翼持つものたちの夢

霜月天馬

第二部十六話 宴の後



「ん。ここは……。あれ。ああ。そうだった。夕べ治子さんや勇蔵達と飲んでいたんだったわね。それにしてもお互いに派手に飲んだなあ」
「んんん。ああ。直子かおはやう。はやいわね」
「そういう蝉代さんこそ……」
「まあ、私はあまり眠る必要がないからね。岩切と日野森の奴はもう引き上げたよ。それにしても直ちゃんは大丈夫なのか」
「ええ。まあ、あとの引かないような酒にしたからね。さて。他の連中がおきるまで私たちは一風呂浴びようか」
「そうね」
「おい。おはよう。直子お前達が風呂に入るなら俺も行くとしよう」
 そんな訳で私たちは3人は浴場へとあるいていった。
 一方その頃……。
「ん。あれ。直ちゃん……。あいたたた。久々にやっちゃったわね。ってなんで純一君が。確かわたし夕べは……。あれま全然記憶が飛んじゃったみたいね……」
「ううー。あれ。おれなんでここに。って治子さんがなんでとなりに」
「なによ。純一君。あれ。もしかしてアタシを襲った。いやそんな根性は無いわねというかあの状況じゃあ無理だしね……」
「あの〜。治子さん。もしかして俺って暴れたのかな」
「ん。純一君は暴れていないわね。でも、貴方のあの台詞はあたしの心に染みたわ〜。貴方の気持ちにこたえてあげるわ。でも、だからってうかれちゃ駄目だよ。少なくてもしっかりと私を支えられるだけの男の子に早く成長しなさい……」
「俺はやるぞ〜。治子さん……」
 と、まあ。二人がラブラブになりそうになったが其処はそうは問屋が卸さなかった。
「んあ。何よ〜。うるさいわね……。ってお姉さまが男の人とふ、不潔よ〜。ってあたたた。頭が……」
「あ。大丈夫。美春ったら無茶しすぎだよ。直ちゃんと張り合うのがむちゃなのよ。後で直子に礼を言った方がいいわよ。貴方急性アル中になりかけていたから。直ちゃんが処置しなかったら貴方今頃多分……」
「そう。それじゃあ。私は深山さんに貸しがあるわけね……。そしてお姉さまにも新たな恋が芽生えた訳か……。純一君だったわねお姉さまを頼むわよ……」
「美春あなたはそれでいいのかしら」
「ええ。確かにお姉さまに恋していたけれど、所詮は叶わぬ恋だったと自覚していたから。それにこうまでラブラブな状態を見せ付けられたら諦めもついたわ」
「そう。美春は引くわけかそれじゃああたしが治子さんを取るわね」
「さやか。貴方は愚かね。深山さんや坂上さんの一撃を喰らってもまだ判らないのかしら。私はお姉さまいえ。治子さんを困らせたくないだけだしね……。私もまた手の届くシアワセを掴む事にするわ」
「美春、あなたも直子と蝉代の毒気にやられたのかしら。何よあの人たち暴力だけの乱暴者じゃあない。おそらく純一も軟弱なんでしょうね……」
 さやかが言い終わる前に治子が彼女を思いっきり引っ叩いていた。
「さやか。私がとやかく言われるならまだ許せるわ。でも、私の友や店の仲間を悪く言うことは許さない。私は貴女を軽蔑するわ。そして貴女がどんなにやろうとも私は貴女に好意は寄せる事はないと思いなさい」
 そういうと治子はさやかに対して完璧に冷ややかな視線で彼女を拒絶し、治子はその場から去っていった。
 それを見た美春は……。
『治子さん……。やっぱり普段おとなしい人ほど怒らせると怖いことが良く判ったわ。素直に引いて正解だったみたいね』
 と、まあそんなことを考えていたりしていた。
 そしてそのやり取りを聞いて他の連中も目を覚ましていた。
「ん〜。何よ〜。って。純一君に治子ちゃんがラブラブ。あたたた。かなり飲みすぎちゃったみたいね。ボクも恋に破れて自棄酒のんでいたんだったワン。っておはよ」
「あ。つかさちゃんおはよ」
「ん〜。良く寝た。それにしても若いっていいわね。朱美さん」
「貴子さん。それじゃあ自分からおばさんだって言っているようなものよ」
「あら。まあ。事実そうだからね。さて、二日酔い覚ましに風呂でも入ろうか。朱美はどうする」
「私も行くわ」
「あら。治子はどうしたのかしら」
「治子さんなら、さやかを見限ったわ。そしてこれ以上治子にちょっかいをかけたら多分深山さんないしは坂上さんが黙ってはいないわね。それに、私も治子さんの恋路を邪魔して死にたくはないから」
「そうね。それじゃあ私たちも会計をすませちゃいましょ」
「純一君。私たちはこれで引き上げるから治子さんに宜しくって言ってね。そして純一君貴女が治子をサポートしていればいずれまた会えるわ」
「判りました。朱美さん。治子さんに伝えておきます」
 そう言って。朱美達4号店の連中は去っていた。それと入れ替わりに直子達が戻ってきた。
「あ。治子さん。それに深山さん。お帰りなさい。あの朱美さんたちはもう引き上げましたよ」
「そう。判ったわ。それじゃあ私たちも引き上げましょ」
「そうね。それじゃあ私たちもひきあげよう。勇蔵ありがとね。それじゃあまたね。蝉代さん」
「ああ。さびしいがやむをえんな」
「そうね」
 私たちは荷物の固定作業もおわり私たちが引き上げるべく単車を走らせていたが……。私のバイクにぴったりとしつこく喰らいついてくるマシンが一台あった。私は治子さんたちにあとを任せてあいつとけりをつけようと奴を峠へと誘導した。
「やはり食いついてきているわね。マシンは隼か多少は改造しているようね。排気量は私の方が不利だが排気音を聞く限り奴には排気タービンは装備されていない。ならばトップスピードはこちらの方が有利。って喰らい着いてきているわね。中々の腕だな。仕方ない。こうなればアレは使いたくは無かったわね……」
 私が秘密兵器を使用しようとしたがこの先がやばい状況だった。そう。道が埋まっていたのであった。私はとっさにフルブレーキを掛けた。そして後方の奴もまた無事に制動し安全にマシンを無事に停車させる事に成功した私達はマシンを適当な場所に止めてヘルメットを外してその顔を見て私たちは驚いていた。
「直子。あんただったわね。なかなかの腕前ね。プレッシャーに負けて自爆してくれたらもうけものと考えていたけれど。私の完敗ね……」
「そう。やっぱりそうだったわけね。でも、さやか。貴女も中々やるわね。全開走行の私のV−maxに喰らい着くなんてね。私のは少なくても230馬力叩きだす代物なのにそれにこの排気音私のマシンと似た音だったわねどこで手に入れたのかしら」
 私がさやかに質問するとさやかは素直に答えてくれた。
「私は貯金して稼いだ。ライテクは無免で90のカブで鍛えた。エンジンを少し改造した程度よ」
「そうか。私のマシンはエンジン、ミッション、ブレーキ、フレーム、タイヤ、スプロケット全部手を入れてある。まあ、スクラップになったV−maxやら他のマシンのパーツを組み合わせた。殆どオリジナルマシンといっていいかしらね」
「なるほど……。直子どうやら私の完敗のようね。治子さんに伝えてくれないかしら。純一君とお幸せにって伝えてくれる」
「判ったわ。だけどさやか。恋に破れたからって早まっちゃあ駄目だよ。死んだら男ともやれないし。ご飯も食べれないんだから。私も天涯孤独だけど、夢があるから生きていられるわ。さやか貴女の目標ってなにかあるかしら」
「私……。私はまだ無いわね……。ところで直子に聞きたいことがあるけれど良いかしら」
「ん。いいわ。何でも聞いて」
「じゃあ。聞くわね。直子と治子さんはどこで出会ったの。そして、蝉代さんのことも聞きたいわね」
 さやかの質問に私はありのままを答えることにした。
「そうね。わたしと治子さんの馴れ初めは治子さんが不良に絡まれていたのを私と勇希で助けたの始まりね。そして私がPiaキャロの3号店でバイトを始めたらそこで店長補佐をしていた治子さんとばったり。と言うわけね。そして蝉代さんは私の後見人が経営している解体屋で住み込みで働いていたわね。彼女の過去はについては私は知らないわ。ただ、島神から天翼に流れてそこで行き倒れていた所を助けられてそれが縁で住み込みで働いていたみたい。そして蝉代さんと治子さんとは空つながりでしりあったわ」
「そっか。それを聞いて安心したわ。それじゃあ私は行くわね」
「ちょっと。まちなさいさやか。あなたやめるかどうかわからないけれどこのまま治子さんと喧嘩別れになるのは良くないわよ。私が仲介するから治子さんに謝っておきなさいよ。そしてそれから自らの道を切り開くのもありなんじゃあないかしら。さやかに視力と英語力があるのならば大空を飛ぶ事さえも可能だしね……」
「そうね。それじゃあ直子。貴女に任せるわ」
 そんな訳で私はさやかを連れて治子さんにあうことにした。
「あら。直ちゃん。で、なんでさやかが此処に来ているのかしら」
 冷ややかな視線でさやかを見つめる治子だったが、さやかはその視線にひるむ事無く彼女に謝っていた。
「治子さんがあたしのことを軽蔑するならばそれも仕方の無い事です。私はそれを甘んじて受けるわ。私は治子さんに一言謝りたかったから……。ごめんなさい。あたし、どうやら貴女の仲間を見下していたみたいだったわ。直子から話を聞いて私は……」
「さやか。別に良いわよ。貴女の能力はわかっているわ。それにその情熱と度胸もね……。貴女に良い人が現れる事を祈るわ。さやか」
「治子さんありがとう。それじゃあ私はこれで」
「そう。さやか。貴女どうやってきたの」
「ん。隼で来たのよ。それじゃあね」
 そう言ってさやかは私達の寮から去っていった。そして残った私と治子さんは……
「直ちゃん。あなたとさやかがどうしてこんなに仲良くなったのか教えてくれるかしら……」
「そうね。あえて言うなら。死と紙一重のレッドゾーンダンスを交わした友情ってやつね」
「そうか。もしかして直ちゃんに食いついていたあの隼がさやかだったのね」
「そういうこと。治子さんも決めたなら貴女を慕っていた人の思いや痛みを忘れないように純一君と仲良くしないと彼女達がかわいそうだよ」
「わかっているわ。あーあ。直ちゃんにそんなこといわれるなんてね。ま。私が初心というかニブチンだっただけかもね。そういう意味ではさやかや日野森に感謝しなきゃね。きっかけを作ってくれたわけだしね……」
「そうですよ。それじゃあ私は晩御飯の材料の買出しと仕込があるからこれで」
「ちょっと。待ちなさいよ。私も買出しに行かなきゃ駄目だし私も行くわ」
 そう言って私が治子さんの部屋を出ようとしたらそこでばったりと千尋さんに出くわしていた。
「あら。直子に店長。どこにいくのかしら」
「ん。晩御飯の食材の買出し。千尋はどうなの」
「ん。私もそうよ。そうだ。今日ついでだから私に料理のレクチャーを頼めないかな」
 千尋の提案に私は即答していた。まあ、約束は約束だからね。
「判ったわ。それじゃあ今から食材の調達するし千尋も一緒に来て。レクチャーは其処から始まるからね……」
 そんな訳で私たちは食事の材料の買出しに出向いていた。楽しい休みも前半戦が終わっていよいよ後半のキャンプだ。どうなるか楽しみだよ……。

(続く)


管理人のコメント

 治子の恋に関する話は決着しましたが、話はまだまだ続きます。

>「ん。あれ。直ちゃん……。あいたたた。久々にやっちゃったわね。ってなんで純一君が。確かわたし夕べは……。あれま全然記憶が飛んじゃったみたいね……」

 みんなして呑みすぎです。


>「貴子さん。それじゃあ自分からおばさんだって言っているようなものよ」
>「あら。まあ。事実そうだからね。さて、二日酔い覚ましに風呂でも入ろうか。朱美はどうする」

 昇がおばさん呼ばわりするとキレる貴子ですが、自分が言うのはいいんですね(笑)


>早まっちゃあ駄目だよ。死んだら男ともやれないし。

 直子……励ますのは良いけど言葉選べよ。


>楽しい休みも前半戦が終わっていよいよ後半のキャンプだ。

 コミケはもう終わりでいいのか……それにしてもアクティブにいろんなところに行く休みです。私は最近休みはごろごろしてるばかりです(苦笑)


 と言う事で、直子の休みイベントも後半戦突入。何かまた事件がありそうな予感です。


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