翼持つものたちの夢
霜月天馬
第八話 夜明け〜そしてその後〜
「だから、ここにXを代入すればいいんだよ。しっかし、勇希は数学関係が弱いな。他はそれなりに結構優秀なんだけどね」
「そんなことないよ。あたしは直子の方が凄いと思うね。だって、二年のときは赤点すれすれだったのが、いまじゃあ学年でもトップ10以内に食いこむ位の成績まであがるなんて凄いよ」
「そうだな。確かに直子の潜在能力は俺も驚いたぜ」
「まあ、目標というか、進むべき道が見つかったからそれに向かって努力した結果そうなっただけだよ。べつに、成績を上げようと思って努力したわけじゃあない。それよりか、勉強しないと後で泣く羽目になるよ。それに、疾風と一緒にいたいならば勇希もしっかり勉強しないとね」
私達は、停学中の遅れを取り戻すべく三人で勉強をしていた。何故そうなったのかと言うと、勇希が疾風と少しでも長く一緒にいたい為に私に言い出してきた事がキッカケであるが、まあ理由はともあれ勉強するのは良いことであるからやることにした。ここで時系列を朝にまでさかのぼることにする。
「ただいま・・・。って二人ともまだ寝ているな。あ〜あ〜散らかしちゃってまあ」
私はそう言いつつ二人が散らかしたものを無言で片付け、ついでに二人の為に朝飯の支度を行なう事にした。そして、三人分の食事が出来あがる頃に勇希が半分寝ぼけた状態で台所にやってきた。
「おふぁよう。直子・・・もしかして朝ご飯作ってくれたのありがとう・・・」
「ああ、別に構わないさ・・・しっかし勇希。あんた風呂入った方が良いよ。少しにおうわよ」
私は勇希に対して率直なことを述べていた。
「まあね。確かにアレだけ濃厚な事をしていれば匂っても仕方ないか。そう、それじゃあ直子。もし疾風が来たらあたしは風呂に入っているって言ってね」
「ん。わかった。それじゃあ、もうすぐご飯だからなるべく早くお願いね」
勇希が去ったのと同じに疾風の奴が台所にやってきた。
「よう、直子。夕べは気を利かせてくれてありがとな。おかげで濃厚な一晩を過ごすことが出来たことに感謝するぜ。この礼は何時かきっとするぜ。ところで、勇希は何処だ」
「ん。勇希なら、風呂に入ったよ」
私がそう言うと疾風は脱兎の如く風呂場に駈けていった。その様子を見ていた私は、こりゃ朝飯が遅くなりそうだなとおもっていた。その様子を見ていながら私は一人で空腹を満たすべく食事を開始していた。勇希達が戻ってきたのが疾風が風呂場に消えてから小一時間ほど後になって、戻ってきた。
その様子をみていた私は何も言う気力も無くなっていた。
そしてそれから30分程経った頃私は勉強をしていると勇希達も一緒にやりたいと言い出してきたので私達はそれから一緒に勉強をすることにした。
「あれ、もうこんな時間だよ。疾風に直子、あんた達お腹空いていない」
勇希が私達に話し掛けて来たので、わたしは不意に時計を見て急に腹の虫が鳴り出していた。
「えーと。うわっ確か始めたのが10時前で、今は15時を一寸回った所か、どうりでお腹も空く訳だ。それじゃあ、私が適当に何か作るから勇希は疾風と一緒にいると良いよ」
「直子。悪いね直子にばかり押し付けてさ。今朝からずっと直子の世話になりっぱなしだからなんか悪いね」
勇希が言ってきたのを聞いて私は多少複雑な表情で言っていた。
「まあ、別に良いよ。それに、もうすぐ停学期間も終わるから、そうなったらこんな風にいちゃいちゃ出来ないからさ。今のうちにしっかりと。ってもう、ラブラブになっちゃっているよ」
二人の惚気に当てられた私はすっかり毒気を抜かれた状態で昼飯の支度をしていた。まあ、其処で普段ならばなんとも無いような凡ミスをしてしまったが、それでも短時間である程度の食事を二人に提供することが出来たのでまあよしとしよう。
「できたよ。皿を並べて」
私が台所から声を上げると二人が殆ど同じに返事が返ってきた。
「わかった。直子晩御飯は私がやるからね」
「すまないな。それじゃあありがたく頂くぜ」
そんなこんなで、私達は黙々と食事をしていた。それから、私達は食休みに居間でくつろいでいた時に玄関から呼び鈴が鳴り響いた。
「はいはい。どちらさんで・・・」
「あ、先輩。私です。桜花です。お兄ちゃんがここにいるんじゃあないかと思ってきました」
「ああ、ありがとう。それじゃあ上がって」
「はい。おじゃましますね。直子先輩」
私は桜花を家の中に招き入れて居間に案内した。そこで桜花は声を上げていた。
「お兄ちゃん。やっぱり父さんが言っていたことは本当だったのね」
「あ、桜花。親父が何か言っていたのか」と疾風。
「うん。”勇希先輩と一緒にいるだろうから止めはしないが、避妊をしっかりしてやれよ。と、万が一の時には男らしく責任をとってやれって”って言っていた」
「そうか。それじゃあ今夜は親父ととことん話し合うしかないな」
「その方が良いよ。お兄ちゃん」
私は二人の風景をみてすこし涙ぐんでいた。私達にとっては既に心配してくれるような両親もいない事を改めて感じた。そして、ふと時計を見てみるとタイムリミットに近かったので私は二人に言った。
「勇希、桜花ちゃん。そろそろバイトに行かないと遅刻する時間だよ」
私がそう言うと勇希と桜花ちゃんはそれぞれ違った対応をしていた。
「そう、それじゃあ疾風名残惜しいけれどじゃあね」
「え、もう早いね。お兄ちゃん今日は護衛要らないから。お父さんとしっかり話し合ってね」
「おう、判った」
そんなこんなで私達と疾風は家の前で別れてそれぞれのところへと向かっていった。
「うーん。なんか股の間に挟まっているような感覚だよ。まあ、これが幸せの印なんだろうね・・・」
勇希の台詞にいち早く察した私達は内心、羨ましく思ったりもしていた。
「あーあ。勇希先輩はお兄ちゃんと付き合うようになるし、橘花ちゃん達も恋人付き合うようになって急に付き合いが悪くなるなんて。こうなったら私も恋人をゲットするしかないね。そして、お兄ちゃんや勇希先輩たちに見せ付けてやるんだ・・・」
「桜花ちゃん・・・ってまあ、それは人それぞれなんだから別に良いけれどね。私は夢に向かって進む事で手一杯だから、今は恋人なんて考える余裕も無いわね。それよりか明日の飯のことを考えるのが先決だよ。今年は事故で二次試験を受けれなかったらけれど、来年こそは航空学生に受かってやるよ」
「え、直子先輩もしかして今年の航空学生の一次試験を受かったのですか。どうでした実は私も受けようと思っているので参考までに教えて欲しいです」
「え、桜花ちゃんもパイロットを目指しているの。なら、数学と物理と英語の勉強と身体を鍛えないと駄目だね。あと、視力を鍛えないとね」
私がそう言うと桜花は感動した表情で答えていた。
「直子先輩・・・。アドバイスどうもありがとうございました。そうだね。零戦に乗った人も天山に乗った人も彗星に乗った人も始めは九三中練で訓練したようにやれるだけのことを努力しますよ。それじゃあ直子先輩競争ですよ・・・」
そう言って桜花は脱兎の如く駆け出していた。
「ちょ、ちょっとまてい。飛び出すと危ないぞ・・・」
私は苦笑しながら、桜花の後を駆け出していた。
そんなこんなで私達三人はバイトに入り、いつものようにコンスタントに仕事をこなしていった。
そして休憩時間に入った私と勇希が休憩室でくつろいでいると、治子さんが休憩に入ってきていた。
「あ、治子さん。昨日は直子がお世話になって本当にありがとうございました。本当ならあたしがいろいろとしなきゃ行けなかったけれど。あたし・・・」
勇希が半分以上赤面しながら治子さんに礼を言っていた。それを聞いた治子さんは笑って答えていた。
「ん。別に良いのよ。それに直子ちゃんは勇希ちゃんたちのことを思って敢えて帰らなかったのよ。もしそのことで引け目を感じるなら、疾風君と幸せにすごすことが報いる方法よ」
治子さんと勇希のやり取りを聞きながら、私はそっと休憩室を出ていった。まあ、下手にいてはいけないと感じたからである。そんなこんなで休憩を終えた私達は一気に閉店までとんとん拍子に仕事が進んでいった。
「「あ、お疲れさんです」」
「はいお疲れさん。勇希ちゃん疾風君としっかりやりなさいよ・・・」
「え、ええ。そうさせてもらうわ治子さん。それじゃあおやすみなさい」
二人の様子を見ていた私は多少気になって勇希に質問していた。
「ねえ。勇希。休憩時間中治子さんと話をしていたみたいだけれど、一体何を話していたの」
「ん。夕べのお礼とそれからちょっとね。それにしても直子ありがとう。私絶対に疾風と幸せになるから応援していてね」
私は勇希の言葉を聞いて少々呆然としたが、勇希の吹っ切れた笑顔をみて私は空を仰ぎ見ていた。
『叔父さん、叔母さん。勇希の奴に恋人が出来たよ。どうなるか判らないけれどなにとぞ見守っていてほしい』
私はそんな事を思いながら勇希の後を歩いていた。
休学期間終了を二日後に迎えたとある一日の出来事である・・・。
続く
後書き
ども、霜月天馬です。えーと休学期間の物語はこれでおしまいです。次回からは学園生活の中で1,2を争うイベントが舞台です・・・それじゃあ次の話をおたのしみに・・・
管理人のコメント
治子の家から帰って来た直子。家を占領したバカップルはさて……
>確かにアレだけ濃厚な事をしていれば匂っても仕方ないか。
……いや、もう何も言いますまい。
>その様子をみていた私は何も言う気力も無くなっていた。
( ・∀・)人(・∀・ )ナカーマ
>万が一の時には男らしく責任をとってやれ
何と言うか、理解のある父親で……
>今は恋人なんて考える余裕も無いわね
それ以前に、直子の恋人って男女どっちなんでしょうかね(殴)。
>零戦に乗った人も天山に乗った人も彗星に乗った人も始めは九三中練で訓練したように
随分マニアックな知識を持つ娘さんです。
波乱の停学期間も終わりに近づき、次回は大イベント。また一騒動ありそうです。
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