SPACE BATTLESHIP ”YAMATO”
EPISODE:1 Hope for tommorow Part1,Section3

宇宙戦艦ヤマト

第一部 遥かなる星イスカンダル

第三話「その名は<ヤマト>」

2199年 5月1日 地球上空

 古代と島が艦隊に合流してから一週間。間もなく地球圏に入る、とのアナウンスを受けて、2人は艦橋まで上がってきた。沖田が2人を見つけて声を掛ける。
「古代と島は、確か半年ぶりだったな。地球へ戻るのは」
 その声に、2人は敬礼をしてから答えた。
「はい。潜水艦で、発見されない様に二週間かけて火星へ行き、それからずっと観測任務に就いていました」
 島が答えた。「潜水艦」と言うのは海面下を進むあの潜水艦ではなく、ステルス偵察艦の異名である。艦の熱放射、電波反射を極力抑える構造の偵察艦は、小柄な船体に強制冷却装置やアクティブ・ステルス装置を詰め込んでいるために恐ろしく狭苦しく、それが本来の意味での潜水艦を連想させるゆえんだった。
「潜水艦か。あれは馴れない人間には辛いな」
 沖田が言った時、オペレーターが報告する声が艦橋に響き渡った。
「艦隊、月軌道を越えます。<スラウェシ><涼月>、クラヴィウス・ドックへ向かいます」
「<スラウェシ>のジット艦長より入電。『後ノ再会ヲ約ス』」
 損傷が酷く、大気圏突入に耐えられそうも無い2隻が分離し、月へ向かっていく。月の北極に当たるクラヴィウス・クレーターには、地球圏防空司令部を兼ねる月鎮守府が置かれている。遥か昔に落下した氷小惑星のかけらが残っていたために、水を自給できる場所として月面開発の中心地となっていた場所だ。
「両艦の艦長に再会を誓う電文を送っておいてくれ。文面は任す」
 沖田はそう答えると、正面のビデオ・パネルに地球を映すように命じた。
「地球か…久しぶりだな」
「あぁ。相変わらず…嫌な光景だな」
 古代の呟きに島が応じる。今から200年以上も昔、初めて宇宙を飛んだ男が「地球は青かった」と評した、宝石のような惑星、地球。宇宙から見た写真や映像がふんだんに存在するこの時代でも、宇宙から地球を見る人間の全てがその美しさに息を呑む。
 だが、今の地球はその面影を失っていた。大気は白く濁り、わずかな雲の隙間からは真っ白な凍土に覆われた地表や、夥しい流氷が浮かぶ海面が見えるのみだ。今の地球は終わる事の無い冬に覆われた、極寒の白い惑星だった。
 全ては、地球に撃ち込まれた無数の遊星爆弾が原因だった。その凄まじい爆発が巻き上げる膨大な粉塵は大気の上層部まで舞いあがり、太陽光をほぼ完全に遮断した。
 そのため、地球の平均気温は数ヶ月の間に氷点下にまで低下した。大気中の水蒸気が、致死的な放射能の塵を核に凝集して雪となり、地表を覆って以来…地上の光景は静物画のように変化した。時折起こる地吹雪だけが動くものとなった今の地球は、絶滅の危機に瀕した人類を静かに眠らせる氷の柩のようだった。
「まもなく入港体勢に入る。各員着席し、シートベルトを締めろ」
<八州>艦長の山南敬一郎大佐が命じた。古代たちも予備のシートを探して座り、大気圏突入の衝撃に備える。生き残った他の二隻…駆逐艦<ハーシェル><ギアリング>も、それぞれの母港へ帰投するコースを取って大気圏突入に入っているはずだ。
「大気圏突入10秒前よりカウント開始。…今。10、9、8、7…」
 航海オペレーターのカウントが始まり、やがて<八州>全体が激しい振動に包まれた。
「大気圏突入。降下角23.6度にて降下中。重力ブレーキ、減速スラスター作動。大気圏内航行速度に落します」
 減速と共に振動も収まり、<八州>はマーシャル諸島上空でいったん水平飛行に移った後、母港である横須賀へ向かった。高度は20000メートル。この高さでも、大気圏上層部の塵のために周囲は暗く、太陽が夕暮れのような赤に染まって見える。その赤い光に照らされて、血の海を思わせる雲海が広がっている。人を即死させかねない毒性を持った放射能の塵と雪の雲だ。<八州>はその中へ降下していった。強風が艦体を揺らし、窓の外を白い何かが流れていく。
「吹雪のようだな」
 沖田は呟いた。雲の層を抜けても、空は舞い散る雪に覆われている。現在地は伊豆大島の南方だが、おそらく伊豆や小笠原の島々も真っ白な雪に覆われているだろう。その吹雪を切り裂きながら、<八州>は海面に向けて降下して行った。
「着水します」
 航海オペレーターが報告した。<八州>はさらに速度を落しつつ、流氷の浮かぶ黒い海面に突入した。直ちにタンクへ注水が行われ、同艦は海中に潜航していく。ここからは横須賀まで海面下を進んで行く事になる。ガミラスの長距離索敵機に発見されるのを防ぐ事が目的でもあるが、<八州>の母港である新横須賀軍港は相模湾の海底を掘削して建造した巨大な地下空洞の内部に設置されているからだ。ここに入港するには全ての艦が いったん潜水しなければならないのである。
「新横須賀か…久しぶりだな」
 古代が言うと、沖田が彼の方を向いた。
「そうか、お父上は確か…」
「はい、新横須賀の作戦本部分室に。非番の日でなければ父だけでも助かったかもしれないのですが…」
 古代は唇をかんだ。彼の父、古代明地球連邦宇宙軍大佐はこの新横須賀が勤務先だった。進も、まだ士官学校に進学する前から見学に訪れた事がある。地球に最初の遊星爆弾攻撃が加えられた日、新横須賀は無事だったが、明と妻…すなわち古代の母である礼子が住んでいた浦賀の家は、日本の東半分を瞬時に吹き飛ばした1ギガトンの爆発の前に2人ごと消滅してしまった。
 その、辛い思い出のある土地へ行く。古代はいまさらながらに自分が天涯孤独の身となった事を噛み締めていた。その彼の肩を、島が叩いた。
「古代…いつか、宇宙へ飛び出して仇を討とうぜ」
「あぁ…そうだな」
 親友の心遣いに、古代は笑顔を作って答えた。そうだ。泣くのは戦いが終わってからで良い。
 その時、暗黒の海中を二条の光が伸びてきた。入港する艦を迎えるためのライトレール・ビーコンシステムである。その光に挟まれるようにして<八州>は航行を続け、やがて海底に開いた巨大なトンネルの中へ侵入していった。

 数時間後、沖田と随行を命じられた古代、島の3人は新横須賀から東京地下街区にある地球防衛軍司令部へやって来ていた。そこでは、藤堂司令長官が到着を待っていた。
「沖田…ご苦労だった。良くぞ生きて帰ってきてくれたな…」
 藤堂は執務机から立ち上がり、沖田の手をしっかりと握り締めた。
「そう簡単にくたばるワシではないさ…だが、多くの若者を殺してしまった」
沖田の表情が沈痛なものとなった。冥王星海戦では出撃した13隻中8隻を喪失し、3000名以上の戦死者を出している。
「あぁ…残念だ。しかし、第一艦隊出撃の時間は稼いでくれた。目的は達成されている」
「それを議会は理解してはくれないだろうな」
 冥王星海戦での戦果は、相手に与えた損害は撃沈1、撃破5。戦術的には負け戦には違いない。大統領府や議会の第一線級の政治家がシンガポールごと消滅し、後継順位によって突然圧倒的な敵軍との絶望的な抗戦の矢面に立たされた今の政府や議会には、望みを失いヒステリックに軍の責任を追求する事で精神のバランスを保っているかのような人間も少なくない。彼らにしてみれば、沖田の「敗北」は格好の材料となるだろう。
「そこを黙らせるのが俺の仕事だ。ところで、後ろの2人は?」
藤堂の質問に、古代と島は直立不動の姿勢から敬礼する。
「古代進大尉であります!」
「島大介大尉であります!」
 藤堂は答礼し、相好を崩して二人の肩を叩いた。
「そうか、君たちだな。火星に不時着した異星船からメモリーキューブを持ちかえってきたというのは。早速見せてもらえるかね」
「了解しました。いまお見せします」
 島が答え、執務机の上にメモリーキューブを納めた対爆ケースを置いた。ロックを解除し、中から衝撃吸収シートに包まれたメモリーキューブを取り出す。
「ふむ…これがそうか。直ちに解析にまわさねばならんな」
 藤堂は言うと、秘書室に通じる電話を取り、何事かを命じた。一人の秘書がコーヒーカップを持って入ってくる。と言っても、中身は本物ではなく、化学合成で作られた代用コーヒーである。コーヒーの産地はいずれも寒冷化によって全滅していた。
「いま、この任務にうってつけの男を呼んでいる。少し待ってくれ」
 藤堂が言い、カップに口を付ける。代用とはいえ、補給の途絶えがちな火星にいた古代と島にとっては久方ぶりに口にするコーヒーだ。本物に比べれば貧弱ながら、それなりの芳香を漂わせるそれを二人は楽しんだ。
 3分ほどして、ノックの音が響いた。藤堂が「入れ!」と声をかけると、技術士官の制服を着た一人の男が入ってきて敬礼をした。
「防衛技術局、真田志郎。参りました」
 真田と名乗った技術士官は、技術士官にしては武人的な風貌を持つ男だった。藤堂は立ちあがり、真田の横に立った。沖田、古代、島も立って真田と向かいあう。
「紹介しよう。防衛技術局の第三課…敵性技術研究班のチーフを務めてもらっている真田志郎技術少佐だ。異星技術の解析に関しては、現在の地球で最高の人材だと断言できる」
 真田は照れたように笑った。その笑顔を見ると、以外に若いらしい。彼は再び敬礼すると、沖田に向き直った。
「沖田提督ですね。お会いできて光栄です」
「私も君の噂は聞いている。会えて嬉しい」
 真田と沖田は握手をかわした。同じ科学者同士、通じ合うところがあるのだろう。次いで、真田は古代の方を向き、思いがけない事を言った。
「君は…守の弟だな。一目でわかったよ」
 古代は驚愕し、真田の顔を見た。
「兄を…ご存知なんですか?」
 真田は肯き、守との関係を話した。
「あぁ。俺と奴は高校の同期でな。あいつは士官学校、俺は技術学校と、進路はわかれたが、ずっと友人として付き合わせてもらっていた」
「そうでしたか…」
 兄を知る人物との出会いに、古代は胸が熱くなるのを感じた。
「真田君、早速で済まんが…このメモリーキューブの解析を頼みたい」
 そこへ、藤堂が言った。真田は「失礼」と言うとメモリーキューブを取り上げ、仔細に眺めた。
「ふむ…確かに地球のものでもガミラスのものでもない…若干、ガミラスとの共通傾向が見られるような気もしますが…実に興味深いサンプルです。長官、3日頂けますか?これは局の総力をあげて取り組むべきものです」
 興奮した顔立ちで言う真田に藤堂は肯いた。
「無論だ。君のやりたいようにやってくれてかまわない。成果を期待する」
「はっ!」
 キューブをケースに戻し、真田は慌ただしく長官室を出ていった。真田が出ていくと、再び残った人間はソファに腰かけた。
「先程、古代中佐の話が出たが…兄上の事は残念だった」
「は…」
 古代は肯いた。兄、守は公式にはMIA―戦闘中行方不明者の扱いを受けているが、生存の見こみはない。それは進も理解していた。
「今後は、兄上の分まで地球のために戦って欲しい。頼むぞ」
 藤堂の激励を受け、古代は敬礼をしてそれに答えた。それで用件は終わり、沖田は再び古代と島を連れて防衛軍司令部を出た。
「さて…お前たち、今後はどうするんだ?」
 新横須賀への車中で沖田は古代と島に尋ねた。
「は…今後の予定ですか?全く決まっていませんが…」
 島が言うと、古代は肯いた。
「ええ。火星で受けた最後の命令は、あのメモリーキューブを地球に持ちかえれ、と言うものだけで、その後の事には何も」
 二人の返事を聞き、沖田は肯いた。
「と言う事は…今は二人とも事実上の待命状態にある、と見て良いわけだな。なら話は早い」
 そう言うと、沖田は思いもかけない事を言いだした。
「お前たちに見せたいものがある。明日、第十五埠頭へ来てくれ」
「第十五埠頭?潜水艦専用ですね。何があるのですか?」
 島が言う。この場合の潜水艦は偵察艦の事ではなく、本来の意味での潜水艦である。索敵技術が高度に発達したこの時代においても、音響探知のみに頼らざるを得ない潜水艦は、依然としてもっとも隠密性に優れた兵器である。戦略弾道弾原潜を改装した対軌道迎撃ミサイル潜水艦や対宙グレーザー砲潜水艦などは、容易に探知され、撃破されやすい地上の発射施設に代わり、地球防衛の重要な一翼を担っている。
「見せたいのは潜水艦ではない。もっと重要なものだ…まぁ、明日になれば分かる」
 結論をはっきりとさせる沖田らしからぬあいまいな言い方に、古代と島は本当に重要な何かがあるのだと感じ、追求する事をやめた。はっきりとは分からないが、最高に機密性の高い何かを、沖田は握っているらしい…

 翌日、古代と島は朝一番で第十五埠頭へ出頭した。そこには、連絡用の小型高速潜水艦<はせしお>が待機していた。融合炉と電磁推進システムで水中最高速度120ノットを誇る、世界最速の潜水艦である。大気圏内でも、しばしば来襲するガミラスの空母艦載機に連絡機が撃墜される事があり、よほどの緊急時以外ではこうした高速潜水艦がもっとも安全な輸送手段だった。理由は不明だが、ガミラスは水中目標の探知能力が極めて低く、潜水艦の撃沈例はたまたま浮上していたところを狙われたもの以外は皆無なのである。
「おぉ、来たな、二人とも。早速だが間もなく出航する。早く乗れ」
 セイルで沖田が二人を呼んだ。古代は島と顔を見合わせ、タラップに脚を掛けた。乗りこんで間もなく、<はせしお>は出航し、相模湾を出ると速度を最高にして太平洋を南下し始めた。
「提督、どこまで行くのですか?」
 島が質問すると、沖田は微かに笑った。
「見せたいものがあるといっただろう?目的地までは7〜8時間かかる。まぁゆっくりしていろ」
 沖田はそう言って長官公室に入っていった。残された古代と島は顔を見合わせる。
「7〜8時間か…この艦の速度から言うと…九州沖くらいまでの時間だな…」
「そこに何があるんだろう?」
 考えても結論は出なかった。二人はあてがわれた部屋に入り、二人でゲームなどをしながら時間をつぶす事に専念した。
 目的地に近づいたのは、将棋の対局が4回目…古代の4連敗目が確定濃厚になった頃の事だった。
『間もなく目的地に着く。総員入港準備にかかれ』
 艦長のアナウンスに、古代はそれまで睨んでいた将棋盤から素早く目を離した。
「お、そろそろか。行こう、島」
「おい、古代!御魔化すなよ!!」
 勝ち寸前で相手に逃げられた事で島が不満の声をあげるが、それでも島は先に出た古代の後に続いて艦橋へ向かった。
 艦橋では沖田も待っていた。二人が入ってくると、振り向いて出迎える。
「そろそろ着くぞ。降りる準備をしておけ」
 古代が質問した。
「降りるのは良いですが…ここはどの辺りですか?」
「九州の南西沖…坊の岬沖130キロというところか」
 坊の岬沖…と言う固有名詞に、島が反応した。
「すると…戦艦<大和>が沈んだのはこの辺ですね」
 沖田は肯いた。
「そうだ。かつて、我々日本民族がその総力を挙げて建造した…空前の大戦艦の終焉の地が、ここだ」
 そう言って、沖田は艦長にヴィジュアル・ソナーの使用を命じた。超音波でスキャンした周囲の様子をコンピュータ処理して映像化し、スクリーンに投影する装置である。艦長が肯いて命令を伝達し、ヴィジュアル・ソナーの捉えた映像が艦橋正面のビデオパネルに投影された。
「あれが、<大和>だ」
 沖田はスクリーンの一角を指した。<はせしお>の現在深度から約50メートルほど下に海底があり、そこに巨大な影がわだかまっていた。
 既に周囲の海底と区別が着かないほどに堆積した沈泥に覆われてはいるが、それでも人の手によるものでしかありえない優美な曲線を描く巨大な鉄の塊が、そこにはあった。その最後の戦闘で大爆発を起こし、四分五裂してはいるが、その分断されたかけらのどれを取っても、この<はせしお>より大きい。
 250年前、当時の日本帝国が国運を賭けて建造した世界最強の戦艦<大和>。武運拙く敗れはしたが、それでもその名声は今も日本人の間に語り継がれている。古代たちだけでなく、<はせしお>の乗員も一時作業の手を止め、<大和>の残骸とそこに眠る幾柱もの霊魂に向けて見事な敬礼を行った。
 しかし、古代たちが<大和>よりも目を奪われたのは、その向こうにそびえる巨大な海底ドームだった。新横須賀軍港か…あるいはそれよりも大きいかもしれない、大規模な海底ドックだ。
「…あれは…いつのまにあんな施設を?」
 島は驚いた表情で言った。航海術を専攻し、地球上のものも含む主要航路に精通した彼でも、この辺りに軍の基地が作られている事を全く知らなかったのだ。
「知らないのも無理は無いな。あれはつい1年前に完成したばかりの極秘施設だし、知っている人間はあそこで働く者以外では軍上部のほんの一握りだけだ」
 沖田はそう言うと、二人の顔を見た。
「ワシが見せたいと言ったものは、あの中にある」
 その言葉に応じるように、<はせしお>は進路を変更し、ゆっくりと海底ドームに向けて進んで行った。

 入港後、港に降り立ったのは沖田と古代、島の3人だけだった。桟橋に立った3人に、いかめしい顔の衛兵が歩み寄ってくる。
「身分証明書を拝見させていただきます」
 数名の衛兵が取り囲む中、沖田が自分のIDカードを取りだし、衛兵に渡した。彼はカードリーダーで情報を読み取り、ディスプレイゴーグルに映し出された情報を確認して肯いた。
「沖田中将、ようこそいらっしゃいました。随行の二名ともども入構資格を既に受理しております。こちらはこのドーム専用のIDカードとなりますので、常に携帯してください。紛失された場合は身柄を拘束させていただく場合がありますので」
「うむ、承知した。二人ともこれを付けたまえ」
 沖田は衛兵に手渡された3枚のIDカードのうち2枚を古代たちに差し出した。古代も島も、驚いてそのカードを見つめる。専用カードを使うほどのセキュリティレベルと言えば、よほどのものだ。
「何をぼやぼやしている。早く付いて来い」
 いつのまにか歩き出していた沖田に促され、古代と島は慌ててその後を追った。沖田に従って歩きながら、周囲を見まわす。どうも通常の基地施設のようには見えない。その時、沖田が二人に尋ねてきた。
「お前たち、ここをどう思う?」
「は、どう思う…とは?」
 古代が問い返すと、沖田は言葉を補った。
「施設全体の印象だよ。どんな場所に見える?」
 これには島が答えた。
「基地というよりは、工廠施設…工場のように思えます」
 周囲には無数の工業プラントが設置されていた。その多くは、軍艦用の精密電子機器や装甲板の製造ラインだ。思い返せば、港にも<はせしお>の他には輸送潜水艦が多く入港していたように思える。やはり、全体的な印象は工場施設だ。
「その通りだ。このドームはある特殊な目的のために作られた工廠でな。同時にドックを兼ねておる」
 沖田は言った。ちょうどその時、一行は移動用ベルトウェイのハブに着いた。沖田はドック行きのベルトウェイに乗りこんだ。
「ドックですか?しかし、ドックといえば他の基地にもあるはずで、わざわざこのような場所に新規建造するのは変な話に聞こえますが」
 島が言うと、沖田は肯いた。
「そうだろうな。しかし、既存のドックでは設備も、機密保持の上でも不足があったのだ」
「既存のドックでは…?」
 古代と島は今日何度目かになる顔を見合わせての困惑の表情を見せた。横須賀工廠の一号ドックや佐世保工廠の大ドックは、現時点で世界最高水準の技術力と設備を持つ造船施設だ。それすら及ばない施設がここにはあるのか…?
 二人の困惑をよそに、ベルトウェイはまっすぐドックに向かっている。近寄ってみて、古代と島は先ほどの沖田の話に納得した。それは全長がキロ単位で測れそうな巨大なものだったのだ。これほどの施設は確かに横須賀にもない。中へ入ると再び徹底した身体検査が実施され、DNAレベルで本人かどうかのチェックが行われる。それが終わり、ようやく3人はドックの奥へと入る事を許可された。
「提督、このドックは…」
 エレベーターに乗った島は沖田に尋ねようとした。すると、沖田は島の言葉を途中で制して話し始めた。
「今から1年前の事だ。木星圏決戦に敗れ、火星合衆国も崩壊し、地球本土への直接戦略攻撃が始まるなど、戦況は圧倒的に我が方に不利になりつつあった」
 古代たちは肯いた。
「地球連邦政府の最高戦略会議では、彼我の圧倒的な戦力差では戦局の逆転は困難と考え、一つの極秘計画を発動した。それは俗に<EX計画>と呼称されている」
 エレベーターが上に着いた。扉が開き、まぶしい光が前方から射しこみ古代と島はまぶしさに目を細めた。
「その計画に基づき、建造されているのが…これだ」
 沖田が通路に進み出て、前方を指差す。ようやく目の慣れてきた二人は、そこに広がっていた光景に息を呑んだ。
 そこには、巨大な戦艦が存在していた。
 全長は300メートル前後、全幅も40メートルはあるだろう。<八州>が全長230メートルである事を考えれば驚くばかりの巨大さだ。
 しかし、大きさよりも二人を驚かせたのは、その形状だった。潜水艦のように円筒形を基本とし、砲身のない荷電粒子砲塔を持つ従来の地球艦艇に対し、この戦艦はかつての水上戦闘艦艇に似たデザインをしていた。艦体の中央部よりやや後ろ寄りには十数階建てのビルに匹敵する堂々たる艦橋がそびえ立ち、その前方に巨大な三連装の砲塔が2基、やや小ぶりの連装砲塔が2基横に並んで鎮座している。上部構造物を囲むように無数の小口径火器…おそらく対空用パルスレーザー銃塔だろうが、まさに針の山を思わせる密度で装備されており、対空ミサイルのランチャーも並べられていた。
「こ、これは…」
 震える声で言う古代に、沖田はその正体を告げた。
「<EX計画>に基づいて地球防衛軍が建造してきた最新鋭戦艦、BB-EX01<ヤマト>。これが、ワシがお前たちに見せたかったものだよ」
「<ヤマト>…」
 二人は魅入られたように、目の前にある巨大な戦艦…<ヤマト>を見つめていた。
 古代進と島大介、この先幾度にもわたって襲いかかってきた地球の危機に際し、二人と共に戦う事となる戦船との、これが運命の出会いであった。

第四話「EX計画」へつづく