<登場人物プロフィール>


001:水瀬名雪・・・「眠り姫」=超能力と超頭脳の持ち主だ。

002:月宮あゆ・・・「天使」=超音速で空を自由に飛べる。

003:氷上シュン・・・「千里眼」=何でも聞こえ、どんな物も透視出来る。

004:川澄舞・・・「死神」=全身武器の最終兵器彼女だ。

005:七瀬留美・・・「アイアンレディ」=鋼鉄の皮膚を持つ百人力の力持ちだ。

006:椎名繭・・・「モグラ」=口から炎を吐いて土の中を掘り進める。

007:沢渡真琴・・・「カメレオン」=どんな物にでも変身できる。

008:里村茜・・・「人魚」=深海でも自由に行動出来る。

009:長森瑞佳・・・「ネコバス」=加速装置で地上を駆ける。メンバーの中で最も優れたサイボーグだ。


Kanon009

作:ニルス曹長さん

第2話:X艦隊の挑戦



 日本の某所にある「ブラックゴースト日本支部」。その中にある薄暗い会議室。そこでは何人かの人間が議論をしていた。 
「どうやら、例の秋子・ギルモアがサイボーグ戦士を復活させたらしい」
「何だと!あの<アークデーモン>のコードネームで恐れらてきたギルモア博士の一人娘が遂に行動を起こしたというのか」
「水瀬アークデーモン、彼女の存在はブラックゴーストの存亡にかかわる一大事だ」
 会議室ではブラックゴースト日本支部の幹部たちが盛んに議論していた。もちろん話題は秋子さんと彼女によって作られた9人のサイボーグ戦士達だ。
「落ち着きたまえ、諸君」
 会議室の一段高い議長席に立つ眼鏡を掛けたクールそうな顔付きの男が幹部達を一喝した。彼の名は久瀬、復活したブラックゴーストの日本支部長の要職を預かる人間だ。
「水瀬秋子と復活した9人の00ナンバーサイボーグ達の存在は我々ブラックゴーストにとって致命傷となりかねません。可及的速やかにサイボーグ戦士どもを殲滅する必要があります」
「その任務、私めにお任せを」
 そう答えたのは大馬鹿弥三郎。ブラックゴーストが誇る潜水艦隊<X艦隊>の司令官だ。彼はブラックゴースト内部でも一二を争う武闘派幹部としても知られている。
「この大馬鹿弥三郎、必ずや我が<X艦隊>をもってサイボーグ戦士どもを皆殺しにしてご覧に入れます」
「よろしい、ではさっそく行きたまえ」
「ははッ」
 大馬鹿は久瀬に一礼すると会議場を出て行った。彼が立ち去ったのを見はからって、久瀬は横にいた幹部の斉藤に命令した。
「斉藤。もし奴が失敗した場合、お前が代わってサイボーグ戦士を抹殺したまえ」
「はい、では例の0010は?」
「お前に任せる。好きに使うがいい」
「分かりました、久瀬閣下」
 斉藤は久瀬に返事をすると外に出て行った。一方、久瀬は薄笑いを浮かべていた。
「さあ、どう出ます?水瀬秋子?」



 所変わって日本のある地方都市、ある朝の光景。高校生折原浩平の部屋に幼馴染の少女、長森瑞佳が起こしにやって来た。瑞佳は思いっきりカーテンを開ける。朝のまぶしい日差しが浩平の部屋に差し込む。
「浩平、朝だよ」
「う〜、長森か・・・」
「浩平、起きるんだよ、遅刻しちゃうよー」
「長森・・・もっと寝かせろよ・・・」
「もう!浩平が永遠の世界から帰ってきたのに、また寝坊してるの」
「うーん、長森、あと50キロ」
「何言ってるのよ浩平、朝だよ、ほら起きるっ」
 勢いよく浩平の布団を引っ張りあげる瑞佳。
「きゃーっ!」
布団の下には何とパンツ一丁で寝ていた浩平がいた。ビックリした瑞佳は思わず浩平をビンタした。

 ズガッ!!

「ぐげっ!」
 瑞佳がほんの軽い気持ちでやったビンタ。しかし、サイボーグ009=長森瑞佳は005=七瀬留美に次ぐ00ナンバー2番目の怪力の持ち主。彼女の一撃を食らった浩平はそのまま数メートル吹き飛ばされ、顔面を壁に埋めていた。さすがのばかばか星人=折原浩平もノックアウトである。
「ごめんね、浩平」
 あわてて謝る瑞佳。
 浩平は急いで着替えると由紀子さんの作った朝食を急いでかき込んだ。横で瑞佳が心配そうに見ている。
「いやー、永遠の世界なんて楽勝だったな。タダで旅行に行ったと思えば安いもんだよ。好きなだけ寝られるし、メシの心配しなくていいしな」
 全然懲りてない浩平。彼はツワモノだった。(別の意味で)
「浩平、ひどいよ。浩平がいない一年間、わたし一人ぼっちでいつも寂しかったんだよ」
「わりぃ、長森。ジョークだジョーク」

 
 オレは折原浩平、普通(?)の高校生だ。実は高校生になった時、子供の頃に交わした「永遠の盟約」のせいでオレはこの世界から存在を消されて永遠の世界に行くことになった。オレは永遠の世界よりも限りある世界を選び、一年後にまたこの世界に戻って来ることが出来た。それもみんなオレと長森とのあいだに結ばれた「絆」のおかげだ。
 オレが永遠の世界から帰ると、学校では知らない間に色々と変わったことがあった。七瀬の奴はオレがいない間に雪国の高校に再転校していた。みさき先輩は卒業したあともしょっちゅう高校に来て演劇部に出入りしていた。澪は演劇の腕を認められてスカウトが来たらしい。繭は少し大人になった。長森と茜は相変わらずだ。そしてオレは高校に一年いなかったせいでもう一年留年ということになった。永遠のせいか知らないが、周りの人間には「病気で一年休学した」と思われているらしい。


「浩平、このままだとヤバいよ。遅刻しちゃうよ」
 浩平がようやくご飯を食べ終わると、瑞佳があせって浩平を呼んだ。
「ま、待てよ長森」
「もう待てないよ〜、浩平!」
 瑞佳は自分の腕時計を見てあわてた。そして、
「加速装置!」
 瑞佳は浩平を掴まえて小脇に抱えると、加速装置で一気に学校に向けて駆け出した。

 シュゴゴゴゴゴ・・・・・・!!

 瑞佳は町内を疾風のように駆け抜け、たった数秒で学校に到着した。
「浩平、間に合ったよ、遅刻しなくて良かったよ」
 校舎の入り口に立っていた茜が呆れた顔つきで瑞佳の方を見ていた。
「長森さん、また加速装置を使いましたね」
「・・・あがががが・・・ぬぁぐぁむぉるぃぃぃぃ・・・しぬぅぅぅ・・・」
 浩平が瑞佳の腕の中で泡を吹いて卒倒していた。
「浩平?」
「し、死ぬかと思った・・・」
 何とか回復した浩平。
「大丈夫だよ、浩平、主人公だもん」
「全然フォローになってないぞ」
「浩平にはいいお嫁さんを見つけてもらわなきゃ心配だよ」
 何とか話題をそらそうとする瑞佳。 
「よし長森、今日からお前のあだ名は<ネコバス>だ。お前ネコ大好きだろ?」
「ネコバス・・・ひどいよ〜、浩平。そんなあだ名嫌だよ」
 浩平の一言に顔を赤くして半べそで嫌がる瑞佳。
「じゃあ、今まで通り<だよもん星人>の方がいいか?」
「自業自得です」
 横から見ていた茜が他人事のようにつぶやいた。


 さて、こちらは代わって相沢祐一の登校風景。祐一は今日も眠そうな顔をした名雪と一緒に学校に向かっていた。
「おはよう、相沢」
 後ろからやって来た親友の北川が挨拶した。
「よう、北川」
「うにゅ、おはよう、だよ」
 名雪も寝そうな声で返事をする。
「あれ、北川、普段はよく見かける香里はどうしたんだ?」
「美坂はここ数日学校を休んでるんだ。何でも妹の栞の手術が大変なんだって。だから今日も付きっきりで病院にいるらしいよ」
「へえ、栞のことで忙しいのか」
「美坂の話だと名医が見つかったとかで、今度手術に成功すれば病気が全快するんだってさ」
 しばらく3人で話しながら歩いていると、後ろから舞と佐祐理が歩いて来た。
「あははーっ、みなさんおはようございますーっ」
「・・・おはよう」
「おはよう、舞。おはよう、佐祐理さん。今日も二人は一緒だな」
「はい、舞のいる所に佐祐理ありですから」
「はちみつくまさん」
 倉田佐祐理、高校三年生、舞の唯一無二の親友だ。名門家庭出身のいつも明るい優等生。でもその正体は魔法のステッキで呪文を唱える『魔法少女マジカルさゆりん』である。しかしそのことを知ってる人間は友達の祐一や舞を含め少数だが。
「それに佐祐理が舞といられるのもあとわずかしかないですから」
「え、どういうこと、佐祐理さん?」
「祐一、倉田さんは今度卒業したらイギリスに留学するんだって。陸上部の噂で聞いたんだよ」
 横から名雪が説明した。
「それ本当か、舞?」
「・・・嘘じゃない」
 ちょっとさびしそうな舞。
「実はーっ、今まで祐一さんには隠してましたけど、父の薦めで卒業後はイギリスのホグワーツに留学することになったんですよーっ」
 佐祐理がニコニコしながら話し出した。
「ホグワーツ?聞いたことない学校だけど?」
「祐一、結構有名な学校らしいよ。このあいだあの来栖川財閥の令嬢、来栖川芹香さんが留学するって話を聞いたよ」
「へえ」
 ちょっとビックリする祐一だった。来栖川財閥といえば日本でも五本の指に入る巨大財閥。そこの令嬢が留学する学校なのだから当然名門なのだろう。
「でね、祐一。お母さんにそのことを話したら『今度皆さんで佐祐理ちゃんのお別れパーティーを伊豆の別荘で開きましょうね』って言ってたの。だから祐一にはしばらく内緒にして、いきなり話してビックリさせようって考えたんだよ」
「でも秋子さん、伊豆に別荘なんて持ってたっけ?」
「祐一『それは秘密です』だよ」


 数日後、卒業式も無事に終えた佐祐理のお別れパーティーが伊豆半島の秋子さんの別荘で開かれることになった。北国の秋子さんの自宅と違い、3月の伊豆は暖かく雪が降らない、すごしやすい場所である。
 秋子さんの別荘は伊豆半島の海岸に突き出た崖の上にある古風な洋館だった。
 その秋子さんの別荘には、秋子さんと娘の名雪、佐祐理と祐一と舞、真琴、あゆ、それに名雪と同じクラスの七瀬留美と彼女の転校前の高校で友達だった長森瑞佳、里村茜、椎名繭、氷上シュンが集まっていた。しかも呼ばれもしないのに茜の親友の柚木詩子までやって来た。ちなみに折原浩平は寝坊したせいでこの別荘には来ていない。(もっとも彼が来ない方が安全なのであるが)
「じゃあ、繭ちゃん、真琴。2人でバーベキューの用意をしてね」
 秋子さんが年少クラスの繭と真琴に頼んだ。さっそく真琴と繭は庭で道具を組み立て、鉄板を広げてバーベキューの用意をしだした。
「あう〜、バーベキュー!バーベキュー!」
 バーベキューと聞いて大喜びする真琴。
「みゅー、てりやき、てりやき」
 繭はそう言うと鉄板の上に肉をのせた。そして口から火を吹いてバーベキューの火種をつけると、火炎放射で器用に照焼きを作り出した。
「すっごーい、繭。006の能力ってそんなことにも使えるんだ」
 感心する真琴。
「みゅーっ、てりやき、出来た」
 繭は嬉しそうに出来たばかりの照り焼きをほおばり始めた。
「さあさあ皆さん、バーベキューの用意が出来ましたよ。お昼にしましょう」
 秋子さんの一言でバーベキュー大会が始まった。
「うぐぅ、うぐぅ・・・」
「あゆちゃんたら、いっぱい食べすぎるからノドに詰まらせるんだよ」
「それではーっ、舞、そこのトウモロコシとって」
「はちみつくまさん」
「みゅー、てりやき、いっぱい」
「ごくごく、この伊豆高原牛乳美味いんだよ」
「よっしゃあ、その肉もらったわ」
「詩子ったら、みっともないです」
 こうしてバーベキュー大会は楽しく過ぎていった。


 同時刻、秋子さんの別荘に面した太平洋の海中。そこには超潜水艦<伊―600>級5隻が逆V字型の編隊を組んで展開していた。ブラックゴーストが誇る海中機動戦隊<X艦隊>である。旗艦<伊―600>に搭乗する司令官、大馬鹿弥三郎は潜望鏡で秋子さんの別荘を観察してた。潜望鏡には洋館と庭から立ち昇るバーベキューの煙が見えていた。
「ははッ、敵さんこちらに全然気付かずに集まっておるぞ」
「<X艦隊>、予定位置に到着しました」
<伊―600>艦長、前腹一征が報告した。
「よし、作戦開始だ。これより<X艦隊>から部隊を発進させる。目標は水瀬アークデーモン別荘。まず一隊は空から、もう一隊は陸から攻撃をかける。そしてその間に忍者部隊が別荘に突入する。三段構えの戦法だ」
「ははッ、さすがは大馬鹿閣下、名作戦でありますなあ」
 感心する前腹艦長。
「超零戦部隊、スタンバイ」
「戦車部隊、出撃準備完了」
「忍者部隊、特殊潜航艇で発進準備」
「よし、ではこれより作戦開始だ。目標はサイボーグ戦士の全機殲滅。諸君の健闘を祈る」
 大馬鹿の作戦開始を受けて全潜水艦が急速浮上する。そして潜水艦の格納庫からジェットエンジンを搭載した超零戦が出され、艦上に設置されたカタパルトから次々に発進していく。さらに海中から戦車や忍者部隊を乗せた潜水コンテナが次々に出撃していった。


 さて、こちらはバーベキュー会場。突然、何かを感じたのか。シュンが立ち上がって叫んだ。
「海上から戦闘機の大軍がこちらに向かっている。機数約30機」
「恐らくブラックゴーストの刺客です。困りましたね」
 秋子さんが困った顔で答えた。秋子さんはちょっと考え込んでから、家から持ってきたカバンからステレオを取り出した。そしてCDをセットしてスタートボタンを押した。

『♪吹きすさぶ風が〜 よく似合う〜 9人の戦鬼と〜 人の言う〜』

 ステレオのスピーカーから『誰がために』が流れる。「サイボーグ009」のOPテーマだ。
「どうですみなさん、このBGMは?」
「うわっ、すごいよ秋子さん、ムードが出てきたよ」
『誰がために』を聴いたあゆが大喜びした。
「さあみなさん、出撃ですよ。私は祐一さん達を避難させて来ますからね」
 秋子さんはそう答えると、祐一と佐祐理と詩子を別荘の地下にあるシェルターに案内した。
「さあ皆さん、別荘の地下に作っておいたシェルターに避難して下さいね」
「ふぇー、分かりましたーっ」
「ああん。せっかく面白そうなのにい〜」
 詩子が残念そうにぐずる。
「秋子さん、何で別荘にシェルターがあるんですか!?」
 祐一が驚いて質問した。
「企業秘密です」
 秋子さんは笑ってはぐらかした。


「よし、空ならボクに任せてよっ」
 あゆはそう言うと超零戦に向かって飛び出した。あゆは足のジェットで空を飛びレーザーガンで次々に超零戦を撃墜してゆく。しかし敵の数が多すぎたせいであゆは苦戦していた。
「うぐぅ、敵が多すぎだよ。舞さん、ボクにつかまって。空から攻撃だよっ」
 あゆが地上にいる舞に声をかける。
「はちみつくまさん」
 あゆは後ろから舞を抱えると、そのまま上空に飛び上がった。あゆに抱えられた舞は超零戦の編隊に足のミサイルの目標を定める。
「・・・くらえっ」
 舞が太股のミサイルを発射した。

 シュルルルルル・・・・・・ドガーン!!

 ミサイルは見事超零戦に命中した。

 ドドドドドドドドド

 舞は続いて右手のマシンガンを発射した。ちなみに原作の004と異なり舞の右手は普通の人間の手の外見をしている。「舞ちゃんは女の子だからね」という秋子さんの配慮だ。あゆと舞の連携プレーによって超零戦部隊はバタバタ撃墜されていった。


「うにゅ、陸の方からも敵の気配がするよ、氷上君」
 名雪が敵の気配に感じたらしい。
「水瀬さん。ありがとう」
 名雪の話を聞いたシュンはさっそく超視聴覚で陸をサーチした。
「見えた、森の中から戦車部隊が接近中、約20両だ」
「みんな気を付けて、敵が現れるよー」

 ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・

 名雪が言った通り森の中から一斉に戦車隊が出現した。角型の砲塔と強力な主砲を備えたブラックゴーストの主力戦車<七式中戦車>だ。戦車隊はそのまま前進しつつ主砲を一斉に別荘に向けた。車内から隊長が命令を出す。
「目標発見、距離1000。弾種榴弾。撃てーっ!!」

 ズガガガーン

 戦車隊が別荘めがけて一斉射撃を行なう。20発の主砲弾がライナーを描き別荘に向かって直進する。しかし命中直前でなぜか弾道が大きく曲がり、砲弾は全部あさっての方向にそれてしまった。
「超能力で弾道をそらしたんだよ」
 名雪が得意そうに言った。
「留美ちゃん、繭ちゃん、戦車の方をお願いね」
 秋子さんが命令した。すっかりリーダーしている秋子さん。
「よし、ようやくあたしの出番ね」
「みゅー、わたしも行く」
 待ってましたとばかり留美と繭が外に飛び出した。


「みゅー」
 繭は戦車に向かってコロコロ駆けると戦車に向かって炎を吹いた。しかし戦車の正面装甲は繭の炎を受けても全然びくともしなかった。
「わははは、戦車の正面装甲がこんなもので壊れるものか」
 戦車内部ではブラックゴーストの戦車兵が笑い声を上げていた。
「繭、見てなさい。乙女の出番よ」
 留美は背後の死角から戦車に近づくと車体に飛び移った。そして戦車の主砲をグッと掴むとそのまま両手で思いっきり捻じ曲げた。

 グニュッ

 留美の怪力で主砲はまるでアメ細工のように折れ曲がった。これでは主砲が使えない。
「これぞ乙女にしかなしえない技ね」
 留美はそう言うと今度は戦車の車体を掴んだ。そして50トンはある戦車をヒョイと持ち上げ、そのまま別の戦車に向かって投げつけた。投げ飛ばされた戦車と戦車が激突して大爆発を起こした。
 その頃、後方から戦車を透視していたシュンはあることに気付き繭に叫んだ。
「へえ、そういうことか。椎名さん、あの戦車はガソリンエンジンなんだよ。火に弱い」
「みゅ〜?」
「つまりキミの火炎でエンジンを狙えってことだね」
「みゅー」
 繭は駆け出すと戦車の後部のエンジンに向かって思いっきり火炎を吹き出した。

 ゴオオオオオオオオオ―ッ!

 繭の攻撃を受け戦車のガソリンエンジンが大爆発した。火に包まれた戦車はその場で動かなくなった。
「みゅー、戦車のてりやき、戦車のてりやき」
 繭ははしゃぎながら次々に火炎放射で戦車のエンジンを狙い撃ちにした。繭の攻撃で戦車が次々にガソリンエンジンを破壊され、炎に包まれていった。
「それっ」
「みゅーっ!」
 数分後、留美の繭と連携プレーによってブラックゴーストの戦車隊はその大半が破壊された。
「おのれ、よくも俺の部下をやりやがったな」

 ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・

 今度は森から小山のような巨大な戦車が地響きを立てて前進してきた。軍艦用127ミリ高角砲と半自動装填装置を搭載したブラックゴーストのサイボーグキラー<十式改中戦車>だ。指揮官用だろう、車体や砲塔には何本もアンテナが装備されていた。
「部下のかたきだ。目標005。弾種徹甲、撃てーっ!」

 ズガーン

 重戦車の127ミリ砲が留美めがけて発射された。
「うわあああっ!」
 重戦車の砲弾をモロに食らった留美が十数メートル吹き飛ばされた。さすがに鋼鉄の肉体のおかげで命に別状はないが、さしもの留美もダメージが大きくその場に倒れこんでしまった。
「みゅー」
 繭が必死にエンジンめがけて炎を吐く。しかし重戦車はびくともしなかった。
「わははは、ブラックゴースト特製重戦車。お前らごときの攻撃で破壊出来るものか」

 ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・

 そのまま2人を轢き潰そうと重戦車が前進する。と、その時
「七瀬さんたちが危ないんだよ、加速装置!」

 シュゴゴゴゴゴ・・・・・・!!

 2人の危機を知った瑞佳が加速装置でダッシュ。その場に駆けつけると、とっさに重戦車の砲口にレーザーガンを押し込み撃った。

 ドガアアアアーン!!

 砲口から撃ち込まれたレーザーガンが砲塔内のラックに収納されていた砲弾に命中。砲弾が誘爆し重戦車は大爆発を起こして吹っ飛んだ。
「ありがとう、長森さん」
「みゅ〜、瑞佳おねえちゃんだ、ありがとう〜」
 瑞佳が助けてくれたので留美と繭は喜んだ。


 その頃別荘では名雪が爆発で気絶した戦車兵の顔に手をかざし、兵士の心を読んでいた。しばらくして名雪が手を下ろした。
「うにゅ、この兵士の心を覗いたんだよ。敵はここから南西に約12キロの海中の潜水艦から発進してきたんだよ」
「あうー、今度は真琴の出番!」
 真琴はそう叫ぶと崖の上から海に飛び込んだ。
「海の中なら私の専売特許です」
 続いて茜が海にダイブした。
(真琴、里村さん、ふぁいと、だよ)
 一人別荘に残った名雪がテレパシーで二人を激励していた。


 海中でイルカに変身した真琴が海の中を南西に向かって泳いでいく。しばらくすると目の前に5隻の潜水艦が見えてきた。ブラックゴーストの<X艦隊>だ。幸い敵はこちらには気付いていない。イルカに変身しているお陰で敵のソナーにもイルカの泳ぐ音にしか聴こないのだ。
「にゃははは、真琴はこういう戦い方も出来るんだよ」
 真琴はヘソのスイッチを押した。すると真琴は全長100メートルはある巨大なダイオウイカに変身した。ダイオウイカに変身した真琴はそのまま触手で敵の潜水艦に絡みつき、グイグイ締め上げた。

 グググググーッ

「大変です、大馬鹿司令」
「どうしたッ?」
「<伊―603>より入電。『ワレ、正体不明ノ物体ノ攻撃ヲ受ク。各部破損。操艦不能。メーデー、メーデー』」
 前腹艦長が友軍の危機を知らせる水中電話通信を報告した。
「何だ、何が起こったんだ?」
 ビックリする大馬鹿、その直後、

 グワアアアアアアン・・・・・・

 大音響が海中に響き渡った。
「水中圧壊音を確認。恐らく<伊―603>。生存者は・・・・・・」
「くそっ、サイボーグ戦士か?」
「大変です、大馬鹿司令。前方より別のノイズをキャッチ。距離4800。こっちに向かって直進してきます」
 聴音手が怯えた表情で報告した。今度は<X艦隊>の前方から茜が突進してきたのだ。茜の足元から高速のウォータージェットが噴射され、水中をぐんぐん加速していく。
「うろたえるな。対潜戦闘開始。62魚雷装填。撃てッ!」

 パシュッ、パシュッ、パシュッ

 シュルルルル・・・・・・


 4隻の潜水艦から合計32発の酸素誘導魚雷<62魚雷>が発射された。しかし茜は回避運動をとり簡単に全魚雷をかわしてしまった。
「私は水中戦用サイボーグです。そんなの無駄です」
 茜は手近な潜水艦に狙いを定めると目標めがけて凄まじい速度で突進した。
「仕留めます」

 ズガガガガガン

 茜のヘッドバット(頭突き)が炸裂。潜水艦はその一撃で機関部に大穴を開けられ大爆発した。轟沈である。
「<伊―601>の破壊音確認。敵物体は依然航行中」
「全速でこの海域より離脱ッ!繰り返す、全艦離脱だッ!」
 大馬鹿の撤退命令を受け全潜水艦が離脱を開始した。<X艦隊>の潜水艦は超電磁推進によって常識では不可能な100ノットの超高速で航行することが出来る。<X艦隊>が最大速度で航行すればどんな艦船も追撃不可能・・・のはずだった。
「こっちは200ノット出ます」
 説明しよう。
 物体が超高速で水中を進むときその背後に水蒸気の泡が発生する。物体がこの水蒸気の泡に包まれると水の抵抗が劇的に減少するという。これが「スーパーキャビテーション理論」である。現在ロシアで開発中と噂される200ノット超音速魚雷<シュクヴァル>はこの原理を応用しているという。008=里村茜はこのスーパーキャビテーション理論によって水中を200ノット(約時速370キロ)で前進する事が可能なのだ。

 ドガーン

 ズガ―ン


 200ノットで突撃する茜のヘッドバットで次々に破壊されてゆく潜水艦。残るは大馬鹿の乗る旗艦<伊―600>ただ1隻。茜は<伊―600>に狙いを定めた。
「うわあ、こっち来るな、助けてくれ〜っ!!」
「嫌です」

 ズドーン

 茜のヘッドバットが見事船体中央部にクリティカルヒット。<伊―600>は真っ二つに切断され大爆発を起こし海中で四散した。


 さて、海中で戦闘が行われている頃、別荘の裏手の森から謎の3人の人影が現れた。黒装束に覆面姿、背中には太刀を掛けている。彼らはブラックゴーストが送り込んだ忍者サイボーグだ。かつて伊賀忍者として有名な服部半蔵の子孫(ただし傍系)をブラックゴーストがスカウトしてサイボーグに改造したのである。
 そして忍者サイボーグの前に一人の少女、舞が右手に剣を持って立っていた。
「ふん、相手は貴様一人か」
 忍者サイボーグはあざけるような口ぶりで尋ねた。
「お前達の仲間はみんなやられたわ・・・あとはお前達だけ・・・」
「ふん、貴様らごとき我々忍者部隊で十分だ」
 いきなり舞の目前で忍者サイボーグたちの姿が消えた。そして特急列車が通過するような加速音と疾風が舞の周囲に響き渡った。
「・・・加速装置!?」
 舞は目を閉じると精神統一をして剣を構えた。そして敵の加速音を頼りに剣で斬り付けた。
(加速音で相手の位置を予測して・・・斬る!)
「・・・そこっ」
 舞が剣を振りかざす。

 スパッ!スパッ!

「グワアアアアーッ!!」
「ウゲーッ!!」
 舞の一撃で2人の忍者サイボーグが斬られ、悲鳴を上げてバタバタと倒れた。
「おかしい・・・あと一人いたはず・・・」
 舞が疑問に思った直後、彼女の後ろで人が倒れる音がした。舞が振り返るとそこにはレーザーガンで胸を撃たれて倒れている忍者サイボーグと、その横でレーザーガンを片手に立っている瑞佳がいた。舞の危機を感じた瑞佳が加速装置で駆けつけ加勢したのだ。
「わたしだよ。余計な事しちゃったかな?」
「・・・悪くない」
「さあ、敵もいなくなったことだし、バーベキューの続きをしようよ。もちろん川澄さんも参加するんだよ?」
「・・・はちみつくまさん」
 舞と瑞佳は別荘に向かって歩いていった。


「ふ〜、ひどい目にあったわい」
 別荘から離れた砂浜に大馬鹿弥三郎が倒れこんでいた。彼は潜水艦が破壊される寸前、とっさに緊急避難ポットで脱出し一命を取り留めていたのである。
 ふと、彼の近くに足音の気配がした。振り向くとそばにウェーブがかかった黒髪のロングヘアーの少女が腕組をして立っていた。顔にはなぜか笑顔を浮かべている。
「誰だ君は?」
「あたし?あたしは0010、美坂香里よ。今回の任務に失敗したことで久瀬閣下はご立腹。責任は取ってもらうわよ」
「責任って、一体・・・」
「言葉通りよ」
 0010=美坂香里の体から電撃が発射され、大馬鹿弥三郎を焼き尽くした。黒焦げになった大馬鹿の死体が彼女の足元に倒れ落ちた。
「ふふふ、サイボーグ戦士たち、今度はこのあたしがあなた達を倒してあげるわよ」
 香里は口元に凶悪な笑みを浮かべていた。


つづく


<次回予告>

 あははーっ、愛と正義の魔法少女、マジカルさゆりんこと倉田佐祐理です。
 佐祐理は卒業後、お勉強のためにイギリスに留学しています。佐祐理はイギリスでもいっぱいお友達を作れたんですよーっ。
 はえ〜、なんとイギリスに突然ブラックゴーストの刺客サイボーグが現れましたーっ。電撃を放つ姉妹サイボーグ、0010。おばさん臭いセリフをしゃべる巨大クモ形サイボーグ、0011。佐祐理、絶体絶命の大ピンチですーっ。
 次回『ドルフィン号、発進せよ』お楽しみにーっ。


あとがき


 皆さんはじめまして。ニルス曹長といいます。

 実はSSは今回が初めてというSS初心者のため、まだ文章が上手くない部分や誤字・脱字等があると思います。

 これからも頑張っていくつもりですので、皆さんどうかよろしくお願いします。

 今回登場した敵の幹部は『紺碧の艦隊』の登場人物のパロディです。他にも今回の話には色々な架空戦記の兵器が登場しています。それと「Kanon009 設定」の方に書いてあるように当初は「佐祐理がブラックゴーストによってサイボーグにされる」という展開を考えていましたが、あまりに悲惨すぎるので変更してあります。
 さて、次回は佐祐理が留学に行ったイギリスで事件が起こります。お楽しみに。

管理人のコメント

  Kanon009の二回目、早くも陸海空に激しいバトルが展開されています(笑)。

>「この大馬鹿弥三郎、必ずや我が<X艦隊>をもってサイボーグ戦士どもを皆殺しにしてご覧に入れます」

 いきなりヤバすぎるパロディに爆笑しました(笑)

>ビックリした瑞佳は思わず浩平をビンタした。
>「加速装置!」

…浩平、よく死にませんでしたね。さすがは主人公(笑)

>「超零戦部隊、スタンバイ」
>「戦車部隊、出撃準備完了」
>「忍者部隊、特殊潜航艇で発進準備」

 怪しすぎる戦力です(笑)

>『誰がために』

 えぇ、誰がなんと言おうとこれは名曲です。

>「舞ちゃんは女の子だからね」という秋子さんの配慮だ。

 そもそも改造することが(以下略)。

>茜のヘッドバット(頭突き)が炸裂。

 元々潜水艦はイメージほど固いものではありませんが、それでも頭突き一発で轟沈させる茜は凄すぎです。

>「言葉通りよ」

 うわ、香里が怖いです。うむ、これは強敵になりそうですね。

 次回はあのマシンも登場するようで期待大です。

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