オジロワシ血風録

第四章  拉致



5.総力戦体勢



「探索隊理学部班所属の一年生・古内章雄がS研によって拉致されている可能性があるという情報が飛び込んできた」
 石川の言葉に、会議室は静まりかえった。呆然としている人間が多い。石川が何を言っているのか理解できないようだった。
 しばらくすると、室内にざわめきが満ちた。「そういえば最近見ないな」という囁きがあちこちでかわされる。
 その一方で、頷く者もいた。猿渡である。彼は、古内の失踪について石川から話を聞いている。今更驚きはしなかった。
「現在、探索隊別班が鋭意調査中ではあるが、それだけでは不安が残る。別班は外向きの情報収集活動に慣れていないからな」
 石川の言葉に、何人かが頷く。主に探索隊の人間だった。彼らは別班の能力を評価してはいるが、こと情報収集に関しては自分たちのほうがうまくやれると思っている。その自負は真実でもあった。別班は情報集めに四苦八苦しているが、未だに決定的な情報をもたらしてはいないのだから、そう言われても別班員は文句を言えない。この点に関しては、工学部班長と別班第二小隊長を兼ねている『神主』度会一も認めている。
「そこで、一つ要請――というより頼みがある。隊員各自に独自に情報収集を行ってもらいたい。何か情報を掴み次第、ただちに報告してくれ。どんなに些細な情報でも構わない。このところの対S研の暗闘で、現在探索隊はほとんど機能していないんだ」
 石川は囁き声を無視して続けた。
 石川の発言が終わると、集まった隊員は再び黙り込んだ。余りにも意外な言葉だった。
 探索隊の隊員がほとんど使える状態にない、ということは彼らも知っている。しかし、非常に縄張り意識が強い組織である探索隊、そのトップである探索隊総隊長が、彼らの本来業務である情報収集を探索隊以外の隊員に依頼してくるというのは、前代未聞の出来事だった。古参隊員は所属に関係なく驚愕の表情になり、石川を見た。
 首藤や斎藤、礼でさえも例外ではなかった。驚きの表情も隠さず、石川の顔をまじまじと見つめている。さすがに彼らもここまでは聞いていなかった。
 石川はポーカーフェイスを崩さない。しかし、意図的に感情を消しているその顔からは、切羽詰まっているという事情が伺えた。
「ちょっと待ってくれ、教授」
 大川がたずねる。咳払いを一つする。
「つまり、何か? 俺達行動隊員に、情報収集をやってくれっていうのか?」
「平たく言えばそうなる」
 大川の迷惑そうな声に、石川は頷いてみせた。
「ああ、会計部と兵器局には情報収集任務は与えない。どちらも通常の業務で手一杯なのに、これ以上仕事を増やすわけにはいかないからな」
 石川の言葉に、番隊隊長達がむっとした表情になる。石川の話をかみ砕くと、行動隊だけに情報収集任務を割り当てるということになるからだ。自分たちだけが働かされ、しかも自分たちにはなじみのないことをしなければならないのだから、彼らが不満を抱くのも当然だろう。
「無茶言うなよ。俺達には情報収集の経験なんて無いんだぜ」
 猿渡が顔をしかめながら言う。
「教育隊で、情報収集についての教育も受けただろ?」
「そんなの、とっくに忘れたよ。体で覚えた訳じゃないんだぜ? 普段使わない知識はどんどん忘れられていくってことぐらい、教授、あんただってわかってるだろ?」
 山田の言葉はいつもに比べて辛辣なものだった。
「もちろん、それはわかってるよ。だけど、現実問題として、探索隊は使えない。そのことはわかってくれるだろ?」
 石川の言葉に、六人は渋々頷いた。ここ一月ほど、探索隊が休み無く飛び回って情報を拾い集めているということは、改めて石川に言われなくても知っていた。
「仕方ないか……」
 山田が真っ先に折れた。探索隊の現況が理解できたのだ。そして、現状を打破するためには所属にこだわっていられない、ということも。
 山田に続き、残る五人の隊長達も渋々ながら頷いた。彼らも探索隊の現状は理解している。それなのに、これ以上駄々をこねることもできない。
「とりあえず、今までにわかってることを教えてくれないか?」
 猿渡が説明を求めた。現在の状況がわからなくてはどこから手をつけていいのかさえも不明だからだ。
「そうだな。別班班長、これまでに判明したことを報告してくれ」
 石川の言葉に、堀内はゆっくりと立ち上がった。その表情はいつもの柔和なものと違って真剣そのものであり、影の精鋭といわれる別班を束ねるにふさわしい雰囲気を醸し出していた。
「これまでにわかったことを発表する。その後で質問を受ける」
 堀内はそう言うと、ホワイトボードに時系列表を張り出した。そして、指示棒を手にして説明を始める。
「古内は去る七月一七日、一般教養の文学の試験を受けた後、同期生と歓談しながら湘洋市駅行きのバスに乗り、アパート近くの停留所で降りた。これが一六時三九分のことだ。古内はそのまままっすぐアパートのほうへ向かったという情報がある。停留所から古内の住むアパートまでは、徒歩でおよそ一〇分だ。しかし、一七時過ぎに同期生の一人が遊びに来たときには、すでに古内は行方不明になっていた」
 堀内はメモを見ながら、ホワイトボードにここまで時間の経過を書き入れた。
「つまり、古内が失踪――まぁ、拉致られた可能性が高いが――したのは、停留所に到着した一六時三九分から、同期生がアパートをたずねてきた一七時過ぎまでの、たった二〇分の間ということか?」
 山田はこの場の全員に全容がわかるように、敢えて当たり前の質問をした。堀内は黙って頷いた。
「いや、もっと時間は狭まるだろう」
 探索隊経済学部班長の『ハーフ』中村悟が異を唱えた。そのコードネームが物語るとおり、彼はオーストラリア人の父と日本人の母の間に生まれたハーフである。一般の日本人よりも彫りの深い容貌で、かなり目立つ存在だ。そのため、石川と同じように情報分析畑で活動してきた。
「バス通りを外れてから古内のアパートまでの間に拉致されたとなると、バスを降りて少し経ってから、アパートに着く時間の一六時五〇分より前でないとおかしいだろ?」
 中村の指摘に、山田は口をつぐんだ。
「いったんアパートに荷物を置いて、買い出しにでも出かけたんじゃないのか? そこで拉致られたとか」
「それはないな。古内はアパートに帰った形跡がないんだ。鞄もなかったしな」
 大川の疑問に、堀内は資料に目を落としながら答える。
「それに、あのあたりには往復一〇分ほどで行ける範囲にコンビニはない。バス通り沿いには二つあるけど、どっちも古内のアパートからは往復で二〇分以上かかるし、買い物の時間も含めると三〇分ぐらいはかかるだろう。人を一〇分も家の前で待たせるようなことは、普通しないぜ」
 中村が堀内の言葉を補足する。
「ちなみに、探索隊で最初にたたき込むお約束は『時間厳守』だ。公の場であれ私的な場であれ、時間にルーズな奴には反則金を科している」
 向井が言った。
「つまり、古内が他人を待たせることはありえない。そう断言してもいいだろう」
 石川が最後を引き取った。
「となると、時間は約一〇分に絞られる。かなり限定されてきたな」
「あとはこの時間に古内達の姿を見た人間がいるかどうかだが……ハーフ、あのあたりって人通りは多いのか?」
「いいや、残念ながら、人通りはほとんど無い。あったとしても小学生が遊んでるぐらいだろうな」
 中村の返事に、六人の番隊隊長は一様に渋い顔になり、溜息を吐いた。手がかりとなるものがほとんど無い状態で聞き込みをしなければならないという過酷な現実を、改めて認識させられたようだ。
「こりゃ、俺たちだけで調べるのは無理だ。警察に任せたほうがいい」
 猿渡が苦々しげな表情で呟いた。呟きにしては大きな声だったが。
「警察に知らせるわけにはいかない。我々だけで、この問題は解決しなくてはいけないんだ」
 石川は強い口調で猿渡に答えた。石川の思いがけない反応に、全員が思わず注目する。
「警察に届けたところで、『また若者の失踪か』で片づけられるかもしれない。それは絶対に避けたい。助けられるかもしれない人間を見捨てるような真似は、絶対にできない。
 それになにより、このことから我々の存在が知られたら、それこそ取り返しがつかない。だから、この問題は我々が独自で処理しなきゃならないんだ」
 石川の言葉ははっきりとしたものだった。
 礼は石川の隣でそれを聞いて、違和感をおぼえた。不自然なまでに言い切っている。
(何? どうして、そうはっきり言うの? まるで警察を信用してないみたい……)
 礼は微かに眉をしかめる。だが、彼女の様子に気付いた者はいなかった。
「……じゃあ、やっぱり聞き込みをしなきゃならんのか」
 大川は大きな溜息を吐いた。いつもとは勝手の違う作業をしなければならないことに、憂鬱になっているのだろう。
「いつ終わるとも知れない地道な作業を、延々と、な」
「幸いと言うべきか、明日から夏期休業に入る。ご苦労だが、一週間ごとにここに集まり、それぞれの作業の報告をしてくれ。頼む」
 石川は頭を下げた。そして、行動隊隊長が座っているほうを向き、
「行動隊の面々には、勝手の違う仕事を押しつけて申し訳ないと思う。だが、ここで何らかの手がかりを掴んで、この一件が解決したら、理事長に特別休暇を申請してみる。二週間ほどはもらえるはずだ。それを目標にして、各自は努力してくれ」
 と重ねて頭を下げた。
「一ヶ月潰して二週間かよ……まぁ、全くないよりはマシか」
 猿渡の愚痴には、力がなかった。
「今日の会議はこれで終わる。暑い中、拘束してしまって申し訳ない。速やかに家に帰り、ゆっくりと休養してくれ。
 なお、明日からこの一件が解決するまで、姐御が四隊長会議議長を務める。本来なら二週間で一任期だが、事態が事態なので、特別にこういう措置をとる。
 それと、明後日、編制替えについての第二回目の討議を行う。万障繰り合わせて出席してくれ」
 石川の終了宣言で、隊長級会議は終わった。全員が続々と席を立ち、背後にあるドアから退出していく。
 四隊長はそんな光景を横目で見ながら、さっきまで石川が座っていた席の周囲に集まった。
「さて、これで一応は手を打った。あとは結果が出るのを待つばかりだな」
 石川の表情は、言葉とは裏腹に少々沈んでいた。探索隊員以外の手を煩わせることを気に病んでいるようだ。
「しかし、情報収集の経験がほとんどない行動隊の面々にこういうことをさせて、はたしてうまくいくかな?」
 首藤はこの決定に、かなり懐疑的なようだ。斎藤も、口には出さないが、疑わしげな目で石川を見ている。
「さっきも言ったように、探索隊員はほとんど使えない。こうなったら、背に腹は代えられないよ」
 石川は首藤に弁解した。
「うまくいったらもうけもの。うまくいかなかったら、別の手を考えることにしよう」
「しかし、古内が失踪してから、もう一週間だろ? これ以上時間をかけることはできないぜ」
「わかってるよ」
 首藤の非難に、石川は沈んだ声で答えた。
「俺だって、探索隊を使いたいよ。でもな、最近のS件の跳梁だけでも持て余してるってのに、さらに古内の拉致だろ? はっきり言って、探索隊のキャパを越えてるんだよ」
「それはわかるけど、もう少しいい方法はなかったのか?」
「批判するなら、決定前に案を出せよ。文句をつけるんなら、会議の場で言えたはずだぞ。それに、探索隊が使えないってことは、これまでに何度も言っていただろ? ゴーサインを出して、相手がそれを了解した後であれこれ意見するなんて、後出しジャンケンみたいで気分悪い」
 斎藤の言葉に、石川は舌打ちしながら応じた。
「……悪い」
 斎藤が珍しく謝った。さすがに、自分の言葉が石川の逆鱗に触れかけたことを悟ったようだった。
「しかし、こうやっていざ事が起こってみると、総理のいつもの判断は妥当だったって、つくづく思い知るよ。情報もないのに行動隊を動かすことはできない。頭ではわかってるつもりだったけど、早くカタを付けなけりゃならないっていうプレッシャーは並大抵のものじゃない。誰にも言われないでその原則を貫いてたんだから、あの人はやっぱりすごい」
 石川が大きな溜息を吐いた。彼の言う『総理』とは、日本の内閣総理大臣のことではなく、礼が行使した司令弾劾権によって更迭された〈オジロワシ〉司令・榊原治のことである。
 榊原は弾劾されて司令職を辞したが、彼らは榊原のことを憎んで弾劾したわけではない。なので、〈オジロワシ〉内でも榊原の話題は決してタブーではなかった。
「『彼を知り己れを知れば、百戦して殆うからず』っていう言葉もあるわ。勝つためにはやっぱり情報は必要ね」
 礼が『孫子』の有名な一説を引用して、石川の言葉に賛同する。首藤も斎藤も、石川や礼の意見には賛成のようで、大きく頷いている。
「さて、行動隊の面々にばかり働かせたら罰が当たるな。俺も聞き込みに参加する。人手は多いほどいいからな」
「いいのか? お前も探索隊の一員だろ?」
 斎藤が石川の言葉を聞いてたずねた。
「俺はどっちかと言えば情報分析が専門だから、S研の面々にあまり面が割れていない。まぁ、名前を出さなければ大丈夫だろ」
「いや、止めた方がいいと思うな。お前は有名すぎる」
 斎藤は石川の言葉に首を振った。
「旦那に賛成だ。教授、自分の知名度ってものを、少しは真剣に考えた方がいいぞ。学内治安維持組織探索隊総隊長の石川信光といえば、S研の人間でお前のことを知らない奴はいない。そんな超有名人があちこちでうろうろしてれば、それこそお前自身が拉致されかねない。そんなことになったら、俺たちは死に体だ。おとなしくしておけって」
 首藤も斎藤と同じく、石川が前面に出ることに反対した。
「そうかなぁ……」
 石川は礼に視線を向けた。礼であれば反対はしないだろうと期待していたのだが、その考えはあっさりと否定された。
「御大っていうのは、軽々しく動かずに、どっしり構えているものよ」
 礼も彼女らしい言い回しで、石川自らが情報収集を行うことに反対した。
「わかった。わかったよ。俺はおとなしくしてるよ。いつも通りに情報分析に専念させてもらう」
 石川は苦笑しながら軽く肩をすくめた。
「そのかわりと言っちゃなんだが、姐御、申し訳ないが、お前さんも情報収集に回ってくれ。情報ソースは一つでも多い方がいいからな」
「わかったわ。任せて」
 石川の頼みを、礼は二つ返事で承諾した。石川の役に立てるということが、彼女にとってなによりも嬉しいらしい。
「では、我々も地道な作業をしますか。もうすぐ十八試狙撃銃の試作品ができあがりそうだしな」
 斎藤はそう言うと、ぶらりと退出した。
 彼が口にした『十八試狙撃銃』というのは兵器局が試作しているオリジナルのスナイパーライフルで、打撃力を増すために8ミリ弾を使用し、初速を高くするために機関部を新開発している。開発も七割方終わっており、完成の暁にはこれまでの例から考えて、〈ヴィゲン〉もしくは〈ラファール〉と呼ばれることになるだろう。
「俺も行くよ。そろそろ補正予算の編成に入らないとな」
 首藤もその後に続いた。
 石川は、先ほど猿渡にも言ったように、会計部と兵器局には情報収集命令は与えていない。彼らは自分の仕事で手一杯であり、とてもではないが他のことに気を回す余裕がないからだ。
 二人が出て行き、広い室内には礼と石川だけが残された。
「礼、こういう事態だ。残念だが、デートはしばらくお預けだな」
 そう言った石川の表情は本当に残念そうだった。先月末に過労で倒れて以来、デートは一回もしていない。礼はたびたび見舞いに来てくれたものの、病室では恋人気分を満喫できるはずがない。退院してからは期末試験があったのでデートなどできるはずもなく、夏期休暇に入ったら思い切り遊ぼうと思っていた矢先にこの事件だ。下手をすると夏期休業を丸ごと返上しなければならないかもしれない事態に、顔にこそ出さないが、石川は〈オジロワシ〉隊員の中でももっとも激しい怒りを抱いていた。
「しょうがないね。みんなが苦労しているのに、私たちだけが遊んでいるわけにはいかないもの」
 礼も残念そうに溜息を吐いた。
「で、だ。修羅場前の息抜きに、俺の部屋に来ないか。積もる話もあるし……」
 石川は礼の顔色をうかがいながら、遠慮がちに誘った。一応仲直りはしたものの、一度大喧嘩をしたのだ。喧嘩の原因はもう二人とも覚えていないが、喧嘩をしたという事実は覚えている。
「そうね……」
 礼もどこか遠慮している。礼の気性からすれば、あの程度の喧嘩を根に持っていることはないだろうが、やはりわだかまりはあるようだ。
 重苦しい沈黙が続く。二人とも、会話の糸口を掴もうとしているが、なぜか言葉にならなかった。
「……礼、もしかして、まだあのことを気にしてるのか?」
「ううん。そんなことないわ」
 礼は石川の心配をあわてて否定した。
「そうね。久しぶりにお邪魔しようかしら」
 礼は満面の笑顔で石川に言った。石川の顔に笑顔が戻る。
「じゃあ、一緒に行こうぜ」
「うん」
 二人は顔を見合わせて笑い、連れだって会議室を出た。談笑しながら歩いていた二人だったが、
「ところで……」
 駐輪場へ向かう途中、礼が口を開いた。
「さっきの会議で、気になったことがあるんだけど……」
「なんだい?」
「さっき、猿渡君の呟きに、いやに強い言葉で答えていたから、どうしてだろうと思って」
「……ああ、あれか。特に他意はないよ。猿渡に言ったとおりだ。つい口調が強くなったんだよ」
「本当に?」
 石川の返事に、何かあると感じた礼はなおも追及する。
「ホントになんでもないって」
 石川は苦笑した。
(さすがに礼には言えないよ。……警察が信用できない、なんて)
 納得していないという表情で黙り込んだ礼を尻目に、石川はそっと息を吐いた。
(どうも警察は頼りにならない。この大学の学生に関わる事件には、警察は腰が重い、いや腰が引けてるんじゃないか?)
 石川がこう考えたのには、もちろん根拠がある。
 梶川の自殺のとき、捜査は通り一遍のものをなおざりに行っただけで、県警はすぐに自殺だと結論づけた。他殺をにおわせる証拠も複数あったのにもかかわらず、だ。梶川が所属していたラグビー部に対する調査も、それほど熱心に行われたわけではない。これはラグビー部員でもある隊員複数から聞いたので、間違いないだろう。
 人が一人死んだ事件に対してもそのような態度なのだ。行方不明になった学生の捜査など、まともには行われないだろう。石川はそう判断した。だからこそ、自力でこの問題を解決しなければならないと決意したのだ。それに比べれば、〈オジロワシ〉の存在が暴露されることに対する懸念など些細なものである。どうせ『戦時』になれば、〈オジロワシ〉の存在などすぐに知られるのだから。
(S研が県警幹部の弱みを握ってるとまでは考えたくないけど、あまり警察はあてにしない方がいい。それに、警察に頼らなくても、俺達には道を自力で切り開くだけの力があるんだからな)
 石川は心の中で決心を固めた。


管理人のコメント

 組織改編に関する話が終わり、いよいよ拉致事件の情報が明かされます。
 
>「そういえば最近見ないな」

 意外とのんきな事を言ってますね……
 
 
>非常に縄張り意識が強い組織である探索隊

 縄張り意識というよりは、専門家としての意識が強いのかもしれません。情報に関する技術と言うのは、一朝一夕では身につきませんからね。
 
 
>山田が真っ先に折れた。

 強硬な意見を述べておいて、真っ先に軟化する、と言うのを計算でなくやってるとしたら、山田は結構デキる人ですね。
 
 
>「こりゃ、俺たちだけで調べるのは無理だ。警察に任せたほうがいい」

 オジロワシは学内では強い力を持っていますが、学外に出れば一学生の集まりでしかないわけで、本来ならこの判断は妥当と言えます。しかし。
 
 
>それになにより、このことから我々の存在が知られたら、それこそ取り返しがつかない。

 学内に秘密機関があるなんて暴露された日には、いろいろ世間体も悪いですしね。もっとも、石川の考えはそれだけでは無いようですが……
 
 
>「俺だって、探索隊を使いたいよ。でもな、最近のS件の跳梁だけでも持て余してるってのに、さらに古内の拉致だろ? はっきり言って、探索隊のキャパを越えてるんだよ」

 少人数で隠密に動き回る相手は、どれほど追跡側の人数が多くても、なかなか捉えきれない物。なんとなく対潜水艦戦を連想します。
 
 
>、完成の暁にはこれまでの例から考えて、〈ヴィゲン〉もしくは〈ラファール〉と呼ばれることになるだろう。

 誰の趣味だ(笑)。
 
 
>(どうも警察は頼りにならない。この大学の学生に関わる事件には、警察は腰が重い、いや腰が引けてるんじゃないか?)

 案外、学内の二つの組織の戦いは、警察などにはそれとなく知れているのかもしれません。
 
 不慣れな情報収集に挑む行動隊の面々。果たして彼らは有力な手がかりを見つけることができるでしょうか?


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