翼持つものたちの夢

霜月天馬

第一話 〜とある少年の死と少女の登場〜

「くっ。どうやらこれまでのようだな。親父、今そっちに行くことになりそうだ」彼は悪天候の中ULP(ウルトラライトプレーン)を必死に操縦し何とか着陸させようと悪戦苦闘していた。しかし無常にもその時突風が吹き機体は失速し、彼は死を覚悟した。その時彼の周りが光に包まれそして其処にはかつて、いや今でも愛している女性の姿があった「し、しずくなぜ君が…」彼が言おうとするのを彼女は制して彼女は口を開いたのであった。

「私は貴方の父親を助けることが出来なかったわ。でも貴方は死なせはしないわ。だって、私は貴方のことを愛しているから。直人。貴方が次に目覚めるとき貴方の姿が変わっているかもしれないわ。けれどそれでも貴方は貴方の夢を諦めないで。貴方が夢を捨てさえしなければきっと夢はかなうわ。そしてその時私は…」

「ま、待ってくれしずく。俺はしずく。君のことを愛している。きっと俺は俺の夢を実現させてやるぜ自分の力でな…」俺はそう叫ぶと同時に意識を失ったのであった。

「ここは何処だ…知らない天井だ。一体おれはどうしてここに。そうか俺あの時悪天候で着陸に失敗したのか。それにしても死んだと思ったのに」

 気がついた時には病院のベットの上であった。

「な、直子気がついたんだ良かった〜」傍らにいた女性が駆け寄ってきたのであった。

「ん。勇希か。一体どうなったんだ」

「バカ、バカ。直子ったら無茶しすぎよ…。直子まで死んじゃったらあたし本当に天涯孤独になっちゃうじゃあないよ。それにこんなことで死んじゃったら父さん母さん叔父さん達も喜ばないわよ」

 勇希との話を聞いてなぜか身体に妙な違和感を感じたのであった。そして目線を下に向けると其処には二つの胸の膨らみがあった。そして意を決して股間のところを見てみると本来なら有るべきものが無くなっていたのであった。それを確認した俺は意識をブラックアウトしていたのであった。これが夢なら早く醒めてくれと祈りつつ。

「一寸、直子しっかりしてよ」

 そして再び目が醒めた時、これが夢でないことを確認したのであった。傍らを見ると勇希が傍らにいたのであった。そして俺は勇希にたずねたのであった。

「なあ勇希。直子って誰のことなんだ。俺は直人のはずだ。そしてなぜ病院に死んだはずなのに」俺が勇希にたずねると勇希はきょとんとした表情になっていたのであった。

「直子。何言っているのよ。直人って誰のこと。もしかして事故の影響で記憶が混乱しているのかな。まああれだけ酷い事故に巻き込まれたんだからそうなっても不思議じゃあないけどね」

 そう言って勇希は俺に詳しい経緯を話してくれたのであった。俺は深山直子という女性として生まれ、幼い頃に母親を無くし父親も小学校5年の夏休みに操縦していた飛行機が悪天候に巻き込まれ行方不明。そしてそれからは勇希の両親に引き取られたのであったが、その両親も今年の春に交通事故で二人とも死亡したのであった。それからは両親の遺産でどうにか生きているがそれでも少しでも蓄えを減らさないようにバイトで生活費を稼ぐという生活をしていたのであった。そしてバイト中、荷の積み下ろし作業中に積荷の上から転落する事故に巻き込まれて病院に担ぎ込まれた。と、言う状況であった。そして俺は勇希に一言礼を言った。

「ありがとう。勇希。忙しい中来てくれて。それと手鏡があったらかしてくれるか」

「ん。良いのよ直子。それじゃああたし着替えを取りに行って来る。あ、それから先生の話だと10日ほど入院ですって。それとはい手鏡」

 そう言って勇希は手鏡を渡すと病室から出ていったのであった。そして一人になった俺は意を決し手鏡を覗きこんだのであった。其処には勇希そっくりな顔をした俺がいたのであった。勇希と違う点は腰あたりまで伸びた髪の毛、胸のあたりもどうやら勇希よりも有りそうであった。

 そしてそれから一時間後着替えを取りに行っていた勇希が戻ってきたのであった。

「直子〜。これ着替え」勇希が着替えの入った紙袋を渡してくれたのだった。

「あ、ありがとう。勇希。あ、それと手鏡ありがとうな」俺がそう言うと勇希は笑顔で返事をしていた。

「ん、良いのよ。それより直子。着替えないと駄目ね」

「何故」

「何故って、その血まみれになった服で良いの」

 そう言われてふと見ると右の太股あたりが血で汚れており背中の辺りも汚れていたのであった。

「あたた。こりゃ本当にヤバかったんだな」

 服を脱いで下着一丁になって改めてシャツを見ると背中の辺りがばっさりときれていた。その様子を見ていた勇希は呆れ顔でこういった。

「ほら、ほら直子。背中をあたしのほうに向けて」

「い、いやあたし一人でやれるからさ」と俺。

「何言ってるのよ。怪我人なんだから大人しくしなさい」俺は勇希のなすがままになっていた。あったかいタオルが血と汗や油で汚れた肌に心地よく感じたのだ。そしてそんな快楽も10分後には終わった事を次げる勇希の声がした。

「はい。終わったわよ。着替えは自分で何とかなりそうね」

 直子は勇希から渡された着替えを着ようとしていたのであったが初っ端からつまずいていた。

「…ごめん。うまく留められない。勇希手伝ってくれる」

「っとに直子ったら。ブラ着けるようになってから何年経つのかな。まあ怪我してるからしょうがないか手伝ってあげるわよ」

 勇希はそう言いながらブラのフックを取りつける手伝いをしてくれた。まあそれに関しても無理はないだろう。なぜなら彼女はつい最近までその手の下着を身に着ける風習を持っていなかったので当然と言えば当然だろう。背中のキズもあって少々苦労はしたがどうにかノースリーブのTシャツに半ズボンという格好に着替えることができた。

「これで良いわね。それじゃああたしバイトあるからもう行くわね」

「ああ、ごめんね。変なことに巻き込んじゃって。勇希も気をつけて。あたしみたいに怪我したら洒落にならないし、それに今は勇希にもしものことがあっても駆けつけれないし」

「ん。良いのよ。他ならない直子のことなんだから。それと心配してくれてありがとうね。じゃあ行ってくるわ」

「ん。行ってらっしゃい〜」

 そんな会話をして勇希は病室から出ていた。そしてあたしは何故こうなったのか考えて見たのであったが、いつのまにか寝入ってしまい気がついたときは朝であった。そしてそれから退院までの間今までの疲れが残っていたのと精神的に参っていたのであった。そして退院の日あたしは勇希と一緒に退院した。そして道すがら勇希とあたしはいろいろなことを話したのであった。そうバイト先での出来事や空の話など取り止めもなくしゃべっていた。そうしないと自分自身が維持できないような不安感で一杯だったのだ。そして家にたどり着き勇樹の案内で自分の部屋に戻ったが、やはり其処は自分が本来知っていた風景とは違った。航空機のポスターは数枚貼ってあったのはそのままであったがそれ以外の小物などはまるっきり違っていたのであった。タンスや引出しの上にあるヌイグルミやピンク色のカーテンなどやっぱり女の子の部屋であった。そしてふと隣をみると勇希が目に怪しい光を帯びてあたしに詰め掛けたのであった。

「直子〜。そう言えばしずくって誰のことなのかな〜。あたしにも紹介しなさいよ」

 その言葉を聞いたあたしは言葉に詰まったのであったが、意を決して勇希に向かい合ってこう言った。

「ねえ、勇希。この話を聞いて夢物語と言う風に笑うかもしれないけれど最後まで聞いてくれないかな」

 あたしがそう言うと勇希は無言で肯いた。それを見たあたしは自分が知っている限りのことを話したのであった。両親のことそして17の夏に親父の夢を受け継ぐべくULPの技能試験を受けようとしたこと。そしてその夏に出会った一人の女性とその男性の恋物語を語った。そして18の夏に再び空を目指しそして突然の天候の急変で墜落死を覚悟した時、其処で彼女と再び出会いそして彼女に助けられ気がついたら今のこの姿になっていたことなどすべてを話した。あたしがすべてを話した直後、勇希はしばらく呆然としていたが驚いたふうな様子であたしに聞いてきたのであった。

「なるほどねぇ〜。直子が直人と言う男の子になっていたのか〜。なんか信じられないけれど信じるわよその話。だって直子の目は嘘を言っているようには見えないからね。それにもしその話が本当だったらあたしも「しずく」って娘に一言話をしてみたいしね。ねえ直子。直子の夢ってさ、叔父さんが残していったあの飛行機を飛ばすって奴」

「そうよ。まあ今すぐって訳にはいかないよ。だってパイロットライセンスも取れる年齢じゃあないし、飛行機の方もレストアしないことにはどうにもならないからね。そのためにもあたしはやるわよ。だって夢は捨てない限りきっとかなうわ。時間は夢を裏切らない。夢の方が時を裏切らない限りわね…」

「そっか。ねえ直子。あたしもその夢の手伝いをしても良いかな…」

「良いの。本当に後悔しない。別にあたしは勇希を巻き込むつもりはないわよ。だって人それぞれの生き方が有る訳なんだしさ」あたしがそう言うと勇希は説明するように答えた。

「なんて言うかな。以前、あたしをULPに乗せて空に連れてってもらった事があったのよ。その時、空から見た地上の印象が強く残ったのよ。おぼろげに見えていたあたしの夢って奴が今の直子の言葉を聞いて確信したわけよ」その話を聞いてあたしは勇希に泣きついていた。そう、今まで溜め込んでいた感情が一度に爆発したように号泣していた。

「ちょ、ちょっと直子…。良いわ泣きたい時だってあるんだから好きなだけ泣きなさいよ」そう私は直子が号泣している姿をみてそっと頭に手をのせて泣き止むのを待っていた。そして小一時間ほど経って目を真っ赤に貼れあがらせた直子が顔を上げたのをみてあたしは無言でハンカチを手渡してやった。

「落ち着いた直子」

「ああ、ありがとう。勇希のおかげでなにか胸のつかえが取れたようだよ

「そう、良かった。あたしで良ければ何時でも良いわよ。だってあたしは直子のことが…」そう言う勇希の目は怪しく光っていたのであった。そして私はその言葉の意味をその日の晩に知ることになるのであった。

「ふう。気持ちいい〜。やっぱり風呂は良いねえ。身も心もリフレッシュするよ」私は事故以来しばらく入れなかった風呂に久々に入っていた。既に抜糸も終わっていたので特に問題も無く、私は入浴を楽しんでいた。その時扉の開く音がしたので後ろを振り返るとタオル姿の勇希が入ってきた。

『ガララ』

「直子〜背中流してあげるわよ」

「ゆ、勇希。良いよ自分で出来るからさ…」

「遠慮は要らないわよ。ほらほら女の子は綺麗にしないとね」

 そう言うや否やすばやく勇希はあたしの背中に石鹸を塗りつけタオルでこすっていた。そして背中に残った真新しい傷痕をみてため息をついていたのであった。

「直子、やっぱり傷痕が残っちゃったね。折角の綺麗な身体だったのに」

「しかたないわよ勇希。まあキズが残っても生きてさえいればきっと良いことだって有るわよ」

「そうね。すくなくてもあたしにとっては良いことかもね」

「え、勇希。それってどう言う…」

「ふふふ。直子〜女の子の身体の良さをあたしが手取り足取りおしえてあげるわよ。覚悟しなさい」

 私が振り返って勇希の方に向くと勇希の目は怪しく光っていた。そしてその後私は勇樹に押し倒されて…身体の隅々まで調べられたのだった。ああ、思い出すだけでも嬉しいやら恥ずかしいやら複雑な心境だった。そして夏休みが終わろうとしていた。そう私はこれからどうなるのかわからないけれど、まあ勇希と一緒に私の、いやもう私達の夢と直した方がいいわね。夢を叶えてみせるわ。

 その決意を胸に私は新たな一歩を踏み出すのであった。

続く

 

後書き

 皆さん始めまして霜月 天馬です。挨拶はこれくらいにして「翼もつものたちの夢」この作品が出来あがったキッカケはさたびー氏のリバーシブルハートシリーズを読みそしてその感動が眠っていた同人魂に火がつき、それで一丁書いてみようと思いました次第です。おおむね主人公もしくは勇希視点からの物語になるかとおもいます。まあそれでもついてきてくれる人がいるのが作家として最上の喜びです。あと感想やご意見を頂けるともっと嬉しいです。

それではこれで… See You Next Story



管理人のコメント


 霜月天馬さんから新たなシリーズをいただきました。KIDの「夢のつばさ」のTSものだそうで…私はこの作品は知らないのですが、自爆少女の治子が客演するとかで、今から先を楽しみにしています。

>俺は深山直子という女性として生まれ

 どうやら過去書き換わりもののようですね。それともここから何か仕掛けが…?


>其処には勇希そっくりな顔をした俺がいた
>胸のあたりもどうやら勇希よりも有りそうであった。


キャラ紹介によると、勇希は直人=直子の従兄妹ですね。ところが、勇希は公式HPを見る限りなかなかのスタイル。それよりも胸のある直子、なかなか侮れないキャラの様子(何が)。


>「…ごめん。うまく留められない。勇希手伝ってくれる」
>「っとに直子ったら。ブラ着けるようになってから何年経つのかな。まあ怪我してるからしょうがないか手伝ってあげるわよ」


 出ました、お約束の1、着替えシーン(笑)。直子は基本に忠実なキャラのようです。


>そしてあたしは何故こうなったのか考えて見たのであったが

 早くも一人称が変わっています。順応早いなぁ…


>「ふふふ。直子〜女の子の身体の良さをあたしが手取り足取りおしえてあげるわよ。覚悟しなさい」

 勇希って一体…

 ともかく、新たなヒロイン、直子の物語は始まりました。果たして彼女の夢はこれからどうなっていくのでしょうか…

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