翼持つものたちの夢
霜月天馬
第二部 21話〜とある休日の一日 その2〜
「はあ〜。近頃めっきり朝晩は冷え込むわね〜。秋も深くなっていくわね。天気は抜けるような天気だしね〜。こんな日に走れたらいいんだけれど生憎我輩のV−maxは車検だからなあ。まあ。違法改造はしていないからそう長くはかからないでしょうが」
『コンコン』
「ほーい。誰?」
「ああ。直子。私だ蝉代だ」
「ああ。蝉代さん。もしかして貴女もお休みなのかしら」
「そうだ。さて。今日は何をするか悩むな」
「そうね。そういえば蝉代さんのハーレーは?」
「直子と同じく車検だ。それにしても新人の工藤の親父がバイク屋の主人だとはな……」
「そうね。私もバイクを預けようとしたら、そこで工藤にばったりだったからね。後数日は車検にかかりそうだから今日はなにしようかしらね」
「二人でオイチョカブやチンチロリン、丁半やってもつまらないな。かといって洗濯物が溜まっているかと言えばそうでもないし、久々にのんびりすごそうか……」
「とりあえず市立図書館でも行こうかしら。あそこなら音楽資料やら映像資料として映画や音楽なんかのCDやDVDを借りようとおもうけれど、行く?」
「久々に教養の海にどっぷりと浸かりに行きますか」
「そう。それじゃあそうと決まれば善は急げ」
と言うわけで私たちは市立図書館に行こうと玄関先にいったが、そこでトキ子さんとばったりあった。
「あら。トキ子さん落ち葉掃きですか」
「ええ。貴女達は今日はおやすみかしら」
「ええ。そうです。これだけの庭を掃くのは大変だな。私も手伝おう」
「蝉代さん。図書館はどうする?」
「ああ。直子。それはまたにするよ。トキ子さんの後ろにあるのがわかるか」
それを見た私は納得していた。
「そういうことね。確かに私たちはあれの魅力には勝てないわね……」
「そういうことだ。トキ子さん私たちも手伝うよ」
「ありがとうね」
「なに。いいって事よ」
そんな訳で私たちは庭に落ちている落ち葉を全部集めて一山に集めていた。そしてトキ子さんがお礼を言っていた。
「ありがとうございます」
「別に良いわよ。それにトキ子さんも好きね」
「ぎく。何かしら……。直ちゃん、それに蝉ちゃん」
「ふふふ。直子はともかくアタシを欺こうとしても無駄よ。後ろにサツマイモあるでしょ。私たちも相伴に預かりたいわね」
「くっ。やっぱり。ばれて居たのね判ったわあなたにもわけてあげるわ……」
そんなわけで私たちは晩秋の昼下がり集めた落ち葉で焚き火をしてそのなかにアルミ箔に包んだサツマイモをいれて焼き芋を焼いていた。そして程よく焼きあがり……。
「ほふほふ。やっぱりおいもは良いねえ」
「そうね。この時期はやっぱり焼き芋にかぎるわね」
「たしかにな。芋なんて散々食ったはずだが、やはりついつい引き寄せられてしまうのだな……」
「そうね。そういえば、トキ子さんこのたびは誠にご愁傷様でした……。旦那がテロに巻き込まれて死んだと聞いて楓ちゃんの為にもトキ子さんは生きないと……」
「確かにな。私や直子は既に両親は居ないが楓ちゃんにはまだトキ子さんが居る……。亡くなった人を忘れろとは言わないがそれに捕われて自らのシアワセを逸してしまうことにならないようにしないとね……」
「有難う。蝉代さん。まるで長い経験を積んだような語りね」
「え。それは。私は生死の境や死線をなんども潜り抜けたからね」
「確かに。私でも蝉代さんには勝てないね。それなりに場数は踏んだけれど蝉代さんには勝てないわね。なにやつ」
そういいながら私と蝉代はとっさに懐に仕込んだダーツを投げていた。そして刺さった先には腰を抜かした宅配の兄ちゃんが居た。
「なんだ。宅配便か。無言で入るから不審者かとおもったわよ。最近物騒な事件が多いからね」
「あわわわわ……」
「情けないわね。男の子でしょ。ところで誰宛ての荷物かしら……」
「あ。あの……。坂上蝉代様と深山直子様宛てに荷物です。差出人は白菊様になっています。あの受け取りに判子かサインをお願いします」
「「判ったわ」」
そういいながら私と蝉代は運転手から借りたペンでそれぞれの受領書にサインをして彼にわたしていた。ついでに彼に缶ジュースを一本握らせていた。
「これ。お詫び。こんどから此処に来る時は黙ってこないでね」
「わかりました。ではどうも有難うございます」
そう言って彼は去っていた。
「なんだろうね。おやっさんから荷物なんて……」
「とりあえずあけて見たほうがよさそうね」
「確かに……。ってこいつは木箱か。カッターよりもバールが必要だな。直子バール持っているか」
「有るわよ。一寸待っていて」
私はそう言って部屋からバールを持ってきて荷物を開梱してみると其処には冬物の衣服の下に大量のリンゴが入っていた。
「直子これは……」
「間違いないわね。私達のセーターやら防寒服だね……。ありがたくて涙がでるね」
「確かに。多分疾風たちにも届いているんだろうな。まあ、直子の背中の傷をこさえたのが親父さんだからな」
「確かにそうだね。多分、嫁入り前の女の体を傷物にした責任を感じているんだろうね。それに父親の親友の娘だからかも知れないけれどね。でも、不思議に思うけれどなんで蝉代さんはオヤッサンの元から去ったのかしら。給料や待遇が悪いと言う訳でもなさそうだし……」
私がそう聞くと蝉代は
「そうね。私は行き倒れていた所を助けてもらった恩義があったよ。でも、私の夢を伝えたら親父さんは笑って送り出してくれたよ。しかも今まで働いていた給金とかいってかなりの大金も一緒にね」
「そうか。それにしてもこれだけ大量のリンゴは私たちだけでは厳しいね……」
「とりあえず一個食ってみるか」
「そうね」
そんな訳で私と蝉代の二人は其処にあったリンゴを一個食べてみると……
「直子こいつは……紅玉だな」
「そうね。こいつは生で食えなくは無いが、どちらかと言うとパイ、焼きリンゴなんかにすると美味しい奴だな。トキ子さん。よかったら美味しい焼き芋戴いたお礼といってはなんだけれどあげるわ。好きなだけ持っていって」
「ええ。よかったら出来た料理をおすそ分けにいくわね」
「ありがとう」
そう言ってトキ子さんと別れた私たちはいまだ残っているリンゴの山をどうするか考えることにした。
「これは当分。リンゴを使ったお菓子に困らないな」
「そうね。そういえば秋のフェアに使えないかな。サツマイモとリンゴを使ったデザートって」
私の意見に蝉代も何かを感じたようで肯いていた。
「そうだね。たしかに私たちの共同アイディアでだしてみるか。とりあえずアップルパイとアップルティーをつくろうかね。疾風の母親から料理からお菓子作りを親父さんからは機械の整備、操縦、修理技能を徹底的に仕込まれたのがこんな所で役にたつとはね」
「そうだね。私もそうだったけれど、あの時はなんでこういう目にあうのかと思っていたけれどこのような状況になった時にはとても感謝だな」
「そういうことだ。それじゃあやるか。直子はリンゴの方をお願い。私はパイ生地の方をやるから」
「判ったわ」
そんな訳で私と蝉代の二人はアップルパイを作っていた。辺りにはパイ生地とリンゴの焼ける香ばしい匂いが立ち込めていた。
そしてその匂いにつられて腹を減らした男女がやってきていた。
「あら〜。ずいぶんおいしそうな匂いね〜」
「あ。治子さん。アップルパイを焼いているんですがもうじき焼きあがりますよ。出来たら食べますか」
「あ。いいねえ〜。でもなんで直ちゃんと蝉代の二人が……」
治子の問いに私は正直に答えた。
「それは私と蝉代さんの休みが一緒だったからね。そして私たち二人に桜花の親父さんから大量のリンゴが送られてきてそれでお菓子を作っているんですが食べますか」
「そうだったんだ。桜花ちゃんは今頃受験勉強のころだろうね……」
治子の問いに蝉代が答えていた。
「桜花なら。この前私たちと一緒に試験を受けていた。まあ、合格したと思う。あいつも形は違えど空にあこがれる人間だったわけだ……」
「そうか……。まあ、あの子もあの子なりに夢に向っているわけね……。純一君も男を磨きなさいよ」
「は。はい〜」
「さて、そろそろ。ころあいかな……」
「そうだね」
そういいながら私はミトンを嵌めてオーブンからアップルパイを取り出していた。香ばしく焼きあがったアップルパイを皿にのせ切り分けていた。
「直子。アップルティーの方も出来たぞ」
「それじゃあ治子さん。純一君どうぞ……」
そんな訳で少々遅いお茶会と相成った。
そして食べた感想は……
「おいしい」
「美味い。こんなアップルパイを食ったの初めてっす」
「直ちゃんなんでこんなにもおいしいパイができたのかしら」
「ああ。タネはリンゴにあるの」
そう言って私は箱の中のリンゴを治子さん達に渡した。
「これはずいぶん小さいリンゴね」
「まあ。今じゃあ”富士”や”ツガル”のような甘くて大きいリンゴが主体になったけれどこれは”紅玉”という品種でこれが本当のリンゴだよ。試しに食べてみて」
そういって私は治子さんに紅玉を一個を渡していた。そしてそれを食べてみた治子さんは驚いた。
「これって。ずいぶん酸っぱいね。いつも食べているリンゴとは全然違うわね」
「でも、これでアップルパイなどにすると実に美味しくなるよ」
「そうか……。と、なると。冬のスイーツフェアはリンゴを使ったデザートになりそうね。直ちゃん蝉代。このリンゴの入手先をおしえてくれないかしら」
「それは……。桜花の親父さんから送られてきたリンゴだよ。多分市場関係を当たればあるかもしれないわね」
「そうか。それにしても桜花の親父さんも律儀ね……」
「まあ。彼は直子にとてつもない借りを作っているからね……」
「蝉代。どういうことかしら……」
「直子。言ってもいいか」
「いいわよ」
そう言って蝉代は彼が直子に対して作った借りについて治子に話していた。それを聞いた治子と純一の二人は
「それで納得がいったわ……」
「なんで蝉代さんがそれを知っているのかが疑問にのこるね」
純一の質問に蝉代は答えた
「ああ。それは私も一緒に居たからね……。そして私の目の前で事故が起こった。私が応急処置をしたんだ」
「そうか。それで合点がいったよ」
そしてゆっくりと時はながれていった。
「あら。大分遅くなっちゃったわね。お茶とケーキありがとうね。それじゃあ二人とも明日は仕事なんだから遅刻しちゃだめよ」
「ええ。治子さん。おやすみなさい」
「それじゃあお休みです」
そう言って治子と純一の二人は私たちの部屋をでていった。
「それじゃあ直子私たちも片付けて明日に備えないとね」
「そうだね」
そんな訳で私たちもまた明日に備えて支度をしていた。
明日はいい日になる事をいのりつつね……。
(続く)
管理人のコメント
無事操縦士試験に通った直子たち。本格的な訓練を前に、今日は休日の一コマをお送りします。
>「ふふふ。直子はともかくアタシを欺こうとしても無駄よ。後ろにサツマイモあるでしょ。私たちも相伴に預かりたいわね」
秋の味覚と言えば、焼き芋は代表の一つ。最近我が家でも大学芋や芋ようかんに加工して食べていますが、たまにはこういうシンプルなものもいいかもしれません。
>そういいながら私と蝉代はとっさに懐に仕込んだダーツを投げていた。そして刺さった先には腰を抜かした宅配の兄ちゃんが居た。
だから君らはどうしてそうガチなんだ。
>「そうね。そういえば秋のフェアに使えないかな。サツマイモとリンゴを使ったデザートって」
ポテトアップルパイが最高ですよ。首都圏の駅では専門店もあるので、食べたことがある人も多いかもしれません。
>「それは……。桜花の親父さんから送られてきたリンゴだよ。多分市場関係を当たればあるかもしれないわね」
紅玉は生食向けではないので、普通は加工用として売られています。果物屋では一個200円くらいで売られていますので、興味のある人は買ってみましょう。ジャムにしても美味いですよ。
と言うことで、普段荒事の多い直子たちにも、こういう平穏な一日があったりします。訓練が始まると大変な事になるでしょうけど、こういう日を大事に思って欲しいものです。
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