SPACE BATTLESHIP "YAMATO"
EPISODE:1 Hope for tomorrow Part3,Section5


宇宙戦艦ヤマト

第一部 遥かなる星イスカンダル

第二十四話 「最後の謀計」

ベテルギウス上空
 ベテルギウスの光で真紅に染まる宇宙の中、〈ヤマト〉とコルサック艦隊の決戦は始まった。
「真田君、艦の状況は?」
 沖田の問いに、被害状況表示盤を睨んでいた真田が振り返る。
「装甲板はまだ千度以上に加熱しており、固体窒素層が失われたため、耐弾性は通常時の八割程度に落ちています。また、パルスレーザー砲の二割が損傷または破壊。姿勢制御ノズルも損傷したため、回頭性能も低下しています」
 真田の報告に厳しい表情になる沖田。通常航行では問題にならない程度のダメージだが、これを背負ったまま戦闘に突入するのはいささか厳しい。
「わかった。可能なところから復旧に手を付けてくれたまえ。各員は今の損害を計算して戦闘に臨むように」
 沖田はまずそう前置きすると、古代の方を向いた。
「古代、艦載機は出せるか?」
 その言葉に驚く南部や相原。艦がいくらか損傷しているとは言え、相手は冥王星艦隊とは比較にならない小勢で、空母も無い。それを艦載機で叩くと言うのは、沖田が決して事態を楽観視していない……厳しい戦いを予想しているからだと知れた。
 しかし、古代は首を横に振る。
「無理です。機体は全機使用可能ですが、まだこの空域ではベテルギウスの影響が強すぎ、機体の電子装置にかかる負荷が無視できません」
「そうか」
 沖田は目を伏せ、それから改めて命じた。
「ならば、艦隊戦でこの場を切り抜けるか。砲雷撃戦用意」
 その時、先手を打ってガミラス艦隊の発砲が始まった。赤い光線がまだ燻っている〈ヤマト〉の装甲板を容赦なく削る。被弾の衝撃に揺れる艦を制御する島を見つつ、古代は命じた。
「第一、第二主砲塔、応戦せよ!」
 青白色の輝きが主砲から迸る……が、その弾道は敵艦を捉えることなく逸れていく。一発二発ではない。発射される砲撃の全てが敵を外した。
「どうした!? 全く当たらないぞ!!」
 南部の叱声に、第一砲塔長の逆巻から返事が来る。
「さきほどの高熱により、砲身に微妙な歪みが出たようです!」
「なんだと!?」
 南部が愕然とする。主砲砲身は彼の実家、南部重工業の自信作だ。主砲の発砲時に出る熱の処理にも気は配っている。
 しかし、瞬間的な高熱はともかく、数時間単位で熱に炙られる状況は考慮していない。超合金で作られた砲身もさすがに耐え切れずに変形していた。
「南部、補正は出来そうか?」
 古代の問いに、南部が首を横に振る。
「いえ。砲身の歪みがどれくらいか分からんので無理です。精密に測っている余裕も装置もありませんし……全力で冷却して、歪みを取る以外に解決策はありません」
 悔しそうに言う南部。古代は頷くと沖田に向かって言った。
「艦長、とりあえずミサイル戦で時間を稼ぎます」
「うむ」
 沖田が厳しい表情で頷いた。古代は水雷戦コントロール画面を起動し、パネルを叩く。しかし、次の瞬間ミサイルのステータス表示のうち、半分近くが真っ赤になった。耳障りな電子音が響く。
「古代、どうしたんだ?」
 砲撃を回避しながら聞く島に、古代は無念そうに答えた。
「やられた。熱変形は砲身だけじゃない。ミサイルのハッチも歪んで開かない奴が出てる!」
 艦体を構成する構造体は頑強でも、ハッチや砲身などの可動部は、どうしても強度的には弱くなる。それが一斉に熱変形を起こしたのだ。さすがにこれは想定外の事態であり、真田ですら把握できなかった。
「無事な奴でしのぐしかないな……戦力は全開時の四割ってところか!」
 古代はうめきながらも操作を続行し、無事なミサイルを発射した。先頭の巡洋艦めがけて6発のミサイルが飛翔する。しかし、これもベテルギウスの電子の嵐の中では翻弄される運命を免れなかった。
「くそ、一番と四番のミサイルは故障! 誘導できん!」
 古代がそう叫ぶ中、さらに五番のミサイルも故障。コントロールを失い、落伍していく。残った3発のミサイルは、ガミラス艦隊の対空射撃によって簡単に撃墜された。
(これはまずいな)
 想像以上に悪化した戦況を見据え、沖田はこの窮地をどう切り抜けるか、考えを巡らせ始めていた。
 
 
コルサック艦隊 巡洋艦〈ニズベルグ〉
 どうやら〈ヤマト〉が全力発揮できない状況にあるらしいことを、ガンツは見抜いていた。
「さすがの怪物も、あの巨星の炎には無傷とは行かなかったらしいな」
 ガンツの言葉に、艦橋に明るさが走る。この艦隊の数倍の戦力を有した太陽系侵攻艦隊を、ただ一隻で壊滅に追い込んだ超戦艦との戦いに、誰もが死を覚悟していたのだ。それが散発的にしか攻撃できない状況と言うのは、絶好の好機であるに違いない。
(上手くいけば、切り札を切るまでもなく、奴を葬れるかもしれん……)
 ガンツは心の中でそう思った。こちらの持つ「切り札」は、そう呼ぶには余りにも不確定な代物だ。「肉を切らせて骨を断つ」と言いたいが、下手をすると自分だけが一方的に肉を切られて終わりかねない。
 それを使う状況になる前に、〈ヤマト〉を葬れるのなら、そうするに越した事は無い。ガンツは積極的な攻勢を命じた。
「全艦、進撃せよ! 奴に休む間もなく砲雷撃を加えるんだ!!」
 命令を受けて、旗艦以下、六隻の駆逐艦が一斉に〈ヤマト〉めがけて砲火を放つ。こちらは的確に〈ヤマト〉を捉え、艦体のあちこちに爆炎の華が咲いた。
 
 
〈ヤマト〉
 激しい振動が艦を揺さぶり、物が壊れる音が連続して鳴り響く。ただでさえ赤表示が多い艦の被害状況表示盤に、急激に赤が増えていく。
「第二副砲塔、損傷! 旋回速度低下!!」
「右舷第三ブロックに被弾集中。装甲板に亀裂と歪みが生じています!」
「左舷第三パルスレーザー砲全損!」
 普通なら被害にならないような被弾が、装甲が弱っている今回ばかりは大損害に繋がっていた。さすがの真田の対処指示が追いつかない勢いで、艦が刻まれるように損傷していく。島が必死の操艦を続け、古代も応戦するが、敵の勢いを押しとどめられない。
「艦長、このままではダメコンが間に合わなくなります!」
 真田が切迫した表情で報告するが、沖田は腕組みをしたまま沈黙を守っている。一部の弱気な乗員は、まさか艦長にもどうしようもないのか、と絶望的な気分に駆られた。
 しかし、沖田はもちろん諦めてなどいなかった。頭脳をフル回転させ、策を練っていたのだ。やがて、彼は目を見開くと、島に命じた。
「島、全速後退。わしが良いと言うまでベテルギウスに近づけ」
 その命令に、島が疑問を呈する。
「しかし、またベテルギウスに近づいては、艦のダメージを余計に増やすだけなのでは……」
「説明は後でする。急げ!」
 その島の問いを断ち切るように、沖田が強い調子で命じた。まだ疑念はあるが、とりあえず島は操縦桿を倒しこんだ。
「艦首スラスター噴射。全速後退!」
 艦に制動がかかり、後進を始める。さらに沖田は古代に敵を撃破するより、余り近づけさせないよう牽制するに留めるよう命じた。
〈ヤマト〉が、先ほど決死の思いで脱出してきた炎の海へ後退する。それは、まるで諦めて自ら死を選んだかのように見えた。


コルサック艦隊 巡洋艦〈ニズベルグ〉
〈ヤマト〉の不可解な後退は、ガンツの首を傾げさせていた。
「諦めたのか……? いや、そんなわけは無いな。とりあえず、追撃する!」
 艦隊は退く〈ヤマト〉を追って進撃を開始した。しかし、その鼻先を叩くようにミサイルが飛来してくる。集中攻撃に切り替えたらしく、個艦防空火力だけでは凌ぎきれない数のミサイルが左翼端に布陣する駆逐艦〈ミルナーヴェ〉を狙った。
「ちっ、各艦〈ミルナーヴェ〉を援護しろ!」
 ガンツの指示で、対空砲火が〈ミルナーヴェ〉の上に差しかけられる。ミサイルはことごとくそれに引っかかって爆散したが、その間に〈ヤマト〉は速度を上げて、ガミラス艦隊との間にはかなりの距離が出来ていた。しかし、その後退速度は鈍くなり、ほぼ停止しかけている。
「よし、攻撃を再開しろ!」
 ガンツの命令を受け、再びガミラス艦隊が砲門を開いた。その砲撃は面白いように〈ヤマト〉に命中し、向こうの反撃は無い。ガンツは一瞬勝利を確信しかけた。しかし。
(何かがおかしい……まるでこちらの攻撃を気にも留めていないようだ)
 次の瞬間、ガンツは〈ヤマト〉の狙いと、自分の犯した大失敗を悟った。顔色を変え、後退命令を出そうとする。が、それよりも早く、〈ヤマト〉の砲門が煌いた。
 
 
〈ヤマト〉
「試射終了。各砲とも弾道に異常なし! 冷却は完了しています!」
 南部が喜色を浮かべて報告し、沖田は頷いた。
「よろしい、反撃を開始せよ!」
 その命令を受け、南部が待ってましたとばかりに主砲制御システムを叩き始める。それを見ながら、乗組員たちは「さすが艦長」と沖田への敬意を新たにしていた。
 十数分前、後退を開始した〈ヤマト〉を再び沖田が停止させたのは、ベテルギウスのコロナの上層部分だった。
 コロナは恒星の大気圏、その再上層部を構成しており、現在に至るまで理由は不明だが、恒星本体の表面部よりも遥かに高熱である。例えば太陽の場合、表面温度は六千度なのに対し、コロナは百万度にも達する。
 しかし、コロナは非常に希薄なため、高熱と言っても艦に深刻なダメージを与えるほどのエネルギーは持たない。だが、数万キロの厚みを取れば、かなりフェーザー力線のエネルギーを減殺するだけの効果を持つ。
 要は、普段は艦の固有重力圏内に充填されているエネルギー吸収ガスと同じ発想だ。沖田の狙いは、ベテルギウス通過のために廃棄したエネルギー吸収ガスの代わりにコロナを使いつつ、艦を冷却する時間を稼ぐ事だった。そして、それは完全に成功していた。今や〈ヤマト〉の主砲は歪みを取り除かれ、狙い通りの弾道を描くようになっている。
「コロナ圏内より浮上! 外周クリア!」
 島の声と共に、南部が復讐の意気も高らかに引き金を引いた。
「目標、敵一番艦。第一、第二主砲全門斉射!」


コルサック艦隊
 復活した巨獣の咆哮は、コルサック艦隊にとっては破滅の幕開けだった。
 ガンツの命令で各艦は急いで後退を始めたが、十分な距離をとる前に、まず旗艦〈ニズベルグ〉が直撃を食らった。
 艦橋にいたガンツは、窓の外が真っ白になり、窓の窒素クリスタルが粉微塵に粉砕されて、爆風と共に自分に吹き寄せてくるのを見た。そして、それが身体に無数に食い込む激痛。
(馬鹿な……俺はこんな所でおしまいだと言うのか? シュルツ閣下、コルサック閣下、申し訳……ありま……)
 そこまで考えたところで、彼の意識は深い闇の中に吸い込まれていった。
〈ニズベルグ〉被弾爆発からわずか五分後、〈ヤマト〉の報復攻撃により、残る駆逐艦隊も全て叩きのめされ、火を噴いて宇宙空間をのたうっていた。噴き出す煙も、艦体そのものもベテルギウスの光に照らされ、真っ赤に染まっている。
 ガミラス人の血は青いが、それはまさに血の海に沈んだ敗者の惨状そのものに見えた。
 
 
〈ヤマト〉
「敵艦、いずれも沈黙」
 レーダーを見ていた雪が報告すると、ようやく安堵の空気が艦橋を満たした。
「苦戦させられたな……」
 古代が言うと、島がそれに頷いた。
「ああ。ともかく回避運動が思うに任せなかった。こういう状況を想定して訓練した方がいいな」
 戦力減二割という数字の意外な大きさを、全員が思い知った。部下たちがまた一つ戦訓を得たのを見届け、沖田は真田の方を向いた。
「真田君、被害状況は?」
 被害状況表示パネルをまだ見ていた真田は、他の乗員とは違う深刻な表情で振り向いた。
「甚大です。一度どこかで停泊して、徹底的なオーバーホールをする必要があります。技術課員総出で、まず三日はいただく事になるかと」
「三日か。それは痛いな」
 沖田の言葉に、今度はやや無理にではあったが、真田は明るい表情を作って言った。
「いい機会ですから、先刻第一惑星で採取した金属を利用して、艦体に新しく防御コーティングを施しましょう。上手くいけば、今後同じような状況が起きても、今回のような大損害にはならないかと思います」
「うむ、頼む。だが、あまり無理はするなよ」
 沖田が言った。今後三日間、真田は不眠不休で艦の修理点検に当たるのだろう。だが、あまり根を詰めて倒れられでもしたら、〈ヤマト〉全体が困った事になる。
「まぁ、適当に休憩はしますよ」
 真田が答えると、徳川機関長が手を挙げた。
「機関課員も使ってやってくれ。補助にはなるじゃろ」
 職務上、機関課員も技術にはそれなりの実力を発揮する。ありがたい申し出に真田が感謝の声を述べようとしたその時だった。
「……レーダーに反応! 敵艦です。近い!!」
 雪が絶叫のような声を上げる。艦橋に漂っていた安堵感が一瞬で霧散し、沖田が席から立つようにして雪の方を向いた。
「森君、距離は!」
「約……1200キロ! もうすぐそこです!」
 宇宙での1200キロは超至近距離だ。惑星間航行速度では数分で詰まる長さである。
「島、回避だ!」
 沖田は叫んだ。敵の自爆特攻ではないかと直感したのだ。
「何で気付かなかったんだ!」
 島が叫びながら操縦桿を引くが、傷ついた〈ヤマト〉はすぐには動かない。
「敵はステルス艦のようです。現在レーダーも損傷して性能が落ちてますから……」
 雪が答えるその間にも、敵艦は迫ってくる。太田が気を利かせて敵影をメインパネルに表示させると、標準的な駆逐艦タイプに似ているが、艦橋が低く武装も少ない、輸送船のような黒塗りのガミラス艦がベテルギウスの光球をバックに浮かび上がった。
「敵艦、データベースに照合しましたが、該当なし。未知の艦種です」
 真田が報告し、沖田は古代に命じた。
「古代、後部兵装群で敵艦を迎撃せよ」
「了解! 南部、第三主砲塔発射用意。目標後方の敵艦」
 古代は沖田の命令に応えつつ、自らも後部の対艦ミサイル発射管を起動させた。三門の砲身と起動した四発のミサイルが、敵に狙いを定める。この至近距離で外すわけはない。
「準備完了! 撃てぇっ!」
 古代の命令で、南部が第三主砲塔の発射トリガーを引く。同時にミサイルが発射された。700キロまで迫っていた距離を瞬時に飛び越えて、必殺の一撃が次々に敵艦を捉える。ところが。
「敵艦健在! いくらか損傷は与えたようですが、戦闘不能には至っていません!」
「なんだと!? そんなバカな!!」
 古代がメインパネルを見上げると、さっきよりも近づいてきている敵艦は、煙こそ吐いているが、撃沈どころか大破にさえ追い込めたか怪しい程度の損傷でしかなかった。よほどバリアーか装甲が強靭なのだろう。
「島!」
「ダメだ。行き足が上がらん!」
 古代は隣の親友を見たが、その顔は引きつっていた。ベテルギウスの熱とさきほどの艦隊戦の損傷でノズル類が損傷し、機動性が低下している。いくら島の腕でも、もともと〈ヤマト〉より機敏な敵を振り切るのは難しい。
 そして、いよいよ敵艦は〈ヤマト〉に取り付こうとしていた。衝突を警告する耳障りなブザーが鳴り響く。
「敵艦、右舷後方三キロまで接近! こちらと速度を同調させてきています!」
 雪の報告に、沖田は閉じていた目を見開いた。
(速度を同調? 体当たりなら減速などしないはず……もしや?)
 敵の狙いを見抜いた沖田は、艦長席のコンソールをガンと叩いて立ち上がった。
「奴は強襲艦だ! 取り付いて白兵戦を挑んでくるつもりだぞ!! 古代ッ!!」 
 強襲艦は惑星への上陸に使われる艦だ。宇宙空間でも要塞などへの攻撃にしばしば駆り出される。艦隊戦では、敵艦に対して接舷攻撃を行うことも任務に含まれ、それを実現するために高いステルス性と重装甲を持つ。
「そういうことですか!」
 古代は頷くと、艦内放送のスイッチを入れた。
「艦橋より全艦に達する! 敵強襲艦が接近中。全陸戦隊員、および手空きの乗組員は直ちに武装し、白兵戦用意!!」
 もはや対艦攻撃による阻止は間に合わない。敵の土俵で戦うしかないのだ。沖田は敵将の幾重にも張られた策に感嘆した。
(さっきの艦隊は囮か……見事なものだ。最初は超伝導ガス、そしてベテルギウス、囮艦隊……全ての策が連動している。だが、もう次はあるまい)
 これさえ切り抜ければ、最終的勝利は〈ヤマト〉のものだ。そう確信した沖田は艦橋にいる全員を見回して言った。
「これが、今まで我々を苦しめてきた敵将との最後の決戦になるだろう。彼らの最後の牙を叩き折り、銀河系外への道を開くのだ!」
「はっ!」
 全員が敬礼し、古代が言った。
「艦長、私は臨時陸戦隊とした乗組員たちの指揮を取ります」
「俺も陸戦隊に参加します! 今航法席には仕事がないですからね!」
 太田が続き、南部と相原も参戦を表明した。沖田が頷いたとき、雪が警告の言葉を発した。
「敵艦、後方より追いついてきました。本艦と併走します!」
 咄嗟に窓の外を見た要員たちの前で、漆黒の強襲艦が動きを止めた。〈ヤマト〉と平行したのだ。その舷側にあるハッチが開き、先端にドリルのついたフレキシブルチューブのようなものが姿を見せる。
「右舷の各乗組員は注意しろ! 敵が強行突入するぞ!」
 沖田が艦内放送で叫んだ直後、そのチューブが高速で射出され、〈ヤマト〉の側面を穿ち抜いた。続いて爆発音が轟き、艦が軽く振動する。
「突入箇所に爆弾を放り込んだな……くそっ、負傷者多数!」
 真田が被害状況を報告する。レーダー手として責任を感じていたのか、雪も立ち上がった。
「艦長、森雪、看護兵として任務に就きます」
「よろしい。佐渡先生と連携してくれ。アナライザー、お前は森君を守れ」
「あイアいサー!」
 アナライザーがやる気のある声で敬礼をする。その時、銃声が鳴り響き始めた。こちらの戦闘要員と、敵の突入部隊が交戦を開始したのだ。
「よし、俺たちも行くぞ!」
 古代は腰のレーザー拳銃を引き抜き、安全装置を外した。太田は艦橋の武器ラックからアサルトライフルを取り出し、南部と相原に渡す。
「こちら古代。陸戦隊の各員に達する。機関室、弾薬庫等の重要箇所への敵突入は絶対阻止しろ。右舷D層通路の四、十二番ジャンクション付近に防衛線を敷き、応戦せよ!」
 駆け出しつつ、ヘルメットのバイザーに状況を表示させ、古代が命じる。すると、陸戦隊の原田から連絡があった。
『こちらギャンビット01。敵はロケットランチャーなどの重火器も持ち出しているようだ。パワードスーツの使用許可は貰えないか?』
 パワードスーツの専用火器は威力絶大だが、艦内で使うと思わぬ大損害を出しかねない。しばし迷った後、古代は答えた。
「鎧として使う分にはいいが、レーザーキャノンやグレネードは使わないでくれ。苦しいと思うが頼む」
『仕方ないな。了解だ』
 原田が通信を切った。その切れる直前に響いた爆音に顔をしかめつつ、古代は着いてきた艦橋要員たちに言った。
「太田、相原、それぞれ航海科員と生活・通信科員の指揮を頼む。南部は戦闘科員の半分を率いてくれ。敵は恐らく三百人ほどだが、白兵戦に関してはプロだ。絶対譲れないところ以外は無理をするなよ。危ないと思ったらすぐに陸戦隊に応援を要請してくれ」
「了解!」
 三人は敬礼し、アサルトライフルを引っさげて駆け出す。古代も自分の持ち場に定めた方向へ走り出した。
 響き渡る銃声が、ますます大きくなっていた。
 
 
ガミラス軍強襲艦〈アングマール〉
「敵艦内突入に成功。現在向こうの乗組員と交戦中です。我が方優位」
「うむ」
 オペレーターの報告にコルサックは頷いた。報告を受けるまでもなく、戦況は逐一司令席の画面にも転送されているが、手順は大事だ。
 重火器を気兼ねなく使えるガミラスに対し、〈ヤマト〉の乗組員は自分の艦を傷つける恐れから、軽火器で対抗せざるを得ない。こちらが優勢なのは当然の事だが……
(向こうには地の利があるからな。まぁ、ここまで来た以上は強襲部隊の手並みを信じるしかあるまい)
 コルサックは画面から窓の外の宇宙に目を向けた。目視できるような距離ではもちろんないが、その方向には囮となって〈ヤマト〉に壊滅させられた艦隊がいるはずだった。
(ガンツ大佐には済まないことをした)
 コルサックは思う。弟を、そして自分を良く補佐してくれたあの参謀も、もうこの世にはいないのだろう。
(地獄で再会したら、その時に詫びよう。少し待っていてくれ)
 コルサックは心の中で手を合わせ、再び〈ヤマト〉を見る。ようやくこの状況に持ち込めた、と思う。艦隊戦では倒せそうもない相手をどう仕留めるか。考えた末に思いついたのが、強襲艦による接舷攻撃だった。
 自爆特攻をすれば確実に〈ヤマト〉を葬れたかもしれないが、コルサックは敢えてそうしようとはしなかった。勝利した後も自分が生きているのでなければ、弟を倒した相手に本当に勝ったとは言えない。そう思ったからだ。
 ふと、コルサックは〈ヤマト〉の艦橋を見た。ブリッジの明かりに慌しく動き回る影が見える。向こうも必死になって防戦の用意をしているのだろう。
(そうだ。全力で向かってくるがいい、地球人よ)
 コルサックは笑みを浮かべた。弟を倒した憎むべき、しかし尊敬すべき敵たち。彼らにようやくまみえる事ができたのだ。今はその事を感謝し、そして存分に楽しんでくれよう。
 
 オリオンを巡る戦いは、いよいよ最後の局面を迎えようとしていた。

(つづく)


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