2004年 4月13日 クラナド大陸北方 ノースポイント海


「撃ち方やめ!撃ち方やめ!」
 ISAF海軍の防空ミサイル・フリゲート<モノミ・ヒル>の艦長は命令を下した。激しい唸りを上げて弾丸を吐き出していた前甲板のOTOメララ76ミリスーパー・ラピッド砲が射撃を中止し、辺りに静寂が戻ってくる。
「被害を報告しろ」
 座乗していた護衛艦隊司令が命令すると、参謀の一人が手にしていたクリップボードに記された被害を読み上げた。
「これまでに述べ三波の攻撃を受け、敵が発射した対艦ミサイルは72発に上ります。うち、こちらの防空網を突破して命中したのは8発。これにより、大型輸送船3隻沈没2隻大破。駆逐艦<コーストストリート>が2発を被弾し、現在炎上中…恐らく放棄するよりないでしょう。また、汎用フリゲートの<スクール・フォレスト>が一発被弾、大破して航行不能です。我が方に残されたのは、本艦を入れて護衛艦3隻、輸送船が4隻です」
 参謀の報告は暗いものだった。目的地への航海半ばにして、彼らは戦力の半分を失ってしまったのだ。これ以上先へ進むのは自殺行為以外の何者でもなかった。
「…全艦に伝えよ。被弾した艦は自沈処分し、乗員は全員脱出後、残存艦に収容。撤退する」
「はっ」
 慌しく動き始めた艦橋の中を見ながら、司令はかすかに見える北の半島を睨んだ。そこには、彼らにこのような災厄をもたらした元凶となった「魔物の目」が存在している。
「くそ…こんなことじゃこの戦争には勝てんぞ」
 部下には聞こえないように、司令は毒づいた。彼らを守ってくれていた冬の恩恵は去り、巨大な敵が春の訪れと共に目覚めようとしていた。


カノンコンバットONE シャッタードエアー


外伝 翼の還る処


Mission0.9 神々の白き玉座



2004年 4月16日 ノースポイント群島 アレンフォート基地

 大陸本土ならすでに桜の咲く季節なのに、ここから見る光景は何もかも真っ白だ。川口茂美少尉は手に息を吐きかけながら、故郷からの距離を実感していた。
 ノースポイント群島はクラナド大陸北東部の沖合約200〜300キロの海域に浮かぶ島々で、Kanon国領となっている。近海をベーリング海から北米大陸西岸へ向けて流れるカリフォルニア寒流が通過するため、緯度の割に寒冷で気候的にはほぼ寒帯に属する。気温は年間を通じて15度を超えることはほとんどない。
 この群島が、大陸を脱出したISAFの本拠地となっていた。冬の間は雪や濃霧、嵐等に阻まれて積極的な軍事行動を起こせないこの土地で、ISAFは軍事力の再編を行うと共に、大陸に残る拠点であるセントアーク市との間に連絡線を確保してきた。
 ポートエドワーズ北東のヘカトンケイル半島先端部にあるセントアークは北部沿岸最大の港湾都市で、現在ISAF陸軍3個師団相当が篭城を続けている。冬の気候を生かし、セントアークへの補給を続けてきたISAFだったが、春の訪れと共に状況は変化した。補給路は空海からの攻撃で寸断され、セントアークに篭もる部隊の必要とする物資の5割も届かなくなっている。
 茂美も何度か出撃し、セントアークを包囲する敵軍への攻撃や船団護衛と言ったミッションをこなしてきたが、状況は一行に好転する兆しを見せていなかった。思わず彼女がため息をついたとき、召集を告げるサイレンが鳴り響いた。茂美は所々凍った地面に足を取られないよう気をつけながら、基地の建物へ向かった。


同日 アレンフォート基地ブリーフィング・ルーム

「傾注!傾注!」
 当直士官の号令を受け、ブリーフィング・ルームに集まったパイロット達が一斉に直立不動の姿勢をとった。そこへ、作戦士官が入室し、壇上に上がった。
「着席してくれ」
 作戦士官の一言により、全員が並べられたパイプ椅子に腰掛ける。室内が暗くなり、クラナド北部沿岸地域の地図が壁面に浮かび上がった。
「諸君も知っての通り、現在我が軍はセントアークへの補給作戦を継続中である。しかし、敵航空隊の攻撃により、輸送船団に被害が続出しており、Tactics軍はセントアークの友軍を人質として我が軍に出血を強いる状況になっている」
 地図上にノースポイントからセントアークへ伸びる航路が白のラインで描かれた。しかし、そこへ敵の干渉・攻撃を示す無数の赤い矢印と、損害を表す×印がマーキングされる。一目見るだけで、その航路がいかに危険な状態に置かれているかを知ることができた。
「先日13日も、補給船団が航空攻撃により壊滅的な損害を被った。ここに、総司令部は戦略を全面的に転換。全軍をセントアークより脱出させる決定を下した」
 室内がどよめく。セントアークは大陸反攻の本拠としてどうしても残しておきたい重要拠点だったはずだ。それを放棄するとは、余程状況が悪いらしい。
「その撤退作戦のため、ISAFの海空の全兵力を投入した援護作戦を実施する。作戦の秘匿名称は<ホワイトアウト>作戦。我々空軍は脱出船団の上空援護の他、ここ―」
 作戦参謀が手にしたポインタロッドで地図の一点をぴしりと叩いた。セントアークの対岸にあってエドワーズ湾の入り口になっている海峡を扼するアイスクリーク半島、その先端部だ。
「シェズナ山にある長距離レーダー施設を攻撃、敵の防空識別圏に一時的な穴をあけることで味方のセントアーク突入と脱出を援護する」


2004年 4月23日 アイスクリーク半島上空

 万年雪が銀色の輝きを見せる山上をISAF軍機が駆け抜けていく。作戦発動日、南から高気圧が張り出してきてこの辺りに停滞しやすい雪雲を北の方へ追いやっていた。この天候も、今日が決行日に選ばれた理由だ。
『リサイクルよりシャーマン、新しい機体の調子はどうだ?』
 茂美に佐久間からの無線が飛び込んできた。
「こちらシャーマン。少し古い機体ですが、いい動きをします。これなら十分やれそうだと思います」
 茂美は答え、それを裏付けるように軽く機体をバンクさせてみせる。
『砂漠生まれなのにこの寒さでも動くのか。素性が良い奴のようだな』
 佐久間は笑った。昨年のスノーシティー攻防戦で「黄色の4番」に撃墜され、乗機を失った茂美が新しく受領した機体、それはイスラエルから供与されたIAI(イスラエル航空機工業)<クフィル>だった。1967年の第三次中東戦争により、フランスから戦闘機の供与を拒否されたイスラエルが<ミラージュIII>をベースにアメリカ製のエンジンを搭載するなどして改装・開発した戦闘機で、機首に追加されたカナードにより原型を超える機動性を誇る。乗っていて面白い機体だった。
『そいつは良かった。お前さんが使えるのと使えないのとじゃあ、安心感が全然違うからな』
「足は引っ張らないように努力します」
 佐久間の言葉に茂美は答えた。何しろ、この部隊には旧Air空防隊のメンバーは彼女と佐久間しかいない。ほぼ全員が上級者と言っても良い技量を身につけていたAir空防隊のメンバー達は、スノーシティーでの大損害の後、生き残った部隊への増援や新人を教育するための教官役として転出して行ったのである。佐久間も新しく訓練を終えたパイロット達を預けられ、新編成された部隊を率いる事になった。
 その佐久間が副官役として一人信頼できる人間を連れて行くとき、自分を選んでくれた事が茂美は嬉しかった。もちろん、米屋中尉などのベテランは副官にするより新規部隊の隊長を任せる方が良く、自分はそこまでの域には達していない、とわかっていてもである。
『こちらスカイエンジェル!そろそろ準備は良い?』
 突然無線にAWACSからの交信が飛び込んできた。既に作戦空域に入っていたようだ。前方に蒼空を突き刺す槍の穂先のような峰々が聳え立っているのが見える。大陸北方地方有数の名峰であるシェズナ山の雄姿だった。標高はそれほどでもないが、氷河が削り取って作り上げた荒々しい山容は見る者を圧倒する。
 その中心部から白い煙のようなものが立ち昇っているのは、あの1999年7月のコーヤサン落下の際、砕け散った隕石の一つが落下して作り上げたクラシンスキー・クレーターである。落下の衝撃で地殻に亀裂が入り、高温・高圧の水蒸気が吹きだしているらしい。現象が落ち着けば、良い温泉ができるかもしれなかった。
『もちろんだ、スカイエンジェル。ゲームを始めようじゃないか』
 佐久間が答えた。早速、ディスプレイにデータリンク装置を通じて送られてきた情報が表示され始める。シェズナ山頂に設置されているレーダー警戒網は、大きく2つのグループに分かれているようだった。
『シェズナ山ってみんなは言うけど、実際には幾つかの山の集合体なんだよ。そのいくつもの山頂にそれぞれレーダーがあるってわけ』
 スカイエンジェルが説明した。日本でいえば、八ヶ岳連峰や霧島山系が代表的な山の名前で一括りにされているようなものだろう。
『レーダーに隣接してAA(対空砲)やSAM(対空ミサイル)も設置されているみたいだから、爆撃隊の人は気をつけてねっ!』
 スカイエンジェルの状況説明が終わると、佐久間が具体的な指示を出し始めた。
『聞いてのとおりだ。爆撃隊は対空火器に気をつけろ。制空隊は絶対に敵機を爆撃隊に近づけるな』
「了解!」
 茂美は叫んだ。彼女は制空隊だ。<クフィル>も爆撃は可能だが、そうしたことはもっと得意な機体に任せた方が正解というものである。その攻撃機向きの一機でもある<グリペン>を操る佐久間が茂美に言った。
『シャーマン、俺の背中はお前に預けた。しっかり守ってくれよな』
「わかっています。思い切りやっつけちゃってください」
 茂美が答えると、佐久間は「散開」を命じた。編隊が小隊ごとに分離し、2つのレーダー群へ向かっていく。佐久間自身も一機のF-5E<タイガー>を引き連れて爆撃に向かった。
『スカイエンジェルよりオール!アテンション!敵のレーダー防空隊が接近中だよっ!』
 スカイエンジェルの切迫した叫びが入った。茂美もそれを確認していた。敵機の数はこちらと同等だろう。機体の半分は爆撃に専念する事を考えると、少しきつい戦いになりそうだった。
(大丈夫。相手は黄色じゃない。焦らなければ勝てる)
 茂美は自分に言い聞かせた。
「こちらシャーマン、敵の頭を抑えます。ボマーは任務に専念してください」
 そう言うと、彼女はスロットルをミリタリーマキシマムに叩き込んだ。機体が加速し、身体がシートに押し付けられる。同時に、火器管制装置のつまみを中距離対空ミサイル―フォックス・ワンに合わせた。
「シャーマン、フォックス・ワン、ファイア!」
 茂美がミサイルを放つと同時に、やはり制空役のKanon軍のF-4<ファントム>もミサイルを発射した。4筋の白煙が蒼空を切り裂き、遥か前方へ向かって伸びていく。もちろん相手も同様だ。
『こちらスカイエンジェル、2機のスプラッシュを確認!ミサイルが迫ってるよっ!!』
 言われるまでも無く、激しく鳴り響くミサイル警報によって敵弾の接近は知れていた。茂美はとっさの判断で操縦桿を倒し、機体を一気に降下させた。
『シャーマン、どうしたんだ!?』
 相方の<ファントム>のパイロットが驚いたように言った。茂美はなおも降下しながら叫ぶように答えた。
「山肌に沿って飛ぶの!そうしたらミサイルをかわせる!!」
 その返事に、どうやら相手も意図を悟ったらしく、別の山陰に飛び込んでいく。その直後、ミサイル警報が途切れがちになった。ミサイルのセンサーはあまり敏感にできていない。山腹に張り付くようにして飛ぶ彼女達を上手く感知できないのだ。
 やがて、完全に目標を見失ったミサイルの一発が山腹に激突した。ショックで雪崩が発生し、膨大な雪が舞い上がる。その雪煙に幻惑されたのか、他のミサイルも次々に目標を見失って自爆した。
 茂美はその大騒ぎを後目に山を半周するように飛んだ。敵機はこちらの居場所がわからず、茂美が潜んでいる斜面の反対側を飛び去っていく。彼女は素早く山陰から飛び出し、赤外線誘導ミサイルの照準を付け、トリガーを引いた。
 相手には何が起きたのかわからなかったに違いない。一瞬で2機が機体を吹き飛ばされ、山の斜面や谷間に叩きつけられた。さらに別の方向から白煙が伸びていき、2機が相次いで砕け散る。<ファントム>の仕業だろう。茂美は更に機体を前進させ、残りの敵に機関砲を叩き込んだ。彼女の<クフィル>が装備しているのは強力な30ミリ機関砲だ。たった数発が命中しただけで、敵機は垂直尾翼をあとかたもなく破砕され、バランスを崩して墜落する。<ファントム>が横に並び、パイロットが親指を立てた拳を茂美に見せた。グッドキル、という事だろう。茂美も同じ仕草で相手に応え、無線のスイッチを入れた。
「シャーマン、スプラッシュ3。ポイントAのボギーはクリア」
 受け持ち空域の敵機を全機撃墜した事を宣言すると、前方の山頂で続けざまに真っ赤な爆炎が湧き起こった。爆撃隊も成功したらしい。
『リサイクル。ポイントAのターゲットは全基破壊した』
 佐久間の力強い声が無線に響き渡る。黒煙がはれてみると、無残に骨組みだけになったレドームと砕け散った管制所の惨状が見て取れた。完全に機能を停止していることは間違いない。
『こちらスカイエンジェル!ターゲットA群の電波発振停止を確認したよっ!エイブル小隊は引き続きベイカー小隊の支援に当たってねっ!!』
『了解。リサイクルよりエイブル各機へ。ジョインナップ!』
 くすぶり続けるレーダー群の上で4機が合流した。幸い、4機とも深刻な被害は受けていない。弾丸の残量も十分に残っていた。佐久間の後に続き、全機が少し西にあるターゲットB群のレーダーを目指し始めたとき、スカイエンジェルの緊迫した声が無線に飛び込んできた。
『スカイエンジェルよりエイブル・リーダー!敵の増援が来て、ベイカーが苦戦中!急いでっ!!』
 茂美は戦況を表示したディスプレイを見た。前方の空域では敵味方のシンボルマークが交錯している。確かに、若干味方のマークの方が少なく、敵に追われているようだ。
『了解!急ぐぞ!』
 その声と同時に佐久間の<グリペン>がアフターバーナーを噴かして超音速飛行に突入する。茂美も遅れじとバーナーを焚き、<ファントム>と<タイガー>も後に続く。排気ガスが白い水蒸気となって、4機の航跡を青空に残した。クラシンスキー・クレーターからの水蒸気の幕を突破すると、たちまちのうちに空戦域が迫ってくる。
『突入しろ!攻撃隊の連中に爆撃する余裕を与えてやれ!!』
 佐久間のけしかけるような命令が飛ぶ。乱戦状態に持ち込んで相手の数の上での有利を殺そうと言うのだ。茂美はマイクを鳴らして了解のサインを送り、上方から敵の一機に向かって突入した。一転して自分が追われる立場に陥ったことを悟ったその敵機――Mig-23が慌てて機体をロールさせながら茂美の射線から逃れていく。どうやら、この辺りには最新鋭の機体は来ていないらしい。主力がセントアーク攻防戦に投入されているからだろう。
(まぁ、それはこっちも同じか)
 茂美は苦笑した。このシェズナ山レーダー攻撃隊も、どっちかといえば古い機体ばかりだ。彼女の<クフィル>だって中古だし、最新鋭と呼べる機体は佐久間の<グリペン>くらいのものだろう。
 そんな事を考えていられたのは、茂美の方にも余裕があったからだろう。ルーキーではなさそうだが、茂美に比べれば明らかに劣る腕のMig-23にぴたりとくっついてバックを取り、トリガーに指をかける。
「…!!」
 その瞬間、激しい警告音が鳴り響き、茂美はとっさに機体をロールさせて離脱し、同時にフレアとチャフを撒いた。予想通り、後方から敵機が迫っている。ダッソー<ミラージュ2000>。ミラージュ・シリーズの最新型で、軽快な運動性と優れた電子戦性能を持つ。そして、パイロットの腕の方も確かなものだと茂美は直感的に理解した。黄色中隊ほどではないかもしれないが、それに次ぐ腕かもしれなかった。
(なんの…負けるもんですか!)
 茂美は機体を旋回させ、今度はその<ミラージュ2000>との対決を決めた。こいつを拘束しておけばそれだけ味方が楽になるはずだ。向こうもその気らしく、巧みに死角へと回りこもうとしてくる。茂美は機体を小刻みに、そして出来るだけパターンを作らないように方向転換しながら飛ばした。その甲斐あって、<ミラージュ2000>のパイロットの方も茂美の機体を上手く捕まえられないでいる。
『ベイカー3、目標を破壊!』
 無線にようやく敵機の拘束を逃れた攻撃隊がレーダーを破壊したことを宣言する声が流れた。ISAF軍のパイロットが歓声を挙げ、Tactics側はそれにいきり立ったように猛然と襲い掛かってくる。茂美を追ってくる<ミラージュ2000>の方も、遮二無二、と言う表現が相応しい勢いで迫ってきた。
(向こうも本気ね…もう少し機体が軽かったら…そうだ!)
 茂美は少しでも機体を軽くして機動性を稼ぐため、現状では重荷にしかなっていない中距離ミサイルを投棄した。残っている二発の<サイドワインダー>で勝負をかけることにする。と、その時、突然相手の動きが変化した。旋回するとバーナーを吹かし、元来た方向へ一目散に離脱していく。その敵機だけではなく、全ての敵が同じように戦場からの離脱を始めていた。
「どうしたのかしら?」
 追撃の好機だったが、その見事な撤退振りに罠を疑って踏みとどまった茂美に対し、佐久間の豪快な笑い声が聞こえてきた。
『はっはっはっは!!シャーマン、お前器用なことをするなぁ』
「え?」
 訳が分からず間抜けな声で問い返す茂美に、佐久間が意外すぎる事の真相を告げた。
『いや、お前が捨てたミサイル。あれが残ってたレーダーを直撃したのさ。お陰で奴らは目的を失って逃げ出したって訳だ』
 同時に、今まで堪えていたらしい他のパイロットたちが大爆笑を始めた。
『いやぁ、まさに神のご加護って奴だな、これは!』
『あやかりたいね。どうだい、今度から出撃前にお祈りでもしてくれないか?』
 茂美の実家が神社であることを知っている彼らのからかい混じりの祝福に、茂美は「え、えーと…」とどう答えて良いのか分からず途方にくれていた。
『ま、これで俺たちの勝ちだ!!エイブル、ベイカーともにジョインナップ!RTB』
『了解!!』
 激戦を勝ち残ったISAF軍機は部隊をまとめ、一路アレンフォート基地への帰投コースに乗った。

 一方、意外にしてあっけない敗北を喫したTactics側では、一人の女性が歯噛みして悔しがっていた。
「なんなのよ、あの終わり方は!!納得いかないわ!!」
 茂美と渡り合った<ミラージュ2000>のパイロット、七瀬留美中尉だった。茂美が直感的に察したように、あの黄色中隊への転属を推薦された事もある優秀なパイロットである。
「何処の誰かは知らないけど、今度会うときは絶対に容赦しないわよ」
 ひとしきり憤懣をぶちまけると、気持ちを切り替えて再戦での勝利を誓う。そう、自分は乙女になるのだ。乙女たるもの、これしきのことで動揺してはいけない。気を取り直し、留美もまた基地へと向かった。

 この日の戦闘により、シェズナ山頂のレーダーを破壊されたTactics軍のセントアーク近海に対する哨戒網には大きな穴が開けられた。ISAF軍総司令部は直ちに撤退船団とその護衛艦隊をこの回廊に突入させ、さらに空軍も全力を挙げた撤退支援に入った。
 一方、Tactics軍もこの戦況を重視していた。セントアーク守備軍の撤退を許した場合、かつて第二次大戦でダンケルクより撤退した英国陸軍が再編成されてノルマンディに来襲したように、将来にとって大きな禍根となるだろう。Tactics軍は総力をあげて撤退作戦の阻止に乗り出した。
 かくして、クラナド戦争前半における最大の激戦となったセントアーク撤退戦はその幕を開ける事になるのだった。

(つづく)

 
原作者U−2Kのコメント


 Air皇国の崩壊に続き、大陸そのものがTacticsに蹂躙されかけている中でも、大空で戦う人々は有利不利に関係なく全力を尽くします。
 前回の舞台となったスノーシティーよりもさらに北にある、99年の災害で隕石が激突した山々で、ISAFとTacticsのパイロットたちは今日も命を削り、義務を果たそうとしますが、果たしてどうなるのでしょうか。

>防空ミサイル・フリゲート<モノミ・ヒル>
>駆逐艦<コーストストリート>
>汎用フリゲートの<スクール・フォレスト>

 艦名から国籍が判ってきますね(笑)。
 また一方では、ISAFが何国も集まって編成された連合軍だというのも、改めて理解できます。

>それはイスラエルから供与されたIAI(イスラエル航空機工業)<クフィル>だった。
 世界世論から見て「被害者」であるISAFには、各国から軍需援助が入ってきますが、まずは実績があり、すぐに使える中古からというのは、極めて順当です。
 それにしても、この機体も某88を彷彿とさせますなぁ(笑)。 

>『いや、お前が捨てたミサイル。あれが残ってたレーダーを直撃したのさ。お陰で奴らは目的を失って逃げ出したって訳だ』
 いやはや、これは神様もびっくりです(笑)。
 ですが、戦争というのは運を期待してするものではありませんが、それでも往々にして運で左右された戦いというものは史実にもあります。
 もっとも、川口さんは信心深い女性ですから、「信ずるものは救われる」のかもしれませんね。

>からかい混じりの祝福に、茂美は「え、えーと…」とどう答えて良いのか分からず途方にくれていた。
 済みません。この時の川口さんの表情を想像して、萌えてしまいました(爆)。

>「なんなのよ、あの終わり方は!!納得いかないわ!!」
 うーん、ななぴーはご立腹の様子。まぁ、宝くじ1等より確率の低そうな現象で負けたのでは、ある意味当然ですが。
 もしかしたら、後に「メビウス1」に3度撃墜されるというケチの付き始めは、この時から始まっていたのでは?(笑)

 さて、次はこれまでになかったほどの激戦の予感。
 セントアークに残ったISAF3個師団の運命やいかに? それによって、今後ISAFが大陸反攻ができるかできないかが決まってくると思います。
 クラナド戦争も、ISAFが大陸から叩き出された序盤のクライマックスを迎えています。その中で、川口さんたちはどんな戦いを見せるのでしょうか? 

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