オジロワシ血風録

  
第二章  リアルバウト・フットボーラー



5.交流ゲーム




 日曜になった。
 〈レッド・ロブスター〉主催のサバイバルゲームに出るため、堀内は講義があるときと同じ時間に起床し、身支度をした。歯を磨き、メガネをかけた。
 そして、戦闘準備に入った。BDUのパンツだけはいて、上着は着ない。木村から借りたFA‐MASはガンケースにおさめる。
 堀内は普段、アパートから大学までバスで移動する。BDUの上着はともかく、銃をむき出しで持ち歩くなど、言語道断である。
 サバイバルゲームというものはまだまだ社会に浸透しておらず、一般の人の間では、せいぜい「戦争ごっこ」という理解でしかない。だから、一部のゲーマーが不心得なことをした場合、即座に全てのサバイバルゲーマーが、「危ないヤツ」という烙印を押されかねないのだ。
 その点、堀内に手抜かりはなかった。まず街中で迷彩服を着ることはしない。現地に着いてから着替えても全く問題はないからだ。銃も絶対にむき出しで持ち歩かない。ライフルを入れておくガンケースもスポーツバッグを手直ししたものを使い、巧みにカモフラージュしてある。
「よし、行くか」
 堀内は腕時計を見て、バスの時刻表を確認した。自分に気合いを入れて、アパートの部屋を出る。
 バスに揺られて大学に着くと、木村が待っていた。木村も堀内と同じように、BDUのパンツだけをはいて、緑のトレーナーを着ている。この姿で町中を歩いても、それほど不自然ではないだろう。
「お待ちしてました、堀内さん」
 木村は堀内に向かって、〈オジロワシ〉でのコードネームを使わないでにこやかに言うと、正門に向かって歩き出した。堀内は木村の後についていった。
「誰が来ているんだ?」
「いまのところ、姐御と私だけです。集合時間まで三〇分以上ありますからね。仕方ないでしょう」
 木村は言った。
 礼は〈レッド・ロブスター〉でも姐御と呼ばれている。理由は、部外者である堀内にはわからない。他人が困っているのを放ってはおけないという礼の性格が、『姐御肌』だからというのがもっともらしい理由として語られているのだが。
「誰の車に誰が乗るか、もう決まってるのか?」
「昨日の例会で決めました。堀内さんは、私の車に乗っていただきます」
 木村はそう言うと、すたすたと歩き出した。
 〈レッド・ロブスター〉は毎週土曜日に例会を行っている。奇数週はミーティングなどを行い、偶数週はミニゲームを行っている。昨日は五月の第三土曜日だったので、ミーティングが行われていたらしい。
「同乗者は?」
「姐御と、一年の支援隊員が乗ります。姐御もバイクがあるんだから、荷物だけを俺の車に乗せて、自分で動けばいいのに」
 木村が愚痴った。
「怖いんだろう。この前事故ったばかりだし」
 堀内がなだめるように言う。
 礼は国内メーカーの二五〇tバイクで通学し、ゲームフィールドにもバイクで移動していたが、二週間ほど前、大学から帰る際に、信号待ちをしているとき、前方不注意の後続車に追突された。
 幸い本人にけがはなく、バイクの修理もすでに終わっていたが、それ以来礼は運転することに恐怖感を持っているらしく、大学にもバスで来ている。
「あのくらいで怖がられたら、とてもじゃないけど、これから単車には乗れませんよ」
「ま、そう愚痴るな。そのうち元に戻るさ」
 堀内はそう言って、木村の肩を軽く叩いた。
 三〇分後、学園の正門には三〇人ばかりの人間が集まっていた。礼が堀内を全員に紹介し、各々車に分乗してフィールドへ向かった。
「今日集まった連中の練度は?」
 堀内は助手席に座っている礼に聞いた。堀内はこの二年間、傭兵のように〈レッド・ロブスター〉のゲームに出ているが、今年になってからはこれが初めての参加だった。当然、初対面の者もいる。
「ま、そこそこ、ってとこかしらね」
 礼は後ろを振り返り、そう答えた。
「一応、基礎は教えたつもりだけど、新入団員にとっては、今日が初めての『実戦』だからね。どこまでできるかは、私にもわからない」
「了解。で、編成は?」
「一〇人一組の隊を三つつくって、私、木村君、そしてあなたに引っ張っていってもらうわ」
 礼はよどみなく答えた。
「私は突撃隊、木村くんは支援隊、あなたの隊は遊撃隊よ。
 今日のゲームは勝ち負けにこだわるんじゃなくて、あくまで友好試合だから。それほど硬くならなくていいわよ」
 礼は唇の端だけで笑ってみせた。
「あのなぁ、姐御」
 堀内は軽く笑った。
「俺だって、それなりに場数は踏んでるんだぞ。緊張して硬くなるなんてこと、あるわけねぇだろ?」
「そうだったわね」
 礼はくすくすと笑った。
「あの、堀内さん……でしたね? 団長とは顔見知りなんですか?」
 同乗している新入団員がたずねた。桜井裕史という名前だと、礼から聞いている。
「まあね。同じ講義を受けているからな。面識はある。今日みたいに、誘われてゲームに出ることもあるぜ」
 堀内はいけしゃあしゃあと嘘をついた。礼と堀内、そして木村の三人は、講義やゲーム以外にもよく会っている。〈オジロワシ〉の秘密部屋で。
「実戦の経験は豊富なんですか?」
「ああ。これまでに二〇回くらい出ている。いや、もっとかな? 詳しくは覚えていないよ」
 堀内は答えた。この答えにも嘘が含まれている。彼が〈レッド・ロブスター〉のゲームに参加したのは、わずか六回に過ぎない。あとはすべて『狩り』に参加した数だった。それも堀内ははっきりと覚えている。今までに一六回出撃し、二〇人以上のスパイ研エージェントを『処分』している。彼も、言いようによってはベテランだ。
 そうこうしているうちに、指定のフィールドに着いた。横浜市の郊外にある私有林で、すでに土地の持ち主から使用許可は得ているらしい。
 車を降りた礼たちは、待っていた桜美林大の四回生と挨拶を交わし、簡単に堀内を紹介する。
 始まるに先立って、一チームに五〇〇〇発のBB弾が渡された。これをどう割り振るかはチームリーダーに一任されている。平均的に割り振れば、一人一四〇発程度になる。しかし、スナイパーに一四〇発の弾はどう考えても多すぎるし、SAWを持っている者には少なすぎる。そのあたりをうまく調整するのが、チームリーダーの才覚である。
 それから、フィールド内を散策する。このときが一番重要である。少しでも有利な地点を見つけなければならない。そこを取れるかどうかで勝ち負けがほぼ決まるのだから。
 フィールドは野球のグラウンド三つ分ほどの広さがある。堀内は、フィールドを散策している間に、少なくとも二ヶ所の重要地点を発見した。いずれも小高い丘であり、適当に草が茂っていた。
(あそこは欲しいな)
 堀内が目を付けたのは、〈レッド・ロブスター〉から見て右側にある丘だった。平坦なフィールドの中に存在する高所で、孤立した点である。それだけに、ここをいつ、どちらが取るかが重要になるだろう。あそこに支援隊を置いて制圧射撃を行えば、かなり楽にゲームが展開できる。ただ、孤立しているので、他の部隊による支援は欠かせない。また、この丘への接近経路はブッシュが少なく、接近を企てた場合相手から阻止攻撃を受ける危険性が高い。堀内は頭の中で、この丘を取るためのシミュレーションを繰り返した。
 散策が終わって、攻撃側、防御側のチームがくじ引きで決まる。〈レッド・ロブスター〉は攻撃側に回った。勝利条件は、相手側の全滅、それと攻撃側は、フラッグアタックの成功――防御側が設置している旗を奪うか、旗に命中弾を与える――だった。どちらも勝利条件を満たせずに三〇分が経過した場合は、引き分けとなる。
「姐御……あそこの丘、どう思う? 俺は取るべきだと思うが」
 堀内は礼に話を持ちかけた。
「うーん、確かにいい位置にあるわね」
 礼は頷いたが、すぐに頭を振った。
「でも、フラッグの位置からは少しずれてるわね。主力を振り向けるには、少し無駄があると思うけど」
「進行ルートから外れているからこそ、奇襲に使うにはもってこいなんじゃないか?」
「あのね、堀内君」
 礼は苦笑しながら堀内に向き直った。
「奇襲する際の前提条件って知ってる? 攻撃側が存在を完全に秘匿できることよ。あんなに見晴らしがいいところに、存在を秘匿して近づくなんて無理よ。残念ながらね」
 ただし、と礼は続ける。
「あくまで牽制にとどめるなら、やる意味はあるわね。たぶん向こうも、こちらがあの丘をおさえることをいやがるはず。俯瞰で見られるのは、指揮官なら誰でも嫌なものだからね。だから、こちらが攻撃するというそぶりを見せるだけで、向こうはそれなりの戦力をあの丘周辺に拘置しておかなくてはいけなくなる。その分、前線や接近経路でアンブッシュしている人間の数も減る。牽制攻撃をすることは、大いに意味があるわ。
 ……この牽制攻撃、堀内君にやってもらいたいんだけど、いいかな?」
 最後はいたずらっぽい笑みで締めくくった。
 堀内は苦笑せざるを得なかった。言いくるめられたのだが、悪い気はしない。〈オジロワシ〉隊員でも石川やそのほか限られた人数しか見ることのできない礼の笑顔が見られたのだ。文句を言ったら罰が当たるだろう。
「わかった。一〇人ほど貸してくれ。派手にやってやる」
「ええ、頼んだわよ」
「姐御、俺はいつも通りでいいですかね?」
 木村がたずねる。
「ええ、いつものとおりポイントマンやって」
「はい、姐御」
「木村隊はその後に続いて行動。私たちはあなた方を援護できる位置からついて行くわ。堀内隊は堀内君の指示に従うこと」
 礼がこう言ったとき、ホイッスルが鳴った。ゲーム開始の合図だった。
「状況開始! 指示したとおり、かかれ!」
 礼の号令で、〈レッド・ロブスター〉団員は与えられた役割を果たすべく行動を開始した。

 木村隊は木村を先頭にして、間隔を広く取りながら進んでいく。相手から掃射を受けても一撃で全滅しないようにという配慮で、ゲームの初歩と言っていい。
 木村はゆっくりと歩きながら、あたりに潜んでいる敵を探っている。目だけではなく、耳もフル活用して、どんな些細な兆候も逃さないように注意を払っている。
 だんだんブッシュが多くなってくる。奇襲をかけるならここしかないというポイントだ。
 と、突然木村が地面に倒れ込んだ。
「伏せろ! アンブッシュ!」
 という大声を出す。
 ほんの少し前まで彼の立っていたところをBB弾が通過した。
 木村の警告を受け、木村隊の団員は素早く地面に伏せた。しかし、一人ヒットされた。彼は「ヒット!」とコールすると、赤い腕章を外し、待機スペースへ向かっていく。
 木村は飛んでくるBB弾の軌跡を目で追い、発射地点を割り出した。無線機に向かって呼びかける。相手はスナイパーの藤堂だ。
「藤堂、俺のいるところから一〇時方向約二〇メートル、それと一時半方向約三〇メートルに火点がある。潰してくれ」
『了解』
 藤堂の返事からしばらくすると、火点付近からヒットコールが三つ聞こえた。藤堂の狙撃によるものだ。
「よし、火点は潰した。スナイパーに警戒して進むぞ!」
 木村はそう宣言し、またポイントマンとして戦闘を進み始めた。

 しばらくすると、今度は木村が先に相手を見つけた。木村は停止して、右の拳を挙げた。『注目』の意味を持たせた仕草だった。
「こちら木村。タリー・フォア。いずれも歩兵装備。警戒前進中。位置は俺の一一時方向、約二〇メートル」
 『タリー・フォア』というのは、『敵四人発見』といった意味である。
「向こうはこちらを見つけていない。先手を打って潰す。安田、井口、上原。お前ら囮になってくれ。残りは俺と一緒に横から仕掛ける」
 三人から了解の返事が返ってくる。木村は残りの五人(藤堂はスナイパーのため別行動)を引き連れて、相手の死角にあるブッシュに身を潜めた。
 相手チームの四人が一丸となって進んでくる。その四人に向かって安田たちが射撃を行う。そして、わざと草むらを激しくかき分けて逃げ出す。
「追うぞ!」
 三人の後を追おうと四人が駆けだした。四人が完全にこちらに背を向けたのを見て、木村は立ち上がった。
「よし、今だ! 捻りつぶせ!」
 木村の号令で残り五人も立ち上がり、一斉に射撃を開始した。
「あちゃ〜、そんなところに隠れてたのか〜」
 四人はヒットをコールしたあとで、頭を掻きながら戻っていった。
『姐御よりポイントマン。どんな具合?』
 礼が無線でたずねてきた。
「とりあえず今のところは順調です」
『そう。そのままフラッグに向かって進撃を続けて。こっちは五人一組にして、貴方の両サイドを固めておくから、側面の心配はしなくていいわよ』
「そいつはどうもです」
 


「あれがフラッグか」
 木村は双眼鏡をおろした。
 木村隊は順調に進撃を続け、相手チームの最終陣地付近まで進出していた。途中相手チームの誰とも会わないで済んだのは幸運なのだろう。進撃途中で二、三回左右で射撃音がした以外は、平穏なものだった。
「っていうか、フラッグって言うよりも、バルーンだよな、あれ……」
 木村は惚けた口調で呟いた。
 木村の言うとおり、今回は旗ではなく、ヘリウムを充填した風船をフラッグ代わりに使っていた。
「さてさて、攻撃かけるにはちょっときついな……」
 木村が考えていると、ちょうど横に藤堂が来た。
「おっ、あれがフラッグ……じゃなくてバルーンか」
 その声を聞いて、木村の脳にひらめくものがあった。
「なぁ藤堂、あれ、狙える?」
「…………きついなぁ。風で動いてるし」
「ダメか?」
「……ダメもとでやってみよう」
 藤堂は愛銃のPSG−1を構えた。スコープを覗きながら狙いをつけている。
 しばらくすると、藤堂が射撃を開始した。
 初弾は、風で風船が動いてしまい、外れてしまった。
 第二弾も、風で風船が動いてしまい、外れた。
「ああっ、くそっ、いまいましい風だな!」
 藤堂が悪態をついた。弾倉を交換して再び狙いをつける。木村はその横で、いつ気付かれるかとはらはらしていた。幸い風下にいるので、まだ相手には見つかっていないが、ここでぐずぐずしていては発見されるのも時間の問題だろう。
「三度目の正直……っ!」
 藤堂は軽く引き金を引いた。
 次の瞬間、風船は破裂していた。藤堂の放ったBB弾が命中したのだ。
「やった! 命中! 命中!」
 藤堂はガッツポーズを取った。

『命中! 命中!』
 藤堂の声が無線から聞こえてきた。
『フラッグアタック成功! 俺たちの勝ちだ!』
「やれやれ、終わったか」
 堀内はそう言うと、身を隠していたブッシュから起きあがった。
 一〇人預けられていた団員は、相手チームの猛攻を受けて三人にまで減ってしまった。
(まぁ、結果として本隊のほうがうまくやれたみたいだからいいけど……悔しいな)
 堀内は思わず顔を歪めた。サバイバルゲームは彼の本職ではないが、やはり負けるというのは悔しいものだ。
 堀内は相手の「丘防衛隊」を牽制するため、まずは相手の戦力を探ろうと一度丘に向かって打ち込んでみたら、こちらに倍する返礼があったため、堀内は慌てて有効射程外への退避を命じた。この時点ですでに五人がヒットされていた。
 その後は思い出したように射撃を続け、堀内は二人をゲットし、そのほかの隊員も三人をゲットしたが、こちらも二人ヒットされた。
(もう少しうまくやれたよなぁ……はじめの射撃ももう少し遠目からでもよかったし……)
 堀内が反省しながら待機スペースに戻ってくると、すでにそこには礼がいた。
「お疲れ様。かなりやられたみたいね」
「面目ねぇ」
 堀内は頭を掻いた。
「まぁ、しょうがないわね。二〇人ぐらいあそこにはいたみたいだし、指揮官もベテランの人みたいだから」
「二〇人!? なんだよ、全体の半分もあそこにいたのかよ。思い切った配備をしたんだな」
「そうね。私には絶対無理ね。どうしても広く薄くの配置にしちゃうし」
「ああ、わかるわかる。俺もそうするな」
 二人があれこれと話していると、木村が戻ってきた。
「お疲れ、木村」
「お疲れ様」
「お二人とも、お疲れ様でした。おいしいところ持って行っちゃって、すいません」
「別にいいんじゃねぇの? ポイントマンってのはヒットされる危険と隣り合わせだからな」
 木村の謝罪に、堀内は軽く応じた。
「そうそう。気にしないで」
「そういってもらえると、気が楽になります。ありがとうございます」
 木村は再び頭を下げた。
「ところで、昼食のあとで二〇対二〇があるらしいけど、出る?」
 礼の質問に
「当然」
「出ますよ、もちろん」
 二人は即座に答えた。
「じゃあ、手続きしてくるわね」
 礼は立ち上がると、尻に付いていた枯れ草を払い落とし、本部のある仮設テントへと向かった。

 昼食のバーベキューパーティー、参加者全員によるビンゴ大会が終わると、有志による「二〇対二〇」が行われた。希望者を四〇人募ってくじ引きで二チームに分け、先程と同じフィールドで戦うのだ。時間、弾数ともに無制限。どちらかが全滅するか、フラッグアタックをされるまで戦うのが、このゲームのルールだ。今度はどちらの側にも旗がある。
 くじ引きの結果、礼と堀内が同じチームになった。木村は、先程堀内をさんざん苦しめた、相手チームの「丘防衛隊」の指揮官と組むことになった。
「今度は楽ができそうだな。では、また後で」
 木村はそう言うと、待機スペースに居残った。
「大口を叩かれたな。どうする?」
 堀内は苦笑しながら、礼のほうを見た。
「勝手に動きましょう。こんな少人数だと、下手に隊を組むよりも、自分一人で戦ったほうが動きやすいわ」
「二人でチームを組んで戦ったほうが、相互支援ができていいんじゃないかな」
「それもそうね。じゃあ、そうしましょう」
 堀内の提案に礼は頷くと、彼女は同じチームに属する人間を連れて、森の中へ入っていった。堀内は堀内でパートナーを伴い、先程彼が目指した丘へと向かった。今度は、彼がこの丘を守るのだ。
「あなた方のチーム、いいチームですね。ここを守った人は特にすごい。その人、ベテランですか?」
 堀内はパートナーにたずねた。パートナーは先ほどのゲームで相手チームの人間だった。
「ええ、陸上自衛隊の人だと聞いています。確か二尉だったかな? で、普通科小隊の指揮官をつとめているそうです」
「なんてこった……」
 堀内は二度続けて強敵と当たることに、思わずガックリときた。陸上自衛隊、しかも普通科――他の国でいう歩兵部隊といえば、このような撃ち合いでメシを食っている人たちである。相手チームの指揮官は、その普通科部隊の指揮官をつとめているという。二尉だというから、おそらく小隊長だろう。
 しかし、怖じ気付くことはない。いくらベテランでも、相手は人間だ。人間である以上、完璧だということはない。要は、相手の隙をつけばいいのだ。
「ま、相手だって機械じゃないんだ。隙はどこかにあるさ」
 堀内は自分にこう言い聞かせて、射界が広くとれる丘の前縁に陣取った。手には、木村から借りたバイポッド付きのFA‐MASがある。この銃の癖は先程の撃ち合いで掴んだ。それを頭に入れておいて、照準の修正を行なえばいい。
 やがて、戦闘開始のホイッスルがフィールド全体に鳴り響いた。

 堀内が弾切れになったFA‐MASを捨て、M92Fを左脇のホルスターから抜いたとき、BB弾が彼の右腕にあたった。
「あちゃー、ヒット!」
 堀内は大声で宣言し、M92Fをホルスターにおさめると、悔しそうに木の幹を叩いた。
 これで彼にとってのゲームは終わった。堀内はよく粘り、二人をゲットしたのだが、数には勝てなかった。堀内は丘を捨て、背の低い木が生い茂っている林に逃げ込み、そこで抵抗しようとしたが、ついにそこでヒットされてしまった。
 堀内はうなだれて、待機ゾーンに帰ってきた。そこには礼がいた。すでにマスクは外している。
「なんだよ、姐御。ずいぶんと早いじゃないか?」
 堀内はマスクを外しながら、礼をからかった。
「いくら私でも、数には勝てないわよ」
 礼は憮然として言った。
 彼女の話によると、ゲーム開始後しばらくして、相手チームの五、六人の集団と遭遇し、瞬く間に相棒を失った。とっさに茂みの中に隠れようとしたが、それより早く顔面に複数のBB弾が命中したというのである。マスクをしていなかったらどうなったかわからない。
 反撃さえできれば、『特級射手』の称号を持つ礼であるから、五、六人を相手に回しても互角以上に戦えただろう。
「今日はいい面もあったけど、全体的に見ればまだまだね。反省点も山ほどあるし」
 礼は悔しそうだった。いかに交流を目的とした友好ゲームとはいえ、自分の率いるチームが完膚無きまでに叩かれたのは面白くない出来事だ。
「今日はこれで終わりか?」
「ええ。もうすぐ、閉会式があるわ。早く帰って、シャワーを浴びたいわね」
「俺はすぐに寝たいよ。とにかく疲れた」
「汗も流さないで? 信じられない」
 堀内の言葉を聞いて、礼はやれやれと肩をすくめた。


#箸休め的なエピソードです。
#〈レッド・ロブスター〉もちゃんと活動してる、という意味でも書きたかったエピソードですが、
#いかんせん、サバゲーの現役から離れて一〇年近く経つので、戦術的に根本から間違えてる可能性も否定できません。
#書いていくうちに「これって絶対大学のサークルじゃないよな……」とも思えてきたし……

管理人のコメント


 今回は片岡さんご自身も言っていますが、ある意味番外編。普段は学内で暗闘と陰謀劇に立ち向かっているオジロワシのメンバーも、たまには休息が必要です……って、あまり休んでいないようですが(笑)。

>一部のゲーマーが不心得なことをした場合、即座に全てのサバイバルゲーマーが、「危ないヤツ」という烙印を押されかねないのだ。

 この辺が愛好者の悩みどころですね。


>二週間ほど前、大学から帰る際に、信号待ちをしているとき、前方不注意の後続車に追突された。

 実はこれも陰謀の一端だったりして?


>「姐御……あそこの丘、どう思う? 俺は取るべきだと思うが」
>「あくまで牽制にとどめるなら、やる意味はあるわね。

 ゲームとは言え、やはりこの辺は本格的な戦術が語られますね。


>「ええ、陸上自衛隊の人だと聞いています。確か二尉だったかな? で、普通科小隊の指揮官をつとめているそうです」
>「なんてこった……」


 うーむ、プロ相手に全滅しなかった堀内の能力も、結構誉められるべきなのではないでしょうか。


 結局敗れはしたものの、話し方や動きの端々から〈レッド・ロブスター〉がただのサバゲーチームでないことは伝わってきますね。さて、次回からは再び本編に戻ります。


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