翼持つものたちの夢
霜月天馬
第19話 聖なる夜に祝福を 後編
「なあ、直子。商店街に来たが、これから一体何をするんだ」
「ん、まあ、なにはともあれ晩御飯の材料を調達しに来たわけなんだけれど勇蔵、あんたが今、食べたい物ってなにかある、可能な限りリクエストに答えてあげるよ。まあ、あんまりむちゃなものは勘弁だけどね」
わたしがそういうと、彼は少し考えた様子を見せた後に答えていた。
「そうだな。肉料理が食いたいな。その、掛かった材料費は俺が出しておく」
「そんな、気遣いは無用だよ」
「いや、俺。結構食うのでな。それくらいは出させてくれ」
「判った。そうまで言うならいいわよ。ところでお肉の種類は何がいい。牛さん、豚さん、それとも鳥」
「すまん。ちょっと献立がイメージできん。直子。その辺は君に任せる」
そういって彼は両手をあげていわゆるお手上げのポーズをしていた。それをみた私はうなずいて一言言った。
「そう、それじゃあ私の好きにやらせてもらうよ。まあ、あまりお金をかけないでそれなりの献立を作ってあげるから、心配しないで大船にのったきぶんでいなさいよ」
「そうか。それじゃあ期待するぞ。直子よ」
「まかせなさい」
私は八百屋でニンジンや玉ネギなどの不足している野菜を購入した後に、肉屋で豚バラ肉300グラムと鳥肉1キロとラードを買って家路へと向かった。
「これで、食材はそろったと、ねえ。勇蔵。誘われて言うのも何なんだけれど、遅くなっても大丈夫なの」
「直子、それについては心配ない。妹にはそれとなく言ってあるし、それに親達も俺のことなんて興味ないからな。まあ、妹の口止め料として年末東京のベイエリアで開催されるとあるイベントに行くことで話はつけた」
「そう、話がついているのね。あれ、そこにいるのって……」
わたしは商店街に立っているツインテールの少女に視線をむけると、勇蔵は慌てていた。
「い、郁美。どうした。まさか、」
「あ、お兄ちゃん。もしかしてデート。ところで、お兄ちゃんの隣に居る女の人は誰よ……」
私はその少女の問いに少々カチンときたが、ガキの言うこととおもい自己紹介をしていた。
「深山直子よ。私が名乗った以上あなたも名乗るのが筋じゃあないかしらね」
私は笑顔で、しかし目は笑っていない表情で言った。すると彼女はおびえたような様子で自己紹介をしていた。
「た、立川郁美です」
「そう、郁美ちゃんね。デートの邪魔をするつもりかしら……」
「ち、ちがいます。ただ、お兄ちゃんがそれなりに気合を入れて出かけたからどんなことなのか興味があっただけです。私、まだ死にたくはないですから。それじゃあおにいちゃん父さん達には友達とドンちゃん騒ぎしているっていっておくからごゆっくり……」
「おうよ。わかった。すまんな。郁美の条件は確実にやるから安心しろ。それと体が丈夫じゃあないんだから無理せずにゆっくりと帰るんだぞ」
「それじゃあ、おにいちゃん。直子さんお達者で……」
そういうと彼女は転げるように去っていった。
わたしはにやりと笑って彼を見つめてこう言った。
「あの時に言った妹って彼女ことね。なかなかいい子じゃあない。それにしても勇蔵もなかなかのシスコンぶりじゃあない」
「まあな。あいつ生まれつき心臓が良くなくてな。それに何やかんや言っても妹のことが心配なわけだ。兄貴としてはな。まあ、あいつにもいずれ彼氏ができるだろうな。そうなったら俺は笑って祝福してやるだけだ。それまではあいつのことを護ってやらねばな……」
「そうか。兄妹がいるっていいものだね。私には姉妹はおろか両親も居ない天涯孤独の身だよ。まあ、勇希がいるがそれも従姉妹の関係だからね……。だから勇蔵。私が言うのもなんだけれど妹さんを大事にしてあげなよ」
「直子……。俺は妹も大事だが、直子。君に関してはそれ以上の大事な人だそれを護るためにはこの身を犠牲にしても……」
「ありがとう。でも、私は自分の身は自分で護ることができるから、それじゃあ男が廃るというなら私の背中を護ってくれたらそれでいいから。」
「ああ、いずれお前に純白のドレスを着せてやるぜ」
「その言葉信じていいんだね」
「ああ。俺は約束は必ず護る男だからな」
私は組んでいた腕をより強く組みなおしていた。
「それじゃあ行こうか……」
「そうだな……」
そんなこんなで私と勇蔵は腕を組んで家路へとあるいていた。
一方、それを見ていた桜花たちは……
「直子先輩と隣にいるのが彼氏なんだ……。うらやましいです……」
「桜花ちゃん。ちょっかい出すなら止めとき。へたしたら怪我じゃあすまないよあの二人のカップルの場合」
「確かに、そうですね。直子先輩が喧嘩の達人ということはわかっていますからそれにしても隣のいる人はだれなんでしょうね。木瀬先輩わかりますか」
「まあ、判らんでもないが、それにしてもあの二人がねえ……。あいつらの馴れ初めを知っているし、それに人の恋路を邪魔するものはなんとやらやで……。ウチらあぶれ者はカラオケボックスでドンちゃん騒ぐで〜」
「そうですね。父さん達は家業の忘年会で龍神村へ温泉旅行に出かけてしまったし、家に帰ってもお兄ちゃんの邪魔になるだけだし騒ぎましょ。木瀬先輩」
「そうやな。後2時間もしたら治子店長も来るやろうしそれまでに腹ごしらえしておくか……」
「そうですね……」
そんなこんなで、桜花と歩の二人は商店街へと消えていった。
そんなやり取りがあったことなどその時の私達は知らなかったのであった。
それから1時間後……
「ほい。勇蔵出来たよ」
「おお、うまそうだな。直子ばかりにやらせて悪いな。それじゃあ頂くぜ」
そういって私は、鳥のから揚げに、野菜スープとサラダの盛り合わせを作っていた。もちろん味は保証済みなり。
「ええ、おあがりなさい」
そういって私たちは一寸遅めの晩御飯を食していた。まあ、二人とも腹が減っていたので黙々と食べていた。
そして一時間後……
「ふう、うまかったぜ。ごちそうさん直子」
「お粗末さま。しっかし、きれいさっぱり食べきったね。やっぱり勇蔵の言っていたのは本当だったよ」
「まあな。でも、それを言うなら直子。君も結構健啖じゃあないか」
「そう、それじゃあ私は片づけをするから勇蔵あんたは居間でのんびりしていなさいよ」
「いや、折角、ゴチになったんだ。片づけくらいは俺がやるよ」
「いや〜。材料費負担してもらったし、それに、皿を壊されたらたまらんのでやらなくてもいいよ」
「直子、もしかして俺の腕を信用していないな。俺、こう見えても食い物屋で皿洗いのバイトやっていたことがあるんだぜ。それも完全手動の店でな」
それを聞いた私は任せてみることにした。
「そう、それじゃあお願いしようかね。えーと洗剤とスポンジは流しにあるから。それじゃあ任せるよ勇蔵」
「ああ、判ったやっておく」
そんなこんなで勇蔵の仕事振りを見てみて大丈夫と判断した私は自室へと消えた。そう、これからの一戦に備えてだ。
「治子さん……この下着使わせてもらうよ」
私は例の勝負下着と着替え一式を持って風呂場に向かった。
『ジャアアアアア』
シャワーの水流が心地よく感じていた。
そしてシャワーから出た私は、例の勝負下着を身にまとい、そしてその上にシャツを羽織っていた。
「勇蔵、洗い終わったら、あんたもシャワー浴びなさいよ。それが終わったら私の部屋にきて。その、私の部屋は二階の奥だから……」
私は台所の吹き掃除をしていた勇蔵に言っていた。無論、勇蔵は肯いていた。
「判った。風呂場はどこだ」
「ああ、台所から斜め向かいだよ」
「そうか。それじゃあ待っていてくれよ」
「ええ。待っているよ」
そんなやり取りを行った後、私は自分の部屋で彼を待っていた。
「愛しい人にこの身を捧げるか……。勇希もこんな気分だったんだろうな……」
永遠とも思えるような10分が過ぎて部屋をノックする音で私は我に帰った。
「空いているよ」
「おうよ。直子……俺は……」
「言わなくてもいいよ。私はあの時の告白の答えを言っていなかったね。これが答えよ……」
そういうや否や私は彼に対して濃厚なキスをしていた。まあ、いわゆるディープキスというやつだ。
「プハ。直子……今度こそ君のすべてを……」
「ん。判っている。今日は大丈夫よ……」
そういって私達二人の影は一つになった。
まあ、ここから先は空に浮かんでいる月だけが知っているということで……。
(続く)
おまけ
疾風、勇希達は……
「直子たちも今頃ラブラブな一夜をすごしているんだろうね。まあ、あたし達の仲をともりもってくれた
お礼のつもりで今日は家を空けておいたもんね」
「そうだよな。そういう点では直子と治子さんには感謝しないとだめだよな。まあ、直子たちもうまくいくといいな」
「そうね。ところで、疾風。もう一回しよ……」
「好きだな。勇希も……」
「ん……」
相変わらずのラブラブカップルであった。
治子、歩、桜花の3人は……
「どうせ、明日はあんた達も休みなんでしょ。飲むわよ……」
「そうですね。上官の命令とあらばあたしも飲むであります」
「しっかし、男どもも見る目がないなあ。プリティなあたしたちをほっとくなんてさ……。こうなりゃ自棄や〜」
「いよっ。歩ちゃん良い飲みっぷり」
「木瀬先輩はすごいです。桜花も負けていられないです」
「すごいすごい。本当なら直ちゃんも入れたかったけれどね……。まあ、そんなことは忘れて憂さを晴らすだけよ」
「それにしても、治子ちゃんも成長したわね。お姉さんはうれしいぞ……」
「葵さん……」
まあ、治子さんと合流した二人はカラオケで騒いだ後、治子さんが暮らしている寮の一室で飲むことになったが、そこでマネージャーの葵さんに捕まってなし崩し的に宴会となったのであった。まあ、翌日彼女達は酷い二日酔いになるが、それは余談である。
管理人のコメント
クリスマスの夜、いよいよ家で共に過ごそうかと言う直子と雄蔵ですが、さてどうなりますやら。
>肉屋で豚バラ肉300グラムと鳥肉1キロとラードを買って家路へと向かった。
……多くないか? と思いましたが、まぁこの二人ならそれくらい食べるか。
>私、まだ死にたくはないですから。
直子よ、恋人の妹脅したらいかんだろ(笑)。
>ここから先は空に浮かんでいる月だけが知っているということで
その辺突っ込むのは野暮と言うもんです。
>翌日彼女達は酷い二日酔いになるが、それは余談である。
なかなか悲しいクリスマスですなー(笑)。
と言う事で、無事儀式を済ませたらしい(殴)二人。直子は卒業したらこの土地を離れるなんていってましたが、案外雄蔵付いてきたりして。
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