To Heart Outside Story

12人目の彼女

第一話
「ひろの、爆誕」


 その日、東鳩高校の一室において怪しげな実験が展開されていた。
「………………」
 カーテンを締め切り、ろうそくの淡い光だけに照らされるオカルト同好会の部室に、不思議な呪文が流れていく。声の主はこの部室の管理者、つまり同好会長の来栖川芹香嬢である。
 それを見ているのが、藤田浩之。芹香の一年下で、別に同好会のメンバーでも何でもないのだが、芹香に対する好意からこうやって部室に押しかけている。
 昨日、芹香からちょっとしたオカルト実験に付き合いませんか?と聞かれたのが事の発端だった。新しい魔道書の中に興味深い魔法があったので、試してみたいらしい。
 その魔法は、うまく行けば使い魔を召喚できる魔法なのだ、と芹香は言った。どういう物が出てくるか興味を持ったので、浩之もこうして実験に付き合っている訳である。
 やがて、いよいよ儀式は佳境に入り、芹香が唱える呪文もだんだん高まっていく。そして…
「………!」
 唱え終わった瞬間、床の魔法陣がまばゆく輝いた。芹香の顔色が変わる。本によればこういう反応は起きないはずなのだ。
「……!」
 逃げてください、と彼女にしては大きな声で警告したのだが、聞こえる訳が無い。次の瞬間、爆発的な閃光が部室を満たし、衝撃波が芹香を壁に叩き付けた。
「…!」
 幸い、そこはカーテンや魔法陣のタペストリーと言った布製品が重ねられた場所だったので、芹香はそれほどひどい怪我をせずに済んだ。ちょっと打ち身が出来たくらいだ。
「…」
 浩之さん、大丈夫ですか?と彼女が言うと、先ほどの爆風で舞い上がった埃の向こうに、床に倒れた学生服姿が目に入った。その周りの床に、黒い何かが広がっているのを見て、芹香は蒼白になった。血かと思ったのだ。だが、あわてて芹香がそばに駆け寄ってみると、その黒いものは髪の毛だった。
「?」
 首を傾げ、床に倒れた浩之の姿を確認する。髪の毛が伸びている他は、特に外傷らしいものは見当たらない。
「…」
 ともかく、そのままではかなり苦しそうな体勢だったので、芹香はうつ伏せに倒れた浩之の身体をひっくり返した。意外にも浩之の身体は軽く、ころんと仰向けになる。
「…うそ…」
 芹香は驚きの余り大声を上げた。と言っても普通の人の声と同じくらいの大きさだが。仰向けになった浩之は髪の毛以外にもはっきりとした変化を示しており、その意外さにさすがの芹香も動揺を隠せなかった。
「…」
 とにかく、このままにはしておけない。芹香は携帯電話を取り出し、信頼できる執事のセバスチャンを呼んだ。


・・・・・・・・・
 深い闇の中から、次第に意識が浮かび上がってくる。
「…う?」
 浩之は目を覚ました。目を開けると、見慣れた部屋の天井ではなく、なにやらベッドを大きな天蓋のようなものが覆っている。
「ここは…どこだ?…って、声が?」
 思わず漏れた自分の声を聞きとがめて浩之は首をひねった。声が普段より高い。
「あー…アメンボ赤いなあいうえお…まいまいネジ巻まみむめも…」
 発声練習を試みる。やはり声が高い、というより女の子のような声だ。
「なんだ…?とにかく起きて…」
 身を起こした浩之。その顔面に、何かがふわりとこぼれかかる。
「わっ!?なんだ…髪の毛か…って、髪の毛ぇ!?」
 浩之は顔面に掛かる髪の毛を引っ張ってみる。その途端に頭皮に痛みが走った。
「いてっ!?…ほ、本物?」
 浩之は呆然とその長く伸びた髪の毛を撫でた。やや茶色みがかっているが、芹香にも負けないさらさらして奇麗な髪だ。
「…あれ?」
 浩之は髪を撫でている自分の手が、妙に細いことに気が付いた。腕も、指も、細い上に白くてきめの細かい肌になっている。
「…女の子の手みたいだ。ま、まさかな…」
 浩之はその豪華なベッドから立ち上がり、鏡を探した。幸い、鏡台がすぐに見つかった。浩之は意を決してその前に立った。
「…!」
 その鏡の中には、白いネグリジェを着た背の高い美少女が一人立っていた。髪の毛は背の半分まで届く長さで、切れ長の目をしている。
「…は、はぁい」
 右手で、鏡の中の少女にピースサインを送りつつ笑いかけてみる。鏡の中の少女はピースサインを出してぎこちなく笑いかけて来た。
「…!」
 浩之は鏡を取り落とした。空いた手で、思い切り自分の胸を触ってみる。
 むにゅ。
「あ、ある!」
 その柔らかい感触に驚きつつ、次に股間に手をやってみる。
 すかっ。
「な、ない〜〜〜〜〜〜っ!?お、俺のナニがナニしてぇ〜〜〜〜っ!?」
 鏡の中の少女が自分であることを悟り、浩之が絶叫した時、部屋の扉ががちゃりと開いた。
「…はっ!?センパイ!」
 そう、部屋に入って来たのは芹香だった。その瞬間に、浩之は記憶が蘇った。そう、彼女の魔法実験に付き合っていたのが最後の記憶だったからである。
「せ、センパイ…これはどういう事なんだ?俺は一体どうしちまったんだ?」
 浩之が芹香に言うと、彼女はこくんと頷いて事情を話し始めた。

「…なるほど。魔法が失敗して、気が付いたらこうなった俺が倒れていたのか…」
 こくこく。芹香は頷いた。
「で、気絶した俺を家まで連れてきたと。大変だっただろ?え?セバスチャンがやってくれたから大丈夫?そうか…」
 小声で話す芹香の言うことを繰り返して確認しながら浩之は事情を飲み込んだ。
「で、センパイ…これって、元に戻るのか?」
 それが一番重要なことだった。だが、芹香は首を横に振った。
「わからない?魔法がどんな風に失敗したか、から研究しないとどうにもならないって?そうか…」
 浩之はがっくりとしてベッドに座り込んだ。
「どうしたら良い?センパイ…これじゃ家にも帰れないし友達とも顔を合わせられないよ」
 憂いを滲ませた顔で芹香を見上げる浩之。その目が心なしか潤んでいる。
 その顔を見た瞬間、芹香の中で何かが目覚めた。彼女はきゅっと浩之の顔を抱きしめた。この人を守ってあげなくては、という強烈な保護欲にかられたのである。
 守られるばかりの立場である深窓の令嬢である彼女にとって、頼りにされるということは非常に心地よいことであったらしい。
「わっ…!?せ、センパイ…何を…?」
 顔面に芹香の意外に豊かな胸を押しつけられ、慌てふためく浩之。その彼(彼女?)に芹香は囁いた。
「え?元に戻るまで、来栖川家で面倒を見てくれる…?い、良いの?センパイ…」
 芹香はこくこくと頷いた。
「私の魔法の失敗が原因だから、当然のことです?そっか…ありがと、センパイ」
 浩之の感謝の言葉に、芹香は顔を赤くして頷いた。彼女はスツールの上のベルを手に取って2、3回鳴らした。
「お呼びでございますか、お嬢様」
 そう言いながら入って来たのはセバスチャンだった。芹香はセバスチャンに何事か告げた。
「は、藤田様に代えのお召し物を、ですな。承知しました。しばしお待ちを」
 セバスチャンはいったん部屋を出て行き、5分ほどして戻ってきた。
「藤田様、こちらを」
「あ、ああ、ありがとう」
 紙袋に入れられた服を手渡され、浩之が礼を言うと、セバスチャンは何故か顔を紅くして答えた。
「いえ、お気になさらずに」
 普段自分を小僧呼ばわりするはずのセバスチャンの、いつになく丁重な態度に不審を覚えつつも、浩之は服を取り出した。
「…これは、もしや…」
 黒のロングのワンピース、白のフリルがいっぱい付いたエプロン、同じくフリルの付いたカチューシャ。
「ジジイ、何故にメイド服…」
 浩之がセバスチャンを睨むと、彼は丁寧に答えた。
「は、残念ながら女物で藤田様のサイズに合うのはそれだけでしたので」
「サイズ?なるほどね…」
 浩之は頷いた。芹香と並んでみると、目線の高さがいつもと同じ。つまり、背は縮んでいないのだ。浩之の身長は173センチだから、確かにサイズの合う女物の服は少ないだろう。今着ているネグリジェは恐らく芹香のものだろうが、裾や袖はかなり短い。
「できれば男物が良かったんだけどなぁ」
 浩之が言うと、セバスチャンは首を振った。
「あいにく、当家で男性はワシと大旦那様だけでしてな…園丁や料理人は通いですし」
「はあ…」
 浩之は頷いた。メイドは住み込みなのだろうか?そう言えば、来栖川家にメイドとして働きに行くと良い花嫁修業になるとかなんとか聞いた覚えもあった。
「そう言うことなら仕方ないか。着替えよう」
 そう言って浩之はメイド服を手に取り…
「ジジイ…見てる気なのか?」
「はっ!?こ、これは失礼…」
 慌ててセバスチャンは出ていった。浩之は改めて着替えようとして…固まった。手に何か摘んでいる。
「…(どうしました、浩之さん)」
 芹香が心配して尋ねると、浩之は困ったような顔で振り返った。
「…これ、着なきゃ駄目か?」
 浩之が手に取ったもの、それはブラジャーだった。たしかにさっきまで普通の男だった彼(彼女)が女性用下着の付け方など知っているはずが無い。
「…」
「え?着けないと服にこすれて気持ち悪い?そ、そうか。でも、どうやって着けるんだ?」
 何が服にこすれるのかは謎だが、浩之が困っていると、やはり芹香が言った。
「え?手伝ってくれる?さ、サンキュ、センパイ」
 芹香に助けてもらい、浩之はようやく着替えをはじめた。自分の姿を真っ赤になりながら浩之が鏡で見ている。
「…でけえ…」
 あらわになった自分の胸を見ながら思わず呟く浩之。男の頃胸囲が93センチあったが、そのまま女になっても引き継がれているようだ。それでいてウエストは細くなっているし…背の高さを考えるとモデルと言っても通用しそうなスタイルだった。ようやく着替え終わると、芹香が傍に寄って来て言った。
「…」
「お似合いです?あ、ありがと、センパイ…でも、喜んで良いのか悪いのかわからないよ…」
 細身の浩之の身体に、シンプルなメイド服は確かに良く似合っていた。が、これで素直に喜べる様ではまずいことに変わりはあるまい。
「え?これから出かける…って、どこへ?」
 芹香の思わぬ言葉に浩之が尋ねると、芹香は神岸さんの家です、と答えた。
「あかりん家?ちょっと待ってよ、センパイ…この格好でか?」
 困惑する浩之に、芹香は考えを説明し始めた。もちろん、魔法で浩之が女になってしまったことは世間に公表できるようなことではないから、隠しておく。しかし、一番親しい人間には教えておかないと、その人も心配するし、浩之自身も秘密を守るのは大変だろう、という事だった。
「う〜ん…確かにあかりには教えた方が良いか…でも、大丈夫かな…」
 セバスチャンの運転するリムジンに乗った後も、心配する浩之。その彼(彼女)の手を握り締め、芹香が「心配しないで」と言いたげな目で見上げる。
 浩之としても心配してもどうにもならないことだったので、仕方なく窓の外に目をやる。車は屋敷のある郊外から次第に市街地に入り、やがて浩之の家やあかりの家がある一画に辿り着いた。
「では、参りましょうか」
 セバスチャンが先頭に立ち、声の小さい芹香に代わって神岸家のドアをノックした。
「いらっしゃい、来栖川先輩」
 あかりが出てきた。芹香が相変わらずの声でお邪魔します、と言う。あかりは浩之繋がりで芹香とも知り合い同士だ。が、いきなり家に訪ねてくるほどの仲でもないので、さすがに驚いているようである。
「え…?大事な用、ですか?わかりました。わたしの部屋へどうぞ」
 セバスチャンは車に戻って待つことになり、あかりの部屋には浩之と芹香が入った。
「で、お話って何でしょうか」
 あかりが言うと、芹香は落ち着いて聞いてくださいね、と前置きして話を浩之に振った。
「あ、あの…」
 何と言って切り出して良いものかわからず、口篭もった浩之だったが、やがて覚悟を決めると切り出した。
「あかり」
「え?は、はい」
 初対面の少女にいきなり呼び捨てされ、あかりが戸惑ったように浩之の顔を見る。
「落ち着いて聞いてくれ…俺は浩之なんだ。お前の幼馴染みの」
「は?」
 あかりが固まった。

 部屋の中に、静かな空気が流れる。だが、やがてあかりの顔に納得の表情が浮かんだ。
「うん…わかるよ。目が浩之ちゃんの目だし、話し方も浩之ちゃんそのものだもんね…でも、どうして?」
 神岸あかり17歳、さすが藤田浩之研究家(自称)歴17年は伊達ではなかった。外見が一変しているにもかかわらず、わずかな手がかりをもとに浩之を判別してのける。
 もし、浩之が不審死して白骨死体で見つかっても、彼女なら死体を鑑別できるかもしれない。
「うん、実は…」
 浩之は事情を説明した。途中から芹香も加わる。
「そうなんだ。大変だったんだね、浩之ちゃん」
 あかりは意外に明るい口調で言った。思いを寄せる幼馴染みがいきなり女の子になってしまったのに、あまり動揺していない様に見える。
「あかり…お前以外と神経強いんだな。普通もっと驚くぞ」
 浩之は言った。もし逆の立場…たとえばいきなりあかりが男になって自分の前に現れたりしたら、驚くどころかショックのあまり錯乱するかもしれない。
「う〜ん…でも、浩之ちゃんはどんな姿でも浩之ちゃんだし。わたしはどんな格好でも浩之ちゃんと言う人が好きなんだから」
 あかりは言った。さりげなく告白している。が、どんな姿でも関係ないというあかりの言葉に浩之は思わず感動する。
「あ、あかり…お前」
 口を開きかけた浩之だが、次のあかりの言葉はその彼の感動を一瞬で粉砕した。
「それに、今の浩之ちゃん…すっごく、可愛いよ…」
「…はいぃ?」
 おもわず間抜けな声を上げる浩之。だが、あかりは構わず続ける。
「さらさらの髪の毛に、肌も奇麗だし…胸も大きいし、それにその格好も…とても萌え萌えだと思うの」
「あ…あかり…さん?」
 うっとりした口調で、心なしか潤んだ目で自分を見つめる幼馴染みに、浩之は形容しがたい感覚に襲われて全身から冷や汗をだらだらと流す。
 神岸あかり17歳、どうやら思いを寄せる幼馴染みの変身により、何か違う道に目覚めたらしい。まあ、その道が何の道かと言うのは全くの謎なのだが。
 …合掌。
「で、浩之ちゃん…これからどうするの?」
 あかりは尋ねてきた。
「その姿じゃ家に帰れないでしょ。だったら、良かったらわたしの…」
 家に来ない?と言おうとしたあかりだったが、浩之は先に今後の見通しを話した。
「う〜ん、実はしばらくセンパイの家に厄介になることになりそうなんだ。俺に掛かった魔法の事とかも調べなきゃ行けないしな」
「そ、そうなんだ…」
 あかりは落胆しながら言った。
「学校にも行けないしなぁ。本当にしばらくセンパイの家でメイドさんしてようかな。家賃代わりに」
 浩之は言った。生来ぐうたらな彼(彼女)だが、一人暮らしが長かったので家事は一通りこなせる。掃除洗濯くらいなら勤まるだろう。
 だが、それを遮ったのは芹香だった。
「…」
「え?私のせいでこんな事になったんだから、メイド代わりなんてさせられない?」
 こくこく。芹香は頷いて言葉を続けた。
「ちゃんと代わりの戸籍と学籍を用意するから、一緒に学校へ行きましょう?そ、そうか…サンキュ、センパイって…ええ〜っ!?」
 驚く浩之に、芹香は言った。
「…なに?浩之さんは大事なお友達だから、一緒に学校に行けないのはつまらない…?せ、センパイ…嬉しいけど…お友達って言うところがちょっと悲しいよ…」
 なぜかるるる〜っと流れる涙を拭って言う浩之。そして、それに即座に賛同したのがあかりだった。
「そうですよね、来栖川先輩!浩之ちゃんがいない学校生活って面白くないですよね!」
 芹香は頷き、あかりの手を取った。
「…(ええ、そうですね)」
「はい、そうですね!お友達になりましょう!」
 こくこく。芹香が頷く。形は違えど浩之を慕う2人の少女。ここに何故か両者の間に友情が劇的に成立した。
「でも、浩之ちゃんが女の子として学校に来るとなると…女の子らしい名前を考えなくちゃいけないね」
 あかりが言った。
「あの…あかり、俺まだ学校に行くって決めてないんだけど」
 浩之は困惑しきった表情で言ったが、すぐにあかりと芹香に悲しげな目で見つめられる。
「…(私とでは…イヤですか?)」
「浩之ちゃん…駄目なの?」
「うぐぅ…」
 悲しい視線の圧力に押され、思わずゲーム(メーカーも)の違ううめきを漏らしながら浩之は後退さった。これは断れない、と浩之は悟った。少なくとも男としては美少女2人の懇願を断ることはできない。
…今は女だけど。
 ともかく、浩之は決断した。
「わ、わかった…行くよ、学校に」
 その言葉に、2人は手を取り合って喜ぶ。
「やった!じゃ、名前を考えてあげるね。どんなのが良いかな…」
 2人で相談し始めるあかりと芹香に、浩之は提案してみる。
「な、なあ…浩子とか、浩美とか…そういう簡単なので良いんじゃないのか?」
 しかし、その案はあかりによって一蹴された。
「えぇ〜っ、駄目だよ。ベタベタだもん。せっかくだからもっと可愛い名前にしないと」
「べ、ベタベタって…」
 絶句する浩之を後目に、2人の相談は続き、やがてまとまったらしく何度も頷き合う。
「き、決まったのか?」
 浩之が聞くと、何時の間に用意したのか、あかりは墨痕鮮やかに紙に書き上げられた名前を広げた。
『命名:ひろの』
「…ひろの?」
 どういう由来だ、と思う浩之に、あかりが説明する。
「浩之ちゃんの之の字は『の』とも読めるから、それをひらがなにして『ひろの』。かわいいでしょ?」
「う〜ん…」
 可愛いかどうかはともかく、まあ、まるっきり元の名前から離れてはいないし、違和感は少ないかもしれない。そこへ、芹香が別の説明をする。
「え?セバスチャンの遠縁の娘と言う形で戸籍を取るから、フルネームで『長瀬ひろの』?…藤田じゃ駄目?」
 名字だけでも、と思う浩之に、芹香は首を横に振った。
「藤田浩之さんがいなくなって、かわりにまた藤田と言う人が来たら、関係を説明するのが大変だから、まるっきり他人の方が心配ない?ごもっともで…」
 浩之はトホホ、と肩を落した。どうやら、「長瀬ひろの」として学校に通う以外に逃げ道はないらしい。
「わかった…今日から俺は長瀬ひろの…だな。よろしく、2人とも」
 藤田浩之改め長瀬ひろのは頭を下げた。
「うん、よろしくね、ひろのちゃん」
「…(おねがいします、ひろのさん)」
 同じように頭を下げる2人を見ながらひろのは思った。
(ひろの…か。こんな事になって、俺やっていけるんだろうか…)

第一話 おわり。



次回予告

 戸籍・学籍を取得して学校に通えるようになる前に、名目上の保護者となったセバスチャンの住む来栖川邸の離れに引っ越したひろの。
 そのひろのの前に、来栖川家のメイド長さんが出現。彼女はこう言い放つ。
「来栖川家に住むからには、それにふさわしい淑女になってもらうざます」
 始まった地獄の特訓。はたしてひろのは男の矜持(笑)を守れるのか!?
 次回、12人目の彼女第二話
「強襲!ロッテンマイヤーさん」
 お楽しみに〜
 この予告は実際と異なってくる可能性があります(爆)。


後書き代わりの座談会

作者(以下作)「ふう、やっと終わった」
?「おい」
作「ん?何か声が聞こえたような」
?「気のせいじゃない、無視すんな」
作「お、浩之じゃないか。何しに来た」
浩之(以下浩)「何しに来たじゃねぇ!なんなんだ、この話はっ!」
作「いや…見ての通りの話だが。それより、お前はこの話には出番はないぞ。早く帰れ」
浩「…なんで俺が女なんだ…雅史がというなら見た覚えはあるが」
作「他人がもうやっていることをやってもつまらんだろうが」
浩「てめぇ」
作「まあ、お前さんが女になると言う話を考えた理由は一応いくつかある」
浩「なんだよ…」
作「まず第一に、今言ったようにレアリティが高い」
浩「…で?」
作「次に…To Heartってアイドルがいないだろ?」
浩「アイドル?」
作「うむ。よくラブコメものであるだろ。一人の女の子を巡って他の連中が…と言う奴だ。あの中心部にいるアイドル的キャラ」
浩「まぁ、確かにいないが…それとこれとなんの関係がある?」
作「既存のヒロインではそう言う話が書きにくいからな。半分オリキャラということにして、お前が女の子でアイドルタイプだったら、他のキャラたちがお前をめぐって騒動を起こす理由付けになるだろ」
浩「…迷惑な。それに他のキャラって、今の展開だとセンパイとあかり…どっちも女の子だぞ。それじゃ百合じゃないか」
作「そうとも言うな。まあ、薔薇よりは無限大倍に良いと思うけど」
浩「女の子に追いかけられるのは嬉しいが…ん?ま、待て。すると男も俺を追いかけてくるのか?」
作「さてね(ニヤリ)」
浩「い、嫌だあっ!それだけは勘弁してくれぇ!」
作「あきらめろ。それも人望と言う奴だ」
浩「ンな人望はいらんっ!」
作「で、これが最大の理由だが」
浩「…なんだよ」
作「電波が降って来たと言うのが最大の原因」
浩「…殺ス」
作「その身体でやれるならな」
ひろの(以下ひ)「はっ…!何時の間に!?」
作「その無力な身体で私は殺せまい。ではさらばだ」
ひ「あっ!待て!…くそ、いつか殺してやる…」



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