SPACE BATTLESHIP "YAMATO"
EPISODE:1 Hope for tomorrow Part3,Section1
宇宙戦艦ヤマト
第一部 遥かなる星イスカンダル
第二十話 「陥穽」
太陽系外縁部
オールトの雲。ここは彗星の生まれ故郷とされる空域である。ミリ単位から、大きなもので10キロないし15キロ程度の、岩と氷で出来た微細天体が疎らに漂っている場所で、この中から太陽の重力に引かれ、太陽系中心部へと落下していくものが、やがて太陽風と熱によって表面を溶かされ、美しい尾を引いて夜空を彩る事になるのだ。
ここは火星―木星間のアステロイドベルトほど密度が濃くないため、ワープを行うには支障がなかった。
「ワープ10秒前。8、9、7……」
秒読みをする島の声にも緊張が混じる。何しろ、これから行うワープは、ただのワープではない。恒星間を一気に移動する遠距離ワープだ。目的地はアルファ・ケンタウリ星系。移動距離は3光年と、初めて1光年を超える。
「6、5、4」
これまで惑星軌道間を移動する小ワープは何度も行われ、その度に波動機関の問題点が洗い出され、改良が施されて、ワープ航行に対する信頼性は上がっている。しかし、これだけの距離を跳躍するとなれば、また新たな問題が出てくるだろう。
「3、2、1」
しかし、〈ヤマト〉の目標は一度に150光年以上を跳躍する超遠距離……星団から星団へ移動するワープだ。これを成功させるためにも、その前段階としての恒星間ワープは成功させねばならなかった。
「ゼロ! ワープ!!」
島が操縦桿横のワープレバーを引くと、〈ヤマト〉は虹色の輝きに包まれ、超光速空間へと突入した。
リゲル星系近傍空間
その頃、太陽系から約500光年離れた恒星、リゲルの近くを一群の艦船が航行していた。
リゲルはオリオン座ベータ星で、表面温度10000度。白く輝く巨大な恒星で、その直径は実に4000万キロと太陽の40倍もある。アルファ星のベテルギウスや、いわゆる「三ツ星」と並んでオリオン座を象徴する星だ。
その白い輝きに照らし出されているのは、紛れもなくガミラス帝国軍の艦隊だった。同帝国銀河系方面軍、オリオン艦隊である。戦艦はいないが、機動性に優れた巡洋艦・駆逐艦多数で編成された有力な部隊だ。
その艦隊に、一隻のクロイツァー級高速空母が合流してきたのは、その日も遅くなってからの出来事だった。さらに、その空母からは内火艇が発進し、艦隊旗艦〈ミデュルガズ〉にドッキングした。
ノックの音に、部屋の主は短く「入れ」と言った。ドアがスライドし、副官が連れてきた人物を前に出す。
「司令、ガンツ大佐をお連れしました」
「ご苦労。君は下がってよい」
「はっ!」
ドアが閉まり、部屋にはガンツと主だけが残された。窓の外をじっと見ていた主は、振り返るとつかつかとガンツの元に歩み寄ってきた。
「元太陽系侵攻軍参謀長、ガンツ大佐であります。本日付をもって、オリオン軍高級参謀に任ぜられました」
ガンツが右手を上げてガミラス式敬礼をすると、主はうむ、と頷いた。
「ご苦労。オリオン軍司令、コルサックだ。まぁ、掛けたまえ」
そう言って、主……ガミラス軍大将コルサックは応接セットを指すと、自ら率先して座った。
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきます」
向かい側に腰掛けるガンツ。その表情には緊張の色が浮かんでいた。無理もない。コルサックは彼が「見捨てた」太陽系侵攻軍司令長官、シュルツの実兄なのだ。
兄弟だけあって、コルサックはシュルツと良く似ていた。歳も近いので、ほとんど双子と間違うかもしれない。しかし、大きく違う部分が一つある。それは右目だ。
かつてコルサックは戦闘中に重傷を負い、右目を失った。今はそこに義眼を嵌めている。義眼と言ってもただの飾りではなく、視神経にカメラを接続して視力を確保すると言う優れたものだが、見た目は犠牲にされていた。その義眼のために、コルサックの顔は半分近く金属のカバーで覆われ、まるでサイボーグのような印象を、この老将に与えていた。
「さっそくだが大佐、一つ聞かせてくれ」
「は、何なりと」
ガンツが頷くと、コルサックは左目を閉じ、絞り出すような声で言った。
「弟は……シュルツは勇敢だったか?」
強い想いの篭もったその言葉に、ガンツは胸を打たれ、そして頷いた。
「はい。見事な戦い振りでした。補佐し切れなかった己の未熟さを……無念に思います」
そのガンツの言葉を聞き、コルサックの目に涙があふれた。
「そうか……弟は良い死に場所を得たものよ」
コルサックはそう言うと、涙を拭い、ガンツの顔を見つめた。
「弟の無念はわしが晴らす。力を貸してくれ、ガンツ大佐」
「はいっ……!」
ガンツはコルサックに見た目だけでない、シュルツとの魂の相似を見て、この老将に己の全能力を預け、補佐することを誓った。
「では、聞かせてもらえるか、ガンツ大佐。敵の事を。〈ヤマト〉の事を」
ガンツは頷き、話しはじめた。
〈ヤマト〉艦橋
全身の軋むような痛みと気持ち悪さがすっと退いていき、身体が楽になる。古代は目を開けた。
艦橋の窓を通し、無限の宇宙が目の前に広がっている。それはワープ前に見たのと同じ光景だ。しかし、見えている星空には、大きな違いがあった。
オレンジ色の星と、それより少し小さな赤みがかった星が並んでいるのが見える。それはワープ前には見当たらなかった星だった。
「あれは……」
古代が呟いた時、航法席の太田が報告した。
「ワープ終了。現在位置、アルファ・ケンタウリ星系外縁部。太陽系からの距離、3.7光年。目の前に見えている星は……アルファ・ケンタウリA、B両星です!」
わっと歓声が上がる。古代は横を向くと、島と視線を合わせ、がっちり握手した。人類初の恒星間ワープを実現させた友に「やったな」と声を掛ける。
「ああ、これで船体に損害が無ければ」
島はそう言うと、ダメージ・コントロールパネルを操作している真田を見た。全員の目が彼に注がれる。真田はそうした視線に構わず操作を終えると、沖田の方へ振り向いた。
「艦長、報告します。ただいまのワープによる船体への被害はありません。ワープは完全に成功です」
沖田は黙って大きく頷いた。次の瞬間、歓声が湧いた。
いまだかつて、この空間に到達した地球人類はいない。地球の船としては、十数年前に無人探査船〈セントール・エクスプレス〉が到着している。当時最高のエンジンを積み、光速の15パーセントの速度を達成した、優れた宇宙船だ。今でもこの星系で探査活動を実施し、データを地球へ送っているはずだが、肝心の地球側がそれを受け取る余裕を失っていた。地上の受信アンテナ群が爆撃で破壊されてしまい、それを再建する予算も意義も、今のところ認められていない。
「よし、〈セントール・エクスプレス〉にリンク。情報を収集し、有用な資源があれば採取していく」
沖田の命令を受け、相原が先駆者の船との通信を確保しようとコードを打ち込む。しかし。
「艦長、〈セントール・エクスプレス〉との回線を開けません。向こうが応答しないようです」
相原の報告に、沖田は眉をひそめた。
「む……故障か? それなら大事はないが……」
目を閉じて少し考えた沖田は、何かが閃いたのか、目をかっと開けて命じた。
「全アクティブセンサー・レーダー発振停止。古代、早期警戒機を出せ。どうも嫌な予感がする」
「了解!」
命令を受け、雪と太田がアクティブ、つまり自ら電波や重力波を放って敵を捜索するタイプのレーダーやセンサーを切っていく。一方、古代は後部艦橋の航空管制室に電話を繋ぎ、艦載早期警戒機の発進を命じた。
五分後、待機していたボーイングE−7C〈スカイアイ〉早期警戒機が発進し、護衛の〈ブラックタイガー〉二機もそれに続いた。これらの機体は〈ヤマト〉の遥か前方に進出して警戒を行う。〈スカイアイ〉が確認した安全なルートを通り、〈ヤマト〉は慎重にアルファ・ケンタウリ星系中心部へ向かって行った。
アルファ・ケンタウリ第六惑星軌道上
アルファ・ケンタウリは太陽系と異なり、3つの恒星を持つ三重連星系である。
主星は太陽の1.14倍の直径をもつアルファ・ケンタウリAと、0.9倍の直径をもつアルファ・ケンタウリBの二つで、これが星系中心にあって、お互いの共通重心の周りを公転している。もう一つの恒星、プロキシマ・ケンタウリは二つの主星よりぐっと小さい赤色矮星で、星系の外縁部を惑星のように公転している。ちなみに「プロキシマ」とは「すぐそば」の意味で、恒星としてはこの星が太陽系の最も近くに存在する星だ。
二つの主星とプロキシマはそれぞれ固有の惑星系を持っており、特に主星の惑星系には人類の居住が可能な星がある可能性が、〈セントール・エクスプレス〉の観測結果から指摘されていた。その惑星は数ヵ月後に予定されている避難船団の到着地に指定されているため、そのデータを取って地球へ送るのも、〈ヤマト〉の任務の一つになっている。
A・Bの二つの主星の周囲を公転する惑星は11あったが、そのうちの第六惑星……火星に見た目も大きさも近い星の軌道上に、一群の艦船が集結していた。魚を思わせる濃緑色の船体、ガミラス軍だった。
「司令、オリオン方面軍司令部より入電です」
旗艦となっている巡洋艦〈ミラトス〉の艦橋で、通信オペレーターが司令官に報告した。
「私のデスクに回せ」
司令官のディンフル大佐はそう言って、目の前の画面を叩いた。転送されてきた上位司令部からの命令書が展開される。それを一読して、ディンフルは眉をしかめた。
「……撤退命令だと?」
それは、極めて強力な戦闘力を持つ地球軍戦艦がアルファ・ケンタウリに侵入した可能性があるため、交戦を避けて撤退し、本隊に合流せよ、という内容の命令書だった。
「シュルツ軍を撃破したという噂の〈ヤマト〉か。確かに、こんな少数の護衛艦隊では戦うだけ無駄だな」
ディンフルは頷いた。彼の率いる艦隊は、駆逐艦6隻からなる水雷戦隊で、このアルファ・ケンタウリ星系第六惑星で活動している資源採掘部隊の護衛を務めている。戦力としてはそれなりだが、〈ヤマト〉相手では鎧袖一触に蹴散らされるのは目に見えていた。
そんな無謀な戦いをするわけには行かない。ディンフルは惑星上の採掘部隊にも直ちに撤退を命じ、輸送船を地表に降下させ始めた。
「いささか腹立たしいですな。ようやく採掘も軌道に乗ってきたところでしたのに」
副官が悔しげな表情で言う。ディンフルは頷き、副官の方を向いた。
「そうだな。ただで資源を〈ヤマト〉にくれてやるのも腹が煮える。ここは一つ、細工をして行くか」
「細工?」
不思議そうに言う副官に、ディンフルはにやりと笑うと、工兵の出動を命じた。
二日後 アルファ・ケンタウリ第六惑星軌道上
慎重な索敵を続けながら進んできた〈ヤマト〉が第六惑星に到達した時、そこにいたガミラス軍は既に逃走した後だった。
こまめな捜索のおかげで、ガミラス軍に破壊されたと思われる〈セントール・エクスプレス〉の残骸を発見し、早くも一戦交える事も予測されていただけに、敵の撤退は〈ヤマト〉にとっては予想外の出来事だった。
「まぁ、太陽系の本隊が敗れた後だ。少数の部隊なら逃げてもおかしくはないだろう」
しばらく考えた後で、古代がそう言うと、島が応じた。
「かもな。しかし、ここにももうガミラスの手が伸びていたとはなぁ」
そう言う島の目は、正面スクリーンに映し出された偵察機からの画像に向けられている。第六惑星の地上に残された、ガミラスの採掘プラントが荒野にぽつんと立っていた。
これまでの偵察の結果、第六惑星にはここ以外にも数箇所の採掘プラントがあったが、全てが放棄済みだった。また、これ以外の地球型惑星では、第四惑星にプラントが見つかっている。
そして、この二つの星が、比較的地球人類の生存に適した環境を持つことがわかっていた。ただし、どちらもテラフォーミングを行う事が前提だが。
「とりあえずの避難先が確保できたのは良いけど、もし〈ヤマト〉がなかったらと思うと、ぞっとしますね」
相原が肩をすくめる。生存の望みを託してやってきた避難船団に対し、待ち受けていたガミラス軍の艦隊が容赦なく砲火を浴びせ、一方的に殺戮していく……そんな光景が繰り広げられていたかもしれないのだ。確かにぞっとする話ではある。
「古代、一通り偵察が済んだら、地上偵察班を出せ。何か情報がつかめるかもしれないからな」
「了解」
沖田の命に、古代は敬礼で答えた。
三時間後 アルファ・ケンタウリ第六惑星地上 ガミラス採掘プラント
陸戦隊に護衛された技術科員を中心とする地上偵察班は、内火艇6隻に分乗し、各地のプラントへ向かった。古代も無理を言って真田率いる偵察班に同行させてもらう事にした。
もし兄・守が生きていて、ガミラスの捕虜になったとすれば、このアルファ・ケンタウリにも立ち寄ったかも知れず、何かの情報が得られるかもしれない、と考えての事である。
相当に低い可能性ではあるのだが、可能性がゼロではない限り、古代は兄の足跡を探す事を決意していた。
「ふむぅ、これは……」
プラントの管制施設に入り、色々と情報を調べていた真田の呟きに、古代は反応した。
「何かわかったんですか? 真田さん」
古代が駆け寄ると、真田は端末に差し込んでいた自分のポケットPCのコードを抜き、古代に画面を見せた。
「ここはコスモナイトの鉱山だったらしい。タイタン以外でコスモナイトが見つかるとは、俺も考えていなかったよ。案外この鉱石は銀河系内に広く普遍的に埋蔵されているものなのかもしれん」
真田は感心したように言った。コスモナイトは天然の超合金だが、その鉱床が生成される過程には謎が多く、タイタン以外で発見される可能性についてはほとんど考えられて来なかった。
「それが本当なら、資材の補給も楽になりますね」
古代は頷いたが、それよりも気になることについて尋ねた。
「ところで、兄さんの手がかりは何かありませんでしたか?」
真田は首を横に振った。
「いや……済まん。艦船の寄航記録はさっぱり消されてあったよ。データの再生も無理そうだ」
「そうですか……」
古代はうなだれた。可能性が低い事は知っていても、やはり落胆するものは落胆する。
「それで技師長、このプラントはどうします?」
そこへ技術科員の一人が声をかけてきた。真田はそうだな、と少し考えた上で結論を出した。
「もし再稼動できるものなら、少しコスモナイトを補充して行くか。冥王星での修理で在庫をかなり使ったからな。古代、念のためトラップが無いかどうか、探してくれるか?」
「あ、はい。了解です」
真田の言葉に、慌てて古代は返事をした。
護衛の陸戦隊員が呼ばれ、爆発物にも詳しい技術科員も交えてプラントのベルトコンベアや掘削機械を点検したが、爆発物の類は発見されなかった。
「破壊工作の疑い、ありません。少なくとも物理的には」
古代の報告に、真田は頷いた。
「わかった、ありがとう……って、物理的には、って言うのはどういう意味だ?」
真田が首を傾げた。
「いえ、何も無いと言うのが怪しいと思いまして。爆発物は無くても、コンピュータに何か危険な動作をさせるプログラムが混ぜてあるとか、そういう可能性はないかと」
「なるほど、そいつは考えられるな」
古代の見解に、真田は感心したように頷いた。
「念のため、何か適当なプラントを無人状態で運転してみるか?」
「それがいいでしょう」
真田の提案に他の技術科員も頷き、採掘プラントの一つから監視員を退去させて、起動命令を送ってみた。
次の瞬間、そのプラントは大爆発を起こした。数十km離れているにもかかわらず、ビリビリと言う衝撃波が建物を揺るがし、続いて軽い地震のような揺れが襲ってきた。
「な、なんだぁ?」
隠れたトラップがあるのではないか、とは考えていた古代だったが、予想以上の大爆発に思わず唖然となる。一方、真田は付近の偵察部隊要員と連絡を取り合い、負傷者の有無を確認していたが、それが終わるとキーボードを叩き始めた。
「真田さん、今のは一体?」
「待て、今解析中だ」
真田はしばらく画面とにらみ合っていたが、ようやく原因がわかったのか、古代の方を向いた。
「お前の言う通りだったよ、古代。プラントが稼動すると、地下の動力炉に過剰なエネルギーを発生させるように指令が出る仕掛けだ。しかも……」
真田がそこまで言った時、地面が揺れた。
「一個が爆発すると、全部の施設で同じ事が起こるようになっている」
古代と真田は思わず顔を見合わせ、それから叫んだ。
「全員、退避ーっ!!」
二人の切迫した声と先ほどの爆発を繋げ、ただ事でない事を理解した偵察班員は慌てて逃げ出した。が、入り口に行く前に最初の爆発が起きた。プラントの奥から熱風が押し寄せ、必死に逃げる彼らの背中にバットで殴りつけるような衝撃を与える。転びそうになりながらも走り続け、ようやく建物の外へ出たところで、二度目の爆発が建物の屋根を突き破った。熱い破片があたりに飛び散り、地面には地下の爆発を反映して幾筋にも亀裂が入る。
「すぐにこの辺は吹っ飛ぶぞ! 離陸してくれ!!」
何事がおきたのかと唖然としている強襲揚陸艇のパイロットに、真田が怒鳴るようにして声をかける。それを聞いて、慌ててパイロットはエンジンを始動した。他のプラントを監視・調査していた偵察班も大混乱に陥っている。
「離陸します! 戦闘機動!!」
古代たち一行が艇内に飛び込み、三度目の爆発が建物を全壊させたところで、強襲揚陸艇は出力全開のVTOLモードで離陸した。まだ座席についてベルトをしていなかった古代たちは、ショックで壁や天井に吹っ飛ばされ、機内に苦痛の声が満ちる。
しかし、プラントごと吹き飛ぶよりはマシだっただろう。揚陸艇が高度3000くらいまで浮き上がったところで、いきなり眼下の地面が弾けるようにして爆発した。衝撃波で揚陸艇はきりもみしながら地表に落下しかけたが、パイロットの超人的な努力で、何とか体勢を立て直し、地表を這うようにして爆発から逃れる。ようやく爆発の影響圏を抜け出した頃には、艇内はミキサーにかけたような有様になっていた。
「た、助かった……のか?」
古代が言うと、真田が応じた。
「そうみたいだな。ところで古代、どいてくれ。重い」
「あ、す、すいません!!」
古代は慌てて横に転がり、下敷きにしていた真田を解放した。
「ふぅ……酷い目にあったぜ。他の偵察隊は無事か?」
真田が聞くと、パイロットの横にいる通信士がかぶりを振った。
「いえ……建物ごと吹っ飛ばされた連中はいませんでしたが、爆発の影響で揚陸艇2機が墜落。死傷者が出ています。すでに救難要請は出しました」
「そうか、くそっ。俺がもう少し慎重でいれば」
真田が悔しげに窓を殴りつけた。その向こうで、6つの不気味な茸雲が、火星を思わせる赤い空に立ち上っているのが見えた。
〈ヤマト〉に戻った古代たちは、沖田に偵察の結果を報告し、罠にはまった事を謝罪した。結局、墜落した揚陸艇で4人が死亡し、6人が重傷を負って入院している。全く敵に遭遇していないのにこれほどの損害を受けたのは、初めてのことだった。
「……事態は理解した。が、君たちの責任を追及する気はない」
沖田は全てを聞き終えた上で、そう切り出した。
「今回の事は、私にも慢心があった。いや、この艦全部に、と言うべきかな。冥王星の勝利により、ガミラス何するものぞ、という侮りが生まれていた事は、否めない事実のようだ」
沖田の言葉に、古代と真田は叱責されるよりも痛みを覚え、項垂れた。いかに放棄されていたとは言え、敵の施設なのだ。最初から綿密に罠の有無を調査した上で踏み込むべきだった。あるいは、最初から探査ロボットのみを送ると言う手もあったはずだ。
それをせず、無防備に踏み込んだ挙句が、今回のざまだ。古代が途中で罠の可能性に気付いていなければ、偵察班員全員が戦死してもおかしくなかっただろう……が、古代はその事を誇る気にはなれなかった。
「そう気を落とすな。4人もの戦死者を出した事は断腸の思いだが、彼らの犠牲を無にしないためにも、今後は気を引き締めていかねばならん。頼むぞ、二人とも」
「はっ!」
沖田の言葉に、古代たちは敬礼で答えた。
〈ヤマト〉
報告を終えた二人は、艦長室を辞して艦橋へ向かっていた。
「それにしても、今回の一件で俺はガミラスの恐ろしさを思い知ったよ」
真田がそう話を切り出した。
「太陽系では、彼らは力押しで来た。戦力があらゆる面で隔絶している以上、それが正解だっただろうな……が、今回は罠を張って待ち構えていた。彼らは思ったより柔軟な連中のようだ」
真田が言い終えると、古代が後を続けた。
「今後は、進路上に何らかの形で敵の罠があると覚悟しなければなりません。常に警戒を強いられるとなると、厳しい事になりますね」
「そうだな。センサー系の機能を強化するか」
「じゃあ、俺は戦闘班のシフトを見直します」
真田と古代は対策を話し合った。取り返しのつかない失態の後だけに、何か仕事をしていないと、気が紛れそうもなかった。
翌日、戦死した四人の宇宙葬を行った〈ヤマト〉は、第四惑星のプラントを再稼動させ、コスモナイトの採掘と精錬を行い、資材を補充すると、アルファ・ケンタウリ星系を脱した。これから当面の中継地となるオリオン座方面へ向かい、そこから銀河系外へ方向を転じてマゼラン星雲へ向かう事になる。
「ワープ10秒前。8、9、7……」
秒読みをする島の声に緊張が混じる。前回は初の光年越えワープだったが、今回は距離をさらに伸ばし、10光年を跳躍する予定だ。それが成功すれば、30光年、50光年、100光年と距離を伸ばしていき、最終的には当初目標の150光年級ワープの技術を確立する。
「ゼロ! ワープ!!」
島が操縦桿横のワープレバーを引くと、〈ヤマト〉は虹色の輝きに包まれ、超光速空間へと突入した。
広い宇宙の海に紛れ、ガミラスの目に留まる事を避けてイスカンダルを目指す〈ヤマト〉。しかし、その広大な宇宙の海は、彼らを拒むかのような敵意に満ちていた。
人類滅亡の日まで、あと340日。
(つづく)
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