宇宙戦艦ヤマト 復活篇
非公式ノベライズ
Resurrection of Space Battleship YAMATO unofficial novelize edition

後編 第五章「アマールの嵐」



【大ウルップ星域 ウエスト恒星系近傍空間】

 艦橋正面のホロ・スクリーンに呼び出した相手の巌のような顔が映し出されると、彼はおもむろに相手を難詰する口調で言った。
「地球艦隊を取り逃がしたそうだな。失態だな、ゴルイ提督」
『彼らも必死というだけの事……ところで、バルスマン総軍司令、聞きたいことがあるのだが』
 相手……ゴルイ提督からバルスマンと呼ばれたのは、SUS軍の最高指揮官である。軍事国家であるSUSでは、実質的な国家指導者と言ってもよかった。それはつまり、星間国家連合の最高指導者ということでもある。
 そんな最高権力者に向けてのゴルイの問いかけに、バルスマンは不機嫌そうな表情で発言の続きを促した。
「なんだ……言ってみるが良い」
 ゴルイは頷いて言葉を続けた。
『彼らは……地球人は本当に邪悪なのですかな。実際に戦ってみたが、とてもそのような種族には見えなかったが』
 バルスマンはますます不機嫌な表情になった。
「何が言いたいのだ、ゴルイ」
 ゴルイは堂々と答えた。
『この戦いに大義はあるのかと問うているのですよ、バルスマン総軍司令』
 バルスマンの周りにいるSUS軍人たちがざわめく。大ウルップ星間国家連合が結成されて以来十数年。常に連合を主導し、SUSの主張は連合の主張と同義、という状況が続いてきた彼らにとって、堂々とSUSの主張を疑うゴルイの言葉は、不愉快以外の何者でもなかった。
(時代錯誤の武人気取りが……)
 バルスマンも不愉快を通り越して、殺意すらゴルイに覚え始めていた。身の程を弁えさせようと口を開く。
「ゴルイ……大義とは、我がSUSそのものだ。星間国家連合諸国の平和は、我がSUSが守護してきたもの。それを疑うのならば、貴様の愛するエトス国がどうなるか、わかっているのだろうな?」
 逆らう者は連合の敵として殲滅する。そう言外に匂わせる。しかし、ゴルイはその程度の脅しにやすやすと屈する男ではなかった。
『さて……どうなさるおつもりですかな?』
 この言葉に、バルスマンのゴルイに対する感情は、一気に殺意一色に昇華された。しかし……
(こやつ……我らが足元を見ておるわ……!)
 バルスマンはそれでも殺意に狂うことなく、冷静にゴルイの強気の背景を分析していた。先の地球との第一次の戦いで、出撃したSUS艦隊は半壊に近い損害を受けた。その補充は容易なことではない。
 一方、ゴルイ率いるエトス軍主力艦隊は、先の戦いの後も七割近い戦力を保っており、第二次の戦いに参加したバラン艦隊も半数の戦力を残している。総合戦力を考えると、エトス殲滅を行うならば、相当の戦力を結集せねばならない。地球という強敵もいる今、エトスを早期に殲滅するのは現実的な選択ではなかった。
(まあいい……ならば、こやつらは便利な駒として磨り潰すまでのことよ)
 バルスマンはとりあえず気を落ち着け、小癪なエトス軍に対する直接的懲罰を行うのではなく、地球との戦いの中でSUSに抵抗できないよう弱体化させる事に決めた。それを実現するため、命令を下す。
「まぁよい。ゴルイよ、お前の艦隊は直ちに指定のポイントへ集結し、我が軍と共同歩調をとれ。役立たずのベルデルとフリーデは当分立ち直れそうもないからな」
 そう言って、バルスマンは参謀にエトス軍への命令指示書を転送させた。通信が切れると、参謀の一人が憤りを隠しきれない表情で言う。
「エトス風情が小生意気な……閣下、あのような事を言わせて置いてよいのですか?」
 バルスマンは答えた。
「今はな。だが、いずれ今日の増長慢の報いはたっぷりと彼奴に思い知らせてくれよう」
「そうですな。この〈マヤ〉級量産の暁には、エトスはおろかガルマンやボラーさえ、我が膝下にひれ伏す事になるでしょう」
 別の参謀の答えに、バルスマンは満足そうに笑った。
「そう言う事だ」
 今彼が乗る旗艦、戦艦〈マヤ〉は新造の超巨大戦艦だ。全高一キロを超える巨体は、かつて〈ヤマト〉の強敵として立ちはだかった暗黒星団帝国の〈ゴルバ〉級自動惑星に匹敵する。SUSはこれほどの巨艦を今後量産されるべき汎用戦艦として位置づけていた。
 未来の無敵艦隊への展望を抱き、SUS艦隊は虚空を駆けて行った。


【エトス艦隊:旗艦〈シーガル〉艦橋】

 バルスマンとの交信が途切れた後、コアン艦長は振りかえって上官を見上げた。
「思い切った事を言われましたな、提督」
「彼奴目が血迷ってエトスを攻撃すると言い出しかねませんぞ?」
 別の参謀も諫言する。ゴルイは部下たちが自分に盲従しているのではない、という事を確かめて満足そうに笑った。
「まぁ心配あるまい。地球人の脅威があるうちは、奴も我が軍に利用価値を認めてくれようさ」
 裏を返せば、地球の脅威がなくなった途端に、SUSはエトスを攻撃するだろう。エトスだけではない。ベルデルやフリーデも、その他の諸国もだ。星間国家連合はSUS帝国とでも言うべき、ガルマンやボラー以上の恐怖政治が罷り通る専制帝国に成り果てるに違いない。
(だが、そうはさせん。ある意味これは絶好の機会だ)
 ゴルイは予め用意してあった作戦計画データが入ったメディアを、コアンに手渡した。
「コアン、『組織』を通じ、本国にこれを送ってくれ。そして、一文付け加えてほしい。我が民族の悲願を叶える好機が、目の前にあると」
 コアンははっと顔を上げた。参謀たちも同様だ。
「では、提督……?」
「そうだ」
 ゴルイは頷いた。
「我が国の真の独立……なんとしても果たさねばならぬ」
 ゴルイ、コアンはただ単に「組織」と呼ばれている秘密結社の一員である。その目的はただ一つ。SUSのくびきから祖国エトスを解放し、真の独立国家にすること。その行動計画のひとつに、SUSを打倒しうる、連合外の強国との連携があった。そして、ゴルイが見るところ、地球はその条件に十分適う国家だった。
(地球人よ……利用することになって済まないが、この星域の一員となるための最後の試練。諸君らなら切り抜けてくれような?)
 ゴルイは心の中でそう呼びかけていた。


【サイラム恒星系外縁空域:アマール領海まで十宇宙キロ】

 応急修理を終え、他の船団に遅れる事半日で〈ヤマト〉とAE30001がワープアウトしたのは、目的地サイラム恒星系のオールトの雲の只中だった。既に主星であるサイラムは全天で一番明るい星として輝いている。
「ワープアウト完了。誤差0.01パーセント以内」
「前方に移民船団が待機中。距離、三宇宙キロ」
 小林と桜井が続けて報告する。艦長席に戻っていた古代は頷くと、中西に声をかけようとした。ここからアマール側の航路管制センターを呼び出し、船団の誘導を依頼するつもりだったのだが、その前に真帆が異常を感知し、報告した。
「艦長、前方七宇宙キロのところに、艦隊規模の反応があります。総数……五十ないし六十。船籍信号は……アマールです」
 報告と共に、正面ビデオパネルにアマール艦隊が映し出される。大航海時代のガレオン船を連想させる形状の船体を持ち、要所に繊細な意匠の装飾が施された、美しい外見の艦艇である。しかし、上甲板にはエトス軍と同系列と思われる三連装のガンマ線レーザー砲塔を四基備え、船体には対空・対軽快艦艇用と思われる単装の小口径砲を三段砲列に並べた重武装も有しており、侮りがたい戦闘力を感じさせた。
「アマールの艦隊が? 迎えに来たのか?」
 古代が言った時、今度は先ほど声をかけようとした中西が新たな報告をした。
「艦長、アマール艦隊より通信です。レーザー通信」
 レーザー通信は傍受を受ける可能性が低いため、機密性が高い時に使われる通信形式だ。古代はアマールの対応に首を傾げつつ、通信回路を開かせた。正面ビデオパネルに、古代よりやや若いと思われる男性の姿が映る。アメリカン・フットボールのプロテクターに似た、独特なデザインの甲冑を纏った彼は、古代が上級と見て先に敬礼した。
『ようこそ、地球の方々。私はアマール宇宙軍系内防衛艦隊のリバール将軍です』
「地球防衛軍第三次移民船団護衛艦隊司令長官、古代進中将です」
 古代は答礼し、リバールに問いかけた。
「わざわざの出迎え、感謝します。しかし、なぜレーザー通信を?」
 まるで戦時のような対応に、古代は疑問を持っていた。リバールは頷いたが、次に彼の口から発せられたのは、求めていた答えではなかった。
『その事ですが、事情あって長距離通信はしないでいただきたいのです。地球に対しても。それが守られない場合――我々は、貴方方を攻撃します』
 まさかの攻撃宣言に、小林と上条が怒りの色を浮かべて席を蹴った。
「なんだと!? どう言う事だ!」
「返答しだいじゃ、ただじゃ済まさんぞ!」
 その若い二人に、古代が一喝を浴びせる。
「控えろ! 今話しているのは私とリバール将軍だ。しゃしゃり出てくることは許さん!!」
 頭に血が上った二人を黙らせ、古代は姿勢を正す。
「失礼。しかし、事情については今お聞かせ願いたい。事と次第によっては、我々は自衛のため適切と信じる行動を取る必要があると、そう明言させていただきます」
 やや柔らかい言い回しではあるが、実はリバールと大差ない脅迫的な言葉を口にする。古代の脳裏には、数時間前に別れたゴルイの、アマールもまた敵対行動を取ったSUSに属していると言う情報の事があった。
 アマールがもし、SUSの決議に従って戦端を開くなら、受けて立つ覚悟がある。その気迫が通信越しにも伝わったのか、リバールはやや顔を青ざめさせて答えた。
『勘違いなさらないでほしいのですが、わが国は地球に対し、敵対する意思はありません。ただ、今現在わが国の国際的立場は、極めて微妙なのです。そのあたりも含め、事情は女王陛下自ら説明すると仰せです。どうか、女王陛下にお会いください』
 古代は事前に与えられている情報を思い返した。現在、アマールを治めているのはイリヤ女王だ。アマールは王政国家で、王の権力、権威は絶大なものがある。その女王が自ら事情を語るとは、よほどの重要事なのだろうと古代は思った。
「了解しました。その前に、船団の先導をお願いしたいのだが、よろしいですか?」
『ええ、それは喜んで。もともとここまで来たのはそのためです』
 リバールがややほっとした表情を浮かべ、指揮下の艦隊を反転させると、ゆっくりと進みだした。もしここで古代が一言攻撃命令を出せば、アマール艦隊は瞬時に壊滅し反撃の暇もないだろう。
 逆に言えば、アマールはそれだけ地球を信用しているのだと、そう受け取る事もできる。古代は小林、上条に命じた。
「小林、彼らの航路に追従せよ。戦闘班は念のため、第二級戦闘態勢を維持」
「「了解」」
 先ほど怒られたせいか、ややしおらしく答える二人。古代は苦笑しつつ背もたれに体を預けた。これから女王に会わなければならないと考えると、戦闘指揮よりも気疲れするような気がする。そんな彼も、女王と名乗る人物を他に二人は知っている。イスカンダルのスターシャと、シャルバートのルダだ。どちらも女王と言うよりは女神と呼んだほうが良いような神秘的な存在だが、はたしてイリヤはどんな女王なのだろうか。
 
 古代の物思いを乗せ、船団は星系内に進んでいった。途中、土星のような見事なリングを持つ大型のガス惑星の傍を通過したときは、乗組員や市民たちのどよめきが上がった。
「土星だ……」
「また、こんな星が見られるとはなぁ」
 土星はカスケード・ブラックホールの直撃を受け、破壊される事が確定している星のひとつだ。もう二度と見ることが出来ない星の生き写しの姿は、地球人たちの涙を誘った。
 しかし、それもアマールに到着するまでだった。星系内で小ワープを実施し、アマール−アユー系まで七十万キロの位置に船団が出現した直後、〈ヤマト〉の艦橋でも若手乗組員たちが驚きに目を見張った。
「まるで地球だ」
「これが、第二の地球になる星なのか」
 木下と郷田が席を立ち、前面の窓に取り付く。その会話を見て、古代と徳川は懐かしい記憶をよみがえらせた。かつて第二の地球探索航海に赴いた時、惑星ファンタムやシャルバートに到着した際、同じどよめきが艦内を満たしたものである。
「真帆、桜井。アユーの地上スキャンを頼む。船団の着陸に適した場所を探してほしい」
 古代は記憶を心の片隅においやり、指揮官として今すべきことを指示する。命じられた二人が「了解」と応答し、仕事を始めるが、数分後に桜井が驚きの声を上げた。
「こ、これは……!?」
「まさか……」
 続けて、真帆も驚きの声を上げる。古代は二人に声をかけた。
「何があった? 報告しろ」
 その命令を受けて、桜井が古代のほうを振り向いた。
「その……まずはご覧ください。それが一番確実かと」
 そう言って、桜井はアユーの地表面をスキャンしたデータを処理し、正面パネルに表示させた。その瞬間、古代も驚きに声を失った。
 アユーのどこかの海辺。広い湾内を埋め尽くすように、白い長方体をした巨大宇宙船が無数に停泊している。それは、ここ二週間で見慣れた――
「移民船団……それも、第一次、第二次のものですな。これほど生存者がいたのか……」
 やはり驚きの表情を浮かべつつも、冷静に事態を把握したのは大村だった。彼の言う通り、移民船の船腹には第一次・第二次移民船団所属を現す船籍ナンバーが記されている。
「移民船千三百八十二隻を確認。全体の25%ほどですが、生存者がいたんですよ……」
 桜井が言うと、真帆がそれを訂正した。
「ううん。これを見て。アマールにも生存者が降りているわ」
 真帆がパネルを二分割し、アマールの様子を表示させる。やはり広い湾に面した都市部に隣接する工業地帯を映し出した画像だが、損傷した移民船や護衛艦隊の戦闘艦が、あるものはドックに入渠し、あるものは桟橋に横付けされて、補修・整備作業を施されている。
「こちらは、移民船が三百隻程度。艦艇が四十隻ほどです。全て損傷していますね」
 真帆の報告に、古代はどうやってか敵の襲撃を切り抜け、ここまで辿り着いた移民船団に、アマールが惜しみなく救いの手を差し伸べてくれていたことを知った。
(どうやら、女王陛下にお会いして、礼を言うことが増えたようだ……しかし)
 古代は目前の任務以外の、ある可能性に気がついていた。もしかしたら、雪もここに辿り着いているのではないだろうか。敵襲を潜り抜け、無事アマールに到着して自分を待っているのではないだろうか、と。
 今すぐ探しに行きたい。そして会うことが出来たなら、思い切り抱きしめて、無事を喜び、戦い抜いたことを誉めてやりたい。古代はその衝動に駆られた。だが……
「中西、南部を呼び出してくれ。レーザー通信」
「了解」
 古代はその衝動を押さえつけ、南部を呼び出した。敬礼で画面に現れた南部に、古代は指示を出す。
「俺はこのまま〈ヤマト〉でアマールに降り、女王陛下に謁見してくる。南部はその間護衛艦隊を指揮してくれ」
 それを聞いて、南部は一瞬驚いた顔をした。彼も雪の事は知っている。おそらく古代なら雪を探しに行きたいだろう、と言う事も気付いていた。だが、彼は笑顔を見せて古代に頷いた。
『了解しました。こちらはお任せください。なにやら、情勢が混沌としてきましたが、どうかお気をつけて』
 南部の気遣いに古代は感謝する。確かに、今の情勢は不穏だ。確かにアマールは地球の味方……少なくとも明確な敵意を持つ相手ではない。しかし、一方では通信を禁止し、アマールに辿り着いた生存者たちと地球の連絡を遮断している。その行動の意図が読めない。
(まずは、話をしてみること。それが第一か)
 古代はそう考えながら、小林に艦をアマールへ向けるよう命じた。


【惑星アマール:首都テュルキエ】

 アマールの首都テュルキエは、地球ではガミラス戦争時に多くが失われた、中世的な雰囲気を残す古都である。しかし今、その郊外にはアマールとは異質の文化を感じさせる、仮設住宅を並べた臨時の街が出来ていた。
 アマールに辿り着いた地球人移民のうち、アマールに降り立った人々が当面の住まいとして建てた街である。アマールには攻撃を受け損傷した艦船が降りた為、街を行く地球人たちにも負傷者が多い。先の見通しも立たず、どこか暗い雰囲気を漂わせていたのが、昨日までの臨時居住区だった。
 しかし今、臨時居住区は明るい活気に包まれていた。数時間前に届いた一つの報せが、地球人たちに希望をもたらしていたのだ。彼らは居住区を出て、港湾区へ急いでいた。その数は五万を超えようとしていた。
 やがて、海岸にずらりと並んで待っていた人々の頭上に、一つの点が現れた。それは急速に大きくなり、そして形がはっきりしてくると、歓声があがった。
「〈ヤマト〉だ! 本当に〈ヤマト〉が来てくれたぞ!」
 右腕を三角巾で吊った青年が叫ぶ。その横で、中年の男性が子供たちに言い聞かせていた。
「お前たち、よく見ておきなさい。あれが〈ヤマト〉だ。私たち、地球人の希望の艦だよ」
 子供たちが父親にはい、と返事をするその横で、女性が声も出ず、目に浮かんだ涙をそっと指でぬぐう。それぞれに希望の到来を喜び祝う人々の前で、〈ヤマト〉は沖合い数キロの位置に着水した。小林が繊細に操縦桿を操ったとはいえ、十万トンを超える大戦艦の着水は大きな波を引き起こし、岸壁に打ち寄せて飛沫が人々を濡らす。しかし、それを厭う人は誰もいなかった。

 内火艇のハッチから一歩外に出た瞬間、古代は大歓声に包まれた。岸壁に鈴なりになって彼を出迎えた人々は、いずれも地球連邦のマークをあしらったバッジを胸に着けている。守るべき市民たちに、古代は敬礼で応え、再び大歓声が彼を包んだ。
 その中から、一人の防衛軍士官が進み出てきて、古代に敬礼した。階級章から見るに大佐である。
「第一次、第二次移民船団護衛艦隊司令および、移民団長代行を務めております、加藤四郎です」
「第三次移民船団護衛艦隊司令長官、古代進だ」
 加藤に答礼し、古代は懐かしそうな笑顔を見せた。
「加藤! 久しぶりだ……!」
「古代さんこそ」
 加藤も笑い返す。彼、加藤四郎はかつて先代〈ヤマト〉の艦載機隊長として活躍し、百機以上の撃墜と十数隻の撃沈記録を有する、地球防衛軍のトップ・エースだった男である。現在はパイロットとしては一線を退いているが、空母〈イリジスティブル〉艦長として、揮下の百二十機に及ぶ艦載機をも統率している。
 古代にとって、南部と並んで戦闘時に片腕と頼んだ男だった。その懐かしく心強い顔と再会し、束の間喜びに浸った古代だったが、すぐに真顔になって、一番気になっていた事を尋ねた。
「団長代行……と言ったな。本来の団長は……雪は、ここにはいないのか?」
 加藤は首を横に振った。
「残念ながら雪さん……古代団長は行方不明です。乗艦の〈アウストラ〉は大破した状態でサイラム星系外縁まで辿り着きましたが、船内には人の姿はなく……」
「……そうか」
 古代は加藤が出迎えた時から予感はしていたとはいえ、雪がいない事に落胆した。かつて、彼はガミラス戦争時にタイタンで発見した駆逐艦〈ゆきかぜ〉で、同じ気持ちを味わったことがある。その時は兄を見つけられなかった。今度は妻。
(だが……それならば、雪も生きているかもしれない。そう希望を持てるな)
 タイタンでは再会できなかった兄、守はのちにイスカンダルと言う思わぬ場所で再会している。今雪に出会えなかったとしても、全ての希望が失われたわけではない。
 そう考えて古代が雪を探し出すことを改めて心に誓っていると、今度は別の人物が桟橋の上を進んできた。古代をここまで案内してきたリバールだった。
「古代提督、お迎えに上がりました。王宮まで案内しましょう」
 敬礼しながら言うリバールに、古代は頷いて加藤にまた後で、と言うと歩き出した。それを加藤は呼び止めた。
「待ってください、古代さん」
「? 何か?」
 足を止めた古代に、加藤は言った。
「古代団長の乗艦ですが、乗組員の私物をいくつか回収できています。団長のものも発見されていますので、後でお届けにあがります」
「そうか、ありがとう、加藤」
 古代は加藤に笑顔を見せ、そして再びリバールについて歩き出した。迎えの車に乗り込むと、数キロ先の丘の上に見える王宮へ向けてゆっくりと進み始める。
「……落ち着いた町並みですな」
 古代は車窓の風景を見て言った。高層ビルが無数に立ち並び、エアカーが地上のみならず高架のチューブウェイをひっきりなしに行きかう地球の都市と比べ、このテュルキアの街は「長閑」と言う言葉が良く似合う。
 地球の中近東、特にトルコを思わせる、青い屋根瓦が葺かれた建物は、高くてもせいぜい五階建て。寺院のものと思しき尖塔も、高くて七階建て級の高さだ。壁面の建材も、地球のコンクリートやセラミックの高機能建材ではなく、自然石を切り出して積み上げたものらしい。
 地面はアスファルトではなく石畳で、路地などは舗装がされていない。そこでは子供たちが様々な遊びに興じている。大通りも車は少なく、人々は徒歩で行き交い、あるいは馬のような四足歩行の生物が牽く馬車に乗っている。
 まるで、十九世紀あたりの街並みであり、せわしない現代文明とはまったく異なる風情があった。
「なに、古いだけですよ」
 リバールは笑う。彼が言うには、五十年ほど前までは、このアマールは宇宙進出すらしていない地球で言えば十八〜十九世紀の文明レベルの国だったと言う。
 それが一変したのは、当時既に星間国家となっていたSUSの来訪以降であり、特にガルマン・ガミラスやボラー連邦がこの大ウルップ星団へ侵攻して来てからは、アマールも否応なしに激動の渦に巻き込まれていった。生き残るためにアマール人は必死に宇宙へ進出する術を学び、それを実践で身に着けることを強いられたのである。
 その結果、首都近郊の湾岸地帯は宇宙戦艦も建造できる近代的工場の立ち並ぶ一大生産地帯となったが、街並みは古き時代のまま残されていった。
「なるほど、それは大変な苦労があったのでしょうな」
 古代は地球の歴史と比べてそう言った。地球ほど切羽詰った危機に陥らなかったとはいえ、半世紀で四〜五世紀も進んだ文明をキャッチアップするのは、大変な苦難の連続だっただろう。

 そんな会話を交わしているうちに、車は市街地を抜け、王宮に続く丘の斜面を登っていった。アマールの王宮は、ドーム状の建物を積み重ねたような壮麗なもので、市街地と同じ青の屋根と白亜の壁のコントラストが美しい建造物だった。その城門を古代を乗せた車が潜ると、高らかにファンファーレが吹き鳴らされた。
「これは……」
 古代は驚いた。それは、間違いなく地球連邦国歌だったのだ。車が停止し、玄関に誘導するように敷き詰められた赤絨毯の上に古代が降り立つと同時に演奏が終わり、呼び出し役の声がかかった。
「地球艦隊司令官、古代提督、御来場!」
 その声を合図に、絨毯の左右に並ぶ儀丈兵たちが捧げ筒の礼を取る。古代はやや当惑しつつも答礼した。これは国家元首級の賓客を出迎える時の礼だ。古代にはこれ程の礼をもって迎えられる理由がわからなかった。
 その当惑を抱きつつも絨毯の道を進むと、その終点で一人の女性が待っていた。古代はすぐにそれが誰かわかった。膝をつき、貴人に対する礼を取る。
「陛下、お目にかかれて光栄です。地球防衛軍第三次移民船団護衛艦隊、司令長官の古代進です」
「ようこそおいでくださいました、古代提督。我が国はこの私、女王イリヤの名において、貴方がた地球人を心より歓迎いたします」
 女性が応じる。彼女こそこのアマールの女王、イリヤであった。
 古代が知る二人の女王――スターシャ、ルダに比べると、神秘的な雰囲気はない。しかし、一国を預かる女王としての威厳は劣る事はなく、それでいて親しみやすい明るさも感じさせる。年の頃は古代よりやや下だろうか。
「いろいろと話もありましょうが、まずは中へどうぞ。詳しくはそこで聞きましょう」
 イリヤがそう言って、自ら古代を招き入れる。古代は頷くと立ち上がり、イリヤの後に続いて王宮内に足を踏み入れた。


【アマール王宮:貴賓室】

 会談は市内と〈ヤマト〉が停泊している海を一望できる、城内でも一番眺めの良い一室で始まった。
 当たり障りのない話をしばし続けた後、古代は本題を切り出した。
「陛下、アマールが我々を攻撃した星間国家連合に属しているというのは、事実でしょうか?」
 イリヤは目を伏せ、やや躊躇いがちにではあったが頷いた。
「はい……やはり、ご存知でしたね」
「ええ。エトスのゴルイ提督より聞きました」
 古代が言うと、イリヤは得心したようだった。
「ゴルイ提督ですか。あのお方なら、お話しになるでしょうね。公正を重んじ、信義を大事にするお方です」
 そう言って、イリヤは事情を話し始めた。
「確かに、わが国は星間国家連合に属しています。古代提督も、十数年前まで続いていた、銀河中心領域の戦乱の事はご存知ですね?」
 古代はええ、と答えた。もちろん知らないはずがない。ガルマン・ガミラスとボラー連邦……それぞれ銀河の三分の一近くを制する超大国同士の大戦争だ。地球もまたその中に巻き込まれ――いや、古代がその巻き込まれる理由の一端を作ったと言っても良いだろう。
「わが国もその戦いに巻き込まれ、国中が荒廃した時代がありました。先代の王……私の父も、その心労に身も心もすり減らし、亡くなったのです」
 大ウルップ星域では数年にわたって、支配権を争うガルマン・ガミラスとボラーの両軍が攻防を繰り広げ、戦況は一進一退だった。アマールも何度かその盟主を変えている。そして、盟主が変わるたびに、その要求はエスカレートし、多くの物資が徴発され、それだけでなく兵力も拠出させられて、アマールの国力は衰微の一途をたどった。
 状況を変えたのは、2203年に起きた銀河系と異次元から出現した別銀河の交差である。この未曾有の大災害によってガルマン・ガミラスとボラー連邦は国の存続すら危うくなるほどの被害を受け、その機会を見逃さなかったのが、大ウルップ星域最大の強国、SUSだった。
「大ウルップ星域諸国の力を合わせ、平和を取り戻そうというSUSの呼びかけに、私も賛同したのです。かの国の主導で組織された星間国家連合は、ガルマン・ガミラスとボラーの両国に、大ウルップ星域から撤退する事を約束させるに足りる力を持っていました」
 最終的に、両国はゼニー合衆国の仲介で和平を結ぶ。しかし、和平条件の中に「大ウルップ星域の中立化」を盛り込ませたのは、間違いなく星間国家連合の力であり、勝利だった。
 そして、誰にも脅かされることのない平和がやってきた……はずだった。
「しかし、平和にはならなかった……と?」
 古代の言葉に、イリヤは首を横に振る。
「いえ。確かに平和は訪れました。ですが……それは奴隷の平和だったのです」
 
 自分たちが手にしたのが偽りの平和だった事に大ウルップ星域諸国の人々が気づいたのは、銀河大戦の終結から程なくしての事だった。
 SUSは「星間国家連合を守護しているのは、我らSUSである。よって、同盟諸国は我らの軍事力を保つための物資を、わが国に供出せよ」と宣言したのである。その供出した物資に対する見返りは何もない。事実上の収奪であった。
 この一方的な宣言に、異を唱えた国があった。それに対する返答は、連合の和を乱す行為への制裁と称しての、一方的な軍事侵攻と虐殺。数週間にわたるSUSの暴虐の末にその国は宇宙から物理的に抹殺され、その名を呼ぶ事すらタブーとされた。
「恐ろしい事に、その国はブラックホールを爆弾としてぶつけられ、星系ごと消えてなくなったそうです……」
「ブラックホールを……惨い事をする」
 古代は唸った。その粛清された国と、今まさにカスケードブラックホールに飲み込まれそうになっている地球の運命が、オーバーラップして見えた。
「以来、SUSに逆らおうと言う国は出てきていません。我が国も……さまざまな資源をSUSに提供しています。ほとんど、ただ同然で。それにより、SUSはより繁栄し、さらなる要求を他国に突きつけているのです。そして、少しでも落ち度があれば、容赦ない殲滅戦。それに怯えて暮らす日々が、私たちの“平和”なのです。そんなものが真の平和といえるでしょうか……」
 深い嘆きと共に言うイリヤ。古代はSUSの非道に心からの怒りを覚えた。
 古代も、自分がそれを凌駕する非道を為してきたという自覚はある。ガミラス星を数億の民間人ごと壊滅させ、一般市民も多く暮らしていたであろう白色彗星帝国の移動要塞都市を容赦なく艦砲射撃で焼き尽くし、銀河すら破壊した事もある。自分の手がどれほどの血で汚れているのか、古代にはもうわからない。
 だが、己の栄耀栄華だけで……私利私欲を満たすために悪行を行った事はない。
(SUS……あくまでも地球人類の生存を妨げるというなら、その時は)
 古代は心中で戦う決意を固めていた。そして、尋ねた。
「陛下、そのような状況下で、SUSを敵に回すことがわかってなお、我々地球人を受け入れようとされるのは、何故でしょうか?」
 今の古代には、迎えに来たリバールがレーザー通信を使用し、地球への長距離通信を禁止してきた理由も理解できていた。それを傍受されたら、アマールが星間国家連合の――つまりSUSの決定に反して地球人を受け入れ、匿っていることが発覚するからだろう。
 それほどのリスクを負って、アマールが地球を助ける理由が、古代には理解できない。むしろ積極的にSUSに通報する方が、連合内でのアマールの地位を上昇させ、国家の安定に繋がるのではないかとさえ思う。
「……そう、仰るだろうと思っていました」
 イリヤは頷いた。そして、理由を話し始めた。


【〈ヤマト〉大展望室】

 夕暮れを迎えたティルキアの海。その水平線に、衛星アユーの地球に酷似した姿が見える。上条、小林、桜井、真帆の若手幹部たちは、何となく舷側の大展望室で、その光景を見つめていた。
「これからは、アマールの人たちもあの星を地球、って呼ぶ事になるのかな」
 小林が言うと、桜井が笑いながら応じた。
「それはないんじゃないかな……アマールって名前は、こっちの言葉で地球を意味するからね」
 知的文明を生み出した多くの星で、そこに住む人々の多くが、故郷の星をそのまま自分たちの民族名としても採用している。例えば「ガルマン」も、惑星ガルマンに発祥した人々が、故郷の星をそのまま民族名とした。そこから分家したガミラス人だが、ガミラスというのは「新天地」を意味する言葉だという。ニューヨークやヌーベルカレドニー(ニューカレドニア)など、移民や植民者が名づけた故郷に由来する名に近い発想なのだろう。
 桜井はそんな話をした後で、こう続けた。
「でも、アユーは現地名がそのまま使われるんじゃないかな……北海道のアイヌ語由来の地名みたいに。僕はそれでも良いと思う。アマールの人たちに敬意を表する意味でも」
「ふーん……なるほどねぇ。そう言う考え方もあるのか」
 桜井の意見を聞いて、小林が相槌を打つ。すると、真帆が怪訝そうな顔をした。
「小林君は、何か違う意見があるの?」
「ああ。俺は、やっぱり地球と呼びたい。アマールの人にもそう呼んでほしい。例え新たな星に移り住んでも、俺たちは地球人だ。それを忘れたくはないよ」
 小林が言って、横の上条を見る。彼は会話に加わらず、無言で窓の外を――アユーを見つめていた。
「上条君は、どうなの?」
 小林のその仕草を見て取ってか、真帆が聞いた。小林が言えば喧嘩になるかもしれない、と思ったのだ。
「俺か?」
 上条は振り返って真帆のほうを見た。が、すぐに視線を窓の外に戻す。だが、質問の答えは口にしていた。
「俺は……どっちでも構わないな。自然と新しい名前に落ち着いて行くような気がする」
 そこで一瞬上条は言葉を切り、視線を仲間たちに移して続きを口にした。
「ただ、どんな名前になろうと、元の地球の事を忘れてはいけないんだと思う」
 上条は第一次移民船団の中で、ただ一人もう一度地球に戻った事がある人間だ。深宇宙貨物船〈ゆき〉のブリッジから、一度は別れを告げたはずの地球を見た時、その美しさに言い知れぬ感動を覚えた。それは、アユーを見たときには浮かばなかった感情だった。
 その時、上条は思った。どれほど地球に似ていようと、アユーはやはり地球ではないのだと。もう間もなく消えうせるとしても、人類にとって地球が故郷であり、掛け替えのない存在である事には、変わりがないのだと。
「俺たちは、幸運にも新しい住処を見つけられた。ただ、その事をただ幸運だったと思ってるだけでは、何も変わらない。俺たちは……地球人類は、新天地でやり直しができる事に、感謝の念を忘れてはいけないんだ……そう思う」
 上条自身、まだ上手く考えがまとまっているわけではないが、故郷を失うというこの大災害と、アユーでの新たな歴史を、人類がより良い方向に発展して行くチャンスに変えなければならないと、そんな事を考えていたのだった。
「そうね……」
 真っ先に上条の思いに応えたのは、真帆だった。
「ここに辿り着いて良かったって、そればかり思ってたけど……まだ、解決してない事、解決しなきゃいけない事が、いっぱいあるんだよね」
 星間国家連合というか、SUSとの関係もまだ先行き不透明だ。戦わなければならないのか。それともこれ以上の戦いを避けるべきなのか。それを思い、小林と桜井の表情も引き締まったものとなる。その時だった。
『注意。大型艦船が接近中』
 警報が鳴り響き、四人はさっと身構えた。
「大型船だって? まさか敵なのか?」
 小林が言う。真っ先にそれに気づいたのは、桜井だった。
「いや、あれじゃないか? アマールの艦みたいだが」
 彼が指差す方向を、全員が見る。そこにいたのは、海上に浮かぶ断雲を割るように、大気圏外から降下してくる一隻のアマール軍戦艦だった。それはスピードを落としつつも、かなりの勢いを維持したまま〈ヤマト〉から一キロほど離れた海上に着水する。衝撃で〈ヤマト〉よりも高い水柱が立ち上った。
「乱暴な操縦だな……波が来るぞ!」
 小林がそう言って、窓枠の手すりを掴む。上条たちもそれに倣うと、すぐに水柱は崩れ、数メートルはある高波に姿を変えて〈ヤマト〉にも打ち寄せてきた。船腹を叩いた波が砕け散り、展望台の窓にも海水の飛沫が降りかかる。十万トンの巨体が僅かに左右に揺れた。
 その窓を覆った水飛沫が引くと、アマール艦は〈ヤマト〉とティルキア市街の間に割り込むように舵を切り、静止した。その砲塔が……
「何のつもりだ!? あいつは!!」
 上条が身を乗り出した。アマール艦の四基の主砲塔のうち、〈ヤマト〉を指向できる二基が旋回し、こちらに狙いを定めたのである。船腹の三段副砲列も〈ヤマト〉を睨んでいた。発砲こそしていないが、明確な敵対行為だ。
『副長より全乗組員へ。直ちに第一級戦闘配備。繰り返す。第一級戦闘配備』
 大村の、落ち着いた中にも緊張感を孕んだ声で全艦放送が流される。四人は顔を見合わせ、展望台を駆け出して行った。その脳裏には、同じ疑問がぐるぐると渦を巻いている。
 一体、何が起きたのか?


【アマール王宮】

 同じ疑問を抱いていたのが、古代だった。
 イリヤが地球人受け入れを決意するに至った「理由」を聞き、古代はこの女王の意外なしたたかさに舌を巻いていた。だが、全くの善意ではない、という事が、かえって古代を安心させていた。
(こちらが怒り出すような事を正直に言ったのだ。この方は信頼できる)
 古代はイリヤの事をそう評価していた。彼女との会見も終盤に近づき、そろそろ一度艦に戻ろうか……と考えていた矢先、突然部屋の外に殺気にも似た緊迫した空気が満ちた。
(!?)
 咄嗟に腰をまさぐり、今は銃を預けていたのだと気付く。それでも、イリヤを守るように一歩ドアに向けて踏み出すと、押し問答の声が耳に飛び込んできた。
「お待ちください、将軍! このような狼藉は……!」
「ええい、国の存亡危急の秋なのだ! 邪魔立ていたすな!」
 殴打の音と、その被害者が崩れ落ちる鈍い音と共に、ドアが乱暴に開かれた。そこから銃を持った兵士数人が、出口をふさぐように半円形に布陣し、古代に銃口を向けた。
「ご無礼仕ります、陛下」
 その包囲陣を割るように、恰幅のいい中年の男性が進み出てくる。甲冑は外しているが、服装から見て彼もアマール軍の将軍であるらしい。それを裏付けるようにイリヤが言った。
「パスカル将軍! これは一体何の真似です! 貴方は連合議会に参加しているはずではありませんか!!」
 イリヤにパスカルと呼ばれた将軍は、跪きはしなかったものの、頭を垂れて女王に対する礼を示した。だが、顔を上げたときには、その目は決意に燃えて爛々と輝いていた。
「お叱りは覚悟の上。私は我が国に迫る重大な危機を除くため、こうして急ぎ帰って参ったのです」
 パスカルはそう答えると、古代を見た。
「貴公が、地球の指揮官か」
「地球防衛軍所属、第三次移民船団護衛艦隊司令長官、古代進」
 古代は突きつけられている銃口を、まるでそんなものは存在しないかのような平然とした態度で無視し、パスカルに向き直った。
「パスカル将軍と言ったか……これは何の真似ですかな」
 その胆力に気圧されたか、パスカルはやや上ずった声で要件を……いや、要求を口にした。
「地球艦隊および船団に、直ちに我が国から退去してもらいたいのだ」
 古代がそれに答えるより早く、イリヤが言い返す。
「何を言っているのですか、パスカル! 母なる星を失い、行く当てなき人々を見捨てろというのですか!?」
 それにパスカルが反論した。
「ですが陛下、そのために我がアマールの民をも同じ境遇に陥れる事を、陛下は良しとされるのですか!?」
 そこで、古代は口を開いた。
「どう言う意味ですかな、パスカル将軍」
 予想はついていたが、古代は敢えて尋ねた。パスカルは血走った目で古代を睨み、懐から銃を取り出すと、古代に向けた。
「星間国家連合は……SUSは、我が国が地球人の受け入れを決めた事に感づいている。それを口実に、我が国を殲滅するつもりだ。それを防ぐ手は一つ。貴公らに出て行ってもらうことだ!!」
 やはりか、と古代は思った。あれほど偏執的な早期警戒網を作り上げている敵の首魁が、この状況を把握していないとは思えない。将軍になるほどの人物なら、その事には当然気付くだろう。
 しかし、パスカルは一つ思い違いをしている、と古代は思う。SUSがそんなに甘いとは思えない。地球を少しでも受け入れた、あるいは援助した事を口実に攻撃してくるのが確実の連中に思える。
「不当な支配に屈せよと言われるのか」
 古代が静かな、しかし強い意思を込めた口調で言うと、パスカルの表情に、一瞬苦悩が浮かび上がった。自分がしている事、置かれている環境の理不尽さ、それを理解し、かつそれを受け入れなければならない人間の見せる表情だ。だが、一瞬でパスカルはそれを打ち消し、硬い表情で古代に答えた。
「……不当でも、力ある者には逆らえん。我がアマールは弱い国だ。SUSに逆らうことなど思いもよらん。こらえてほしい、古代提督」
 その時、古代は自分を脅迫しているこの異星の将軍を許せる気がした。彼はただの保身でこんな事をしているわけではない。感情に流されず、ただ己と相手の力を見定めた上で、国を守る最適の手段としてこの道を選んだ。そういう決断ができる人間こそ、真の軍人といえるだろう。
(俺には、そういう分別はなかったな……)
 正義感の赴くまま、どんな強敵でも躊躇なく噛み付きに行った若い日を思い出し、古代は心中で苦笑した。しかし、そんな彼の代わりに、イリヤがパスカルに悲しげな口調で言った。
「パスカル……貴方ほどの者でも、私ではなくSUSの力に従ってしまうのですね」
 イリヤにとって、忠誠心溢れる家臣であるパスカルでさえ、自分を見限るかのような行為に走ったことは、かなりのショックだったようだ。
「……臣として、出過ぎた真似をしている事はわかっております。ですが、SUSにより確実に攻められ、陛下が討たれたり放逐されたりするのを、座視しているわけには参りませぬ。これが私なりの忠誠です」
 パスカルはそう答え、再び古代の方を見た。
「古代提督、返答をいただきたい」
「私の一存で決められる事ではない。貴方にもわかるだろう。私は地球防衛軍の禄を食む一軍人に過ぎん。国家の決定を私の判断で覆すことはできないのだ」
 古代は答えた。かつて、彼は国家の決定に従わず白色彗星帝国軍との戦いを続行し、結果として亡国寸前の危機にまで地球を追い込んだ、苦い失敗の思い出がある。あの過ちを繰り返すわけには行かない。
「そんな事はわかっている。だが、時間がないのだ! 何時SUSがここへ来るかもわからんのだぞ!!」
 パスカルは声を荒げ、古代の心臓にぴたりと銃の照準を合わせた。その時、ピピピピ、と言う電子音が鳴り響いた。古代の携帯野戦無線機からだった。古代はパスカルに尋ねた。
「出てもかまわないかね?」
「……よかろう。だが、下手なことを言えば撃つ」
 パスカルが僅かにためらいつつも頷いた。古代はキャプテンズ・コートのポケットから携帯無線を取り出し、スイッチを入れた。
「私だ」
『艦長、中西です。緊急事態が発生しました。衛星軌道上で哨戒中の第八護衛艦隊第三戦隊より、第六惑星軌道付近に敵艦隊の出現を確認したとの報告がありました』
 無線の向こうから、中西の緊迫した声が聞こえてきた。
「敵だと? 識別は?」
『BH−199で遭遇した三カ国とは反応が異なるため、恐らくSUS艦隊です。推定千五百隻以上の大艦隊。うち一つの目標は反応極めて大。超大型戦艦もしくは機動要塞と思われます』
 回線に割り込みをかけて桜井が報告してきた。古代は尋ねた。
「敵が現在の進路と速度を維持した場合、来襲予測時刻は?」
『その場合、約十五時間後……明日未明になるでしょう』
 桜井が予想値を弾き出す。古代は躊躇なく命じた。
「よし、全艦隊、第一級戦闘配備。アユー地表の移民団には至急安全地帯への退避命令を出せ。私は急ぎ艦に戻る。王宮へ迎えを寄越してくれ」
「待て、古代提督! 勝手な真似をされては困る!!」
 慌てた様にパスカルが言った。
「我が国の領内で戦闘をするつもりか! そんな事をされては、我が国が巻き込まれる事になるではないか!」
 古代は無線を切ると、笑顔でパスカルに言った。
「どうやら、問答無用で私を撃つほど、落ち着きを無くしている訳ではなかったようで安心した」
「なに?」
 侮辱されたと思ったか、顔を赤くしたパスカルに、古代は真面目な表情になって言った。
「我が地球と、SUSは既に交戦している。どこであれ彼らが我々を攻撃するというなら、断固としてこれを受けてたつ。そして撃退する。これは我ら地球人の生存権の問題だ」
 古代の決然たる言葉に、パスカルは衝撃を受けたように立ち竦む。追い討ちをかけるように古代は言葉を続けた。
「それに、SUSがゴルイ提督や女王陛下の言葉通りの連中なら、彼らはアマールを放っては置くまい。必ず攻撃してくるだろう。急ぎ防戦の準備を整えた方が良いと思う……だが」
 そこで、古代はパスカルの目を真正面から見つめた。
「敵艦隊は、我々が阻止する。アマールの人々を戦渦に巻き込むのは、確かに我々も不本意なので。では失礼」
 古代はそう言い残して、動けずにいるパスカルの横を通り抜けた。パスカルが率いてきた兵士も、どうして良いかわからず古代の退出を許した。
「待て……」
 数秒をかけて我に返ったパスカルが、古代を追おうとする。それを止めたのはイリヤだった。
「お待ちなさい、パスカル。古代提督を追ってはいけません。彼は……私の思惑を承知で、それでもアマールを守ると、そう言ってくれたのですから」
「どう言う事です?」
 イリヤの言葉の意味がわからず、振り向くパスカルに、イリヤは告白した。
「SUSの疑惑は……ある意味正しいのです。私は、地球人を受け入れる事で、SUSが絶対一強のこの大ウルップ星域の勢力図に変動をもたらす事を狙っていました」
「……なんですと!?」
 パスカルは驚愕した。公式には、イリヤが地球人を受け入れたのは、あくまでも人道上の要請を入れての事である。だが……
「地球はかのガルマン・ガミラスと同盟し、ボラーとも渡り合った技術的・経済的に先進の国家。小なりとはいえ無視できない勢力を持つ国です。かの国がここへ来れば、SUSと言えども、今以上の無茶はしかねるでしょう。ですから、私はその事を黙ったまま、地球人を受け入れる決断をしました。SUSがここまで強硬に反発するのは予想外でしたが……」
 イリヤは決して善意だけで地球人を受け入れたのではない。ゴルイと同様に積極的に地球の力を利用し、SUSに対する牽制の役目を負って貰いたかったのである。
「陛下……」
 パスカルは驚きと共に彼の主君を見つめた。今の彼女は、SUSの暴虐に怯えるだけの国家の指導者ではない。自らが統治する国とその民をどう幸せに導いていくか、そのために自分は何をなさねばならないか、と言う事を考え抜き、その結論を宿命として自分に課した、冷徹なる指導者の表情だった。
 

【〈ヤマト〉第一艦橋】

 王宮から艦載ヘリで〈ヤマト〉に帰艦した古代が第一艦橋に入ると、全員が敬礼で彼を迎えた。
「そのまま任務を続けてくれ。状況は?」
 古代が言うと、大村がそれに答えた。
「敵艦隊は現在第六惑星軌道付近を通過中。三群に分かれ、その総数は約千五百隻と見られます。特に中央の第一群は機動要塞級の超大型艦を伴っております」
「映像で出せるか?」
 その質問には真帆が反応した。素早くレーダー、センサー群の情報を処理し、敵艦隊の姿を画像として作成する。
「正面スクリーンに投影します」
 映し出されたのは、楔を組み合わせたような船体を持つ、赤と黒を主体とした塗装の大型戦艦の群れ。その中心に、対照的な白銀の十字架のような巨体が、悠然と浮かんでいる。間違いなく、第一次移民船団を襲撃した艦隊だ。その映像に真っ先に反応したのは上条だった。
「奴等だ……!」
 彼の両目に狂気と殺意がない交ぜになった激情の光が浮かんだ。その視線が物理的な破壊力を持つものだったら、敵艦隊の大半が一撃で轟沈していただろう。
「あれがSUS艦隊か……合い見えるのは二度目だな」
 古代は静かに言うと、小林に命じた。
「〈ヤマト〉発進。衛星軌道上で艦隊と合流する」
「了解! 〈ヤマト〉発進します!」
 小林が力強く復唱し、操縦悍を引く。プラズマタキオンの炎の尾をひき、艦が海面を蹴って上昇する。
「あれは何もしてこないか」
 古代が言ったのは、おそらくパスカルの乗艦であろう戦艦。〈ヤマト〉に砲を向けていたが、発砲はしてこなかった。
「艦長、王宮で何か?」
 尋ねてきたのは徳川だ。パスカル艦が砲を向けてきた瞬間を目撃していた若手幹部たちも事情を知りたそうな表情だったが……
「大したことじゃない」
 古代は言った。今となっては、パスカルも地球人に退去を求めるどころではないだろう。もはやここに来ては、アマールもSUSと戦うしかないからだ。
 そう。SUSだ。こちらの事情を斟酌することもなく、ただ己の覇権を維持するだけの目的で地球船団を攻撃し、数億の同胞を殺戮した、憎むべき敵。同じ星域に属する諸国を力で押さえ付け、隷属を強いている者たち。古代が遭遇した中でも、とりわけ悪辣な敵だろう。
「中西、全艦隊に対し回線を開け」
 古代は命じ、マイクを手にした。
「地球艦隊の全宇宙戦士諸君、私は司令長官の古代だ」
 まず名乗り、そして続ける。
「今我々が対峙しようとしている敵は、ここアマールも属する大ウルップ星域を力で支配する強権国家、SUSである。彼らの目的は一つ。己の覇権を維持し、全てを虐げる事のできる立場を守るため、その障害となる我々を、アマールを、蹂躙しようとしているのだ」
 艦隊全艦のスクリーンに、真帆が処理した敵艦隊の映像が転送された。
「諸君、我々には、どれほどの血を流してでも守らねばならぬものがある。それは……」
 古代の言葉に熱が篭る。
「戦う力を持たぬ人々だ。我々地球連邦の一般市民だけではない。これより隣人として共に歩むアマールの人々もまた、守るべき同胞である。諸君、それが我等が信念である!」
 古代は拳を強く握り締めた。
「これより、我々第三次移民船団護衛艦隊は、市民を、同胞を守ると言うその役目を全うするため、SUSに対し決戦を挑む。総員、信念を持って敵に当たれ!!」
 次の瞬間、艦隊乗員全員が起立し、ディスプレイの向こうの古代に敬礼していた。
「ありがとう、諸君」
 古代が礼を言う。もちろん古代は各艦の様子が見えていたわけではないが、何となく気配を感じ取ったのだった。
「敵艦隊、第五惑星軌道を通過!」
 そこへ桜井の報告が入る。古代は艦長席に座った。すると、大村が彼にしては珍しく、古代をからかうような口調で言った。
「艦長にしては長い演説でしたね」
「やっぱり、らしくないですかね」
 古代が苦笑と共に返すと、大村は首を横に振った。
「いえ、皆にも良い気合いが入ったでしょう。さて、これからどのように?」
 敵をどう迎え撃つか、と言う質問だった。古代も笑みを消して真面目な表情になると、真帆に命じてアマール近傍空間と彼我の戦力模式図を正面スクリーンに投影させた。
 第四惑星であるアマールと、敵艦隊がいる第五惑星軌道の間には、小惑星帯やガス雲などの地形障害はなく、小細工なしの正面対決しかなさそうだ。古代が連想したのは、かつての白色彗星帝国戦役において最大の艦隊決戦となった、土星沖海戦。前半戦は地形障害の無い開けた空間で、両軍の決戦兵器の射程が優劣を分けた。
「定石通りなら、波動砲による短期決戦をはかるところだが……」
 古代は呟くように言う。しかし、不気味なのは十字架――敵超大型戦艦の存在だ。あれほどの大型艦なら、波動砲以上の射程を有する決戦兵器を装備していてもおかしくない。
 もし迂闊に波動砲戦を仕掛けて敵に射程で凌駕されたら、こちらの艦隊は夜店の射的の的よりも簡単に殲滅されるだろう。
「よし……各航空戦隊に出撃準備命令。重爆機を用意せよ」
 古代は決断した。この戦況での最適解は、重爆機による敵超大型艦の早期撃沈だろう。脅威は脅威として顕在化する以前に叩き潰すに限る。
 そして、その作戦を実施するための手駒も、彼の元にある。まさか、自分がそれを使う事になるとは思ってもみなかったが、かつてそれを仕掛けられて大苦戦した苦い思い出があるだけに、古代はその効果を熟知していた。
しかし、決戦距離に入る前に、敵艦隊はアマールの公転軌道から十万宇宙キロ以上離れた位置に停止した。
「何だ? なぜ動かないんだ、奴等は」
 上条が苛立ったような声をあげる。古代にもその動きは不可解に思えた。今の距離は交戦距離としては長過ぎる。
 疑問に思ったのは古代だけではなかったようで、南部、北野から通信が入った。
「連中、何の真似でしょうかな。我々に怖じ気づいたわけでもないでしょうに」
「ええ、それは有り得ませんね。数で我が軍を圧倒している以上、恐れる必要はないはず」
 二人の発言に、古代は頷いて言った。
「なら理由は二つだな。誘っているのか、そうでなければ」
 古代の言葉に続いたのは大村だった。
「この距離から攻撃する手段を持っているか、ですな」
 三人の司令官は我が意を得たり、とばかりに頷く。となれば。
「いずれにせよ、打って出る以外の選択肢は我々にはない。守っていれば勝てるという戦いではないしな」
 古代は言った。戦ってSUSを打ち破らない限り、人類は安心してこの星に移住してくることができない。そして、移民船団が無事に地球へ戻ることもできない。地球にはまだ一億以上の同胞がいて、移民船の帰還を待っているのだ。
「全艦隊、交戦距離まで進むぞ」
「了解!」
 古代の決断と共に、地球艦隊はアマールの軌道を離れて進撃を開始する。一見勇壮な光景だが、古代は内心冷や汗をかいていた。もし敵に超長射程の決戦兵器があれば、この瞬間にもそれが火を噴き、地球艦隊を地獄の業火に叩き込むかもしれない。
 ところが、敵艦隊は目立ったアクションを見せず、地球艦隊の突出に合わせるように――いや、それ以上に早く後退していく。
(敵の意図が読めん……)
 古代は表面上平静を保ちながらも、この状況に焦りを感じずにはいられなかった。敵の意図――こちらを誘出殲滅するという作戦なのはまちがいないと看破してはいるが、それにしても敵の動きが露骨すぎる。こんな下手な誘いでは、こちらに考えを読んでくださいと言っているようなものだ。
 敵がそんなに無能なはずがない。そう思わせること自体が、実は敵の罠だったのかもしれない。唐突にそれは起きた。
「艦長、惑星アマール軌道上にワープアウト反応!」
「何だと!?」
 真帆の報告に、古代は驚愕して立ち上がった。即座に解析とメインディスプレイへの表示を命じると、浮かび上がったのは百隻ほどの小艦隊がアマールに殺到しつつある姿だ。戦艦ではないようだが、それでも百隻もの宇宙戦闘艦ならば恐るべき破壊を惑星上にもたらすことができるだろう。
「連中、これを狙っていたのか。アマール側の反応は?」
 古代は聞いた。アマールにも宇宙戦力はある。迎撃に出る動きがあるなら――
「迎撃行動、見られません! 奇襲により混乱しているようです!」
 真帆が報告する。これはまずいな、と古代は思った。第一次船団の時もそうだったが、敵は奇襲攻撃に長けている。技術レベルで劣っているうえに、政府が混乱している今のアマールではこれに対処しきれまい。
「北野、第九護衛艦隊は転進してアマール奇襲艦隊を――」
 古代が命令しかけた時、桜井の緊迫した叫びがそれを遮った。
「敵艦隊、さらに新手出現します! この反応は……エトス軍です!」
「エトスだと? ゴルイ提督か?」
 古代は唸った。敵が増えては、アマール救援まで手を回す余裕はない。ただでさえエトス軍は強敵なのだ。
(戦いたくはなかったが……)
 エトス軍を示すレーダー上の光点を見ながら、古代はゴルイの事を思った。敵とはいえ、彼は尊敬に値する人物だ。こんな出会い方でなければ、互いに酒でも飲む仲になっていたかもしれない。
だが、地球の生存を妨げるというなら、倒すしかない。古代は感傷を振り払って命じた。
「真帆、桜井。敵の動きに注意しろ。これより進撃を再開。敵艦隊と交戦する」
「了解!」
 決断はした。あとは、SUSとエトスを倒すのみ。そして、アマール軍が敵別動隊を防ぎきる事を祈るのみだ。古代は新たな同胞の勝利を願った。


続く
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