パァン、と乾いた音が周期的なリズムで地下室に木霊する。
そこは風見家地下室に作られた、武装神姫用トレーニングセンター
(元々は普通のトレーニングルーム。新築時に作ったはいいが誰も使わないまま放置>物置化していた物を改装)
そこには新たな住人のために射撃場が増設され、その新しい住人である雪乃が射撃練習を行っていた。
「雪乃ちゃんって射撃上手いよね〜。蓬莱壱式とかだけじゃなくてハンドガンとかも得意なんて珍しい気もするし」
私はその後ろで見学しているのだけども。
「はい。以前は旦那様の護衛役も兼ねておりましたので。護衛中は吼凛を装着出来ない場合もありますので、そのためにも通常服装時に使用可能である手持ち式銃器の扱いは一通り心得ております。現在でも腕は衰えてないつもりですので、美砂様もねここも私が危険からお守りする所存です」
と言うと、手持ちのハンドガンのマガジンを交換し、再び射撃練習に集中する雪乃。
(……雪乃ちゃんの以前のマスターって、何やってる人だったのだろう……)
「あ、その事なのですが1つ申し上げたい事が」
ねここの飼い方、そのろく 里帰り!?編
「実家へ里帰り?」
「はい、嫁に遣ったとは言えやはり時々は顔が見たいと仰っておりましたので。ご許可頂ければ幸いですが」
そうか……姉妹になったって連絡してないから、その人にとってはまだ嫁にやった感覚なんだ。
「それは別に構わないけども」
微妙に訝しがる雪乃ちゃん。
「む、何か問題が……?」
「いや、そうじゃなくて〜。この際だし一度、私もねここもご挨拶しておこうかな、と」
「いえ、これは私事ですのでお二人のお手を煩わせるわけ……」
「はい、ストップ」
私は立てた指を雪乃ちゃんの唇に当てて、ちょっと待っての意思表示を。
「雪乃ちゃんはもう私たちの家族なんだから、そんな水臭い事言わないの、いいわね?」
そういって頭をくしゃっと撫でてあげると、雪乃ちゃんは
「家族……ですか。……はぃ、美砂様……」
俯いてちょっと照れたのかな、ほっぺが紅くなってる感じ。
「あ、それと様付けもやめてね、私のことも好きに呼んでいいよ。但し、母関係はNGだからね!」
「あ……はぃ、それでは、えぇと……姉さん、で……」
「はい、よくできました♪」
そう言ってもっといっぱい撫で撫でしてあげると、雪乃ちゃんは更に真っ赤になって縮こまってしまいました。
と、「にゃ!ユキにゃんだけずるいー!? ねここもナデナデしてもらうのぉー!」
地下に丁度降りてきたねこことバッタリ、ぴょーんっと私の胸に飛び込んでくるねここだけれど、いきなりだったもので
「きゃ!?」 「わ!?」
「大丈夫ですがお二人と、もっ!?!?」
あいたたたた……バタンガッシャーンっと受け止めきれずに倒れちゃった、ねここは大丈夫かしら……って目の前に、にしては妙に近くって……あ、ちゅーしちゃってる。
「うふ……ウフフフフ、私の目の前でそんな事……そんなことっ!?」
雪乃ちゃーん、お願いだからその銃危険なのでこっち向けないでほしいかなー……なんて(汗
里帰りの詳しい日程や行き方なんかは全て雪乃ちゃんにお任せしました。
連絡も雪乃ちゃんがしてくれたので、私は特にすることはなく。日程も今週末と相成りまして。
どうやら当日朝にお迎えが来てくれるらしいです。
そして、当日朝
我が家の前には、この平凡な住宅街にはどう見ても似合わない黒塗りのリムジンが、どどーんと停車しているのでありました。
「どうぞご乗車ください。お嬢様、風見様、ねここ様」
「ご苦労様、長瀬」
と当然のように切り返す雪乃ちゃん、物珍しげにリムジンをほぇーと眺めるねここ、そして私。
黒服に身を包んだ、体格の良い運転手さん……だよね、一応。がドアを恭しく開けて、私たちを促してくれる。
と言いますか、雪乃ちゃんいつもと雰囲気が少し違うような。
「わぁ〜い、ふっかふかだぁ☆」
リムジンの座席にはしゃぐねここ。……確かにうちにあるソファーよりふかふかかも、腰沈んじゃいそぅ。
「では家まで……宜しくね」
「畏まりました、お嬢様」
私たちとは向かい合ったシートに座って、そう指示する雪乃ちゃん。
「皆様、目的地までは半時程ですのでお寛ぎ下さい。何かお飲みになられますか」
「そうね、私は蓬莱泉の空を頂こうかしら。お二人は何にします?」
「ねここはマンゴーじゅーすがいいの〜☆」
「えぇと、私はアップルティーをアイスで」
そう言うと中央の足元から簡易テーブルがせり出してきて、続いてドリンク類が現れる。
最近のリムジンって凄いなぁ……
と言いますか、雪乃ちゃん何て物飲んでるんですか。いろんな意味で……
「所で雪乃ちゃん。お嬢様って言われてるけど、凄いご実家なのね」
私はアップルティーを飲みながら、ふとそう尋ねてみる。
「別に……大したトコじゃありませんよ……、来てもきっと退屈なだけです。」
ふっと陰のある表情をみせる雪乃ちゃん、まぁ色々あるんだろうけども。それでもちゃんと里帰りしてあげてるわけだしね、うん。
「わはー☆はやいはやいー♪」
ねここは車に乗ってるのが楽しいようで、外ばっかり見てるみたい。
と、そうこうしているうちに車が停車。目的地についたみたいだけれど。
窓から見える今では珍しい純和風の重厚で大きな門構え、左右には何処までも続くと思えるほどの白壁が続いていて。
門の脇には大きく、『黒姫』との看板……じゃなくて表札が。
(黒姫って……どーっかで聞いたような、やっぱあの有名なアレかしら……)
私たちは車のドアを開けてもらって降りて、そして門を一歩くぐった瞬間
『お帰りなさいませ、雪乃お嬢様!』
門から、やはり純和風の大きな本宅まで、数十メートルはあるであろうその道の両側いっぱいに全身黒尽くめでサングラスをかけたガタイのいい男の人が整列して並んでおり、雪乃ちゃんの姿を確認すると一斉に挨拶をしてきたのでした……
「さ、参りましょう。あまり旦那様を待たせてもいけませんから」
「あ、そうだね。行きましょうか」
そのまま立ち尽くしていてもしょうがないので、私はねここを定位置である頭の上に、雪乃ちゃんには左肩に座ってもらうと、その黒服の人たちの列の間を歩き始めました。
あー、流石にこの事態にねここは緊張しちゃったみたい。頭の上からぷるぷるしてるのが伝わってくる。
「ねここ、大丈夫です。……私がついていますから」
「ぁ……うん☆」
ねここの頬を撫でてあげる雪乃ちゃん、いつもの調子に戻ってるみたいかな。
私たちが通されたのは何十畳もあるような大広間。
もちろん純和風で、壁際には高そうな掛け軸やら日本刀やらが飾ってある。
私は座布団、2人はテーブル(日本机)の上に置かれた神姫サイズの座布団に座って待っていると、程なく正面の襖が開いて奥から、着物を着た初老の男性と、私と同じくらいのハイティーンの少女の二人が現れた。
初老の男性の方は、白髪で髭を伸ばしてて、でも顔付きは精悍でまだ生気をたっぷりと感じ取れる。
眼孔には鋭さが多く現れていて、猛禽類の目を連想させるかな。一言で言うと歴戦の戦国武将みたいな……
女の子の方は髪が長くて眼鏡をかけていて、頭の斬れそうな感じがする。一見清楚なお嬢様って感じなんだけど
あの目と口元は何か独特なモノを感じるような……
と、私が不謹慎にも人物観察をしている間に、二人は共に私たちの正面に座ると
「今日はよく御出で頂いた。私が当家12代目宗主、黒姫彦左衛門。隣にいるのが孫娘の鈴乃じゃ」
「鈴乃です、以後お見知り置きを」
張りのある低音が耳に響いて聞こえるようで、う〜ん、迫力のある人だなぁ。
「こちらこそ始めまして、風見美砂と申します。それでここにいるのが……」
「ねここです……の。はじめまして、なの」
カチカチになってるねここ。今だとブリキのオモチャみたいにギッコンガッチャン言っちゃいそう。
「ハッハッハ、そう硬くならないでくれたまえ。なんといっても雪乃が嫁いだんだ、我々はもう身内ではないかね」
あー……やっぱりまだ言ってないんだね……
「それについてなのですが、いいですか?」
「ん、なんだね?」
彦左衛門氏の眼光に怪訝な物が加わる。
「ねここは、雪乃ちゃんと結婚はしていません」
場の空気が非常に冷たい物へと一瞬で変化した気がした……
「本当なのか、雪乃!?」
「……はい。本当です、旦那様」
雪乃の口からはっきりをそれを確認した彦左衛門氏は、ワナワナと怒りのオーラが溢れ出してくるようで。
「でもそれは、ねここが望んだからです。唯尽くされるのは嫌だ、一緒に……一緒に過ごす時間こそが大事だと」
「だから私は……ねここ、と そう、ねここと姉妹になりました。お互いに支え合っていける存在になれたら、と」
「……そうなのかね?」
ギロリと私の方へ目線を向けてくる。私は
「間違いありません。そうねここは望み、雪乃ちゃんもそれを受け入れました」
それを聞くと、ふぅと大きな息を一息ついてから
「いいんだな、雪乃?」
それは今までとは違う、我が子を愛する気持ちに溢れた優しい父親のような声で。
「はい。今の私に迷いはありません」
雪乃もそれにしっかりと答えて
「風見さん、ねここくん。雪乃を、頼みます」
『はい!』
「……姉妹になったのでしたら、どちらにせよ親戚になったのじゃありません? ホホホ……」
『 あ 』
鈴乃さんのツッコミでオチを付けられたわけで(汗
「……ところで、雪乃ちゃんの元々のマスターって」
「ん、ワシだが何かね?」
「いいえ、何でも?」
(孫娘さんのほうじゃなかったのね……)
その後はせっかくだからと言う事で宴会にご招待されまして、朝までどんちゃん騒ぎ。
ねここは初めてマタタビ酒を飲んで……その姿はとてもココでは書き表せませんっ!
これはヒ・ミ・ツ☆
「言ったら寝首掻くょ?」
「言わないってばぁ〜」
*なぜなに武装神姫*
「はい、宴会明けでグロッキーなみさにゃんです……早く寝たいorz」
「ねここは何かスッキリなのー☆」
(ま、あれだけやればね……)
「で、今回はこちら」
『神姫のユーザーってどんな人が多いの?』
「これはもう多種多様ね。バトルメインの武装神姫として考えた場合は10〜30台前半くらいまでの男性オーナーが多いけれど、
ドレスアップやペット感覚で買う人の年齢層はそれこそ老人にまで及ぶわね。
お手伝いロボット感覚で買う主婦層も多いらしいし」
「ねここもお手伝いするよ〜♪」
「失敗しそうだからヤダ」
管理人のコメント
雪乃が押しかけ姉妹してから数日後。それなりに上手くやっているようです。
>「雪乃ちゃんって射撃上手いよね〜。蓬莱壱式とかだけじゃなくてハンドガンとかも得意なんて珍しい気もするし」
第二期シリーズのマオチャオ(ねここ)とハウリン(雪乃)は格闘系っぽく見えますが、雪乃は射撃もこなす優等生のようです。まぁ、デフォルトで射撃武器ついてますが……
>「家族……ですか。……はぃ、美砂様……」
雪乃もまんざらではないようです。ただ。
>雪乃ちゃーん、お願いだからその銃危険なのでこっち向けないでほしいかなー……なんて(汗
ねここがらみでは嫉妬の鬼化するのは変わらない様子(笑)。
>蓬莱泉の空
一升瓶だと7000円以上するいいお酒です。羨ましい……
>「ねここ、大丈夫です。……私がついていますから」
雪乃は「様」つきで呼ぶのはやめたようです。まぁ、姉妹ですからその方が良いか。
>「ハッハッハ、そう硬くならないでくれたまえ。なんといっても雪乃が嫁いだんだ、我々はもう身内ではないかね」
この(元)オーナーありにして、この雪乃ありと言う感じですか……婚姻届を用意したのはこの人だな(笑)。
>「……姉妹になったのでしたら、どちらにせよ親戚になったのじゃありません? ホホホ……」
冷静な鈴乃。彼女もなかなか面白いキャラのようです。
無事雪乃の身内との対面も済ませた美砂とねここ。次は雪乃の戦い振りなども見たいところです。
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