翼持つものたちの夢
霜月天馬
第18話 聖なる夜に祝福を 前編
「はい。ビーフステーキセットです」
「おーい。姉ちゃんこっちナマチュウお代わりだ」
「はいはい。ただいま……」
冬休みに入って私は約束どおりにバイト先であるPiaキャロットにて仕事を行なっていた。
さすがにクリスマスの為かお客の数もいつもの倍近くいるような状況で私もさることながら治子さんたちもかなり忙しく働いていた。ようやくひと段落着いた頃
「はあ〜。ようやくひと段落ついたわね。それにしても勇希ちゃんが抜けたのはかなり響くわね」
「まあ、仕方ありませんよ。治子さ、いや店長。彼女も一応受験生ですから。まあ桜花ちゃんがいるし、それにまさかと思ったけれど木瀬さんが入るなんて夢にも思わなかったですよ」
「まあ、木瀬さんは入りたてだけど、直ちゃんに教育係をやらせているけれどなかなか板についていいるわよ」
「そうですか。しかし、教わるより教えるほうが骨が折れるものなんですね」
「直子先輩。一緒に休みませんか」
「そや、休めるうちに休んでおかんと、へばるで」
「確かにそうだね。それじゃあ店長休憩に入ります」
「ええ。直ちゃん、木瀬さんはやすんでらっしゃい。白菊さんはもう少し我慢ね……」
「うー。仕方ありませんね上官命令は絶対ですから直子先輩と一緒になると思ったのに残念です……」
「ごめんね」
「別にいいですよ。店長」
フロアに治子さんと桜花ちゃんが詰めている頃、私達は休憩室で伸びていた。
「直子はん。あんたこの仕事始めたの何時や……」
「ん。たしか夏休み明けてからだから……あ、もうすぐ4ヶ月だね」
「そうか。でも、直子はんあんたは凄いよ。あたしなんてかなりバテバテだよ」
「まあ、じきに慣れるさ。それはそうと歩あんたは進路決まっているの」
「ん。まあね。うちはこの店に就職や。直子あんたはどうなの」
「私か、パイロットを目指して航空学生目指したけど、一次は通過してさあ、二次試験を受ける直前で事故で怪我してパーだね。まあ、来年こそは受かるよ。大学に進学しようにも経済的に無理だしね。まあ、勇希は遺産で何とかなったけれど私は残念ながらね……」
「まあ、それぞれ夢を持つことは良いことやからね」
「そういうことだね。うわさではこのピアキャロット5号店が開店するらしいよ。その店長に治子さんがなるようだね」
「なんで、そんな話を」
「まあ、治子さんから直接ね。それに、治子さんとはこの店に入る前に不良どもに絡まれているところを勇希と一緒に助けたことがきっかけだったね。まあ、その頃はまだPiaで働いていなかったけれどその後この店に入るときの面接でバッタリ再会して、そのまま入店して、それ以来この店でウェイトレスのイロハを教わったね。まあ、勇希は経験あったからそれほどでもなかったけれど、私はハードワーク系の仕事がメインだったから本当にお世話になったよ。だからひょっとしたら歩も5号店に配属されるかもね」
「そうか。本当に”情けは人の為ならず”とはよう言ったもんやな」
「そうね。さて、少し腹に何か入れておかないと持たないよ」
「そうやな」
それっきり私達は会話をやめて厨房から持ってきた飲料を飲んで体を休めていた。そして休憩時間が終わり、フロアに上がると入れ代わりに治子さんと桜花が休憩室に入っていった。
「さて、しばらく私達で何とかやるで」
「わかった。深山はんご指導よろしゅう」
そんなことをいいながら私はフロアのテーブルの片付け等を行ないながら、接客も行なっていた。
そして時間交代の時間が来て引き上げようとしたところで、治子さんに引き止められ、事務所に連れ込まれた。
「直ちゃん一寸いい」
「ん。なんですか店長。まさか解雇ですか……」
「ちがうちがう。貴方を解雇しないわよ。貴方のこれからのことよ。貴方卒業後どうするの」
「そうですね。どこか住み込みで働く場所を探すだけですね。まあ、女性ですから贅沢言わなきゃ何とでもなりますし、それに夢は捨てていないので」
「その、良い話があるんだけれど。少なくても貴方にとっては悪い話ではないわ。直ちゃん。貴方を5号店のオープニングスタッフに雇いたい。もちろん住む所も完備しているわ」
「そ、その。店長、急に言われてもなんて答えればいいのか……」
「もちろん、今すぐとは言わないわ。私はただ貴方の夢をかなえるための手伝いをしたいだけ」
「そうですか。その、店長何時までに結論を出せばいいのですか」
「そうね。1月末までに出してくれれば結構よ」
「そうですか。それまでには結論を出しておきます。まあ、殆ど決めているのですがまだ踏ん切りがつかない状況でして……」
「まあ、別に良いわよ。それじゃあまた明日」
「また明日です店長」
そんなこんなで私は治子さんに挨拶をして控え室へと消えていった。控え室では。
「やあ。直子。今晩どうや」
「今晩は遠慮させてもらうよ……歩」
「そうやったな。あんたには恋人がいたもんな。まあ、せいぜいラブラブしなはれや……」
「木瀬先輩。あたしでよければ付き合いますよ」
「ああ、桜花ちゃんあんただけやな……。こうなったらとことんカラオケで歌いまくるで〜」
「はい木瀬先輩……」
「何時の間に意気投合したの……」
「それは直子先輩にも教えられません……」
「そや。乙女の秘密や」
そんな二人の様子を見た私は身の危険を感じて撤退することにした。
そして店の出口を出るとすぐさま彼が待っていた。
「いよ。直子……」
「あ、雄蔵。良いの受験生がこんな場所で油売っていて。それに寒かったでしょ」
「まあ、そういうな。どうだ飯でも食べないか俺がおごるぞ」
「それも良いけれどなんならうちに来る。どうせ勇希と疾風は居ないから……」
「それって……マジか」
「マジよ。もう女の子に恥をかかせる気」
「判った。俺も男だ。その話受けるぞ」
「ん。それなら一寸買出しに行こうか。私が腕ふるってあんたに上手い飯食わせてあげるよ」
「じゃあ。行くか」
「ええ」
そんなこんなで私達二人は仲良く手をつないで照明が灯った商店街へと消えていった。
(続く)
管理人のコメント
前回無事に期末試験を切り抜け、補習授業を回避した直子たち。と言う事で、今回は冬休みの話です。
>直ちゃん。貴方を5号店のオープニングスタッフに雇いたい。
この世界では、治子が五号店の店長になったようです。まぁ、自爆少女本編でも(以下略)
>そんな二人の様子を見た私は身の危険を感じて撤退することにした。
まぁ、ひがみ攻撃を食らう事を考えれば、賢明な判断ですね(笑)。
>「マジよ。もう女の子に恥をかかせる気」
>「判った。俺も男だ。その話受けるぞ」
おっとー、前回は越えなかった最後の一線をついに越えてしまうのかっ!?
え? 最後の一線って何かって? それを具体的に語ったら色々拙いでしょうがっ!!(爆)
さて、二人にとっての聖夜はどう展開するのでしょうか。
戻る