ここは某国が更なる革新を求めて建設された島国『ノア』


現在の最先端技術を注ぎ込んだ国であり、ここに居住を構えるのは各分野一流の人間 達が多かった。
そして数年後、開発の進んだこの国に、一般市民が住むための区域が完成した。

その名は『ニュー鍵葉タウン』

新しい人々の為に開発された街『ニュー鍵葉タウン』への住民権は人気を博し、抽選 により数百の人間が選ばれ、彼等は敬称として『第一市民』と呼ばれていた。
しかし、そんな希望にあふれた場所にも様々な噂が流れ始めた。
ある事件は「夜な夜な呻き声が聞こえる」また別のところでは「旧市役所で幽霊を見 た」など……
更には、一部の隔離区域で「悪魔を見た」という噂も流れるようになっていた。
この背景に何者かの影を感じた『クズノハ』一派は、調査隊員として『国崎往人』を 送り出した。
しかし、往人からの定期連絡は一度も入ってくる事が無かった。
不審に思った『クズノハ』は、往人との連絡を取るために三人の人間を送り込む。

一人は、未熟ながらも卓越したセンスを持つ『相沢祐一』を……
そしてもう一人は、その補助としてシャーマンである『美坂香里』を……

果たして、この街には一体どんな真実が隠されているのか……

これは、この街の行く末を記した物語である


真・鍵葉転生〜異分子混入編〜

第一話

『新たなる任務』


都内某所にて――

この事件より数日前、祐一と香里は直属の上司である『スケロク』(※1)に呼び出 されていた。
「なあなあ香里。俺達なんでスケロクさんに呼び出されているか分かるか?」
「知らないわよ」
「だよなぁ〜」
二人は、疑問符をそこら中に浮かべながら、スケロクの控えている事務室に足を運ん だ。ふと、祐一が何か思い出したように立ち止まった。
「なあ……もしかして、この前の仕事で「食事代に」って多めに経費落としたのがバ レたとかないよな」
「な!!そ、そうなったら責任は全部祐一に擦り付けさせてもらうわ」
「ちょ、待ってくれよ香里。お前だって美味しそうに全店のお勧めラーメン食べてた じゃないか!」
「だ、だって貴方が嫌がるアタシに「どうした香里、美味しいぞ。ほら口開けてみ ろ」って言って食べさせたのが原因なんじゃない。アタシはむしろ被害者よ」
「でもその後に「アタシにもこれと同じの下さい」ってズルズル満足そうに食べてい たじゃないか。しかも、次の店からは味付け卵とかトッピングまで頼んでいたし」
「それを言うなら祐一だって「あ!ずるいぞ香里!俺もそれを二つずつ」って言って 頼んだじゃない」
「うぐぅ……だ、大体香里は」
と、祐一が香里に反論をしようとした瞬間、祐一の頭上にキセルが振り下ろされた。
「あいてぇ!」
「人の部屋の前でぎゃあぎゃあ騒ぐな馬鹿者」
祐一が恐る恐るキセルで叩いた人物の方に向き直ると、そこには歌舞伎役者の姿をし た男が立っていた。
「ス、スケロクさん」
「スケロク様……」
スケロクと呼ばれた男は、スッとキセルを持ち替えると、今度は香里の頭を小突い た。
「きゃ」
「お前もだ美坂。夫婦漫才は結構だが、そう言うのは自室でやってもらいたいもの だ」
「「も、申し訳ありませんでした」」
二人は同時に頭を下げると、スケロクのお小言に耐えるために心の準備をした。しか し、いつものような説教はなく、ただの一言が返ってきた。
「まあいい。とりあえず中に入れ」
スケロクは二人に背を向けると、先に自室へ入っていた。
「あ、あれ?」
「お小言は無いのかしら……助かったわ」
「ったく、香里のせいで叩かれたじゃないか」
「何言っているのよ、もともとは貴方が原因なんじゃない」
「違うって、原因は……」
「さっさと入ってこい!」
「「ハイぃぃぃ!!」」

スケロクの事務室――
「さて、早速だが今回の用件を話そう」
スケロクは備えてある机の中から、一通の封筒を取り出した。
「まずは、これを見ろ」
そう言って、封筒の中から数枚の書類を取り出し、祐一達に投げつけた。
「わっと、なになに……『夢をのせた希望の街「ニュー鍵葉タウン」(※2)がつい に完成!ご来場の際にはこちらのチケットをお持ちになって……』なんですかこれ ?」
「これって、最近完成したモデル都市の一つですよね」
「その通りだ」
「これが一体?」
「二人には、この島に向かってもらう」
「「は?」」
唖然とする二人を他所に、スケロクは別の封筒を二人に渡した。
「数日前、我々にこの島の調査を行うよう依頼がきてな。たまたま休暇だったヤツに 頼んだんだが、一行にヤツからの定時連絡が無くてな。最初は時間を勘違いしている のかと思って傍観していたが、二度目の提示連絡のときにも何も合図してこない。そ こで、そいつの行方探しをお前達三人に頼みたい」
「三人?」
香里はてっきり祐一と二人っきりだと思っていたが、もう一人いると言われ、心の中 で舌打ちを打った。
「ああ、もう一人は別の事件が終わり次第そっちへ向かってもらう」
「誰ですか?」
「そいつはいけば分かる。まぁ、お前等とは顔見知りだ、合流地点に向かえば一発で 分かるだろう」
「……分かりました。それと、行方不明になっているのは誰なんですか?」
祐一は三人目のことよりも、行方不明となった人物に興味を抱いていた。
(行方不明って……一体そんな間抜けは誰なんだ)
スケロクはキセルを吸うと、その煙をため息と一緒に吐きだした。
「往人だ」
「は?」
「聞こえなかったか?……お前等の先輩の『国崎往人』だ」
「「えぇぇ〜?!」」
「騒ぐな馬鹿共」
「だ、だって国崎さんって言ったら、シャーマンの中でも『レイ・レイホゥ』(※ 3)さんに並ぶ方じゃ」
「なんでまたそんな大御所が出向いたんですか?」
「言葉の通り、「暇を持て余していた」そうだ」
「……」
ある意味予想通りの答えに、二人は茫然としてしまった。
「それと、もう一つやってもらう事がある」
スケロクは茫然としている二人をキセルで小突くと、また違う封筒から何か印刷され た紙を取り出した。
「今回の住民権に当選した人物の中に、無所属のサマナーやシャーマン、さらにはペ ルソナ使いまでもが枠に入っている。しかも、かなりの人数が……だ」
「それって……」
「恐らく、この住民権という招待状は、何者かによって仕組まれた可能性が高い。往 人が行方不明という時点で怪しいと思っていたが、あいにく俺とレイは『天海市』 (※4)に向かわなければならない」
「天海市……香里知っているか?」
「えっと、たしか情報ネットワークのモデル都市として開発が進められている場所で すよね」
「ああ、あそこである組織の影が見え隠れしていてな。本心としてはそっちに向かい たいが、あいにくこちらの方に首を突っ込む事を決定した後だったからな……」
「大丈夫ですよスケロクさん。こっちの方は俺と香里ともう一人でチャチャっと解決 しておきますよ。それに、向こうには往人さんがいるんだから、合流すれば百人力で すし」
「そうだな……お前達ならば問題ないか」
スケロクはキセルを持ち直すと、先のほうを祐一と香里に向けた。
「では、二人には今日の便でその島に向かってもらう。頼んだぞ」
「「はい!」」
「それと……」
スケロクは急に真面目な顔になって二人を見据えた。
「食事をするのは構わんが、その分は二人の給料から引いておくから覚悟しておけ よ」

祐一と香里のセルフハウス――
「う〜ん……参ったなぁ〜」
「何か問題でもあったのかしら?」
「いや、俺のガンプ(※5)が起動しないんだ。弱ったな……今からじゃ修理しても 間に合わないぞ」
「予備のガンプは無いの?」
「全部スケロクさんに預けっぱなしだ」
「なら、急いで電話して取りに行くって言付けしておいた方が良いんじゃない?」
「あ、ああ」
祐一は携帯を取り出しスケロクの事務室にコールするが、出る気配は全く無い。続い て、プライベートナンバーに掛けてみるが、こちらも出る気配が全く無い。
(マズイ……ガンプが無いと丸腰同然じゃないか)
頭を抱えている祐一の元に、携帯からスケロク用の着信音が流れてきた。急いで電話 に出る祐一。
「もしもし!」
「祐一か……一体何のようだ」
「実は、俺のガンプが故障したみたいで……今から予備のCOMPを取りに行って良 いですか?」
「悪いが、俺はもう天海市に向かっている。それは無理な相談だ」
「そ、そんなぁ〜」
「……安心しろ。ヴィクトルに話をつけておいてやる。ヤツから新しいCOMPをど うにかするといい」
「あ、ありがとうございます」
「じゃあな」
プツっとスケロクとの通話が終わると、祐一は奥の部屋で武器の品定めをしている香 里に向かって叫んだ。
「香里〜俺今から業魔殿(※6)に言ってくるから!」
「分かったわ……アタシも神降ろししてくるから家を開けるわね」
「了解。んじゃ、行ってくるわ」
そう言って、祐一は業魔殿に向かった。

業魔殿――
「話は聞いておる。先に、壊れたCOMPを見せてもらおう」
ヴィクトルは祐一が着て早々に地下室へ案内した。急展開に少々驚いた祐一だった が、こちらも時間が無いのでありがたかった。
「ふむ……修理すればニ、三日で直るが」
「それじゃあ遅いんですよ。せめて一時間後」
「それは出来かねる」
「うぐぅ」
祐一のボケにも全く反応しないヴィクトルに、ついつい昔の知人の物真似をしてし まった。
「そう言えば……あいつら元気でやってるかなぁ〜」
一人、また一人と、祐一は昔いた仲間達を思い出して和んでいた。
「……物思いに耽っている様だが、そんな余裕はあるのか?」
「おわ!」
目の前まで迫ったヴィクトルの顔に、思わずひっくり返ってしまった祐一。と、祐一 の手に何かに触った感触がした。思わず「それ」を掴み取ってみる。
「これは……」
「それか?それは私が新たに開発したチョーカー型COMPだ。目立たぬし、機能も 充実している」
「へぇ〜」
「そうだな。試験運転も兼ねて、それをお主に譲ろう」
「え?いいんですか」
「構わん。そのCOMPの使い心地を報告してもらえば、あとは好きに使ってくれて 良い」
「やりぃ♪」
嬉しそうにチョーカーを手に取る祐一。
「ところで、この壊れたガンプにおる仲魔達はどうするのだ?」
「あ、出来ればこっちのCOMPに移してもらいたいんだけれど」
「ふむ……数刻待ってもらえば可能だ」
「じゃ、頼みます」
数時間後、チョーカーの中には、御馴染みの仲魔達が登録されていた。
そして、祐一が活き揚々と部屋に帰りチョーカーを香里に見せると、香里からの第一 声はこうだった。
「祐一って、犬願望が強いのね」

空港近くにて――
二人は空港付近に着くと、自分達の乗る便を確認するためチケットを見直した。
「えっと、俺達の乗る便は?」
「次の次の便よ。それよりも祐一、武器(※7)は別の荷物で出すからこっちに渡し て頂戴」
「へ?この前みたいに貸し切りじゃないのか?」
「馬鹿ね。今回は一般人に隠れて進入するからそんな目立つ行動は出来ないのよ」
「な〜んだ。俺はてっきり香里と二人っきりかと」
「な、何言ってるのよもう!」
顔を真っ赤にしながらも、香里は心の中で祐一の意見に同意していた。
「まぁ仕方ないか。ほら「相州正宗」「イングラム」の二つ頼んだぞ。で、香里は何 持ってきたんだ」
「アタシは愛用の「グレイプニル」と「ドラグノフ」よ」
「相変わらず渋い銃を使うな」
「あら、でも慣れると可愛いもんよ」
「ま、香里が良いなら特には言わないけどな」
と、祐一は遠くの方で報道陣が誰かを囲んでいるのを発見した。
「なんだありゃ?」
「あれは……最近売れ出したアイドルじゃない?名前は確か……」
「確か?」
「忘れたわ。もともとアイドルには興味が無いし」
「ま、今回の仕事には関係ないだろ。そんな事より、さっそと空港でお茶飲もうぜ」
「はいはい。」
苦笑いを浮かべながらも、祐一の隣を歩く香里。
そして、二人は『ノア』に向かうために空港に足を運んでいった。

to be continue……

(※1) 『スケロク』
祐一と香里の直属の上司。他の人間からは別の名で呼ばれる事もある。『クズノハ』 で最強のサマナー

(※2) 「ニュー鍵葉タウン」
『ノア』というモデル都市に出来た新しい区域。テーマパークやコンサート会場など 子供から大人まで楽しめる施設が存在する。

(※3) 『レイ・レイホゥ』
スケロクと組んでいるシャーマン。実力は、現在のところ組織内で一、ニを争う。

(※4) 『天海市』
某『デビルサマナー・ソウルハッカーズ』というゲームの舞台となる場所。

(※5) 『ガンプ』
祐一が悪魔を召喚するのに使っているコンピューター。 旧式ではあるが、スケロクから譲り受けた大切な代物。

(※6) 『業魔殿』
ヴィクトルが経営するホテル。が、実は悪魔合体を行う研究室が存在する。
ちなみに、ヴィクトルは悪魔合体の権威。

(※7) 『武器』
祐一はスケロクから譲り受けた業物の刀と、某大国MAC社のコンパクト・サブマシ ンガン。
香里は悪魔に造らせた(笑)神話をモチーフにした鞭と、某ソビエト製セミオート式 狙撃銃を使用。


管理人のコメント


スパイクさんから新たな作品をいただきました。今回は葉鍵と女神転生のクロスオーヴァーですね。
…実は私は女神転生シリーズはぜんぜん知らないのですが(笑)。

>「お前もだ美坂。夫婦漫才は結構だが、そう言うのは自室でやってもらいたいもの だ」

おおお、香里がメインヒロイン!管理人は香里がKeyキャラの中で一番萌えなので実に嬉しいです(笑)。


>「なんでまたそんな大御所が出向いたんですか?」
>「言葉の通り、「暇を持て余していた」そうだ」


往人君が大物…似合いませんね(笑)。まぁ、原作と逆の意味で暇そうなのは良い事です。


>「祐一って、犬願望が強いのね」
いや、逆に香里が祐一を犬にしたいという願望が…考え過ぎか(笑)。


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