5 湘洋学園大学



 
1.湘洋市


 湘洋市は、現在の神奈川県藤沢・茅ヶ崎・平塚の3市と寒川町・大磯町・二宮町とが合併してできた市である。人口は約96万人。直接税の税率はさほど高くはないが、時として市債を発行し、その取引額を市の予算に計上している。
 3市3町の合併と同時に、政府により政令指定都市に指定され、また学術都市に指定された。それ以来、文部科学省や厚生労働省などのもとにある研究機関が湘洋市に集まりだした。
 また、湘南地方という地理的位置から、夏になれば海岸に若者が多く集まる。


 
2.湘洋学園大学


 湘洋学園大学は新興の私立大学で、湘洋市の北部にある。
 先述したように5つの学部が存在し、工学部以外の学部にそれぞれ一つの学部棟が存在する。工学部棟は二つあり、そのうちの一つは「座学棟」と呼ばれ、他学部の学部棟と同じような構造であるが、もう一つは「実技棟」と通称される学部棟で、工作機械が多数置かれている。また、今は使われていない、旧法学部棟・旧経済学部棟・旧理学部棟が存在する。表向き、「解体に必要な予算がない」ということになっているものの、実際には〈オジロワシ〉の活動拠点として大学側が残しているのである。
 大学の偏差値自体はそれほど低くないが、国の機関と直接結びついている学部が多いため(とくに理系の学部にそういう傾向がある)、入学志望者は年々増える一方である。


 学内は概ね平穏ではあるが、国の諜報機関の養成所として学内に発足したサークル、「スパイ研究会」が時折暴走して、学内の治安を乱すことがある。
 スパイ研の暗躍、そして私立大学でありながら政府が学園経営に介入し、防衛研究施設を学内に移転させようとしたことによって、学園内にて学生によるデモが発生した。これは結局裁判沙汰となり、防衛施設移転は阻止されたが、その張本人であるスパイ研はその存続を許された。政府からの圧力があったからだと言われているが、真偽のほどは定かではない。
 スパイ研はなおも学園内での活動を続け、学内の治安は一時期急速に悪化した。
 理事長はこの事態を憂慮し、私設警備隊「学内特捜隊」を設立させた。学内治安維持組織〈オジロワシ愛好会〉の前身である。
 スパイ研と〈オジロワシ〉はいわば不倶戴天の敵ではあるが、組織の人間である学生は必ずしもそうは考えていない。中には、スパイ件の会員全員を学園から追放すべきだ、と考えている過激な者もいるが、それは隊内では少数派でしかない。多くの隊員は、スパイ研会長の統率を外れた、いわば『はぐれ者』だけを処分すればいいのだと考えている。

 学園内で〈オジロワシ〉の存在を知っているのは、本人たちの他には、理事長、学部長、学友会会長など、ごく一部の人間だけである。本人たちは決してその事実を明かさないし、学園内に諜報網を張り巡らせているスパイ研も〈オジロワシ〉隊員の氏名を暴露したりはしない。そんなことをすると、〈オジロワシ〉が報復としてスパイ研を徹底的に弾圧して、結局自らの首を絞めることになるとわかっているからだ。


 
3.学生生活


 かつて学生によるデモが行われたにも関わらず、学則自体は実に緩やかである。「自分で判断し、自分で行動する」が教育方針であるため、学生の行動や生活に無駄な枷をはめない、というのが理事長以下学園のトップ達の考えだからだ。
 自宅通学生と下宿生の割合は、3:7程度である。もっとも、〈オジロワシ〉隊員となると、この比率は1:9になる。いざというときに大学に早くたどり着く必要があるため、隊員(とくに長のつく役職に就いている者)は、湘洋市内の大学指定アパートに部屋を持っていることが多いのが現実である。
 講義は1時限90分で、午前中に2時限、午後に3時限というのが普通で、土曜日は午前中の2時限のみの開講となる(一部のゼミをのぞく)。
 大学の門は平日・土曜日は終日開放されており、日曜日・祭日は午前8時に開き、午後10時に閉まる。この時間内であれば、学生はいつでも構内に入ることができる。



〈オジロワシ〉とは


 〈オジロワシ〉愛好会は、湘洋学園大学理事長・半田瞬介が自費で創設した学園内治安維持組織である。その存在は一般学生には秘密にされており、存在を知っているのは、以前にも述べたとおり、理事会員、学生課職員、学友会会長、教授の一部だけである。その彼らにしても〈オジロワシ〉の全貌を掴んでいるわけではなく、せいぜい片鱗を見ているだけに過ぎない。


 
4.〈オジロワシ〉の歴史


〈オジロワシ〉が創設されたのは、過去に起こった学生デモが直接の原因である。
 スパイ研究会の煽動によるこの学生デモは、大学敷地内への政府系研究機関設置に反対するという名目で行われたものだが、実際にはどういう理由でスパイ研究会がデモを煽動したのか、よくわかっていない。
 結局このデモは、神奈川県警機動隊の突入により解決を見たが、裁判沙汰となり、学園の威信は大きく低下した。
 そこで、今後このような事態が起こらないように、半田理事長は理事会に諮って、「学園特捜隊」を設立させた。これが〈オジロワシ〉の前身である。
 設立された当時は、行動隊は小隊規模のものが2つしかしかなく、探索隊も3〜4名程度の人員しか配されていなかった。会計部は当時は会計班という名称で、これも5、6人しかいない。実に小規模な組織だった。
 このような少ない人数で、学園内でも有数の巨大サークル「スパイ研究会」の暗躍を抑えようというのだから、並大抵の戦法は通用しない。
 彼らは当初、目に付いたエージェントを片っ端から除籍処分にした。一部のスパイ研究会からの投降者は組織に加えて、相手の戦力を殺いで味方の戦力を増やすということも頻繁に行われた。この時期、『狩り』の手段を選ばなかったため、スパイ研のエージェントと特捜隊隊員の双方で、命を落としたものも相当数存在する(表向きには交通事故死、もしくは当人の過失のよる死として処理)。
 その後、学園特捜隊の規模はふくれあがり、設立されてわずか10数年しか経過していないにも関わらず、隊員数1000人を越える巨大組織となった。学生数は全学部あわせて9000名程度であるから、学生の約11%は〈オジロワシ〉の隊員という計算になる。
 〈オジロワシ〉の隊員は様々な学部・学科から集まってきており、ほぼ全てのサークルに隊員がいる。彼らは部活動を行いながら、時には部やサークル内部の情報を収集し、行動隊や探索隊の活動を助けている。


・〈オジロワシ〉の編制


 〈オジロワシ〉の構成員は、行動隊、探索隊、会計部、兵器局、顧問会議をあわせて、1000人を越える。その規模は学園最大のもので、公認されている中でもっとも大規模なサークルである総合格闘技サークル「ファイティングスピリット湘洋」でさえ、構成人数は180名前後だから、その規模の大きさがうかがえるだろう。
 では、各部局の構成を見ていこう。

・司令

 〈オジロワシ〉司令は理事長の代理として、〈オジロワシ〉を統率する権限を持っている。
 その権限は絶大であり、隊員の任免、予算の承認、『狩り』の対象となる者への処分など、独裁的と言えるほどの権力を持っている。
 その気になれば、大学全体を支配下に収めることも可能だろう。
 しかし、その絶大な権限の代償として、行動隊総隊長により司令はその行動が妥当なものかどうか逐一チェックされる。もし、司令がその地位にふさわしくない行動をとった場合、司令は罷免され、行動隊総隊長の手によって更迭される。
 このチェック&バランス機能が働いているため、絶大な権力を持つにも関わらず、〈オジロワシ〉司令は積極策に転じるようなことをしなかった。今までの司令は、いずれも対スパイ研究会戦略には消極策――というより現状維持策を採ってきている。

 司令は4年生の中から、全隊員の投票により決定される。もし3人以上の候補者がいて、そのいずれもが過半数の得票を得られなかった場合、その年度は司令は置かれず、四隊長会議は、司令が更迭された場合にも開設される。
 現在の〈オジロワシ〉司令は、法学部4年生の『総理』榊原治。彼は4月に司令に就任して以来、しっかりと〈オジロワシ〉の手綱を握り、部下の暴走を押さえている。彼は3年次までは行動隊員であり、歴代司令の中では珍しく、対スパイ研究会強硬論者である。

・顧問会議

 顧問会議は司令の補弼機関で、ここに属する者は、以前所属していた部署とのつながりが、公式には断ち切られる。〈オジロワシ〉隊員の大多数はここに所属している。
 役職に就けなかった3、4年生は全員、この顧問会議に所属することになる。しかし、その年度に司令がいない場合、この顧問会議は(公式には)結成されない。
 顧問会議の主な役割としては、司令と理事長間の折衝のお膳立て、探索隊によるものとは別ルートでの情報収集、行動隊の基礎作戦計画立案作業などがある。、病気や怪我などで指揮官が戦列を離れたときの交代要員としての役割も重要だ。また、大学内に非常事態宣言が発令されたときには参謀本部の役割も果たす(まだ〈オジロワシ〉が戦時体制に移行したことはない)。
 顧問会議議長は、顧問会議員の中から選ばれる。
 現在の顧問会議議長は、工学部情報工学科4年生の『軍師』工藤修一。彼は榊原の親友で、今までの実績と人当たりの良い性格から、隊員から絶大な信頼を寄せられている。人気投票を行えば、榊原と票を分け合うだろう。司令就任を望まれていたにも関わらず、司令就任選挙への出馬を辞退して榊原を司令に仕立て上げた。そして、彼に助言することを自ら選んだのだ。
 なぜ工藤が司令に就任しなかったのか、という疑問には、誰も確たる答えを持っていない。榊原を裏から操って、〈オジロワシ〉を牛耳りたかったからだ、という噂もある一方、工藤は参謀型の人間で人を動かすことは不得手だからだ、という憶測もある。
 いずれにせよ、真実を知っているのは、当の工藤と、そして榊原だけである。


・行動隊

 スパイ研究会のエージェントを排除するのを任務としているこの隊は、その性格上、もっとも思想的に過激な連中ばかりが揃っている。
 行動隊の戦闘力は絶大であり、特に行動隊1番隊は最精鋭との評判が高く、スパイ研究会にも、そして近隣の大学にも存在する〈オジロワシ〉と同じような自治組織にも恐れられている。
 また、司令の説明の所で述べたように、司令が暴走することの無いよう、司令のチェック任務も与えられている。その一方、行動隊総隊長の行動は顧問会議議長に監視されており、組織の決定から逸脱した行動を行動隊総隊長がとった場合、行動隊総隊長は顧問会議により排除される。
 行動隊は探索隊や顧問会議から『狩り』の対象に関する情報を受け取り、その情報に基づいて『狩り』を行う。行動隊が独断専行することは滅多にないが、それはむしろ、隊の運営上好ましいことだろう。この恐るべき戦闘部隊が司令の管理を受けなくなった場合、誰がどうあがいても彼らを『狩る』事ができなくなるのだから。

 行動隊は、4つの番隊(軍隊で言うところの中隊)からなり、それぞれの番隊は4個小隊からなる。1個小隊は4個分隊からなり、1個分隊は5〜10名で構成されている。しかし、番隊によって構成人員に偏りがあり、充足率を満たしていない番隊もあれば、逆に4番隊のように6個小隊は編制できるほど人数の多いところもある。
 分隊長は2年生から、小隊長は3年生、もしくは2年生の優秀者から、番隊隊長は3、4年生の優秀者からそれぞれ選ばれる。番隊隊長の選抜基準は厳しく、過去の『狩り』の成績、学業の評価、普段の生活態度、基本的な戦術理論などの項目を顧問会議でチェックされ、司令から任命される。なお、伝統的に1番隊隊長が行動隊総隊長を兼ねるのだが、例外もある。

 各隊の編制は以下のとおり。

  1番隊……突撃隊(エアガン装備、遊撃・突撃任務)
  2番隊……火力支援隊(電動機関銃・スナイパーライフル装備、支援任務)
  3番隊……弓兵隊(弓装備、支援任務)
  4番隊……白兵戦隊(白兵戦専用武器装備、遊撃・突撃任務)
  教育隊……新入隊員教育部隊(新入隊員教育任務)

 1番隊は電動エアライフルを中心とした装備で、軍隊でいう歩兵と同じ役割を果たし、目標の逮捕ないし確保を任務とする。
 2番隊はコッキング式のエアライフルやマシンガンを中心とした装備で、突撃する部隊に対する支援射撃である。
 3番隊は弓矢を主装備とし、任務は2番隊と同じく支援射撃。
 4番隊は木刀やバット、テニスラケットなど、近接戦専用の武器を装備している。装備を持たず、素手で『狩り』に参加する隊員もいる。任務は1番隊と同じく目標の逮捕ないし確保。
 教育隊では、入隊して間もない隊員に、〈オジロワシ〉の編制や歴史、戦闘や情報収集のやり方、それ以外の役職の基礎的な演習、そして彼らが果たすべき任務についての教育を施す。新入隊員はここで3ヶ月の基礎教育を受け、それを修了した後に各番隊や探索隊、会計部、兵器局へと配属される。
 現在、各番隊の隊長は全て3年生がつとめている。
 行動隊総隊長兼1番隊隊長は経済学部経済学科の『姐御』神崎礼、2番隊隊長は文学部史学科の『番長』猿渡徹、3番隊隊長は工学部機械工学科の『博士』山田健、4番隊隊長は工学部建築学科の『与作』大川秀明、教育隊隊長は法学部の『マリーン』澤登駿介が、それぞれ就いている。


・探索隊
 探索隊は情報を収集し、司令に判断材料を提供し、行動隊の動きをより容易にすることが主な任務である。行動隊のような戦闘力はほとんど持たないが、緻密な情報網を学園内の至る所に張り巡らせており、どのような些細な噂でも集めることが彼らの重要な役割となっている。行動隊員と探索隊員は、全く同列に扱われる。
 探索隊は学部ごとに班を設け、学部班は学科ごとに分遣隊を置いている。分遣隊の人数は15〜20人で構成されているが学科を持たない法学部班には分遣隊を置いていない。
 学部班長、学科分遣隊隊長の選抜基準は、行動隊の番隊隊長、小隊長にそれぞれ準じている。しかし、完全な実力主義を採っており、2年生でありながら学部班長をつとめることも認められている。
 探索隊総隊長兼理学部班長は化学科3年生の『教授』石川信光、文学部班長には文学科3年生の『コンピュータ』向井一也、経済学部班長は経済学科3年生の『ハーフ』中村悟、法学部班長は法学部2年生の『カミソリ』海野周二、工学部班長は機械工学科3年生の『神主』度会一が就任している。

注釈)探索隊別班について

 探索隊にも、小規模ではあるが、行動隊と似たような武装集団がある。
 これを探索隊別班と呼び、カウンタースパイや後に述べる「脱会狩り」を任務としている。この別班の隊員には元スパイ研究会会員の比率が他の部局に比べて多く、その戦闘実力は行動隊最精鋭とされる1番隊に匹敵する、と隊員の間では言われている。
 探索隊別班は2個小隊からなる部隊で、出動の機会こそめったにないものの、その実力と呵責のない戦いぶりはスパイ研究会からも恐れられている。ほぼ全員がガス圧を高めたガスライフルを装備し、出動時には常に黒いジャンプスーツを着用するため、「影の執行者」という異称を行動隊から奉られている。
 別班は2個小隊からなり、別班班長兼第1小隊長は理学部物理学科3年生の『デルタ』堀内覚が、第2小隊長は工学部班長の度会が、それぞれつとめている。


・会計部

 会計部は〈オジロワシ〉の財政を一手に握る機関で、司令直属機関の一つである。時によっては司令を凌ぐ権限を持つ。なにしろ、予算が充分に割り当てられなければ、たとえ司令といえども、活動に支障を来すのだから。
 しかし、逆に言えば、非常に責任が重い部署でもある。行動隊と探索隊のどちらに予算を多く配分するかという問題は、その年度の戦略方針を計算に入れて決定しなければならない。行動隊に予算を多く配分して探索隊の予算が少なくなると、使用する費用が足りなくなり、充分な情報収集活動を行うことが困難になる。逆に、探索隊のほうに多く配分すると、行動隊隊員の活動資金を奪ってしまい、行動隊員の士気を殺ぐ。また、兵器局に少ない予算を配分すると、装備改変が遅れ、任務遂行に悪影響を与えかねない。
 このように、会計部の隊員は直接戦闘に参加することはないが、非常に重要な人員なのだ。
 金銭というものを扱っているだけに、地位が上がるに連れて、責任はさらに重くなる。年度末の決算報告を行う際、ほんの些細な計算ミスにより、公金の横領を疑われ、当時の会計部員全員が司令命令により罷免されたことがあるほどだ。
〈オジロワシ〉の活動資金や隊員の給料・特別ボーナスは、この会計部を通して、各部署や隊員に支給される。
 会計部は40人前後の隊員で構成され、全員が珠算2段以上の資格を持っている。
 現在、会計部長には、経済学部経済学科3年生の『算盤』首藤慎也が就任している。


・兵器局

 兵器局は〈オジロワシ〉の装備品の設計を担当する部署で、司令直属機関の一つである。
 傑作といわれる強化木刀〈武蔵〉やガスガン・南部一四年式拳銃8mm口径バージョンを設計し、設立されてまだ日が浅いものの、立派な実績を誇っている局である。
 この局では、絶えず兵器の研究開発を行っており、行動隊員のニーズに応えるべく、日夜研究に励んでいる。また、個人で所有している武器のカスタマイズも行なっている。
 兵器局は50人前後の隊員で構成され、ほぼ全員が工学部の学生である。
 兵器局長は、工学部機械工学科3年生の『旦那』斎藤俊正がつとめている。


注釈)研究会について

 これまでに述べられた〈オジロワシ〉の組織とは別に、隊員は自らの選択により研究会に属することができる。
 研究会は3つあり、それぞれ「有事法制研究会」、「装備研究開発会」、「電脳分野研究会」と名付けられている。
 掛け持ちは可能だが、参加する以上必ず実績を残すことが必要となる。

・ 有事法制研究会

 学生の一部が大学内において大規模な騒擾行為を行い、通常の業務では沈静化が難しいと判断される場合、司令は理事長に非常事態宣言の発令を要請し、理事長が宣言を発令した場合、〈オジロワシ〉は戦時体制に移行する。
 その際に〈オジロワシ〉及び騒擾行為を行う学生によって生じる混乱から、一般学生の生活を守るために定められた規則がある。これを〈オジロワシ〉有事法という。
 この法案を、より現実に即したものにするための議論を行う会を「有事法制研究グループ」という。
 有事法制研究グループには、必ず司令と顧問会議議長が参加し、その他の隊員は自由意志により参加できる。

・ 装備研究開発会

 兵器局での概念設計だけでは、その装備が本当に実戦で役立つのか不明確なことが多い。
 そこで、行動隊の人間も参加して、現場の意見を聞いて新型武器の開発を行っている。これを「装備研究開発会」という。
 装備研究開発会には行動隊や探索隊別班の隊長や一般の隊員なども参加し、兵器局が設計した装備について議論を交わし、試作品のトライアルを行い、制式装備にするかどうかを決定している。
 装備研究開発会には必ず兵器局局長と行動隊総隊長、別班班長が参加し、その他の隊員は自由意志により参加できる。

・ 電脳分野研究会

 近年爆発的に普及したインターネット。情報収集の材料としては申し分ない環境である。
「電脳分野研究会」はWeb上での情報収集、及び戦時においては〈オジロワシ〉の行為の正当性宣伝のため、必要とされる知識及び技術、設備などを研究するための会である。
 電脳分野研究会には必ず探索隊総隊長と会計局局長が参加し、その他の隊員は自由意志により参加できる。

・〈オジロワシ〉への入隊と退会

入隊方法


〈オジロワシ〉へ入隊するには、次の4つの方法が考えられる。

 1)『狩り』に参加している行動隊の最先任者に、入隊を志願する。
 2)〈オジロワシ〉のことを知っている教授に口をきいてもらう。
 3)理事長に嘆願する。
 4)すでに入隊している者に推薦してもらう。

 だいたい、このようなものだろう。
 しかし、問題がないわけではない。
 まず1番目の方法には、行動中の行動隊員をどうやって見つけるか、という問題がある。行動隊の活動時期は主に夜間であり、しかも『狩り』の最中には探索隊による検問を突破しなくてはならない。近づくのは非常に困難と言えるだろう。
 3番目の方法にも問題がある。一般の学生が理事長室に入ることはまず不可能であり、理事長が学園内に散策しているときを見つけて直訴しなくてはならない。しかし、理事長の行動は不規則であり、偶然出くわすというのは非常に確率が低い。
 というわけで、入隊の方法は自ずと2番と4番、この2つの方法に絞られるだろう。教授のほぼ全員は〈オジロワシ〉の存在を知っており、何かと便宜を図ってくれる(中には〈オジロワシ〉の存在を煙たく思い、嫌っている人もいるのだが)し、既に入隊している者に頼めば(本人に十分なやる気と信用があれば)喜んで推薦してくれるだろう。
 もちろん、1番と3番の方法を使って入隊した者がいる。『番長』猿渡徹は、かつて自分を助けてくれた隊員に入隊を志願しているし、『マリーン』澤登駿介は、入隊を理事長に直訴している。しかし、このような例は特異であり、多くの隊員はすでに入隊している者から推薦されて〈オジロワシ〉の一員となっている。


 
退会方法


 〈オジロワシ〉から退会するのは、非常に困難である。
 先にも述べたとおり、〈オジロワシ〉の存在は一般の学生には秘密になっており、理事長や司令をはじめとする〈オジロワシ〉の首脳部は、退会した者からその秘密が漏れることを、極端に恐れているからだ。
 しかし、幕末に京都で活動した新撰組のように、「退会は不許可」と規定されているわけではないので、退会する方法はないわけではない。
 退会するにはまず、直属の上司に退会するということを申し出る事が必要である。この段階で、上司が懸命に慰留工作を行うだろう。
 退会の意志が固く、上司の慰留工作も失敗した場合、司令が退会希望者と一対一で面接し、退会する理由などを問いただす。理由が妥当なものであると司令が判断したならば、支給された装備、給料の半年分を返還し、「この会で知った秘密は絶対に漏らさない」という誓約書を書かされ、退会することができる。また、司令命令で罷免された者も、この誓約書を書かされることになる。
 退会後2週間〜1ヶ月ほど、探索隊別班による監視が行われ、異常なしとわかれば、〈オジロワシ〉の隊員名簿から名前が除かれ、一般学生に復帰できる。
 このような手段をとらず脱走した場合、もしくは正式の手続きを経て退会した後に秘密を漏らした場合には、探索隊別班による「脱会狩り」が行われ、隊に連れ戻される。その後、別班班員の監視下で軟禁状態に置かれ、処分は理事長の判断に委ねられる。この場合、除籍処分や別班班員による殴打で済めばまだ御の字で、大部分は、それこそ闇から闇へ葬り去られることになる。




 
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