Kanon009

作:ニルス曹長さん

第3話・ドルフィン号、発進せよ

イギリス:ロンドン・キングスクロス駅

ロンドンのキングス・クロス駅、そこには普通の人には知られていない「9と3/4番線ホーム」がある。このホームからは世界中の魔法使いたちが勉強する世界最高の「ホグワーツ魔法魔術学校」に行く汽車が出ている。
その9と3/4番線ホームに一人の日本人の少女がいた。手にはホグワーツでの勉強に必要な魔法の道具や教科書が詰まったトランクを持っている。彼女の名は倉田佐祐理、魔法少女マジカルさゆりんである。彼女は魔法を勉強するためにこのホグワーツに入学することになったのだ。
「あははーっ、佐祐理迷っちゃいましたーっ」
佐祐理がもういっぺんホームを探していると、一番奥のホームに魔法使いの三角帽子を被ったそれらしい人間を乗せた列車が到着していた。先頭の汽車は真っ赤に塗装され『ホグワーツ行き11時発』と書かれたプレートが付いていた。 
「えーと、この列車ですねーっ」
佐祐理はトランクをしっかり持って列車に乗り込んだ。ところがすでに前方の車両数台は満席状態だった。佐祐理は仕方なく重いトランクを持って空いている席を探して後ろの車両に向かって歩いていった。ちなみにイギリスの列車なので座席は全部コンパートメントである。
しばらく行くと4人掛けの座席に2人しか座ってないコンパートメントを発見した。座席には黒髪で眼鏡をかけた小柄な少年と赤毛でのっぽの少年が座っていた。佐祐理は扉を空けると2人に尋ねた。
「すみません、ここ空いていますか?」
「ええ、空いてますよ。どうぞ座ってください」
「ありがとうございます」
 佐祐理はそう言うと扉を開けて中に入った。そして空いている座席に座ると持っていたトランクを座席の下の隙間に置いた。
「あははーっ、すみません」
思わず照れ笑いする佐祐理。
「あの、ひょっとして君は日本人なの?」
眼鏡の少年が不思議そうな顔で尋ねた。
「自己紹介しますねっ、わたしはミス・サユリ・クラタ、ニックネームは<魔法少女マジカルさゆりん>です。日本から来ました。今度このホグワーツに留学することになったんです」
「僕はロン・ウィーズリー」
赤毛の少年が答えた。
「僕はハリー・ポッター、よろしくね」
眼鏡の少年が答えた。
ハリーがふと佐祐理の足元のトランクを見ると、そこにピンク色のステッキが見えた。先端にハートと星が付いてる日本の魔女っ子定番アイテムだ。
「ねえ、佐祐理さん?君の下のトランクから出てる杖みたいなのは何なの?」
「ふえ〜っ、それは佐祐理の魔法のステッキです」
「君の杖ずいぶん変わってるね。日本ではこれが魔法使いの杖なの?」
ハリーは不思議そうにステッキを眺めた。ハリーやロンが持ってるステッキは普通の木の棒で指揮棒に似たデザインだったからだ。
「君、ひょっとして名家の魔女じゃないの?」
ロンが尋ねた。
「あははーっ、佐祐理は他の人よりもちょっと頭の悪い普通の魔法少女ですから」
 それを聞いた佐祐理は恥ずかしそうに笑った。


日本:ある雪国の町・相沢祐一の通っている高校

一方こちらは祐一達のクラス。教室に授業の終了を知らせるベルが鳴った。休み時間になるとすぐ祐一はカバンからエア・メールを取り出した。これは昨日イギリスにいる佐祐理から届いた手紙だ。祐一は名雪や他の友達にも見せてあげようと学校に持ってきたのだった。祐一が名雪の方を振り向くと、名雪は机に顔を埋めて楽しそうに白川夜船を漕いでいた。
「くー」
「おい、名雪、起きろよ。授業終わったぞ」
「うにゅ、昔から『寝る子は育つ』って言うんだおー」
名雪が寝ぼけまなこで答えた。
「名雪、最近寝てばっかりだな」
祐一が呆れ顔で言った。
「だって、わたしお母さんと一緒に毎晩ドル・・・」
「ドル?」
「祐一、このことはお母さんとわたしだけの、秘密、だよ」
名雪はあわてて笑いながら話題をそらした。
「よ、相沢」
横から北川が話し掛けてきた。
「お、北川か。ちょうど良かった。実はイギリスに留学してる佐祐理さんから手紙が来たんだ。お前にも見せてやるよ」
「へえ、あの倉田先輩が?」
名雪が興味を持ったらしく祐一の机に向かって頭を乗り出した。
「どれどれ、あたしにも見せてね」
今度は横からツインテールの女の子が話し掛けてきた。去年転校してきた七瀬留美だ。
「七瀬さんか、もちろんいいよ」
「祐一、早く読むんだよ」
名雪がせかした。

祐一は佐祐理の手紙の内容をみんなに読んで聞かせた。
佐祐理はこの学校を卒業後イギリスの「ホグワーツ魔法魔術学校」に入学していた。もともと魔法少女マジカルさゆりんとしてそれなりに魔法の素養があった佐祐理に英国の魔法省から推薦入学の話が舞い込んで来たのだ。ホグワーツは世界一の魔法学校で世界中の魔法使いが集まって来る。ここを出ていない魔法使いは無許可かモグリだといわれるほど有名な学校なのだ。佐祐理は父の薦めもあってホグワーツに入学することに決めた。舞も「佐祐理のためだから気にしないで」と入学を勧めた。
ホグワーツに入学した佐祐理の寮は<グリフィンドール寮>に決まった。ここは勇敢な魔法使いたちが勉強する寮で、ホグワーツでも特に誉高い寮として有名だった。 

「で、これが佐祐理さんのいる<グリフィンドール>の友達の写真だって。右から長髪の少女がハーマイオニー・グレンジャー、両親は普通の人間だけど魔法の才能があって入学したんだって。手紙によると佐祐理さんともすごく仲がいいらしいよ。寮でもトップクラスの勉強家なんだって。こっちの赤毛でのっぽの少年がロン・ウィーズリー。ドジな所もあるけどいい奴だって。そしてメガネをかけた少年がハリー・ポッター。両親がすごい大魔法使いだったんだって」
「わー、倉田先輩さん向こうでもお友達が多いんだね」
名雪が感心していた。
「このハーマイオニーさんって美坂に似てるね」
北川が言った。言われてみると確かにハーマイオニーはどことなく香里に似た感じの少女だった。
「そう言われるとそうだな。右横にいるロンも北川に似てるし」
祐一が茶目っ気たっぷりに言った。
「おいおい、やめてくれよみんな」
北川が恥ずかしそうに言った。
「俺ならハーマイオニー萌えだな。俺好みのタイプだし」
祐一が写真を覗き込んで言った。
「祐一、祐一、ダメだよ〜」
名雪がビックリして言った。
「あたしはハリー・ポッターがいいわ。こういう優等生っぽい男の子ってここのクラスにいないでしょ。乙女が憧れる白馬の王子様みたいなタイプよ」
留美が写真を見ながらうっとりとした顔つきで言った。
「次の写真に移るぞ。次の写真は佐祐理と一緒に留学した来栖川芹香さんだ。<レイブンクロー>って寮にいるんだって」
祐一が取り出した写真には長髪の少女が写っていた。どことなく陰のある無口な表情で、頭には目深に魔女の三角帽を被っていた。
「来栖川芹香って、あの来栖川グループの令嬢でしょ。まさに乙女の象徴ね」
留美が感心した表情で言った。
「何か無口そうで俺のタイプじゃないな」
祐一が言った。祐一はあまりこういうタイプが好きではないようだ。
「祐一、案外こういう人の方がいいかもよ」
名雪が祐一の言葉に口をはさんだ。
「そうかなあ?」
その時、授業の開始を告げるベルが教室に鳴り響いた。休み時間が終わったのだ。祐一は手紙をカバンに戻す。祐一の机に集まっていたみんなはめいめい自分の席へと戻っていった。


日本の某所:ブラックゴースト日本支部

 ブラックゴースト日本支部にある作戦会議室。そこに久瀬司令の緊急徴集命令を受けた日本支部の幹部達が集まっていた。作戦会議室の一段高いところに支部長の久瀬、右にサイボーグ計画主任の斉藤、左に作戦部長の広瀬真希が座っていた。
「諸君に集まってもらったのは他でもない、緊急事態が起こったのだ」
壇上から久瀬が話し出した。顔には彼にしては珍しく緊張の面持ちがにじみ出ている。
「実は3日前イギリスのブラックゴースト欧州第1支部が壊滅した。あまりにも重大な事態なので上層部で極秘に伏せていた」
「何と、あのヨーロッパ第1支部が!?」
幹部たちが騒ぎ出した。欧州第1支部といえば北アイルランド紛争やユーゴ紛争などで武器を供給し莫大な収入を上げてきた強豪支部だったからだ。
「昨日入ったジュネーヴの欧州第2支部からのリサーチによると、第1支部を破壊したのはイギリスの大魔法使いアルバス・ダンブルドアだそうだ」
「ダンブルドア?」
「そうだ、ダンブルドアは世界有数の大魔術師だ。今までにも多くの悪の魔術師を血祭りに上げてきた男だ。現在はホグワーツ魔法魔術学校の校長職にある。そこで我々は保有するサイボーグを総投入してホグワーツに報復攻撃を行なう」
「しかし久瀬閣下、相手は魔法使いです。我々の戦力で対抗出来るのでしょうか?むしろ魔法使いには魔法使いで戦うべきかと思われます」
広瀬が質問した。
「広瀬、魔法使いといえども体力や耐久力は我々一般人と同じだ。彼らは魔法に頼りすぎて肉体は鍛えてないからな。肉弾戦なら肉体を強化したサイボーグの方が有利といえる。それにこっちには加速装置がある」
「なるほど、加速装置ね」
広瀬がうなずいた。
「そう、魔法使いの視力は一般人と同じ、加速中のサイボーグを発見することは不可能だ。一気に加速装置で接近し肉弾戦で殲滅すれば簡単に倒せる。『魔法使いには魔法使いで』と律儀に考えるから墓穴を掘るのだ」
「さすがは久瀬閣下。伊達に司令官をやってないですね」
感心する広瀬。
「さて斉藤、現在実戦投入可能なサイボーグ戦士は何体いる?」
久瀬が斉藤に尋ねた。
「現在、我々が保有している戦力はサイボーグ0010、先日完成した0011。簡易型サイボーグの<レントゲン>の4名です」
 斉藤が答えた。
「簡易型サイボーグ?」
「現在ブラックゴーストで開発中のサイボーグは対サイボーグ戦を想定して開発されています。そのため高コストで一般人との戦闘用にはオーバースペックです。そこで、体の一部をサイボーグ化しただけの低コストのサイボーグを開発しました。肉体的能力は一般人と大差ありませんが、一般人との戦闘用には十分です。紹介しましょう」
斉藤が手を叩くと会議室の扉から2人の少女が顔を出した。一人はロングヘアーのソバージュの少女だった。もう一人はお嬢様風の少女でロングヘアーのストレートの黒髪、ただし目が不自由らしく右手に盲人用のステッキを持ち、その先端を手前に突き出し左右に振りつつ地面を叩いて安全を確かめていた。
「私は深山雪見、このプロジェクトの担当です」
ソバージュの少女、雪見が説明を始めた。
「そして彼女が簡易型サイボーグ、川名みさきです。コードネームは<レントゲン>。彼女は小学生のときに事故で視力を喪失しました。そこでサイボーグ手術を行い、スーパーレンズ眼を装備して視力を回復させました。このレンズ眼は通常の可視光モードの他に望遠モード、X線(レントゲン)モード、夜間暗視モードに変更可能です」
「う〜ん、雪ちゃん、その<レントゲン>って名前60点だよ」
みさきが困惑した顔つきになった。
「しかも彼女の持っているステッキは内部にレーザーメスを装備した仕込み杖になっています」
雪見の説明を聞いたみさきがステッキの柄を回して上に抜いた。するとステッキからレーザーメスの剣が出てきた。
「雪ちゃん、この仕込み杖95点」
 みさきが嬉しそうに言った。
「分かった、行ってよし」
 久瀬は2人を下がらせてから今度の作戦についての説明を始めた。
「今回のホグワーツ襲撃作戦には本支部の持つサイボーグを全体投入する。兵力とは一度に投入するものだ。そして私は本作戦を<ホ号作戦>と命名した。<ホ号作戦>の発動は現地時間で今から72時間後だ。諸君の健闘を祈る」
 久瀬は一回咳払いしてから重要なことを付け加えた。
「それとホグワーツにいる倉田佐祐理は生きたまま捕獲せよ。決して殺してはならん。ではこれにて本会議を解散する、以上」 

 解散後、会議室を出た雪見とみさきは立ち話をしながら廊下を歩いていた。しばらくして社員食堂の前まで来るとみさきが立ち止まった。
「ねえ、雪ちゃん。出撃前にここの社員食堂でカツカレー食べてかない?」
「みさき、あんた昨日もカツカレー9皿食べたじゃない」
「だってブラックゴーストの食堂のカツカレーってすっごくおいしいんだよ。しかも良心的なお値段だし」
「ハイハイ、みさきはサイボーグになってもその大食いのクセ直らないわね〜」
 雪見は笑いながらみさきと社員食堂に入っていった。


イギリス:ホグワーツ魔法魔術学校

 日曜日の昼下がり、天気が良かったのでハリーとロンとハーマイオニーは庭で食事をしようと外に出た。
「あははーっ、皆さん待って下さいーっ」
 後ろから佐祐理が4人分の弁当をもって追っかけてきた。今日は佐祐理が他の人たちの昼食も全部作ってきたのだ。
 そんな彼らを寮の中から見下ろしている少年がいた。彼の名はドラコ・マルフォイ、<スリザリン>の生徒だ。
「ジャップを入学させるとは<グリフィンドール>も地に落ちたもんだ」
 マルフォイは馬鹿にしたような目つきで佐祐理たちを見ていた。

 4人は小高い丘までやってくるとそこで佐祐理が作った弁当を広げて食べ始めた。弁当の中身はサンドウィッチやローストビーフといったものだった。もちろん全部佐祐理の手作りである。
「わあ、これ全部佐祐理さんが作ったの?」
 お弁当を食べながらハリーが尋ねる
「はい、そうです」
 佐祐理が笑顔で答えた。
「うん、これおいしいね」
 ロンとハーマイオニーもおいしそうに弁当を頬張っていた。彼らがいつも食べている学校の食事は、量はあるがいかんせんイギリスなので味が不味かったのだ。3人はイギリス人なので普段はそうも感じていなかったが、日本人の佐祐理が作った弁当を食べているといかに普段の食事が美味しくなかったのか実感できた。こうして4人の昼食は楽しく過ぎていった。

 昼食がすんで佐祐理がお弁当の後片付けをしていた時、突然向こうから同じ寮のネビルがフラフラになってやって来た。体中傷だらけで息も絶え絶えの状態である。
「どうしたネビル?何があったんだ」
 ネビルの傷だらけの姿に驚いたロンがビックリして聞いた。
「敵・・・女の子・・・みんなやられた・・・・・・うう」
 そう言うとネビルはその場に倒れた。
「ネビル、しっかりしろ、一体誰にやられたんだ?」
 ハリーがあわてて倒れたネビルのもとに向かい、応急処置を始めた。その時、どこからともなく少女の声が聞こえた。
「あたしがやったのよ」
 ふと見上げるとネビルがやって来た方角に1人の少女が立っていた。ウェーブのかかったロングヘアーをしている。
「誰だ君は?」
 ロンが言った。
「あたしは0010、美坂香里。ブラックゴーストによって作り出されたサイボーグ戦士よ。先日ここの校長、ダンブルドアがブラックゴースト欧州第1支部を破壊してくれたわ。だからお返しにこのホグワーツを破壊するために送られて来たのよ。お礼参りってとこかしら」
 謎の少女、香里は口元に不敵な笑みを浮かべてそういった。
「何よ、所詮はマグル(人間)じゃないの。魔法使いに勝てると思ってるの?」
 それを聞いたハーマイオニーが言い返した。
「ふふふ、私は人間でもサイボーグよ。最先端の科学の塊があなたたち魔法使いごときにやられると思ってるの?」
 香里が呆れた口調で答える。
「なら、これならどう?」
 ハーマイオニーは懐から魔法のステッキを取り出すと呪文を唱えた。そしてステッキを香里に向かって突き立てる。杖の先から火の玉が香里めがけて発射された。
「加速装置!」
 とっさに香里は奥歯の加速装置のスイッチを押した。とたんハーマイオニーの放った火の玉がスローモーションになった。いや、正確には香里が猛スピードで加速したために香里から見える風景がスローになっただけなのだが。
 香里は上半身を後ろに大きく反らして攻撃をよけた。火の玉は香里の顔面の真上をスローで通り過ぎていった。
「『マトリックス』よ」
「はえ〜、かわされちゃったです〜っ」
 佐祐理がうろたえた。
「しっかりしろ、佐祐理さん!君は魔女だろ?こっちは4対1だ。4人で魔法攻撃すれば勝てるんだ」
 ハリーの激励を合図にハリー、ロン、ハーマイオニー、佐祐理はいっせいに魔法攻撃を開始した。彼我兵力差4対1で佐祐理たちが圧倒的に有利。しかし佐祐理たちが放った攻撃魔法はことごとく香里にかわされてしまった。
 香里はお返しとばかり目にも止まらぬ速さで手刀を放つ。

ビシッ!

 手刀を食らいハリー、ロン、ハーマイオニー、佐祐理が次々に弾き飛ばされ地面に倒れた。
「魔法使いといえ肉体は人間と同じよ。肉体を強化したサイボーグの敵じゃないわ」
 4人が戦闘不能になったのを見た香里が大胆不敵な笑みを浮かべた。
「そろそろとどめと行こうかしら」
 香里はとどめを刺そうと倒れこんでるハリーに近づいていった。
「うっ!」
 突然香里の動きが止まった。
「・・・」
 香里が後ろを振り返ると、そこには三角帽を被った来栖川芹香が必死に黒魔術の呪文を唱えていた。足元には魔方陣が描かれ、手には黒魔術の御符が握られていた。芹香が騒ぎを聞きつけ香里に見つからないようにここに駆けつけ、香里が油断した一瞬を突いて黒魔術をかけたのだ。彼女の黒魔術のせいで香里は動きを封じられた。
「あははーっ、形勢逆転ですーっ」
 その間に倒れていた佐祐理たちが何とか起き上がった。一息ついたそこにマルフォイがやって来た。実は彼は陰からこの戦いを見物していたのだ。
「やれやれ、こんなマグル1人にてこずるとはグリフィンドールも形無しだな」
 マルフォイは佐祐理たちを一瞥して罵倒するセリフを吐いた。そして今度は動けない香里の方を振り向いた。
「とどめは俺がさしてやるよ」
 マルフォイが呪文を唱えようとしたその時、突然電撃が芹香を襲った。

ズバーン!

「・・・」
 声にならない悲鳴を上げて芹香はその場に倒れた。
 マルフォイ驚いて辺りを眺めると、芹香の背後の草むらに黒髪のショートカットの少女が立っていた。少女の肩には格子模様のストールがかかっている。その少女は芹香を倒すと、呪文が解けてその場にへたれ込んでいた香里の元へ駆けて行った。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「あ・・・ありがとう、栞」
「お姉ちゃん、だから言ったじゃないの、私たち0010は2人で1人なんだって」
「栞、お姉ちゃんが悪かったわ。つい1人で戦えるとばかり・・・ごめんなさい」
「誰だお前は!?」
 それを見たマルフォイが驚いて尋ねた。
「わたし?わたしは0010、美坂栞です」
 その少女、美坂栞が答えた。
「0010が2人?」
 新手のサイボーグの出現に驚くマルフォイ。
「そう、0010はプラスとマイナスの電極を持つ私たち姉妹で構成されるサイボーグ。私がプラス、お姉ちゃんがマイナス。この2人が一緒になった時、本当の力が発揮されます」
「ふん、またジャップか」
 マルフォイが馬鹿にした態度で言った。
「そんなこと言う人、嫌いです」
「うるさい、これでも食らえっ!」
 マルフォイはやおら呪文を唱えると手から数十発の攻撃魔法を乱射した。多数の攻撃魔法が栞に向かって発射され、次から次へとマクロスミサイル(坂野サーカス)ように襲い掛かる。しかし栞は加速装置を使い余裕で全弾回避してしまった。
「当たらないから<加速装置>って言うんですよ」
 栞はそのまま加速して一瞬で間合いに入り込み、相手の首筋に必殺の回し蹴りを放つ。それをまともに食らったマルフォイは数十メートル蹴り飛ばされ、そのまま地面に叩き付けられ気絶した。
「あなたなんか、私たちサイボーグの前では『腐ったミカン』も同然です」
 倒れたマルフォイを見た栞が侮蔑の表情でつぶやいた。
「さてと、今度は」
「あなたたちの番ですね」
 栞と復活した香里が今度は佐祐理たちの方を向いた。

ズガガガーン!

 2人が佐祐理たちに向かって電撃を発射した。しかし電撃が命中する寸前、佐祐理たちはその場から忽然と消えてしまった。その場には食べ終わった弁当箱だけが残されていた。
「き、消えたわ!?」
 ビックリする香里と栞。
「彼らも加速装置を持ってるのかしら?」
「いや、そんなそぶりは感じられなかったわ」
「まあいいわ、あたしたちの目的はホグワーツの破壊。彼らよりホグワーツの破壊が先決よ」
「分かったわ、お姉さん」
 香里と栞はその場を立ち去るとホグワーツ目指して駆け出していった。

 その頃佐祐理たちは校舎のそばの植え込みに倒れこんでいた。
「ふぇ〜、どうやってここに?」
 それを見た佐祐理が不思議がった。さっきまで佐祐理は丘にいたのだ。
「僕が魔法でみんなを瞬間移動させたんだ。危機一髪だったよ」
 ハリーが説明した。
「ふう、これでひとまず奴らの追跡をまけたな」
 ロンがほっと胸をなでおろした。その時
「それはどうでしょうか?」
 その声と同時に前方の地面が裂け、そこから巨大な物体が出現した。全身黒のボディー。中央部に一列に窓がついた卵形の胴体。そこに細長い脚がゲジゲジのように6本付いた、全長8メートルはあろうかという巨体。その姿は巨大なクモかH・G・ウェルズの『宇宙戦争』に登場する火星人の三脚戦車を連想させた。
「何だこいつは!?」
「私は0011、天野美汐です」
 巨大グモの中から声が聞こえてきた。
「0011、君もブラックゴーストなのか?」
「そうです。戦いを始める前に一つ言っておきます。私はあなたたちには何の恨みもありません。私はブラックゴーストに誘拐されこんな姿に改造されました。ブラックゴーストに『あなたたちを倒してホグワーツを破壊すれば私の脳を元に体に戻してやる』と命令されました。私はこのみにくい体が嫌いです。だから私は戦います」
「こいつ、なんか喋り方がオバサン臭いぞ」
 ロンのこの言葉を聞いた0011=美汐は急に怒り出した。
「物腰が上品だと言って下さい」
 次の瞬間、美汐の胴体部にある窓のシャッターが開き、その中からカノン砲が出現した。そして佐祐理たちめがけてカノン砲から次々に砲弾が発射された。

ドガッ、ドガッ、ドガッ

「あわわわ、みんな、逃げろーっ!」
 佐祐理たちは一目散に逃げ出した。


日本:水瀬秋子宅

 午後、名雪が学校から帰って来るといきなり電話が鳴り出した。慌てて名雪が受話器を取る。
「お母さん、お母さんに電話だよー、早く出てよ」
 名雪の言葉を聞いた秋子さんが代わって受話器を取る。ところが、受話器を片手に話していた秋子さんの表情がドンドン険しくなってゆく。
「はい・・・はい・・・そうですか・・・分かりました」
 受話機を置いた秋子さんはすぐ名雪に他のサイボーグ戦士たちをここに呼ぶように命令した。慌てて名雪が携帯で他のメンバーと連絡を取る。幸い全員に連絡が取れた。

 その日の夜、水瀬宅に秋子さんからの連絡を受けたサイボーグ戦士たちがおっとり刀で駆けつけてきた。
「秋子さん、一体どうしたの?」
 あゆが尋ねる。
「皆さん、実はイギリスから緊急連絡がありました。イギリスのホグワーツにブラックゴーストのサイボーグが出現し破壊活動を行なっているそうです。イギリス側も懸命に応戦していますが形勢はドンドン悪化しているそうです」
「ホグワーツって、倉田さんの留学した学校だよー」
 ホグワーツと聞いて名雪が驚いた。
「・・・佐祐理・・・急いで助けに行かないと」
 さしもの舞も動揺を隠せない。
「あうーっ、それにサイボーグの対抗出来るのは真琴たちサイボーグだけだよ」
「みゅー、イギリスにたすけにいこうよ」
「でもどうやって助けに行くんだよ。これから成田に行って飛行機に乗ってもホグワーツまで約1日かかるんだよ」
 瑞佳が困った顔で言った。
「水瀬さんの超能力でテレポートするというのはどうかな?」
 シュンが提案した。
「出来ないよ、9人同時にイギリスまでテレポートさせるなんて。あまりにエネルギーを使いすぎて命にかかわるんだよ」
 名雪が説明する。
「大丈夫です。こんなことも想定して秘密兵器を用意しておきました」
「秘密兵器!?」
 驚く一同をよそに秋子さんはキッチンの床に隠してあったスイッチを押した。するとキッチンの壁が横に開き、その中からエレベーターが出現した。みんなが乗るとエレベーターは地下に潜っていった。
「こんなものいつ作ったんです?」
 茜が質問した。
「それは秘密です」
 エレベーターが目的地に到着した。扉が開くとそこには巨大な格納庫と真っ赤に塗られた物体が置いてあった。その物体は潜水艦のようにも見えたが両脇に主翼が付いており、何とも説明しづらい不思議な代物だった。
「秋子さん、これは何なの?」
 この物体を見た瑞佳が驚いて質問した。
「これは私が製作した『万能潜水艦<ドルフィン号>』です。空中、海上、海中を自由自在に動くことが出来る夢の乗物です」
「ドルフィン号?」
「そう、今から100年ほど前、異星人のものと思われるオーヴァーテクノロジーで作られたノーチラス号という万能戦艦があったの。ノーチラス号は日本海溝に沈んだけど、その残骸を私の父、ギルモア博士が発見して詳細な図面と分析リストを作ったの。そしてそれを元に私たちの技術力でコピー生産したのがこの万能戦艦<ドルフィン号>です。だから<ドルフィン号>はノーチラス級2番艦とも言えますね」
「そう、その時わたしが設計でお母さんを手伝ったんだよー」
 名雪が自慢そうに言った。
「そうか、だから名雪は最近授業中でも寝てばっかりだったのね」
 留美が納得して言った。
「七瀬さん、それってあんまりだよー」
 名雪がむくれた。
「さあ皆さん、この<ドルフィン号>でイギリスに出発しましょうね」
 秋子さんがそう言ったとき、祐一が割って入った。
「秋子さん、俺も連れてって下さい」
「祐一さん・・・」
「このままだと佐祐理さんとハーマイオニーさんが」
「祐一君、ハーマイオニーって誰?」
 あゆが言った。
「いや、あの、ともかくこのままだと佐祐理さんが大変なことに。だから俺も助けに行きたいんです。秋子さん、お願いします」
「了承」
 秋子さんは祐一の同行を許可した。

 <ドルフィン号>に全員が乗り込んだのを確認してから秋子さんが発進命令を出した。操縦席に座った瑞佳は計器類を全部チェックすると格納庫の扉を開けるボタンを押した。

ゴゴゴゴゴゴゴ

 7年前祐一とあゆが遊んだことがある裏山。突然その中腹が地響きと共に突然開き、その中から巨大な滑走路が出現した。さらに出現した滑走路の先端がスキージャンプ台のように上に向かって傾斜していき、山の木々が滑走路を避けて次々に左右に倒れていった。
「<ドルフィン号>、発進だよ!」
 瑞佳が発進レバーを引くと<ドルフィン号>は滑走路に内蔵されたカタパルトによって射出され、勢いよく山の中腹から外へと発進していった。後部のノズルからはアフターバーナーの炎と大量の煙を出しつつ<ドルフィン号>は大空へと舞い上がっていった。
「うわっ、すごいよっ。秋子さん」
「みゅー、とんでるとんでる」
 <ドルフィン号>の発進を見てみんなが大喜びしていた。
「さあ、みんなイギリスまで全速力で行くわよ」
 瑞佳はそう言うと操縦桿を動かして機体をイギリスに向けた。
「・・・佐祐理、・・・今行く」
 舞は1人窓から外を見ながらそうつぶやいた。

つづく


あとがき
 ということで第3話です。前回のあとがき通りイギリスが舞台になってます。
 それとゲストで来栖川芹香先輩が登場してます。
 ところで「何でハリー・ポッターがあんなに簡単にサイボーグに負けるんだ」と疑問に思った人がいるかもしれません。これは香里達が久瀬から魔法使いの弱点を教えられているのに対し、ハリー達がサイボーグについて何も知らないからです。そのため魔法使いと同じ感覚でサイボーグと戦って完敗したわけです。必ずしも魔法使いが弱いわけではありません。
 第4話ではいよいよイギリスでのバトルが始まります。


管理人のコメント

>「僕はハリー・ポッター、よろしくね」

 世界的有名人登場!なんと言うか、ワールドワイドな展開です(意味不明)。

>「来栖川芹香って、あの来栖川グループの令嬢でしょ。まさに乙女の象徴ね」

 うーん…芹香ってお嬢様ではあってもなんとなく「乙女」という感じはしないのですが…私だけかな?

>ホグワーツにいる倉田佐祐理は生きたまま捕獲せよ。決して殺してはならん。

 さすが久瀬閣下。どんな時でも自分の欲望は忘れていませんね(笑)。

>ここの社員食堂で

 しゃ、社員食堂って…まぁ、秘密結「社」なので間違ってはいないと思うのですが…

>倒れたマルフォイを見た栞が侮蔑の表情でつぶやいた。

 やはりヤラレ役であったか、マルフォイよ…

>「このままだと佐祐理さんとハーマイオニーさんが」

 祐一君…男としてわかりやすすぎです(笑)。

 さて、いよいよドルフィン号も出撃して、次回からは英本土決戦(違)ですね。果たしてボグワーツとそこに住む魔法使いたちの運命やいかに?

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