翼持つものたちの夢

霜月天馬

第二部十四話 〜同人の世界へようこそ 後篇その1〜



大江戸温泉入り口

「着いたぜ。此処がそうだ」
「ふーん。なんかノスタルジックな外見ね」
「まあな。だが、中身は最新の設備をそろえているぞ」
「懐かしいな」
「へえ〜。立川雄蔵が選んだ所ってけっこう渋い所をえらんだわね」
「まあな。ただ、静かに風呂に入るにはもってこいな場所だからだ。治子さん」
「そう」
 私達がそんな風に会話していると貴子さん率いる一団がやって来た。
「お姉さま〜。お会いしたかったです〜」
「ちょっと美春。あなた負けたんだから駄目でしょ」
「何言っているのよ。いの一番に負けたのは貴方でしょ。さやか」
 いがみあって、あわや一触即発な状況になろうとしたのを止めたのは貴子さんであった。
「ちょっと。ふたりともこの場は喧嘩する場所じゃあないわよ。休戦協定を破る気かしらもしそうならアタシが相手になるわよ」
「っく。そうね」
「そうね。それにお姉さまも結構強いし、それに直子って言う人も強いわよ。この私が一撃でやられちゃったしね……」
「そうよ〜。今回はアタシが勝ったのだから〜。貴方達は指くわえてみてなさいよね〜。治子ちゃん〜。って治子ちゃんに虫がついているわよ」
 朱美の指摘にすばやく反応したのが美春とさやかの二人だった。
「ふーん。治子さんを狙う若い燕か。美春どうやらあたし達が共同で排除しなきゃならないわね。あいつを」
「ええ。そうね」
「「治子さん(お姉さま)の為に」」
 とまあ、勘違いしている二人以外の4号店の連中は
「ふーん。まあ、治子が結局だれを選ぶなんて判らないからね」
「そういうことね。まあ、深山さんと坂上さんの二人だけは敵に回したくは無いわね。私も命が惜しいから」
「そうね」
 で、直子達は。
「えーと。下足キーをフロントに預ければ良いんだね」
「そうだ。勘定は後払いだからな」
「ん。判ったわ」
「へえ。こんなところがあったとはね。今度から休日は此処を利用しようかしらね」
とまあ、それぞれチェックインをしていた。
「おう、それじゃあ1850に此処で落ち合おうぜ」
「ん。判った。それじゃあ勇蔵じゃあね。それじゃあ治子さん行こうか」
「ええ」
 そんなこんなで私たちは館内着とタオルを貰ってロッカールームへと消えていった。で、それから数分遅れで4号店の皆も入ってきていた。
 
 更衣室にて……。
「いてて……痣になっているな」
「大丈夫か直子」
「どうやら、蝉代さんとの一戦でかなりダメージを食らっていたようね。ところで、蝉代さんは大丈夫なの」
「大丈夫だよ。それにしても本当に直子ってスタイル良いわね」
「うんうん。そうだね〜。ボクも直ちゃんをみていると羨ましいって思うよ」
「たしかにそうね。いつも見慣れているとはいえ。やっぱりね……」
「そ、そんな〜」
 とまあ、風呂に入るべく着替えをしていた。で、一方4号店の皆さんは……
 
 
「なるほどね〜。まあ、敵を知る事が肝心ね。さやか、此処は共同戦線といきましょ」
「ええ。将を射んとするならばその馬からってやつね。深山さんか坂上さんを味方に引き込めばね……」
「ええ。やるわよ」
 とまあ、美春とさやかの二人は共同戦線を張ろうと画策していた。で、一方貴子さんたち年長組は……。
 
 
「ふふふ〜。ウチの風呂とどこが違うのかみてみようかしら〜」
「それにしてもまさかひさびさの休みに東京にいくなんてね〜。まあ、治子ちゃんといくつか話したいこともあるからいいチャンスかもね」
 とまあ、そんなこんなで浴場へと足を運んでいた。
「背中流してあげようか」
「あ、有難う。助かります。って貴方だれ」
「私は美春よ。あなたに一撃でやられたね」
「それはすまなかったわね。でも、競技の中だからそれ以上は謝らないわよ」
「判っているわ。私もその辺の仁義はわきまえているわよ」
「そう。それならいいんだけれど。じゃあお願い」
「ん。わかった。直子さんの肌ってきめが細かくて羨ましいわ……」
「そうかな。でも、水着コンテストだったら私は決して美春たちには勝つことは出来なかったね」
「なんで。これだけのスタイルのよさなら勝てるはず……って。そういうわけね。でも、何故こんな傷を受けたのかしら」
「そういうこと。以前、事故で大怪我してね。その時に100針以上縫う大怪我を負ってね。まあ、その怪我が無かったら今頃こうして貴方と会う事も無かったでしょうね」
「そう。直子さんも決して最強と言うわけじゃあないわけね」
「そういうことよ。美春も見た所かなりやんちゃしていたでしょ。あの勇希とほぼ互角に戦うなんてね」
「まあ、私も、以前は道を踏み外して、そしてその道から抜け出して再び引き込まれそうになった時に助けてくれたのが治子お姉さまだったんです」
「へえ〜。治子さんも意外とやるのね。でも、治子さんってあの通りの朴念仁だから多分美春のアタックに気がついているのかどうなのか……」
「ええ。そうなんですよ〜」
 それを聞いて私は軽くため息をついていた。
「やっぱりね。治子さんに思いのたけをぶつけてみたらどうかしら。それで駄目なら諦めもつくんじゃあないかしら。もっとも、あまり追撃しすぎて返り討ちなんていうのも考え物だけどね。引くのもまた勇気よ」
「そうですか。此処は押しの一手では」
「ほら、よくいうじゃあない。押して駄目なら引いてみよってね。私が言えるのはそれだけよ。ありがとう。今度は私がやってあげるわ」
「ありがとう」

 とまあ、私たちがお互いに背中を流し合っている頃蝉代たちは……。
「ふーん。朱美さんって店長さんなんだ。まあ、へっぽこに見えても指揮能力はしっかりしているんでしょうね。そうでなきゃあのオーナーが店長に任命なんかするはずが無いしね……」
「そうよ。ところで坂上さんって本店勤務ということは高井さんと同じね」
「そうですが。本当は治子と轡をならべて戦えれば良いんですがね。まあ、直子の方がこの店では先輩ですからね。あと蝉代でいいわ」
「わかったわ。あたしも朱美でいいわよ」
「直子の方が先輩ってことは蝉代は今まで何をしていたの」
「ん。天翼で解体屋の住み込み従業員をしていた。建機、重機の操作や大破したトラックや自動車の回収や整備解体をしていたわね。直子もそうだけど、その気になれば単車ならレストアできるわよ」
「もしかして、貴方の乗っていたバイクもそうなの」
「そうだよ。幸い工作機械もあったから部品の改造なんかも全部自分で手がけたしね」
「ずいぶんと違った方面から来たのね」
「まあ、治子や直子には義理があるから……。それに私には夢がある」
「それはなにかしら」
「笑うなよ」
「笑わないわ」
「パイロットを目指している。その為に猛勉強しているんだからそれに直子とともに航空学生試験を受験しようとおもってね」
「へえ〜。まあ、まだ若いんだからいいことよ。それに夢に向って突き進むのは悪くないわね。それじゃあ蝉代背中を流してあげるわよ」
「いえ。私は大丈夫よ。それよりも私が流してあげるわ」
「ありがとね」
 とまあ、お互いに洗いあっていた。
「それにしても貴子さんは相変わらず寮の管理人をしているのかしら」
「そうよ。まあ、過去を振り切れたのは治子ちゃん。貴方のおかげよ。それは感謝しているわ。治子ちゃんのほうはどうなのかしら」
「ん。まあ、直ちゃんや純一君といった優秀な部下に助けられたり助けたりで、一生懸命がむしゃらにやっている所かしら」
「あ、あの。治子さん。もしヘルプが必要ならアタシを呼んで下さいね。いつでも待っていますから」
「ありがと。でも、今の所は大丈夫よ」
「そうですか」
 とまあ、3人ともそれなりに会話をしていた。

 一方勇蔵達は……
「そうか。直子の奴も張り切っているんだな。釘を刺しておくが直子には手を出すなよ。出したら俺がボコる」
「大丈夫ですよ。自分は少なくても深山さんは目標にしていませんから」
「ほう。では誰が好みなのだ」
「そ、それは……店長の……」
「なるほど。でも、みてみるとつかさ女史も君を狙っているようだな。君のこれからの健闘を祈るぞ」
「はは。どうも……」
「まあ、少なくても直子は君の事を支持するだろうな。俺たちの走りにへばらずに単車の後ろに乗り続けた君の力を認めたぞ。なにしろ、単車を転がすよりも後ろの方が体力を倍以上使うからな。それも平均120キロ前後の高速度を耐えた根性は凄いぞ」
「はは。まあ、一応運動部員で体育会系だったんで、体力だけは自信があったので」
「そうか。俺はもう上がる。あまり長湯すると後がきついからな」
「そうっすか。俺はもう少し入っていますよ。確か1850までに集合すればよかったんですね」
「そうだ」
 とまあ、お互いに友情を深めていたようだった。

 で、その頃直子達は……
『んぐんぐぷはぁ』
「やっぱり風呂上りには牛乳だよ。美春も飲む。私がナイスバディになったのも毎日牛乳飲んでいたからだしねえ」
「そうなんですか。じゃあ私も……」
「美春だけに抜け駆けさせるわけにはいかないわ。私も飲む」
「あらん。ミルクなら私も飲むわよ〜」
「じゃあ私も飲もうかしら。ま、私はコーヒー牛乳にしようかしら」
「治子さん以外と渋いわね。じゃあボクはフルーツ牛乳にしよっと」
「私もコーヒー牛乳を飲むとしよう」
「へー。蝉代も私と同じのを飲むのね」
 とまあ、美春、さやか、朱美、治子、蝉代の5人並んで一息に飲んでいた。
「あらん。意外と様になっているわね」
「そうっすね。壮観な眺めかも……。っていけないそろそろ着替えないと。貴子さんたちも参加する意思があるなら私と一緒に来て」
「ん。判ったわ。アタシは参加するわ」
「貴子さんが参加するんじゃあ。あたし達も参加するわ」
「そうね」
「治子さんも参加するのかしら」
「もちろんよ。だって、蝉代と話し合うなんて久々だしねえ〜」
「くっ。美春どうやら。あたし達もこれまでかしらね」
「そのようね。でも私は最後まで諦めないわよ。ヤルだけやって玉砕しても諦めも着くけれどそうでなければ諦めきれないわ」
「そうね」
「ほらほら。さやかに美春〜。着替えないとやばいわよ〜」
「「いっけない〜」」
 そんなこんなで私たちは支給された館内着に袖を通して落ち合う場所へと向った。
「いよう。直子早かったな」
「あ、勇蔵……。アンタも早かったわね」
「まあな。えーと。これで全員か」
「まあ、今の所はね……」
「そうか。じゃあ飲むか……」
「ええ〜」
 とまあ、そんな訳で乱痴気騒ぎの宴の幕が開こうとしていた。


(続く)


管理人のコメント
 前回は何故かセメントマッチなコスプレファイトを繰り広げた一行。今回は宿に場を移して夜を迎えます。


>大江戸温泉入り口

 大江戸温泉はお台場にある温泉施設。コミケ帰りの利用者も結構多いそうです。


>「ちょっと美春。あなた負けたんだから駄目でしょ」
>「何言っているのよ。いの一番に負けたのは貴方でしょ。さやか」

 恋敵同士、あまり仲が良くありません。


>「「治子さん(お姉さま)の為に」」

 と思いきや、共通の敵の前では団結できるようです。意外に良いコンビだなこの二人。


>「いえ。私は大丈夫よ。それよりも私が流してあげるわ」
>「ありがとね」

 意外に良いコンビと言えば、朱美と蝉代も。大人同士なので話が合うのかもしれません。


>とまあ、お互いに友情を深めていたようだった。

 勇蔵と純一も友情を結んだようです。まぁ、この二人は利害が対立しないからでしょうけど。


>とまあ、そんな訳で乱痴気騒ぎの宴の幕が開こうとしていた。

 拳を交えれば友情が芽生える理論? かどうかはわかりませんが、それを固めるのも壊すのも酒の効果。この宴、果たしてどうなりますやら。


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