某国が革新の為に建設した『ノア』
しかし、その島にはいくつもの不吉な噂が流れていた。
それを調べるため、『クズノハ』はある調査員を送り込む。
しかし数回の定時連絡後、彼からの連絡はパタリと途絶えてしまった。
一つは行方不明となった『国崎往人』を探すために。
もう一つは、島にサマナー達を集めた人物を探るため。
『スケロク』は選んだ三人の内『相沢祐一』と『美坂香里』を先に二人を向かわせ た。
そして、祐一と香里がスケロクから仕事を任される数日前、『ノア』へ向かって旅を する一行がいた。


真・鍵葉転生〜異分子混入編〜

第二話

『訪問者達』



『ノア行き』便の機内にて――
祐一と香里がノアに向かう数日前、とある人物達がノア行きの飛行機に乗り合わせて いた。
「あ!あゆあゆ、これ頂戴!」
「うぐぅ〜それは楽しみに取っておいたんだよ〜」
「ダメですよ真琴。あゆさん、少しですが私の分をお裾分けいたします」
「あ、ありがと〜」
「く〜」
「名雪さん、かれこれ数時間寝ていますね〜」
「はちみつくまさん……寝る子は育つ」
「あはは〜☆じゃあ舞も佐由里と一緒にお昼寝しましょう」
「はちみつくまさん」
「あらあら」
機内でも、一際目立つこの集団は、順に真琴・あゆ・美汐・名雪・佐由里・舞・秋子 であった。
そして、その反対側のほうでも別の集団が騒いでいた。
「なあなあ!ここから七瀬を落としたらどうなるかな?」
「そ、そんな事しちゃダメだよ」
「みゅ〜♪」
『きっと髪の毛を使って舞い戻ってくるの』
「アタシは妖怪かぁぁ!!そんな事したら死ぬわよ!」
「ねえねえ茜。代わりに折原落としてみない?」
「……面白いですね」
「あ♪私も浩平君落としてみたいな〜」
「な!こんなカッコイイ俺を落としたら、海の神様が嫉妬して世界を滅ぼすかもしれ ないから却下だ!」
「何言っているのよ……」
こちらは、順に折原・長森・繭・澪・七瀬・椎子・茜・みさき・雪見である。
そして更に奥のVIP席では、前の方の騒がしさに寝付けない来栖川綾香と、それを じっとみている来栖川芹香が、そして充電中のメイドロボ二体が控えていた。(一 応、セバスも控えているが……)
なぜこのメンバーがノア行きの飛行機に乗っているかと言うと、新たに開発された 『ニュー鍵葉タウン』に一般客として招待されたからである。もちろん、移住するの ではなく、同封してあったテーマパークやショッピングモールに行きたいので向かっ ただけであったのだが。
数時間後、暫く騒いでいた一行だったが、やがて疲れてきたのか皆が皆眠りに入って いった。
そしてそれを見計らってか、機長室からガスマスクをした人物が現われた。
「くくく……よく眠っているな。ま、これから色々起るんだ。今の内『安眠』してお くんだな」
マスク越しにそう呟くと、その人物は機長室へと帰っていった。

『ノア』空港――
時は戻って、祐一達の場面に戻る。
空の旅を終え、祐一達は空港の外に出ていた。
「とりあえず、ホテルにチェックインしましょう。荷物の整理をしたいし、シャワー も浴びておきたいわ」
「へいへい。じゃ、予約してあるホテルに向かいますか」
ため息混じりに答えると、祐一は香里の荷物を一緒に持って歩き出した。
「あ、アタシの荷物は自分で持つわよ」
「い〜って、い〜って。淑女に荷物を持たせるなんて紳士には出来ないんだよ」
「ふふふ……」
「なんだ、似合わないか?」
「ううん。カッコ良かったわよ」
荷物を持つ祐一の腕に自分の腕を絡ますと、香里は滅多に見せない笑顔を向けた。

ホテルにて――
「では私市様、川澄様。お部屋のほうにご案内いたします」
フロントはボーイを呼びつけると、二人を部屋のほうに案内した。
(なあ香里)
(なに?小声でどうしたのよ)
(この偽名、どこから取ったんだ)
(秘密よ)
(秘密って、そんなに重要な事なのか?)
(言葉通りよ)
(……訳が分からん)
二人は他には聞こえないような小さな声で話していた。やがて、予約しておいた部屋 に着くと、部屋に荷物を置いて、ボーイはチップを貰い帰っていった。
「ふぅ〜。とりあえず、落ち着くか」
「そうね。じゃあ、アタシはシャワーを使わせてもらうからね」
「じゃあ俺は、色々用意して部屋を暗くして待っているからな」
「な!変な事言わないでよ」
「変な事?」
「ち、違うの?」
「何を勘違いしたか知らないが、俺は銃を組み立てるのに部屋を暗くするつもりだっ たんだが」
「あ……ああ!そう!そうなのね!てっきりアタシ」
「アタシ?」
「……もう!何でも無いわよ!」
取り乱した香里は、荷物の中から洗面具を取り出すと、小走りで浴槽に向かっていっ た。
「何だったんだ?」
香里の意味不明な憤怒に困惑していたが、別段気にならなかったので、放って置く事 にした。
「そうだ、一応みんなの顔を見ておくか」
祐一は首のチョーカーに手を触れると、COMPを作動させた。

ヴヴゥ……

チョーカーから電子音が聞こえたと同時に、祐一の目の前には六体の悪魔が出現して いた。
「『アヌビス』『イシュタル』『シュウ』『セト』『バール』『ベス』、今回もよろ しく頼むな」
名前を挙げられた悪魔達は、頭を垂れたりそっぽを向いたりと様々だったが、どの悪 魔も祐一に対して嫌な感情を持っているものは居なかった。
と、若干ではあるが、部屋の中に大気の乱れが生じていた。
「祐一様……」
ドアの近くに居たイシュタルが祐一にそっと語りかけた。祐一はただ黙って頷くと、 シュタルはドアノブに手を掛けると、勢いよくその扉を開けた。
「うぎょぎゃぎぇうぇ」
開け放った扉のから、いくつもの顔を持つ泥人形のようなモノと、炎に包まれた悪霊 が襲い掛かってきた。
「グググ……屍鬼コープス・悪霊インフェルノ(※1)、カ。腕慣ラシニハ丁度良イ ナ」
先ほどまで退屈そうにしていたべスとセトだったが、久々の獲物に嬉しそうにとびつ いた。
「全く、主殿の命も受けずに野蛮な事だ……さりとて、気持ちも分からんでもないが な」
やれやれとお手上げのポーズをとっていたアヌビスだったが、祐一が何も言わないの を確認すると、自分も獲物の方へ歩み寄っていった。
「やれやれ、みんな相変わらず自分勝手ですね。祐一様にはご苦労をお掛けします」
参加しなかったシュウとバールは、苦笑いを浮かべて祐一に頭を下げた。
「いや、別に気にしていないさ。元はといえば、俺が最近皆を外に出していなかった んだし。なんだったら、お前等も一緒に暴れてきたらどうだ?」
祐一が冗談半分で指を指してみたが、二体は互いに一歩も動かなかった。
「貴殿のご命令とあらば出陣いたしますが……今更我等が向かったところで、あいつ 等が譲ってはくれんでしょう。それに、あのような低級悪魔如きに我等が力は勿体無 いと」
「ははは。そりゃごもっともだな」
二体の言い分に納得した祐一は、相変わらず嬉しそうに獲物を狩る四体に声を掛け た。
「あ、一体は残しておけよ。そいつを逃がして『原因』をとっ捕まえるんだからな」
「「「「御意」」」」
各々頷いた仲魔達は、残す一匹を決めると再び獲物を狩り始めた。そして、あっとい う間に一匹以外を残し全滅させると、残った一匹は慌てふためいて自分の主の下に 帰っていった。
「さて……おい、香里〜。いつまで風呂に入っているんだ」
祐一は荷物から自分の武器を取り出すと、未だに出てこない(と言っても、入ったの は数分前だが)香里を呼ぶためにシャワー室に足を運ぼうとした。
「ストップ!今出るからこっち来ちゃダメよ」
どこかで見ていたのか、祐一が残りドア一枚と言う所で、香里はこれ以上進むのをス トップさせた。
「な、何で分かったんだろう」
「クスクス。祐一様、それは『女の勘』ですよ」
「はぁ〜」
イシュタルの答えにただ茫然とする祐一。すると、ようやく香里がシャワー室から出 てきた。
「遅いぞ」
「あのね〜、まだ入って十分と経っていないのよ。別にいいじゃない」
「甘いぞ香里!俺なんか、一分で体洗って風呂に入って出てこられるぞ」
「全然自慢にならないわよ……それより、さっさとこのホテルから出るわよ」
「何だ、気付いていたのか?」
「アレだけ騒がしかったら、どの部屋に居ても気付くわよ。他の部屋に気付かれたら どうするの」
やれやれとこめかみを抑える香里だったが、祐一がドアの方を指差すと香里は納得し た表情を浮かべた。
「『異界化』(※2)ね……誰の仕業?」
「それを今から追おうと思ってな」
「分かったわ、数分待ってくれれば銃を組み立てられるから」
言うが早いか、香里は手際よく解体してあった銃を組み立て終えた。
「さ、行きましょ。幸いにも民間人の被害はまだ出ていないみたいだし」
「OK。じゃ、行こうか」

『異界化』したホテル内――
祐一達は、ホテルを異界化した張本人を追うため、迷路と化したホテル内を降りてい た。もしかしたら迷い込んだ民間人に合うかもしれないと考えた祐一は、仲魔を一旦 チョーカーの中に戻しておいた。
しばらくすると、運良く先ほど逃した一体の悪魔が奥の部屋に入っていくのを見つけ る事が出来た。
祐一と香里は頷きあうと、扉を蹴破り銃を構えた。
「動くな!」
祐一は銃口を目的の人物に合わせようと部屋を見渡すが、薄暗い部屋には先ほどの悪 魔はおろか、虫一匹存在していなかった。
と、一歩踏み出した祐一の頭上から、何か降ってくるのを香里は確認した。
「祐一!上よ!」
香里が声を発すると同時に、祐一は床を蹴って体を横に逸らしつつも照準を天上に向 けた。すると、そこには先ほどの悪魔が糸に絡まって死滅していた。そしてそれを確 認したかしないの瞬間、祐一のいた場所に鋭く変化した糸が突き刺さった。
「あれは、アルケニー(※3)か!」
祐一は、闇の中に微かに見え隠れする悪魔を見つけると、精密な射撃を繰り返した。
「くそ、銃じゃ致命傷にはならないか」
「アタシに任せて祐一!糸自体を焼き払って地面に落としてやるわ!」
「よし、任せた!」
祐一はアルケニーの注意が香里に向かないよう、立て続けに銃を発砲した。その行動 に怒りを覚えたアルケニーは立て続けに糸を祐一めがけて発射したり、衝撃魔法を紡 いで撃ち放った。
「今よ!アギダイン!」
香里は紡いだ火炎魔法をアルケニーに向けて撃ち放った。香里が放った無数の火炎の 塊は、全てがアルケニーや周囲の巣に当たり、糸が無くなってぶら下がる物が無く なったアルケニーは地面に降りてきた。
「よし、後は俺に任せろ」
祐一は銃を足元に置くと、背中に背負っていた刀を抜き、アルケニーに向かって斬り つけた。
「ぎゃぁぁーーーー」
アルケニーが対応しようと腕を振るうが、それよりも早くアルケニーの断末魔が部屋 中に響き渡った。
しばらく痙攣しているアルケニーだったが、やがて全てが動かなった。
「やれやれ、くたばったか」
祐一は刀身にこびりついた血を振り払うと、一度だけ布で拭いて鞘に収めた。
「でも、おかしいわね……どこにもサマナーがいないわよ」
「ああ、異界化も解けていない事だし、まだこのホテル内にいるな」
祐一と香里は頷きあうと、部屋の中に隠し通路が無いか入念に調べた。すると、部屋 の隅の床から、階段らしき物が発見された。
「ったく、いまどき隠し通路って……ゲームじゃないんだからよ」
「いいじゃないの、アタシはこう言うのわりと好きよ」
呆れ顔の祐一に対し、香里は若干嬉しそうな顔をしていた。
「……とにかく、さっさとこんな事した張本人を見つけるぞ」
「そうね、行きましょうか」

地下道――
二人は、場所的にはホテルの真下になるであろう地下道を息を乱さずに走っていた。 そして念のために、今回は仲魔を一体召喚しておいた。
「なぁ、香里……このホテルが狙われたて言う事は、敵さんには俺らの存在がバレて いるって事だよな」
「何とも言えないけれど、その可能性は高いわね。ただ……いくつか別の可能性もあ るわ」
「別の可能性?」
「ええ。一つは敵が私達を誰かと間違えた。もう一つは、無差別に異界化を行ってい た」
「成る程」
確かに、香里の言うとおりである。前者の場合、これだけ黒い噂が絶えない所であれ ば、自分達の組織以外にも別の介入者がいると考えられる。後者であるとすると、敵 が一定の場所……それも人が集まるところを異界化して能力のある人間を見つけてい る事になる。いや、先ほどの部屋でアルケニーを仕込んでいた時点で、『狩る』とい う事も考えられる。
「どっちにしても、この島が更に怪しくなった事には違いないな」
「そうね……あ、見て!」
香里は長い地下通路の先に見え隠れする影を発見した。その影は、こちらに気付くと 驚きの声を挙げた。
「だ、誰だ!」
声からして、影は男なのが分かった。祐一達は男の問い掛けを無視し、更に加速して 男に近づいていった。
「く、くそ!ここの入り口にはアルケニーがいたはずだぞ!」
喚き散らす男に、祐一は行動で答えを示した。
ヒュ、っと祐一が瞬時に抜いた刀を男は間一髪で回避した。しかし、息もつかせぬま で香里の鞭が男の足に絡まり、男から自由を奪った。
「うわぁぁ!!」
男は情けない声を挙げて懐に備えていたベレッタを祐一に撃ち込むが、それを庇うよ うにシュウが仁王立ちし、打ち込まれた弾丸は全て霧散していった。
「ひぃぃぃ!そんな……民間人じゃないとしても、もぐりのフリーサマナーがそんな 上級悪魔を従えているだなんて……はっ!まさか」
男が全てを喋りきる前に、祐一は男の喉元に切っ先を突きつけた。それに合わせ、香 里は男の背後に回りいつでも銃が撃てるよう構えた。
「お前のお喋りに付き合っている暇は無い。死にたく無かったら俺の質問に答えろ」
祐一のどすの入った脅しに、失禁しながらも頷く男。じっと男を睨んでいた祐一は、 刀の切っ先を額の方に移した。
「話しやすくなっただろう……まずは、お前の所属している組織の名を言え」
「れ、『レゴ』です……」
「次に、その組織の目的は一体なんだ」
「そ、それは……」
「言いたくなかったら言わなくても構わないぞ。ただ」
祐一は額に向けていた切っ先を、男の眼光寸前まで移動させた。すると、刃先の移動 した部分から血が滲み出てきた。
「こう言うことになる……次は左眼がいいか?それとも」
「い、言います!言わせてくださいぃ!」
泣き出しながらも男は必死で祐一に許しを乞うていた。
「その……わ、私達にもあまり……内容は教えてもらっていないのですが……」
ポツリポツリと喋り出す男だったが、一息置いて次を話そうとした時、急に苦しみ出 した。
「ぐ、ふゃあががががが!!」
口から泡を吹きながら、男は悶絶しながら死に絶えていった。その様子を見ていた香 里は、祐一を庇うように物理防壁魔法を紡いだ。
「テトラカーン!」
瞬時に張った結界の外から、数本のクナイが乱れ飛んできた。
「やれやれ……気付かれたか」
クナイの飛んできた方から、別の男が歩み寄ってきた。
「……(香里、気付いていたか)」
祐一の問いに、香里は首を横に振った。
(俺も今の今まで気付かなかった。この音の反響する地下道で気配を消すとは)
祐一は刀を構えなおすと、男のほうに向き直った。
それに対し男も、一定の間合いで立ち止まると持っていた剣を抜き出した。
「自己紹介、して頂けるかな?」
男は柔らかく、しかしハッキリとした口調で祐一達に問い掛けた。
「自己紹介って言うのは、自分から先にするもんなんじゃないのか」
脅し口調の祐一だったが、それに動じる事無く男は笑っていた。
「これは失礼。自分はこの辺りを担当している『斎藤』と申す者。さ、次は貴殿たち の番だ」
「……相沢だ」
「……美坂よ」
二人の素っ気無い対応にも顔色一つ変えず、男は静かに納得した。
「成る程。さて、自己紹介も終わった事だ」
男は一気に跳躍すると、祐一の目の前に迫っていた。そして……
「死んでもらおうか」
男の高速の剣先が祐一の首を狙う。

to be continue……

(※1) 『屍鬼コープス・悪霊インフェルノ』
前者は死体に強烈な思念(もしくは、何人かの思念)が死体にこびりついたモノ。
後者は永遠に燃え続ける地獄の劫火で焼かれる悪霊の事。
普通のサマナーには強敵だが、祐一達には雑魚扱いされていた。

(※2) 『異界化』
ある特定の場所を『異界』に変える事。それなりの力があれば、建物を丸ごと異界化 させることも可能。
ちなみに、今作での異界化は『力のあるもの』のみに影響している。
その為、普通の人には入る事が出来ない。

(※3) 『アルケニー』
手足が鎌のようになっている蜘蛛女。
中堅クラスのサマナーなら苦戦するが、やはり祐一達にとっては厄介なだけで雑魚ク ラスである。


管理人のコメント


>数時間後、暫く騒いでいた一行だったが、やがて疲れてきたのか皆が皆眠りに入って いった。

いったい彼らはどうなってしまうのでしょうか…うぅむ、気になります。


>「何を勘違いしたか知らないが、俺は銃を組み立てるのに部屋を暗くするつもりだっ たんだが」

祐一ィ!貴様香里と同じ部屋で彼女がシャワー浴びていると言うのにその反応は何だ!修正してくれる!!
…失礼しました(殴)。


>「ストップ!今出るからこっち来ちゃダメよ」
>「な、何で分かったんだろう」


…結局見たかったんじゃないのか?

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