翼持つものたちの夢

霜月天馬

第二部十二話 〜同人の世界へようこそ 中篇その1〜



コスプレ会場 女子更衣室 1010

「ふう。ようやく着替えられるわね。それにしても登録料を取られるとは思ってもいなかったわね」
「ん。でも、更衣室の使用料と思えばそれにこのカードは開催期間中有効だから問題ないんじゃあないかな。あ、直ちゃん、貴重品は持っていた方がいいわよ」
「うん。ありがとね。つかさちゃん。それじゃあ着替えますか」
 そんな訳で私たちはそれぞれ用意していた衣装をカバンから取り出して着替えを始めた。
「へー。直子って関羽なんだ」
「ん。あれ、勇希のこの衣装ってもしかして、恋姫の趙雲かしら」
「そだよ。治子さんが馬超で直子が関羽、それにつかささんが張飛ね。そして蝉代さんが黄忠のコスか。これだと蜀の五虎将軍勢ぞろいしたわね」
「そのようね。でも、勇希はともかく蝉代さんが恋姫バサラをやっていたとは驚きね。蝉代さんは元ネタをしっているのかしら」
「ええ。何度かプレイした。結構面白い思わず熱中してしまったねえ」
「そうだったんですか。それじゃあいよいよ出ようか直子ちゃん、治子ちゃん」
「そうね。こっちはいつでもOKだよ」
「私もOKだよ」
「私も問題ない」
「あたしも大丈夫よ」
「それじゃあいよいよ逝こうか」
 そんな訳で私たちはつかさちゃんの誘導に従ってコスプレ広場へと突き進んだ。そして私が見た光景は……
「す、すっごーい。凄い人の集まりね」
「直子。あんた震えているの」
「そういう。勇希だって震えているじゃあない」
「だって。あたしこんなにも大勢の人を見たことって無いもん」
「まあ、わたしもそうだしね。それにやると決めた以上やりぬくだけよ」
「そうね。そうだったわね」
「お、直ちゃんと勇希ちゃんのふたりとも腹を決めたようね。二人が決めたなら私もブルっているわけにはいかないわね」
「おお〜。流石は治子ちゃん。ここ一番の度胸は凄いワン」
「確かにそうね。それにしても治子さんの姿に思わず見ほれてしまうわ。っていけない。写真機に収めないと……」
 写真機を構えようとした蝉代に対してつかさちゃんが制止していた。
「だめだよ。一応、許可を得ないと。無許可で写真を撮っていたのがばれたら幾ら登録している写真機と言えども写真機とメモリーやフィルムを没収されてしまうんだワン」
「そうなのか。それじゃあ治子さん。お願いできるか」
「ええ。いいわよ」
 そんな感じで蝉代さんは写真機に治子の雄姿を納めていた。
「よう。直子その格好は……」
「なっ。勇蔵……。もしかして私似合っていなかったのかしら……」
「違う。あまりに嵌りすぎて言葉を失っていただけだ。今日一日俺がエスコートしてやるからな」
「うん。あ、ところで、純一君は」
「ああ、奴なら既につかさちゃんのところに連れて行ってやった」
「そう。それじゃあ案内お願いね。勇蔵」
「おう。任せておけ」
 そんな訳で私は勇蔵の護衛の下、オタのイベントの会場を歩いていた。まあ、途中でサークル「辛味亭」と「ブラザー2」と「CAT OR FISH」となるサークルの列を並んみたが、何故アソコまで熱中できるのだろうかと私は不思議であった
 けれど、その疑問も彼から差し出された冊子を読んでみてその疑問が一片に氷解していた。
 そう、それはかの千堂 かずき先生の本であったが、それは素人の私でも思わず引き込まれてしまう何かを秘めたものだった。
 そして、めぼしい所を回った私たちは適当な場所で休む事にした。
「とまあ、今、ホットな所だな。他にもあるが、あたり外れが多いからな。まさにここは玉石混交だよ。俺は直子に玉の方を見せたがどうだった。ってどうやら、直子の方が俺よりも深みに沈みそうだな。これは……」
「ん。ああ、ごめん。勇蔵。でも、なんというか凄いわね。まさに此処はある種のガチンコ勝負なのね。そして、表現の場でもあると……。そういうわけか。有難う。ところで、勇蔵。あんた。ブラザー2の女の人と何か話をしていたみたいだったけれど、まさか、私に隠れて浮気なんてしようって言うんじゃあないわよね〜。もしそうならアンタの両手をへし折って簀巻きにして錨を抱いてレインボーブリッジから紐なしバンジーを体験してもらう事になるけれどね」
「まてまて〜。直子。それは勘弁してくれ。俺は作者のひとと話があっただけだ」
「そう、それってどういうことかしら。話してくれるわよね〜。そうでなかったら腕一本をへし折るわ」
「わ、判った。判ったから話すよ」
 そんな訳で私は勇蔵から話をいくつか聞いて安心するような内容だったので安心した。
「なんだ〜。そういうことだったのね。それにしても勇蔵。あんたも本当にシスコンね」
「うるせー。兄貴って奴そういうもんなんだよ。なんだかんだと言っても妹のことが心配なんだよ」
「そっか。ところで勇蔵。これからこすぷれコンテストって奴があるみたいなんだけれど治子さんたちも出るから私もエントリーしようかな」
「なに〜。むう。直子ならば優勝は難しいが上位には食い込めるかもしれないな。まあ、やってみるがいい」
「ほんと〜。じゃあ行こ」
 と、言う訳で私たちはコンテストの受付場であるコスプレ広場へとあるいていた。

 で、同じ頃治子達は……。
「うーん。留美さんやつかさちゃんにつれられてきていたからある程度は耐性をつけてきたつもりだったけれど凄い人ね」
「あの〜目線ください〜」
「は〜い」
「うー。それにしても治子ちゃんや蝉代ちゃんにカメラ小僧が集中するなんて羨ましいんだワン」
「あの〜。こっちもおねがいしますね〜」
「はいはい〜」
 とまあ、治子、蝉代、つかさの3人はカメラ小僧達に取り囲まれている状態であった。で、その状況にさらに火に油を注ぐこととなるのであるが……。
「はっ。お姉さまがあんな所に。此処で私が助ければ。アーんな事やこんな事に……むふふふ。お姉さま〜美春が参りますわ」
「一寸待った〜。美春〜。アンタだけには抜け駆けさせるわけにはいかないわよ」
「ちっ。さやか。こうなる前にお姉さまを奪還しようとしていたのに……」
「んふふふ〜。美春ちゃんにさやかちゃ〜ん。アタシたちを出しぬこうったってそうはイカのなんとやらよ」
 治子を奪還するべくその輪の中に突撃しようとしていたさやかと美春を止めた人たちがいたそれを見て二人は固まっていた。
「まさか、このアタシがこんな衣装を着るなんてねえ」
「んふふ〜。似合ってますよ。貴子さん」
「あ、朱美さん。貴子さんそれは……一体〜」
 さやかが硬直から解けた時に放った言葉がそれだった。
「ん。昔取った杵柄ってやつでね。情報だけは仕入れていたし、それに留美先輩から仕込まれていたからね〜」
「それにしても、朱美さんが洋裁ができたなんてね。アタシの服もそうなんでしょ」
「まあね」
 まあ、美春とさやかが固まるのも無理も無い話しであろう。なにせ、朱美と貴子のふたりはコスプレをしているのであるが、その衣装というのが『戦姫無双』のコスをしていた。ちなみに朱美が「真田幸村」で貴子が「前田慶二」のコスをしているがそこまで見破ることはさやか達には無理な話であったが……。
「二人とも、此処で襲撃するのは無理な話よ。此処は非武装中立地帯であり、此処で貴方たちが襲おうとすれば逆にやられるだけよ。それでもやるなら私は止める事はしないけれどね。治子を奪還する方法が無いわけでもないんだけれど〜。やるかやらないかは貴方達にまかせるわ」
 朱美の言葉に二人は迷いを見せていたが、いち早く美春が同意を見せた。
「判ったわ。どうやらお姉さまを奪還するにはこれしかないようね。それじゃあ優勝者がお姉さまを自由にすると言う事でどうかしら。それなら私も納得がいくわ。さやかはどうするの逃げるならそれはそれで良いけれど、もう二度とお姉さまとは……」
「アタシもやるわ。治子さんを貴方なんかに渡すものですか〜。美春。貴子さん、朱美さんアタシも負けませんわよ〜」
 とまあ、そんな訳で火に油を注ぐ事はなくなったが、新たな火種がまた発生することとなる。
 で、治子さんたちは……
「ねえねえ。治子ちゃん、蝉代ちゃん。貴方たちもコスプレコンテストに出てみると良いんだワン。ボクもでるし、それに直子ちゃんも出るってさ。ボクらがでて1234フィニッシュしないかしら」
 つかさの提案に即座に反応したのが蝉代だった。
「ふーん。面白そうね。賞金が出るのかしら」
「一応、賞金は無いけれど賞品はでるみたいよ」
「それじゃあ私はやるわ。治子もやろ」
「蝉代がやるなら私もやるわ」
「それじゃあそういうわけで行くわよ〜」
 と、まあ、つかさ達が行こうとした所でそれを止めた人物がいたそれは……。
「ふふふ〜。このあたしを差し置いていこうなんて治子さん、蝉代さんずいぶん冷たいわね〜」
「あら、勇希ちゃん。疾風君はどしたの」
「ん。ああ。アイツならメーカー系のブースに行っちゃって逸れた。まあ、落ち合う場所は決めているし、それにアタシもコスプレコンテストでるって無電を打ったから気付くでしょうしね」
「それじゃあ。4人揃ったところで行きましょう〜」
「「「「おー」」」」
 で、輪から外れた純一君は……
「あ。待ってくださいよ〜」
 後から律儀についてきたみたいである。

(続く)


管理人のコメント
 無事夏コミ会場に到着した一同、早速着替えの最中です。
 
>「す、すっごーい。凄い人の集まりね」

 まぁ、下手すると彼らが普段住んでいる町の人口をはるかに超えている人数ですし……コスプレ広場にいるのが何人なのかまでは知らないですが、数千はくだらないでしょうしね。
 
 
>「確かにそうね。それにしても治子さんの姿に思わず見ほれてしまうわ。っていけない。写真機に収めないと……」

 カメラではなく写真機という辺りが、彼女の生まれを示してますね(笑)。
 
 
>もしそうならアンタの両手をへし折って簀巻きにして錨を抱いてレインボーブリッジから紐なしバンジーを体験してもらう事になるけれど

 人それをリンチといいます。しかし女の子の嫉妬は恐ろしい。直子の場合は絶対に本気ですし。
 
 
>「そっか。ところで勇蔵。これからこすぷれコンテストって奴があるみたいなんだけれど治子さんたちも出るから私もエントリーしようかな」
>「なに〜。むう。直子ならば優勝は難しいが上位には食い込めるかもしれないな。まあ、やってみるがいい」

 彼女には本心でなくとも「お前なら優勝できる!」くらいは言っておくモンです。
 
 
>なにせ、朱美と貴子のふたりはコスプレをしているのであるが、その衣装というのが『戦姫無双』のコスをしていた。

 無双シリーズも女の子版が……まぁ、最近はあのシリーズも女性キャラ増えすぎで現実にそうなりつつありますが(爆)。
 それにしても、朱美なら留美からコスプレについて聞いていてもおかしくないですね。その発想は無かった。
 
>「あ。待ってくださいよ〜」

 すっかり忘れられた純一……哀れ。
 
 という事で、次回はコンテストでしょうか。直子たちは勝てるのか、そして貴子たちPia3組の陰謀とは?


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