「……という訳なんですが、どうでしょう?」
『そうね。………出たわ。確かに現時点のデータだとHOSを確実に使用していたと思われる神姫は全体の7割以上。
 準確定〜可能性が存在する神姫まで入れるとほぼ100%に近くなるわね』
「ほぼアタリ……ですかね」
『かもしれない。何れにせよ一枚噛んでいるとみて間違いなさそうね。直ぐに本格的に探るよう命じておくわ。それじゃあ』

「……ふぅ」
私は鈴乃さんとの電話を切ると、そう息をつく。
店長と話したことによる情報と仮説を伝え、それに対して探ってもらう事にしたのだ。
 これで何かしら、事態を解決できる道が見つかればいいんだけれど……
「……あぁ、武装の問題も考えないとアレよね……」
 すっかり忘れていた。
……まぁAIが問題起こしてるみたいだし、その辺シャットアウトするようなシステムを作ればOKよね。
 などと考えつつ、部屋のベッドに倒れこんだ私はそのまま深い眠りに…・・・

『ちゃらら〜ちゃらら〜ちゃりらりら〜』
……携帯電話が鳴る、誰だろ……げ、志郎。無視しても出るまでかけるに決まってるからなあ……
『やぁマイh』
「何よ。今から寝るから10秒で用件を言いなさい」
『HAHAHA、夢を見るときはボクの夢で頼むよ。』
「切るわよ」
『せっかちさんだな☆ミ いや何、ちょっと一週間ばかりアメィ〜リカに帰郷するのでね。というかもう現地なんだが。いきなりボクの家に遊びに来て、誰もいないからって泣いちゃったら困ると思ってね。嗚呼、何てボクは婚約者想いなんだ!』
「あっそ、そりゃどうも」

ブチッ

……寝よう……疲れた……


〜ねここの飼い方・劇場版〜
〜三章〜


『燐、隼っ!』
「はいっ!」
 その瞬間燐と呼ばれたストラーフは華麗にバク転、と身体を捻りながら着地。
 相手の予測外の角度から、遠心力を思い切りこめた後ろ回し蹴りを放つ!
 それは相手のマオチャオの首側面に見事にクリーンヒット。
 激しく吹っ飛ばされるマオチャオ。その後はピクリとも動かない。

「やりましたマスター! これで7連勝ですっ」
 リンはくるりとマスターの方へ振り向くと、可愛くガッツポーズを取る。
『よくやったな、燐!……おかしいな、判定が出ないぞ』
「え?……きゃぁっ!?」
 と、背中に強打を喰らい吹き飛ばされるリン。
「ど、どうして……」
 幸い致命的なダメージではなく、素早く体制を建て直しつつ、そう呟くリン。
 相手のマオチャオは完全に戦闘能力を失っていたはず。
 現に今も首が歪んで……そう、完全に歪んで、顔の角度が斜めのままなのだ。
 通常であれば首の接触不良でマトモに動けないはずのダメージ、しかし現実に動いている。
 そしてその目その顔には全ての感情が消え去っており、だらりと腕を伸ばしながらリンの方へ歩み寄る様は死鬼を連想させる。
『燐! こりゃ明らかに変だぞ、直ぐにフィールドから脱出するんだ』
「はい……しかし今、後ろを見せる訳には。先程より瞬発力がアップしてますので、食い付かれる恐れが」
『ち……リミッターでも切れやがったのか。それとも電脳空間で起きてる暴走……馬鹿な、ここはリアルバトルだぞ!?』

 電脳空間での暴走事件の多発に伴い、バトルサービスの形態も変化を余儀なくされていた。
 一部のセンターではオフライン形式、またあるセンターではリアルバトル形式で行われるようになっている。
 またリアルバトルの場合、リアルリーグで使用されているような本格装備ではなく、
 相手の神姫に致命傷を与えないような模擬弾やペイント弾などを使用した物ではあったが……

 そう二人が会話してる間にもマオチャオは迫りつつある。
 右手に装着された旋牙が唸りを上げている、だが通常の稼動音よりも更に五月蝿い。
 リミッターが切れて、モーターが過剰回転しているのは明白だった。
『止まってよぉ!? ねぇ、ねぇってばぁ!?』
 相手サイドではマオチャオのマスターが半ば半狂乱で叫んでいる。しかし当のマオチャオは全く意に介する様子がない。
『……燐、首を切断しろ。そうすれば命令系統を完全にカット出来るはずだ』
「……わかりました」
 鋭く大地を踏み締め、次の瞬間一気に加速をかけるリン。と同時に牽制としてフルストゥ・クレインを投擲する。
 マオチャオはそれを防壁で弾き、更にドリルでカウンターを仕掛けようとダッシュを掛ける。
 そして二人の神姫が交錯する一瞬
『燐! 今だ!』
 その言葉と共にダイブをかける燐、そしてサブアームで大地を強く押し叩くようにし、伸身前方宙返りのような軌道を描く。
 烈空の前転版とでも言うべき動きだった。
 そして相手の後方へ着地した瞬間隼の動作を行い、その切っ先は今度は完全にマオチャオの頭部と胴体を別離させていた。
 ドサリと地面に転がり落ちるマオチャオの頭部。
 その顔には断末魔の表情さえ浮かんでおらず、只無表情という名の表情があるだけだった。

『試合終了。Winner,燐』
今更のようにジャッジAIが判定を下す。

「……ふぅ、今度こそやりましたよ、ね」
 そこにあるのは頭が別離したことにすら気づかず、ただ立ち尽くすマオチャオの体。
 余り見ていても気分の良いものではない。リンはそれに背を向けマスターの元へ帰ろうとした。
 その時、頭部を失い、動く事のありえないはずのマオチャオが、ドリルを突き出しながらリン目掛けて突進!
 リンはその突然の事に、一瞬反応が遅れ……
(マスター、ごめんなさい……)
 リンが覚悟を決めたその時、マオチャオの胴体に一際大きな風穴が開く。一瞬状況が飲み込めず呆然とするリン。
 それは誰かが狙撃したのだ。しかもかなりの長距離から、リンが確実に感じる距離には反応がない。
「お邪魔しちゃったかしら、燐ちゃん?」
 リンの頭に通信で声が流れてくる。その声でようやくはっとなり、声の発信方向へ向き直るリン。
「十兵衛さん……いえ、助かりました」
 そこには遠距離から、しかも接敵している状況下でピンポイントにマオチャオのみを撃ち抜いた十兵衛が、レーザーライフルを構えた射撃ポーズを解除しながら、佇んでいた。


「マスター、ジェニーちゃん、こんにちわ」
「いらっしゃい、風見さん」
「こんにちはですよ」
 私は店内に入るとそう店長さんたちに一応声をかける。今は真剣な顔で他のお客さんの対応をしてるようなので、……と、店長は二人のお客さんと話ているのだけれど、その片方の人には見覚えが。
「凪さん。こんにちはですよ」
「あ、こりゃ美砂さん。こんちわ〜」
 うん、やっぱりそうだ。十兵衛ちゃんのマスターの凪さんだ。その肩には十兵衛ちゃんが何時もの侍(?)ルックで座っている。
「……うん、丁度良かった。風見さんもちょっと話に加わって貰えないかな?」
 と、店長さんが真面目な声で言ってくる。これは……アレ関連よね。
「えぇ、構いませんよ」
「と、その前に紹介しておこう。こちらは藤堂亮輔君。リンちゃん、つまり『黒衣の戦乙女』のマスターと言った方がわかりやすいかな」
「あぁ、貴方が……」
 黒衣の戦乙女はこの辺りではかなり有名な神姫の一人だ。
 私は今まで戦う機会はなかったけれど、その正々堂々とした戦いぶりが非常に有名だったりする。
「風見美砂です、よろしく」
「藤堂です、よろしく」
 手を差し出されたので一応握手を。ついでににっこり微笑んでみる……好印象を与えたみたいだ。
 でもちょっと顔が緩……あ、リンちゃんに抓られてる。まるで恋人か、お嫁さんみたいね。
 と、店長がワザとらしく咳払いを
「じゃ、本題の続きなんだけれど。凪君と藤堂君がつい先日出た大会で暴走があった。しかも現実空間で、だ。騒ぎそのものは結局揉み消されたみたいだけどね」
「ああ。リンが危ない事になったんだが、危うく十兵衛ちゃんに助けてもらったんだ」
 と、藤堂さんが相槌を打つ。
「そうですか……」
「で、本題なんだがソレは頭部と胴体が切り離された後も胴は動いた、という事だ」
「つまり……頭部だけでなく、全身に何らかのシステムの介入が行われていると」
「そう、つまりガン細胞みたいなモンだな。初めは一部でも徐々に全身を侵していく。
 しかも本来頭部が無ければ動くはずの無い、胴体を作動させるほどの密度で、だ」
「それだと停止が困難になりそうですね。ボディの中駆部を完全に破壊するかでもしないと」
「それだけじゃない、除去が問題だ。現状だとコイツを取り除くのは非常に困難と言わざるを得ない。何せ何処に侵食してるのかわかったもんじゃないからな。俺の方でもワクチンを製作してるんだがどうにも……」
 無精髭を撫でながら店長が続ける。
「それに、暴走のトリガーも現状では不明だ。何時どんな状況で発生するかわかないってのはちょっと怖い物があるな」
 雰囲気がどうにも暗くなる。と、店長がわざと明るい声で
「ま、現状HOSを使っていなければ大丈夫だとは思うがね。間接的な感染は今の所ないようだし」
「それもそうですね……ん、何ですかこのチラシ」
 それは全国オンラインバトルロワイヤル開催!と名付けられた大会広告のポスターだった。
 優勝賞金1億円! と派手なキャッチコピーがついている。
「ああ、ゼンテックスマーズやアムテクノロジー社がメインスポンサーになってる大会。
 何でも全国の全てのセンターを網羅してバトルロイヤルをやるらしいよ。……こんな時期になんでやるかね」
「ま、かなり前から企画してたらしいし、メンツもあるんじゃないですか? 賞金1億と聞けば暴走事故を考えても出るの多そうですし」
 と呆れ気味の店長さんと凪さんが受け答えをしている。
 さっきの企業名、何処かで聞いたような……
「しかし、ワクチンの方は手伝いが欲しい所だな。誰か手伝ってくれない?」
 フルフルと首を横に振る3人。私も店長さん程に得意ではないです……と、そこへ
「店長さん。遅れてごめんなさいね〜」
「全くです、何度言えば時間通りに起きれるようになるんですか、静香」
 と、ドキドキ☆ハウリンたち(違うわっ!)が入ってきて。

『あ』

 と、私と店長は顔を見合わせるのでありました。


管理人のコメント

 暴走事件の手がかりも未だつかめぬまま、関係者も次第に増えてきました第三章。美砂もかなり疲れてきているようですが……
 
 
>『HAHAHA、夢を見るときはボクの夢で頼むよ。』

 士郎……良いキャラだなぁ(笑)。ある意味一服の清涼剤。
 
 
>『ち……リミッターでも切れやがったのか。それとも電脳空間で起きてる暴走……馬鹿な、ここはリアルバトルだぞ!?』

 前回冒頭でリアルワールドでもゾンビ化した神姫の群れが出てましたが、ついにバトル最中にも出現するように。
 
 
>「お邪魔しちゃったかしら、燐ちゃん?」

 相変わらず、十兵衛はやたらカッコいいですね(笑)。
 
 
>「と、その前に紹介しておこう。こちらは藤堂亮輔君。リンちゃん、つまり『黒衣の戦乙女』のマスターと言った方がわかりやすいかな」

 今回の新キャラ、リンとそのマスター。二つ名とリアルバトルに出てるところを見ても、相当な強者のようです。
 
 
>「それだけじゃない、除去が問題だ。現状だとコイツを取り除くのは非常に困難と言わざるを得ない。何せ何処に侵食してるのかわかったもんじゃないからな。俺の方でもワクチンを製作してるんだがどうにも……」

 暴走を引き起こしているシステムの厄介な性質がまた一つ明らかに。こうなってくると、ただのプログラムとは言えません。
 
 
>と、ドキドキ☆ハウリンたち(違うわっ!)が入ってきて。

 この二人も、なんかコミックリリーフっぽくていいかもしれません。ハウリンはきっとまた酷い目にあうことでしょう(笑)
 
 
 いかにも陰謀っぽい大会も始まるようですが、今後は謎解明のためにこのメンバーで出場したりするのでしょうか?
 
 

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