翼持つものたちの夢
霜月天馬
第二部 17話 〜ドキドキキャンプ 前編〜
『じりりりりりりりり』
「ん〜。うるさいわね……」
私は腕を伸ばして目覚ましを止めて。時計の文字盤を寝ぼけ眼でみていた。
「は。いけない。遅刻。って。そういえば集合場所と時間まであと1時間以上あったわね。それじゃあ準備するか」
そう言いつつ私は長ズボンにTシャツその上に夏用のレインジャケットを羽織って、しおりに書かれていた装備品の他に飯盒と下草や木の枝を払うためのナイフ、それに防水布などをバックパックに詰めて準備していた。足元は山歩きに耐えられる安全靴にゲートルといういでたちで集合場所に向かった。
「おはようございます。治子さん」
「あら、おはよう。直ちゃん。ってあなたずいぶんな装備ね」
「まあ、一応用心に備えて用意してきたけれど。それよりも治子さんたちはずいぶん軽装だけど大丈夫なの?」
「直子さん。おはようございます。ってずいぶん重装備で」
「深山。おはよう」
「あ、純一君に充君おはよう」
「ああ。深山。おはよう。これはまたずいぶんな装備だな」
「ま”備えよ常に”だから」
「そういうことか」
「あ、おはようございます。よろしくおねがいします」
「おはよう。って。直子ずいぶん凄い装備だな」
「ああ。おはよう、美湖に美森」
「あの。おはようございます。それにしても、研修旅行にいけるなんて幸せです」
「おはようございます。間に合いましたでしょうか」
「みんなおはよう。おそかったかしら」
「ええ。大丈夫よ。香苗ちゃん。瑞希さん。あやのさん」
「ごめん。遅くなったかしら」
「ん。大丈夫よ。御堂さん。っと。これで全員そろったわね。それじゃあ今日と明日の二日間の研修旅行を開始するわ。それじゃあいきましょ」
そんな訳で私達は湖畔にあるキャンプ場へと歩いていった。まあ、それなりの山道だったけれど、以前やった50キロを2日で移動せよなんて無茶な要求ではないから私にとっては鼻歌交じりね。
と、まあ、そんなわけで無事にキャンプ場に着いた私達はまず寝るためのテントなどの設営にはいっていた。まあ、それぞれ分担しての作業であった。美森、美湖は薪拾い。純一君、充、千尋、あやの、瑞希の5人はテントの設営を私と治子さんの2人は水汲みと食材の仕込みを担当することになった。
「たしかここでいいのよね。それじゃあさっさと水を汲んで食事の仕込をしましょ」
「そうだね。って。直ちゃん力持ちね」
「ん。どして。ただ単に20リットルのポリ缶2つ持っただけなのに。治子さんも持ってくださいね。”働かざるもの食うべからず”ですよ」
「わかったわ。まあ、20リットルの水なら多分大丈夫。だって灯油缶やラード缶を運んだこともあるからね」
「そうです。その意気ですよ。それじゃあ早く水汲みを終えて、食事の仕込をしましょ。お腹すかせた野獣がまっているからね」
「そうね。それじゃあ急ぎましょ」
そんなわけで私達は60リットルの水を持ってキャンプ場にもどった。そして……
「うーん。なかなか火がつかないわね」
「ああ。それは一寸貸して。これはね薪を組んでその間に小枝や枯れ枝を入れてそして真ん中に新聞紙を持ってそれに火をつけて。そしてその直後に空気を送らないと火は点かないんだ」
私はそういいながら確実に火を熾していた。
「直ちゃん。なんで、そんな知識を持っているの?」
「ん。子供の頃から叔父やらおやっさんに仕込まれた。っと。それよりも治子さん見てないで手を動かして。私は飯を炊くから」
そんなわけで私は飯盒にご飯を仕込んで飯とクラムチャウダーを作っていた。焦がさずに飯を炊き上げていた。
そして、皆が来る頃には食事が完成していた。
「できたよ」
「おお〜。待ちわびたっす」
「うまそうだな。食う」
と、まあ、みな思い思いに飯を食べていた。もちろん私も鯨のように飲み馬のようにもりもり食った。
「ね、ねえ。深山さんと北川君張り合うように食べていない?」
「そうね。凄い食欲。それにしてもあれだけ食べてもまったくスタイルが崩れないなんて。うらやましいよ」
「確かにね。直ちゃんとの付き合い長いけれどあんな一面は初めてよ。ところで御堂さん。あなた北川君とラブラブなんでしょ」
「ぎく。なんで。店長がそれを……」
「まあ、直ちゃんも判っているわよ。それに愛し合う二人の邪魔するほど私は野暮じゃあないわよ。まあ、ある程度のTPOは弁えてくれたらありがたいんだけれどね……」
「……」
「面目ない」
「ん。別にいいのよ。充君も男ならどーんと根性みせてあげなさいよ。もちろん純一君もね……」
「は。はい治子さん」
「んと。貴方達も食べないと後がきついわよ〜」
と、まあ楽しい食事タイムがおわり後片付けもすませて少々けだるいころ……。治子さんや純一君は夜のイベントの準備をしているみたいだし、私はその辺の切り株に腰を下ろして休んでいた。
「むー。腹いっぱい食ったよ」
「まったく。よく食うな。直子は」
「まあね。食欲と性欲が無い人間なんて大したことは出来ないよ。生きるための基本資質ってやつよ」
「そうだけど。それにしても、あれだけ食べて、良くもまあスタイルが崩れないから不思議よね。あたし達はスタイル維持に必死なのに」
「ん。じゃあ。10キロの錘を体に装備して鉛と鋼鉄を仕込んだ靴を履いて店の仕事すればいやでもすらりとするわよ〜」
私が笑顔で言うとほかの皆は……
「なんか、直子が恐ろしくなってきた」
「錘をつけてもなお、私達がみて惚れ惚れするような仕事振り……。すごいですわ」
「まあ、死にたくないのと、私には誰も頼れるものはいないから、自分の身を守るためにも体力がないとだめだからね」
「なるほどな。深山。俺と腕相撲で勝負しないか」
「ん。良いけれど。ロハじゃあやらないわよ。そうね。貴方が勝ったらこの1000円あげるわ。私が勝ったら貴方が1000円払う。これでどう?」
「おもしろい」
で、賭けが成立したと思ったら、横から思わぬ声がした。
「なら、私は充君に1000円」
「では。私は直子に1000円」
「じゃあ。俺も深山さんに1000円」
「私も深山さんに1000円」
「私も直ちゃんに3000円。直ちゃん負けたらひどいわよ」
「は、治子さん……」
「あ、あの。賭け事はいけないことなんですが。私は北川様に2000円を」
「うーん。あたしは大穴ねらいで北川君に3000円」
と、まあ、千尋、美森、純一君、治子さん、瑞希、あやのもこの賭けに乗っていた。まあ、見物とどっちが勝つかの娯楽なんでしょうけれど、お金が絡むと私がどうなるか教えてあげるわ。
「あの。香苗ちゃん。ちょっと良いかな。貴方にレフリーをやってほしいの」
「え。レフリーですか? どうすれば?」
「簡単よ。私と北川君が腕相撲をするから、始まるときに公正な状態になっているかをみて開始の合図をすれば良いだけよ」
「あ、わ、判りました。ではその、やります」
「それじゃあやろうか北川君」
「ああ。そうだな」
そんなわけで私はテーブルの上にお互いの腕を組み合わせていた。
「香苗ちゃん。準備良いわよ」
「わかりました。では用意。始め」
香苗ちゃんの掛け声と共に私と充君のガチンコ勝負が始まった。
(くっ。なかなかやるわね)
(なるほど……。だが、俺の敵ではない……な。なんだと)
「ふふふ。女だからって甘く見たのかしら。これで全力なの」
「……」
「じゃあ。やらせて貰うわ。おらああ」
「勝負あり。勝者深山さんですぅ」
「やった〜。丸儲けだ〜」
「くううう。何てことだ……。まさか深山に負けるとな……」
「あ、北川君。別に私に負けても恥じゃあないわよ。私実は学生時代にエクストリームの中部地区大会優勝経験者だし。全国大会は怪我で出場できなかったけどね……」
「なんだと……」
がっくりうな垂れる北川であった。それを御堂さんが慰めているみたいだけれど。
なんか彼のプライドを木っ端微塵に砕いちゃったみたいね……。
で、そんなこんなで夜のお約束というべき肝試しと合いなった。
「さて、貴方達には特定のルートを歩いてあるものを回収してもらうわ。ヒントは私達の店のシンボルマークといえば判るわね。それじゃあ各自ペアを組んで動いてね」
そんなわけで各自それぞれペアを組んでいた。私はなぜか純一君と組んでいた。まあ、治子さんにアタックしたけれど店長だからここに待機するとかいわれてだめだったらしい。それで私にお鉢が回ってきたわけであるが……。
「その、直子さんおれじゃあ役不足かもしれないけれどエスコートするっす」
「ん。判ったわ。しっかり護衛しなさい。それじゃあいきましょ」
そんなわけで私達の番になって私と純一君の二人が歩いていると、私の目の前に八本足の糸を吐く物体が現れて……
「いやああああ! 蜘蛛、蜘蛛いやあああ!!」
思わず私は純一君に抱きついて押し倒していた。で純一君は。
「ちょ、一寸。苦しいっていうかこのやわらかさ良いなあ。って違った。どいてどいて。蜘蛛なら追い払いましたから大丈夫ですよ」
「え、本当……?」
「本当っす。それにしても深山さんでも苦手なものがあったんですね」
「うん。蛇やトカゲ、蛙なんかは食ってしまうほどなんだけれど蜘蛛だけはどうにもこうにもだめなのよ。軽蔑した」
「いや。そんなこと無いっす。やっぱり、深山さんも女の人だったんだな〜って。それにあの二つのふくらみの圧力は圧巻っす。治子さんよりもって。いたたた」
「まったく。せっかくお礼言ってあげようと思ったのに……。でもありがと……。あれ。もしかして回収するように言われたのってこれかしら」
「多分そうですよ」
そういって私達は小さなニンジンのバッジを2個回収して集合場所に戻っていた。
そして多少ハプニングもあったけれど、夜のイベントも終わり私達はそれぞれ割り当てられたテントに入って寝ている人間もいたわね。
私は焚き火を見張りながらその焚き火の上に薬缶を吊るしてコーヒーを沸かしていていた。出発前に行きつけのコーヒー屋で調合してもらった特製ブレンドコーヒー。飲む寸前に挽いた豆で入れるコーヒーはおいしいからね……。
で、治子さんと純一君は二人でどこか行っちゃったみたいだし、充と千尋さんも深夜の逢瀬にいっているみたいだからねえ。う〜。二人とも羨ましいよ……。まあ、朴念仁の治子さんと一途な純一君ならつりあいそうね。
「あら、おいしそうな匂いがするわね。もしかしてコーヒーかな」
「あ、治子さんに純一君。トルコ式のコーヒー作ったんだけれど飲む」
「ええ。いただくわ」
「俺も深山さんのご相伴にあずからせてもらいます」
そんなわけで私は薬缶からコーヒーを二人のカップに注いで私の分も同じく注いでいた。
「うーん。この香り良いわね〜。あら、直ちゃんモカの配合比を変えた」
「ええ。たまにはこんな配合のコーヒーもいいんじゃあないかな」
「確かに。おいしそうな香りが高いわね。それじゃあいただくわね」
「なんか凄くどろりとしたコーヒーっすね」
「砂糖は入れなくてもいいの」
「ええ。これ砂糖と豆を一緒に煮出したコーヒーだからね。野外にはこういう野趣あふれるコーヒーもありかなと思いまして」
「そう。あら、意外とおいしい。純一君の感想はどうかしら」
「うまいっす。こんなコーヒーを飲んだの初めてっす」
「おや、おいしそうな香りね。ってあら直子。コーヒーを入れていたのね」
「あら、御堂さんに充君。貴方達もコーヒーの香りに釣られてきたわね。貴方達も飲むか」
「ええ。いただくわ」
「ああ。もらおう。って。なんか凄く濃いコーヒーだな」
「まあ、トルコ式の強烈なやつだからね。この味に慣れる人はすくないかも……。ほかにも水出しコーヒーもあるんだけれど、それは明日の楽しみね……」
「そう。深山さんって意外とマメね。そんな風にやれるなんて」
そんなこんなで、年長組は楽しい深夜のお茶会をやっていた。
そして夜は更けていくのであった。
(続く)
管理人のコメント
治子の恋愛とか、いろいろ決着は付きましたが、夏はまだまだ終わりません。今回はキャンプの話です。
>飯盒と下草や木の枝を払うためのナイフ、それに防水布などをバックパックに詰めて準備していた。足元は山歩きに耐えられる安全靴にゲートルといういでたち
一泊二日のキャンプにどれだけ気合はいっとるねん。
>そんなわけで私達は60リットルの水を持って
女の子二人がコレをやってると考えると違和感が……まぁ、どっちも元男ですが(爆)
>もちろん私も鯨のように飲み馬のようにもりもり食った。
女の子なのにその表現はどうよ。まぁ、元おと(以下略)
>「いやああああ! 蜘蛛、蜘蛛いやあああ!!」
そんな直子にも意外な弱点が……なんか完璧超人ぽい人にこういう弱点があると、そこが萌えポイントになるのかもしれません。
>治子さんと純一君は二人でどこか行っちゃったみたいだし、充と千尋さんも深夜の逢瀬にいっているみたいだからねえ。
団体行動中に何してんだこの四人(笑)
>「ああ。もらおう。って。なんか凄く濃いコーヒーだな」
トルコ式はカフェインに敏感な人なら一発で目が覚めること請け合い。甘くしないと飲めたモンじゃないです。
この五人も今夜は眠れない事間違いないでしょう。
と言ったところで、キャンプ前半も終了。直子の持ち込んだ無数のアイテムは使われることがあるんでしょうか? 使われるような状況になったら困りますが。
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