうど廊下で向こうからやって来た米田支配人とかえでとバッタリ出会った。
「あら、米田支配人にかえでさん」
 さくらは2人に挨拶した。
「未来人たちは花組の皆さんと仲良くやっています。はじめは時代の差があって話がしづらいかなって心配してたんですけど、話し始めたら意外に時代の壁がなくて、みんなうちとけてます」
 さくらが二人に説明した。
「そう、それはよかったね」
 かえでがうれしそうにほほえんだ。彼女にしても未来人がやってくるなどという事態は全然想像していなかったので、トラブルが起こらなかったことに安心しているのだった。

「そうそう、さくらさんにも見せようと思ってここに来たんだけど、パリに行った大神中尉から手紙が届きました。『パリに赴任して巴里華撃団の隊長として順調に活躍している』とのことです」
 かえでが帝劇に届けられた外国郵便の封筒から手紙を取り出して読み始めた。
「大神さんがパリで活躍してるんですか。それは良かったですね」
「それと追伸で『イギリス政府が帝国華撃団の活躍を見学するために霊力者をそちらに派遣したそうです。この手紙が船便で帝都に届く頃には日本に向かっている最中だと思われます』とありました。以上です」
「イギリス人って珍しいですね。花組にはイギリス人はいませんでしたし」
 それを聞いたさくらが物珍しそうな顔をした。確かにさくらが言うように花組にはイギリスや英連邦の出身者は一人もいなかったからだ。
「そうだな。現在、ヨーロッパでは巴里華撃団が設立され、アメリカでも第3の華撃団が設立されようとしているそうだが、大英帝国は俺も聞いたことがないな」
 米田支配人が横から口を出した。
「はい、今度来日してくる人が協調性のない人じゃないといいんですけど・・・」
 かえでが心配そうな顔つきになった。以前、織姫とレニが花組に加わった時にも当初は色々とトラブルがあったからだ。
「イギリス人ということは、花組と同じ女性ということですか?」
「さくらも知ってると思うが統計的にはっきりと霊力を持つ奴は圧倒的に男よりも女に多いというのが出とるからな。今度来る連中も多分お前らと同じ女だろう」
「でもこれで、また帝劇は人が増えることになりますね。今の未来人だけでなく」
「そうだな、こりゃまたにぎやかになりそうだ」
「仕方ないですね」
 さくらはそう言うとその場を立ち去った。

 その頃、帝劇を遠く離れた太平洋上をシンガポールから日本に向けて1隻の駆逐艦が航行していた。艦首のポールには大英帝国の軍艦であることを示すユニオン・ジャック(イギリスの国旗)がひるがえり、艦尾には<HMS AVONLEA>の文字が書かれたプレートが貼り付けられていた。それは世界に冠たる大英帝国海軍の誇る駆逐艦<アヴォンリー>だった。
 その<アヴォンリー>の艦上で、1人の少女が手すりにつかまりながら海を見ていた。見た目は香里そっくりの顔つきで、髪の色はやや香里と違っていて栗色だった。そしてどことなく年齢の割にはませた―大人びた―顔つきをしていた。少女は格子模様のベストに茶色のロングスカートといった服装だった。自分の栗色のウェーブした髪を海風になびかせ、頭には麦わら帽子をかぶっていた。ちなみに作画はいたる画である。
 彼女はあごに手を載せながらぼんやりと海を眺めていた。
 その時、駆逐艦のドアが開いた。中から水兵が出てきた。
「グレンジャー少尉、そろそろ艦内に戻る時間です」
「わかったわ」
 少女はそう言うと艦内へと戻っていった。


 つづく


あとがき

 第13話です。今回祐一たちと花組のみんなが顔を合わせました。花組の反応は皆さんの予想通りだったでしょうか?
 自分で書いていて驚いたのは、祐一たちがいた未来から持ってきた道具の技術力の高さです。正直、自分で書いてみるまでここまで過去との格差がすごいとは予想もしてませんでした。祐一たちのいた時代はサクラ大戦の世界から百年もたってないはずなんですが。
 今回、最後の部分でイギリスが登場しました。不思議なことに「サクラ大戦」シリーズではイギリスはほとんど取り上げられたことがありません。そこで今回登場させました。イギリスから派遣された人間は誰なのかは次回判明します。もっとも、ファミリーネーム(苗字)で誰だか分かった人もいると思いますが。


管理人のコメント

前回は蒸気を利用した超技術に圧倒された未来人一行。さて、今回は彼らの逆襲です。

「そうですか、未来ではずいぶんすごいお仕置きをするんですね」
「うわっ、ひでえ話だな、こりゃ」

実にごもっともな感想です。


>「いえ、決してそんなつもりじゃなかったんですが・・・あゆちゃんごめんなさいね」

 おや…すると、そろそろあゆにも元に戻れる日が近づいているのでしょうか?


>「うわっ!すごいです!」
それを見ていた織姫が歓声を上げた。未来人が持って来た手の平サイズの電話機で相手と通話していることに驚いたのだ。

考えてみれば、携帯なんてものは私が生まれた時代でさえ超技術力の塊ですよね。太正の人が驚くのも納得です。


>「しかもこれ『カメラ付き携帯』なんだよ」
>「そうだ真琴、みなさんにデジカメを見せてあげたらどうかしら?あれを見ればもっと未来の技術が分かると思うし」

サイズの小さいカメラ付き携帯の方が凄い気もしますが…


>豪快な音がしてカンナのこぶしがGショックに命中した。花組でも腕力ナンバーワンのカンナの鉄拳の威力は絶大だ。しかし、カンナの鉄拳を食らってもGショックはそのまま動いていた。

これは意外。さすがに壊れると思ってました(笑)。


>「いくらうちでもタイムマシンなんて作ったことあらへん。それどころかこの世界ではまだどういうメカニズムでタイムトラベル出来るかの理論すらないんや」


現代でも現実性のあるタイムトラベルの理論はありませんし、これは仕方のないことです。


>2人とも無表情のまま相手を見ながらアイスセーキを飲み続けていた。

このマイペースぶりが素敵です(笑)。


>「グレンジャー少尉、そろそろ艦内に戻る時間です」

ハーマイオニー? それとも先祖? いずれにせよ、彼女が今回の鍵を握っている予感がします。


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