『さぁて、皆さんお待ちかね……第一回全国一斉バトルロワイヤル、開催だぁっ!』

 赤いスーツにピンクのシャツを着込み、眼帯をした、丸刈りで髭の中年司会者が絶叫する。
 それがフィールド及び全国の中継会場に木霊。観客もそれにつられてヒートアップしていく。
『まずはルールをご説明しましょう。それはシンプル!
 戦って……戦ってぇ……戦い抜いてぇ!勝ち残った神姫が…優勝賞金一億円を、手にするのだぁっ! 』
 ワァァァァ!と各地のモニタを介してみている観客たちから、歓声が上がっている。
 やがてモニターにバトルフィールドの情景と全体マップが映し出される。
 情景はランダムパターンで次々と映し出されてゆく。荒野、市街地、水中ete……
 全体マップの方は一言で言えば南海の孤島、といった感じで半円型、もしくは緩い水滴型をしている。
 そしてそのマップには木の年輪のような線が入れられている。
『さて、それでは続いて詳細なルールをご説明しましょう。
 まず武装神姫たちはこのフィールドの最も外周に当たる、この第一エリアにランダムに配置されます。
 その後の移動及び戦闘は自由。戦い生き抜く過酷なサバイバルに挑戦してもらいます。
 それと隠れ続けての不戦勝狙いの防止策として、一定時間ごとに第一エリアから順次、進入不可能エリアと変化。進入不能エリアになった時点で、そのエリアに存在する武装神姫は全て強制失格になるので注意を』

 
 『それではぁ……神姫ファイトォ……!レディ、ゴー!!!』


〜ねここの飼い方・劇場版〜
〜六章〜


『ねここ、雪乃ちゃん、アリア、現状位置把握、OK?』
「うん、みさにゃん。ポイントX154Y658だね」
「こちらはX199Y127です、姉さん」
「X101Y352」
 私の指揮下の3人より返答が入る。
 ゴーストタウンの廃ビルの内部に潜むねここ。森林に潜む雪乃ちゃん。地底洞窟を黙々と進むアリア。
 バトルが開始されたと言っても私たちの目的は違う。
 まずはみんなと合流しないといけないのだけれど……
 私はヘッドギアの通信チャンネルを切り替えて、全通話モードに切り替える。
『どうですか、皆さんの位置情報をお願いします』
 OK,了解と返答が続き、個人用ディスプレイの全体マップ上にメンバーの位置が表示される。
『……結構バラバラに配置されましたね。店長、突入ポイントの特定は出来ましたか?』
『あと10分……いや5分だけくれ。絶対に割り出す。それとジェニー、いやジェネシスの出現ポイントが確定した、そちらは今データを送る』
『了解……データ来ました、第2エリアの中央辺りですね。各員はそのポイントへ移動を開始してください。
 それと戦闘は出来る限り避けて戦力の温存を……みんな気をつけて』
 みんなの威勢の良い返事が返ってくる、士気は高い。
『あ、それとねここは十兵衛ちゃんとの合流を優先して。
 いくら新型ボディで稼働時間が延びてても、今回のような長期戦では不利でしょうから、当初の予定通りねこことドッキングを』
「わかったの。ポイント確認……いきまーすっ☆」
『あ、ちょっと待てぇ!』
 言うが早いかビルの屋上まで飛び上がると、一気にブースターを開いて高速移動を開始するねここ。
 屋上を足場に連続ジャンプして最短距離を移動するつもりなのだろうけど
「にゃぁぁぁっ!?」
 何処に敵がいるかもわからないのに、そんな轟音を立てて空中をすっ飛んで行けば良い標的と思われる訳で。
 案の定ビルの陰、柱の角、その他諸々あらゆる所から、数えるのも馬鹿らしくなるほどの火線がねここに襲い掛かる。
 冷静に考えればそんな頭上を高速移動中のに撃ったって無駄弾なのだが、この数では万一の事態もあるので馬鹿にはならない。
『あっちゃぁ……こうなったら逆に吹かして振り切って!』
「りょ、りょうかいなのっ!」
 ここぞとばかりにフルパワーを出し、一気に振り切りにかかるねここ。
 開始から燃料の大量消費は避けたかったけども、やむを得ない……トホホ。


『十兵衛、無理にリミッター解除はするな。初めから負担が大きくちゃ最後まで持たないぞ』
「大丈夫ですよマスター。この程度なら……いけますっ」
 竹林を縫う様に駆け抜ける十兵衛。その背後には多数の神姫が迫っている。
 隻眼の悪魔の名は非常に有名であり、倒して名を上げようと、また1対多数で早めに強敵を仕留めてしまおうと考えるものが多いらしい。
 また十兵衛の弱点として、近接戦闘の勝率が悪いと言う事が広まっており、五月雨式に多数で攻撃を仕掛ければ倒せるのではないかとの予測もあったと言える。
 そして十兵衛は目立つ。ストラーフでレーザーライフルを装備しているのも少数派であるし、何よりその眼帯の持つインパクトは絶大といえた。
 それら複数の理由のため、十兵衛には像に群がる軍隊アリのように多数の敵が群がってきていた。
 最初は薙ぎ払っていた十兵衛だったが、敵数の多さとエネルギー温存の為に離脱に切り替えた。
 しかしそれでも尚、結構な数が追尾してきている。
「しつっこいなぁ……もぅ。こうなったら……」
 真・十兵衛に人格を切り替え、まだ食い下がる追跡者たちを一気に蹴散らそうと踵を返した瞬間
「に゛ゃぁぁぁああああああああああああ!!!」
 ドガァァァァァン!!! と追跡者たちを音速の衝撃波で吹き飛ばすねここ。
……単に加速しすぎて止まれなくなっただけなのだが……
「真・十兵衛、覚s………ぇ」
 覚醒したはいいものの、辺りには吹き飛ばされて戦闘不能になった神姫たちが転がるだけであった。
「……戻る……」
 ちょっと不貞腐れたように元の十兵衛に戻っていく真・十兵衛。

『……何やってるんだか』
 凄いんだか、凄くないのだかよく判らないわね、全く。
「な……なんとか合流できたのぉ」
「ありがと♪ 助かったよ、ねここちゃん」
 減速しつつ、やっと十兵衛ちゃんの所に辿り着いたねここ。
『二人とも急いで。他の娘はもうポイントに到着しつつあるから』
「わかったの。十兵衛ちゃん落ちないでねっ」
「うん……おもいっきりやっちゃって!」
 再びブースターに点火する。二人は他の仲間のいるポイントへ向けて、まっしぐらに加速してゆく。


「おい、何をする気だ! ぅわ!?」
 後頭部を鈍器で殴られ、昏倒するスタッフ。ホストコンピュータのあるこの施設は既にその犯人たちに占拠されていた。
 ごく一部の部外者は目の前の男のように既に排除済。
「……よし、始めろ」
 奥にいたリーダー格らしい男が指示を飛ばす。
「我等の怨み、思い知るが良い……鶴畑、オーナー、武装神姫どもめ……」

……そして、狂気の祭典の幕が上がる。


『第一エリア、封鎖、3分前。繰り返す、第一エリア……』
 合成アナウンスがフィールドに響き渡る。
 と同時にセンターなどの現場スタッフが俄かに慌て出す。予定時刻よりも大幅に早い時点でのエリア封鎖なのだ。
「え、何なに?」
「そんなっ!?」
「うそ、まだ早いよっ」
 まだ第一エリアに取り残されている神姫達も狼狽する。戦闘を行っていた者も慌てて第二エリアへと移動を開始する。

「ねぇ、エリナちゃん。早く隣のエリアに移らないと失格になっちゃうよ!?」
 密林エリアの中、アーンヴァル型の神姫が、隣に佇むハウリン型の神姫にそう呼びかけている。
 二人は友人同士、この大会でも最後まで一緒に戦おうと決めていた。
 だが合成アナウンスが流れた途端、突然エリナが夢遊病者のような状態になってしまった。
「エリナちゃん!? 早く行こうよ、ねぇどうしちゃったの!?」
 肩を掴んで揺さぶるが一切の反応がない。……いや、それに刺激されたのかエリナの顔が上がる。
「エリナちゃん!よかったぁ、さ、早く行こ!?……ぅ……」
 彼女がエリナの手を取って駆け出そうとした瞬間、エリナがその手に装備した蓬莱壱式で至近距離から砲撃したのだ。
 それは腹部に直撃、巨大な風穴を作り出していた……
 そのまま上半身が千切れ、ドサリと崩れ落ちる。
「ど……ぉ……し……」
 驚愕の表情が張り付いたまま、涙を流し、半ば消えかかった意識でそれだけを発する彼女。
 エリナはそんな彼女へ歩み寄ると、その頭部に蓬莱壱式の銃口を押し当て……

 降り出したスコールの中、辺りには砲声の轟音だけが響き渡っていた……

 暴走の刻が、来たのだ。

 そうした小競り合いがあらゆる所で発生。。エリア離脱を図る神姫たちに暴走神姫が襲い掛かったのだ。
 離脱に気を取られすぎていたある神姫はあっさりと倒され、なんとか迎撃した神姫にもタイムリミットが迫っていた……
 中には先程のように友人に対して攻撃を躊躇う内に、逆に倒されてしまったケースも多い。
 そして……運命の時刻がやってくる。


「ねここちゃん。あれを!」
 十兵衛ちゃんが叫ぶ。高速移動しつつも振り返って状況確認をしようとするねここ。
「何……あれ」
 第一と第二エリアの境界に強力な電磁バリアが張られ、完全に行き来を不可能にしていた。

「そんなっ! 後一歩だったのにぃ」
 目の前でバリアが発生し、移動不能になってしまったマオチャオ。
「あーあ、こんなとこでおしまいか。ちぇー……ぇ」
 愚痴りつつ回収されるのを待っている、と、マオチャオの足元から黒い稲妻のようなモノがバチバチと放電してくる。
 とっさに回避するマオチャオ、だがソレは着地地点にも発生し……
「きゃぁぁぁぁぁ!?」
 黒い稲妻がマオチャオの全身を犯してゆく。
 やがて稲妻が収まると、そこには感情の一切ない神姫、いや只の操り人形がいるだけだった。

「ちょっと待って、何かバリアから出てきます……望遠レンズ倍率拡大、ズームにして各種センサー展開……」
 十兵衛ちゃんが神眼を使い、その正体を暴き出す。
『どうだ、何かわかったか?』
「……どうやら暴走神姫みたいです。あの夢遊病者みたいな表情は間違いありません」
『……って事は、始まったのか』
「はい……しかも敵は封鎖エリアに関係なくやってくるみたいですね」
『バリアを抜けてきてるものね……』
 事態は一刻を争う状況になってきたみたい、ね……
「ねここちゃん、合流ポイントへ急ぎましょう!」
「うんっ」

……舞台の第二幕が上がろうとしている、悪役の次は、ヒーローの出番! そう信じて。


管理人のコメント
 脅威を内包したまま、遂に全国大会が始まってしまいました。ねここたちはバトルロイヤルに生き残りつつ、陰謀を粉砕しなければいけないわけですが……これは難しいミッションですね。
 
>赤いスーツにピンクのシャツを着込み、眼帯をした、丸刈りで髭の中年司会者が絶叫する。

……Gガンダム?


>案の定ビルの陰、柱の角、その他諸々あらゆる所から、数えるのも馬鹿らしくなるほどの火線がねここに襲い掛かる。

 中東のほうの某戦争の夜間の中継なんかを想像するといいかもしれません。
 
 
>「……戻る……」
>ちょっと不貞腐れたように元の十兵衛に戻っていく真・十兵衛。

 真・十兵衛は何時も怖いクール系のイメージなので、たまにこういうシーンがあるとギャップが笑えます。


>「我等の怨み、思い知るが良い……鶴畑、オーナー、武装神姫どもめ……」

 そして、ついに始まってしまいます。復讐が……暴走した神姫たちの群れを相手に、ねここたちはどう戦っていくのか。陰謀劇の行方は?
 
 

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