翼持つものたちの夢

霜月天馬

第二部 19話 〜どたばた恋の逃避行〜



「ようやく。ひと段落といったところね。北川君。それじゃあ私は休憩に入りますね」
「ああ。しっかり休んでくれ。っと。まあ。あんたにそれを言うのは釈迦に説法だな」
「ん。まあ。忠告として受け取りますよ。それじゃあね」
そんな訳で私は休憩と食事を兼ねて厨房にたちよってみると、そこでは千尋さんが料理長にレクチャーを受けていた。
「あら。直子。貴女休憩かしら」
「そうよ。あ、料理長。野菜屑やお肉の切れ端などありますか」
「おお。あるぞ。今日は何を作るつもりだね」
「ん。見た所豚肉があるからメンチカツを作ろうと思う。それじゃあ一寸食材を貰うわね」
そういいながら私は手馴れた手つきで今日のおかずのメンチカツを作って揚げていた。そのようするを見ていた千尋は
「やっぱり直子のはてなれているわね。私も直子から教わったけれどまだまだ見たいだから精進あるのみね・・・」
そして私が休憩室で出来立てのメンチカツと野菜屑をドビソースで煮込んだハヤシライスを食べていると其処につかさがやって来た。そう。彼女は先週末に此処の採用試験を受けて見事に合格していた。まあ、昔Piaで働いていたと言うから復帰ともいえるだろう。そしてもう一人長期要員として陸文華さんが新しく入っていた。
「あれ。ずいぶんおいしそうな匂いね。もしかして直子の手製の料理」
「そだよ。つかさちゃんもこれから休憩なのね。で食べているのはクラブサンドか・・・。好きだね」
「ん。まーね。これ一つ貰い」
「あ。こら。あんた。私のメンチカツ食ったわね・・・。って大丈夫つかさちゃん」
「お。おいしい。こんなメンチカツを食べたの初めて。もしかしてPiaの食材からぱちったの」
「人聞きの悪い事言わないでよ。確かにこの食事の材料は調理ででた残りの肉や野菜屑を使った料理だよ。治子さんに聞けば判るけれど、私はここの店の食事は殆ど食べていないしね」
「そっか。それにしても治子ちゃんと純一君ほんとうにラブラブだね。流石に仕事場では自重しているみたいだけど。寮の方だとかなりラブラブだね・・・。見ている私のほうが妬けるよ・・・」
「そうね。はあ〜。ボクも新しい恋を見つけようかな。ねえねえ。そういえばマネージャーの北川君って結構切れ者ね」
「まあ。確かに切れ者だけど。意外と色恋についてはニブチンのようね」
「そっか。なら付け入る隙はあるかな」
「無理でしょ。だってかれもうじき本店に異動だしね。それも正規のマネージャーとしてね。それに千尋さんが彼に近づいているし、そして彼も彼女のことを好いているみたいだしね。っと。いけない早く食べないと休憩時間が終わっちゃう」
私はそういいつつ食事を急いで平らげていた。
そしてそんなこんなで数日がたった。あやのに続いて千尋さんも店を去るときがやってきた。
「千尋さん。”じゃあね”なんていわないわよ。またどこかであいましょうね。結婚式は明日でしたね・・・」
「ええ。私の心は混乱しているわ。それに彼に思いっきりひっぱたかれたわね。まあ無理も無いわね私が悪いんだから」
「そう。貴女が後悔しないようにしなきゃ駄目よ」
「そうね。それじゃあ私は行くわね」
「ええ。それじゃあ。どこかでまたあいましょうね」
そう言って私は千尋さんと別れ、寮に戻ろうと更衣室を出るとそこで彼とばったり出会った。
「ああ。深山。ご苦労だったな。明日は君が休みだったな。しっかり休めよ。俺もこれでお別れだ。またな」
「まった。北川君。単刀直入に言うわ。あんた千尋さんのことを好きなの。彼女明日結婚式を迎えるわアンタはどうなの。彼女のことが好きなのそれとも嫌いなの」
「俺は彼女の事が好きだ。だが・・・」
「だったら。貴方が悔いの残らない行動をするべきね。北川充。君は男なんでしょ。男だったらどーんと根性みせなさいよ。今駄目だったらあんた一生後悔することになるわよ」
私の言葉に彼はしばし悩んだ挙句・・・。一言つぶやく。
「そうだな。深山スマン」
「ううん。貴方達にシアワセになってもらいたいだけだよ」
「そうか」
そう言って私と彼は同じ道を歩いていた。
「そういえば。充君と純一君のふたりが治子さんに呼ばれたみたいだけれどなんだったの一体」
「ああ。俺は本店に配置転換されることになった。明日が移動日だ」
「そっか。ならば話は早い結婚式場に乱入してそのままこの地をずらかりなさい」
「俺も覚悟を決めた。深山感謝するぞ」
「別にいいよ」
と、まあ。そんなこんなで夜は更けていった。そして翌日の朝私は心配になって駅のレンタカー屋で車を借りて式場近くまで彼を送り届けてそこで私は待つことにしていた。
「はあ〜。まったく私もお人よしね。北川君準備はいいね」
「ああ。覚悟は決まった。世話になったな」
「ええ。私が出来るのここまでよ。あとはアンタの裁量しだいよ」
「ああ。とにかく助かった。この礼はいずれするからな。それじゃあまたな」
そう言って彼は式場へと乱入し千尋さんに彼の思いのたけをぶつけて彼女を掻っ攫うことに成功していた。
「北川。千尋さん乗って」
「ああ。すまん」
「千尋さん。とりあえず其処のカバンに着替えが入っているわ。とりあえず相手の追撃を振り切るからしっかり捕まっていてね」
「深山おまえ免許あるのか」
「馬鹿にしないでよ。ほれ」
そう言って私は彼らに免許証入れをみて二人は固まっていた。
「とにかく。しっかりベルト締めていなさいね」
「ちょ。おま・・・」
と、まあ。そんな訳で私はかなりのドラテクで一気に東京へと逃げていた。で、私が目的地に着いた時には北川は見事に気絶していた。
千尋さんの方は無事だったけれどね・・・。
「情けないわね〜。ほら。折角の休日をアンタの為に一肌脱いでやったんだからしゃんとしなさい」
私はそういいつつ彼に気を入れていた。
「深山・・・。すまね〜。お前の運転技術は化け物だ・・・」
「まあね。ちなみに治子さんもバイクの腕は良いわよ。それに純一君もリッタークラスの全開走行でタンデムを乗り切った奴はそういないしね」
「あの。深山さん有難うね。それじゃあ私たちはこれで・・・」
そういって彼女達は人ごみへと去っていった。
まあ、後で聞いた話によると治子さんの計らいで千尋さんは本店で働く事になり、代わりに蝉代さんが入れ替わりになったみたいだ。まあ、さやかも来るはずだったが結局それは叶わなかったみたいだ。
そして、彼らは・・・。結婚式をぶち壊したことでかなりの借金を背負う事になったが二人が一緒ならその障害も問題ないでしょうね。
と、言うわけで私は今蝉代さんと一緒の職場で轡を並べているわけ。
「直子。次は直子が休憩する番よ」
「あ。ありがとね。蝉代さん」
「それよりもいよいよ来週は試験だね。私たちの夢をかなえる一歩だな」
「そうだね。私はともかく。蝉代さんもまさかパイロットを目指すとはね」
「まあね。私にとっての目指す手段として風の海を渡るのが先だからな」
「確かに。どこまでいけるか判らないけれどやるだけはやるよ。じゃあお先に休憩に入るわね」
「ええ。しっかり休みなさいよ」
そんな訳で私が休憩の為に厨房へと消えるのと同時に治子さんが
「お疲れ様蝉代。そうか。蝉代も直ちゃんと同じ夢を歩くわけね」
「すまない治子」
「ううん。別にあなたを攻めてはいないわ。貴方達は空へと行くわけか・・・。私は貴方達を見送るだけだけれどあなたの戻る場所を守るわ。そう、いつでも戻ってきなさいね」
「そうか。治子貴女には世話になる。まあ、どうなるか判らんが私はやるだけだな」
そんな会話をしつつ彼女達もまたもとの仕事に戻っていた。

(続く)

管理人のコメント
 夏休みが終わり、一同にも日常が戻ってきましたが、物語はいよいよ大詰めを迎えつつあるようです。

>千尋さんが料理長にレクチャーを受けていた。

 原作だと見事にカーボン料理を作っていた千尋ですが、やっぱりちょっと気にしていたようです(笑)。


>それにしても治子ちゃんと純一君ほんとうにラブラブだね。

 むぅ、親としては複雑な気分が……まぁ、うちの娘の中では絶対に結婚できない筆頭ですから、平行世界くらい幸せがあっても良いでしょう。


>「そっか。なら話は早い。結婚式場に乱入してそのままこの地をずらかりなさい」
>「俺も覚悟を決めた。深山感謝するぞ」


 男前ですねぇ、この二人……直子は女ですが。


>「それよりもいよいよ来週は試験だね。私たちの夢をかなえる一歩だな」
>「そうだね。私はともかく。蝉代さんもまさかパイロットを目指すとはね」

 意外な人がパイロットに? ともあれ、夢が叶うときがこの物語の終わりになってしまうのでしょうか?
 それとも……


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