2005年 3月21日 Air皇国首都カンナ

 クラナド大陸随一の古都、カンナ。その始まりは古く、約1000年前に遡る。京都のような大陸風の計画都市ではなく、街道と川に沿って自然な発展を遂げてきた都市だが、伝統を守ろうとする市民たちの手によって無秩序な開発にさらされることなくその景観が保たれてきた。2001年には世界遺産にも登録されたその町並みは、奔放な少女と深窓の姫君に例えられる二面を備えた美しさで世界に知られている。
 Tactics連邦軍のAir皇国における占領軍司令部は、上空から見ると翼を持つ少女の形に見えるその市街地の、首筋の部分にあるカンナプリンセスホテルにあった。戦前は観光客に人気の観光ホテルだったそこも、現在は自動小銃を構えた衛兵たちと装甲車両によって厳重に警備されている。
 その最上階にあるスイートルーム…占領軍司令官公室となっている部屋で、司令官が一人の人物と話をしていた。
「…まさか、貴方たちの方からそれを言い出すとは思っても見ませんでしたな」
 司令官の相手をしていた人物…カンナ市長が皮肉ったような口調で言うと、司令官は苦笑を浮かべた。
「まぁ、そう言わないでいただきたい。私はただ単に貴重な人類の宝を破壊したと言う汚名を着たくないだけなのでね」
 司令官の言葉に、市長はうなずいた。
「まぁ、良いでしょう。理由はどうあれ貴方の決断には敬意を表します」
「では、よろしく」
 市長を送り出すと、司令官はカンナ近郊の部隊に新しい集結点を指示する命令書を作り上げ、それにサインした。その移動する部隊の中には、彼が直接指揮するカンナの警備部隊も含まれていた。

カノンコンバットONE シャッタードエアー


外伝 翼の還る処


Mission8.85 カンナ解放


3月11日 ISAF前線基地

 バンカーショット作戦、ウッドキーパー作戦の成功により、大陸への足場を完全に確保したISAFはその支配地を内陸に向けて伸ばしつつあり、その先頭はカンナまで200キロほどの位置に近づいていた。
 その先頭部分に近い野戦飛行場の一角にある待機所で、パイロットたちはラジオから飛び込んできた思わぬニュースに耳を傾けていた。
『…最初にお伝えしました通り、本日正午、カンナ市長はカンナの無防備都市化を宣言しました。Tactics連邦軍南部総軍司令部もこれを了承し、市内より全ての部隊を撤退させることに合意しました。Tactics連邦では、今回の処置は貴重なクラナド文化の宝庫であるカンナ市街を戦災から守るためのものであり、カンナ防衛の意思を放棄したものではないと言明しています…』
「なるほど、さすがのTacticsも世界遺産を戦場に選ぶほど血迷ってはいなかったか」
 誰かがつぶやくように言う。これから数ヵ月後、Tactics軍は自らの手で祖国を、それどころか世界をも葬り去らんとするまでに暴走していくことになるが、このときはまだその兆候は見えていなかった。
「良かったじゃないか、シャーマン」
 首都が戦場にならなかったことに安堵の表情を浮かべた茂美の肩を叩いて岡崎が言った。茂美は一瞬うなずきかけたが、決して安堵できる状況ばかりでもないことを思い出して言った。
「うん…そうなんだけど、そうすると今度は多分…」
「ウラハ基地の攻防が焦点となるな」
 茂美の言いかけたことをまとめたのは、待機所に入ってきた佐久間だった。全員がいっせいに彼の方を注目する。
「さっき、司令部で聞いてきた。カンナを撤退した部隊は、そのままほぼそっくりウラハ基地とその周囲の防衛陣地に移ったそうだ。激戦になるぞ」
 佐久間の言葉に全員が真剣な表情でうなずく。ウラハ基地は攻守が入れ替わろうともカンナを守る要であることに間違いはない。ISAFの抜いた剣の切っ先は既にウラハ基地の喉元をいつでも貫ける位置に構えられているが、向こうも黙って斬られるような真似はしないだろう。
「敵の体制が完全に整う前に先制攻撃をかける。カンナ解放のかかった一戦だ。よろしく頼む」
『はっ!』
 パイロットたちが敬礼して佐久間に応え、出撃準備と平行してのブリーフィングも開始された。
 ウラハ基地攻略の眼目は、可能な限り無傷で基地を奪取することだ。タンゴ線攻略の際は、早急にタンゴ線の施設をこちらが再利用する予定がなかったため、徹底して破壊すれば事足りた。しかし、ウラハ基地には今後の進撃を支える重要な基地になってもらう予定であり、むやみに破壊してしまうわけには行かない。
「基地を壊さずに…となると、増援を阻止せんとこっちが疲れるだけだな。しかし、基地の敵と増援を両方叩く戦力はないし…」
 誰かがつぶやく。彼の言う通りで、基地が生きている限り、Tacticsは後方から予備機を持ってくるだけで速やかに戦力を回復できる。すると、「いや、そうでもないんじゃないか?」と声をあげた者がいた。茂美が声の主を見ると、それは久しぶりに見る人物…「ナイトバット」こと橘敬介大尉だった。後方の偵察機部隊に配属されているはずの彼がこんなところへくるのは珍しい。
「久しぶりだな、橘大尉。何か知っているのか?」
 佐久間が笑いかけると、橘は頷いて話をはじめた。
「ええ。数日前から偵察飛行で敵の後方基地を精細に調べまして…」


同日深夜 クラナド大陸西南部沖合400キロ

 海中を2つの巨大な影と、それよりはやや小ぶりな別の二つの影が移動していく。アメリカ合衆国海軍に所属する4隻の原子力潜水艦である。小ぶりな方…護衛の<ロサンゼルス>級攻撃型原潜が警戒行動をとる中、ゆっくりと浅深度まで浮上した改<オハイオ>級巡航ミサイル原潜が上部のハッチを開放した。
「シュート!」
 2隻の艦長がほぼ同時に命令を下し、改<オハイオ>級は艦内に収納した100発以上の巡航ミサイル<トマホーク>を発射した。海水を突き破り、空中に踊り出た<トマホーク>は主翼を展開し、巡航用エンジンに点火すると、海面をなめるような低高度で飛行を開始した。彼らのメモリーチップには、ここ数日間にISAFを中心とした偵察部隊の収集した情報が記録されている。
 彼らを発射した潜水艦群は急速潜航で深海に逃れ、安全圏への脱出を開始する。彼らが自分たちの戦果を知ることになるのは、半日は後のことになる。
 それから約2時間後、Air−Tactics国境付近にあるいくつもの飛行場で次々に爆発が起きた。原潜から発射された<トマホーク>の着弾である。この攻撃は規模の割に被害は僅かで、基地自体の被害も1日もあれば修復可能なものであり、破壊された航空機もすぐに補充できる機数だった。
 しかし、これは同時にウラハ基地防衛のための予備戦力が1日間拘束される、ということを意味しており、そしてその影響は致命的なものだったのである。


3月12日 カンナ近郊

 翌12日、ついにISAFはウラハ基地への全面侵攻を開始した。先陣を斬ったのは、もちろん空軍部隊であり、その総指揮を執るのは佐久間である。
『全機突撃!まずは空を徹底的に掃除しろ!!やつらに増援は来ない!!』
 佐久間が叫ぶ。既に昨日の潜水艦発射巡航ミサイルによる攻撃の結果は報告されており、Tactics軍がウラハ基地を前面に立てて後方からシャトル・アタックをかけてくる心配は払拭されている。
 しかし、ウラハに集結している戦力も相当なものだ。たちまち、上空は彼我100機近くの戦闘機同士が激突する凄まじい空中戦の舞台となった。規模から言えば、昨年大晦日のコモナ諸島の空中戦、ISAFが大敗を喫したスノーシティー防空戦にも匹敵するほどの戦いである。
「シャーマン、エンゲージ(交戦)!」
 茂美も叫ぶと同時に乱戦に巻き込まれていた。しかし、彼女のF-2は攻撃機的任務を主眼に開発されたとは思えないほどの性能を示していた。
『注意せよ』
 機載コンピュータの人工音声が注意を促した。機体表面と一体化したフェイズド・アレイ・レーダーが周囲の情報をすばやくサーチし、その情報を瞬時に読み取って、脅威となる敵を識別しているのである。日本の誇る高度な電子産業が作り上げたこの戦闘管制システムこそがF-2の真髄だ。外見だけでF-16の亜種と思うと、大きな間違いを犯すことになる。
 茂美はHUDに映し出された情報を瞬時に確認した。後方から2機の敵機が追ってくる。ミサイル警報が鳴り響く中、茂美は一気に機体を宙返りさせ、逆に敵機の後ろに回り込んだ。開発当初は新開発の複合素材が高Gに耐え切れずひびが入る、と言う事故も起こしているF-2だが、その後改良されて、試験中でも目立った事故は起こしていない。極めて信頼性の高い機体になっていた。
 茂美を追っていた敵機は、慌てたようにダイブや旋回などで体制を整えなおそうとしていたが、それより先にF-2の火器管制システムは彼らへのロックオンを終えていた。茂美がトリガーを引くと、空中に放り出されたAIM-120 AMRAAM対空ミサイルは狙いを過たず続けざまに二機の敵戦闘機を葬り去った。
「まだ行ける…すごい機体だわ」
 茂美は感心した。彼女の技量が上がったこともあるが、それでも以前乗っていた<ミラージュV>や<クフィル>ではこうは行かなかっただろう。
 茂美がさらに一機を撃墜したとき、無線からスカイエンジェルの声が響いてきた。
『うぐぅ、西方から新手の敵機が五機接近中だよっ!みんな、注意してっ!!』
『新手の五機だと?まさか黄色じゃないだろうな!』
 誰かが叫ぶと、場に緊張が走った。黄色中隊の脅威はISAFが反撃を開始した今でも薄れてはいない。
『うぐぅ…ちょっと待ってね。…ううん、黄色じゃないよ。でも、動きから見てかなりのベテランだよ』
 黄色ではない、と言う事に一瞬安堵の空気が流れかけたが、それを佐久間の怒声が打ち破った。
『ほっとしてる場合じゃないぞ!手練れであることは確かなんだ。手近な奴はそいつらを阻止しろ!』
 言うなり、佐久間自身が開戦以来の愛機<グリペン>を駆って乱戦の渦の中から出て行く。茂美も後に続いた。
『お、シャーマン。頼むぞ』
「はい、任せてください!」
 茂美が答えると、最近すっかり聞きなれたぞんざいな声と懐かしい声も続いてきた。
『オレもいるぜぇ』
『久しぶりですね。ぜひ私もやらせてください』
 岡崎と、今では別の中隊を率いている米屋大尉の声だった。乱戦を離脱できたのはこの四機だけのようだ。
『おう、バッドガイにストアか。よろしく頼む。5対4…まぁ、相手にはそれくらいのハンデはくれてやる!』
 佐久間に続き、二機のF-2と米屋のF-15Cが空を駆けた。

 迫り来るTactics軍の増援は、五機のダッソー<ラファール>だった。その操縦席には茂美にとっても因縁のある相手が座っていた。
『メイデン、向こうもこっちに向かってくるわよ』
「わかってるわ。早めに撃ち落して味方を救援するのよ」
 メイデンこと七瀬留美中尉は寮機の広瀬真希中尉に答えた。彼女たちの駐留基地は施設への被害が比較的軽微で、ウラハからの要請に応じて出撃することが可能だったのである。ただし、待機している列機の中にミサイルが落ちたせいで、出られたのはこの五機だけだったが…
(今日こそはやっつけてやるわよ、リボン付き!)
 留美は「リボン付き」ことメビウス1、相沢中尉に2回してやられたことがある。その報復を求める彼女は、敢えて中〜長距離ミサイルを持ってこなかった。その判断は正解と言えるだろう。乱戦に飛び込んでいくには邪魔になる。代わりに格闘戦用の短距離対空ミサイルはたっぷりと持ってきている。
 どうやら、ISAFも中距離ミサイルは使い切った後らしく、攻撃してこない。そのまま相手を目視可能な距離まで近づいた時、留美は相手の中に今のリボン付きの機体であるF/A-18Eが見当たらない事に気が付き、一瞬落胆した。しかし、そのうちの一機に感じるものがあった。
(…こいつ…どこかで会ったような感じだわ)
 誰だ、と思ったとき、留美の目はそのF-16(留美にはF-2とはわからなかった)の垂直尾翼にISAFと並んでAir空防隊のマークがステンシルされていることに気が付き、あっと声をあげた。1年前、シェズナ山の上空で出会った相手だ。
「今日は…あんな勝ち逃げはさせないわよ!」
 リボン付きほどではないにしても闘志を掻き立てられる相手の出現に、留美は笑みを浮かべた。

 同じ頃、茂美もこちらへ向かってくる<ラファール>の正体を悟っていた。
(あの時の…どうやらやる気十分のようね)
 茂美は気合を入れなおした。今日こそは決着を付けずにはいられないだろう。そして、予想通りにその<ラファール>は真正面から突撃してきた。
 茂美はそれを機体を横滑りさせてかわし、すぐさま鋭い旋回に入れて相手の後ろを取ろうとはかる。しかし、留美も負けてはいない。茂美にかわされた瞬間から、逆に彼女の行動を読んでバックを取ろうと、機体を小刻みに機動させる。茂美は無理をせずにエンジンを吹かして加速し、距離を取った。
「…なんて奴!気に入らないわ…うまい奴がこんなに多いなんて」
 留美はうなった。味方も苦戦している。真希はもう一機のF-16のトリッキーな動きに翻弄され、F-15に立ち向かった3番機も苦戦している。そして、一番与し易そうだと思った<グリペン>のパイロットも尋常の腕ではなかった。性能に勝る<ラファール>二機を相手に互角以上の戦いを見せている。
「早くあんたを落として…味方を救援しなきゃいけないのよ!」
 留美がミサイルを放つ。茂美はそれをかわし、逆にミサイルを発射した。留美がそれをかわす間に茂美はまっしぐらに突入してバルカン砲を放つ。留美はそれもかわしたが、翼端をかすめるように銃弾が飛んだのを見た。際どいタイミングだった。
(くっ…この間は逃げ回るだけだったのに)
 相手の成長ぶりに留美が唇をかみ締めたとき、更なる危機を伝える報告が飛び込んできた。
『5番、ヒットされた!ベイルアウトする』
『3番、やられました。ベイルアウトします』
<グリペン>に向かって行った二機の内の一機と、F-15と戦っていた一機が続けて撃墜された。数の優位は一瞬でひっくり返ってしまったのである。
『留美、ヤバいわ…ここは逃げた方が』
 これまた苦戦している真希が言う。逃げる、と言う単語に目を剥きかけた留美だったが、自分たちが不利であることを悟らずにはいられなかった。
「仕方ないわね…撤収よ!」
 機体を翻し、留美はアフターバーナーを点火して離脱にかかった。真希とかろうじて生き残った4番機もそれに続く。ISAF側は深追いしなかった。そして、この時には本隊同士の決戦もISAFの優勢で終わりつつあり、半数以下に撃ち減らされたTactics軍機は撤退を開始していた。
「やった…」
 強敵を退けて安堵する茂美。そこへ、スカイエンジェルの報告が入った。
『敵機は撤退を開始。味方の地上軍もこれで安心して前進できるよっ!お疲れ様、みんな!!』
 勝利宣言に歓声が湧く。
「やりましたね、隊長」
 茂美の言葉に、佐久間は大いに頷いた。
『ああ。これで、邪魔者はいなくなった。カンナ解放も間近に…』
 勝利に気が緩んでいたのか、と言われればそれまでかもしれないが、そんなあっけない出来事が世の中にはあるのだと、茂美はその瞬間を生涯思い出しつづけることになる。
 突然、佐久間の<グリペン>が爆発した。開戦から1年半、クラナドの空を駆けつづけてきた翼が砕け散り、無数の破片が空に飛び散った。
「隊長!?」
『隊長!佐久間隊長っ!!』
 無線に無数の悲鳴が響き渡る中、佐久間の機体はゼウスの雷に打たれたパエトーンのように炎の尾を引いてクラナドの大地に墜ちて行った。
 カンナの解放が宣言される、2日前の出来事だった。


3月14日 カンナ市街 Air大学医学部付属総合病院

 看護婦の「静かに!」と言う制止もむなしく、どやどやと賑やかな足音を立てて軍服姿の一団が病室内に入ってきた。
「隊長!」
 その先頭に立つ茂美が呼ぶと、病室内でベッドに横たわっていた人物はうるさそうな表情で彼女の方を向いた。
「やかましいな。静かにって看護婦さんも言っているだろう」
 佐久間だった。撃墜はされたものの、地面への激突直前に射出座席が作動し、生命だけは助かったのだ。
「隊長…生きていて良かった」
 米屋大尉が半泣き、半笑いの表情で言った。
「おう。この通り足はついているぞ」
 佐久間はおどけたように言ったが、その足は…いや、腰から下はギブスや金具で固定されている。見舞いに駆けつけた隊員たちは誰も笑えなかった。聞いていたのだ。傷が癒えても、佐久間が戦闘機パイロットとして空を飛ぶ事は二度と出来ないだろう、と。
「まぁ、地対空ミサイルを食らって生きているだけでも御の字さ。完全に油断していたからな…」
 まじめな顔に戻って佐久間は言った。あの日、彼を撃墜したのは、基地の外周陣地に配備されていた地対空ミサイルである。1年半の間酷使された<グリペン>の対ミサイル警報装置が故障していたのだ。
「済まん…ワシらがもう少ししっかりしていれば…」
 魚釣整備班長が謝ったが、佐久間は手を振って笑った。
「いいさ…俺もそろそろトシだし、これが潮時かもしれん」
 佐久間はミサイルの爆発と脱出時の衝撃で背骨にダメージを負っており、今後腰に痛みを感じるだろうと宣告されている。腰痛はパイロットの持病だ。しかし、そのレベルを超えて痛みが持続するようでは、戦闘機パイロットなど続けられるはずもなかった。
「あぁ、もう、そんなに暗くなるな!死んだわけじゃないんだから、もう少し生還を祝ってくれ」
 佐久間の声に、ようやくパイロットたちの顔に笑顔が戻り始める。それからしばらく戦況のことや世間話に興じた後、見舞い客たちは退出しようとした。その時だった。
「ああ、シャーマン。おまえは残れ。ちょっと話がある」
 呼び止められた茂美が自分の顔を指差すと、佐久間は頷いた。周りの他の隊員たちは「じゃあ先に行ってるぞ」と言いながら出て行く。残った茂美は、促されるままに佐久間のベッドの横に座った。
「で…お話とは何でしょう?」
 茂美が尋ねると、佐久間は一息吸って、驚くべきことを話し始めた。それは、茂美にとっては思っても見なかった大きなチャンスに関する話だった。
 そして、その頃、カンナからはるか西方の土地でも、茂美に関わる人々の運命を大きく動かす出来事が起ころうとしていた。

(つづく)

原作者U−2Kのコメント

 戦士の休息――久しぶりの実家で羽を伸ばした茂美にも、そう長い休息を得ることは出来ず、再び戦いの空へと戻りました。
 今回はAir皇国皇都、カンナ市の支配権をかけた戦いです。まさに「皇国の荒廃この1戦にあり」と言ったところでしょうか。

>これから数ヵ月後、Tactics軍は自らの手で祖国を、それどころか世界をも葬り去らんとするまでに暴走していくことになるが、このときはまだその兆候は見えていなかった。
 余裕がなくなると、どんな行動に出るのかわからないと言うのは、良くあることです。
 そもそもTacticsが戦争という最終手段に訴えたのも、その延長線上でしょう。
 ただ、政治的にも重要であるはずのカンナ市を明け渡すのですから、この時期のTacticsはまだ多少の余裕があったのかもしれません。

>小ぶりな方…護衛の<ロサンゼルス>級攻撃型原潜が警戒行動をとる中、ゆっくりと浅深度まで浮上した改<オハイオ>級巡航ミサイル原潜が上部のハッチを開放した。
 米海軍の戦略原潜オハイオ級には、1〜4番艦を巡航ミサイル・特殊部隊母艦に改装しようと言う計画があります。そうなると、およそ150発の巡航ミサイルを搭載した「水中のアーセナル・シップ」というべき艦になるわけで……。
 それが2隻ですから、最大で300発近いトマホークが殺到するわけですから、同時多発的な攻撃には実に向いています。

>無線に無数の悲鳴が響き渡る中、佐久間の機体はゼウスの雷に打たれたパエトーンのように炎の尾を引いてクラナドの大地に墜ちて行った。
 嗚呼、横山節……。
 やはり横山節は味があってよいですなぁ……(笑)。こういう表現が、作品にまた花を添える訳で。
 で、戦死しかねないほどの勢いで墜落してしまった佐久間隊長ですが、

>「やかましいな。静かにって看護婦さんも言っているだろう」
 と、しっかりと生存していました。石橋もそうかもしれませんが、KCOの中年はことごとくしぶといですね(笑)。
 とは言うものの、

>佐久間はミサイルの爆発と脱出時の衝撃で背骨にダメージを負っており、今後腰に痛みを感じるだろうと宣告されている。
 確かに、強いGに曝される戦闘機パイロットに腰痛は宿命のようなものです。ちなみに原作において、リサイクルショップの佐久間店長は腰痛にて登場が叶いませんでした。
 まさか今度は代理として佐久間の奥さんがパイロットとして登場するとか(笑)。

>茂美が尋ねると、佐久間は一息吸って、驚くべきことを話し始めた。それは、茂美にとっては思っても見なかった大きなチャンスに関する話だった。
 話の内容が大変に気になりますが、これは次のお楽しみということで……(笑)。

 時間の流れは決して止まらず、茂美たちが敬愛すべき上官の生存に胸を撫で下ろしている間にも、事態は刻々と変化し、大陸はさらに激動の度合いを激しくしつつあります。
 その渦の中で、Air空防隊の面々は、如何にして戦ってゆくのか、続きにますます目が離せません。


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