〜Kanon009〜

作:ニルス曹長さん

第1話・誕生!Kanon009


翌日:水瀬秋子宅

 ここは雪と奇跡が舞い降りる日本のある北国の小都市。朝7時、秋子さんはリビングで食事の準備をしていた。今日の朝食はシンプルなパンと牛乳だ。そこに昨日パーティーに来てくれた人たちが三々五々集まってきた。
「皆さん、おはようございます」
「おはようございます」
 なぜかみんな眠そうな顔をして目をこすりながらリビングに腰掛けて朝食を取り始めた。
「うぐぅ、秋子さん、祐一クンは?」
 リビングに祐一がいないので心配そうなあゆ。
「あゆちゃん、大丈夫。祐一は皆さんより前に朝食を取ったの。今は私が頼んで買い物に行ってもらってるところよ」

「さて・・・と、みなさんいるようね」
 朝食が終わった時、秋子さんが突然話し始めた。
「ところでみなさん、ブラックゴーストって知ってますか?」
「ブラックゴースト!?」
 その場にいた全員が知らないという顔つきになった。誰もブラックゴーストなんて聞いた事がなかったのだ。
「皆さん、ブラックゴーストは死の商人―武器を売って儲けている人の事よ―が作った秘密結社の名前です。ブラックゴーストは世界中に武器を売って戦争を起こして金儲けをしてたの。でも、自分達が作った9人のサイボーグ戦士たちに反乱を起こされて倒されたのよ」
 その横で名雪が寝ぼけまなこで大あくびをして聞いていた。
「でもお母さん、ブラックゴーストって今はないんでしょ?」
「ところが最近の同時多発テロ、世界中で起こっている戦争の影にはあのブラックゴーストの影がちらついてるらしいのよ。それで世界を暗黒の時代にしないためにも、かのサイボーグ戦士が必要なの。実はね、昨日名雪の誕生パーティーで出した自家製アップルパイのジャムの中に睡眠薬を入れておいたの。そして皆さんが眠ってるあいだにサイボーグ手術を・・・」
「え?」
 一同唐突な展開に声も出なかった。一方秋子さんは説明を続ける。
「実はね、私の結婚前の旧姓は秋子・ギルモアっていうの。そして私の父はアイザック・ギルモアという有名な科学者だったの。父は昔ブラックゴーストで働いててサイボーグを作ってたのよ。でも、ある時自分が騙されてブラックゴーストに協力してるってことに気がついて、サイボーグ達と一緒にブラックゴーストを脱出して正義のために戦ったのよ。この家で私が女手一つで名雪を育てられたのも、みんな父のギルモア博士が残してくれた遺産のおかげなんです」
 確かに秋子さんの職業や過去は全然知られてない。しかも明子さんには謎ジャムがある。ミステリアスな一面を持つ主婦、水瀬秋子。だがまさか彼女があのギルモア博士の娘だったとは。言葉も出ない一同を放っておいて秋子さんは話を続けた。

「まず最初のサイボーグ001は名雪、あなたよ」
「え?わたし?」
 ビックリする名雪。当然である。
「実はね、まず自分の娘でサイボーグ実験をやろうと考えたの。そこで2年ほど前にあなたの脳を手術してナイトヘッド(特殊能力)を覚醒させたのよ。名雪、何か心当たりはないかしら?」
「そういえば2年前から睡眠時間が増えたよ。授業中も眠くて居眠りばかりするようになったの」
「それは脳をいじって頭を良くしたからなの。だから居眠りしてても高校受験に合格できたのよ。名雪の脳の活動に体が追いついていかないから、すぐに眠くなっちゃうの」
「えっ、そうなの?」
「名雪、あなたの能力は超頭脳と超能力よ。起きてる限り00ナンバー最強と言ってもいいわ。サイコキネシス、テレパシー、テレポーテーション、バリアー、どんな超能力でも出来るの。その代わりエネルギーの消耗が激しいのですぐに眠っちゃうのが弱点ですけどね」
 自分の娘を実験台にしたことを笑顔で話す秋子さん。まさにマッドサイエンティストである。それよりも脳手術で超能力を開花させたのならサイボーグじゃなくて「人工超能力者」「強化人間」って言わないか?
「名雪、テレポートをやってみて」
「ううう、テレポート、だよ」
 名雪が全神経を集中する。すると彼女の部屋にあったはずのけろぴー人形が一瞬にしてリビングにテレポートした。
「うわー。すごいや」
 名雪の超能力を目の当たりにして驚く一同。しかし名雪はさっきの超能力で力を使い果たしてしまったらしく、けろぴー人形を抱いて居眠りを始めていた。
「くー」

「そして002はあゆちゃんよ」
 秋子さんが説明を続けた。
「うぐぅ・・・秋子さん、ひどいよー」
 あゆが泣き顔で答えた。あゆにとってこの発言は相当ショックだったようだ。
「002の能力は飛行能力、空を自由に飛べるのよ。最高速度はマッハ5、しかも加速装置まで付いてるの」
「わーい、ボク空を飛べるんだね」
「でもおばさん、加速装置は009のオリジナルだったはずだよ?」
 瑞佳が不思議そうな顔で尋ねる。
「それはアニメ版の設定。原作では002も装備しているわ」
 一方、あゆは有頂天だった。
「わーい、秋子さん、これでたいやきの食い逃げも楽勝だよ」
「・・・・・・」
 秋子さんは苦笑いを浮かべた。

「次、003はメンバー唯一の男の子、氷上シュン君よ」
「僕ですか?」
 当惑する氷上シュン。
「氷上君、あなたの視力と聴覚を極限まで強化したの。だから周囲50キロ以内の全ての音が聞こえ、建物の中まで透視出来るのよ」
「へえ、僕にふさわしい能力ですね」
「あと003のお約束として001のお守りもお願いね」
 秋子さんはそう言うとけろぴーを抱いて眠りこけている名雪を氷上に手渡した。ずしっと名雪の四肢が氷上の太ももに食い込む。
「とほほ・・・・・・」

「じゃあ次いくわよ。004は川澄舞さん、あなたよ。舞ちゃん、良かったわね、全身武器で」
「・・・よくない」
「舞ちゃん、サイボーグ手術であなたの右手にはマシンガン、左手にはレーザーメスが内蔵されているわ。しかも両脚にはミサイル、体内にはヒロシマ級反応弾まであるわ」
 何気に原爆のことを<反応弾>と呼ぶ秋子さん。さすがはギルモア博士の娘、つわものである。(それよりどこでそんな物騒な代物を・・・)
「・・・悪くない」
 舞は自分の体をしげしげと眺めつつ呟いた。
「・・・でも、剣の方がいいな」
「了承」

 続いて秋子さんは留美を指差した。
「そして005は七瀬留美さん。百人力の力持ちよ」
「な、な、なんですってー!」
 それを聞いた留美が怒り狂った。彼女はかつて剣道部にいたこともあり周囲から「男勝り」と言われてきたことがあっただけに、この発言がトラウマをえぐったのだ。
「なんで私があんなインデ・・・・・・もとい、ネイティヴ・アメリカンと一緒にされなきゃならないのよーっ!この純真な乙女のこの私がっ!」
 怒った七瀬はテーブルを叩いた。
 ボコッ!
 その瞬間、テーブルは豪快な音と共に真っ二つに割れた。
「いやあああーっ、乙女な女子高生であるこの私がただの怪力女に墜ちるなんて」
 そこにあゆが突っ込みを入れる。
「七瀬さん、キミはどこに墜ちたい?」
 カッとなった留美はあゆの胸倉を掴んで怒鳴りつけた。
「何よ!この<うぐぅたいやき娘>ごときが乙女にケンカを売ろうっての?思い知らせてやるわ!」
 周囲の空気が険悪になる。さすがにたまりかねて秋子さんがあいだに入った。
「二人ともやめなさい。同じ00ナンバーサイボーグですよ」

「えーとじゃあ次は、繭ちゃん。006はあなたよ」
「みゅー、006?」
 繭が不思議そうな顔つきで秋子さんを眺める。
「006は口から火炎を吐き、炎で地面を溶かして地中を掘り進めるのよ」
 秋子さんの説明を聞いた繭は、うれしそうにほっぺたを思いっきり膨らまし始めた。
「みゅー!」
 その瞬間、繭の口から盛大な炎が飛び出し、リビング全体を覆い尽くした。繭がフルパワーで炎を吹き始めたのだ。
「あうーっ!」
「誰か繭を止めろ!」
「うぐぅ、火事だよー」
 右往左往する一同。しかし繭は楽しそうに炎を出すことをやめようとはしなかった。
 バシッ!
 間一髪のところで秋子さんのチョップが繭の後頭部に炸裂。繭は「みゅー」と叫ぶとその場にばったり倒れた。
「ふう、あぶなかった」
 秋子さんは冷や汗をぬぐった。一方、危うく死にかけた留美はカンカンになって怒鳴った。
「何てことするのよおばさん!繭なんかに火炎放射能力与えたらどうなると思ってんのよ!家の1軒や2軒の全焼じゃすまないわよ!キ○○○に刃物渡すようなもんよ!」

「さて次の007は・・・」
 留美の怒りの追求に対してそ知らぬ顔で話題を変えた秋子さんは、肉まんをほおばってる沢渡真琴を指差した。
「真琴、あなたが007ね。007は変身能力。ヘソのスイッチを押すと自分が思ったどんな物にでも変身できるのよ」
「にゃははは、真琴変身しまーす」
 真琴はケラケラ笑いながらヘソのスイッチを押した。すると、真琴の体が粘土のようにグニャグニャと形を変え、キツネの姿に変わった。
「あうーっ、これすっごーい!」
 真琴の変身にビックリする一同。キツネの姿で大喜びする真琴。真琴がもう一度ヘソのスイッチを押すと、また彼女の体は変化を遂げ、元の人間の姿に戻った。
「あうーっ、これで祐一にイタズラ出来るよー」
 祐一にどんなイタズラをしようかと考え大喜びする真琴だった。

「里村茜さん、あなたは008」
「嫌です」
「008は水中戦用サイボーグ。スーパーキャビテーション理論で水中を200ノットの超高速で前進可能よ。水中では加速装置は使えないから、水中戦で008にかなう敵は存在しないわ」
「そんなの嫌です」
 けんもほろろな茜だった。それを聞いた秋子さんは立ち上がると台所に向かった。そして台所から大きな紙袋を持ってくると、それを茜に手渡した。
「はいこれ、山葉堂の<特製練乳ワッフル>1ダースよ」
 山葉堂のワッフルを見た茜は急に嬉しそうな顔つきに変わった。
「許してあげます」

「そして瑞佳ちゃん、あなたが最強の00ナンバーサイボーグ、サイボーグ009よ」
「わあ、009、すごいんだよ、主人公だもん」
「009の特殊能力は加速装置よ。奥歯のスイッチをカチッと押せばマッハ5で走れるわ。加速装置が作動している間じゅう、あなたの外の時間は止まったも同然なの。あゆちゃんもそうだけど加速装置は主役ヒロインの特権よ」
「うん、やってみるよ。加速装置!」
 瑞佳は奥歯のスイッチをカチッと押した。すると一瞬で外の風景の動きが超スローになった。周りの人々も瞬き一つせずまるで銅像のように動かない。音さえも聞こえてこない。
「うわー、すごいよ」
 瑞佳がもう一度奥歯のスイッチを押すと、とたんに周りの風景は元に戻った。
「すごい、本当に009だよ!」
「そうでしょ?加速装置は自信作なの」
 大喜びする瑞佳と秋子さんだった。

 そのあと秋子さんはみんなにサイボーグ戦士特製の真紅のバトルコスチュームと黄色いマフラーを手渡した。その時、さっきまで「くー」と寝息を立ててた名雪が目を覚ました。
「うにゅー。それでお母さん、ブラックゴーストはいつ襲ってくるの?」
「皆さん、実はブラックゴーストが復活したかどうか正確な事は分からないわ。あくまで『復活してるらしい』という事しか分からないの。ですから皆さんはこれから普段通り学校に通って授業をして下さい。もしブラックゴーストが襲ってきたら、各人それぞれに戦って下さいね」
 まるで他人事のような秋子さんの無責任な発言。これを聞いて怒り出した00ナンバーたち。
「うぐぅ、ひどいよ秋子さん」
「勝手にサイボーグ手術した責任とってよ!」
「ギルモア博士の遺産あるんだろ!慰謝料払ってもらおうか!」
 00ナンバーたちが勝手にサイボーグにされた怒りに燃えて秋子さんに詰め寄り出した。この恨み晴らさでおくべきか。とそのとき
 ガチャ
 突然リビングの扉が開き、祐一が部屋に姿を見せた。秋子さんに頼まれた買い物から帰って来たのだ。
「・・・あれ、みんな深刻な顔してどうしたの?」
 祐一はあたりを見渡すと、ふと名雪の足元を見た。そこにはバトルコスチュームとマフラーが畳んであった。
「何だ名雪、このコスチュームは?今時こんなダサいコスプレするヤツいるのか?」
 それを見た祐一が何気なく呟いた一言。しかし、その瞬間名雪たち00ナンバーは殺気立った眼で祐一をギラッとにらんだ。人の不幸を馬鹿にしやがって。コイツだけは、コイツだけは生かしてなるものか・・・
「ボクのこの手が真っ赤に光る、祐一君を倒せととどろき叫ぶ・・・」

 その後、祐一が半殺しにされた事は言うまでもあるまい。


つづく
管理人のコメント


 さて、今回は00ナンバーズの紹介なわけですが…なんかみんな物凄く受け止め方があっさりしてますね(笑)。

>自分の娘を実験台にしたことを笑顔で話す秋子さん。まさにマッドサイエンティストである。

 いや、娘だけなら問題はないんですけど、あとの8人はどうするんですか。

>何てことするのよおばさん!

 ああっ、言うてはならん事を!!(笑)。

>これを聞いて怒り出した00ナンバーたち。

 …喜んでいるように見えたのは気のせいですか?(笑)。

>その後、祐一が半殺しにされた事は言うまでもあるまい。

 何も悪い事はしていないのに…祐一、哀れ(笑)。
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