翼持つものたちの夢

霜月天馬

第二部 25話 〜温泉パニック 前編その3〜


「こちらがお客様のお部屋となります。桜の間でございます」
 仲居さんの案内で私たちは桜の間へとみちびかれていた。そう、これから3日間私たちがお世話になる宿だからね。
「では。ごゆっくりどうぞ」
「ん。有難うね。あ、これ……少ないけれど心付けだよ」
「ありがとうございます。ではごゆっくりどうぞ」
 そう言って仲居さんがさってから……。
「直子。いくら包んだの」
「ん。英世さん3枚ばかり。これをしておくと何かと便宜をはかってくれるようになるしね」
「賄賂」
「ん。賄賂とはちょっと違うかな」
「そっか。まあ、チップとおもえばね」
「なるほどね」
「直子さんよろしく」
「美春。別にかしこまるひつようはないわよ」
「でも……」
「まあ、まあ。美春にさやか。これもなにかの縁だからね……」
「ええ。よろしくお願いします」
「わたしも、よろしくです」
「そうだよ。二人ともべつに店じゃあないから気楽にいこうよ」
「わかったわ」
「わかった」

 そんなこんなで私と千尋、美春、さやかの4人が一緒の部屋になった。
 で、一方治子さんたちは……
「まさか……。つかさちゃん」
「うーん。治子と一緒とはね……。これはチャンスなのかしら……」
「お姉ちゃん……。一寸……。はあ〜だめだこりゃ……」
「うーん。あずさちゃんあっちの世界に旅立っちゃったみたいだけれど、ひきもどそうか治子ちゃん」
「ん。べつにいいわよ。かんがえるだけなら幾らでもいいわよ。それに私も関節技ならかなりのものだしね……」
「まあ、ボクは治子ちゃんに手は出したりしないよ……」
「ふつつかな姉ですが。見捨てないでくださいね。治子さん……」
「みーなちょっと。アタシはまともよ」
「「「どこが……」」」
「三人ともひどいわね……」
「事実だしね……」
「何気に酷い事言うわね。治子も……」
 そんな訳で治子、つかさ、あずさ、美奈の4名となった。まあ、それぞれの店のメンバーがバラバラに組み合わさった部屋割りとなった。
 まあ、流石に男女が一緒の組み合わせにならなかったが、そこはまあそれである……。
「純一か久しぶりだな」
「あ。充。お前も元気そうで何よりだ」
「そうだな。直子は元気か」
「ああ。元気だ。もっとも、直子に礼をいうならば今回が最初で最後のチャンスだ」
「どういうことだ。純一」
「ん。簡単だ。直子は来年の3月を持って此処を去る。あいつはアイツの夢をかなえる為にな。個人の夢を遮ることは出来んしな。もしかして、直子が何かしたのか」
「ああ。別に悪い事じゃあない。俺と千尋の仲を取り持ってくれたんだ」
「そうか……。俺も直子が縁で店長こと治子さんと付き合うようになったし。そういう意味では直子は恩人だな」
「おやおや。秋山くんに充ではないか。男どうしで何をはなしているのかね」
「「あ、オーナー」」
「もしかして、二人で”やらないか”の相談かね」
「「ちがう。俺はノーマルだ」」
「なんだ。残念」
「そこで残念がらないでください。オーナー」
「まあ、僅かな期間とはいえ。同じ釜の飯を食ったの絆だろうな……」
「おや、純一君じゃあないか」
「あ、祐介さん。はじめまして」
「おいおい。君とは何度かあっているぞ」
「そうでした。失礼しました」
「別にかまわないさ。ところで、深山君はいるかね」
「深山ですか。彼女なら確か坂上さんと一緒に居ましたよ。あ、でも、強引に行かない方が良いで……ってもう居ない」
「祐介さん。可哀相に……」
「ですね。彼女は非常に神経質で臆病だから……。物音を立てずに近づかれるのを非常に嫌がるからね」
「それでいて気配にはものすごく敏感だからな。俺も彼女の入浴時覗こうかと思ったが彼女の周りから発する気配に手が出せれなかったしな……。恥ずかしい話だが」
 充の話を聞いた純一もまた肯いていた。
「別に恥じゃあないと思いますよ。直子の従姉妹の恋人で、元は直子の幼馴染から直に聞いた話だけど、直子と蝉代さんの二人が入浴中を覗こうとして見事にボコられたしな」
「ほう。と、なると男の浪漫を追い求めたいが……。命は惜しいからな……」
「だったら、やるべきなんじゃあないかな。浪漫を求めるべきだとおもうぜ」
「だけど、命あってだよ……」
「なんだ。晴彦。お前ブルって居るのか」
「そうじゃあないが……」
「俺も晴彦の意見に賛成だな。昇よ」
「あ、充兄貴」
「久々だな。お前も元気そうでなによりだ」
「稲穂よ。お前さんは浪漫を求めるべきか否かどう思う」
「そうだな……。俺は時と場合によるな。少なくても直子のような勘の鋭い女性も居るし、女の裸を見るのは好きだがそれが元であの世に行きかねないとなると話は別だな」
「そうだよな……」
「なら、昇よ。お前も愛しのナナちゃんが他の男に珠の肌を覗かれていたらどうだ」
「確かに……。晴彦の言うとおりだ……。やめておくべきだろうな」
 と、まあ、男性陣もそれなりに打ち解けているようだ。
 で、オーナー達は……
「祐介おまえどうする……」
「それはまあ、俺はやめておくぜ親父……」
「なぜだ。男の浪漫を追い求めないのかね」
「男の浪漫も悪くないが命あってのものだ。それにさとみをうらぎりたくないのでな」
「そうか。やれやれ、他の連中もみな、深山君をおそれているようだが……」
「これは、一応個人的な意見だけど、彼女自身の働きは凄いの一言だな。新人の割にはものすごく段取りが的確で愛想もよく仕事はまさに非の打ち所がないほど的確だ。それであのスタイルだしな。俺も10年若けりゃアタックしていたな」
「ほう、祐介がそういうほどとなると相当凄いのだな。ならばぜひとも男の浪漫を追及せねば……」
「親父止めた方がいいぞ。こんなことが志保さんにばれたら殺されるぞ」
「ふふふ。ひさびさに血が騒ぐよ。それに妻が怖くて浪漫が追及できるか……」
 そう言って意欲を燃やすオーナーは去っていった。そしてその様子見つつ息子の祐介は額に手を当ててため息混じりにつぶやいていた。
「はあ〜。こうなったらどうにもならないな……。せめて、骨だけはひろってやるからな。親父・・」
「ん。あれ。祐介さんじゃあないですか。お久しぶりです」
「おお。深山君ではないか。君のうわさと働きは前田君から聞いている。留美から聞いたが君も留美の企画に参加するそうだな」
「はい。私と店長。あと5号店では坂上さんとつかさちゃんが参加しますね」
「そうか。まあ、君達が宣伝してくれたおかげで我々としては大助かりだった。礼をいわせてもらうぞ」
「そうですか。私のほうも礼をいいますよ。身寄りが無い私を雇ってくれたことに感謝します」
「まあ、前田君の推薦もあったし、それに後見人の白菊氏とおーなーである親父が30年来の悪友だったらしいからな」
「ところで、質問なんですが、オーナーは一体昔何かしていましたか。あの体の筋肉のつき具合と僅かに漂う殺気を感じますね。私の父親や疾風の親父さんのような気配とテーブルに着いたときの手足の組み方からして昔軍隊かもしくはそれに類する組織の人間の匂いを感じますが」
 私の質問に彼は答えることができなかった様子をみて私はなにかしらの答えを得たように感じた。で、その静寂を破ったのはすぐであった。
「おーい。直子。って貴方はもしかして祐介さんかな」
「あ、蝉代さん。どうしたの」
「ああ。そろそろ風呂に入っておかないと混むから呼んだんだ」
「そうだ。君は確か坂上君だったね。本店勤務の」
「そうです。御堂さんとトレードで今は5号店に勤務しています。あ、直子私は行くね」
「わかった。私も直にいくよ」
「わかったわ」
 蝉代はそう言って私のところから去っていった。蝉代が去った直後私は
「それじゃあ私もいきます。あ、そうだ。彼女は私よりも修羅場を潜り抜けていますから。もし私達の入浴を覗こうなんて考えているなら止めた方がいいですよ。やるなら私と蝉代は容赦はしませんので……。それでもやるなら骨の2、3本は覚悟してくださいね……」
 そういって私もまた蝉代のあとをついていった。そして残された祐介は全身を震わせていた。
「恐ろしい……。アレが深山と坂上の力か俺はとんでもないものを見ちまった……。親父と直子達がぶつかれば確実にどちらかが
やられる。深山だけならまだしもあの坂上は間違いなく俺達とは違う世界を潜り抜けている……。まあ、冷静ならば死なないだろうが
逆上していたならば……。これは何としても親父を止めねば彼女達をこれ以上穢れさせるわけにはいかないな」
そう決意して祐介は父親を止める決意をしていた。
で、そのころオーナーは
「深山君に坂上君があれほどの仲の良さか……。となると、何としても浪漫を追求するぞ。おや。祐介どうかね」
「親父。今回ばかりは分が悪すぎる。深山と坂上に僅かに見え隠れする殺気を感じなかったのか」
「たしかに感じている。だが、あのように殺気を出しているようじゃあまだまだだな」
「だが、もし、覗きが深山や坂上だけならまだしも、もし、留美や他の店の連中に嗅ぎ付けられたらオーナーである親父でもリコールされかねないぞ」
「むう……。確かにそうだが。ふふふ。だが、祐介甘いな」
「どういうことだ」
「だからこそ、意欲が涌くのだよ」
「覗くのは風呂場だけではないだろう。明日には留美がメインのイベントがある。それをみて浪漫を追求するべきだな」
「たしかにそうだな。確かに我身を破滅させてまで浪漫を追い求めることもないな……」
「明日が楽しみだな。親父よ」
「そうだな。今夜は二人のみ明かそうではないか」
「あ。それいいっすね。でも、新作の制服発表もあるからあまり深酒できないな」
「そういうことだ」
 そんなことをいいながら木ノ下親子はそれぞれの部屋に戻っていた。
 その頃直子達は……
「あ。貴子さんに朱美さんもお風呂ですか……」
「そうよん。久々に羽をのばさないとね」
「直子に、蝉代もそうなの」
「あ、おかーさん。なあこさんにせみよさんがいる」
「あれ、楓ちゃん。お母さんはどうしたのかな」
「こら。楓。すいません。駄目じゃあないはしったりしたら」
「あら。あなたは確か5号店の寮母さんだったわね」
「そうですが。貴方は……」
「あ。私は羽瀬川明美。4号店の店長してます」
「あたしは木ノ下貴子。4号店の寮の管理人をしているわ」
「わたしは山名とき子。こちらは娘の楓。よろしくおねがいしますね」
 と、まあ。自己紹介しあっていた。
「まあ、二人ともここで話し合っていても埒があかないしそれに冷えてくるよ」
「そうね。確かにそれじゃあ入りましょう」
「そうだね」
 そんな訳で私たち6人は大浴場に向うのであった。そして脱衣所では
「うーん。それにしても直子と蝉代はスタイルいいわね」
「あのー。貴子さん貴方だってなかなかのボディラインだよ。これならまだまだいけます」
「あ。なあこお姉ちゃんの背中に線が書いてある」
「こら。楓駄目じゃあない。申し訳ないです。人を指差したら駄目でしょうが」
「まあ、まあ。とき子さん別に悪気があったわけじゃあないだろうしね。これは昔、事故で怪我した傷痕だよ」
「そうでしたか」
「ほんと。この傷が無かったら多分美崎海岸のコンテストでも覇者になっていたでしょうね」
「そういえば。貴子さんも優勝者だったわね。たしか2年前には治子も優勝していたわね」
「そうね。まあ、10年以上も前の話だけれどね」
「そうか。とりあえず風呂に入りましょうよ」
「そうですね」
 そんなわけで私たちが大浴場に入るとあまりの広さにあっけに取られていた。
「うわさに聞いていたが。でかいな……」
「あら。直子さんに蝉代さん。お風呂ですか」
「あら、由佳か。あんたもお風呂にはいっていたのか」
「あたしもいるわよ」
「ボクも入っているんだワン」
「なんだ。由佳にゆあ。それにつかさちゃん。それに留美さん、歩、あずさにさやか。千尋さんまでいたのね……」
「それにしても、直ちゃん結構着痩せするタイプだったのね。胸なんかアタシよりも大きいし、おいしそうな感じね」
「ちょ、ちょっと。留美さんダメだって」
 そういいつつ留美さんは私の胸をわしづかみにして感覚を遊んでいるようだった。そんな状況を突破したのが歩の突っ込みだった。
「やめんかい」
「ありがと。助かったよ。歩」
「まったく。それにしても直子あんたも阻止すればよかったのに」
「そりゃ。阻止はできるけれど、下手して怪我させるわけにもいかないし。それに殺意も感じられなかったからね……」
「そういうことかい。まったく。直子は凄いな」
「ん。歩こそ実の店長を叩いたりして大丈夫なのか」
「まあ、だいじょうぶでしょ」
「そうか。それならいいけれど」
「いたた。は。私……」
「店長。暴走するのはかまわないけれど、直子に手だすのは愚作でっせ。直子が本気で切れたら留美さんなんかあの世に転属だよ」
「なるほどね。思わず暴走しちゃったけど。ごめんね直ちゃん」
「別にいいですよ。留美さん」
「まあ、直子に治子。それにつかさちゃんに蝉代まで。貴方達例の物は……」
「もちろん用意してありますよ。今回は得物までしっかりと用意してありますよ」
「そう。はうう。治子に直子の生コスをみれるなんて……幸せ〜」
 と、まあ。留美さんはアッチの世界に旅立っていたのをみて歩はため息をついていた。
「何、黄昏ているのよ。歩。ああいう状況になったらどうにもならない事を知っているんでしょ」
「あ、葵さん」
「あ、直子。それに治子につかさちゃんまで久しぶりね。今夜は思いっきり飲むわよ〜」
「ははは。お手柔らかにたのみますね」
「大丈夫よ。明日に響くような飲み方はしないから」
「葵ちゃんも最近は無茶しなくなったしね」
「そうか。それは楽しみだ」
 そして風呂から上がった私は鶴来屋のロビーにて意外な人物を見てしまった。
「直子……。ひさびさね」
「勇希か。久々だな。夏以来だよ……。ははは。元気そうで何より」
 そういいつつ私は勇希を抱き上げて回っていた。そしてそれを不思議そうな眼で見ていた。
「あら。治子さんに蝉代さんもお久しぶりです」
「ええ。勇希だったわね。髪の毛と背丈がずいぶん伸びたわね。もう、直子と勇希と殆ど見分けがつかなくなっちゃったわね」
「そうかな」
「そうよ」
「ああ。深山の勇希はんか。久々やな」
「ああ。木瀬さんもひさびさだね」
 そんな風に私らが思いもしない再会を楽しんでいるのを尻目に治子に質問している美春たちだった。
「ねえ。お姉さま。あの直子さんがアソコまで心を開いて接する女性はいったい。だれなのかしら」
「ん。美春大丈夫よ。あの子は直子の従姉妹だから。それも今となってはたった一人の血を分けた縁者だしね」
「もしかして、直子のご家族は」
「いないわ。そして勇希もつい最近両親にしなれているわね」
「そう……。それじゃあアタシが勝てるはずもないか……」
「じゃあ。留美ちゃんも知っていたの」
「もちろんよ。勇希ちゃんも直子と同じ境遇だったとはね……」
「たしかにそうね。勇希ちゃんは留美さんが来る前に店を辞めていたからね」
「だから。あのようなことを私に対していったのね……。楓の為に私は死ねなくなったわね」
「おや。とき子さんももしかして……」
「ええ。主人が今年の夏に海外で……」
「そうだったの。お悔やみをもうしあげます……」
「おかーさん。どうしたの」
 と、まあ、重苦しくなった雰囲気を一変させたのが楓ちゃんの一言だった。
「大丈夫よ。楓。もうすぐご飯だから着替えましょ」
「うん」
「そっか。とき子さんだったわね。私たちも一緒させてもらうわ。私もいずれは妻になるから大いに参考になるしね……」
 治子のその一言に留美は大いに驚くのであった。
「え。もしかして。治子ちゃんに彼氏いるのかしら……」
「あたりよ。留美さん」
「朱美ちゃん。冗談よね」
「残念ながら本当よ。私もあずささんもさやかも知っているわよ」
「なんと。ショックだわ……」
「あのー。留美さん大丈夫ですか……」
「はーるーこー。まさか、貴方がちゃっかりと抜け駆けするとはね……」
「そ。それって。ちょっと」
 その様子を遠巻きに見ているさやか達だったけれど。蝉代さんが留美の事を止めていた。
「ちょ。ちょっとまった。此処は非武装中立地帯だ。此処での揉め事はヤバイって。落ち着くのだ。留美さん」
「離しなさいよ。蝉代」
「離さない。少なくても治子は店長だ店長を傷物にしようとする輩は体を張って止める」
 そのやり取りを見ていた。私と勇希もまた掩護に入っていた。
「まって。まった。喧嘩駄目だよ」
「そうよ。少なくても此処では止めてよね。どうせならコレで勝負したら……」
 そう言って勇希は鞄から一升瓶を取り出していた。それを見た私は勇希に質問していた。
「あの。勇希。もしかしてコレって。酒だよね」
「そうよ。直子の土産として用意してきた能登の地酒よ。結構飲みやすくていけるわよ」
 そして、留美はその様子をみて悟ったようだ。
「要するに。どちらかが一方が先に潰れたほうが勝ちということね。私が勝ったら治子は今夜一晩アタシと付き合うというのはどうかしら」
「でも、そしたら私が勝った場合はどうするのさ」
「そうねえ。治子が勝ったら治子が私を好きにすればいいわ。それで異論はないかしら」
「いいでしょう」
「それで決まったわね。それじゃあ今夜勝負と行きましょうか」
「判ったわ。それでいいわよ」
「では。私がこの勝負の見届け人となろう。公正を期する為酒は此方で用意するけど。お互いに異論は無いわね」
「ないわよ」
「ない。蝉代頼むわね」
「ん。じゃあ。準備するから……」
 そう言って蝉代は酒を調達しにいっていた。そして治子と留美の一騎打ちが始まるのであった。
 それから20分後
「またせたわね。それじゃあ。どちらかが潰れるかギブアップを宣言した時点で勝負はつく。それでもんだいないわね」
「「もんだいないわ」」
「それじゃあ。一杯目からはじめるわよ」
 そういって。蝉代はそれぞれに酒を注いでいた。で、問題の酒であるが、スピリタスほどではないがそれでもかなりキツイ酒である。
「蝉代さん。もしかして。”メチール”じゃあないわよね」
 私がきいてみると
「直子。いくらなんでも”メチール”はつかわないわよ。あんな危険な酒なんか使ったら大変だよ。”バクダン”だよ。まあ、アルコールやら香料なんかを添加された安物ウィスキーにビールだからアルコール度数が40度以上のかなり強烈な奴だよ」
「そう。それじゃあどうなるかたのしみだね。私は勇希達と静かに飲んでいるから」
「ああ。そういうことならまあ。明日に響かない程度にしなさいよ」
「そうする」
 そう言って私たちは蝉代と別れて勇希たちと飲んでいた。そしてそれから1時間後……
「直子。手を貸してくれ。二人ともダウンした」
「わかった。で、結果は」
「ダブルノックアウトだ。勝負はドローだな。とりあえず。治子を介抱するから直子は留美さんの方を頼む」
「わかったわ。よっこらせ」
 私は留美さんを抱きかかえるとアルコールを吐かせるべく洗面所に彼女を連れていった。そしてすぐさま……
「あうう……。流石にむちゃしたわね……。助かったわ」
「危うく死ぬ所だったわよ」
「たしかにね。治子もなかなか強いわね……」
「でも、同時にKOしたからこの勝負引き分けだよ」
「むう……。もしかして直子が介抱したの」
「そうだよ。まあ、蝉代さんの指示だけれどほっといたらあの世に行きかねないからね」
「そう。直子に借りが出来ちゃったわね」
「別にいいわよ。治子さんの方も蝉代さんに対して借りが出来ちゃったしね」
「そう。はあ〜。見事に振られちゃったわね」
「でも、留美さんがいなければ私たちはコスプレとなる世界には入らなかったよ。そういう意味では留美さんは凄いよ」
「そう行ってくれると嬉しいよ。直ちゃんは今年のコスプレファイトに優勝したのよね」
「まさか。あんなところでガチのセメントマッチを体験するとはおもってもいなかったけどね。まあ、最後は僅差で勝ったけれど僅かの踏み込みの差で蝉代が勝っていたかもね。まあ、最後はお互いネイキッドでたたかったけどね」
「ネイキッドって。もしかして裸になったの」
「まさか。アンダースーツ姿になっただけだよ」
「明日も戦うのかしら」
「まあ。それが望みならば。でも、賞金の無い戦いはしたくはないね」
「留美さーん。大丈夫」
「あ。かずみちゃん大丈夫でもないわね……。ごめん調子に乗って治子と思いっきり飲んじゃったから……。私は今回は此処で休むわ」
「そうだね。明日が楽しみだよ」
「うん」
 そう言って自力でなんとか歩ける程度に回復していた留美と治子はそれぞれ部屋へと消えていった。
 そして残った私と蝉代は……
「あんたは誰だ。私深山直子。君は」
「ん。ボクは姫川かずみだよ。3号店に勤務しているよ。蝉代となかよしなんだ」
「あ。かずみさん。久々ですね。衣装つくりの手ほどきたすかりましたよ」
「そうね。でも、まさか蝉代が洋裁に手馴れていたから教えやすかったよ。それにボクの秘密を知ってしまったからね……」
「まあ、別に他言しようとしないので。ところでかずみさんも明日参加するんですか」
「そうだよ」
「そうですか。では明日に響くといけないのでこのあたりでお開きにしますか」
「そうだね。では明日のために”乾杯”」
「乾杯」
 そう言ってかずみと蝉代の二人はお互いに注いだ酒を飲み干してグラスを置いた。
「勇希。あんたこれからどうするつもり酒を飲んじゃっているから車は無理だしね……」
「ん。もうじき疾風が迎えに来るから」
「そうか。ならば見送ろう」
「ん。なんやあ。疾風が来るんかい。ならウチも見送ってやろう。勇希と疾風のラブラブぶりをみてやらんとな……」
 そう言って歩は豪快に笑いながら一升瓶の中身をのんでいた。
 そしてロビーにて
「あ。疾風」
「おう。勇希遅かったな。どうだった直子との邂逅は」
「楽しかったよ」
「そうか。直子。それに歩。また会おう」
「あ。そうだ。疾風、勇希。あんた達に一言言っておくわよ。付き合うのはいいけれど避妊だけはしっかりしなさいよ。この年齢でおばさんなんてしゃれにならないしね」
「それをいうなら直子もね」
「そうだね。じゃあ。またね。そうだ。勇希たちは年末年始はどうするつもり」
「そうね。とりあえず。疾風のところで世話になろうかしら。直子は」
「ん。今の所蝉代さんと一緒に島神に行って出雲、多賀、伊勢、熱田とまあ、神社を梯子するつもりだよ」
「そう。まあ、無理するなよ」
「ああ。お互いにね……」
 そう言って私たちは勇希と別れた。まあ、生きていればまた何処かで出会う事になろうね。
「さて、それじゃあ明日も早いし寝ておかないと明日がきつくなるしね」
「そうやな。ほな。お休みやな。直子」
「ええ」
 そんな訳で私たちもまた明日の会議とイベントに多少の期待と不安を抱えながら私もまた眠りに着くのであった。


(続く)

あとがき
 どうも、霜月天馬です。今回はこの物語の歴史と世界観をいくつか解説をば……。
 基本的には我々とほぼ同じような世界ですが、まあ、第一次世界大戦から若干変更があったせかいですね。
 日英同盟を堅持し、アメリカはドイツと手を組んで戦争することとなる。日本もまたイギリスに機動部隊と新設された空軍部隊を
 送って戦ったバトルオブブリテンを何とかしのぐ事は出来た。そしてアメリカが日本に対して喧嘩を仕掛けてくることになる。
 マーシャル侵攻である。日本は既にマーシャルから撤退しトラック環礁を拠点に潜水艦、航空機、機動部隊による。ゲリラ戦を
 行ない。アメリカをジリジリと攻撃していた。そしてそのころヨーロッパではイギリスとドイツが単独講和に成功し、ドイツはイギリスと
 共に共産主義を討つという名目でソビエトに侵攻することとなる。そして大西洋では散々悩まされたドイツのUボートが今度はアメリカ
 の商船団に襲い掛かる事になった。特にパナマ運河へのルートを徹底的に襲い掛かり、一ヶ月で4550万トンの船を喪失することに成功
 した。そのため日本の負担がかなりへることになったが、補給が続かず日本は戦線を縮小し続けた。そして1944年の8月にスターリン
 がモスクワで戦死したのをキッカケにソビエトは崩壊した。そしてウクライナなどの東欧はロシアとの緩衝地帯として生き残り
 ドイツは大発展することになる。
 そして、日本もハワイ沖での海戦の後、中立国の仲介で講和が結ばれ戦争の季節は終わりを告げることになる。その裏には
 アメリカ大統領の急死が絡んでいる。そして1944年12月に停戦が成立。1945年4月に講和文章に調印し講和が成立したのであった。
 その講和内容は満州と朝鮮半島は独立。ミクロネシア、台湾、マーシャル諸島に関しては独立するか日本に残るかを連合軍の監視の下選挙が行われたが
 結果は9対1で日本残留を選択している。その結果を見てアメリカは大いに頭を抱える羽目になった……。
 そして東南アジアに関しては独立が承認されることになった。一方中国では日本が居なくなったため再び国内が分裂状態に陥り、
 内戦が再発日本は余剰武器弾薬を両陣営に輸出しそれをキッカケに急成長する事になる。
 航空機の開発を止められていなかった為、日本は1947年の9月特殊実験機”桜花”は世界初の超音速飛行に成功しアメリカを悔しがらせる事になる。
 そのニュースは即座に世界中に配信され公式に認可されている。そして日本はロケットの開発も進んでいた。1961年に日本初の人工衛星”おおすみ”の打ち上げに成功。
 その後、アメリカとドイツの月への宇宙開発競争には参加せず、日本は観測衛星や気象衛星等の打ち上げに専念していた。
 1990年代に独自の宇宙ステーション”みずほ”の組み立てを開始。それは2000年代の今でもモジュールを増設しながら
 成長を続けており、現在は国際ステーションと名称を変えたが基本的なフレームは変わっていない。
 いまでは日本、ドイツ、アメリカ、カナダ、フランスなどの宇宙飛行士10名が宇宙で実験などを行っている。
 なお、世界の衛星打ち上げビジネスのシェアの3割を占めるほどに成長している。無論今まで手がけた商業衛星の打ち上げ
 に失敗したのは皆無である。ただし軌道上に載せられずに失敗した例はあるが……。
 そして、1990年代には最大30トンの貨物を静止衛星軌道に打ち上げる能力を持った往復船が実用化されステーションの補給や増築資材運搬に大活躍している。
 なお、日本は核兵器はあるが地理的にも大陸間弾道弾は保有しておらず。核戦力は伊5000級戦略原潜に搭載されている
 潜水艦弾道弾が主力であったがそれも撤去して水中発射弾道弾型に改良しているので現在は2隻のみが核戦力のすべてである。
 そして海上防衛の要は7万トン級空母4隻を機軸とした機動部隊が主力である。、空軍もまた独自で開発した国産戦闘機を配備している。
 日本は大戦後はある程度は陸上兵力や空母を派遣したが侵略が目的での参加はなかった。
 戦後、沖縄にて日本航空宇宙開発事業団が沖縄の金武湾に基地を作り、そこで組み立てと打ち上げも行われているが
 規模が限界に達しつつある為トラック環礁に新たな基地を建設中である。そこでは新型のスペースプレーン発射用
 リニアレールなども建設されつつある。
 なお、沖縄に関しては規模は縮小されるが試作機や新型エンジンなどの実験場として活躍をよていしている。


管理人のコメント


 宿に着いた一行。素直にガールズトークやってれば平和なんですが、そういうノリじゃないからなぁ、ここの子達は。
 
>「もしかして、二人で”やらないか”の相談かね」

 オーナー何言ってんですか(笑)。


>「たしかに感じている。だが、あのように殺気を出しているようじゃあまだまだだな」

 流石の余裕ぶり。ちなみにPiaキャロのオーナー、アロハキングこと木ノ下貴男氏は「範馬勇次郎くらい強い」という公式設定があります。めったに出てきませんけど。


>”バクダン”だよ。

 お前どこで買ってきたそれ……戦後の闇市か?


>この物語の歴史と世界観をいくつか解説をば

 知らなかった……こんなハードな世界観だったのか。これ、原作のゲームのどれかの話だったりするんですかね。

 今回はちょっと大人しめの話でしたが、旅行はまだまだ続きます。


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