雪が降っていた。

思い出の中を、真っ白い結晶が埋め尽くしていた。

数年ぶりに訪れた白く霞む町で、

今も降り続ける雪の中で、

俺は九人の戦鬼と出会った。



〜Kanon009〜

作:ニルス曹長さん

プロローグ

アフリカ:ケニア共和国・セレンゲティ国立公園


 アフリカ。見渡す限りの広大なサバンナ。その中の一本道を2人連れの男女が車に乗って走っていた。男の方は栗色の髪の中年男性、女性の方は金髪にベレー帽を被っていた。年は40歳前後と思われたが、風貌のせいか見た目は実際よりも5歳ほど若く見えた。
「ここか」
 2人はサバンナの中に建っているログハウスの前で停車した。
「彼はここで野生動物保護官をしてると聞いてきたが・・・」
 遠くからサファリルックに身を固めた黒人男性が近づいてきた。その顔は、口はタラコ唇、目は半分まぶたが閉じたうつろな目で「いかにも黒人」といった風貌の男性だった。だが眼光は鋭く、この男性がただ者でない事を暗示していた。
「やあ、ジョー、フランソワーズ。二人とも久しぶりだな、かれこれもう20年近くも会ってないのか。」
「そちらこそ久しぶりだな、ピュンマ」
「お久しぶりね」
 ジョー、フランソワーズ、ピュンマと名乗る三人は再会を喜び合った。
「ところでジョー、君が003=フランソワーズと結婚したことは知ってたが、その後の結婚生活はどうだ。何かと大変だろう」
「大丈夫、現在は相沢姓を名乗って偽名で生活している。祐一という一人息子が出来たが、彼にも私たちの正体については何も明かしていない」
「そうか、それはよかった」
「ところでピュンマ、かつてはアフリカ独立運動の先頭に立っていた君がなぜ動物保護官なんかをやってるんだ?」
「うん、その後の政治なんかには・・・・・・権力闘争には興味がないからね」
 ピュンマはうつむいて答えた。
「そういえば、他のメンバーたちは元気にやってるのかしら?」
 今度はフランソワーズが話を繰り出した。
「何だフランソワーズ、知らないのか?」
 ピュンマはちょっと意外そうな顔をして2人を見つめた。
「10数年間も子供の世話をしてれば世間にも疎くなるわよ」
「ああ、みんなは世界中で元気にやってる。心配ないよ」
 ピュンマは笑って答えた。
「ところでどうして今日は2人だけでアフリカに?」
「たまにはこうして2人きりでいるのもいい思って」
 ジョーが苦笑いを浮かべた。
「それにうちの祐一はスワヒリ語が出来ないからな」
「スワヒリ語?そうか、君の息子さんはサイボーグじゃないから自動翻訳器がないんだったな」
「俺たちがサイボーグ戦士としてどれだけ辛い経験をしてきたか・・・。だから、祐一だけにはそんなサイボーグの苦しみを味あわせたくはないんだ」
「で、息子さんはどこに?」
「祐一は例の秋子さんの所に預けておいた。彼女なら安全だ。もっとも祐一にはうちの妻の姉だと言ってあるけど」
「秋子さんか、彼女の所なら安全だな」

 ピュンマはフランソワーズを見るとなぜか彼女のトレードマークだった赤いカチューシャがない。
「そういえば、フランソワーズ。昔付けてたカチューシャはどこに?」
「うちの祐一ったら7年ほど前に『好きな女の子にあげるんだ』って、私のカチューシャを持ってったの」
「ふうん、息子さんも女性にもてるのか?」
 ピュンマのジョークにフランソワーズがバッグからエアメールを取り出した。
「これを見て。うちの祐一がよこした手紙だけど、転校先でも女の子にモテモテらしいの」
「はは、女たらしのジョー、息子さんも君に似たんだね」
 かつてジョーが一番モテまくってた事を思い出してピュンマがニタニタ笑いだした。
「おいピュンマ、昔の事は忘れろよ・・・」
「あなた。もう、失礼しちゃうわ、ふん」
 慌てて言い訳するジョー。フランソワーズはおかんむりである。
「ところでピュンマ、急用ってなんだい?」
 ジョーが話題を切り出した。
「ここ数年、ルワンダ、コンゴ、ソマリアとアフリカ各地で大規模な内戦が頻発している。そこで極秘裏に調査してみたんだが、どうやら背後にはあの秘密結社ブラックゴースト(黒い幽霊団)の影が見え隠れしている。決定的な証拠はまだ挙がってないが、奴らが復活したのはほぼ間違いない」
「ブラックゴースト!?」
 ジョーとフランソワーズはビックリした。ブラックゴーストは自分たちが20年以上前に倒したはずでは?
「そう、あのブラックゴーストだ。またしても復活したようだ」
「だがどうする。世界中に仲間が散らばってるし。現に俺たちはもう年だ。家族もある。ブラックゴーストと戦うのは酷だ」
「なあジョー、そのことなんだが」
 ピュンマが切り出した。
「何でも秋子さんに考えがあるらしい。彼女に任せれば大丈夫だろう。何たってあの人の娘さんなんだから」


日本:ある雪国の町・水瀬秋子宅


 日本のとある北国の小都市。外では雪が深々と降り続いていた。
 ここは水瀬秋子さんの自宅。ここでは娘の名雪の誕生パーティーが開かれていた。テーブルには色々な料理が並べられ、その周りではみんなが楽しそうに名雪の誕生日を祝っていた。
 ピーンポーン!
 ドアのベルが鳴った。秋子さんがドアに出ると名雪の学校の生徒、七瀬留美さんが立っていた。
「こんばんは七瀬さん、今日はわざわざうちの名雪の誕生日にお越しいただいて」
 秋子さんが嬉しそうな顔であたりを見渡した。すると留美の横に見慣れない数人の男女が立っていた。
「ところで七瀬さん、この人たちは誰かしら?」
「紹介するわ、私が前にいた高校のクラスメイトだった友達なの。今日は特別に私が呼んで名雪さんの誕生パーティーに来てもらったのよ」
「氷上シュンです」
「みゅー、椎名繭なのー」
「里村茜」
「長森瑞佳だよ」
「皆さんもどうぞ中へ、今アップルパイを持って来ますからね」
 秋子さんは台所に向かった。そして冷蔵庫からアップルパイを取り出すと、パイ生地を開け、その中に戸棚に閉まってあった自家製の謎ジャムを塗りこむと、そのままパイ生地でふたをした。そしてそ知らぬ顔でパイをパーティー会場に持っていった。
「さあ、アップルパイを持ってきました。皆さんご自由に食べて下さいね」
「わーい、おいしそー」
 会場にいたメンバーはアップルパイを見るやいなやわれ先にと食べ始めた。そして「うまいうまい」「さすがは秋子さん」と誉めつつあっという間にパイを平らげてしまった。
「・・・くー」
「うぐぅ、ねむいよー」
 少したつとパイを食べた人たちが強烈な睡魔に襲われて次々に眠り始めた。それを見ていた秋子さんは心配そうに言った。
「おやおや、こんな所で寝ていると風邪を引きますよ」
 だがそのとき秋子さんは口元に笑みを浮かべていたのだった。

つづく


管理人のコメント


 ニルス曹長さんよりKanon009のプロローグを頂きました。ありがとうございます。

>俺は九人の戦鬼と出会った。

 …嫌な出会いだ(笑)。

>大丈夫、現在は相沢姓を名乗って偽名で生活している。祐一という一人息子が出来たが

 なんとぉっ!祐一はあの二人の子供だったのですかっ!?うーん、意外すぎる事実だ(笑)。

>秋子さんか、彼女の所なら安全だな

 …そうか?(笑)。

>何でも秋子さんに考えがあるらしい。彼女に任せれば大丈夫だろう。何たってあの人の娘さんなんだから

 いや、激しく不安ですね(笑)。

>「おやおや、こんな所で寝ていると風邪を引きますよ」
>だがそのとき秋子さんは口元に笑みを浮かべていたのだった。


 このあと改造されたのか…名雪たち、哀れ(笑)。