翼持つものたちの夢

霜月天馬

第二部 24話 〜温泉パニック 前編その2〜


Piaキャロット5号店 0600
「みんなおはよう。朝早くだけれど参加者は全員到着しているかしら」
「大丈夫です。皆来ています。点呼確認も問題ありません」
「それじゃあ。美森と文華とつかさちゃんは私と純一君の方に乗って。由佳、ゆあ、とき子さんに楓ちゃんは蝉代の方に乗ってね。それじゃあ蝉代さん直ちゃんたのむわね」
「わかりました。隆山温泉でしたね。それも全線高速で移動して良いから凄く楽だよ」
「たしかにそうだな。皆の荷物の積み込みとラッシングも確認してあるからいつでも問題なしだよ」
「そう。ああ。直ちゃんこれ」
 そう言って治子さんからヘッドフォンを渡された。
「これは」
「イヤホンマイク。運転中でも携帯電話での通話が可能になるわ。電話のジャックに繋いでいてね」
「わかった」
 そんなわけで私は即座に電話のイヤホンジャックにすぐさま繋いた。そして
「それじゃあ準備ができたわね行くよ」
「「「「「「「「「「「はーい」」」」」」」」」」」
 そんな訳で私たちはそれぞれ車に乗り込み一路隆山温泉をめざすのであった。
 一方そのころ4号店では

Piaキャロット4号店 0600
「みんな揃っているわね」
「はい。店長。点呼確認済みです」
「そう。それじゃあ貴子さんお願いできますか」
「いいわよ」
「げっ。叔母さんの運転かよ。俺いきて目的地までたどりつけれるかな……」
「ちょっと昇。それどういうことかしら……」
「いたた。貴子さんギブギブ……」
「あの〜。貴子さん昇さんが死んでしまいますから止めて」
「ナナちゃん助かったよ」
「うーん。昇にもナナちゃんという恋人か羨ましいわね〜」
「姉さんも楽しそうだね」
「もちろんよ。だって治子さんに会えるしそれに直子とまた飲みあかせると思えばね……」
「治子さんには一度会ったことがあるけれど、直子さんという人にはまだ会ったことがないからな。あの姉さんがここまで心酔するような人間か僕もいちどあって話をしてみたいものだよ」
「こらー。美春、晴彦。二人とも早く来なさい。おいてっちゃうわよ」
「「はーい。ごめん」」
 そんなわけで4号店一行もまた9人乗りのミニバンで一路隆山温泉をめざしてひたすら走るのであった。

そして3号店の皆さんは……


天翼駅  0650
「みんな集まったわね。いよいよ研修旅行がはじまるわよ。まあ、いうまでもないけれど一般客に迷惑をかけないようにね。それではとりあえず藤川まで行くわよ。そこから乗り換えだから勝手な行動は謹んでね。それじゃあ葵さんお願いね」
「ハイハイ。それじゃあみんな思いっきり命の洗濯しなさいよ〜」
「ウチも気合が入るよ。直子と再会するとなるとたのしみや」
「そうね。それじゃあいきましょ」
「温泉か思いっきり楽しませてもらいやしょ。葵さんの姿をお目にかかれるなら俺は……ふふふ」
 と、まあ。気合の抜けると言おうか入るのかわからないが留美さん率いる3号店の連中もまた列車で隆山温泉へと向かうのであった。


東京駅 八重洲中央改札前 0850
 2号店、本店の皆さんはというと……
「深山さんと再び合間見えるか手際のよさは非の打ち所が無いくらいに完璧だったしね。それでいて腕っ節も強いからね」
「お姉ちゃんは深山さんにこだわっているわね〜」
「当然よ。麗しの治子をそそのかして男なんかにうりとばすなんて……」
「それで横恋慕かよ。それこそみっともないぜ。日野森」
「真士あんたにいわれたくないわよ」
「まあ、まあ。二人とも落ち着いて。こんなところでけんかしても意味無いわよ」
「そうだな。ありがと。神楽坂よ」
「やれやれ、真士も治子ラブじゃあなかったのかしら。治子がなげくわね」
「それはすでに解決済みだ。この前治子とであってな。あいつ”恋人であるマネージャーが好きだって”いわれて見事に玉砕さ」
「ふーん」
「おねえちゃん。そろそろ行かないとやばいよ」
「真治さーん。潤さーん。あずささーん。何処〜」
「これは急がないとやばそうね」
「そうだな。走るぞ潤」
「おっけ」
 と、いうわけで脱兎のごとく走り出した二人である。そして出遅れたあずさは……
「あ、ちょっと待ちなさーい」
 と、まあかなりいい感じである。
 そして本店の連中は……
「むう。仲良きことはすばらしきかな。だな」
「オーナー。そんな暢気なことで良いんですか」
「青いぞ。充。男のロマンをかんじられないかね〜」
「オーナー、祐介さん。今回の旅行で女湯をのぞきなんかしたら確実に痛い目にあいますよ。これだけは釘を刺しておきます」
「「なぜかね。聞きたいな充」」
「それは……。深山と坂上に見つかったら確実に腕の一本は覚悟しておいたほうが良いでしょうね。彼女は自らを害するものに対しては情け容赦はしませんから。すくなくても自分は弁護できません」
「そうかね。だが、誇張ではないかな……」
「そうですか……。オーナー自分は忠告はしました。後はあなたの判断に任せますが、後で後悔することのないようにしてくださいね。自分もあなたの葬儀なんて見たくはありませんから」
「そうか……。ならば忠告に従うことにしよう」
「おやじ。俺も男のロマンを求めたいが、妻もいる身だから俺も辞退しておくぜ」
「それが賢明な判断です」
 と、まあ、オーナーと2号店の店長は本店マネージャーから忠告を受けていた。もっとも、これを無視したオーナーはひどい目にあうこととなる。
「あの……。そろそろホームに行かないと出発の時刻に間に合いませんよ」
「そうだな。ではわれわれも行こうではないか」
「そうだな」
 と、まあ、オーナーたちもまた列車に乗り込むべく新幹線のホームへと向かっていた。
「直子には感謝しないとね。充」
「そうだな。きっかけを作ってくれた事だからな……」
「そうね。あたしも彼女とは生死をかけたやり取りをした仲だからね」
「そういう意味では直子は仲を取り持つ天使なのかもね。さやか」
「たしかに、でも、どちらかというと黒翼の天使という感じかしらね」
「黒翼の天使か確かにそうかもしれないわね。でも、それって何者にも犯されない絶対的な意思を持つ天使ということになるわね。もしくはすでに堕落したのか……」
「むしろ前者の方だろうな」
「あたしもそう思う。直子さんは自らと自らの身の回りの友を害する連中に対しては本当に情け容赦はしないから……あたしが身をもって経験したしね」
「なに、高井よ。直子と喧嘩したのか良くまあ、生きていられたな」
「マネージャーどういうこと」
「それはな……。っとここでは何だ。詳しい話は列車の中でしよう」
「そうね」
 と、いうわけで1、2号店の連中は同じ列車にて移動となった。そしてそれぞれの思惑を持ちつつPiaグループの連中は一路隆山温泉をめざすのであった。


1220 北陸自動車道不動寺パーキング
「うーん。きつかった〜。さすがに給油以外ノンストップでここまできたのはきつかったね〜」
「お疲れ直子。後は私が運転しよう。燃料はどうなっている」
「燃料はタンク半分を切ったくらいだから十分入っているよ。上越で給油しておいたからまだ十分走れるよ。鶴来屋まで給油なしでいけるからあんしんして。さすがに藤が咲から連続運転はつかれたよ」
「確かにな。治子さんたちはどうしたかな」
「多分かなり後方にいると思う。思いっきりとばしたからね」
「まあ、私たちはとにかく休まずにひたすら走ったからね」
「とき子さん楓ちゃんはどうかな」
「あ、大丈夫。今はぐっすり寝ているわ」
「ふにゃあ……。単車で平均110前後でかっ飛ばしたことはあったけれど。車は車で怖いね」
「たしかに……。深山さん一体何キロぐらいでとばしたのよ」
「たしか。120前後で巡航してたね。まあ、オービスに引っかからないように注意したけれどね」
「以外に早いのね……」
「まあ、状況を確認しすばやく進路変更をスムーズにして的確な判断をすれば誰でも早く走れるよ」
「そうだな。直子。後は私が運転しよう」
「判った。蝉代さんあとはお願いね。ここを出て直ぐのインターを降りてバイパスにのればすぐに能登の有料道路にから隆山温泉までおよそ2時間弱のきょりだから」
「わかったわ。それじゃあいくわよ」
「「「「おっけー」」」」
 と、まあ、私たちは再び鶴来屋に向けてくるまを走らせたのであった。
 そしてそこから30キロ程後方では……
「すっかり、深山さんたちとはぐれてしまいましたね」
「ほんとうに、直子のドラテクはすごいわね。でも、純一君もむりしないでね」
「ええ。それは大丈夫なんですが妙な車が一台食いついているんですよね。店いや。治子さんバックミラーから後ろを見てください。そっと」
「ええ。これは……」
「そういうこと。どうやら4号店の連中が乗っているようですね。それも意図的にスリップストリームをやらかして燃費を稼ごうという算段で走っているようです。振り切りますか」
「いいわ。ところで燃料はだいじょうぶかしら」
「そうですね。まだ燃料は大丈夫ですね。とにかくペースをあげますよ」
「うん。おねがいね。」
「治子さん。っと、そうだ直子に電話すれば良かったんだ。治子さん電話をお願いできますかね」
「もちろんいいわよ」
 そんなこんなで治子は直子に電話をしていた。どうやら直子たちはすでに森本をすぎて能登有料への連絡道路を快走中という報告だった
 それをきいた純一君は……
「あらら〜。直子さんと蝉代さん一体平均どれくらいでぶっ飛ばしているんだ。平均120くらい出しているんじゃあないかな」
「多分そうね。私達が平均速度100くらいだからそれじゃああっという間に離されちゃうのもむりないわね。とりあえず直子たちを追撃するわよ。みんなもそれでいいわね」
「「「「いいですよ」」」」
 そんなこんなで2台は直子の追撃に移っていた。
 
 そのころ鉄道組は……
「ようやく金沢駅に到着したわね」
「で、これからまだ、七尾線に乗り換えて移動だからね……」
「つくづく北陸って首都圏からだと辺境の土地になるわね」
「文句は政治家に言ってくれ」
「そうなるわね。って。あら、留美さん……」
「あらら。千尋ちゃんに、充、それにお兄ちゃん……偶然ね」
「まあ、隆山にいくならここが中継駅だから出会うのは当然だ」
「そうね。うーん。次の列車の接続は何時かしら」
 と、留美。その答えに充が答える。
「あと、10後に4番線に七尾行きの普通列車が発車するからいまから行った方が無難でしょう。4番線は駅の中でもかなり外側にありますので」
「充。あなた何時の間にそんなことを憶えたのかしら」
「簡単さ。時刻表を読破して憶えた……」
「そう。それじゃあ急ぎましょ。七尾行きの列車は一時間に2本しか出ないから。直子たちの方が先行している可能性があるわね」
「確かにそうだろうな。だが、いかんせん。各駅停車の列車だ七尾までは一時間以上は掛かるがとにかくいそごう」
 そんなわけでオーナー以下Piaの1,2,3号店の面子は同じ列車に乗り合わせる事となった。そこで、お互いのことを知り合うまたとない好機となっていた。そして……

 それぞれ皆が目的地の鶴来屋に到着したのはその日の1420だった。
「うーん。さすがに日本一の宿に選ばれただけのことはあるね」
「まったくだな。それにさすがに冬の北陸は冷える上に湿気が多くて雲がおおいな」
「楓ちゃん寒くないか」
「一寸寒い……」
「そうか。ならこれをつけて」
 そういって私は楓ちゃんを銀色シートに包ませてあげた。
「これは」
「非常用の保温シート。とりあえずこれをマントのように包まれば寒さはかなりしのげるよ」
「直ちゃん。早かったわね」
「ああ。治子さん。私達の方が早かったしね。それに貴子さんに朱美さん、それに美春まで久しぶりだね」
「上越あたりで合流したのよ。とりあえず中でオーナーたちを待ちましょ」
「そうですね。ここにいたら私達はともかく楓ちゃんが風邪を引いちゃうしね」
「そうね」
 そんなわけで私達は鶴来屋のロビーでオーナー達が来るのを待つことにした。そして待つこと10分……
「さすがにすごいわね……。あら。直子に治子さん……」
「おや。千尋さんそれに充。さやかもひさしぶりだね」
「そうだな。深山お前には感謝している。とりあえず今回は思い切りたのしもうではないか」
「そうだね。充。あんたもずいぶん逞しくなったね。さすがに”男子三日会わなければ”だね」
「まあな」
「やっほー。直子ひさびさやな」
「歩に信君。それに留美店長。ひさしぶりです。例の衣装はしっかり用意しましたので安心してくださいね」
 で、私が充や3号店の連中と再会を祝っているころ治子さんと蝉代の方は……。
「治子〜。久々だな」
「あ、真士。ひさしぶりだね。元気そうで何よりだ。ところで、そこの女の子は新人?」
 治子の問いに真士以下二号店の皆は笑いを浮かべていた。
「やっぱり。治子もきっちりと騙されたわね。このこは神楽坂君よ」
 あずさの答えに治子は思いっきり驚愕していた。当然だろう、男だと思っていた人間が実は女だったのだからね……。
「もっとも、直子は神楽坂さんの正体を一発で見抜いていたけれどね」
 それを聞いた治子は
「なるほどね……。いやはや。あたしも見事に騙されたよ」
「その……」
「いいわよ。別に。たんに驚いただけだから」
「ん。あなたもしかして、夏にあわなかったかしら」
「ああ。会ったよ。日野森あずさだったね。治子の彼氏を侮辱して直子に一発喰らった女だな」
「なんかいやな覚え方ね。でも、まさか貴方も同じ店の人間だったとはね……」
「そういうことだな。もっとも本店勤務から千尋さんの入れ替わりで5号店に移ったから貴方達に面識がなかったのも無理は無いだろうな」
 そんなことをしているとさやかも治子さんを目ざとく見つけて挨拶をしていた。
「治子さん。おひさしぶりです」
「ええ。夏以来ね。あなたも元気そうでよかった」
「そうですね。深山さんも来ているのですか……」
「来ているわよ。直ちゃんなら今留美さんたちと話をしているわね」
「そうですか。ではまた……」
 そんなこんなでPiaキャロット全員が集合した鶴来屋でこれからおころうとする乱痴気騒ぎにワクテカしている私達であった。

(続く)

管理人のコメント

 ということで始まりました、研修旅行……どう見ても普通の社員旅行です。本当に(略)
 
>「げっ。叔母さんの運転かよ。俺いきて目的地までたどりつけれるかな……」
>「ちょっと昇。それどういうことかしら……」


 運転以前に余計な一言で命を縮める男、昇。
 
 

>今回の旅行で女湯をのぞきなんかしたら確実に痛い目にあいますよ。

 実はPiaキャロのオーナー(木ノ下泰夫)には範馬勇次郎や江田島平八と互角に戦えるという裏設定があります。まぁ、この世界線ではそう言う設定ではないということなのでしょう。
 
 
>北陸自動車道不動寺パーキング

 調べてみると、東京から500km近い場所なんですね。そりゃ疲れるわ。
 
 
>それも意図的にスリップストリームをやらかして燃費を稼ごうという算段で走っているようです。振り切りますか

 仲間なんだから振り切るなよ(笑)。


 しかし、シリーズも増えると主要メンバーだけでも相当な人数になりますね……これだけ人数が集まるとトラブルもでかくなりそうです。



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