翼持つものたちの夢

霜月天馬

第二部 23話〜温泉パニック 前編その1〜



「ありがとうございました」
「ふう。これで全てのお客が引けたね」
「そうだね。それにしてもフルはやっぱり最後はダレてしまうよ」
「たしかにそうね。でも、つかさちゃんも昔取った杵柄というかすぐさま勘をとりもどしていたみたいだから後は体力だね」
「そうね」
「こらー。つかさちゃんに直ちゃん。口を動かさずに手をうごかしなさい」
 治子さんの雷をきいて私とつかさちゃんの二人は即座に仕事を再開した。
「ドジだな。直子」
「確かにどじったね。まあ、これが終わったらスタッフ会議だからね。どんな内容なのかな」
「確かに気になる」
「でしょ。まあ。とにかくさっさと仕事をしなきゃね」
 そんなわけで私たちは閉店作業を手早く済ませて会議の席上にたどりつくと。其処には調理スタッフ達も席についていた。
「どうやら。全員席に着いたようね。それじゃあ純一君進行をお願い」
「判りました。では、これから定例ミーティングを開始します」
 そして、純一君の進行で会議はいつもどおり進んでいた。フェアの売り上げ集計の結果やお客の要望点や改良すべき点などの話し合いであったがそれなりに進んでいた。そして会議もいよいよ終盤に差し掛かろうとしていた。
「さて、最後になるが最後は冬の定例研修会についての議題だ。要するに年末に向けて忙しくなる前にPiaグループの皆でドンちゃん騒ぎをしようということだ。オーナー以下Piaの従業員全員参加が原則だが、参加しなくても別にペナルティは無い事を教えておく。なにか質問は無いか」
 純一君の問いに私は無言で挙手をしていた。
「その旅行の具体的な日程と場所を知りたいのですが」
「そうか。場所は隆山温泉だ。宿は「鶴来屋」だ。まあ、部屋のグレードは大分下のクラスになるがな。そして日程は12月の頭を予定してる。本店、2号、3号、4号、5号店の主だったスタッフは参加するとのことだ。深山のなじみと会う機会と思う」
 純一君の答えを聞いた私は直肯いていた。
「そうですか。判りました」
「私も質問がある」
「なにかな。坂上さん」
「ああ。直子に関連してだが、其処までの移動手段は何かしら。各自で移動かしらそれとも何処かに集合してバスで行くのかそれとも列車で移動なのかしら」
「とりあえず店単位で移動になる。我々は車で移動になる。まあ、運転できる人間には頑張ってもらうことになるが我慢してくれ。他に質問はないか」
 そしてしばしの沈黙の後に純一君は解散の宣言をして今回の会議は無事に閉会とあいなった。
 そして会議の直後私と蝉代とつかさ、美森の4人が治子さんに呼び止められていた。
「単刀直入に言うわね。久我原さんあなた車は運転できるかしら」
「すいません持っていないです。今、取得作業中なので間に合いません」
「そう。判ったわ。つかさちゃんはどうかしら」
「ん。ボクは2輪は排気量無制限だけど4輪は持っていない」
「そう。となると私と蝉代と直子と純一君にがんばってもらうしかないわね」
 治子さんの問いに私は疑問の声をあげていた。
「あれ、純一君何時の間に免許を取ったの」
 私の問いに彼は平然と答えていた。
「ん。この店に入る前に4輪は取ったけれど2輪は持っていなかった。それで夏の時は後ろに乗る事になった」
「寮の駐車場にジムニーが止まっているけれど。あれはもしかして純一君が買ったの」
「そうだ。給料を溜めてようやく手に入れた。MTだったせいか買い手が無く格安で入手できた。それでも70万はしたがな」
「そうか。となると運転手の要員は一人確定したね」
「そうね。そうなると運転できるフロア要員は4名。料理長以下調理スタッフも参加するって言っていたけれどあの人たちは独自で動くっていっていたからね」
「問題は車両をどうするかですね。私も蝉代も単車はともかく車は持っていないわよ。どこかでミニバンを借りるにしても11人だから一台ではきついわね。私も大型は持っていないしね」
「蝉代はもっているのかしら」
「一応、大型も大特も牽引も持っているが、ここはやはりまとめていくよりか2台で分割した方が効率が良いと思う」
「そうね。ではその線でどうにかしましょう」
「では、自分が車などの手配をしますので」
「じゃあ。お願いね。純一君」
「ええ」
 そんな訳で会議は自然消滅的に散会とあいなった。そして帰り道・・・。
「温泉か去年の事を思い出すな」
「そういえば去年、蝉代は親父っさんと小母様と一緒に龍神温泉にいったんだったね」
「ああ。留守番をしてもよかったのだが、疾風が金を出すからって言われて親父さんと一緒に引っ張られた。まあ、そこで凄い経験をしたしな。私の能力で人を助けることも出来たしな。いまごろあの子供はどうしているかわからんが少なくても無事に生きていてもらいたいね」
「そう。私はそのとき3号店で仕事をしていたし、そこで恋人とも楽しくすごせた。疾風と勇希にはあの時感謝しないと駄目だな」
「ところで直子よ。隆山温泉となると北へ30キロいけば勇希と疾風が修行している隆山空港がある。もし時間に余裕があれば会いに行ってもいいかもしれないな」
「勇希と疾風もまた私たちとは違うけれど空に関る仕事を選んだしね」
「そうだな。そう考えると深山。お前達姉妹は空に関るのが宿命なのかもしれないな。実の父親を空で死んでもなおも直子は空を目指すか・・・」
「まあ、蝉代さんには言ってないけれど、私の祖母は大戦時にパイロットをしていた。そして戦後人類初の音速突破した人間だしね。かのチャックイエーガーとはタッチの差だったらしい。私が幼い頃にそんな話をしてくれていたよ。もっともその祖母も父が行方不明になったその数日後に天寿を迎えたけれどね・・・」
「そうか。すまん。傷を抉るような真似をしちまったかな」
「いや。それは大丈夫だよ。でも、考えてみれば蝉代さんの方がある意味漂泊の宿命を持っていることになるね。だって年を取らないとなると住人は必ず怪しむからね」
「確かにそうだな。国を守る為に特殊兵に志願した。その事実と意思と結果について後悔はしていない。それに私自身も空の魅力に取り付かれたようだしね」
「そうか。蝉代さんも空の魅力に惹かれたわけね。それはそうと親父っさんから聞いたけど、島神に叔父がいるんだってね。せめて正月に叔父孝行してやったほうがいいんじゃないかしら」
「たしかにそうかもしれんな。まあ私の分身、複製身のほうが元よりも年を取ってしまったけどせめて一度くらいは孝行した方がいいかもしれないな。直子よかったら正月休み一緒に島神にいくか」
 蝉代の問いに私は素直に肯いていた。
「そうね。確かにそれも良いかもしれないわね。島神なら出雲大社があるから初詣に丁度良いしね。帰り道の途中で多賀、伊勢、熱田と神社めぐりしても良いね」
「そうね。それじゃあ一緒に行こうか」
「そうしましょそうしましょ」
 そんな訳で私たち二人はこれから始まる楽しいイベントに心を馳せつつ寮への家路を急ぐのであった。
 そして数日後・・・
「いよいよ翌日出発か。楽しみだよ」
「たしかにそうだな。それにしても朱美さんたちと再びであうことになるな。あと、何でも我々と治子さん、つかさちゃんに依頼がある」
「もしかして留美さんからの依頼かな」
「その通り。なんでも、夏のコスプレファイトの姿を生で見たいから衣装を持って来いって言っていた。もちろん4号店の連中やさやかもやるようだな。写真機で納めた姿だけでは満足できないみたいだって」
 蝉代の言葉に私は肯いていた。
「判った。そういうことなら用意しておこう。ところで蝉代さんそのことは治子さんたちには言ってあるのかしら」
「ああ。もちろんだ。と、いうよりも治子さん経由でこの話が舞い込んできたからな」
「そうか。それは楽しみだな」
「そうだな」
 そんな訳で私たちは出発準備を着々とすすめるのであった。その頃4号店の皆さんは
「治子ちゃんと直子ちゃんに蝉代ちゃんが来るし楽しみね・・・。それにしてもあの衣装に再び袖を通す事になるなんてね。まあ、留美先輩の命ならば仕方ないわね」
「店長。こちらも準備完了しました。いよいよですね。直子さんや治子お姉さまに会えるのが楽しみですよ」
「そう。有難う美春ちゃん。ところで、話は変わるけれど留美先輩からの要請で夏の衣装を持ってきてほしいみたいね」
「もしかして、直子さんと一緒に来たコスプレ衣装をもって来いということですか」
「その通り」
「貴子さんもさんかするのかしら」
「するみたいね。また直子と飲み交わすとなると思うと楽しみね」
「そうですね。直子さんと蝉代さんの二人とは最初で最後の会合になるからあたしも気合が入るわ」
「そうね。直子と蝉代の二人はパイロットを目指すとか言っていたし、美春はどうするのかしら私としては此処にとどまってくれるのが嬉しいけれど直子の後を追いかけたとしても私は反対はしないわ」
「それは・・・。朱美さん私は此処にとどまりますよ。確かに動機は治子お姉さまラブでこの道を選びましたがたとえこの恋が敗れたとしても私は治子さんに関っていく道を選びますよ。まあ、直子さんには夏の借りを返さないと駄目だしね。もし介抱していなかったら私死んでいたしね・・・」
 そんな状況であったそのころ3号店では
「直子と会うのか楽しみやな。まあ、見違えるようになっているやろうな」
「確かにそうね。はう〜。それにしても治子に直子、つかさちゃん達のコスプレ姿が生でみれるとなると気合が入るわね」
「店長。店長とかずみはんがコスプレするのはわかりますがなぜウチや葵マネージャーまで巻き添えにするんです」
「えー。だってどうせならみんなでやらないとね。歩はいやなのかしら」
「いや。ウチは別に嫌では無いね。それにしても店長とかずみさんって公私ともに仲良しでいいなあ。直子もどうしているのかとても楽しみや」
「それじゃあ衣装をそれぞれ準備もすんだし。明日が楽しみね。それとかずみちゃん有難うね」
「ううん。ボクも新たな衣装を作る事が出来て楽しかったよ。それに蝉代ちゃんの黄忠を再び拝めると思うと意匠と製作の手ほどきをした甲斐があるしね」
「確かに、治子ちゃんがぞっこんになっている直子と言う娘が作った服も見てみたいしね」
「まあ、直子の洋裁のうでがいいのはウチも認めるよ。だってウチが高校の時に学園祭の模擬店の衣装を直子と勇希の二人で一クラス分を3日で作り上げたって聞いているからね。まあ、2〜3日持てばいいような服だから縫製とかかなり簡略に作っていたって聞いていたけれどね」
「そう。とにかく一度会って話をしてみたいわね」
「直子と会うのはひさしぶりだな。ま、俺は葵さんと一緒に仕事ができるならそれで十分だな」
「信くんはあいかわらず欲がないのね」
「まあ、性分ですから。それに直子の姿を俺も人目拝みたいからね・・・」
「そうやな。できるなら直子とは酌み交わしながらいろいろ話をしたいもんや」
「そうね。それじゃあ明日が出発だから遅れないでね」
「「「「「「はーい」」」」」」
 と、まあ。留美さん率いる三号店もこのような調子であった。なお、彼女達の衣装は恋姫バサラの孫策、周愉、黄蓋、陸孫という衣装である。
「ふふふ。桜花ちゃんが居なくなったのは痛いけれどそれでも私たちの実力をみせてあげるわ・・・」
「そうですね。でも、留美さんの孫策はカッコいいですよ」
「そういうかずみちゃんの周愉もなかなかの出来だよ」
「でも、まさかあたしまでもやるとはね。恋姫バサラの黄蓋か嫌いじゃあないから嬉しいよ。留美さんありがとね〜」
「ウチが陸孫か・・・。まあ、恋姫バサラは知っているし嫌いやないから嬉しいな。そして直子が関羽、治子さんが馬超か楽しみやで」
「俺も店長や葵さんの勇士をこの目とカメラにしっかりと記録するぞ〜」

 そんな感じであった。

 一方本店の方では・・・
「直子がコスプレとなるものをやるのね。私もやるわ。この恋姫バサラの”厳顔”の衣装で行くわよ」
「千尋さんは直子達と一緒に仕事をしていたのでしたね。私も治子さんとともにやるわ」
「さやかは”華雄”の衣装なんだ。でも、不思議な縁だね。あたしもさやかも直子や治子さんに世話になっていたなんてね」
「そうですね」
「二人とも準備はいいのかあしたは出発だぞ。忘れ物するなよ」
「「はーい。マネージャー」」
 と、まあ、千尋さんとさやかは妙に息の合ったコンビである・・・。
 そして一方二号店では
「治子も直子もコスプレするのかこれはぜひとも写真機に納めねば男が廃る・・・」
「慎二あんたも好きだね。ボクもやるよ・・・」
「それにしても神楽坂お前がまさか女だったとはな。俺も見事にだまされていたぞ。もしかして神楽坂もやるのかコスを」
「うん。深山さんから作り方のレシピと素材それにボクが女の子だって事を見抜いていたっていう手紙を貰ったよ。やっぱりボクは演劇の才能が無いのかな〜」
「いや。深山が凄いだけだ。あいつは俺達とは比べ物にならないほどの修羅場を潜り抜けたんだろうな。神楽坂よ安心しな。お前は俺がまもってやるからな」
「ありがと〜。ボクも治子さんたちと一緒にやるよ」
「俺もコスをやるぜ。俺は恋姫バサラではなくて”モンスターハンティング”に登場するギザミシリーズを装備した男ガンナーバージョンのコスだがな。ついでに潤や直子たちのすがたをこのニコンに収めるぞ」
「ほほう。ニコンとはなかなか渋い趣味だな」
「店長」
「いやいや。俺も昔はやったものさ。それにしても今時デジタルではなくて35ミリフィルムの一眼レフカメラを使う人間がいるのか・・・」
「店長。俺のこだわりっす。デジタルも悪くはないんですが個人的に35ミリの一眼レフカメラの方がしっくりくるから使っているだけっす」
「そうなのか。とにかくふたりともがんばれよ。日野森たちも参加するから勢いに飲まれるんじゃあないぞ」
「「はい」」
 と、まあラブラブな空気にあてられたのか店長は去っていったが二人は店長がいなくなったことにも気づいていない様子である。
 そしてそれを横目で・・・。
「くっ。私だって恋に破れたかもしれないけれど治子にはまけないわ。それに直子にはもっと負けたくないわね」
「お姉ちゃん。まだ治子さんのことを引きずっているのね。でも、お姉ちゃん私もコスプレをするわ」
「治子お姉さまがコスプレか私だって・・・」
「みーなにともみ貴方達もやるのね。でも、アタシだって負けはしないわよ。直子にかなわないまでもせめて強力なインパクトをくれてやらないとあたしの気が済まないわ・・・」
 と、まあ、あずさ達2号店のスタッフも気合をいれていた。なお。彼女の衣装はあずさが恋姫の”夏候惇”美奈が同じく恋姫の”夏候淵”
 ともみが恋姫の”許緒”の衣装である。
 その様子を遠巻きで見ている男女がいた。
「うーん。みんな気合が入っているね〜」
「でも、店長いいんですか」
「いいさ。留美が言い出した事だからね。それでグループに活気がでるならそれで良いじゃあないか。そういえば涼子君はやるのかね。葵君はやるという情報が入ったがね」
「そうですか。実は私も用意してありますが・・・。その少し恥ずかしいというか・・・」
「まあ、無理に着る事は無いさ。さて、明日は出発だからみんなにも早めに切り上げて置くように言っておいてくれ。俺は集計作業の残りをやっておくし戸締りもやっておくから後は頼んだよ」
「わかりました」
 そんな感じで前日の夜は更けて行くのであった。

(続く)

管理人のコメント


タイトルが温泉。これは濃厚なハプニングの予感。

>最後になるが最後は冬の定例研修会についての議題だ。要するに年末に向けて忙しくなる前にPiaグループの皆でドンちゃん騒ぎをしようということだ。
 ぶっちゃけ過ぎだろうこの説明……確かに研修って夜の宴会が楽しみな面もありますが(笑)。

 
  >場所は隆山温泉だ。宿は「鶴来屋」だ。

 いい宿使ってるなぁ……さすが福利厚生に定評のあるPiaキャロット。

 
  >夏のコスプレファイトの姿を生で見たいから衣装を持って来い

 ファイトの方まで再燃しなければいいんですが(汗)

 
  >店長。店長とかずみはんがコスプレするのはわかりますがなぜウチや葵マネージャーまで巻き添えにするんです

 Piaキャロは日常がコスプレみたいなも(グシャ)

 
  >彼女達の衣装は恋姫バサラの

 ところで、この衣装はイメージ的には恋姫無双そのまんまでいいんでしょうかね?
 余談ですが、コミケで見る恋姫の衣装って孔明が圧倒的に多いような気が……

   今回は温泉まで到着しませんでしたが、さてサービスシーンはどれだけあるのでしょうか(を)



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