翼持つものたちの夢

霜月天馬

第七話 ワクワクお泊まり


「お邪魔しまーす」
「いらっしゃい」
 治子さんが住む寮の一室に案内された私は部屋を一通りみていた。部屋はどうやら1DKでそこそこひろかった。そして、部屋の中も比較的綺麗であった。
「あの、荷物は何処に置けば良いのかな」
「ああ、其処のベットの傍に置いておけば良いよ」
「判りました。それじゃあここに荷物を下ろしておきますから。治子さんは着替えるならばどうぞかまいませんよ」
「そう、それじゃあ一寸失礼するわね」
 私は、荷物を比較的綺麗な場所に下ろし、しばらく待つことにした。そして待つこと5分。
「おまたせ。それじゃあ、家にある食材で出来るのか否か見てくれないかな」
「あ、用意できましたか。それじゃあ一寸失礼します」
 私はそういって台所に行き、冷蔵庫を覗いて見てみて、何とかなると判断した私は思わずにやりと口元を動かしていた。
「どう、大丈夫?なにか足りないものとかあるかな」
 治子さんの問いかけに、私は指を立てて答えていた。
「ええ大丈夫。これだけあればなんとかいけます。えーと、治子さん。エプロンか割烹着あります。ないなら別に構いませんが」
 私は台所で手を洗浄しながら治子さんに問い掛けていた。
 その答えとして一着のエプロンが私の元に投げられていた。
「おっと。これが回答と言うわけですな。えーと治子さんのエプロン姿もなかなか良いですね」
「そんな事よりさっさと着替えて。それから、この前の約束を今お願いしても良いかな」
「わかりました。それでは一応、今日の献立は豚コマがあったからそれをメインにいくつか作るとしますか。えーと、とりあえず。治子さん玉ねぎと人参の皮をむいて一口大の大きさに切ってください」
「判ったわ」
 私は治子さんが人参と格闘する姿を少し見ていた。私から見てもその姿は結構様になっていた。
「出来たよ。次は何をすれば良いのかな」
「あ、もう出来た。それじゃあ、キャベツはざく切りにお願いしますね。私は今のうちにご飯を炊いて、お肉の下拵えをしておきますよ」
 そう言うと私達はそれぞれの行動に移った。私は治子さんがものすごく手早く野菜類の下拵えを行なっている姿にある種の感動を覚えていた。
「いやはや、治子さん。貴方の腕前を見てみるとかなり凄いですね。ほら、この玉ねぎや人参の大きさが全部そろっているよ。これなら私が教えることって殆ど無いわね」
 私はそう言いながら切った野菜をいくつか取り上げて見ていた。
 其処には寸分たがわない切片がいくつもあった。
「まあ、下拵えに関しては、私も仕事の関係上いろいろやらされたからなれているだけなんだけれど、問題はその後の調理のやり方がよく判らないので、其処を教えて欲しいわけ」
 治子さんの言葉を聞いた私は、すぐに納得していた。
「そういうことですか。それなら、私なりの方法で良ければ教えますよ。えーと下拵えはあらかた終わったから、いよいよ調理に入る訳ですが、その前にいくつか下準備をやって置かないとね」
 私はそう言うと、其処にあった中華鍋と片手鍋の二つを取り出して片手鍋の方に水を張り、片方の中華鍋に薄く油を引いた後、鍋を火に掛けた。
「あれ、水を張った鍋を火に掛けるのは判るけれど、中華鍋を火に掛けたのは何故かしら」
「ああ、それは炒め物をする場合出来るだけ短くしないと美味しく出来ないので、その為に予め暖めておく訳です。おっと、もう、中華鍋の方は十分温まりましたな。お湯も十分沸いたから、治子さん、其処の玉ねぎと人参の切ったのを三分の一だけいれてください」
 私は治子さんの質問に答えつつ、中華鍋の火を消し、水を張った鍋に出汁の元をいれて治子さんに指示をしていた。
「判ったよ。一寸どいて」
 私は治子さんの質問に答え、そしてすぐさま治子さんに場所を譲り、私はこう言った。
「それじゃあ、二人が同じ場所にいると邪魔になりますから私は野菜の方の下準備をしておきますよ。治子さんお肉を入れて、塩胡椒を少し振ってある程度炒めてください」
「ん。判った」
 治子さんはそう言うとテキパキと動いていた。私も治子さんい負けまいと切った野菜をざるに載せその上から熱湯をかけて下準備をしていた。
 そして治子さんが振っていた鍋の肉のころあいを見計らい私は湯どうしした野菜を中華鍋の中に入れた。
「治子さん。あとは塩としょうゆで味を整えれば大丈夫ですな。其処の味付けは任せますよ。
 私はお味噌汁の方をやりますので」
「判ったわ。確かに任されたから」
 私は、治子さんの言葉を聞いて少々安心して味噌汁の味を整える作業に入っていた。
 そして5分後私達の作業が終わり、それぞれの料理の品がテーブルに並べられていた。
「うーん。良いにおいね。このにおいを嗅ぐと食欲が増すね。早い所食べよう食べよう」
「そうですね。治子さんの味付けの料理がどれほどのものか味わってみたいですから」
 そんなこんなで、私達二人はそれぞれの調理の結果を自らの舌で味わうことになった。
「「いただきます」」
 私は、治子さんが味付けした、炒め物を食べてみることにした。そして私は一言だけ言った。
「お」
「お?」
「おいし〜い。美味しいよ。もし、美味しくなかったら私は正直に言うよ」
「そう、それを聞いて安心したよ。それじゃあ私も頂くとしますか」
 治子さんもまた、食事に手を付けていた。そして二人は余りの美味しさに会話も忘れ、黙々と食事をしていた。
「ふー。美味しかったよ。それにしても治子さんの味付けも結構いけますね」
「そう言ってくれると私も必死になってやった甲斐があったわね。所で直子ちゃん。貴方、私が鍋を振っていたときに野菜をざるに入れて、熱湯を注いでいたけれど、あれにはどんな意味があったのかしら」
「ん。『湯どうし』のことですか、中華料理の技法で本来は熱した油を掛けるのですが、さすがにそれは無理がありますので熱湯を使ったんですがね。それをしないで炒めると野菜から水が出てベチャベチャした感じになりますので。まあ、私も勇希から教わったけれどね」
 食事が終わり、私は食卓でくつろいでいるところに治子さんからの質問がきたので答えていた。
 それを聞いた治子さんは多いに驚いたような表情をしていた。
「そうなんだ。直子ちゃんじゃあなく、勇希ちゃんに教わった方が良かったかしら」
 治子さんのその台詞を聞いた私は、苦笑して答えていた。
「あ、それは一寸止めた方がいいですね。勇希は人に教えるの下手ですから。それに治子さんの手順も私達と遜色はないですよ」
「それ本当」
「治子さんに嘘言っても仕方ないから本当ですよ。もっとも私の視点ですから、第三者から見たらどうなのか判りませんがね」
 私はそう答えて食べ終わった食器を流しに持っていき、後片付けを始めた。そして、一通り終わり治子さんが座っていた居間に戻ってみると治子さんがウィスキーのボトルとグラスを二つ持っていた。
「あ、直子ちゃん。あなたお酒は大丈夫な方、それともダメな方かしら」
「一応、大丈夫です。折角の治子さんからの誘いだから、断る理由も無いですから良いですよ」
「そう、それじゃあ。やろう、やろう」
「そうですね。それじゃあ頂きます」
 そんなこんなで、私達は互いのグラスに琥珀色の液体を注ぎ、乾杯を上げていた。そして、ウィスキーの中身が空になろうとしている頃、治子さんが私に問い掛けてきた。
「どうしたのさ、まるでこの世の終わりみたいにしんみりとしちゃってさ、折角の宴なんだからもっと楽しく飲まなきゃね」
「ああ、一寸考え事をしていましたのでね・・・」
「そう、私で良かったら相談に乗るわよ。答えを出せるかどうか判らないけど、ひとりでかかえるよりかマシだと思うね」
「確かにそうですね。実は・・・」
 私は来年には今まで住んでいた家が無くなることや、その他いろいろな悩みを話してた。
 そして、それを聞いていた治子さんもしんみりとした表情になっていた。
「確かにそれは私ではどうしようもないわね」
「そうですよね。でも、勇希以外に相談できて良かったよ。それに、家は無理でしたが、父の夢でありそして私達の夢である機体だけはなんとか守れたから、それだけでも良しとしないと・・・」
 私はそう言って再びグラスを傾けていた。
「もしかして、それって夕方、零一さん話をしていた一件と関係が有るわけ」
 治子さんの質問に私はほろ酔いの頭で答えていた。
「当りです。内容は九三中練のレストアとULPの保管を頼んだ訳です。私こう見えてもULP以外にもフォークリフト、クレーン、ブルドーザーと言った建設機械の操作もお手のものでしたので結構重宝がられていましたね」
「ねえ。もしかしてその手の免許を持っているの」
「一応、免許は持っていますよ。まあ、大型特殊を持っていたので講習がものすごく楽でしたね。もっとも、10の時から叔父さんの農場の手伝いでトラクターやらフォークリフトの操縦をやらされていましたから、楽でしたね。親族とはいえ、実の子供ではなかったので結構こき使われていましたから」
「直子ちゃんの夢のためならがむしゃらに突き進むその姿勢は私も見習いたいものね」
「そうですか。治子さんには治子さんの夢があり、私は私の夢があって、そして今、二人が交差している道も何時か分岐して別々の道になる。だから今この一瞬が大事なわけだね。ってどうも、酔っ払っているみたいだね」
 私は酔いも有ったのかいつもよりか饒舌に語っていた。それを聞いていた治子さんもまた感動していた。
「確かにそうね。まあ、私も貴方の心意気に惚れたね。男が他の男の為に命を張ってかばうのがその男気に惚れた時ならば、女が他の女の為に命を張ってかばうのも同じなのかもね。私も以前の襲撃事件で
 貴方に助太刀したのはその為よ。まあ結局は勇希ちゃんたちに助けられちゃったけれどね。でも、私は貴方の女気に惚れたよ・・・」
 治子さんの言葉を聞いた私は呆然としていた。
「それは光栄ですね。私も治子さんの仕事の時の姿を見て惚れ惚れしましたよ。少なくても治子さんの足を引っ張らないようにと思っていましたね」
「そう、ってもうこんな時間だ。私も直子ちゃんも明日は遅番だけどそろそろお開きにしないと明日に差し障るからこの辺でお開きにしよう」
「そうですね」
 そういって私達は転がっていた空き瓶を片付けていた。そしてその作業が終わると、私達は明日に備えて寝ることになり、寝室に案内されていた。
「直子ちゃんこれ寝巻きね」
 治子さんから渡された寝巻きをみて私は絶句していた。それはなんともーもーパジャマであった。まあ折角の治子さんの好意を無にするのもなんなので、私はそれに袖を通すことにした。
「意外と似合うわね。私には一寸無理っぽかったけれど直子ちゃんにぴったりとはね」
「そう言う、治子さんも猫パジャマが似合うよ」
 お互い寝巻き姿に着替え終わった私達の姿をみてお互いに誉めていた。そして、私は床に敷かれている毛布に包まっていた。一方、治子さんはベットに潜り込んでいた。
「確かにね。明日も早いからそろそろ寝ようか。それじゃあ電気消すよ」
「あ、おやすみなさい」
「おやすみ・・・」
 そんなわけで私達はいざ夢の世界へと旅立つことになった。

 同時刻、勇希達は・・・
「直子ったら、気を効かせて家を空けるなんてね。なんかとんでもない借りを作ったみたいね」
「確かにそうだな。折角、直子が気を利かせてくれたんだ。有効に遣わせてもらうとするか」
「そうね。疾風・・・・」
「おいおい、勇希。今回はやけに積極的だな。そう来るなら勇希。今夜は寝かせないぜ」
「良いわよ。好きなだけ私を愛して。私も疾風のことを愛しているから・・・」
 その後、この二人は本当に夜明けまでやっていた・・・。


                                            続く


あとがき

 飛行日編これで完結です。直子と治子さんの入浴シーンもいれてみようかなとも、思ったのですが
 X指定になりかねない可能性が有ったので、展開を変えてみました。それでは第八話をお楽しみ・・・


管理人のコメント

 買い物も終わり、いよいよ治子の家に泊まる事になった直子。さて、二人の一夜は…と言うと何か語弊があるなぁ。

>「おっと。これが回答と言うわけですな。えーと治子さんのエプロン姿もなかなか良いですね」

 そういえばエプロン姿は出した事なかったなぁ。

 
  >「あ、直子ちゃん。あなたお酒は大丈夫な方、それともダメな方かしら」
>「そう、それじゃあ。やろう、やろう」

 うわあ、誘い方と煽り方が酒飲みだ(笑)。
 
 
>私こう見えてもULP以外にもフォークリフト、クレーン、ブルドーザーと言った建設機械の操作もお手のものでしたので

 便利な…
 
 
>それはなんともーもーパジャマであった
>治子さんも猫パジャマが似合うよ

 治子…お前は…
 
 
>その後、この二人は本当に夜明けまでやっていた・・・。

 こ、このばかっぷるが…


 さて、一夜明けて…直子は自分の家に戻れるのでしょうか(笑)。


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