オジロワシ血風録
第四章 拉致
7.蟷螂の斧
「なぁ、ガード」
猿渡が木村に問う。彼にしては珍しく、困惑したような声になっている。
「俺たち、何やればいいんだ?」
「情報収集だって、聞きましたけど……」
木村も困惑した表情で返す。
「それはわかるんだけどよ」
猿渡は大きな溜息を吐いた。
「具体的に、何をどうすればいいんだ?」
「さ、さぁ……」
木村は小さな声になった。
「何すればいいのか、さっぱりわかりません……」
「だよなぁ……」
猿渡は大きく溜息を吐いた。
二人は、探索隊総隊長の石川からの指示で、古内失踪事件――非公式には『古内拉致事件』と呼ばれているが――についての情報収集に当たっていた。猿渡は部下隊員を二人一組にして、市内各地にばらまいた。猿渡自身は木村と組み、古内のアパート近辺の聞き込みを担当する。
とはいえ、情報収集については、全くの素人の二人である。何をしていいのかわからない。どのようなことでも聞き出せばいいと割り切って聞き込みをすべきなのだろうが、誰に、何を、どのように聞けばいいのか、それがわからない。
「ぶっちゃけ、今回ばかりは教授の大チョンボだと思うぜ。右も左もわからない俺たちを修羅場に引きずり込むなんて、無茶苦茶だとしか言いようがない。ただの探索隊員が総合機動演習に参加するのと、どっちが無謀かっていうぐらいのね」
「どう考えても、総合機動演習の方が楽ですよ。何すればいいのかはっきりしてるんですから。……まぁ、体力的には、相当きついですけど」
木村は去年の総合機動演習の様子を思い出して、大げさと思えるほど顔を歪める。
総合機動演習とは、行動隊員がすべて参加する一週間ほどの演習のことで、長野県佐久市にある学寮付近の山林で行われる。『機動演習』の名のとおり行軍訓練が主だが、最後の二日間は佐久市内に出て市街地を走り回る。土の上を歩くのと、アスファルトの上を歩くのでは、脚にかかる負担が違う。それを身をもって実感するための訓練である。
「その言葉、俺たちが行動隊員だからこそ出てくるのかもしれんぞ。探索隊の連中にとっては、一日中山の中を歩き回ってる訓練なんて、正気の沙汰じゃないと思うだろうぜ」
猿渡が言う。
「要は慣れの問題なんだよな。俺たちは殴り合いが仕事、探索隊は情報集めが仕事。部署が違えばやってることも違って当然だしな」
「まぁ、現状分析はこのくらいにして……」
木村が言い、現実に目を向けさせる。彼には、猿渡が現実から逃避するためにあえてこのような話をしているということがわかっている。しかし、現実逃避をしたところで、やらなくてはならないものが消えてなくなるなどありえない。辛いだろうが、現実を見つめ、行動を起こさなければならないのだ。
「どうしましょうか? いっそのこと、手当たり次第にそのあたりの家のチャイムでも鳴らします?」
「ど阿呆。そんな派手なことできるか」
猿渡は木村の提案を却下する。
「じゃあ、どうします?」
「……古内がここを通る時間だったら、中坊の下校時間と重なってるはずだ。何か見てるかもしれない。とりあえず、そこをターゲットにしてみるか」
「そうですね……そうしますか」
猿渡の提案に木村が頷き、二人は通りすがる人々の中から中学生くらいの人間を捜し始めた。
この日の二人の聞き込みは、無惨な失敗に終わった。
中学生くらいの人間に会えなかったのだ。
あわてた二人は小学生から高校生くらいまでの人間というようにターゲットの範囲を広げたが、結果は同じだった。骨折り損のくたびれもうけ、という言葉そのままに、夜の八時を過ぎてファミレスで遅い夕食を食べている二人は、疲労困憊していた。
「き、きついな。さすがに八時間以上歩き回ると、脚が痛ぇよ」
猿渡がふくらはぎのあたりをマッサージしながら顔をしかめる。
「熱中症になるかと思いましたよ……。あ、何飲みます? 行ってきますけど」
木村がグラスのグレープフルーツジュースを一息で飲み干して、お代わりを注ぎに行く。ドリンクバーなので飲み放題というのが、貧乏学生である二人にはうれしいところだ。
「甘くないものがいいな。あ、炭酸はやめてくれ。今飲んだら吐き出しそうだ」
「わかりました、適当に見繕ってきます」
木村がジュースを取りに行ったのを確認すると、猿渡はテーブルに突っ伏した。体は確かに疲れていたが、何より、精神的な疲労が大きい。
(このままで、本当に大丈夫なのか?)
猿渡は声に出さすに自問する。
情報収集のノウハウなどまったく知らない行動隊員をこういう任務に就けるのは、はたして正しいのか? 行動隊員は居場所を突き止めたあとの突入作戦に充てるべきで、情報収集には別の人間を使うべきなのではないのか? 折しも編制替えがあったばかりだ。こうしたことをするよりも、各種訓練をした方が、行動隊はより貢献できるのではないか?
今日一日で、よくわかった。俺たちはこんなことをするべきじゃない。餅は餅屋という言葉どおり、探索隊を大々的に動員するべきだ。その方が絶対にいい。学園内で活動する訳じゃないから、ローテーションのことも気にしなくていいはずだ。俺たちは探索隊の成果を待ちつつ、突入作戦に向けて錬成をすればいい。
(教授に電話してもらちがあかないだろう。あいつも相当頑固だからな。面と向かって直談判するしかない。あいつがなんと言おうと、絶対にこの要求を呑ませてやる)
猿渡は固く心に決めて、体を起こした。木村はまだ帰ってこない。
山田はアパートで2番隊第五小隊長の『タワー』倉持貴治の報告を聞いていた。彼自身も走り回り、そして何の成果もなく帰ってきたところだ。
「そうか。やっぱりだめか」
『そりゃもう、見事なくらいに何の成果もなし。笑っちまうな、さすがに』
電話の向こうの倉持の声には、力がない。
「ま、これが素人の限界ってやつだ。悲しいけどな。今のところ足は引っ張ってないみたいだから、それはそれでいいのかもしれないけど」
答えながら、山田はあることを考え続けている。突拍子もない話であり、この話を持ちかけたとしても相手が聞き入れるとは思えない。だが、言わなければならないことでもあった。現状を変えるためにも。
『で、明日もこれ、続けるのか?』
倉持の声に、山田は我に返った。
「……やめろと言われてないし、続けるしかないだろ。効率が悪いとわかってても、命令は命令だ」
『勘弁してほしいな。このクソ暑い中歩き回るのは』
「文句を言うな。飯食わせてもらってるんだから」
山田はそう言うと、再度念押しして電話を切った。そのまま布団の上に倒れ込む。
(ほかの連中はどうかな。たぶん成果は上がってないだろうけど……)
額に手を当てながら目をつぶり考え込む山田。
全くの素人が成果を上げていたら、逆に怖いとさえ彼は思っていた。成果を上げることで行動隊の一部に探索隊不要論がおこり、探索隊がそれを払拭しようと無茶をするのを、山田は恐れていた。そうなれば、行動隊と探索隊の間に築き上げられた信頼関係は崩壊する。極端な想定だが、変に自信をつけた人間は何を言い出すかわからない。
「……明日、教授と話すか」
山田は呟くと、シャワーを浴びに行こうと立ち上がった。と、携帯が着信を告げる。こんな時間に誰だと思いつつディスプレイを見ると、猿渡からの電話である。珍しいこともあるものだと思いながら、山田は電話に出た。
「おう、お疲れさん」
『疲れたなんてもんじゃなかったよ』
猿渡の声は、電話越しにでもはっきりと疲労が感じ取れるほど弱々しかった。
「その様子だと、成果はなかったみたいだな」
『あるわけないだろ。あったら、かえって怖くなるよ』
「それもそうだな」
山田はあえて軽く言った。ど素人の行動隊員がたった一日で何かしらの成果を上げられたら、それこそ探索隊員の存在意義がなくなってしまう。
「で、どうしたんだ? こんな時間に。愚痴を言いに電話かけてきたわけじゃないだろ?」
『ちょっと相談があるんだ。明日、時間あるか?』
「しばし待て」
山田はそう言うと、スケジュールを書いた手帳を繰る。
「えーと、午後だったら空いてるな」
『そうか、ちょうどいい。目の親分に話したいことがあるんだ。んで、できればついてきてほしい』
「……ダウンロードについてか?」
山田は口調を変えた。少し声を潜める。
『そうだ』
猿渡も少し声をトーンを下げた。
ダウンロードとは〈オジロワシ〉の符丁で、情報収集活動を指す。目の親分――探索隊総隊長・石川信光に話したいことがあるとなれば、行動隊が行っている情報収集活動のこと以外にありえないだろう。
『俺たちがダウンロードやったって、ツールもろくに使えないんだから、効率が悪いってのはわかるよな?』
「今日一日で、いやと言うほどに思い知ったよ」
山田は昼間の苦労を思い出して顔をしかめた。
『なら、話が早い。……なぁ、このまま続けていいと思うか?』
「思わんね」
山田は即答する。先ほどの考えが再び大きくなりつつある。
『お前さんも同じ考えだってのは心強い。俺たちは奪回作戦に向けて、みじん切りを繰り返すべきだと思う』
「そうだな。俺もまったく同感だよ」
山田は大きく頷く。みじん切りというのも符丁で、戦闘訓練を指す。
「でも、そう言ったところで、あいつ、聞く耳持つかね?」
『そこはそれ、お前さんががんがんマシンガントークをかませば、何とか……』
「他力本願かよっ!」
山田はツッコミを入れた。無意識のうちに声のトーンが高くなる。
『だって、俺があいつと口喧嘩して勝てると思うか?』
「喧嘩じゃないだろ……まぁ、口論と言い換えようが、討論と言い換えようが、お前があいつに勝てるとは到底思えんが」
『……そこまではっきり言うなよ』
山田の率直すぎる物言いに、さすがに猿渡も憮然とした口調になる。
「言い過ぎたのは謝る。だけど、俺でもあいつの相手は厳しいぞ。あいつが頑固なのはお前も知ってるだろ?」
『それでも、俺よりは分がいいだろ? 俺たちがこういう考えだってことがわかればそれでいい。いくらあいつが頑固でも、逆手の意見は無視できないはずだ』
猿渡が言う。逆手は『行動隊副隊長』を指す。
「……言いたいことはわかった。そうだな。そのくらいにしておくのがいいかもな。あいつだって、頭こちこちの頑固ジジイじゃないんだし、そのうち軟化するだろ」
『かもな。じゃあ、そういうことで。明日は迎えに行く』
「頼む」
山田はそう言って電話を切った。
猿渡には先ほどああ言ったものの、山田はまったくと言っていいほど期待していない。おそらく猿渡もそうだろう。二人とも、石川とはそれなりに長いつきあいだ。彼の性格や考え方はだいたい把握している。
ただ、このような考えが行動隊幹部の中にあるということは、確実に伝えなければならないだろう。そうしなければ、いつか行動隊と探索隊の間に不信の溝ができかねない。それだけは避けるべきだと山田は固く思っている。
「さて、と。どうやってあいつを説得しようかな……」
山田は呟きながら、シャワーを浴びに行った。石川へのアポイントメントをとるのは、シャワーの後でも十分に間に合うだろう。
翌日の夕方、山田は猿渡と連れだって、石川のアパートを訪ねた。
「二人揃ってお出ましってのは珍しいな」
二人をにこやかに出迎えた石川はそう言うと、居間へと案内した。
「相変わらず、片付いてるのな、お前の部屋」
猿渡が室内を見渡しながら言う。
石川の部屋はいつも整頓されている。例外はキッチンだが、それでも生ゴミが散乱しているなどという光景ではなく、時間がなくて洗いきれなかった皿などが二、三枚放置されている程度である。いつだったか石川自身が語ってくれたところによれば、昔は自堕落な生活を送っていたらしいのだが、大学一年の夏に突然部屋にやってきた礼に非難され、それ以来整理整頓を心がけるようになったという。
「まぁね」
冷蔵庫で冷やしておいたミネラルウォーターのペットボトルを目の前に置きながら、石川は軽く口元を歪めた。
「あの時の礼の顔を思い出したら、とてもじゃないけど散らかしたままにしておこうとは思えねぇな」
「そんなにひでぇ目で見られたのか?」
猿渡がたずねる。その横で、山田が非難がましい視線を猿渡に向けた。余計なことを、と言わんばかりの顔になっている。猿渡は初耳だったのだろうが、わざわざ聞くほどの話ではないし、暑苦しい話になるのがわかりきっているのでこんな暑い日に聞きたくはない。もっとも、猿渡は山田の視線には気付いていない。
「ああ。なんて言ったらいいのかな……幻滅、絶望……いや違うな。とにかく、礼のああいう顔はもう見たくないって思ったよ」
「はいはい、そうですか」
山田がもううんざりと言わんばかりの顔になった。屋外も室内も暑いというのに、好きこのんで暑苦しい話を聞きたくはなかった。
「で、今日はいったい何の話だ? わざわざうちに来るってことは、よっぽど重要な話だと思うけど」
山田の様子を見て無駄話を止めた石川を前にして、山田と猿渡は顔を見合わせた。目で合図しあうと、山田が石川に向き直って口を開いた。
「拳についてなんだが……」
山田の言葉に、石川の表情が少し険しくなる。だが、何も言わずに頷いて、話の先を促す。
「昨日一日走り回って、いやと言うほど思い知った。俺たちには無理だ。何の手がかりもつかめそうにない。やっぱり専門の目に出張ってもらうのがいいんじゃないかって思う」
「餅は餅屋って言うしな」
猿渡が山田のあとを引き取って言う。
「まだ一日しか経ってないんだぞ。続けていけば何か成果を上げられるんじゃないか?」
「とてもじゃないけど、そうは思えないな」
渋い表情になった石川の言葉に、山田が反論する。そして、素人を投入することによって〈オジロワシ〉の存在が暴露する危険性や、昨日考えていた探索隊不要論がおこる危険性についても述べた。猿渡も、行動隊は訓練に専念させて突入作戦に備えさせるべきだと主張する。石川は目を閉じ、唇を真一文字に結んで、黙って話を聞いている。
「とりあえず、言いたいことはわかった。だけど、さっきも言ったようにまだ一日しか経ってないんだ。もう少し続けてみてくれないか? 虚仮の一念岩をも徹す、って言うだろ?」
「物質的、数学的裏付けのない精神論を言うな。それで働かされる方はたまったもんじゃないぞ」
山田が石川をたしなめる。
「よく『下手な鉄砲も数打ちゃ当たる』って言うだろ。確率のことを言ってると思うけど、これ、間違いだからな」
猿渡の言葉に、石川も山田も興味を引かれたように顔を向ける。
「射撃しても的に当たらないってことは、そもそも照準がなってないってことだ。そんな状態で何千発、何万発撃とうが、当たるわけがない。至近距離ならまだしも、二〇メートルも離れてると、当たると思う方がおかしい。
それと同じだ。見当外れのことをどんなに繰り返しても、成果が上がるわけない。さっきお前は、たった一日だから続けてくれって言ってたけど、まだ始めたばかりだからこそ修正がきくとも考えられないか? 早いうちに手を引いたほうがいいと思うぜ」
射撃部部長を務め、行動隊随一のスナイパーでもある猿渡の言葉だけに、この例えは説得力がある。石川もこの話を聞き、真剣な表情で考え込んでしまった。
「とにかく、よく考えてみてくれ」
「ああ、考えてみる」
どことなく上の空と言った声で、石川が答えた。
その翌日、今度は石崎と大川がやってきた。用件は猿渡・山田組と同じ、行動隊の撤収と探索隊の投入の要請である。ただ違うのは、アポを取らずに石川の部屋に直接押しかけたことだ。
「またその話かよ」
石川が顔をしかめると、二人は不思議そうな顔になった。二人は猿渡や山田のことを知らないのだろう。石川が昨日のことを話すと、大川は微かに顔をしかめ、石崎は舌打ちしながら「先を越された」と呟いた。
「で、お前たちも反対なのか?」
「まぁね」
石崎が軽く肩をすくめる。
「正直な話、一昨日はでたらめに走り回っただけだ。昨日は昨日で、古内の家の近くに張り込んだだけ。何の成果も上がっちゃいない」
「俺たち素人にこういうことをやらせても意味がない。これは、プロがやるべきだろ。そのための目があるんだから」
石崎と大川の言葉に、石川はしかめっ面のまま黙りこくった。
「確認はまだしてないけど、たぶん、虎徹もビールも同じ意見だと思うぜ」
「拳全体が反対だってことか」
石川の問いに、石崎も大川も頷いた。
「でも、拳以外に切れるカードがないんだ。それについては前にも言っただろ」
「それ、どうかなぁ?」
石崎が言う。
「あえて言わせてもらうけど、素人の俺たちがうろちょろしても、足を引っ張るだけで役には立たないよ。やっぱり目を使うべきだ。どうせ国外での活動になるんだし、ローテーションは考えなくてもいいだろ」
〈オジロワシ〉隊員は大学を現実の日本にたとえて話すことが多い。大学の正門は西側にあるために『関空』と呼んでみたり、図書館のことを『奈良』と呼んでみたりする。そんな彼らが『国外』といった場合、日本国の領域外のことではなく、大学の外のことを指す。
「簡単に言ってくれる……」
石川は苦々しく呟いた。
「言うさ。ある意味気楽な立場だからな、俺たちは」
「だけど、気楽な立場だからこそ言えることもあるし、見えてくる物もある。とにかく、よく考えてみてくれ」
そう言うと、二人は長居することなく帰っていった。
隊長たちがここまで反発するとは、石川は想像すらしていなかった。反対したとしてもその場で言いくるめれば収まる程度の物しか出てこないと思っていた。
だが、実際に帰ってきたのはかなり強硬な反対意見だった。
困ったのは、彼らの言い分がいちいちもっともだということだ。山田の言うように〈オジロワシ〉の存在暴露という事態が起こるかもしれない。そうなっては、なぜ探索隊を出動させなかったのかわからなくなる。
(どうすればいいんだ? あいつらが言うように、今のままじゃ何も成果は上がらないだろう。でも、探索隊を投入してもいいのか? 本当に大丈夫なのか?
なにより、あいつらの言うとおり行動隊を引っ込めたら、朝令暮改って言われかねない。それに、こういう前例を作ると、ゴネ得を許す前例を作っちまう。今の隊長たちだったら問題はないだろうけど、これから先のことを考えるとそう言う悪しき前例は作りたくない。
でも、どうする? 山田の言うように、行動隊の内部に探索隊を侮る気分が盛り上がるのはまずい。どうすればいいんだ……)
石川は頭を抱えた。これに関しては誰にも相談できない。
いや、一人だけいる。だが、できれば相談したくはなかった。自分はもう探索隊総隊長なのだ。いつまでも「先代」に頼ってはいられないし、何かと職域の重なる部署には相談したくはなかった。
酒を飲んでも酔えそうになく、ニコチンを摂取しても気が落ち着きそうにない。そんなこんなで一時間ほど考えた末に、石川は布団に倒れ込んだ。もう寝てしまおうと思った。つまりは、態度保留である。問題の先送りでしかないとは知りつつ、石川はこれ以上この問題を考えたくはなかった。
管理人のコメント
組織改革も一通り済んだオジロワシですが、事件はそれを待たずに進行しつづけます。とりあえず必要なのは拉致事件の情報収集ですが……
>「具体的に、何をどうすればいいんだ?」
>「さ、さぁ……」
情けないと言いたいところですが、畑違いの仕事をいきなりやらされることになったら、戸惑うのも無理はない話です。
>「どう考えても、総合機動演習の方が楽ですよ。何すればいいのかはっきりしてるんですから。……まぁ、体力的には、相当きついですけど」
情報収集の難しさはここにあるかもしれませんね。分析してみないと答えが出ないので、集める方は何処までやればいいのかわからないと聞きます。
>(教授に電話してもらちがあかないだろう。あいつも相当頑固だからな。面と向かって直談判するしかない。あいつがなんと言おうと、絶対にこの要求を呑ませてやる)
>「……明日、教授と話すか」
そして、行動隊の隊長たちは一日で「これは無理だ」と感じ始めます。無理もないですが。
>ただ、このような考えが行動隊幹部の中にあるということは、確実に伝えなければならないだろう。そうしなければ、いつか行動隊と探索隊の間に不信の溝ができかねない。それだけは避けるべきだと山田は固く思っている。
成果をあげたときの想定といい、山田はなかなか考えが深い人間ですね。収集はともかく分析は向いてそうな気がします。
>「俺たち素人にこういうことをやらせても意味がない。これは、プロがやるべきだろ。そのための目があるんだから」
他の隊長たちも反対し始めます。探索隊が動けない(五話参照)事情があるにも関わらず、こう言う声が出てくるのはかなり深刻な事態ですが……
>問題の先送りでしかないとは知りつつ、石川はこれ以上この問題を考えたくはなかった。
そう簡単には解決策の出ない問題というのもあるので、石川の気持はわからなくもないですが、今後に響かないといいんですけどね。
依然としてS研に振り回されるオジロワシ。打開の糸口も見ない状況で、今後彼らはどう戦っていくのでしょうか?
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