SPACE BATTLESHIP ”YAMATO”
EPISODE:1 Hope for tommorow Part1,Section4
宇宙戦艦ヤマト
第一部 遥かなる星イスカンダル
第四話「EX計画」
2199年 5月2日 地球防衛軍坊の岬沖機密ドック
古代たちが従来に無い巨大戦艦…BB-EX01<ヤマト>と対面を果たしてから2時間が過ぎていた。今、3人は戦艦<ヤマト>の艦橋にいる。そこで、2人はこの艦が建造される契機となった超極秘建艦計画<EX計画>について沖田から説明を受けていた。
「そもそも<EX計画>のEXはExodus、つまり脱出のEXなのだ。すなわち、人類の滅亡が確実なものとなった場合に備え、地球を脱出するための船団を建造する、と言うのがその目的だ」
「そんな計画が存在していたとは…」
古代がうめくように言った。それも一つの選択肢とは分かっているが、逃げると言う発想に微かな嫌悪感を覚える。
「今の地球表面は、重度の放射能汚染に曝されている。そのためにこうして地下都市や海底ドームの避難先に全市民が退避しているわけだが…正直なところを言えば、こうした待避所の機能はそう長くはもたない」
地下都市にしても海底ドーム都市にしても、あくまでもシェルターとして建造されたものだ。食料や工業製品の生産能力は十分ではない。今は備蓄を配給制とし、さらに食料製造プラントや工業ラインの増設を進めているが、現在の資材で地球人類が生存できる環境を保つのはあと1年半が限度なのだ。
それを過ぎると社会を維持する能力は限界に達し、やがて食料が不足し、インフラのメンテナンスができなくなる。そうなれば、戦うまでもなく人類は滅亡への道を歩まざるを得ない。
「そこで、EX計画が極秘に立案された。およそ10000人を収容する大型の避難宇宙船を多数建造し、それに乗り込んで地球を脱出、アルファ・ケンタウリ星系へ脱出する」
現在の技術力を投入すれば、太陽系からの距離3.4光年と最も近い恒星であるアルファ・ケンタウリまで12年ほどで到着できる宇宙船を建造可能だ。実際、ガミラスの侵略前に無人探査機が既にアルファ・ケンタウリに向けて送り出された事がある。その結果、アルファ・ケンタウリの第一惑星は若干酸素含有量は少ないものの、人類の生存が可能な環境を持つ可能性のある事が判明していた。
「しかし、そのためにはガミラスの追撃に対して対抗可能な戦力を持たねばならない。そこで、解析できたガミラスの技術をフィードバックした従来より強力な戦艦を建造する事がEX計画の支援計画として立案された。こちらはExcellent…最高の戦艦と言う意味のEXを冠されている」
最高の戦艦、と言う言葉には古代も素直に頷いた。<ヤマト>はまさにそう言われるだけの価値がある戦艦だったからだ。古代は艦内を見て回った時の事を思い出した。
まず、3人はドックの壁面を取り囲むキャットウォークからゴンドラで上甲板に降り立った。前部には対空ミサイルの垂直発射システム、Mk-88VLS(122セル)が埋め込まれ、その後方に巨大としか形容しようの無い3連装の主砲が聳えていた。
その形状は、従来の無砲身荷電粒子砲と異なり、長大な砲身を備えている。今、その主砲塔には十数人の技術者が取り付いて作業を行っていた。
「昔の戦艦のようですね」
古代の言葉に沖田が振り向く。
「形状は先祖がえりを起こしているようだが、機能は最新だ。ちょうど良い説明役がいるので彼に案内を頼もう…南部君!!」
沖田が呼びかけると、技術者のリーダーと思しき1人の男が進み出てきた。端整な顔立ちをした、まだ若い技術者…いや、技術者ではない。着ている制服には中尉の階級章と砲術徽章が刺繍されている。れっきとした砲術士官のようだ。
「沖田提督!視察ですか?」
南部は手に付いた油をタオルで拭いながら歩いてくる。沖田は彼の横に立ち、紹介した。
「この艦の主砲設置工事を担当している南部康夫中尉だ。まだ若いが、有能な砲戦システムエンジニアだ」
「南部です。よろしくお願いします」
頭を下げる南部。その南部と言う名と、主砲と言うメカニズムの繋がりからある事に思い至った島が尋ねる。
「南部中尉、一つ聞くが、君は南部重工とは何か関係が?」
「ええ、恥ずかしながら私の実家です」
南部は答えた。質問した島だけでなく、古代も驚いて南部の顔を見る。南部重工業と言えば、火砲類の製造には定評のある名門企業だ。そこの御曹司がこんなところで油まみれで働いているとは…
「大砲というものは撃ち方を知らなければ作り方もわからない…と言うのがうちの家訓でして、昔から親父に徹底的に仕込まれました」
照れたように笑う南部に、沖田が言った。
「済まんが、この砲について説明してくれんか」
「は、了解です」
南部は頷き、一行を主砲塔内に案内した。
「まず、この砲ですが、Mk-99衝撃波/電磁砲と言うのが制式名称です。要は、フェーザー砲とレールガンの両用砲ですね」
さりげない南部の口調に、一瞬古代はその意味が分からなかったが、次の瞬間信じられない事を聞いたように身を震わせた。
「フェーザーだって?ガミラスが使っているのと同じ?」
南部は頷いた。
「はい。奴等の技術を解析し、ようやく実戦化に成功しました。先日行った試射では、主砲戦距離でガミラス側艦艇のものと同じバリアと装甲板からなる標的を軽々とぶち抜きました。おそらく、戦艦クラスの装甲であっても撃破できると確信しております」
その言葉に古代は更に驚愕の表情を浮かべた。この砲は、これまで地球の方からは戦艦主砲の直撃を持ってしても一撃で撃沈できなかったガミラス艦を撃破できるのだ。
「また、エネルギー吸収ガスの放出が激しく、光学兵器では打撃を与えられないと判断した時には、レールガンに切り替える事も出来ます。その場合は1.7トンのステルス化砲弾を発射可能で、やはりガミラス艦の防御手段を無力化できる兵器です」
レールガンはリニアモーターの原理を応用し、電磁力で加速した砲弾を発射する兵器だ。発射時に光と熱を伴わず、奇襲効果の高い兵器で、しかも光学兵器と違って遠射程におけるエネルギーのロスが少ないと言う特性がある。地球圏でも要塞砲台用に100門ほどが実戦配備されており、不用意に射程内に侵入したガミラス艦を数隻撃沈していた。
にもかかわらずこの兵器が多用されてこなかった理由は簡単…加速用の電磁レールにスペースを取られるため、艦船に多数搭載するのが難しいからだ。これらの要塞用レールガンは口径18インチ(約46センチ)、加速レールの長さは500メートルと言う怪物的な大きさなのだ。古代はそんなものをどうやって艦載可能にしたのか南部に尋ねた。
「加速レールは8の字を折りたたんだ二重円構造で、主砲のバーベットを取り巻くように設置しています。これも、ガミラス側から優れた常温超伝導磁石の技術が入手できた事で開発可能になりました。」
南部は説明した。円形加速レール式のレールガンは、理論的には加速距離を無限にでき、砲弾の初速も光速の99パーセント近くまで高められるはずだ。しかし、実際には砲弾の速度がリニアモーターの出力を上回ってしまった時点でそれ以上の加速は出来ない。また、直線加速の方が弾道も安定する。
しかし、強力な磁石が開発できた事で円周加速レール内の限界速度の上昇、さらに弾道を安定させるための砲身内の直線加速部分の短縮に成功し、艦載型レールガンの開発に成功したのだと言う。
「砲弾の限界速度は?」
沖田が尋ねた。
「十分な電力が供給できれば光速の0.5パーセントまでは約束できます」
凄まじい速度だった。光速の0.5%と言えば大した事の無いように聞こえるが、秒速では約1500キロ。宇宙戦における平均的な砲雷撃戦距離が20000〜30000キロである事を考えれば、十分な速度と言える。相手に到達するのに15〜20秒しかかからないのだから。しかも、1.7トンもの砲弾が秒速1500キロもの超高速で激突する時の衝撃力はいかなるバリアや装甲板をめぐらしたところで防げるものではない。
「うむ…大したものだ」
沖田は頼もしそうな目で主砲を見上げた。そして、同じような目で主砲を見上げている古代に声をかける。
「どうだ、古代。撃ってみたくないか?」
「…は?あ、はっ!」
主砲に見とれていた古代は、慌てて沖田の言葉に背筋を伸ばした。古代は実のところ水雷専攻ではあるが、現在ではヴァーチャルリアリティ技術を駆使した教育システムの発達により、他の戦技もごく短時間で一通り習得できる。古代も専門の水雷だけではなく、砲術も平行して履修し、かなり優秀な成績を収めていた。
「是非撃って見たいものですね」
落ち着きを取り戻した古代が言うと、沖田は苦笑しながら言った。
「そのうちいくらでも撃たせてやる」
そう言うと、沖田は次に行くぞ、と言い、南部中尉に案内の礼を言って歩き出した。古代、島も慌てて続く。そのため、古代は「いくらでも撃たせてやる」という言葉の意味を考える事は無かった。
主砲塔内から艦内へ降り、ベルト式の動く通路に乗った3人は、艦尾の方向へ向けて進んでいった。艦内のあちこちでもまだ工事が続いているらしい。作業員が忙しげに歩き回っているのが確認できた。
「む…ここだ」
沖田が通路から降りたのは、「格納庫」と書かれた大型の扉の前だった。沖田がIDカードをかざすと、扉は音も無く開き、3人の目の前に広大な空間が開けた。
「これは…すごい!BB-2172級戦艦の格納庫よりも遥かに広いじゃないか!」
島が感嘆の叫びをあげる。BB-2172級は先日まで沖田の旗艦だった<八州>も属する地球連邦宇宙軍最大の戦艦である。同級の格納庫は各種航宙機を13機まで収容できたが、<ヤマト>はその倍は搭載できそうだった。
「実際には格納庫全体は三層構造で、これとほぼ同じ広さの作戦機専用格納庫がもう一層、この上にある。最下層は偵察機や調査機などの汎用機専用で、全体では60機を超える各種機体を搭載可能だ」
沖田が答えた。60機という数字に古代たちは衝撃を受けた。ちょっとした空母並みの搭載量だ。
ちなみに、地球連邦宇宙軍はガミラス襲来前に6隻の空母を保有していたが、比較的優秀な地球の航宙機に脅威を抱いたガミラスの集中攻撃を受け、既に全艦が戦没している。その中で最も小さい<ウォルラス>級(CV-2176)の搭載機数が77機だった。それと比較すれば、<ヤマト>の搭載量の大きさが理解できる。
「凄いですね。これほどの搭載機があれば、相当柔軟な作戦運用が可能になるでしょう」
古代は床面に描かれた機体誘導用の矢印と、リニアガイドレールを目で追った。ガイドレールはリニアモーターで機体を牽引し、指定の駐機スペースや発艦用スペースへ誘導するための装置で、格納庫の床を縦横に走っている。奥には大型のエレベーターがあり、さらに今古代たちが立っている艦首側の舷側にもエレベーターが配置されている。
「奥のは着艦した機体を収納する専用のエレベーターだ。両舷側には発艦用カタパルトに直接繋がるエレベーターが一基ずつある。見てみるか?」
古代が見ているものを悟った沖田の言葉に、古代は頷いた。壁際に歩み寄り、沖田がそこにあったスイッチを押すと、鈴を鳴らすような音の警報が鳴り響き、エレベーターがゆっくりと下降してきた。それに乗り込み、上甲板へ上がる。
「…これは凄い。本当に空母並みだ」
上甲板に上がった島は感嘆の声を上げた。エレベーターの開口部は第三主砲塔のやや後方に位置していたが、そこには飛行甲板がしっかりと設置されていた。エレベーターに埋め込まれたガイドレールはそのままリニアカタパルトに接続され、艦尾方向へ向けて艦載機を弾き飛ばす仕組みだ。着艦スペースはその中間に位置し、降りた機体はそのままエレベーターで艦内へ収納されるようになっている。規模は違うが、カタパルトや格納庫への入り口の配置はかつての戦艦<大和>のものを踏襲したかのような感さえある。
「それぞれのカタパルトからは1分間に3機の射出が可能だ。全機発艦には10分弱かかる」
沖田は言った。古代は頷く。なかなかの射出ペースだ。
他にも、艦橋構造物の周囲に針山のごとく装備された対空用パルスレーザー銃座、艦底に置かれている地上戦用車輌の格納庫を含む充実した陸戦隊用設備など、巨大な艦内にはありとあらゆる設備が詰め込まれていた。
「従来のものとは次元の違う威力の主砲、それに空母並みの艦載機…確かにこいつは半端じゃない戦艦です。良くこれだけの艦を作れたものですね」
古代が艦内を見て回った時の事を思い出し、感嘆を込めて言うと、沖田はかすかに頷いた。
「うむ…少なくとも、攻防性能では引けは取らんよ。ただ…今の地球の力では量産はできない。この<ヤマト>を含めて4隻、それも一種の実験艦のため、同じ艤装の艦は一隻として存在せん」
沖田はそう言うと、建造中のEX計画戦艦について語った。
「コンセプトA」…仮称艦名<アリゾナ>。16インチフェーザー砲3連装5基15門を装備する打撃(Attacker)型。
「コンセプトB」…仮称艦名<ビスマルク>。重装甲を施し、敵の攻撃に耐えつつ戦線を突破する事を目的とする突撃(Buster)型。
「コンセプトP」…仮称艦名<プリンス・オブ・ウェールズ>。対軽快艦艇、対空戦闘に重点を置き、それらの高速ターゲットを積極的に捕捉、撃破する追撃(pursuit)型。
そして、この<ヤマト>はその3つのコンセプトを統合したY型にカテゴライズされる。完成時期は他の3隻よりも遅くなるが、総合能力では他の追随を許さない。まさに人類が建造した史上最強の戦闘艦艇と言うことができる。
「これがガミラス襲来時にあればな…まぁ、愚痴は言うまい。で、今日お前たちにこの艦を見せたのには訳がある」
沖田は切り出した。どうやら、ここからが本題らしい。古代、島は背筋を伸ばし、沖田の次の言葉を待った。
「この艦は、従来の戦艦とは全く違う思想・技術を背景として建造された。これを扱うには従来の経験は役に立たない。むしろ、若い発想と行動力が必要になるはずだ。つまり…」
沖田は一瞬言葉を切った。古代と島は、上官の前であるにも関わらず、思わず顔を見合わせる。沖田が何を言おうとしているのかを悟り、同時に信じられない気持ちになったのだ。まさか、自分たちが。いや、しかし…
若い二人の期待と困惑を見て取り、沖田は彼らが待ち望んでいる言葉を告げた。
「古代進、島大介。両名をこのBB-EX01<ヤマト>艤装委員に任じたい。…引き受けてもらえるか?」
古代と島は飛び上がった。艤装委員とは、艦の建造に携わる技官以外の軍人の事で、艦の就役後は自動的にその艦の幹部に任命されるのが通例だ。すなわち、将来<ヤマト>が就役した際、彼らが幹部乗員として乗り組む事になると言う事である。まだ20代の大尉が引き受ける役としては極めて異例の重職と言って良い。
予想された事とは言え、あまりの衝撃に古代と島が呆然としていると、沖田は二人に歩み寄り、その肩をどやしつけた。
「どうした!?早く返事をせんかっ!!」
「は、はいっ!!古代進大尉、謹んで<ヤマト>艤装委員を拝命いたします!!」
「同じく島大介大尉、謹んで<ヤマト>艤装委員を拝命いたします!!」
沖田は微笑み、今度は優しく二人の肩を叩いた。
「よろしい。既に二人の部屋はこのドック内に用意させている。できるだけ早く着任の準備を整えるようにな」
「はっ!!」
背筋を伸ばして敬礼する古代と島。沖田は答礼し、二人に先に宿舎に戻っているよう伝えると、工廠長との会議のために艦橋を出て行った。しばらくそこに立ち尽くしていた二人だったが、やがて我に返ると歩き始めた。
「それにしても…驚いたな」
「あぁ、まさか俺たちが艤装委員に任命されるなんてな…」
沖田がどうしてそこまで自分たちを見込んでくれたのかはわからない。確かに二人とも士官学校卒業時の成績は優秀だったし、そこそこの実戦経験も持っている。それでも、負け戦続きで数が減ったとは言え、彼らより信頼性のあるベテラン士官が枯渇してしまったわけではない。
いくら若い力を求めると言っても、限度があるのではないだろうか?
そんな事を思いながら艦の外へ出た二人だったが、やがて彼らは自分たちが<ヤマト>に配属された真の意味を知る事になったのであった。
第五話「メッセージ」に続く
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