翼持つものたちの夢

霜月天馬

第二部 18話 〜ドキドキキャンプ 後編〜


「ん。ああ。もう朝か……」
「治子さんたちは寝ているわね……。起こさないようにしなきゃ」
 私は物音を立てずに寝袋を片付けてバックパックから洗面用具を取り出してテントを出た。そして一言
「ん〜。いい天気だ」
「おお。深山か」
「あら。北川君おはようございます。夕べ千尋さんに絞られたわりにはスタミナあるわね」
 私がそう、指摘すると彼は思いっきり動揺していた。
「なぜ。それを……。もしかして、俺が千尋と付き合っているのを知っているのか」
「ええ。店であーんなことやこーんなことをしていたことまでね。私だけではなくて治子さんも知っているよ」
「何だと……」
「ま、別に私や治子さんはそれでとやかくは言わないわよ。なにせ、私も治子さんも人の恋路を邪魔してまだ死にたくはないですからね」
「深山にはかてないなあ」
「まあ、別に仕事をしっかりやってくれるなら何しようと別にいいけどね。でも、羨ましいよ貴方達がね……」
「そうか。ところで顔を洗わないのか」
「そうね。それじゃあお先に」
 私は朝の身支度が終わると夕べ仕込んでおいた例の場所へと行っていた。
「よしよし。ちゃんと成分が抽出されているな。よっしゃ。十分冷えているし。われながらいい出来だよ」
 そんなわけで私はよく冷えた密閉容器を持って朝ごはんの仕込をはじめていた。そのころになると他の連中もおきだしていた。
「おはよう。いい朝だね」
「もしかして、深山さんが朝ごはんの仕込をしていたのか」
「ええ。コーヒー飲む?。冷たい奴なら其処のポットに入れてあるから。熱いやつは其処の鍋に湯煎してあるやつがそうよ。どちらも特製のコーヒーだよ」
「じゃあ。貰うよ。ん。んぐんぐ。なに。このコーヒー。今まで飲んだのとは全然違う……」
「それはそうよ。水で出したコーヒーだからね。まあ、仕込むのに一晩掛かるのがたまに傷だけど」
「あら。おいしそうなコーヒーね。もしかして夕べ言っていたあれかしら」
「そうです。飲むかい。千尋さん」
「もちろんよ」
 とか、何とか言いながら他の連中も起きて来た。まあ、本来の合流時間前に全員集合し、治子さんが語り始めた。
「みんな。おはよう。さて、これから朝ごはんを済ませたら、小川で遊ぶわよ。だから美味しいからって朝 ごはん食べ過ぎると後できつくなるからね。それじゃあみんなご飯にしましょ」
 と、言うわけで私たちは朝食のあと小川で川遊びとあいなった。
「それにしても、治子さんに千尋さんは凄い水着だね……。特に治子さん大胆だよ」
「そうかな。それをいうなら直ちゃんもずいぶんシンプルな水着ね」
「まあ、機能性を重視した水着ですしね」
「そうね。傷痕も見事に隠れているわ。これで浜辺にいったら多分10人が10人振り向くでしょうね」
「ほめ言葉として受け取らせてもらうよ。千尋さん」
 と、まあ私たちは水着に着替えて川へと歩いていった。ここで私達の水着の紹介すると。私はセパレートの競泳用水着。治子さんはストライプのビキニ。千尋さんはハイレッグカットのワンピースである。まあ、ぎりぎり間に合ったからで、もし間に合わなかったら私はスクール水着を着けるつもりだった。まあ、そっちの方が萌える奴らがいるだろうけれどね。
 そんなわけで私たちは川で思いっきり遊び、そして着替えを済ませて再び集合した。そして治子さんが周りを見回して口を開いた。
「えー。一泊二日の研修会も無事におわり、スタッフのそれぞれの一面も見れたことでしょう。私達のお店であるPiaキャロットは人間にたとえるなら、まだ赤ん坊もどうぜん。これから大きく発展成長させるのはスタッフ達の頑張りにかかります。みんなの奮闘を祈るわ。さて、これで研修会は終了し各自解散。とは行かなくて、キャンプに行ったのなら後片付けもしっかりやりましょう。余った、水や薪は他のキャンプの人に分けてあげましょう。充君は残った食材をお願いするわ。直ちゃん。純一君はテントの撤去を残りは周りのゴミ集めをおねがいするわね。さあ、最後の一仕事よ頑張りましょう」
 そんな訳で、私たちはテントの撤去やゴミ集めを行っていた。そしてすべてが終わったのが夕方頃だった。
 そしてその帰り道で……。
「いよいよ。明日からはまたフェアが始まるわね。直ちゃん頼むわね」
「ええ。判りました。治子さん。ところで、純一君とはうまく行っているのかしら」
「それなら大丈夫よ。多分ね……。さて、いよいよ。フェアも佳境に入るしやるわよ〜」
「そうですか。私もまた夢に向かって準備ですね。それじゃあ治子さん。純一君私先に帰るわね」
「あ、ちょ。ちょっと直ちゃん」
 そんな訳で私は脱兎の如く二人から去った。
「ふふふ。治子さん。純一君美味くやりなさいよ」
「あら、直子ちゃん。久々だワン」
「おや。おや。つかさちゃん。ただいま」
「うー。研修キャンプなんて羨ましいのだ。でも、店員じゃあなかったから仕方ないんだしね……。ふふふ。見てなさいよ明日純一君や治子さんの度肝を抜かせてあげるわ」
「あの〜。もしかしてつかさちゃん。私達の店に入るつもり」
「そうだよ。まあ、以前本店と2号店でウェイトレスやっていたから昔取った杵柄だね。それに、直子ちゃんや治子ちゃんと一緒に仕事がしたいしね」
「そっか。まあ、とにかく頑張れよ。恋の戦いは見事に散ったのにやるなんてねえ」
「ん。まあ、治子ちゃんに隙あらば純一君をたらしこんで物にするわよ」
「まあ、止めたりはしないけれど、お互いに流血沙汰や殺しは駄目だよ。私に塁を及ぼすつもりなら……」
「わ。判っているよ。直子ちゃんと蝉代さんの恐ろしさは身に染みているんだワン。それじゃあまたね」
「ええ。またね」
そう言って私はつかさちゃんと別れて一人、寮へと戻っていった。そして荷を片付けて寮の大浴場で一風呂浴びている頃もう一人の女性が入ってきた。
「ふう〜。やっぱり。風呂は良いねえ〜。人生の洗濯だよ」
「あら。直ちゃん居たのね」
「あ。治子さんもお風呂ですか」
「そうよ。ねえ。直ちゃん。直ちゃんって男の人との経験あるんでしょ」
 治子さんが突然突拍子も無い事を言い出したので私は思わず顔をお湯に突っ込んでいた。で、顔を上げて一言。
「ちょ。一寸治子さんなんですいきなり。それは無いわけじゃあないけれど……」
「で、で。初めてってどんな感じだった。やっぱり痛いのかな」
「まあ、それは人それぞれだしねえ。私も初めては結構痛かったね。でも、愛する人と一つになれたことを思えば愛しい痛みだよ」
「うーん。やっぱり痛いのか……」
「治子さん、もしかして純一君のことが」
 私が質問すると治子さんもまた肯いていた。
「そうか。まあ。うまく行くといいね。まあ、ライバルも多いし彼のような豪胆な奴はそういないからしっかり確保しなさいよ。彼ああ見えて結構状況に流されやすい奴だしね。少なくてもつかさちゃんとも関係あるみたいだしね……。まあ、ライバルは多いけれどその辺は貴方の魅力にかかっているね。あと、つかさちゃんが私たちの店に面接に来る。どうするのか私は何もいえないし、言う権限もないから其処は店長としての治子さんの裁量にまかせるわね。それじゃあ長湯してのぼせるとやばいからこれで上がるわね」
 そういって私は浴室を上がっていた。
 そして治子は……。
「そうか。つかさちゃんが来るか……。彼女の力量は疑えない即戦力になる。あやのと千尋そして充が抜けるから予備要員は必要になる。それに直ちゃんもいずれは夢を叶えるために私の元を去るか……。直ちゃんは私にどうするのか問いかけているわけね……。下手すれば純一君も逃がす可能性があるから私が体を張って止めろというわけね……。判ったわ。私も覚悟を決めたわ」
 そう。治子は浴場でひそかな決意をしていた。
 一方そのころ私は
「治子さん。私の問いかけに答えてくれるといいわね。それじゃあ晩御飯の仕込みをしますか」
『コンコン』
「ほい。ほい。どちらさまで」
 私はそういいながら扉を開けると其処にはトロ箱を抱えた、とき子さんがいた」
「あ。あの。とき子ですが。いわしが大量に釣れちゃってそれでおすそ分けに上がったんですが。他のみんなは嫌がって」
「一体どれだけつれたの」
「あの。それが100匹近く釣れちゃって困っているんです」
「あららら。それは大変だ。それじゃあ私も一肌ぬぎましょ。まあ、私と高屋敷さん以外は奇麗に魚を捌けないからね。っと。これで全部内臓を抜き取ったしこれをどうするかが問題だな。比較的小型だから刺身にするには一寸厳しいからね。そうなると調理法は限られてくるわね」
「南蛮漬けにしましょ。これだけの量も二人でやれば奇麗に片付くしね」
「そうですね」
 と、まあ。二人で仕込みをしていたら音と揚げ物の匂いにつられて寮の住人がやってきた。
「あれ。なんだかおいしそうな匂いですね。って。山名様に深山さま何をしているのでしょうか」
と、調理をしていた私に問いかけてきたので私は
「ん。とき子さんが大量のいわしを釣って困っていたから私が一肌脱いだわけだけれど高屋敷さんも手伝ってくれると助かる」
「判りました。私も調理に回ります」
 そんな訳で私と高屋敷さんととき子さんの三人で料理を作っているとそこに治子さんと純一君に美森、千尋さん充までやってきた。
「なんかおいしそうな匂いね」
「うーん。直ちゃんにこんな技能があるなんてね。私たちはどうすれば良いかしら。手伝うからご相伴に上がらせて」
「そういう訳だから頼む」
「私もやるわよ」
「直子。頼むわね」
 それをみて私は的確に指示していた。
「充君と純一君は私たちが食べられるようにテーブルをお願いね。治子さん達は皿の準備をあと手すき要員は楓ちゃんの相手でもおねがいね」
 そんなこんなで100匹近いいわしも全部奇麗に調理され大皿に盛られ、寮の連中だけで二次会が始まったのである。
「みんな。英気をやしなって明日から頼むわね」
「「「「はい。治子さん」」」」
「それじゃあ。今宵は無礼講よ。まあ、あしたがあるから潰れない程度にのんでいいわよ」
 そんなこんなで私たちは思いもよらない宴に酔いしれてたのであった。
そして宴も佳境に向え私と千尋の二人で静かに飲んでいた。
「ねえ。千尋さん。あなた充君のことが好きなのかしら。それとも遊びだったのか。どっちかしら」
「そうね〜。始めは浮気者の婚約者を見返してやろうかと思い。彼を誘惑したけれどいまじゃあ彼と一緒に居たい気持ちが高ぶっているわね」
「そうか。千尋さん。すくなくても充君。彼は本気で貴女を愛しているように見えるわね」
「そう。後は私の問題ね。そして充の想いがどれくらい本気なのかだね。あなただけに言うわね。私はもうすでに式の日取りが決まってそしてもうじきこの店を退職する事になるわ。店長にはもう言ったわ……」
「そうか。問題は充がどう動くかが問題だね。まあ、それとなくたきつけては見るけれどね。まあ、彼も男の人だ多分ここ一番の度胸はあるかも
しれないわね……。とにかく千尋さんも後悔しない様にしなさいよ」
 私たちはそんなことを話し合いながら静かに杯をあけていた。そして、夜は静かに更けて行くのであった。

(続く)

管理人のコメント
 キャンプも二日目ですが、遊んだりする事よりも重要な事と言うのを、それぞれ抱えている人もいるわけで……今回はそういう話です。

>「あら。北川君おはようございます。夕べ千尋さんに絞られたわりにはスタミナあるわね」

 直子立ち聞きすんな(笑)


>「それはそうよ。水で出したコーヒーだからね。まあ、仕込むのに一晩掛かるのがたまに傷だけど」

 水出しコーヒーは旨みと香気成分だけが抽出されるので、純粋にコーヒーの味を楽しむには良いそうです。もっとも、多少の雑味がコーヒーの味を左右するので、どっちが良いという事もありませんが。
 飲んでみたい人はパック式のコーヒーをペットボトルに放り込んで、良く振ってから一晩置いておきましょう。


>「で、で。初めてってどんな感じだった。やっぱり痛いのかな」

 治子は男として女の子相手の経験はあるはずなので、知らんとは思えませんが……まぁ、自分の痛みではないからしょうがないか。


>「あの。それが100匹近く釣れちゃって困っているんです」

 何と言う入れ食い……ちなみにPiaGOの舞台のモデルとなった三崎海岸では普通にいわし釣りが楽しめるそうです。

 何やらいろいろ覚悟を固めた人もいるようで、次回は波乱がありそうな感じです。さてどうなりますやら。


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