翼持つものたちの夢

霜月天馬

第二部 20話〜夢への第一歩〜



航空学生入学試験試験会場 
「いよいよ。試験だね」
「そうだな。まさか再び試験勉強をするとは思わなかったね」
「まあ。一応、特別とはいえ国家公務員になるし選別試験が必要になるんでしょうね。それに航空のやり取りはすべて英語でやり取りになるからね」
「まあな。ちと頭が痛むがやるしかなかろう」
「その意気だよ。蝉代さん」
「おう。お互いにやろうぜ」
「そうね」
 そんな訳で私たちは採用試験を受けるべく試験会場に入り準備をしていた。まあ、私にとっては二回目だけれど蝉代にとっては初めての体験でしょうね。そこで私は意外な人物と出合うことになる。
「あ。先輩〜。直子先輩じゃあないですか」
「って。貴女は……桜花ちゃん。貴女もパイロットに進むの」
「ええ。艦載機パイロットになるにはこの道が一番手っ取り早いからね。先輩は言うまでも無いですね」
「まあね。概ね固定翼機を希望しているね。私だけでなく蝉代さんも受けているわよ」
「そうですか。お互いに合格しようね。先輩」
「ああ。そうだね」
 と、まあ。そんなことで私たちは試験を受ける事に相成った。今回は筆記試験だけだしやるしかないわね……。
 そして……
「おーし。時間だ各自試験用紙を伏せろ」
 試験官のだみ声をバックに私は試験用紙を伏せて席をはずしていた。やるべきことはやったから後は結果を待つだけね。
 そんなことを思いつつ私は家路にもどろうと歩いていたが人にぶつかってしまっていた。
「きゃ。ちょっとどこに目をつけているの」
「ごめん。怪我はない?」
「ないわよ。って。あんた何処かで見たわね……。アンタもしかして深山直子じゃあないかしら」
「確かに私は深山直子だけど。貴女は誰? もしかして私に喧嘩を売るつもりかしら……売るなら買うわよ。でも、喧嘩なら年季はたっぷり入っているわよ」
「そう。私は来栖川綾香。去年はよくも勝ち逃げしてくれたわね」
「ん。もしかして去年のことで逆恨みしてるのかしら」
「そういうこと。今こそ決着を付けさせてもらうわよ」
「言い訳になるかもしれないけど、全国大会に出られなかったのには理由があるの。事故をやらかして参加は不可能になったから。私はアンタみたいな大金持ちのお嬢様じゃあないからね。生きる為には金を稼がないと」
「そう……。なら、今此処で決着をつけちゃいましょ」
 と、まあ。一触即発になろうとしていた時に意外な人間がやってきてこの争いは一時収束した。
「おーい。直子。帰ろうよ……。ってあんた来栖川 綾香じゃあない。全国大会以来ね。もしかして直子に用かしら」
「そうよ。まさか貴方達が知り合いだったとはね」
「まあね。どうやらガチ勝負というわけね。なら私が見届け人になろう……」
 蝉代の言葉に私も綾香もお互いに納得して指定された場所にいた。
「直子。これをつかうといいわ。大丈夫よ未使用のグラブとレッグよ」
「助かる。こっちも準備があるから」
 そういいながら私は身に着けていた錘や靴などをすべて外して彼女が渡してくれたウレタングラブとレッグを身に着けていた。
 なお。今の服装はTシャツにカーゴパンツといったごく普通の衣装である。
 そして見届け人の蝉代がボディチェックを行ない双方ともに得物を所持していない事を確認して開始の合図をしていた。
「よし。お互いに得物は持ってないな。この勝負は時間無制限一本勝負だ。どちらか一方が気を失うか降参するまで戦うセメントマッチだ。二人ともこのルールに異議はないな」
「無い」
「ないわ」
「よし。では勝負開始……」
 そんな訳でなしくずしで勝負をやらかす事になった私であったが、流石に世界チャンプと言われているだけあって彼女のパンチと蹴りはかなりの速度と切れ味を誇っていた。まるで剃刀のごとくね。でも、剃刀は鉈の一撃で砕け散るものそれを彼女に教えてあげるわ……。
 私は彼女攻撃をすべて紙一重でかわしつつ一気に彼女の懐に潜り込み間髪いれずに鳩尾に3発打ち込みそして両足のアキレス腱目掛けて足払いを食らわしながらタックルを食らわしその後すぐさまマウンティングにもつれ込ませた。そして彼女をめった撃ちにしたが流石に敵もさるもので私の鳩尾に強力な蹴りを食らわせていた。
 私は吹っ飛ばされたが直に立ち上がれたがその代償はかなりのものだった。
「なかなかやるわね……」
「貴女もね……」
(くっ。足にかなり来ているわね)
(何て拳なの。まさに鉈。ううん。斧の一撃ね……。蝉代という女の一撃も凄かったけれどスピードが速いから彼女の方が上ね)
 お互いに無言のうちに腹の探り合いをしていたが綾香が先に動いていた。
 そう右の拳をだすと見せかけて左のハイキックを喰らわせようとしていた。それを感じた私はとっさに彼女の軸足に強力な回し蹴りを食らわせようとしたが彼女のかかとが落ちてくるのを最後に私の意識は飛んでいた……。
「蝉代。介抱するからてつだってくれる」
「判った。準備はしてある」
 そういいながら蝉代は手にしていた水筒の蓋を開けて私に掛けていた。彼女もまた私に対して気を入れていていた。
「はっ。あいたたた。まだよ……」
「残念だったわね。直子。あなたの負けよ。でもなかなかやるわね」
「それにしても綾香はすごいね。さすがにチャンプは伊達じゃあなかったわけか。だが、格闘技の試合は私から言わせたらお遊戯も同じことだよ。私は賞金目当てで出場したけれどね。賞金が出ないなら私は参加しなかったわね。本来ならストリートファイトこそだよ。それに相手によっては得物を出してくる連中もいるしね。ま、ナイフ程度をもっていても5人までなら一人で何とかなるけどね。それに男には絶対に鍛えようの無い急所があるからね」
「まったく世界は広いわね……。このアタシがかなり苦戦させられるとは」
「一つ聞きたい。あの試験会場はパイロットを目指す奴らの訓練所の入所試験よ。来栖川のお嬢様であるあんたが何故こんな所にきたの? 私や蝉代のように身よりが無く軍に入れば衣食住が保障されているという理由でもなさそうだし、一体何故?」
「そうね。実際の運用されている現場を学ぶ為ね。あとは各種の資格をタダでくれるという理由もあるわ」
「そう。縁あればまた会おう」
「そうね。貴女とは強敵(とも)の関係をむすべそうね」
「そうね。一歩間違えていたらノされていたのは貴女の方だしね。私もウェイトを外してここまで苦戦するなんて流石にチャンプは伊達じゃあなかったという事ね」
「そうね。まあお互いに当面の目標を目指してすすむだけだな」
「そうだね。蝉代さんもなかなかいいこと言うわね」
「そうね。とりあえず場所を移動しない?全身ガタガタだしね」
「確かにそうね……。問題はこの状態で単車を転がせるかが問題ね」
 そう。私もかなり頭やら体にダメージを受けている状態だからこの状態でバイクを転がしたら確実に事故って親父達に会うことになるわね……。
「となると。バイクを移送するにはトラックがいるな。直子。トラック借りてくるから待っていてくれ」
「ん。判った。もし何かあったら電話するから」
 蝉代がそう言ってその場を離れようとしたがそれを綾香が止めていた。
「ん。まって。ならアタシが手配するわよ」
 そういって彼女は手にした携帯電話で2.3連絡していた。そしてそれから10分もしないうちに小型トラックと乗用車が来てそこからメイドロボなるものを見ることに相成った。
「お嬢様。連絡がありましたのでまいりました」
「ああ。セリオこっち。助かったわ。あたしもそうだけど彼女の方もとりあえず見てやってくれないかしら。それが終わったら彼女の単車の積み込みをお願いね」
「了解しました。あの。失礼ですが服を脱いでもらえますか」
 メイドロボに言われて私は神妙な気分でシャツを脱いだ。そして彼女は私の体を撫でながら異常が無いか調べていたようだ。
「特に問題は無いみたいですね。ただ。脳震盪を起こしているので今日一日は車などの運転は控えた方がいいでしょう」
「ありがとう。あなたの名前を知りたい。私は深山直子」
「私はHMX−13セリオです。以後宜しくお願いします」
 セリオの答えに私もまた見てくれた礼言った。人間だろうがロボットだろうが受けた恩義には礼を尽くさないとね。
「と、言うわけだから蝉代さん。運転お願いね」
「それくらいはお安い御用だ。しかし……そのまますんなり帰る事ができるのかね……」
 蝉代の言葉に私は周りを見ると其処にはごっつい爺さんを筆頭に黒服たちが私達の周りに集まっていた。
「なにかな……。言っとくけれど、先に仕掛けたのは綾香のほうだからね……」
 私がそういうと爺さんは私たちに一礼していた。
「ああ。申し遅れました。私は長瀬 源四郎ことセバスチャンともうします。綾香お嬢様にいわれてあなた方を案内いたします。ささ。どうぞ此方へ」
 そういわれて私と蝉代の二人は大型のリムジンに乗せられた。貧乏人の私には絶対に縁の無いロールスロイスの後部座席に座ったわたしは驚きに満ちていた。そして横には綾香が座っていた。
「綾香。一体私たちをどうするつもりかしら……」
「ん。別に貴方達を取って食ったりはしないわよ。まあ、此処じゃあなんだから病院で調べた方が良いしね」
「そうだけれど。今、私たち保険証無いわよ……。あーうー。医療費で給料が吹っ飛ぶわね……とほほ……」
「お金については心配しなくて良いわよ。あたし達が責任を持って負担するわ。吹っかけたのはあたしの方だからね。せめてそれくらいはさせてちょうだい」
 そう言って私たちはおとなしくされるがままになっていた。そして私たちは病院へと連れて行かれた。
 そこで医療チェックを受けたが結果は特に問題なしという事がわかっただけでも儲けかしらね……。
「終わったようね」
「ええ。お互いに大したダメージが無くてよかった」
「そうだな。しかし……。暫らくあざになりそうね。あ。ちょっと支払いしてくる」
「ああ。直子は良いわよ。私が支払いに行って来るよ。立て替えておくから後で払ってね」
「判ったわ」
 そう言って蝉代は会計へと向っていた。残された私と綾香であった。
「そういえば直子って学生じゃあないわね。もしかして今年卒業したのかしら」
「そうだよ。綾香は今3回生ね」
「そうよ。そうか。それじゃあ姉さんと学年は同じなのね。私には年子の姉さんがいるから……」
「そうか。少なくてもあなたには血の繋がった兄弟姉妹や親がいるのは羨ましいことだ。私には居ないしね。まあ、唯一血の繋がった縁者は従姉妹の勇希だけだしね……。母親は私が物心着く前に死んで父親も私が小学生の頃に乗っていた小型機が嵐に巻き込まれて行方不明になったからね……」
「そう。でも、少し疑問が残るわね。なら何故パイロットを目指すのかしら……」
 綾香の質問に私は確信を持って答えていた。
「ん。始めは父親を奪った空を憎んでいたけれど。それでも、なぜ私たちを置いて空を飛ぼうとしたのかそれが知りたくなったから、パイロットの道を目指す事にした。それに此処だけのはなしだけれど私は星の海を目指そうとしている。そのためにはパイロットを目指すのが近道だしね」
「なるほどね……。とにかくお互いの夢の為にがんばりましょ」
「そうね……」
 そして私たちは固く握手をしていた。そして、この出会いが後に私の人生に大きく影響する事になるとはそのときの私には予測は出来なかった。そして私たちは無事に一次、二次、三次試験をクリアしていよいよ晴れてパイロット候補生となったわけである。
 まあ。来年の春にはいよいよ夢に向っての第一歩を踏み出す事になる。
(続く)


管理人のコメント

 いよいよ直子たちの夢の第一歩、パイロット試験の日が来ましたが……試験そっちのけで何かしているようです。
 
>「ええ。艦載機パイロットになるにはこの道が一番手っ取り早いからね。先輩は言うまでも無いですね」

 ひょっとして、この世界の日本は空母を保有しているのでしょうか?
 
 
>「確かに私は深山直子だけど。貴女は誰? もしかして私に喧嘩を売るつもりかしら……売るなら買うわよ。でも、喧嘩なら年季はたっぷり入っているわよ」
>「そう。私は来栖川綾香。去年はよくも勝ち逃げしてくれたわね」

 意外な人物登場。って、何してんだこの二人……
 
 
>私はとっさに彼女の軸足に強力な回し蹴りを食らわせようとしたが彼女のかかとが落ちてくるのを最後に私の意識は飛んでいた……。

 いきなりガチバトルになりましたが、やはり綾香には勝てないようで。善戦はしてますが。
 

>私や蝉代のように身よりが無く軍に入れば衣食住が保障されているという理由でもなさそうだし

 空母だけでなく、自衛隊の代わりに軍もあるようです。ますます謎な。
 
 
>それに此処だけのはなしだけれど私は星の海を目指そうとしている。

 これまでパイロット資格の話しか出てきませんでしたが、直子は宇宙飛行士志望だったんですね……最近はパイロットよりもむしろ科学者・技術者のウェイトが高いようですが、直子は自分で操縦したい人間なのかもしれません。
 
 無事試験を突破して候補生になった直子たちですが、この先彼女達にはどんな日々が待っているのでしょうか。


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