宇宙戦艦ヤマト 復活篇
非公式ノベライズ
Resurrection of Space Battleship YAMATO unofficial novelize edition
後編 第八章「Tous pour un, un pour tous」
厳重に人払いをした会議室の中には、四つの人影しかなかった。
正確に言うと、実体があるのは一人だ。あとの三人は遠く離れたそれぞれの星から、この会議室に映像を送っている。
「本日は、呼びかけに応えてこうして参集していただき、ありがとうございます」
唯一の生身の出席者にして、会議の招集者であるイリヤ女王が頭を下げる。
「わが国にも利のある事。断る理由はありません。頭をお上げください」
最初に応えたのは、謹厳な表情をした初老の男性だった。しかし、年齢の割りに引き締まった体つきは只者でない雰囲気を漂わせている。実際、この四人の中でもっとも戦いに優れているのはこの人物だろう。
ゴルイが属するエトス星、尚武の気質で知られるこの星でもっとも優れた武人であり、全軍の統率を司るに相応しい威厳と実力を持つと認められた者に与えられる称号である、大棟梁の地位にある人物だった。
「さて、アマールとエトスに利はあっても、我らにはあるのですかな」
「左様。要件によっては即刻対話を打ち切らせていただきますぞ」
一方、厳しい表情で言うのは、ベルデルの宰相とフリーデの首相だった。アマールには既に星間国家連合の決定として除名および討伐命令が出ており、イリヤがこの三人と話す事は、本来はもう不可能である。それどころか、イリヤの求めた対話に応じる事自体、ベルデルとフリーデにとっては連合への叛逆と看做されかねない、危険な行為だ。しかし。
「そう肩肘を張らなくても良かろう。貴公らとて耳を傾ける価値があると思ったから、こうして会議に出席したのであろう?」
大棟梁が言う。
「貴殿の申し出もあったからだ」
「イリヤ陛下だけの申し出ならば、無視しただろうな」
宰相と首相が答えた。イリヤにとっては屈辱的な言葉だが、イリヤは気に留めなかった。残念ながら自国の扱いがその程度である事くらい彼女も承知している。だからこそ、ゴルイを通じて大棟梁に仲介を頼んだのである。
SUS一強支配体制の星間国家連合だが、エトスの武力と公正な態度は加盟諸国には良く知られており、それだけに大棟梁の言葉には重みがある。彼が仲介に立てばこそ、宰相と首相も話を聞く気になったのだ。
「ともかく、陛下の話を聞こうではないか」
大棟梁は二人の非礼を咎める表情になったが、イリヤが平静なのを見て、先を促す事にした。今は儀礼にかまけている場合ではない。イリヤは頷くと、本題を切り出した。
「ご存知のように、わが国はSUSに理不尽な理由から敵視され、連合からの除名を通告されております。しかし、わが国はこのような決定に従い、屈する気はありません。むしろ――」
そこで、イリヤはいったん深呼吸し、次の言葉に気迫を込めた。
「連合を私物化し、連合諸国を配下の如く扱うSUSこそ、連合の精神に反するものとして批判されるべきであると考えております。したがって、わが国はSUSに態度を改め、友好と平等の精神の元に他国との関係を再考するよう要求します。これが受け入れられぬ場合、わが国はSUSに宣戦を布告します」
宰相と首相は苦笑にも似た表情を浮かべた。
「これはこれは……陛下も意外に勇気がおありになる」
宰相が言うと、首相が続けた。
「しかし、それは蛮勇と言うものではありませんか? 聡明な貴女にわからないはずがない」
首相の案じるような言葉に、イリヤは頷く。
「確かに、わが国単独なら蛮勇であり愚行である、と言うべきでしょう。ですが、わが国は孤独ではありません」
それを聞いた宰相と首相は、ここに同席しているもう一人の顔を見た。
「大棟梁、もしや……」
宰相が恐る恐る、と言う口調で聞く。
「貴公の想像している通り、わが国はアマールの掲げた叛逆の旗の下に馳せ参じる事を決意した」
大棟梁が頷くと、首相の表情が強張った。
「なんと……いくら貴方のお国に精兵ありといえ、SUSに勝てようか。血迷われたのではあるまいな」
「左様。国の興亡など博打の対象にして良いものではあるまい」
口々に言う二人。敵対者を国民の一人一人に至るまで殺戮し、星ごと消滅させる事も厭わないSUSの恐ろしさを味わい続けた彼らにとって、アマールとエトスの決断は、狂気の沙汰としか思えなかった。
もちろん、大棟梁もイリヤも狂気の沙汰ほど面白い、などとは考えていない。これからが本題中の本題だ。
「正気です。ついでに十分に成算があるとも思っています」
イリヤが答える。その自信に満ちた回答は、宰相と首相の猜疑心をいくらかほぐす効果があった。そして、ある事実を思い出させる役にも立った。
「……地球ですか。貴方のお国が受け入れた」
宰相の問いに、イリヤが頷く。
「その通りです。地球はかのガルマン・ガミラスやボラーも一目を置く先進の国家。連合諸国とは比較にならない技術力を有した国です。奇襲により二度の敗北をなめたとは言え、あなた方の被害も大きかった。まして、三度目の戦いで彼らが見せた勇戦は、あなた方もご存知のはずです」
渋い顔で頷く首相。二度目の戦い――第二次移民船団奇襲作戦では、勝利を得つつも参加各国が三割から四割に達する艦を損失した。そして、三度目の戦い――BH−199沖海戦では、彼の祖国フリーデの艦隊は全艦艇の8割近くを失う壊滅的な打撃を受け、ベルデル艦隊も六割近くを喪失した。しかも、数的に3対1以上の優勢がありながらのこの結果は、事実上完敗といって良い。
「そして、四度目の戦いの結果が、先ほど私のところに届けられた。それがこれだ」
大棟梁がサイラム恒星系第五惑星軌道海戦の記録映像を通信に混ぜる。それを見た宰相、首相の顔から表情が消えた。
「SUS主力艦隊全滅だと……?」
「しかも、たった一度の決戦兵器の砲撃で……?」
五十隻あまりの戦艦から放たれた波動砲の一斉射撃が、千五百隻のSUS艦隊を一瞬で殲滅する映像は、二人の為政者にも天地がひっくり返るほどの衝撃だった。
「これだけではない。第一次の、SUSによる奇襲作戦においても、彼らは地球艦隊を全滅させる大勝利を得たと喧伝しているが、実際には作戦参加兵力の四割近くを失っている。七倍の兵力で攻撃したにも関わらずだ」
大棟梁がさらに爆弾を投げる。
「つまり、我々を常に脅かしてきたSUSの巨大な軍事力は、既に半壊状態なのです。我々が結束すれば、勝利の可能性は十分あります」
イリヤが言う。その言葉に秘められた意味を、宰相も首相も聞き逃さなかった。
「今、陛下は"我々が"と仰られましたな」
「それはつまり……我が国とベルデルにも、共に起てと言われるのですか」
イリヤと大棟梁は頷いた。
「そうです。我々は今こそ、SUSがガルマン・ガミラスやボラーに取って代わっただけの、この偽りの平和を排し、真の平和を……自主独立の元に得られるそれを勝ち取らなければなりません」
「既に、地球はこの星域で存続していくため、SUSを打ち破る決意をしている。それが我々の国益にも適う。これは絶好の機会なのだ。貴公らにもそれを見逃して欲しくない」
しばし沈思黙考する宰相と首相。その顔には、迷いの色がありありと浮かんでいる。確かにそうかもしれない。しかし……
「軍事力を半壊させられたのは、わが国も同じだ」
首相が言う。
「そういう意味では、SUSが戦力を失ったとは言え、それが好機とは申せまい」
宰相もそう簡単には頷かない。二人の言う通り、ベルデル、フリーデが一連の戦役で失った艦隊戦力は、戦前の半分以上に達している。しかし、イリヤは畳み掛けるように言った。
「だからこそ……今ならまだ間に合います。力を残して戦後を迎えられる。仮に貴方がたがこのままSUSに従って勝ったとしても、次は力を失った貴方がたがSUSによって蹂躙されるだけでしょう。そのような未来を望むのですか?」
イリヤの言葉は、要はSUSと同盟、どちらを信用するのか、という問いかけだった。そして、それについては宰相にも首相にも迷いはなかった。SUSなど信じられるわけもない。かの国にあるのは、力だけだ。それによって他者を虐げ、自分の利益だけを貪ろうとする強欲のみが行動原理。
長い沈黙が四人の首脳の上に落ちる。イリヤも大棟梁も、もう言葉を発しようとはしない。あとは二人の決断を待つだけだ。
「是非に及ばぬか」
最初に口を開いたのは、ベルデル宰相だった。
「決断するしかないな」
首相も頷き、顔を見合わせる。そして。
「我がベルデルは、反SUS同盟への参加を申し出る」
「フリーデも同様です。どうかよしなに願います」
二人の答えに、イリヤは笑顔を浮かべ、頭を下げる。
「良くぞ決意してくださいました……宰相閣下、首相閣下」
「いや、我が国の滅亡を避けるには、貴方がたと共に戦って勝つしかない、それしかないからだよ」
宰相が言う。SUSに与して負ければ亡国。与して勝っても亡国。ならば、抗うしかない。もちろんSUSに反抗して負けても亡国だが、それは気にしない事にする。要は勝つことだ。既に分の悪い賭けに出ざるを得ない立場に置かれた事に気づいた以上、後はその目に張るより、生き延びる道はない。
「もはや迷っている場合ではありませんな」
首相が言う。恐怖によって長年彼らを縛ってきたSUSという枷。それが今外れたのだった。
後に大ウルップ星域の歴史を変えた一大転機とされる決断は、こうして下された。味方についたベルデル、フリーデ艦隊が左右両翼に展開し、同盟軍はSUS大要塞を半円形の陣形を敷いて包囲する形になる。
「さて、敵が動揺しているであろう間に、一気呵成に攻めたいところだが……無理は禁物だな」
古代は言うと、真帆の方を見た。
「敵要塞の分析はできたか?」
真帆が頷いて、要塞の模式図をメインパネルに投影する。それは同盟各国の旗艦にも同時に転送されており、ヤマトというより地球の分析能力の高さを見せ付けていた。
「分析の結果、要塞周辺を浮遊している防御盾艦は、二つのタイプに分かれていることが判明しました。便宜的に1型および2型と呼称します」
真帆はそう言って模式図の防御盾艦についてのデータを操作し、赤と青に色分けする。赤は中央の一隻、シールド3しかなく、青は四隻と少々バランスの悪い配備に見える。
「1型を赤、2型を青で表示させました。この2タイプは、外見はほぼ同じですが、装備が異なります。1型は防御特化型で、例の巨大砲以外は電磁バリアの発生装置が艦のほとんどを占めています。これが防御の要です」
古代は首をかしげた。
「では、バリアを発生させているのは、実際には一隻だけという事か? あとの四隻は何だ」
真帆は頷いて先を続ける。
「残る四隻……2型は、大量の砲台を搭載しており、攻撃を重視しています。しかし、1型が展開した電磁バリアを制御する機能があり、実際にバリアの形をどうするかは、この2型の隊形を変えることで制御されているものと思われます」
「なるほど、なんとなくわかった」
機能を理解したのは、やはり盾艦を使用した戦術を得意とするパスカルだった。
「我が国の盾艦も、シールドの形状を変更させる事で、敵の攻撃に対し最適の防御を行えるような機能がついている。要塞のほうはそれが大掛かりなだけだ」
「おそらく、SUSの技術では、全ての盾艦に必要なバリア発生装置を備えた上で、火力を維持する事ができなかったのでしょう。それで、機能特化型に分けたものと思われます」
補足するように木下が言う。
「なるほど。あれほど強力なバリアを発生させるシステムだ。小型化や複数製造はできなかったと言う事か……」
古代は納得し、同時にどこを攻めるべきかも理解する。防御盾艦の中央、シールド3。あれが防御の要であり弱点だ。シールド3を破壊するか無力化すれば、電磁バリア全てが崩壊し、要塞は丸裸になる。問題は、極めて強大な防御力を有する相手に、どのようにダメージを与えるかだが……
「何か弱点らしきものは見えていないか?」
木下が首を横に振る。
「今のところはまだ。過負荷をかけてバリアを破壊する事を検討しましたが、波動砲の一斉射撃をもってしても無理だろうとの結論に達しました」
「駄目か……」
上条が落胆した口調で言う。だが、木下の答えは古代の中に何か引っかかるものを生じさせていた。
(奴はそれだけ強固なバリアを展開するエネルギーを、どこから得ている?)
防御盾艦が巨大とは言え、戦艦数十隻分以上のエネルギーを発生させるだけの動力炉があるようには思えない。それとも、何か未知の巨大なエネルギー源を持っているのだろうか。
「真帆、奴のエネルギーの流れを探ってくれ。必ず弱点があるはずだ」
古代は命じた。〈ヤマト〉の波動砲も、発射前にはエネルギーを集中させるために、他の部署への動力伝達ができなくなると言う弱点があった。それに類するものが、防御盾艦にも必ず存在する。古代はそう確信していた。
「了解。ECIで直接計測の指揮を執ります」
真帆は頷くと、直通エレベーターを起動し床に消えた。
「木下は、さっきの敵の砲撃プロセスを、再度解析してくれ。何か隙があるかもしれん」
さらに、古代は木下にも更なる分析を命じる。
「わかりました」
木下は頷くと、再び敵の砲撃プロセスに合わせ、時系列順にセンサーからの情報を読み込んでいく。僅かな変化も見逃さないように。
古代はそれを見届けると、艦載機部隊に一時帰還を命じた。戦いはまだまだ続く。今のうちにパイロットたちに休養を取らせる必要があると思ったのだ。
一時砲火の応酬は途切れ、戦場に奇妙な静寂が訪れる。だが、それが長くは続かないであろう事を、古代は悟っていた。
(あまり時間をかければ、敵は増援を呼び寄せるだろう。その前に解析が終わればいいが)
戦闘の停滞は、SUSにとっては望むところだった。要塞中央部、天守閣の周囲に展開された流体エネルギーフィールドに、撃沈を免れた艦艇が続々と「着水」し、補給と同時に修理を開始する。
「本国からの増援はまだか?」
メッツラーが聞くと、通信参謀が頷いた。
「さきほど、本国を出撃したとの報告がありました。あと三時間ほどで本星系外縁部にワープアウトの予定です」
その答えはメッツラーを満足させるものではなかった。
「遅いな。まぁ、仕方があるまい。可能な限り急がせろ」
その増援艦隊は、SUSにとっては虎の子の最後の機動戦力と言ってもいい部隊だったが、ここで地球を初めとする反抗勢力を叩き潰すには、投入を決意せざるを得なかった。
(しかし、敵を要塞と増援の間で挟撃する事ができれば、我らの勝ちは動くまい……)
メッツラーは三時間後には自分が勝利している事を確信していたが、一方で疑問を抱いてもいた。敵も、増援が来る事くらいは計算に入れているはずだ。
(にもかかわらず、ここで動きを止めた。奴らも何かを待っているのか。それは何だ?)
答えは一つしかない。少なくとも、その時のメッツラーにとっては。
「奴らも増援を待っていると言うのか……」
メッツラーは呟くように言った。そう考えた瞬間、彼は思考の迷路にはまり込んだ。
(そうだ、ベルデルやフリーデだけではない。他の国々も反旗を翻す事を選択していればどうだ? まとまった宇宙戦力を保持する国は少ないが、合計すればかなりの数になる……)
増援さえ来れば勝てるという確信が揺らぎ、崩れていく。そうだ。やはり今のうちに地球を、反逆者どもを潰し、根絶やしにしてしまわねばならない。
「防御盾艦、殲滅隊形をとれ。ハイパーニュートロンビームの全門一斉射撃により、敵艦隊を殲滅するのだ」
メッツラーは決意し、命じた。それが何をもたらすのか、それも予測できぬままに。
帰艦した小林が再び操縦桿を握り、レーダー手席に復帰した桜井が、その兆候に気がついた。
「敵防御盾艦、要塞前面に集中します!」
「メインパネルに切り替えろ」
古代が命じた。メインパネルには五隻の防御盾艦が、バリアの中核である1型、シールドCを先頭に山形の陣形を敷きつつあるのが映し出される。攻撃的な陣形だな、と思ったと同時に、敵超大型砲の制圧空域が広がり、同盟艦隊を覆うように展開されていく。
「いかん、全艦隊に緊急回避を命じろ!」
古代は命じた。敵は一気に勝負に出てきた。どうやら、向こうにも時間をかけたくない何かの理由があるらしい。
「ちいっ!」
操縦を代わったばかりの小林が艦を急速上昇させ、第七護衛艦隊もそれに続く。比較的整然と回避に移るのはやはり地球艦隊とエトス艦隊で、ベルデルはややまともだが、フリーデは算を乱す、と言う表現が相応しい惨状だ。それでもかなりの艦艇が砲撃前に離脱できそうだ、と安堵した古代だったが、ある事に気づいて目をむいた。
「な……馬鹿な! パスカル将軍は何を考えている!?」
アマール艦隊はその場をほとんど動こうとしていなかった。
敵の砲撃が予測されたとき、パスカルは咄嗟に判断した。ここが命の賭け時だと。
「古代提督より入電です」
「うむ、繋げ」
通信士の報告にパスカルが頷くと、正面スクリーンに古代の焦慮に満ちた顔が映し出される。
『パスカル将軍、なぜ回避運動をしないのですか! そのままでは……!』
パスカルは笑みを浮かべた。古代は友と呼ぶに相応しい良い男だ。同胞と同じようにアマールの事を案じてくれている。仮にここで自分が散っても、彼ならばアマールを守るために努力を惜しまないだろう。パスカルは口を開いた。
「まぁ、そう焦るな、古代提督。私なりに勝算があってのことだ」
機動性と艦隊運動の訓練度に劣るアマール艦隊は、他の艦隊ほど迅速に逃げられない。ここはむしろ、防御力のある盾艦を前面に出し、全力で砲撃に耐え抜く道を選ぶほうが、生存率は上だろう。パスカルはそう計算していた。決して自殺がしたいわけではない。古代なら後を任せられるとは言え、任せる気もそうそうない。
「それに、この砲撃を真正面から受け止めれば、かなりのデータが集まるだろう。奴の弱点を探る役に立ててくれ」
パスカルの覚悟を秘めた言葉に、古代は絶句し、そして敬礼した。
『わかりました……ですが、決して死なないでください』
「わかっている。約束だからな。必ず生還して祝杯を挙げよう」
通信が切れる。敵の要塞前面に、赤い光が見える。間もなくあれが自分たちを殺すために放たれる。だが、決して死なない。そう、死んでたまるものか。もうアマールはSUSなどのために何者も犠牲にしない。そう決めたのだから。
「全艦、全てのエネルギーを光子シールドに集中しろ。回路が焼け切れても構わん。この一発に耐え抜いて見せろ! 我がアマールの不退転の意志を、SUSの奴らに見せ付けてやるのだ!!」
パスカルが命じた瞬間、赤い怒涛が目の前に押し寄せてきた。全ての生命の存在を許さぬ、死の光。だが、それを見つめるパスカルの目に宿る意志の光は、それに劣らぬ強さをその瞬間も放ち続けていた。
辛うじて死の制圧域から逃れた各艦が見守る中、アマール艦隊が赤い怒涛に飲み込まれていくのを、全員が固唾を呑んで見守っていた。古代も例外ではない。
「パスカル将軍……!」
祈るように、友の名を呼ぶ。死んではいけない、と思う。この戦いが終われば、新たな世界へ一歩を踏み出していくであろうアマール、そして大ウルップ星域と、そこで生きていくことになる地球。その未来図を描くのに、彼は欠かせない人材であるはずだ。
(どうか無事でいてくれ……こんな戦いで死なないでくれ。貴方を多くの人が必要としているんだ)
やがて、弱まり行く光の向こうに、うっすらと影が浮かび上がった。それは次第に濃くなり、数が増えていく。
「おお……!」
誰かの感嘆の声。古代も身を乗り出す。そこに現れたのは、一見砲撃前と変わらない、アマール艦隊の健在な姿だった。
「あの攻撃に本当に耐えたのか……信じられん」
大村が言う。だが、波動砲にも匹敵するか、やや凌駕するかもしれないエネルギー流を浴びた代償は、決して軽いものではなかった。
突然、最前列を構成する盾艦の艦首マストが火を噴き、次々に爆発する。中には艦体にまで誘爆が進行し、全身から火を噴き出す艦もいた。想定以上の圧力を受けた光子シールドとそのシステムがオーバーロードを起こし、爆発したのである。
自らも盾艦部隊の一隻として赤い光に立ち向かった〈クイーン・オブ・アマール〉の損害も甚大だった。マストが爆発し、艦首から起きた火災が艦内を蹂躙していく。
「パスカル将軍!」
古代が叫ぶと、それに応えるように彼からの通信が入った。艦橋内はオーバーロードで逆流したエネルギーの影響か、計器類が破裂し火を噴いて、黒煙が立ち込めている。しかし、パスカルは健在だった。
『約束は守ったぞ、古代提督』
パスカルの言葉に、古代は敬礼で答える。
「良くぞ……良くぞ耐え抜いたものです」
それ以上は言葉にならない。パスカルは答礼し、済まなさそうな顔をした。
『残念ながら、我が艦隊はこれ以上の戦闘には耐えられそうもない。後退する。どうか、今のデータを今後の戦闘に役立てて欲しい』
パスカルの言葉に、古代は頷いた。
「必ずや、アマールの献身を勝利に繋げて見せます。ここからは我々に任せてください」
『頼りにしている、戦友よ』
二人の指揮官は再び礼を交わし、互いのために祈った。パスカルには幸運を、古代には武運を。ついでに古代は艦隊の建て直しに苦労しているフリーデ艦隊に、アマール艦隊撤退の護衛を依頼する。意欲は買うが、これ以上無理をさせられない。
通信を終えて古代は二人の技術者に声をかけた。
「真帆、木下! 今のデータから、何か手がかりはつかめたか?」
まず頷いたのは木下だった。
「砲撃の直前、敵のバリアに変化が見られました。一瞬ですが、裏側のバリアが消失します」
木下が解析データを元に、模式図を変化させる。砲撃直前まで、防御盾艦と要塞をすっぽりと包んでいた電磁バリアだが、砲身が展開され発砲する直前、ほんの数秒ではあるが、砲撃するのとは逆側……つまり、要塞本体が無防備になるのだ。
「これはどういうことだ?」
古代の質問に答えたのは真帆である。
「砲撃の直前に、防御盾艦は要塞本体の流体エネルギーフィールドからエネルギーを吸い上げているんです。バリアを解除するのは、そのエネルギー吸収の邪魔になるからだと推測されます」
古代の疑問――どこからエネルギーを得ているのか、と言う事を調べていて、真帆はそれに気づいたのだ。
「つまり、これが奴の弱点です。発砲直前から直後にかけての、約4.17秒間だけ、敵の背面は無防備な状態にさらされます」
木下の結論を聞いて、郷田が言った。
「普通なら、弱点とは言えないな。敵の側から狙える場所じゃない」
おまけに、撃たれる側は回避に専念しなければならない。しかし、地球艦隊にはそれを狙う方法が一つ存在していた。上条が言う。
「艦長、ここはプランDによる攻撃を行う場面だと考えます」
古代は頷いた。確かに、今こそプランDを使うべき局面だろう。問題は……
「何を使って攻撃するかだな……重爆機でも、あの防御盾艦を吹き飛ばすのは難しいだろう」
戦艦なら数個戦隊単位で殲滅できる火力を誇る重爆機だが、今回の標的は事実上要塞と同等の巨体だ。何しろ、ゴルバより大きいのだ。そう簡単に破壊できる目標ではない。その時、声を上げたのは大村だった。
「艦長、コスモバルカンと、戦略攻撃用モジュールの使用許可をいただけますか?」
「コスモバルカンを?」
古代は聞き返した。
コスモバルカン――ユーロ・エアロスペースM−1201〈コスモバルカン〉多用途艇は、かつて〈ヤマト〉が太陽クライシス時の惑星探査任務で用いた大型汎用機、ボーイングM−1200〈コスモハウンド〉の後継機で、任務にあわせてモジュールを交換する事により、輸送から対艦攻撃まで、様々な任務をこなせる事を目的として開発された。現在〈ヤマト〉には艦首底部に新設された大型格納庫内に一機を搭載している。
それらのモジュールのうち、戦略攻撃用モジュールには、拠点攻撃用の大型波動カートリッジ弾頭を搭載したミサイルが二十四発積載でき、その一斉発射時の威力は波動砲に匹敵する。元々は敵の地上基地や要塞等の戦略目標を破壊する事が目標なのだから、防御盾艦を撃破するのにこれほど相応しい兵器はない。
問題は……
「しかし、あれはテストがまだ」
古代が言う。真田が何かには使えるだろう、と言う事で全部のモジュールを持ってきたのだが、テスト未了のものも多いと聞き、また真田さんの悪い病気が出た、と古代は頭を抱えたものだった。
「なに、真田の作ったものなら信用できます。テストを兼ねて、私が行ってきましょう」
大村が笑う。そこには危険に飛び込むことへの気負いは一切ない。すると、小林が手を上げた。
「なら、操縦は俺に任せてもらえませんか。コスモバルカンはテストで何度か飛ばした事があります。癖はわかってます」
続いて、郷田が立ち上がる。
「では、私がミサイルの管制をやりましょう。副長、良いですね?」
大村が答えるより早く、古代がそれに許可を出した。
「良いだろう。小林、郷田、大村さんを頼む」
「はっ!」
小林と郷田が敬礼する。大村は少し戸惑ったような表情だったが、気を取り直して二人に握手を求めた。
「わかった。少し危険な任務だが、よろしく頼む」
大村の手を握り、小林と郷田は笑顔で頷いた。古代はそれを見て笑みを浮かべ、更に命令を下した。
「上条、シールド3の破壊を確認したら、トランジッション波動砲で残る盾艦四隻と要塞本体を撃滅しろ。徳川、いつでも波動砲を撃てるようにエンジンを調整しておけ」
「はっ!」
古代の命令に、敬礼してそれぞれの席につく上条と太助。一方、大村、小林、郷田はヘルメットを抱えて足早に艦橋を後にする。それを見送り、古代は考えた。
「問題は……相手の隙を突くと言うことは、あの巨大砲を撃たせる事だ。囮がいるな。しかし、その囮は下手をすれば死にかねない危険な任務だ……」
古代はその囮を南部に命じようと考え、艦隊に作戦を伝達させる。そして、南部に通信を繋ごうとしたとき、先に中西が言った。
「艦長、ベルデル艦隊より通信です」
「なに? よし、繋いでくれ」
古代が頷くと、正面メインパネルにベルデル艦隊のトローレ中将が姿を見せた。
『古代提督、作戦は聞かせてもらった。囮の役……我々ベルデル艦隊に任せてはもらえまいか』
「え?」
思わぬ申し出に、古代は思わず間抜けとも聞こえる声を上げる。
『遠慮する事はない。我らは同盟の新参者だ。新参者が率先して危地に飛び込むは戦場の倣い。我らに誠意を示す機会を与えてもらいたいのだ』
トローレも祖国に忠誠を誓う武人。今後の世界秩序を見据え、少しでも祖国の地位向上に繋がるのなら、身を省みず行動する覚悟はできていた。その心情は古代にも理解できる。そこへ、ゴルイも加わってきた。
『古代提督、トローレ中将は信頼できる。彼ならうまくやってのけるだろう』
『何しろ、俺が潰しきれなかった相手ですからね』
南部まで加わってきた。トローレは南部の言葉に苦笑し、不敵な笑みを浮かべる。
『では、勝利の後で改めて決着をつけようではないか。そうだな……どっちが酒が強いか、と言うのはどうだ?』
『面白い。受けてたとうじゃないか』
南部も笑う。どうやら、本気で殴りあった者同士に芽生える友情……古代がデスラーやゴルイに抱くそれと同じものが、この二人にも生まれたようだ。
「わかりました。任せます」
古代が言うと、トローレは右手を顔の横へ上げる敬礼をして、古代に礼を言った。
『ありがたい! 必ずや期待に応えて見せましょう』
これで、全てのお膳立ては整った。古代は命じた。
「これより、敵要塞に対する最終攻撃作戦を開始する。全艦隊、持ち場に着け!」
今度はベルデル艦隊が迫ってくるのを見て、メッツラーは冷笑した。
「裏切り者め。そんなに死にたければ、まずはお前から殺してやる」
必殺のハイパーニュートロンビームがアマール艦隊に防がれたのを見た時は、流石の彼も驚愕したものだが、その後アマール艦隊がどの艦もかなり損傷しており、戦闘不能状態になっている事がわかった時には、やはりこの要塞は無敵だとメッツラーは安堵した。どのみち、要塞に通じる攻撃ができないアマールは、もう脅威ではない。
代わりに出てきたベルデルだが、これは電磁バリア単体では防げない中性粒子ビーム砲を主兵装としている。そういう意味では、ベルデルを攻撃役に回した同盟の決定はそれなりに正しいが、それもバリア表面に磁気吸着しているエネルギー分散ガスによって無力化は可能だ。
「ハイパーニュートロンビーム用意。ベルデルを撃滅しろ」
メッツラーが命じ、再び砲撃準備が始まる。その間にベルデル艦隊は自分たちの射程内に入ったが、発砲してこない。
「攻撃してこないのか? 何のつもりだ、あいつら」
参謀の一人が首を傾げる。
「距離をつめて、少しでも高い威力の攻撃を当てたいんだろう」
別の参謀がそれに答えた。メッツラーもそんなところだろうな、と考える。思い切り接近すれば、少なくともバリアとガスを貫通して、防御盾艦や要塞に攻撃を命中させる事は可能かもしれない。
涙ぐましい努力だ、とメッツラーは冷笑を更に深めた。そんな事をしても、バリアを貫通した時点でそのビームは要塞の窓を割る威力もあるまい。
そんな無駄な努力をしたところで、何も実りはしないのだと天国で知るが良い。メッツラーは発射を命じた。その次の瞬間、彼の目の前で信じられないことが起きた。
ベルデル艦隊が虹色の光の繭に包まれる。ワープに入ったのだ。赤い輝きが届くその直前、ベルデル艦隊はその場から消え去り、ハイパーニュートロンビームの光条は空しく宇宙を切り裂いて消えていく。
だが、メッツラーを驚かせたのは、ベルデル艦隊が消えた事ではない。彼の目の前、数キロも離れていない場所の空間が突然歪み、そこに一機の巨大な航宙機が出現した事である。その尾翼に描かれたマークを見て、メッツラーは怨嗟と怒りの声を発した。
「ち、地球人めえええぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」
「座標確認、誤差0.002%。郷田、ミサイル発射だ! 小林は発射と同時に全速で離脱に移れ!!」
コクピットの中に大村の指示が飛ぶや、若手二人は了解を叫ぶのもそこそこに命令を実行に移した。郷田はごつい容姿に似合わず、ピアニストのような繊細な指使いでコンソールを操作し、シールド3にミサイルをロックオンしていく。最後の二十四個目のマーキングを僅か数秒で終え、発射キーに指をかける。
「標的捕捉! オライオン全弾発射!!」
郷田の指がキーを続けざまに跳ね上げると、コクピットの背後に装着された戦略攻撃用モジュールの上面ハッチが開き、一発当たり1ギガトンに相当する破壊力を秘める縮退タキオン粒子を充填した波動カートリッジ弾頭ミサイル〈オライオンIII〉が連続して発射された。
それは一瞬で亜光速にまで加速し、迎撃の暇を与えず標的となったシールド3の裏側にあるエネルギー吸収システムに突き刺さると、轟然と爆発した。シールド3は激震し、電磁バリアの表面に亀裂のような無数の雷光が走る。
これ一発なら、あるいはシールド3は耐えたかもしれない。しかし、二発目、三発目のオライオンが命中したところで、シールド3の物理構造全体が限界に達した。要塞に面した側の装甲が全域にわたって破砕され、内部構造がむき出しになる。
さらにそこへオライオンが立て続けに突き刺さり、シールド3を内部から打ち砕いていく。衝撃波が要塞本体の流体エネルギーフィールドを嵐のように揺るがせ、停泊中の艦隊が木の葉のように弄ばれる。
その爆風と衝撃波の嵐の中を、小林に操られるコスモバルカンは推力に物を言わせて強引に突っ切った。その背後で、最後のオライオンがシールド3に命中し、巨体を完全に爆砕した。同時に電磁バリアが消滅し、磁界の表面に吸着されていたエネルギー散乱ガスが、まるでガラスが砕けるように散らばって消えていく。
「やった! 脱出するぜ! 副長、郷田、しっかり掴まってろよ!!」
小林が非常用ブースターを作動させ、コスモバルカンはガスの破片をかいくぐって要塞の防空圏外へと脱出する。それまで冷静に状況を見守っていた大村が、ここで初めて咆哮のような喜びの声を上げた。
「どうだ、SUSめ! これがヤマトだ、地球だ! 舐めるなよ、思い知ったか!!」
一方、大仕事を終えた郷田は満足そうに言った。
「プランDとコスモバルカン……使えるな」
「まぁ、使える戦法なのは、大昔にわかってたけどな。なんせあのデスラーのお墨付きだ」
小林が言う。そう――プランDのDとは、デスラーの頭文字。デスラー戦法を地球でも採用したものが、この攻撃計画の正体だった。
デスラー戦法……かつて、ガミラスの名将ドメルが編み出したこの戦法は、デスラー総統の名を戴いている事でもわかるように、ガミラスの切り札の一つである。
瞬間物質移送機を使用する事で、艦載機を敵の意表をつく位置に出現させて奇襲を加えるこの戦法は、艦載機の航続距離を倍に伸ばすだけでなく、攻撃時のパイロットの疲労を事実上ゼロにする事で、攻撃精度を大幅に向上させる効果もあり、ガミラス、ガルマン・ガミラス空母機動部隊の赴く戦場で猛威を振るい続けた。
地球防衛軍でも〈ヤマト〉が二度にわたってこの戦法に苦戦を強いられた経験や、応用として白色彗星帝国が開発した、エネルギー瞬間転移砲、通称「火炎直撃砲」によって大損害を受けた戦訓からこの戦法を研究しており、ガルマン・ガミラスと友好関係を結んだ後、技術供与を受けて独自に瞬間物質移送機の開発を推進した。そして、2213年に最初の実戦型瞬間物質移送機の配備を開始した。
数分前、ベルデル艦隊が陽動に出る直前、大村、小林、郷田はコスモバルカンで発進すると、第七護衛艦隊に配備されている空母〈盤手〉の背後につけた。
「こちらトマホーク1。オペラハウス応答願います」
『こちらオペラハウス。感度良好だ。本艦軸線上、甲板との高度差ゼロに遷移せよ』
小林の呼びかけに、オペラハウス――〈盤手〉の航空管制室から返答が来る。
「了解」
小林は答えながら、数キロ先に見える〈盤手〉の飛行甲板を見た。艦尾両脇の着艦誘導装置の横に、それより一回り大きな、ランタンのような構造物が見える。表面のパネルに、虫の複眼を思わせる六角形の構造が見えるのが、この兵器が地球ではなく異星の由来物である事を物語っていた。
「あれが瞬間物質移送機か……どんな感じなんだろうな」
郷田が言う。
「なに、ワープより楽なもんだよ」
小林は答えた。このデスラー戦法の地球での採用が決定したのは、彼が宇宙戦士訓練学校に入る数年前で、ちょうどノウハウが蓄積されてきた頃だった。ゆっくりと操縦桿を操作し、移送エリアの中心部に機体を持っていく。やがて、準備完了を示すサインがモニタに表示された。
「オペラハウス、所定の位置に付いた。デリバリーを頼む」
『オペラハウスよりトマホーク1、了解。舌を噛むなよ?』
小林の声に管制が答え、次の瞬間、虹色の光が装置から放たれた。その光に包み込まれたコスモバルカンは、一瞬にして数十宇宙キロの距離を飛び越え、SUS要塞の目前へと移送されたのである。
そして今、地球流デスラー戦法の初実戦使用を、小林は完全にやり遂げた。大村、郷田も訓練すらしていないぶっつけ本番で、完璧な攻撃を成功させたのだ。満足すべき成果だった。
「む、来るな……!」
大村が言う。彼のその言葉の意味を、小林と郷田も理解していた。
地球艦隊の中心部に、青白色の輝きが見えていた。
既に準備は整っていた。
六基の波動炉心のうち、五基には既に限界までエネルギーが充填され、解放の時を今や遅しと待ち構えていた。
「ターゲットスコープ、オープン」
上条は手順を一つ一つ口にしながら、波動砲の発射シークエンスを進めていく。目の前のキーボードが左右に分かれて展開し、その下から波動砲のトリガーが出現すると、自動的に電影クロスゲージが立ち上がった。
「電影クロスゲージ、明度20。射数5。目標、SUS要塞および防御盾艦群」
未だシールド3大爆発の余波に揺らぎ続ける敵要塞に狙いをつけていく。爆発による空間の歪みがクロスゲージに映し出された敵の姿を揺らめかせているが、それが微かなノイズの後に、クリアな映像になる。
『上条さん、爆発の影響を補正して敵の正確な位置を表示させました』
真帆の声。上条は頷いた。
「ありがとう、真帆。エネルギー充填120%。全艦、対ショック、対閃光防御」
上条は遮光バイザーを装着し、トリガーに手をかけた。クロスゲージにカウントダウンの数字が表示される。
「発射十秒前。九、八、七……」
声が震える。今自分は月クラスの天体をも吹き飛ばせるほどの破壊力を開放しようとしているのだ。演習では何度か波動砲の発射を経験したとは言え、実戦ではこれが始めてであり、緊張がこみ上げてくる。
「上条、大丈夫だ。お前ならやれる」
その時、古代の声が上条の耳に飛び込んできた。落ち着いた、暖かい声。自分を信頼し、全てを任せてくれている人がいる――そう思ったとき、上条の肩から力が抜けた。そうだ。自分はやれる。そして、多くの仲間たちを奪った敵を打ち倒し、仲間たちを、同胞たちを、守ってみせる!
「四、三、ニ……」
敵の要塞にも赤い光が灯るのが見える。何とか混乱を脱し、こちらを撃とうとしているのだろう……だが、もう遅い。受けてみろSUS。これが、お前たちに虐げられ、理不尽な痛みを強いられた人々の、怒りの炎だ! 上条は怒りを込めてトリガーを引いた。
「一……ゼロ! トランジッション波動砲、第一射、発射!!」
怒りを込め、眩い閃光が〈ヤマト〉の艦首から迸る。青白色の輝きは、今まさに赤い光を撃ち返そうとしていた防御盾艦の砲口に飛び込み、ハイパーニュートロンビームのエネルギーをも巻き込んで、その破壊力を盾艦の中で解放した。全長3kmに及ぶ砲身が破裂し、盾艦そのものを真ん中から真っ二つに引き裂くと、その断片がそれぞれ大爆発を起こして、木っ端微塵に砕け散る。
大爆発の余波で揺らぎ、隊形を崩す他の盾艦も、続けざまに振るわれる青光の剣によって貫かれ、斬り裂かれていく。あるものは左半分を瞬時に吹き飛ばされ、反動で隣の盾艦に激突したあと、その盾艦を狙った波動砲により、まとめて粉砕された。別の二隻は辛うじてハイパーニュートロンビームを発射したものの、体制を崩していたために、それは空しく何もない方向へ放たれ、代わりに飛来した青の閃光が、こちらは狂いなく的の中心を射抜いて、絶望の声を上げる乗員たちごと原子の塵に変えた。
「ば、馬鹿なっ!?」
たった一隻の戦艦により、質量で言えば総計一万倍はありそうな盾艦が撃砕されるのを見て、メッツラーは驚愕の声を上げる。だが、その言葉も終わらないうちに、最後の一発が彼が座乗する要塞そのものを直撃した。
四角錘の要塞下部に命中した波動砲は、外装を薄紙同然に撃ち抜き、流体エネルギーフィールドをモーゼの奇跡によって分かたれた紅海の如く切り裂いた。衝撃によって流体エネルギーに数百メートルを超える波高の激浪が生じ、停泊している艦船を鉄槌のように叩き潰し、ひっくり返す。
天守閣も同じだった。基部に命中した波動砲は、数億トンはあろうかと言う構造物全体を、まるで処刑執行人が振るう斬首刀のように切断し、下部から跳ね上げた。衝撃によって天守閣内の要員たちは玩具のように吹き飛ばされ、壁や天井に叩きつけられて、その大半が苦痛の声を上げる間もなく絶命した。そうでないものも骨や内臓を砕かれ、苦悶の叫びと共に倒れる。
次の瞬間、神は彼らにも慈悲を与えた。流体エネルギー全てが誘爆を起こし、灼熱の炎となって燃え上がったのだ。既に破壊された艦も、未だ無事だった艦も、そしてまだ周囲に漂っていた盾艦の残骸も、全てがその業火の中で燃え尽き、焼け崩れていく。天守閣へも炎が進入し、死者も辛うじて生きていた者も、等しく何もかも焼き払って頂上へと駆け上がった。
やがて、全体に炎をまとわり付かせた天守閣は、スローモーションのように傾き、崩壊しながら四角錘部に倒れこんだ。その衝撃が最後のとどめとなり、要塞は四分五裂して、燃え盛りながら宇宙に散っていく。
長年、SUSの圧制と横暴を支え続けた悪の牙城は、ここに潰えたのだ。
敵要塞の崩壊を見て、艦内には歓喜が渦巻いていた。
「やったーっ!!」
「いやっほーう!」
機関部では天馬兄弟が肩を組んで喜びをでたらめなダンスで表現していた。
「やったね!」
「よかった!」
ECIでは、安堵しつつ椅子に体重を預ける真帆の周りで、彼女を補佐していたオペレーターたちがハイタッチを繰り返している。
「全弾、命中しました」
そうした中、バイザーを額にあげて上条は報告した。終わってみると、一度は意識から去った緊張感がまたこみ上げて来るから、おかしなものだ。そんな部下に、古代は労いの言葉をかけた。
「ご苦労、上条。よくやった」
上条は笑顔で頷く。その時、帰艦してきた大村、小林、郷田が第一艦橋に入ってきた。小林はまっすぐ上条の元へ歩いてくると、満面の笑みを浮かべてその肩を叩いた。
「やったな、上条」
「……ありがとう、小林。お前こそ」
上条は立ち上がり、小林と握手を交わした。
思えば、この二人にはいろいろと確執もあった。小林は敗北者である上条の実力を信用せず、上条も小林をただの軽い男として軽侮していたものだが、共に死線を掻い潜り、大仕事を成し遂げた今、二人の間にあるのは、確かな信頼と友情だった。
(島、見てるか? まるで昔の俺たちみたいだな……どうやら、お前に見せて恥ずかしくない戦いはできたよ)
古代が天国の友にそう報告すると、現世の友が通信を送ってきた。
『古代提督、お見事でした』
まずパスカルが通信を送ってきた。
『地球に賭けた甲斐があったというもの……ありがとう、古代提督』
続いてゴルイも祝意を送ってくる。古代は敬礼し、答えを返そうとして、その場に硬直した。
「あれは……なんだ?」
思わず声が漏れる。古代の異様な様子に、大村や上条たち、他の喜びに身を任せていたクルーたちもその視線を追い、そして絶句した。
宇宙に「海」があった。正確に言えば、まるで「海面のように見える何か」が。その広さは、古代が気づいた時点でも五キロ四方はあっただろうが、更に拡大してほぼ十キロにまで成長する。
そして、その中心から、まさに海面を割って浮上する鯨のように、巨大な何かが姿を現した。いくつもの剣を束ねたような、異様な構造物だ。しかし、そのデザインは今まさに葬ったばかりの敵と共通のものが感じられた。
「SUSの艦なのか!? 総員戦闘配備だ!」
古代が叫ぶ。それに弾かれたように席に着こうとするクルーたち。だが、その前に敵は攻撃を開始した。剣のような構造物の、刃の部分に無数に並べられた砲口が輝き、横向きの豪雨のような勢いで赤い光弾を撃ちだす。同時に、「海面」を蹴立てて無数の魚雷が出現した。それは〈ヤマト〉や周囲の僚艦にも容赦なく降り注ぎ、隊列の至る所に爆光を閃かせる。
「戦艦〈サイファー〉〈コルベルク〉大破! 巡洋艦以下にも撃沈多数です!」
桜井が悲鳴のように報告する。わずか数十秒の攻撃だったが、一瞬にして地球艦隊は戦力の一割以上を損失していた。
「ちくしょう、ふざけやがって!」
上条が怒鳴りつつ、それでも的確に謎の敵艦に狙いを定め、主砲を撃ち放つ。しかし、それが命中するより早く、敵艦は「海」に潜り込むようにしてその場から消え去った。何もない空間を空しく主砲の光条が貫いていく。
「亜空間潜航艦か……? 木下、亜空間ソナーに反応はなかったのか!?」
郷田が叫ぶ。しかし、木下は冷静な口調で答えた。
「いや、反応はなかった。もしかしたら、次元転換船かもしれん」
「次元転換船? それはなんだ?」
古代は尋ねた。亜空間潜航艦ならわかる。自艦の周りの空間を変異させ、その中に潜んで活動する艦で、かつての潜水艦に似た性質を持つ。列強ではガルマン・ガミラスが多用しており、地球ではブルーノア級に初の実戦型亜空間潜航システムが搭載されている。
だが、次元転換船というのは聞いたことがなかった。そこで木下が解説する。
「亜空間潜航艦は、あくまでも擬似的に通常空間内に通常と異なる物理法則に支配される空間を作り出すものですが、次元転換船は文字通り、異次元間を自在に転移できる艦です。言ってみれば、助走無しのワープを常時行える艦と言ってもいいでしょう。時空操作技術としては究極の到達目標と言っても過言ではありません」
「そんなものがあるのか。あれがそうだとしたら、どうやって探知し、撃滅すればいい?」
古代の問いに、木下が困惑の表情を浮かべる。それを見て、古代は悟った。
「無いのか、探知技術が……」
木下は頷いた。
「はい。現時点では理論上の存在でしかなく、研究もそれほど進んでいません。もしあれが次元転換船なら……対処は極めて困難です」
そんな木下の言葉をあざ笑うように、今度は天頂方向に「海面」が出現し、そこから地球艦隊の頭上に吊るされた剣の如く、敵艦が姿を現した。。慌てて回避を命じる古代。その頭上で、敵艦の先端が左右に展開すると、ハイパーニュートロンビームが撃ちだされた。辛うじて回避した〈ヤマト〉だったが、赤い光線は回避し損ねた数隻の艦艇を真っ二つに引き裂き、粉砕した。敵艦はそれを見て、再び「海」の中に潜り込み、姿を消した。
「異次元を自在に操っている上に、あの攻撃力……なんて船なの!」
真帆が叫んだ。その時、古代はまたあの疑問が胸を掠めたのを感じた。
防御盾艦はそれ自体の出力はたいした事がなく、要塞のエネルギーフィールドから動力を吸い上げていた。だが、その要塞のエネルギーフィールドはどこから来た? 艦隊規模の波動砲一斉射撃に匹敵するエネルギーを五門分供給し、かつ数百隻の艦艇に同時に補給を行えるほどの、そして今、次元を自在に操作しつつ猛攻をかけてくるあのエネルギーは……
その時、古代の脳裏に天啓が走った。
「小林! 艦を恒星に向けろ。木下、真帆、全てのセンサーを総動員し、あの恒星をあらゆる面から分析しろ! 中西、同盟を含む全艦隊に後退命令。星系外へ離脱させろ!」
突然の古代の命令に、幹部たちは一瞬対応が遅れた。しかし、すぐに気を取り直してそれぞれのコンソールに飛びつく。そうした中で、大村が古代に尋ねた。
「艦長、どういう事です?」
「敵の使っているエネルギーがあまりに巨大な事に疑問があったんですよ。地球と同じ波動エンジンだったとしても、到底賄いきれないほどの巨大さです。それを供給できるほどの出力源があるとすれば……」
「そうか、あの恒星……!」
古代の言わんとすることを最初に理解したのは上条だった。そして、真帆が古代の推理を裏付けるデータを見つけ出す。
「これは……恒星のデータが不自然です! 計測される質量から計算されるエネルギーに対して、あの恒星の放射エネルギーは三割も少ない量しかありません!」
「特に中心核の熱量が少ないですね。核融合の行われている領域が、計算上の予測より明らかに小さい。おそらく、敵は恒星中心核から直接エネルギーを抽出する何らかの手段を用いているものと思われます」
木下が真帆の見つけたデータを補足した。古代は頷くと、上条に命じる。
「上条、波動砲用意。恒星中心核に波動砲を叩き込め!」
「恒星にですか!?」
古代の破格な命令に、上条が戸惑いの声を上げる。
「そうだ。波動砲の威力を持って、敵の恒星エネルギー抽出システムを破壊する!」
古代はこれ以外勝機がないと確信していた。この恒星ウエストはありふれた赤色矮星で、太陽よりも遥かに少ないエネルギー放射量しか持たないが、それでもその三割ものエネルギーを操れれば、総出力は六連炉心波動エンジンと比較してさえ桁違いに多いだろう。
その供給源自体を断ち切らない限り、〈ヤマト〉に勝ち目はない。全員がそう理解し、覚悟を決める。
「行きます!」
小林が操縦桿を押し込み、〈ヤマト〉が加速する。しかし、いつもより加速が鈍い。
「そうか、さっきの波動砲……」
上条が原因を察した。波動砲五連発により、今波動エンジンのエネルギー量は大幅に減少している。そのため、加速が鈍っているのだ。
「太助、頼む」
古代が言うと、太助は頷いて立ち上がった。
「任せてください。エンジンに一発喝を入れてきます」
機関部制御室では、天馬兄弟が制御システム相手に格闘を続けていた。が、一度全エネルギーを吐き出した五基の波動炉心は、なかなか回復しようとしない。
「おい、頼むぜ。動いてくれよ」
「これじゃあ波動砲の発射命令が来た時に対処できないだろ」
翔、走がひたすらキーボードを叩き、炉心のステータスを見るが、エネルギー量はジリジリとしか回復しない。そのため、今は一基だけで航行、戦闘を賄っているが、このままでは波動砲発射に必要な、出力を120%に高めるためのオーバーブーストが使えない。
「くそ、何でこんなに回復が遅いんだ?」
「どこかでエネルギーがリークしてるのか? もう一度システムチェックを全部……」
天馬兄弟がまた作業をやり直そうとしたとき、怒声が機関室の喧騒をもかき消すように響き渡った。
「小僧ども、何やってる!」
「き、機関長!」
太助の登場に、天馬兄弟だけでなく、他の機関部員もその場に立ち竦んだ。太助はつかつかと彼らの前に歩いてくると、大声で指示を飛ばし始めた。
「1班から3班までは、エネルギー伝導パイプの各バルブにつけ! 俺の指示でバルブを動かすんだ。4班、5班は俺が良いと言うまで補助エンジンからの動力を150%まで注入しろ!」
太助の命令に、各班が蹴飛ばされたように動き始める。続いて、太助は天馬兄弟にも指示を出す。
「翔、走、艦長と整備班の許可は取ってきた。艦載機格納庫への動力供給はカットしろ! 残りは回流弁を通じて一度炉心へ戻せ!」
「「は、はあ」」
天馬兄弟は戸惑った声を出す。太助の指示は、どれもマニュアルにないものだ。そんな彼らに、太助は鬼の機関長の本性を出して怒鳴りつける。
「ぐずぐずするな! ケツ蹴っ飛ばされたいのか!」
「「は、はいーっ!!」」
天馬兄弟が弾かれたように指示を実行に移す間、太助は残る班員に、細かく指示を出す。やがて、それまでか細かった五基の炉心の唸りが力強さを増し、フライホイールの回転があがり始めた。それまで2〜3%だった出力が、一気に5%を超え、10%に近づいていくのを見て、天馬兄弟は目を丸くした。コンピュータにはできない微妙な操作で、太助はエンジンの調子を戻して見せたのである。
「「動いてる……」」
そこへ、太助が戻ってきて、二人の肩をぽんぽんと叩いた。
「翔、走、機関学校で習うだけが技術じゃない。マニュアルとシステム画面だけ見てても、エンジンは言う事を聞いてくれないぞ。こうやって優しく女の子を扱ってやるようにしてやらなきゃな」
天馬兄弟は顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。やはり、長年この道で飯を食い、死線を潜ってきたベテランの言う事は馬鹿にできない。だが、若者らしくちょっとした反抗心もあって、二人は余計な事を太助に聞いた。
「「奥さんもそんな感じでゲットしたんスか? 機関長」」
次の瞬間、力強さを増すエンジンの音にも負けない雷が、二人の頭に落ちた。
エンジン出力が戻ってきた事は、艦内に響き始めた駆動音と加速度として、艦橋でも感じられた。
「さすが太助、やってくれたな! 小林、急げ!」
「はいっ!」
古代の命に小林が操縦桿を倒し、艦を加速させる。しかしその時、〈ヤマト〉の直下、艦底からわずか数百メートルと言う距離に、あの「海」が出現した。そこから〈ヤマト〉を挟むようにして、巨大な剣型のパーツが姿を現す。
「こいつは、敵艦の両脇部分のパーツか? うっ!?」
桜井が絶句する。その「剣」が〈ヤマト〉に向けている側面には、まるでフジツボのようにびっしりとミサイルや砲台が装備されていた。そして、それが一斉に火を噴いた。
「うわあっ!」
「きゃあっ!!」
凄まじい衝撃が全艦を襲う。中西が席から弾き飛ばされ、真帆がコンソールに倒れこむ。これまでの戦闘でも大きな被害のなかった〈ヤマト〉だが、これまでの幸運を一気に取り返すかのように、損害報告パネルのあちこちが真紅に染まった。
「第二砲塔損傷! 第三パルスレーザー砲塔群も破壊されました! 左舷魚雷発射口も損傷、各部に火災発生!」
「直ちに修理班を急行させろ! 衛生班は負傷者の救護と治療に当たれ!」
木下の報告に、大村が修羅の形相で命じる。一方、上条は反撃を開始する。
「無事なパルスレーザーと舷側ミサイル発射口は連続発射だ! 奴をぶち壊せ!!」
手を伸ばせば触れるような至近距離の敵に向けて、生き残った火器が猛反撃を開始する。密集した敵のミサイル発射機や砲台が吹き飛ばされるが、あまりにも数が多い。二度目の一斉発射が傷ついた〈ヤマト〉をさらに叩きのめした。連続した打撃を吸収しきれなくなったエネルギー転換装甲が灼熱して破裂し、周囲に大火災を引き起こす。
「意識のない奴は麻酔打って後回し! 無事な奴から連れといで!」
医務室では、久々に医者の姿に戻った美晴が、白衣を血で染めながら続々と運び込まれる負傷者に対応していたが、処理しきれずに廊下にまで負傷者が溢れ始めた。
「ち、やはり太陽狙いに気づいたか……!」
古代は舌打ちしつつも、敵の猛攻がこちらに向いた事で、推理の正しかった事を確信する。だが、このままでは弱点を撃つ前にさしもの〈ヤマト〉も沈みかねない。何とか打開策を、と思ったその時、敵の砲撃がにわかに弱くなった。同時に、中西が歓喜の声を上げる。
「これは……エトス艦隊と第八護衛艦隊です!」
古代は窓の外を見た。撤退を命じたはずなのに、それを無視して後方から追いすがってきた二つの艦隊が、〈ヤマト〉を猛攻していた敵の攻撃ユニットに砲撃を加えていた。同時に、指揮官たちがパネルに姿を現す。
『古代提督、ここは我らに任せられよ』
『古代さん、行ってください!!』
ゴルイと南部の言葉に、古代は一瞬瞑目し、そして頷いた。
「わかった。だが、無理はするな!」
命令違反など咎めている場合ではない。古代は二人の臨機応変さに感謝しつつ、艦を離脱させた。攻撃ユニットと味方が激しい砲戦を交わしているのを後目に、ひたすら恒星を目指す。
なんとかその進撃を押しとどめようと言うのだろう。後方に「海」が出現し、次元転換船本体がその姿を現すが、古代はもうそれに構おうとはしなかった。何故なら……
「恒星、波動砲の最大射程内に入りました!」
「波動砲、発射します! 総員対ショック、対閃光防御!」
真帆と上条が続けて報告し、小林が艦を正確に恒星中心核に正対させる。そして。
「波動砲、発射!」
今撃てる最後の一発、残るエネルギーを込めた正義の鉄槌が、恒星ウエストめがけて撃ち放たれたからだった。
続く
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