翼持つものたちの夢

霜月天馬

第二部十一話 〜同人の世界へようこそ 前編その2〜



単車組 0150 有明 国際展示場正門近く
「ようやく着いたわね。勇蔵。どの辺りに単車を置いておこうかしら」
「ああ。そうだな。近くに船着場があるからその辺りに単車を止めておけばいいだろうな。もっとも盗まれないような処置をしておけよ」
「わかった」
 そんな訳で私は、チェーンロックをしその上、バッテリー端子を外しておいた。こうしておけば、ユニックでも使われなければ動かす事は不可能に近いはずだしね。わたしがその作業を終え、周りを見回してみると治子さん達もそれぞれ、盗まれないように処置をしていた。それを見て私は固定していた荷物を外しはじめた。そして、荷物を降ろし終えた頃、勇蔵が私に話しかけてきていた。
「なあ、直子。治子さんの後ろに乗っていた。秋山だったっけ。あいつかなりの根性の持ち主だぜ。俺や直子のペースについてきた治子さんやつかさちゃんも凄いが、それよりも凄いのはあいつだな。バイクの後ろにのるのって転がすよりも倍以上の体力を使うからな」
「そうだよね。これをみて少なくても私は彼を支持することにするよ。それにしても、湾岸道路での青のインプレッサはしつこかったね」
「ああ、あの走り方は間違いなく俺たちを狙った走り方だったが、直子。おまえ、最近やんちゃしているか。特に走り屋とかにV−Maxで喧嘩売ったとか」
「ん。それはないわよ。タダでさえガソリンの値段が高い上に、私のマシンって高オクタン燃料使わないと駄目だから、そうそう動かすことなんてしないわよ。まあ、メンテは欠かさずしているけれどね」
「そうか。俺も喧嘩をうってないし、治子さんやつかさちゃんがすすんで走り屋たちに喧嘩を売るとは思えないしな。勇希達もメインは此処じゃあないから除外されるしな」
「ん〜。でも、なんか治子さんのマシンをメインに狙っていた様子だったわね。女の4人組が乗っていたみたいだったね。でも、それにしても、性質の悪いねらい方だよ。一歩間違えていたら私ら全員あの世行きだったしねえ」
 そんな訳で私は、荷物をおろし終わった治子さんに話しかけた。
「治子さん一つ聞きたいけれど、治子さん最近女性達となにかトラブルってなかったかしら、それもかなりの腕の持ち主の女の走り屋とトラブルとか……」
「うーん。思い当たる節はないけれど、もしかしたら……」
「ん。何かあるのね」
「うん。以前私がヘルプで来た4号店の人たちかも。間違いないわ。運転席に座っていたあの人の人相と着衣から見て確実よ。直ちゃん、勇希ちゃん、蝉代さん、つかさちゃん、疾風君、勇蔵君、秋山君。かなりの修羅場になるかもしれないわね」
 治子さんは、私たちに以前の経緯を話していた。そして黙っていた蝉代が語りだした。
「どうやら、私からさやかに情報が流れてそしてそこから4号店の皆に伝わったようね。となると、私が治子を護衛しないと駄目みたいね。で、直子はどうするつもりかしら」
「ん。私は勇蔵と一緒に回ろうと思っているんだけれど。勇蔵駄目かしら」
「ん。大丈夫だ。今回は妹の注文は無いから直子達をエスコートできるぜ」
「ありがとね。勇蔵」
 とまあ、わたしと勇蔵はラブラブな雰囲気を出していた。で、それを見ていていた周りの連中は……
「うーん。まさかあの深山さんがあんなになついているなんて……。俺もあそこまで支えれるような男にならねば……」
「相変わらずだな……」
「そうね。でも、私たちだってまけてられないわよね。疾風〜」
「う〜。直子ちゃんにも彼氏いたんだね〜。こうなったら負けていられないんだワン。純一君、ボクが此処のイベントのイロハを教えてあげるんだワン」
「となると、私達は集合で動いた方がトラブルが少なそうね」
「そうだな。おっと、列に着かないと折角先行した意味がなくなるぜ」
「ん。そうだったワン。それじゃあ行こうか」
 そんな訳で私たちは集合していた列に並ぶ事になった。
「直子。夏とはいえ夜は冷える。これを使いな」
「ん。ありがと。ゆうぞう」
「治子。これを使うといいわ」
「ありがと。蝉代」
「なに。あとつかさちゃんと純一君にもハイこれ」
「ああ、ありがとう。なんですこの銀色の薄いシートは」
「ん。非常用保温シート。これをマントのように包まっておけば風邪を引く事もないわよ」
「ども、有難うございます」
「ん。ありがとね」
 で、私は勇蔵に寄りかかりつつ、私はゆっくりと目を閉じた。そう、明日に備えてだ……。
「っふ。直子俺がしっかりと守ってやるからゆっくりと眠りな」
「むー。直子ちゃんって大胆ね。でもボクたちも少し寝ておかないと明日がつらいわよ」
「そうね。それじゃあ私も荷物を盗まれないように紐を括っておいてっと。これで準備はいいわ。それじゃあ私も眠いから……」
 そんなことを言いつつ、治子とつかさの二人は蝉代に寄り添うように眠りに入っていた。
「純一君どうしたの」
「いや〜。深山さん達って図太いと言うかなんというかすごいなあと思って。ところで蝉代さんは寝ないのですか」
「ん。私は大丈夫よ。純一君も寝ておいた方が良いわよ」
「でも、なんだか疲れすぎて逆に目が冴えちゃって寝れないんで」
「そう。それでもすこし目を閉じてじっとしていた方が良いわよ」
「そうですか。それじゃあそうします」
「うん。うん。お休みなさいね」
 こうして蝉代さんだけをのこして後は皆眠りにはいったのであった。
 此処で、時間を少し動かす事にする。
「それにしても、蝉代さんと治子さんと仲よさそうにしちゃって。今此処で踏み込むわ」
「ま、まって。まって。まだ早いわよ。さやか。今踏み込んでも逆に返り討ちにあうだけよ」
「なによ。美春ったらぶるったの」
「ブルって居ないわ。でも、なぜか、お姉さまの近くに居る人たちからは強烈な殺気を感じたのよ。間違いないわ。あの人たち、かなりの修羅場を潜り抜けているわ。それも生死をかけたね」
「そうね。確かに白い髪の人からはそういう雰囲気がみえるわ。それに周りに眠っている人たちも隙があるように見えて実は隙がまったくないわね」
「貴子さんもわかりますか」
「ええ。なんとなくだけれどね。ほら、長髪彼女の懐にはおそらく何かしらの得物を持っているわよ。それにごっつい方は近くに木刀か木の棒らしきものを用意しているしね……。これをかいくぐるのは用意じゃあないわよ。それでもやるかしら、さやか」
 貴子の冷静な分析と指摘に流石のさやかの意欲も減速していった。
「そう……。確かに丸腰の私達じゃあやられるのは目に見えているわね。となると、此処で腹を括って治子さんたちの動向を探るしかないわね……」
「そうね。と、なるとアタシはもう寝るわ。お休み〜」
「え、ええ〜。ちょ、ちょっと。貴子さん。あらら。寝ちゃったわね」
「あ、あの。私たちも荷物を盗まれないようにして此処で待つしかないわね」
「そうね。それにしても、野外で寝るなんて思っても居なかったわね。明日は多分大変になりそうね。今のうちにあたしもやすんでおかなきゃね。冬木さんたちも寝られるなら寝ておいた方が良いわよ」
「は、はい」
 そんな訳で4号店のみなさんもまた列に並んでいた。ちなみに直子達とは距離にして20メートル前後であった。
 そして、夜が明けて、いよいよ狂気と情熱に彩られた祭りが始まろうとしていた。
「おい。直子そろそろ起きろ」
「ん。今何時……」
「ああ、もうすぐ9時だ。開場まであと1時間って所だな」
「そう。って。何よこの人数は」
 私は目を疑っていた。どうやら治子さんたちもまた驚いていた様子だった。
「ねえ。勇蔵。まだ、開場までまだ時間があるわよね」
「ああ、だが、まだこれからドンドン増えるぞ。何せ、日本全国、いや、下手すれば世界からもこのイベントの為に集まっているからな」
「それはそれで凄いわね。私も覚悟を決めたわ。もう、ばっちこーいだよ」
「おいおい。まだ、開放するには早いぞ。今のうちに気合を貯めておけ。それと、これが、地図と水と食料だ」
 そういって勇蔵から一枚の紙切れと水筒と缶詰をいくつか受け取った私はそれをカバンの中に収めていた。
 勇希たちもまたそれぞれ準備をしていた。
 一方、直子達の後方にいる4号店の皆さんは……
「な、なによこれ……」
「すっごーい。これだけの人が来るなんて……」
「ふーん。若かりし頃をおもいだすわね。その時は晴海だったかしら。はあ〜夏樹ちゃんと一緒にいた覚えが……」
「なるほどねえ。それにしても今日は暑くなりそうね」
「ところで、私達ってどうすればいいのかしら」
「おそらく、携帯はこの状況では使えないでしょうね」
「となると、一定の時間にどこかで落ち合うようにした方が良いわね」
「そうね。そうなると、誰かがお姉さまに出会えたとして恨みっこなしという事で」
「くっ。そうなるわね。美春貴方だけにはまけないわよ。治子は私が……」
「お姉さまはわたしが……」
「貴方達、私を忘れちゃあ駄目よ〜」
「あらあら……。みんな熱血しているわね〜。アタシもまけちゃあいられないわよ〜」

 とまあ、それぞれの思惑や期待などを胸にしながら、イベントはいよいよ開場を告げる音楽が鳴り響いていた。
 なぜか曲目は「軍艦行進曲」がながれ、そしてスタッフの手によって入り口のゲートが開放された。
 そう、いよいよ。狂気と情熱に彩られたイベントがついに始まった。

(続く)


管理人のコメント

 と言うことで、やってまいりました夏コミ会場。ただ最初に言っておきますが、作中で登場人物がやっているのは半分徹夜行為なので、良い子のみんなは真似してはいけません(笑)。
 
>「ああ、あの走り方は間違いなく俺たちを狙った走り方だったが、直子。おまえ、最近やんちゃしているか。特に走り屋とかにV−Maxで喧嘩売ったとか」

 V−Maxはヤマハのバイクで、0−400では並みのスポーツカーを軽くぶっちぎるバケモノバイクです。
 
 
>「いや〜。深山さん達って図太いと言うかなんというかすごいなあと思って。ところで蝉代さんは寝ないのですか」

 蝉代は見るからに夜型っぽそうですしねぇ。
 
 
>「ブルって居ないわ。でも、なぜか、お姉さまの近くに居る人たちからは強烈な殺気を感じたのよ。間違いないわ。あの人たち、かなりの修羅場を潜り抜けているわ。それも生死をかけたね」

 美春も修羅場経験だけは豊富なので、何か感じ取ったようです。
 
 
>そんな訳で4号店のみなさんもまた列に並んでいた。ちなみに直子達とは距離にして20メートル前後であった。

 意外に近いところにいますが……会場では人の波でまず見えません。
 
 
>「おいおい。まだ、開放するには早いぞ。今のうちに気合を貯めておけ。それと、これが、地図と水と食料だ」

 いくら戦場と言ってもちょっとやりすぎの準備のような(笑)。
 
 そういえば、女性陣はコスプレ参加のはずですが……どんな風に注目されるのか楽しみですね。


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